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傍観者ではいられない!  作者: ぽぽりんご
第四章 集結編
47/51

第4話 お前がレオを救え

唐突感のある展開。

間に話を挟もうかとも思いましたが、ただでさえ長い話が無駄に長くなるだけなのでオールカットしました。


 

 

 三度の野宿を経て山の頂上にたどり着くと、ひんやりとした冷たい風が頬を撫でた。険しい道を踏破し火照った体が冷やされ心地良い。

 タイガの目の前には、目的地であるフリッカ神殿がそびえ立っていた。

 もとは美しい神殿だったらしいが、長い年月を経てすっかりぼろぼろになった建物にその面影は残っていない。

 周囲を取り囲んでいる瓦礫を超えた先に見えるのは、高さ二十メートルほどの建物。おそらくは神殿の中心部だ。途中の瓦礫は、外周部分が崩れ落ちたものか。

 

 炎で焼かれたのだろうか、遺跡の壁の表面には炭化した後が残っていた。それどころか、地面の一部がガラス状になっている箇所すらある。よほど高温で熱せられたのだろう。これは単なる火事ではなさそうだ。高レベルの炎系魔法でも喰らったとしか思えない。この山で、大規模な戦闘があったのか。

 

「その建物はダミー。入り口はこっち」

 

 そう言われ、タイガ達は進行方向を真横に変えて遺跡の周辺をぐるりと回るように移動する。

 途中で山の麓の方に目を向けると。タイガが今まで歩んできた道のりが一望できた。

 ガストンのいる町を出発してからの道のりではない。地平線付近にうっすらとぼやけて見える森は、タイガが初めて魔族と戦った場所。

 距離にして軽く100kmはあるはずだが、平坦な場所が多いため存外遠くまで見渡せる。日本のように起伏の多い土地では考えられない。

 森に隣接する町を出発して、途中で全滅したキャラバンを発見し、町に戻る途中にキャロと出会い、魔族と戦った。

 

(……キャロは元気にしてるかな)

 

 ふと、タイガは旅の途中で出会った女の子の事を思い出した。

 いや、間違いなく元気だろう。あの子が元気を無くすとか想像もできない。

 

 

 

「見たところ、中には誰も居ない。さっさと入ってしまいましょう。他の入り口は瓦礫に埋もれているから、ここから入るのが一番楽ね」

 

 レオの言葉を受けて視線を前に戻すが、タイガの目には何も見えなかった。

 ダグラスの方も同様だったようで、「ふむ」と声を上げながら顎に手をやり考え込む。

 

「ここって……入り口なんて見えないけど。どうやって入るんだ?」

「知らないし、知る必要もない」

 

 そう言ってレオは少し離れた地面に向かって弓を構える。

 放たれた矢は輝きを放ちながら地面を砕き、周囲に粉塵を撒き散らした。

 粉塵に巻かれるのも嫌だったので風を起こして視界を晴らすと、掘り返された地面の下には二メートル四方ほどの空洞がぽっかりと口を開いているのが見える。

 

「レオ……一応神聖な場所だからな? あんまり壊さないでくれよ」

「壊さずに進めるのならそうする」

 

 バヤールが苦言を呈するが、効果は無かったようだ。

 

「さて、仲間が到着するまでもうしばらく時間がある。僕はここで待っていても良いわけだが……ここまで来たんだし、最後までご一緒させてもらおうかな」

 

 そう言って、ダグラスは空中から杭を取り出し、地面に打ちつけた。空間魔法では無くアイテムボックスだと言っていたが、正直違いはわからない。

 

 杭にロープを結びつけ何度か引っ張り固定具合を確認したタイガ達は、ロープを伝って穴を降りる。

 ライトの魔法が暗闇を打ち払う。降り立った場所は、ドーム状になった大きな広場……というより、倉庫だろうか? 胸ほどの高さの棚が立ち並んでいる。

 棚の中身を見るが、殆どは朽ち果てて原型を留めていない。おそらく、食料を置いていたのではないだろうか。

 唯一原型を留めているのは、全てが金属で作られた剣や槍の類のみだ。何かの魔法でも掛けられているのか、それとも密閉された空間だったからか。その表面には目に見えるような錆や劣化は見られず、綺麗なものだった。

 

「……何やってんだ、タイガ」

「いや、誰にも使われないのはもったいないと思って」

「まぁどうせ使う奴もいないだろうから別に構わんがね……」

 

 タイガがせっせと剣や槍を回収して空間魔法で収納していると、目ざとくバヤールが声をかけてくる。

 せっかく宝箱(?)を見つけたのだ。回収しないというのは失礼に当たるというものだろう。

 やってる事は遺跡荒しと変わらないけれど。

 

「ふむ、他の出入り口が見当たらないな。倉庫である以上、あの天井に空いた穴だけが出入り口であるとは考え辛いが……?」

 

 口元に手をやり考え込むダグラス。

 そもそもタイガ達が入ってきた穴は出入り口ではなく、通風口か採光窓の類だろう。

 ダグラスの言葉を受けて、レオが壁の方を指差しながら答える。

 

