第2話 レオは可愛い バヤールはゲロ以下
主人公を勃起させすぎた感はある。
今は反省している。次も勃起させたい。
俺はバヤールに案内されて急な斜面を登る。小一時間ほどすると、ようやく目的地……山の中にぽつんと佇む家に到着した。大きさ的に見て、中には三から四部屋ぐらいはありそうだ。周囲には荒れ果てた畑とお墓が見える。お墓は最近手入れされたようで綺麗な状態を保っていたが、それ以外は人が住んでいるようにはとても見えないほど荒れ果てていた。玄関のドアなんて、とりあえずくっつけました感が満載だし。ちょっと力を込めたら取れてしまいそうだ。
「おーいレオ! 連れてきたぞ!」
バヤールの声に応じ、ぼろぼろのドアを開けて出てきたのは可愛らしい女の子だ。
異世界の女の子キター!
先ほどのスプラッタで下がりきった俺のテンションは一気に最高潮まで達した。
女の子に視線を集中すると、レオナという名前が浮かび上がってくる。レオってのは通称か。俺はそのままレオの事をガン見する。いやだって、可愛い女の子がいたらつい視線を集中させてしまうのは仕方のない事だよね。自然の摂理だよね。でないと子孫が繁栄しないもの。俺の行動は正しい。
レオは雪のように白く輝く髪にやや気の強そうな青い瞳をしている。スラリとした柔らかそうな体とも相まって、まるで猫のようなイメージを抱かせる女の子だ。体は華奢だが出るべき所はきちんと出ている。着やせするタイプのようだが、俺のエロスに敏感な目からは決して逃れられない。
格好は……これが異世界流なのだろうか? 山の中だというのにずいぶんと軽装だ。
ぱっと身は、丈の短いTシャツにホットパンツという出で立ち。二の腕もお腹も太腿も丸出しである。
異世界感を感じさせるところとしては、所々に見られる皮の保護具に頑丈そうなブーツだろうか。
うーん、エロい。そんなんムクムクしてしまいますやん。おっきしてしまいますやん。どこがとは言えないが……いや、ここまで言ったらもうゲロってしまってもいいのだろうか。おっぱいに顔を埋めさせて下さいと告白してしまってもいいのだろうか。
レオは血にまみれた俺の惨状に目を向けながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
「……初めまして、不本意ながらこの馬鹿篭手の相棒をしているレオよ。ごめんなさい、早速災難があったみたいね。バヤールは疫病神みたいなもんだから」
「初めまして、タイガです。バヤールに対してはボコボコにしてやりたい気持ちでいっぱいですが、今はこの出会いに感謝したいと思います」
挨拶しつつ手を差し出してきたレオに、俺も血の付いていない方の手で握手を返して返答する。
レオは続いてバヤールの方に微妙に冷めた目を向けた。
「可愛らしい子ね。バヤール、あんたってロリコンだったんだ」
「べべべべべ別にロリコンちゃうし!?」
焦ったようにバヤールがどもり気味で叫んだ。
いいや、お前はロリコンだ。間違いない。
……うん? 可愛らしい子?
いくら異世界でガチムチな男が多そうとはいえ、俺だってバスケ部に所属して日々体を鍛えている。日本人は実年齢より年下に見られがちとよく聞くが、可愛らしいとまで言われるのはなんか違和感が。
「あの……」
「ああ、先にお風呂に入ってきてもらったほうがいいかな。怪我はないようだけど、その状態はちょっとね」
「すみません、よろしくお願いします」
俺の上半身は熊の返り血と臓物を浴びてとんでもない事になっている。
可愛い女の子を前にしてテンション(と、ついでにマイサン。愛しの我が息子)は上昇しているが、こんな状態でフレンドリーに話しかけられても嫌悪感を与えてしまうだけだろう。まずは体を清潔にしなければ。あと、テンションを抑えてもっこり具合をなんとかする必要もある。
「じゃあ私はお風呂の準備をするわ。元々お湯を沸かしてる最中だったから、あと五分もあれば準備できると思う。風呂場はそこの扉の向こうね」
「わかりまし……わかった。悪いね、手間とらせちゃって」
なんとなくだが、敬語で話される事を嫌がっているように感じた俺は普段どおりの口調で返答する。
どうやらそれは正解だったようで、何か言いかけていた言葉を引っ込めてレオはわずかに笑みを浮かべた。
