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傍観者ではいられない!  作者: ぽぽりんご
第四章 集結編
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第7話 リノちゃん参上!

確かに主人公を活躍させる……させると言ったが……

今回、具体的に誰を活躍させるとは指定していない。

そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。


つまり……我々がその気になれば、新しい主人公を登場させて活躍させることも可能だろう……ということ……!

 

 

「くそっ!」

 

 タイガは地面を殴りつける。

 激しい痛みが走るが、無視した。

 

 

 レオが連れ去られてから、既に二時間ほどが経過している。

 目を覚ましたダグラスに取り押さえられ一度は落ち着いたが、体の治療をし呆然としたまま飯を食い終わると、再び体の底から憤怒が顔を覗かせてきた。

 

「怒りは大切だ。だが物に当たるのはよくない」

「お前にはわかんねぇよ、レオとは会ったばっかりだもんな」

 

 食器を地面に置いたダグラスが声を掛けてくる。

 タイガをなだめようとしてくれているダグラスに対し、酷い返答を返してしまった。タイガも自覚はあるがどうにも抑えられない。こんな事は初めてだ。

 

 タイガの発言にダグラスは怒る事もなく、顎に手を掛け何か考え込むような仕草をするばかりだった。タイガをどう扱うべきか測りかねているのだろう。

 今のタイガの心の中はぐちゃぐちゃだ。怒りで我を忘れているかと思ったら、ふと冷静になる事もある。自分で自分を扱いかねている。

 

「……すまん。八つ当たりした」

「いいさ。気持ちはわかる」

 

 タイガの謝罪を受けて、ダグラスは迷った末に口を開いた。

 

「だが、口は出させてもらおう――君は乙女心も、熱い漢心もわかっていないようだね」

 

 こちらをまっすぐ見つめてくるダグラス。

 いつもはふざけたホモ野郎だったが、まとう雰囲気とその目は真剣そのものだ。

 

「たとえどんな障害が道を塞ごうが、全て跳ね除けて助け出せば良い。レオを助けられて君はハッピー。王子様が迎えにきてくれてレオもハッピー。障害を跳ね除け抑えの利かなくなった二人の恋心も燃え上がって二人もハッピー。ほら、完璧な筋書きじゃないか。想像してみろよ、自分がレオを救い出すシーンを」

「慰めようとしてくれてるのはありがたいけど、俺の力じゃ……」

 

 レオを、助けられない。

 

 続く言葉を口にする事はできなかった。

 口にしてしまったら、本当にそうなってしまいそうだったから。

 

 やる事は口に出す。今日の目標を口に出す。今日こなす練習メニューを口に出す。

 部活で毎日やっていた事だ。これをサボると不思議とうまくいかないのだ。だからタイガは、毎日目標を決めて口に出すようにしていた。

 ネガティブな事は言わない。ポジティブな事を言う。

 だがしかし、実現不可能な事を口にしても逆効果だ。心のどこかで最初から諦めてしまう。できそうな事だからこそ、意味がある。

 

 

 レオを助け出す。

 今の自分に出来るとは、とても思えなかった。

 

「弱音は吐いても良い。だが立ち上がれ。お前はヒーローになるんだ。誰でもない、お前とレオのために」

 

 無視されようが、罵倒されようが。

 それでもダグラスは、いじけて燻るタイガを見捨てなかった。

 

「助けになってくれる人達にも心当たりがある。僕の仲間が、もうすぐここに到着する」

 

 ダグラスは、仲間の事を心底信頼しているようだった。

 彼らならどうにかしてくれると、心の底から思っている。

 

 だが、タイガは返答を返せない。

 

 タイガも。

 レオと一緒ならどんな敵でもぶちのめせると、信じていたのだが。

 

 

 

 ダグラスは、タイガの返答を待つ。

 だが、続くセリフは思わぬところから降ってきた。

 

「俺としても、こんな所で燻っていられると詰まらんな。大言壮語も過ぎると毒だが、毒ごと飲み干す度量も見せて欲しいものだ」

 

 ゾワリと体中の毛が逆立つ。

 まるで体の中に腕を突っ込まれたかのような不快感。

 それは、突如として現れた。

 

 

 化け物。

 そう呼ぶに相応しい。近くにいられるだけで、吐き気を覚える。

 

 

 タイガは顔を上げた。

 いつから見られていたのか。この部屋の入り口付近に金髪の男が不遜な面持ちで立ちふさがっていた。神々しい雰囲気も感じるほどに整った顔をしているが、その瞳は狂気に満ちている。

 タイガはその目を見た瞬間、こいつはヴィクターと同類だと確信した。

 

