第3話 うるさい黙れホモ野郎
朝食の時間だ。
人数が一人増えたタイガたちはテーブルを囲み、やや豪勢な朝食にありつく。
豪勢なのは、一昨日の戦いで活躍したために宿の人がサービスしてくれたのだ。
「やぁ、いくらでも食べられそうな気がするな。これがダグラスの体か、素晴らしいじゃないか?」
「この後すぐ移動だからな。美味いからって食いすぎるなよ」
調子に乗って食いまくるダグラスに、タイガは注意を促した。
なぜか知らないが、ダグラスは放っておけない雰囲気を持っている。見た目に反して子供っぽいというか……この姿は本来の物ではないという話だし、実際に年下なのかもしれない。
「仲間を心配するタイガ……しかしその心の奥底には嫉妬の炎が燻っていた。食事ばかりに目を向けるんじゃない。もっと俺の方を見てくれ! 愛しさと切なさ溢れるキカン棒は、まるでバベルの塔のごとき有様を呈していた。タイガはヒクつく淫乱なドスケベヤオイ穴に手を添え」
「うるさい黙って食えこのホモ野郎」
タイガの罵倒を受け、感極まったようにゾクゾクっと体を震わせるダグラス。
やはりこいつを心配する必要などない。変態に情けは無用だ。
そんなやり取りをするタイガ達を見て、レオがクスリと笑い話しかけてきた。
「やっぱり同郷なだけはあるか。この短期間ですっかり仲良くなったみたいね」
「レオの目はすごく遠くまで見通せるけど、人の心を見通すのには向いていないみたいだね」
「何それ。今馬鹿にされたように感じたんだけれど」
「馬鹿にはしていないが、レオの目は節穴だとは思った」
「それを馬鹿にしていると言うのではないかしら」
「いや、むしろ可愛い。これは愛と呼ぶべきものかもしれない」
「やっぱり馬鹿にしてる」
少しムッとしたレオは、仕返しとばかりにタイガの食事を一口奪う。
だが、タイガも返すフォークでレオの皿に乗った肉を一切れ奪う事に成功した。辛く厳しいレオとの訓練を乗り越えたタイガは、隙を見てレオを出し抜くことすらできるようになったのだ。
「ふふ、この俺も成長したものよ」
「まだ甘い。既に私はあなたから二切れの肉を奪い去った」
「げっ、ちょっと待って。まだ食い終わってな……ああっ!?」
タイガが肉と格闘している間に、レオは三切れ目の肉に手を突けた。
調子に乗ったタイガは、一番大きい肉をそのフォークに突き刺している。しかし、肉が硬いため噛み切るのに手間取ってしまうのだ。一切れサイズの肉を効率よく奪うレオに圧倒されてしまう。悪手であった。
互いの皿にフォークを突つき合っているタイガ達を尻目に、ダグラスはお茶を飲んで一息入れつつ机の上のバヤールに目を向ける。
「……あの二人は仲がいいんだな」
「ああ。自覚は無いかもしれんが、イチャイチャしすぎでたまにイラッとする」
「イラつく必要などないさ、傍から妄想して楽しめば良い。それが人間観察を楽しむコツだ。カップリング妄想の極意でもある」
「意味はよくわからんが、なるほどお前さんの言う事にも一理ある。お前さんとは仲良くやっていけるかもしれんね」
「ああ、仲良くやっていこうじゃないか」
そういってがっちり握手をする二人(?)。
周りの人間を見て楽しむという点において、こいつらは似たもの同士なのかもしれない。
◇◇◇
飯を食って一息ついたタイガ達は、ダグラスと互いの状況について話し合う。
ダグラスはバヤールのように念話を使う事ができるため、仲間との連絡は取ったらしい。合流の算段も既に付けた。
最初はこの町で合流するつもりだったが、タイガ達の目的地を聞いて予定を変更した。この町より、タイガ達の目的地である遺跡の方が近いためだ。
遺跡は険しい山の上にあるが、ダグラスいわく、頭おかしいレベルの超人が二人もいるため心配無用との事。
状況の整理を終えたタイガ達は、旅の目的地――フリッカ神殿へ向けて出発する。
フリッカ神殿。かつて神様と共にこの世界を構築した神人、調律のフリッカを祭る神殿。
人々の信仰を集める、いわば聖地とでも言うべき場所。