「何箇所か通路に繋がってるわ。壁を壊せば通れる」

「ちょっと、ちょーっと待って! マジでなんでもかんでも破壊するのは止めろ。どっかに扉を開ける手段があるはずだから!」

「……バヤールがそう言うのなら」

「なら僕は向こうを調べよう。君たちは反対側を頼む」

「しゃあねぇから俺も探すか。大事な神殿を壊されたら堪ったもんじゃない」

 

 そう言って離れていくダグラスと、レオの手を離れてぴゅーっと空を飛んでいくバヤール。

 

 タイガはレオの表情を伺った。

 なんでもかんでも力づくで解決しようとする傾向のあるレオだが、普段ならさすがにここまでバーサーカーチックではない。

 少し、焦っているように見えた。

 

 ……そういえば、レオと二人っきりになるのは珍しい。風呂に入る時でもない限り、大抵バヤールが引っ付いているのだ。

 周辺を調べつつも、いい機会だと思ったタイガはレオに前々からの疑問をぶつけてみる。

 ずっと、気にはなっていたのだ。

 

 

 

 本音をいえば、聞くつもりはなかった。

 レオが、話したくないようだったから。

 

 強引に聞けば答えてはくれただろう。レオには負い目がある。自分の都合で異世界から人を呼んで協力を要請しているのだ。事情を話す義務があると、レオはそう考えてしまう。

 でも迂闊に聞いてしまったら、レオの本音は二度と聞けなくなる。そう思った。

 

「なぁ、レオ」

「……何?」

 

 壁際を手探りで調べているレオが、ぶっきらぼうな口調で答えた。

 

「ダグラスの同行を許したとき、死なないからって言ったよな」

「ええ、そうよ。死なないなら都合が良い」

「俺もそうだ。死んでも死なない。元の世界に帰るだけ」

「……そうね」

 

 レオは変わらず、淡々と。壁際を調べ続けている。

 

「都合がいいってのは、どういう事だ?」

「……タイガも遭遇したでしょう。普通の魔物が相手ならともかく、魔族は強敵。それより更に上位の存在……神人との戦闘ともなれば、おそらく」

 

 レオが手を止める。

 少しだけ口に出すのを躊躇ったようだが、レオは迷った末に続きを口にした。

 

「勝つことは難しい。死の危険が大きいから、死んでも死なない人を仲間にする方が都合が良かった」

 

 想像通りの答えに、タイガは怒りを覚えた。

 怒りを覚えた理由、それは単純なものだ。

 

 

 

 レオは、初めから。

 勝てると思っていない戦いに身を投じている。

 勝つために戦力を集めるなら、もっとやりようがあるだろうに。

 

 

 

「俺達は死ななくても……レオは死ぬだろ」

 

 レオに死んで欲しくない。

 言うつもりは無かった。

 気づいていても、踏み込むつもりは無かった。レオが踏み込んで欲しくないと思っているのなら、俺が土足で上がりこむべきではない。タイガはそう思っていた。

 俺がすべて解決するからレオは待っていろ、とでも言うか?

 レオは納得しないだろう。人任せにして待つなんて、レオが我慢できるとは思えない。

 

 でもそんなの糞喰らえだ。綺麗事を並べて、レオも自分も傷つかないように問題を先送りしてるだけ。

 一昨日の夜に約束したのだ。レオを、タイガの世界に連れて行くと。

 約束は守らないといけない。レオを守らないといけない。

 

 なら、もっと踏み込むべきだ。たとえお互いの心を傷つけあう事になろうとも、近づいて互いの心を確かめあうべきだ。

 人の心の深い所は、まるでハリネズミのように棘で一杯。近づきすぎた者を拒絶するために、自分の心が傷つかないようにするために。

 でも、踏み込まないと相手を理解する事なんてできやしない。

 

 タイガは踏み込んだ。レオの事を知るために。

 

「どうしてそんな連中と戦う必要がある?」

「……結論は前に話したとおり。復讐みたいなものよ」

「復讐のために死ぬ可能性の高い戦いを挑もうっていうのか?」

「そうよ」

「なんだよそれ……!」

 

 冷静につとめようとするが、一度燃え上がった怒りはそう簡単には収まりはしない。

 タイガは必死に言葉を捜すが、レオの内心を引きずり出す言葉を見つける事はできなかった。

 

「タイガ、これは私が旅をする理由の根幹に当たる事。私は、自分を曲げるつもりはない」

「……なんで、そんな生き方を選んじまったんだ」

 

 レオは答えない。

 無駄に強情な正確をしているのはよくわかっている。タイガは言葉に詰まった。

 

 

 変わりに、遠く離れた場所にいるバヤールが念話でタイガだけに語りかけてくる。

 

(タイガ、いくら説得しても無駄だよ。レオは頑固だからな)

(……この野郎、盗み聞きしてやがったな。耳が無いくせに無駄に耳がいい)

 