「無様だな、期待はずれもいい所だ。願いを口にするどころか、思い描く事すらできんとは。その有様で願いが叶うはずもない」

「……誰だお前は。何しに来た」

「なに、絶望に伏した愚か者を嗤いに来た暇人だ。面白い見世物になるかもしれんと思ってな」

 

 男に視線を集中すると、アンヘルという名前が浮かび上がってくる。

 聞いた名だ。たしか、バヤールがヴィクターと並んで挙げた名前。やはり、神人か。

 

「趣味が悪いな。タイガはこれでなかなか見所のある奴だ。何をしでかすか分からない奴だ。お前の想像をも超える奇跡を手繰り寄せるかもしれないよ」

「豚も煽てれば木に登る……か。は、豚が木に登るはずも無かろうに。地べたを這いずり回り、力尽きて息絶えるが関の山だ」

「……誰が豚だ、この野郎」

 

 と、ダグラスがタイガの目の前に手をやった。静止の合図だ。

 そして、アンヘルに聞こえないよう小声で話しかけてくる。

 

「タイガ、抑えろ。今の状況で争うのは得策ではない。奴は僕達に興味を持っている。下手に手を出さず興味さえ惹ければ、僕達を殺しはしないだろう」

「聞こえているぞ、女。肉体が変わっても本質とは変わらぬものよな。力弱き者は彼我の力量差を把握し、争いを避ける術に長けている……たしかに俺は、お前達の行く末に関心があった」

 

 ダグラスが舌打ちを漏らす。

 そして空中から新しい盾を取り出し、手に取った。

 

「だが駄目だ、お前達への興味は失せた。生き延びたければ可能性を示すが良い。欠片ほどの興味でも抱けば、確かにこの場は見逃すやもしれん」

 

 手を高く掲げるアンヘル。

 そして、高らかに宣言する。

 

「まずは、半分死ね!」

 

 周囲に散乱した瓦礫が浮かび上がった。

 先ほどの戦いで出来た瓦礫だ。それが、全方位から飛んでくる。

 とっさに防御魔法を使ったが、タイガもダグラスも全ては防ぎきれない。

 その身に無数の瓦礫を叩きつけられた。口の中が血の味で満たされる。骨が折れたのか、うまく力が入らない。

 先ほどの戦いでほとんど力を使い切っていたのもあり、タイガ達はそれだけで地面に膝を付き息を吐いた。

 

「どうした、既に力尽きたか? ならばこの場で朽ち果てるが良い」

 

 もう一度手を上げ、同じ攻撃を繰り返そうとするアンヘル。

 ずいぶんと趣味が悪いようだ。嬲り殺しにするつもりか。

 

 タイガは、バヤールに使用を止められていた魔法を使う事にした。

 左手にはめられた指輪を見る。バヤールは去ったが、バヤールからの力の供給はまだ続いているらしい。バヤールの力を借りれば、最上級魔法を使う事も不可能ではない。

 

 右手を突き出す。

 その手の平に、かつてない力が収束していくのを感じた。

 これなら、どんな相手だろうと打ち倒せる。

 ヴィクターに魔法を封じられさえしなければ。あるいはもっと早くから使っていれば。レオを連れ去られる事もなかったかもしれないのに。

 

 

 

 タイガは怒りに身を任せ、全力で魔法を放った。

 

「エクスプロージョン!」

 

 感情のままに叫ぶ。

 途中、突き出した腕にに左手を添えた。あまりの反動で腕がひん曲がりそうになったからだ。

 轟音。強引に方向修正した右手から放たれた力はアンヘルの足元に着弾し、大爆発を起こした。

 地面は吹き飛び、爆風により周囲の柱は全てへし折れる。

 激しい爆風はタイガ達が立っている場所すら吹き飛ばし、タイガとダグラスは地面に転がった。

 

 タイガは、敵を倒したと確信した。これだけの攻撃を喰らって無事なはずがない。

 

「どうだ! 俺だってやればこれ……ぐらい……」

 

 体を起こしてアンヘルの方に視線を向けるが、そこでタイガが目にしたのは無傷で仁王立ちするアンヘルの姿だった。

 その姿勢は、魔法が部屋を消し飛ばす前と変わっていない。タイガの攻撃は、アンヘルの周囲に浮かんだ六角形を張り巡らせたような盾に防がれていた。

 

「威力を調整したのか、それとも考え無しの馬鹿か?」

 