しかし、人が容易に踏み入れることのできない地に構えたその神殿を訪れる事の出来る者はそうはおらず、今はぼろぼろの遺跡となってしまっている。なんでそんな場所に神殿を作ったのかとも思うが、そもそも人が住みやすい大地を作る以前に神殿を作ったため、神人達を祭る神殿というものはどうしても人の踏み入れる事のできない場所となってしまうらしい。
タイガが町の住人からその伝承を聞いた時は、神様だの世界を造っただの、どこまで信じていいのやらと思った。
が、バヤールいわく大体は合ってるとの事。バヤールは長生きしているため、大体の事情を知っているんだとか。
ちなみに、神様からフリッカに与えられていた役割はシステムのバランス調整。
フリッカは、構築したシステムを消し去る能力を持っていた。
好き勝手に不安定なシステムを作りまくる神人達をどつきまわしつつ、走り回ってバランス調整をしていた苦労人。
道中、タイガは旅の目的について振り返った。
レオの目的は、人の心を乗っ取ってしまう宝玉と、それを作った奴をどうにかする事。
フリッカ神殿は、そいつがしばらく根城にしていたという場所。何か手がかりが残っているかもしれない。
その後別の場所に移動した後、追跡魔法の反応が消えてしまったらしいが……また戻ってきている可能性もないわけではない。気を引き締める必要がある。
レオやバヤールの話を聞く限り、敵は相当強い。
魔族以上の力を持つという神人。
バヤールの補助なしなら、レオでも歯が立たない。
さすがにレオとタイガ、それと新たに行動を共にする事になったダグラスの三人がいて負けるとは思えないが、いざという時はレオを転移魔法で逃がす事も考えておいたほうがいいとタイガは考えた。空間魔法を重点的に練習していたのはそのためだ。練習中なのでまだ長距離転移はできないが、短距離転移ならできる算段が付いた。
フリッカ神殿へと向かう道すがら。
森を抜けて山に入ると、徐々に木々が少なくなっていく。
おそらく雨が少ないのだろう。急な斜面は乾いた堅い土で覆われており、植物が根を張るには適さない。そして植物がなければ水分を保持する事もできない。その悪循環がこの禿山を生み出した。
赤茶けた地面はまるでレンガのようだ。もしかすると山火事か何かで地表が一度焼かれたのかもしれない。
「そら、手を掴め」
大きな段差を先に上ったダグラスが手を差し伸べると、二人はその手を掴んで引き上げてもらう。
イケメンであるダグラスの手を握るレオを見ると、タイガの心に少し嫉妬の炎が灯った。ホモだろうがなんだろうがイケメンは敵だ。
ダグラスは金属製の重装備に身を固め、身の丈に迫るほどの大盾を担いでいるにも関わらずその歩みは軽快そのもの。レベル89というのも納得できる。バヤールの補助無しであれば、タイガどころかレオより強い。
ちなみにタイガのレベルは40、レオのレベルは53だった。一昨日の戦いで大量の魔物の群れを殲滅し、魔族まで倒したタイガは一日にしてレベルが10も上がっていた。バヤールの補助を受ければレベル40ほど底上げされるため、レベル80相当の力がある事になる。
レベルが1上がるごとにステータスレベルか職業レベルを上げる事ができるようになるが、タイガは主に魔法系のステータス/職業レベルを上げていた。魔法使い系統のレベルが70を超えれば最上級魔法に手が届くので、もう最上級魔法を使えなくも無い状態だ。レオのブラストフェザー並に馬鹿げた威力なので、まだ使わせてもらえないが。未熟なタイガに使わせて暴発でもされたら敵わんというバヤールの判断。少なくとも、町の近くでの練習などさせてもらえない。
ダグラスはレベル89。見た目どおりの戦士系、それも防御に重点を置いたタイプだ。
ここに来るまでに何度か魔物の襲撃を受けたが、体長十メートルを超える大蛇の突撃すらダグラスは事も無げに受け止めた。
大蛇はレオのブラストフェザーを受けて塵と化したが、討伐証明部位を持っていけばちょっとした騒ぎになるほどの魔物だったらしい。レベル60、討伐ランクS。この近辺でも有名だったとか。
そんな奴の攻撃を軽々と受け止めるのだから、ダグラスの実力は相当なものと思っていい。
と、レオが手を上げて立ち止まる。魔物か。
