第4話 ウンコを投げつけてくるヒロイン
早朝から初めた俺の乗馬訓練は、昼を過ぎる頃には何とか形になった。
調子に乗るたびレオの頭突きを背中に喰らったが、そのたびに強くおっぱいの感触を感じることができるためある意味ご褒美である。
今の俺達は、少し遅めの昼食を食べて町へと向かっている最中だ。
先ほどまでと違い、今度は俺が後ろでレオが前。これはこれで凄い体勢だ。馬の背の強靭な筋肉が盛り上がるたびに前方に体重移動させる必要があるが、未だ乗馬に不慣れな俺は急勾配を踏破するたびにレオに体を軽くぶつけるハメになっている。まるで俺がレオをバックからハメハメしているような状況だ。
もしかすると、お姫様を前に乗せて馬をハイヨーと元気に駆けさせる王子様はとんでもない野外プレイに勤しんでいたのかもしれない。変態だな。
「タイガ、お前のパソコンに入っていた画像を見て思ったことがあるんだが……ミニスカメイドというのは最高だな」
「ああ、最高だ。もし何か一つ願い事が叶うとしたら、この世界の女性服全てをミニスカに変えてしまっても良いと思っている」
「なぁレオ、お前もこういう服装してみないか? そんで少し恥ずかしそうな仕草をしながら上目使いで相手を見るんだ。そしたらすげぇ人気者になれるぞ」
「うるさい。馬の糞を投げつけるぞ」
バヤールがレオに話を振るが、レオはバッサリ一刀両断だ。
「ウンコ投げつけてくるヒロインとか、新しいですわ……」
「そんな新しさ、いらない」
「ああもう……バヤールが二人に増えたみたい」
他愛も無い話をしながら、俺たちは町へと向かった。
レオもバヤールも思ったより話しやすい。異世界人ではあるが、文化的な差異等はそれほど感じなかった。
言葉は通じるから安心しろとバヤールから事前に言われてはいたが、翻訳魔法的なものを介したような違和感も感じない。
というか、唇の動きを見るにレオは日本語を話している。異世界なのに扱う言葉が同じとは、どういう事だろう。
◇◇◇
そんなこんなで町に到着したのだ。
森馬から下りた俺達は軽く体を伸ばして硬くなった体を解しつつ、久しぶりの地面の感触を確かめる。
バヤールの送還魔法により元の場所に戻される前に、俺たちは森馬に感謝の言葉を贈った。
消え去る森馬を見送った後、俺達は町の門を潜った。
町並みは、レンガ造りの建物が多い。まんまヨーロッパ風だ。中世……と呼ぶには文明が発展しすぎている感じがする。ガラス窓が普通にあるし。
道中聞いた所によると、魔法でレンガやガラスを製造できるのでそれらが使われることが多いらしい。
それに、製造が容易という点以外でもレンガ造りの建物はこの世界の町にとって都合が良いのだろう。町が防壁に覆われているため、限られた空間を最大限住居に使えるように建物は密集しており、二階建てや三階建ての建物が所狭しと並んでいる。頑丈なレンガ造りの建物でなければこうはいかない。強度の面でも、防災の面でもだ。木造の建物をこんな狭い空間に密集させたら、ちょっとした火事で町が壊滅しかねない。
町の一番外側に位置していた倉庫街を抜けると、この町のメインストリートに出た。
道の両脇には、大声で呼び込みをしてる屋台のおっちゃんおばちゃん達の群れが蠢いている。活気ありすぎだろ。既に日はかなり傾いているにも関わらず人通りは多い。
レオに聞いたら、今は復興事業で町の外から人が押し寄せているため宿や屋台は大変な賑わいを見せているとの事。なんでも二ヶ月ほど前に魔物の群れに町が襲われ、防壁が破壊されてしまったらしい。いわれて見れば、所々に仮組みっぽい状態の壁がまだ残っているな。
町の住人に被害は無かったのか聞こうかとも思ったが、なんだか怖くて聞けなかった。
