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異世界シンママ(仮) ~バリキャリ妊婦は熱砂の皇子の仮初め寵姫~  作者: 多摩ゆら
第二部

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46.出産祝い


「ツバキさん……! おめでとうございます」


「ナーラさん、お久しぶり。だいぶお腹が大きくなりましたね」


「はい。もう毎日胎動がすごくて。体重が増え気味なので、毎日『よが』と『筋とれ』を頑張っています」


「私もです……! 産後落ち着いたら、一緒にやりましょうね」



 出産からあっという間に二月が経ち、椿はこの日、産後初めての来客を迎えていた。

 この二月は出産および授乳のダメージとホルモンの乱高下でリソースが削られていたのか、正直あまり記憶がない。いつの間にか時が過ぎていた。


 来てくれたのはお腹がだいぶ大きくなってきたナーラだ。すっかり打ち解けた、少女のように愛らしい友人は嬉しそうにお祝いの品を渡してくれる。

 そんなキャイキャイ盛り上がる妻たちの背後で、苦虫を噛み潰したようなサーリフが小さく頭を下げた。


「……久しぶりだな。無事の出産、お祝い申し上げる」


「サーリフさんも、ありがとうございます。顔怖いですよ、マリカが泣きます」


「あなたったら。わたしは一人で大丈夫だと言ったのに、心配だからと付いてきてくれたのです。サーリフ、怖い顔しちゃいや」


「わ、分かったよナーラ。私は静かに控えているから……」


 プクッとふくれるナーラをサーリフがオロオロとなだめる。……相変わらずナーラに対するのとそれ以外とで、落差が激しすぎる。

 吹き出すのをこらえながら子供部屋に案内すると、ルムアが抱っこしていたマリカの姿にナーラは両手を組み合わせた。


「まあ……! なんて可愛らしい! マリカ様、はじめまして。……ルムアさんも、その格好とてもよくお似合いですわ。少し使用人が増えましたわね?」


「あ、ありがとうございます。ご無沙汰しております。姫様のお世話が加わったので、雑事を任せる者を少し増やしました」


 侍女姿のルムアにも笑顔を向けると、ナーラがマリカを抱き取る。

 赤子を抱く妻に、近い将来の姿を重ねたのだろう。サーリフまでもが感嘆したようにマリカを覗き込んだ。


「小さい……」


「もうっ、あなた! 産まれたてはもっと小さいのですよ」


「そうですね。だいぶ大きくなりました。首も据わって――。ナーラさんは赤ちゃん慣れしていますね?」


「ええ。わたし、歳の離れた弟がいましたもので。……可愛いわねえ。わたしたちの子供は男女どっちかしら?」


 マリカを優しくあやしながら、ナーラがサーリフを見上げる。ポーッと妻を見下ろすサーリフに、椿は少々の悪戯心を込めて言ってみた。


「サーリフさんも抱っこしてみませんか。予行演習だと思って」


「わ、私がか!?」


「まあ! そうさせていただきなさいよ、サーリフ。わたしも見てみたいわ」


「君がそう言うなら……」


 戸惑いながらもナーラからマリカを受け取り、サーリフが長身をカチンと強張らせる。微動だにしなくなってしまった夫にナーラが吹き出した。


「あなた、顔が怖いわ。マリカ様が泣いてしまうわよ。ねえ、笑って?」


「こ……こうかい?」


 ヒク……と頬を引きつらせてサーリフが不気味な笑みらしきものを浮かべる。途端にマリカがぐずりだし、椿はこらえきれず吹き出した。背後のルムアも肩を震わせている。

 やがてマリカが火がついたように泣き出し、サーリフはオロオロと妻に助けを求めた。


「ナーラ、私はどうすれば……!」


「んもう、仕方のない方。お戻しになって。……よしよし、マリカ様。怖がらせてごめんなさいねー」


 マリカをあやしながら、ナーラが子守歌を口ずさむ。その様をくすぐったいような目で見つめるサーリフに、椿はにやっと小声で話しかけた。


「練習が必要そうならいつでもどうぞ?」


「あ……ああ。……小さいのだな。それに、柔らかくて――温かかった」


「幸せな気持ちになりませんか?」


「……ああ。……可愛いものだな」


 ふ、と端正な口元に作ったものではない笑みが浮かび、椿はおやと目を見張った。

 こんな顔もできるのか。この顔を普段から見せていたら、さぞやモテるだろうに――そう思ったが、ナーラの前だからこそ出る表情なのだろう。


 天使のような笑みで幼子をあやす妻と、それを見守る不器用な夫。椿は初めて、この怜悧な補佐官に親近感を抱いた。




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