「……ここから五分ほど進めば魔物と接触する。ランクBのグレーターゴートが二十匹。グレーターゴートって言うのは、一言でいえばでっかい山羊よ」
それだけ言った後、少し間を置いてからレオが続ける。
おそらく周辺の状況を確認していたのだろう。
「ルート変更は難しい。このまま進んで倒してしまいましょう。グレーターゴートと視線を合わせ続けるとなぜか眠くなるから、注意するように」
「わかった。僕が引き付けるから、二人は後ろから攻撃してくれ」
二十という数を聞いてもダグラスは全く怯まない。
しばらく進むと、険しい斜面の上からこちらを警戒するグレーターゴート達が見えた。連中の動きを見るに、こちらを取り囲むように動いている。戦闘は避けられない。魔物だから仕方ないとはいえ、草食動物に襲われるのはなんか納得いかないな、とタイガは独りごちた。
ダグラスは平坦な場所を探してそこに陣取り盾を構え、敵が近づいてくるのを待ち構える。
こちらの様子を伺いつつ周囲を取り囲んでいた敵は、やがていっせいに襲い掛かってきた。
「挑発!」
一部の敵がタイガ・レオの方に向かってこようとするが、ダグラスがスキルを使って無理やり自分の方へと引き寄せる。
タイガはスパイダーネットを使ってダグラスの後方から襲い掛かる敵の動きを妨害すると、攻撃呪文の詠唱に入った。
そしてレオとタイミングを合わせて攻撃を開始し、敵を一匹ずつ確実に仕留めていく。
その間ダグラスは敵の攻撃に晒されていたが、危なげなくすべての攻撃を捌いていた。スパイダーネットで援護したとはいえ、前方百八十度から絶え間なく攻撃を受けているのにも関わらずその全てを大盾で受け流し、時には弾き返して周囲の敵にぶつけ敵の攻撃を妨害している。見事な動きだ。
レオとタイガの攻撃を受け、一分と経たずに敵は全滅した。
ダグラスは無傷だ。さすがはレベル89といった所か。
「見事なものね。やはり前衛がいると後衛は楽ができるわ」
弓を背中に収めつつレオが呟く。
その言葉を聞いて、タイガは少し危機感を覚えた。
むむむ、これはいけない傾向だ。ダグラスは間違いなく俺より強い。男の子としては、かわいい女の子に良い所を見せてキャーキャー言われたいのだ。俺がバスケ部に入ったのもこの世界に来たのも、女の子にキャーキャー言われたいからなのだ。これでは俺がただの脇役になってしまう。
とはいえ、急に出来る事が増えたりはしない。無理をすればむしろ今まで出来ていた事すらできなくなる。地道な努力が大事なのは、バスケや魔法での失敗で身に染みている。
そこまで考えたタイガは、念話でバヤールに相談を持ちかける事にした。
(おい、バヤール。俺がピンチだ。何かいい知恵を貸してくれ)
(あん? いや別にピンチじゃないと思うけどな。ダグラスは見た目はイケメンだが中身は……)
(ホモだろうがなんだろうが関係ない。他の奴に負けて大人しくしているなんて、男じゃないだろう?)
(……確かにそうかもしれんね。明日からはもっと高度な魔法の訓練に移るか)
(ありがとう、心の友よ)
よし、これでいい。見ていろ、今はお前に負けるかもしれないがいずれお前より頼れる男になってやる。
そう決意したタイガがダグラスの方をチラリと見ると、なぜかダグラスは涎でも垂らしそうな表情でこちらを見ていた。
「嫉妬を抱くタイガ。彼はケツ意した、アイツより強くなりたいと……そして始まる特訓の日々。彼は自らの持つ淫らなアナルを鍛え上げ、高みを目指す。そんな彼の前に立ちふさがるは、四十八手の内の四手を極め、万丈の四手……またの名を"夢幻の性感帯"とまで呼ばれたアナル四天王! タイガは会得した必殺技、掌握せし尻穴ピストンで立ち向かう! ほとばしる汗と震える直腸筋。タイガのアナルにしごかれたキカン棒は、欲望を発散せずにはいられない! それは万丈の四手とて例外ではなかった。万丈の四手は叫んだ。『ああああ、麿のプロテイン漏れ出ちゃうナリィィィィ!!』」
「うるさい黙れホモ野郎」
万丈の四手って誰やねん。
なんで一人称が麿やねん。
タイガはダグラスの妄言を断ち切りつつ、でっかい山羊の角を引っこ抜く作業に入った。
この山羊の討伐証明部位はこの角らしい。