 アンヘルが上を見上げながら続ける。

 タイガの攻撃が終わっても、地面を揺らす振動は止まらない。揺れは周囲の壁にひび割れを引き起こしつつ、徐々に強くなっていく。

 そしてアンヘルの頭上に大地が降ってきた。天井が崩落したのだ。

 ある意味タイガの魔法より脅威であろうその崩落を見て、アンヘルが表情を歪ませた。

 

「しまったな、戦うなら場所を変えるべきだったか……天敵だったとはいえ、元同胞の神殿。あまり壊したくは無かったのだが」

 

 やや苦い表情を浮かべつつ右手を頭上に上げ、アンヘルは一言こう呟いた。

 

「消えろ」

 

 たったそれだけで、アンヘルを襲った大質量の大地は姿を消した。

 理解できない。なにか強力な攻撃で大地を吹き飛ばすというのならともかく、アンヘルはなんら力を放った気配すら見せなかった。

 消えろと。ただ命じただけで、大地が消え去ったのだ。

 今更ながら、相手の力量の一端をタイガは思い知った。こいつはヴィクターより更に上。現状では勝ち目の無い相手だ。

 

「貴様の行為、万死に値する……喜べ人間、お前は俺に強い不快感を与えたぞ。無関心に殴殺するのではなく、明確な殺意を持って殺してやろう」

 

 アンヘルの視線がタイガを貫いた。

 黒い瞳。気味の悪い視線。タイガは、死を覚悟した。

 

「死ね」

 

 アンヘルが言葉を紡ぐ。

 アンヘルからタイガに向けて、タイガには理解できない何かが飛んでくる。

 あれを喰らえば、自分は死ぬ。

 死んだって、どうって事はない。元の世界に戻るだけだ。

 戻る、だけ。

 

 

 タイガの背筋が凍りついた。

 確かに、死ねば元の世界に戻る事はできるのだろう。

 だがそれは、この世界との別れを意味する。レオを見捨てていく事を意味する。

 

 タイガの目に再び力が戻った。

 俺は、まだ死ねないと。全身に力を込める。

 

「タワーディフェンス!」

 

 ダグラスが間に割り込み、盾を構えた。

 スキルにより発生した強力な防御フィールドがダグラスの盾を包み込むが、アンヘルの放った力はそれをものともせず貫き、盾に穴を空ける。わずかに逸れた攻撃がダグラスの足を貫き、方向を変えてタイガに向かった。

 両手を交差するがそれでも防ぎきれず、タイガの体が貫かれる。

 

「が……はっ!?」

 

 まずは熱い感触。それが体から失われると、耐え切れない寒さに体が震える。

 

 どれだけ力を込めようと。どれだけ強く願おうと。

 強い意志も、感情も、関係が無い。

 圧倒的な力の前には。

 

 力を失ったタイガは、その場に崩れ落ちた。

 寒い。冷たい。体が凍える。

 死が迫ってくるようだ。

 

 タイガは目を閉じ、暗い影が視界を覆うのをただ眺めた。

 

 

 

 ふと。手を握られたような気がした。

 タイガの脳裏に、過去の記憶が浮かび上がる。

 

 そういえば、この世界で初めて人の死に触れた時、レオが手を握ってくれたっけ。

 レオの手は、暖かかった。手を握られるだけで、なんだか救われた気がした。

 

 

 人が倒れる音がした。

 必死に視線を向ける。ダグラスが倒れていた。

 暗く染まる視界を必死に動かす。足元しか見えないが、アンヘルが近づいてきている。

 

 タイガの傍まで来たアンヘルは、その首を掴んで持ち上げた。

 息ができない。だが、元々頭に血が届いていなかったからか、それほど苦しいとは思わなかった。

 

「どんな気分だ? (こころざ)し半ばで脱落するというのは」

 

 悔しい。悔しい。

 当然の事だ。もしかすると、この男には理解できない事なのかもしれないが。

 

 鉛のように重い手を必死に持ち上げ、アンヘルの腕を掴む。

 この男の手は冷たい。こいつの手に握られても、嬉しくない。

 

「手を、離せよ……女の子なら大歓迎だが、野郎じゃ嬉しくない」

 

 アンヘルの腕を強く握る。

 いや、強く握ったつもりだが、それほど力は篭っていないのかもしれない。

 

 

 

 いつだったか、レオが子供の頃の話を聞いたことがある。

 レオが、初めて町に下りた時の話。

 見るものがすべて新鮮で。きらきら輝いていて。世界はこんなにも広いんだと感動した。

 

 その話を聞いて、思った。

 タイガも、レオと同じ事を感じた。

 レオと話をして、レオと一緒に旅をして、美味いものを食べて。

 見るものがすべて新鮮。きらきら輝いている。新たな発見に感動した。

 