なんかこの子かっこいいな。異世界というと媚び媚びな獣耳娘とかをイメージしていたが、考えてみれば生きるのに大変な世界なのだ。女の子も強くないと生きてはいけないのだろう。
「気にしなくて良いわ。バヤールの相手をする事に比べたらこの程度」
「……え、ちょっと待って。なんか俺の扱い酷くない?」
俺はバヤールの言葉をスルーして風呂場に向かった。
◇◇◇
俺は風呂場に隣接した脱衣所で服を脱ぐ。
そういえば、いつの間にかあのおぞましい衣装から普通の服装に戻っていた。あんなおぞましい格好であの女の子の前に出ていないようでよかった。あの格好のままだったら、あの子の俺への好感度は最低ランクまで落ちていたことだろう。初対面の悪印象を覆すのは難しい。
と、バヤールがなんかハァハァ言いながらこっちを見つめているのが見えた。
何だお前。なんかキモいぞ。
「……止めてくれよ、この短時間でガチホモに目覚めるとか」
「いやこれは、幻術を解くのを忘れて……お、いかん集中が」
そういや幻術かけてたんだったか。スプラッタがショッキングすぎて忘れてたわ。
さっきの女の子が俺を可愛らしいって言ったのはそういう事か。あんな熊が出没する所に住んでるような人からしたら軟弱に見えるのかと思ってちょっとショックだったが、そういうわけではなかったようだ。改めて挨拶をして俺への好感度を上げておかなければならないな。第一印象が肝心だ。爽やかな好青年という印象を持ってもらおう。
そんな事を考えていると、俺の体をうっすらと覆っていた光が霧散した。どうやら幻術が解けたようだ。
俺は手にしたタオルを振り上げ、パァンと景気良く背中に叩きつけながら風呂場に向かって歩みを進めた。
ぱおーん。
「げんげろげぇぇぇぇぇッッ!!」
「うお汚ぇっ」
いつのまにか俺の目の前まで近づいてきていたバヤールが謎の液体を噴出しつつぶっ倒れた。そしてピクピクと痙攣しながら床の上をのたうち回っている。
俺は手にしたタオルを投げつけバヤールの噴出する汚物をなんとかガードしたが、今のは危険だった。この世界は危機に満ちている。一瞬の油断が命取りだ。生き抜くために注意を怠ってはいけない。
「うぼぉぉぉぉ……おぞましい物を目の前で見てしまった……」
「お前は自爆するのが大好きなようだな。だが俺を巻き込むのはやめてくれ」
真剣にな。
と、バヤールの悲鳴を聞きつけたのか慌てたように脱衣所に接近してくる足音が聞こえてくる。たぶんレオだろう。
……あれ、まずくね? バヤールの掛けた魔法のせいで、レオは俺の事を女の子と認識してるんじゃ?
俺が対応を考える間もなく、脱衣所の扉が開け放たれてしまった。
「どうしたの!? 何かおぞましい物を見て吐き気をもよおしたような悲鳴が聞こえた……け……ど……」
「あ」
時既に遅し。現実とは残酷である。
バヤールの声を聞きつけてきたレオが脱衣所の扉を開けると、そこに見えるは仁王立ちした俺の裸体。一糸纏わぬ全裸だ。清々しいほどの全裸だ。
かわいい女の子に見つめられて照れた俺のビッグエレファントが、更にビッグなダンディへと変化した。
ぱおーん。
「誰だ貴様っ、あの子をどうした!」
「ぶべらっ!?」
俺はレオのパンチを顔面に食らって宙を舞った。
レオの拳には炎が宿っており、パンチと同時に放たれた火炎は壁を突き破って森の中に消えていく。
ああ、これが異世界の魔法かー。強烈だなぁ……
遠のく意識の中、俺はそんな事を思った。
◇◇◇
名前を呼ばれた気がした。
あれ、試合中だっけ……やばい、倒れてる場合じゃない。まずは体を動かさないと……
いや、もういいじゃないか。こんな状態で体だけ動かしたって結果が出るわけが無い。走りこみをサボったツケが回ってきた。
点差は三倍以上、交代要員もみんな疲労困憊。
そもそもの実力が違いすぎたのだ。運よく勝ち進めたから、自分達に実力があると勘違いしてしまった。シード権を持つ本物の強豪校と当たってメッキが剥がれた。ただそれだけの事。
諦めが肝心な事だってある。今日はもう諦めよう。
……本当は、諦めたくなんてなかったけど。負けるのがこんな悔しいとは思わなかった。
もっと真面目に練習に取り組んでいたら、この結果も少しは変わったのだろうか?