防壁を破壊されるような状況だ。被害が出ていないはずないだろう。
それでも、町に暗い雰囲気は見えない。二ヶ月の間ですっかり元気を取り戻してしまったのか。この世界の人達は逞しいな……
俺は疲労で重くなった脚を必死に動かしつつ、前を行くレオに着いて行く。
日が落ちるまであと一時間ほどしかないだろう。早く宿に行かなければならない。
本当ならもっと早く着くはずだったのだが、なんでこんな遅くなったんだろうな~。
思い返してみても、大して時間をくうような事はしていなかったはずだ。
道中あった事といえば、俺が隙を見てレオに若干過剰なスキンシップをはかって馬から叩き落されたり、バヤールが変態行為を働いて俺とレオのダブルキックを喰らったりした程度だ。しごく順調な道のりだった。
「今から宿を取っても、食事時には間に合わないかもしれないわね。仕方ないから、その辺で食事にしましょうか」
「了解。助かったー、もう俺へとへとだよ」
レオが俺の様子を見ながら救いの手を差し伸べてきたので、迷わず俺はその手を掴んだ。
一見筋の通った発言のようにも感じるが、たぶん嘘だろう。俺が疲労困憊なのを見て取って休憩を提案してくれているのだ。なんだかんだ言ってすごく優しい子じゃないか。すべて俺の妄想かもしれないが。
でもまぁ無愛想な面もあるが優しい子なのは間違いないだろう。俺が馬に振り回されていたせいでほとんど丸一日無駄にしたにも関わらず、イライラした様子すら見せないし。レオが怒ったのなんて、風呂場で『不可抗力により』不審者の全裸姿をご開帳してしまった時と、馬が段差で体勢を崩した時に『不可抗力で』おっぱいを鷲掴みにしてしまった時ぐらいだ。レオさんまじ女神。
「でも食事か……異世界だし、はじめは無難なメニューにしといたほうがいいかな」
「心配いらねぇよ。食文化的にはお前の故郷とほとんどかわらねぇ。この世界は元々……まぁ、似たような文化圏だ。平地が多いのと雨量や灌漑の整備状況の関係で、米より小麦や芋が多いくらいか?」
「へぇ。んじゃ、ぱっと見で美味そうな物を選んじゃって大丈夫か」
「……一応ゲテモノ系もあるから、変なものは選ぶなよ」
俺がバヤールと話をしつつ屋台を覗き込んでいると、屋台のおっちゃんの一人が俺達に大声で話しかけてきた。
「レオナちゃん! 今日はいい肉が手に入ったよ。食べてかないかい?」
「……そうね。ここだったら椅子に座って食べられそうだし。タイガもそれでいい?」
若干体をふらつかせている俺を横目にレオが問いかけてくる。もちろん答えはYesだ。俺の体はすでに限界を突破している。まずは休息をとりたい。
「申し訳ありません……」
「別に謝る必要なんてないけど。初めて馬に乗ったんだから仕方ないわ」
と言ってもなぁ。
女の子のレオがぴんぴんしてるのに、体育会系の俺がふらふらなのは情けないよな。
若干の自己嫌悪に陥るが、椅子にぐったり座り込んだ俺の所に料理の香が届くとその思考は一瞬で打ち消される。
油と香辛料の強烈な匂いが俺の鼻腔をくすぐった。間違いなく、がっつり系の肉が出てくる。
屋台のおっちゃんの方を見ると、天井から吊るされたごっつい肉の塊をこれまたごっつい包丁で切り落として豪快に鉄板で焼き色を付けている。味付けは塩胡椒と、おそらく臭み消しのためのハーブのみ。シンプルな料理だ。
薄めに切り落としているため、鉄板の上の肉は次々と焼きあがっていく。色が変わるまで炒められた玉ねぎを肉に絡め、それを更にレタスで包みトマトと一緒にパンに挟んで完成のようだ。
「お待ちどう、お二人さん! うちの自慢のドネルサンドだ」