 それは、とても幸せな事だった。

 自分一人で独占するのがもったいないほどの、幸せだった。

 

 

 

 だから。

 

 だから、レオにも見せてあげたいと思ったのだ。タイガの世界を。

 

 見知らぬ光景は、人の心を震わせる。

 レオの無駄にカチコチ固まった心を解きほぐす助けに、きっとなる。

 

 それに、それはタイガ自身の望みでもある。タイガ自身の幸せでもある。

 二人で共に見る世界は、きっと鮮烈に輝いて見えるだろうから。

 

 

 

「もう動く事もできんか。お前はここで終わりだな。後悔だけを胸に秘め、朽ち果てよ」

「ふざけろ……童貞のチョロさと独占欲を、舐めるなよ。俺は、やると決めたら絶対にやるんだ」

 

 タイガは、アンヘルの目をキッと睨みつけた。

 

 タイガは約束したのだ。

 レオを連れて行くと、約束した。

 レオに楽しんでもらうために。レオを、笑顔にさせるために。

 約束は、必ず守る。

 

「俺は、レオを、助ける」

 

 それが、タイガの望みだ。

 何を置いても叶えたい願いだ。

 

 それを聞いたアンヘルは、にぃっと気色の悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

 と、唐突に。

 

 

 

 天から飛来した光が、アンヘルの右腕を貫いた。

 

「ぐっ!?」

 

 苦悶の表情。

 今まで狂気の色を浮かべていたアンヘルの顔に、初めて人間らしい表情が浮かぶ。

 

 タイガの首を掴んでいた力が緩む。

 好機と見たタイガは、渾身の力を振り絞ってアンヘルの腕を振り切り、地面に転がった。

 息が荒い。頭がクラクラする。目の前は真っ白だ。酸欠のせいか、先程の光で目が眩んでしまったのか。

 地面に腕を突いて立ち上がろうとするが、どちらが上かもわからない。酷い有様だった。

 

 だが、生きている。

 まだ逆転の目は残っている。

 

 何度も呼吸を繰り返しているうちに、ようやくタイガの目に世界が映り始めた。

 アンヘルの腕に、槍が突き刺さっている。槍はアンヘルの防御を貫き、その腕を地面に縫い止める。

 青白く輝く槍。神々しい光を放つ槍は、神槍と呼ぶに相応しい覇気を纏っていた。

 

 

 アンヘルが上空を見上げる。

 釣られてタイガもそれを追う。

 

 青空がのぞく天井の穴の淵に見えるのは、槍を投合した姿勢のまま佇む人影。

 青い髪。長身でクールな印象を与える、獣人の女性だ。

 あの人が、アンヘルの防御を貫きダメージを与えたのか。

 

 

「おっと、余所見していては死んでしまいますよ?」

 

 

 声は、タイガのすぐ傍から聞こえた。

 いつの間に現れたのか。ややくすんだ金髪の小柄な少女がアンヘルの左腕を掴み、その腹にトンと軽く拳を添える。

 タイガの攻撃を阻んだ六角形の盾は、少女の体に触れるやいなや霞のように消え去った。

 

 視線を下げるアンヘル。

 少女と視線が交錯した瞬間、二人は表情を大きく変える。

 アンヘルは驚愕の表情を。

 逆に少女の方は、不敵な笑みを。

 

「貴様――!」

 

 アンヘルは、最後まで言葉を発する事ができなかった。

 

 大地が砕ける。

 踏み込んだ少女の足を中心に、岩盤が捻れて弾けた。

 接触状態から押し出しただけのはずの拳。だがその衝撃は易々とアンヘルの体を突きぬけ、周囲に破壊の限りを尽くす。

 

 華奢な女性の体から放たれたとは思えないほどの威力。積みあがった瓦礫が崩れ落ちるほどの衝撃。

 信じられない威力の一撃を受けたアンヘルは派手に吹き飛び、壁を突きぬけ視界から消える。

 むりやり槍から引き剥がされたその右腕はズタズタに引き裂かれ、周囲に血を撒き散らした。

 

 

 衝撃は一瞬。残されたのは、静寂。

 その静けさの中。場を支配した女性はポーズを取り、キメ顔でこう言った。

 

 

「なんだか知らないけれど、懐かしい雰囲気をバリバリ感じる遺跡に武神リノ様がズバッと参上! 視界に入るとイラッとするので即悪人認定した中二病患者をぶちのめし、リノ様は今日も世界の平和を守るため奮闘するのであった!」

 

 

 タイガは思った。

 すごく、馬鹿っぽい。

 

 


珍しく、少しだけ主人公っぽい。(リノが)

ヒロインはタイガ。

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