いや、結果云々の問題じゃないか。悔しいのは自分の全力を出し切れなかったからだ。
勝ち進んでチヤホヤされて、女の子とデートしたりなんかしちゃって。練習をサボった。
重くなった体で普段通り動こうとして、あっという間にスタミナを失いこのザマだ。
後悔。これが後悔か。
後味が悪い。どうしてあの時、俺は全力を出し切れなかったのか。後一歩の努力を怠ってしまったのか。
次があったら、もっと……
顔がひりひりする。後頭部にはやわらかくも暖かい感触。これはいい枕だな。どこに売ってるんだろうか? この枕には、男の夢が詰まっている。そんな気がする。
再び名前を呼ばれた気がしたので、俺はうっすらと浮かんだ涙を拭いつつゆっくりと目を開けた。
「大丈夫?」
目の前には、俺を見下ろす白い髪をした女の子。あとおっぱい。
目を覚ましたら目の前に美少女とおっぱいだなんて、ここは天国だろうか? それとも夢の国?
ぼんやりする意識の中、俺は目の前の光景を目に焼き付けつつ状況を確認する。
すると、現状は俺の想像をもはるかに超える天国だとわかった。
少女……レオの顔とおっぱいの位置。そして、後頭部に感じるこの感触。
やわらかさと暖かさと愛や切なさと希望とエロに溢れたこの感覚。
これはまさか。
「ひ……膝枕だとおぉぉぉぉッッ!?」
「うひゃっ」
思わず絶叫を上げた俺に驚いて後ろに仰け反るレオ。
「あ、ごめん。びっくりさせちゃったかな」
「ううん、こちらこそ御免なさい。客人をぶん殴る事になるとは思ってなかった。バヤールがお馬鹿な術なんて使うから……」
ようやく俺は状況を思い出した。
全裸をご開帳してレオにぶん殴られたんだっけか。それだけ言うと俺がまるで変態みたいだな。
ああ、レオには俺の全てを見られてしまったわけか。俺の逞しい肉体に、そそり立つ人類繁栄の象徴。全力全開とまではいかないが、レオのお陰で普段よりかなり元気が出ていた部分。うおお、そこはかとなく羞恥心と快感が……
はっ、違う違う。俺は変態ではない。変態はバヤールだ。
「すまん、俺もバヤールに変な魔法掛けられてたのを忘れてた。あの変態は俺もぶん殴りたい」
「私は何度もぶん殴ってる」
そのやり取りの後、俺とレオは二人で笑いあった。
あれ、全裸ご対面をかました割にはいい雰囲気じゃないか?
共通の敵(バヤール)がいるからだろうか。なら少しぐらいはアイツに感謝してもいいかもしれないな。
「怪我は大丈夫? 回復魔法は苦手だから、完治してない所があるかもしれないけど」
「大丈夫みたいだ。すこしヒリヒリするぐらいかな」
回復魔法なんてあるのか。さすがは異世界ファンタジー。
目が覚めてからも膝枕のまま会話するのも何なので、名残惜しみつつも俺は立ち上がる。他の部分も立ち上がりかけていたが、さすがにノックアウトされた直後にMAXエレクチオンできるほど俺は元気ではない。
ああ、さよなら夢の国。また会う日を楽しみにしているよ。
なんて思ってたら、おれの体の上に掛けられていた毛布がずり落ちそうになったので慌てて手で押さえる。
危ない危ない、今の俺は全裸のままだ。再びレオに全裸をご開帳する羽目になる所だった。ああでも、それはそれで悪い事ではないのかもしれない。人類の繁栄に繋がるのかもしれない。
立ち上がって周囲を見回してみると、めちゃめちゃになって随分様変わりしてしまったがここは脱衣所のようだ。俺がぶん殴られた場所から移動はしていない。隣は風呂場だ。
「さて、改めて風呂に入ってくるかな……あれ、そういや服はどうすりゃいいんだ?」
「服は……用意はあったんだけど……」
レオの視線の先には焼け焦げた鞄があった。おそらく先ほど俺が喰らった炎の魔法に巻き込まれたのだろう。
ああー、つまり。
「あの中にあったのか」
「うん」
なんてこった。血まみれの服を着るわけにも行かないし、風呂上りの俺は全裸で過ごさなければならないという事か?
全裸で可愛い女の子と一つ屋根の下で過ごすはめになるのか?
あっ、なんか知らんけど興奮してきた。俺には体の一部分だけを巨大化させる魔法が使えるんだぜ。見せてやろうか?
