意志が手繰り寄せる彼女と彼の何か
季節は冬。
柴乃は進路について杏珠に相談すると、
なぜか馨がいる喫茶店へ行こうと言われ・・・
「いらっしゃいま……なんだ、お前らか」
「なんだとは失礼ね。こっちは客なんだから、ちゃんと対応しなさいよ」
「へーへーじゃあ改めて……いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ、お客様」
営業スマイルなのかわざとなのか、くすりと浮かべた微笑が私に向けられる。
あまりの自然の笑顔に、私はどう反応していいか分からなくなった。
あんちゃんにいわれ、仕方なくやってきた馨君のバイト先である喫茶店。
彼が働いている姿を見るのは、これで三度目。
かといって彼の制服姿には、いまだに見慣れない部分がある。
相変らず様になってるな、さすがイケメンっていうか……
「じゃ、じゃあ期間限定スイーツ二つお願い」
「ほいほい。ついでにコーヒーつけると得だけど、いらね?」
「そういう勧誘には乗らない主義なの!」
「うまいぞ~? あの人が作るコーヒーは」
そういいながら、馨君はカウンターの方を指さす。
つられてみてみると、そこにいたのは馨君とは少し違う制服を着た瀬名さんがいた。
カウンターに座っている数名のお客さんに、コーヒーを差し出している。
その動作の一つ一つがまるで、絵になるようなきれいさで……
「……すごい……」
隣から聞こえたあんちゃんの声で、はっと我に返る。
彼女は一心に彼を見据えていて、私と同じように見とれているようにも見えた。
きのせい……かな。なんか、私と見る目が違うような……
「飲む気になってくれたか?」
「なっ、なるわけないでしょ! 私コーヒー苦手なの!」
「コーヒー飲めないとか、お前ガキだな」
「うるさいわね!!」
「浅沼君、香月さんってバリスタ……やってるの?」
「ああ。もともとはマスターの管轄なんだが、かなりのさぼり魔で先輩に任せきりなんだよ。腕前も良ければ味もいい、客からはお墨付きだけどな」
確かに、あれは見ているだけでも満足してしまいそうになる。
姫野のことでお世話になったのは確かだし、何かしら挨拶はした方がいいのかしら……
どうもあの人大人びてるし、話しかけにくいというかなんというか……
「マスターさんがサボってるなら、馨君冬休みは忙しい、の?」
「いや。俺今週いっぱいでやめる」
「ええ!? 初耳なんだけど!?」
「もう今度から受験生だしな。それ考えたら当然だろ?」
ってことは……冬休みは何もないってこと!?
何よそれ! 大チャンスじゃない!
これからのイベントと言ったら、クリスマスの他にない!
ここで一気に距離を縮めなきゃ!!
「でも抜けた穴を埋めろってマスターに言われてな。だからバイトぼしゅーちゅー」
「へ、へ~……って私はやらないわよ!?」
「誰も柴乃にとは言ってねえよ。絶対お前皿割りそうだし」
「余計なお世話よ!!!」
「なんだ浅沼、この前の奴らか。あまり騒がれると、店の迷惑だぞ」
すると不意に話しかけられ、思いっきり振り返る。
そこには瀬名さんが、そばに来ていた。手には、テーブルを拭く布巾をもっている。
いつの間にかお客さんはひいているようで、私たち二人だけになっていた。
「すんません、こいつ声でかくて」
「何よ! 私のせいだっていうの!?」
「他に誰がいるんだっつうの」
ああ、もう! やっぱこいつ腹たつぅぅぅ!
「……あ、そうだ。姫野のこと、ありがとうございました」
「礼には及ばん。しかし浅沼から聞いていた通りの奴だったな。霊に取りつかれていたとはいえ、反省の色が一つも見えん」
「それは……すみませんでした」
「まあいい。少しくらいは、ゆっくりしていくといい」
「あのっ!!!!」
瀬名さんがカウンターに戻ろうとした、その時だった。
あんちゃんが、声を出したのは。
いつになく大きくて、それでも自信がなさそうで。
顔をうつむかせたまま、ぎゅっとこぶしを握りしめていた。
「浅沼君が抜けた、穴に……私を、入れてくれませんか!?」
な、な、なんですってええええええ!?
「あんちゃん!? いいいきなり何言いだすの!?」
「だ、だって……バイト募集中って言ってたから……」
「だからって勝手に決めちゃだめでしょ! 第一あんちゃんの親、バイトとか許すの!?」
「そ、それは……分かんない」
「だったらなんで……!」
「ここのスイーツも、美味しいんだけど……私は何か違う気がするの。何かが、欠けているような……私にしかできない物が、作れるんじゃないかなあ、なんて……」
自信があるのかないのか。
もじもじしつつも、彼女の意志はしっかりしているように見えた。
意外だ、あんちゃんがこんなことを言うなんて。
今までクールなイメージを気にして表に出そうとしなかった、あんちゃんが。
「随分言ってくれるな、本人を前にして」
「あ、これ……やっぱり浅沼君が?」
「そう。マスターに言われて、仕方なく」
「ごめんなさい……偉そうな口、たたいちゃって……」
「浅沼のよりうまく……か。なら試してみる価値はあるな」
瀬名さんはそういうと、カウンターの方へ戻っていく。
しばらくして一枚の紙を、あんちゃんに渡した。
のぞいてみると、それは履歴書だった。
「あいにく僕には採用の権利がない。マスターがいる時に、スイーツを作ってここを訪ねてくれ」
「は、はい……ありがとうございます」
「貴様、名前は?」
「渉……と申します」
「僕は下の名前も聞いたつもりなんだが?」
「………杏珠です……不釣り合いだとは、自分でも思うんですけど……」
「そうか? 僕はいい名だと思うぞ。渉杏珠、だな。来るときは、ここに連絡するといい。いつでも歓迎するぞ」
ふっと笑ったその笑みはきれいで、私でも見とれてしまいそうで。
嬉しそうにはいっと返事するあんちゃんは、まるで別人を見ているようなそんな気分になった。
変わったな、あんちゃんは。
みんなこうして、知らないうちに大人になっていくんだろうか……。
「あーあ、これでバイトも終わりか」
「残念だったわね! いくら馨君でも、あんちゃんのスイーツにはかなわないわよ!」
「ふうん……柴乃、冬休み……暇?」
「へ? 予定は特にないけど……」
「だったら……」
すると馨君が、身をかがめる。
息がかかるほど近くにいる彼に、思わずどきっとしてしまう。
馨君はそっとわたしの耳元で、
「クリスマス開けとけ。話がある」
とささやいてすぐに、どこかへ行ってしまった。
その間も私の耳には彼の声がずっと残っていて、赤くなる頬を隠さずにはいられなかった―
(つづく!)
ここだけの話、馨君が働いている喫茶店を
当初ルナティックハウスに
してやろうかとも思ってました。
ルナティックハウスっていうのは、
前作・しくにくのの舞台で、
つなげたら面白いかなあ〜〜
なんて思った裏話もあります。
結局なかったことにしましたが
サボリ魔のマスター……
皆さんだったらどう捉えますか?
次回! クリスマス、到来!