おっちゃんから料理を受け取ると、俺はたまらず一気にかぶりついた。
シンプルな味付けだが、それがいい。疲労した体に塩味が染み渡っていく。
あっという間に一つ目のドネルサンドを食べ終わった俺はコップに注がれた水を一気飲みし、続いて二つ目に手をつけた。
こちらは一つ目と違い、香辛料が多めに使われているようだ。どうやら一つ目は、俺の体調を見たレオが気を使って塩気の多いものを選んでくれていたらしい。
ほとんど無言のまま二つ目も平らげた後、俺はおっちゃんに賞賛の言葉を贈った。
おっちゃんは「ありがとよっ」と返しつつも手を止めることなく、大きなジョッキにヨーグルトらしきものを注ぎ始める。
「レオ、あれは何だ?」
「ヨーグルトのシャーベットよ。デザートに頼んでおいたの」
「シャーベット? 普通のヨーグルトに見えるけど」
「後で凍らせるのよ。まぁ見てなさい」
俺とレオの会話を聞いたおっちゃんが、作業を続けながら解説をはじめてくれた。
むしろ説明したくてたまらないといった雰囲気だった。
「こいつは、うちの自慢のヨーグルトだ」
ジョッキになみなみと注がれたヨーグルトに、今度はジャムを入れてよくかき混ぜる。
おそらくはブルーベリーか何かのジャムだろう。白い液体は、青みがかった色へと変化する。
「特濃のヨーグルトに甘く煮詰めたジャムを入れて、魔法でシャーベット状にする」
おっちゃんが何事か呟いたかと思うと、ジョッキが青白い光に包まれて冷やされていく。
おお、魔法だ。料理にも魔法を使うのか。なんでも有りだな魔法。
やがて出来上がったヨーグルトが俺達に手渡される。
ジョッキから伝わる冷たい感触が心地良い。
一足先にヨーグルトに手をつけたレオは、笑顔で一息ついている。
……あれ、笑顔? めっちゃだらしない笑顔なんですけど。にへらっとしてるんですけど。
いつものキリッとしたレオからは考えられないような表情だ。
「こいつ、甘い物食った時はキャラ崩壊するんだよ」
「ほう。それはいい事を聞いた」
バヤールから重要な情報をゲットした。女の子の好みを知るのは重要なのだ。
レオに続いて、俺もヨーグルトを口に入れた。まずは一口。
ふむ、思ったより濃厚な風味だ。特濃のヨーグルトシャーベットが口の中にざらりと広がり、確かな甘みも感じる。色合いからしてブルーベリーかと思ったが、どうやら複数の果物を混ぜたもののようだ。味としては苺ジャムに近い。シャーベット状にしたのでヨーグルトの甘みは感じにくくなっているが、そこをジャムの甘みで補っている。
しかしこれだけ濃厚だと、飲み込む時にくどくならないだろうか?
そんな事を思いながらシャーベットの舌触りを楽しんでいると、あっという間にシャーベットが溶けて液体に戻る。すると、口の中に広がる味わいが全く違うものに変わった。
そうか、凍ってるのは水分だけなんだ! つまり、氷が解けたらヨーグルトが薄まる仕組みだ。これなら、濃厚な甘みとサッパリした喉越しを両立できる。考えたな、屋台のオヤジ!
俺が屋台のオヤジに視線を向けると、オヤジはニヤリと笑ってサムズアップした。
俺もサムズアップで返答を返す。あんた、イカしてるよ!
俺がヨーグルトを飲み干すと、ひんやりとした感触が火照った体を沈めてくれて思わず溜息を漏らした。
脱力して椅子の背もたれに体を預けていると、無性に眠くなってくる。これはやばい。
俺は無理やり椅子から体を引き剥がすと、屋台のおっちゃんに美味いものを食わせてもらった礼を言いつつレオに着いて行った。
宿に着いた俺は軽く風呂で汗を流し(この状態で風呂にゆっくり浸かったら眠ってしまう自信がある)、ベッドに倒れこむと泥のように眠った。