「安心しな! 服なら俺が持ってるぜ!」
部屋の隅っこでピクピク痙攣していたバヤールが余計な事を叫びつつ飛んできた。
たぶんレオに折檻でも受けていたのだろうが、こいつはすぐ回復してしまうようだ。
「持ってるって、どこだよ」
「俺は空間魔法が使えるんだよ。タイガ、お前の部屋にある物は全て俺の収納ボックスに収納させてもらった。つまりクローゼットの中もだ」
「泥棒じゃねぇか」
ぎりぎりとバヤールにアイアンクローを食らわせる。
ギギギと悲鳴を上げながらもバヤールは小声で俺に語りかけてきた。
「いいのか? お前の部屋にあるものを全て俺が持っているという事は、お前のパソコンの中身も俺の手の中だという事……ッッ!」
「な、何ッッ!?」
この野郎。まさか、人質!?
てか、異世界人(?)がパソコンとか知ってるのかよ。
「パソコンの中身はお前が気を失っている間に見させてもらった……いい趣味してるじゃねぇかよ、おめぇさんよう」
「くっ、この外道め! 人の聖域を土足で踏み散らかすお前の所業は、禁忌の扉を開くにも等しい行為だぞ!」
「ふははは、何とでも言うがいい。人は禁忌を犯さずにはおれない生き物なのだよ」
「お前人間じゃないだろ」
人質を取られてしまっては仕方がない。
やむなく俺はバヤールを圧殺せんと込めていた腕の力を抜いていく。
「と、こんな事をしてる場合じゃない。服だったな。服、服、と……」
俺の腕から解放されたバヤールは、何かを探すような仕草をする。
空間魔法ってのがどういう仕組みなのか知らんが、傍から見てたら変な踊りを踊っているようにしか見えない。
と、唐突にバヤールが絶叫を上げた。
「こ、これはぁぁぁぁッッ!」
ワナワナと震えるバヤール。
え、何? また何か発見したの? 俺のメンタルがクソピンチなので止めて欲しいんだけど。でもパソコンとエロ本以外にそんな変なものなんて無かったはずだが。
「これは使えるな……ああ、タイガの服も見つけたぞ。後でそこの籠にいれておく」
バヤールが何を見つけたのか気になるが、レオの前でそれを聞くわけにも行かない。俺は大人しく風呂に入ることにした。
体に付いた血を洗い流し終わり湯船に浸かってゆっくりしていると、瞼が徐々に重くなってくる。
こっちの世界はまだ夕方だから忘れていたが、俺は寝る所をバヤールに拉致されたんだった。その後に熊と戦ったし、肉体的にはともかく精神的には疲労困憊だ。ひどく眠い。
俺が眠気と戦っていると、かすかにレオとバヤールの声が聞こえてくる。
「あなたが勧めるなんてどんな服だと思ったけど、案外普通ね。長袖だし、丈も長いし」
「お前の普段の服装が異常なだけだと思うが……」
なんだろう。さっきバヤールが叫んだ何かが絡んでるのだろうが……俺の部屋に女性が着るような服なんて無かったはずだが。
そういや、レオの方の服も焼けてしまったのか? でなければバヤールから服を受け取ったりはしないだろう。
気にはなったが、眠気には勝てなかった。
風呂から上がった俺は、勧められるままに寝室へと移動する。
途中、レオから服を借りるけどいいかと聞かれたが、応えはもちろんYesだ。女の子に自分の服を着てもらうって、なんだか興奮しないか? 俺は興奮する。夢の中で発射してしまいそうなほど興奮する。
だって、女の子の肢体を俺の匂いの染み付いた服で包み込むんだぜ? 洗濯しているとはいえ、俺の生の痕跡がわずかに残ってしまうのは仕方ない。これってもう、俺がレオの柔肌を抱きしめているのと同義じゃないか? レオが俺に抱かれて眠るのと同じじゃないか?
ああ、今日は良い夢が見られそうだ。
俺はベッドの上に倒れこむと、そのまま熟睡した。
良く覚えてない部分も多いが、夢を見ていた気がする。
レオと学校帰りにデートして、告白してOKを貰って、キスをした。もうそれだけで最高だ。
ただ、笑顔を浮かべているというのに何故だか俺もレオも涙を流していて。深く握り合った手を離した後、お互いに別れを告げていた。
また明日。そういう挨拶にしては、なんだかやけに重い別れの言葉だった。




