現実離れしたキャラ設定なんてつけるものじゃないね
「というわけで、これからテストまでの短い間だけど、みんなには先生の授業を受けてもらいたいの」
柔らかな西日を浴びながら、私たち文学部は一つの机を四人で囲んでいた。説明を終えた私が口をつぐむとしばしの沈黙。やがてまずは雪歩が眼鏡に触れながらつぶやいた。
「まあ、いいかもね。他はともかく、花凛は誰かが勉強みなといけないって私も思ってたし」
「え~、やだよ。これから何週間か勉強漬けになるんだろ~」
雪歩の了承に対して、花凛の拒絶。まあ、この子勉強きらいだもんなぁ……。でも一番対策が必要なのは花凛だし、勝負のきっかけを作ったのも花凛だし、勝負することを決定づけたのも花凛だし、昨日菅原先生に怒られたのも、なんならイギリスがEU脱退したのも花凛のせいだし、アメリカがトランプ政権になったのも……。などと言いたいことは色々あったが、私はその全てを呑み込んで力ない笑みを浮かべた。
「あはは、まぁ、そんな毎日見てもらうわけでもないし、一度騙されたと思って行ってみよ、ね?」
「い~や~だ~」
その反応にちょっぴり、少しだけ、まあ、実質かなりいらっときた私に代わって雪歩が告げる。
「花凛、漫画でもよくあるシーンでしょ。これは修行よ」
「しゅぎょう? 魚を釣りに行くの?」
「それは漁業ね」
「修行よ、修行。とある星の戦闘民族もいつも強敵と戦う前には修行をしていたでしょう? だから花凛も、難しい戦いに挑む前にはまず修行をしなくちゃいけないのよ」
「ほう、修行って聞くとなんか面白そ~だな~」
釣れちゃったよ。漁業、間違えた、修行の話で、魚……否、花凛が釣れたよ。ああ、もう修行の話か漁業の話かよく分からなくなってきたね……。
「そうでしょ、だから、一度騙されたと思って、ね」
どうやら雪歩はこの先の展開がよく見えている。もし菅原先生に頼らないのであれば、花凛の面倒を見る羽目になるのは間違いなく一番勉強に余裕のある雪歩だ。彼女は今その事態を避けようとしているのだろう。
「ま、まぁ、そんなら一回行ってみるのもいいかな~」
花凛サイドが小康状態に移ったところで、私は美月に視線を移す。そういえば彼女さっきから一言も……。美月の様子を見て私は思わず顔から表情を消してしまう。
視線の先で、美月はがくがくぶるぶる震えていた。
「あ、あああ、あの、梅乃ちゃん……」
「…………何かな?」
「菅原先生って、もしかして、もしかしなくても、お、おおおおお、おと」
「……うん、若い男の先生だよ」
「だめぇえええええええ‼ いぃ~やぁ~だぁ~。勉強教えてもらうなんて無理~」
あぁ、その設定忘れてたなぁ……。作者……神様も多分この設定忘れてたな、うん。だって、美月の男嫌い克服シーンなんて載せてると物語が一冊にまとまりそうになからなぁ……。少し気がせいた私は、今回だけは場当たり的に、否、早急に事態を収束させる方法を選ぶことにした。
「仕方ないね、雪歩、美月が慣れるまではあれでいこう」
「え、あれ、って?」
先生、頼んでおいて申し訳ないですが、菅原塾、前途多難になりそうです。