 バヤールの言葉は正しい。

 レオの強い意志を、自分の言葉で変えられるとはとても思えなかった。

 

(理解できないってのはわかるよ。理解する必要もねぇ。だが、いい手じゃなかったな……レオが自分を大事にする奴じゃないって事は、お前さんも知っているだろうに。熱くなるのは嫌いじゃないが、お前らしくない)

(わかってる)

 

 早まった。感情に流された。失敗だ。

 

(かっこ悪い)

(わかってるよ、そんな事は)

(いいや、わかってねぇ。俺が言ってるのは、変に利口になろうとして中途半端に引き下がった事だよ。やるんなら徹底的に突き抜けろよ。いっその事、抱きついてキスしたっていい)

(……何を馬鹿な事いってんだよ。冗談が言えるシーンじゃないだろ)

(俺は冗談を言ってるつもりはないんだがね)

 

 一拍置いて、バヤールがタイガの中に踏み込んでくる。

 本来なら、さっきタイガがレオにしないといけなかった事だ。タイガは、うまく踏み込む事ができなかったけど。

 

(お前さんよ。正直な所、レオの事をどう思ってるんだ?)

 

 単純な言葉。素直な問いかけ。本心を語れと、踏み込んでくる。

 バヤールの問いに、タイガは答えを詰まらせた。心を揺さぶられた。

 

 ――ああ、こんな単純な事でよかったんだ。変に回りくどく聞く必要なんか無かった。余計に気を回して、心情を推察して。自分の長所だと思っていた事だが、何のことはない。長所は短所にもなりうる。

 

 答えに詰まったタイガに対し、「これは独り言みたいなもんだがね」と前置きしてから言葉を続けるバヤール。

 

(レオが戦うのに拘るのは、それしかないからだ。それしか、残っていないからだ。お前がレオの大事なものになるっていうなら、レオだって戦う事を選ばないかもしれない)

 

 レオは、ときおり子供みたいだと感じる事がある。

 それは、経験が無いから。積み重ねた年月が、歪だから。

 

(どっちにしろ、結果は変わらんかもしれんがね。相手もどうやらレオを放っておくつもりは無いようだし……お前は馬鹿だから、レオを傷つけようとしてる奴がいて黙っていられるような奴じゃない。お前が戦うなら、結局レオだって戦うだろうさ)

 

 経緯は大事だ。

 仮に結果が変わらなかったとしても、その道筋を問いかける事に意味はある。

 

(俺もレオを死なせたくはない。だからお前を呼んだ。レオの死の運命を変えられる奴を探し出した)

(……魔法少女のパートナーになるとか言ってなかったか)

 

 タイガはバヤールとの出会いを思い出しながら突っ込んだ。

 

(ありゃちょっとしたお茶目だ、自分が特別だなんて思われて増長でもされたら困るからな。それに、会った事もないやつを救ってくれなんて言われても燃えないだろ)

(美少女を助けてくれと言われたなら燃えるさ)

(ああー、まぁ……お前さんならそうだったかもしれないな。とはいえ、お前の性格なんて事前に知りようも無かった)

 

 冗談めかした口調。普段のバヤールの口調。

 だが、再び声を抑えて真剣な声色に戻る。

 

(お前なら変えられる。レオを救える。俺はそう確信している)

 

 これが、バヤールの本心か。

 嘘や隠し事の多いバヤールだが、レオを心配している事に間違いは無い。

 二人の関係についてタイガは何も知らない。レオから話を聞く限りでは、タイガより少し付き合いが長いだけの関係でしかないはずだ。

 だが、どう考えてもバヤールはそれ以上の想いをレオに抱いている。友情? 愛情? いや、近いが少し違う。まるで友人の娘や孫を見守るような、そんな感情。

 

(お前がレオを救え)

 

 バヤールは多くを語らない。くだらない事ならいくらでも語ってくれるが、肝心な事は何一つ応えない。

 でも、信じて良い奴だ。バヤールの信頼に応えてやらないといけないとタイガは思った。

 何より、レオを救いたいと想っているのは自分も同じなのだから。

 

 少しだけ冷静さが戻ってきた。

 レオが頑固なのは仕方が無い。深い部分を語ってくれないのも、今のタイガがレオの信頼を勝ち取れていないせいだろう。

 失敗はしたが、成果がなかったわけではない。

 今はこれだけでいい。

 レオの心情。それを聞けただけでも前進だ。

 

 タイガは、バヤールに自分の素直な気持ちを話した。

 

(俺は、レオが好きだ。レオを助けたい)

 

 それだけ言うと、妙にすっきりした気分になる。

 陰鬱な気分が晴れた。

 

(それはレオに言ってやんな)

(……ああ、わかってるよ)

 

 と言っても、流れやタイミングというものがある

 さっき言ってしまえれば良かったのだろうが。

 馬鹿に成るなら一直線に。中途半端な利口さなんて糞喰らえだ。

 

 タイガは自身の両頬を手の平で叩き、気分を入れ替えた。

 

 

 

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