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異世界シンママ(仮) ~バリキャリ妊婦は熱砂の皇子の仮初め寵姫~  作者: 多摩ゆら
第一部

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4/7

3.熱砂の館


「女、不敬だぞ! (こうべ)を垂れよ」


「まあいい、サーリフ。どうせ顔を上げさせるんだ。手間が減っていいさ」


「しかし……」


 座り込んだまま男をじっと見つめる椿に、鋭い叱責が飛んだ。サーリフと呼ばれた細身の男――従者?が主人らしき男にたしなめられ、不承不承で引き下がる。

 正面に座った濃紺の衣の男は椿を見ると、ニッと大きな口を引き上げた。


「俺に会いたいと言っていたそうだな。お前、名をなんと言う」


「えっ……」


「ああ、先に名乗るべきか。俺はイクバール・サクル・シャムス。このザハーブ州の太守をしている。こっちのうるさいのが補佐官のサーリフだ。お前は――()つ国の者か? 見たことのない装束を着ているな」


 よどみなく語った男――イクバールが興味を引かれたように椿をじろじろと眺める。そんな彼を見返し、椿は困惑しながらつぶやいた。


「太守……? 大使ではなく?」


「? ここは太守府だぞ。州の長である俺に会いたくて来たのではないのか?」


「……っ」


 まさか、こんなに若い男が大使――いや、首長とは思わなかった。外国人の年齢は分からないが、少なくとも40はいってないだろう。なんならまだ20代かもしれない。

 驚きが顔に出てしまい、椿ははっと表情を切り替えると頭を下げた。


「失礼しました。……私は高野椿と申します。日本という国からやってきたのですが、気付いたら砂漠にいて……。記憶も荷物もお金もなく、大使――いえ、太守様の庇護を受けたいと思い、伺いました」


 今現在、職も金もなくこの灼熱の国で路頭に迷うこと待ったなしの椿ができること。それは、公的な庇護を受けることだった。現実的に考えてそれ以外の選択肢はない。

 頭を下げる椿を見て、男たちが顔を見合わせる。一人は面白そうに、もう一人は疑り深そうに。


「……イクバール様。耳を貸すことはありません。あの話があったからと言って、あなた様直々の監視などいらぬはず。こちらで処理しますから――」


「まあ待て。あれが本当なら、野に放つわけにもいかんだろう。何より面白そうだ。どこから来て何を担う者なのか――」


「……?」


 不穏な会話に椿が怪訝な視線を向けると、イクバールは膝の上に頬杖をつき金の目を細めた。


「お前の事情、詳しく聞いてやろうじゃないか。ツバキとやら」




 鷹のような目に見据えられながら、椿は先ほども語ったこれまでの経緯を詳しく説明した。二度目ということもあり理路整然と分かりやすく言えたように思う。

 迷ったが、身の安全が確保されてから言うべきことかと思い妊娠の件は黙っておいた。弱者と見るやいなや、不当な扱いをされる可能性もゼロではないからだ。


 話す過程で、椿はここがソムニウムという大陸の内陸にある、クファールという国であることを知った。その中のザハーブ州の州都ジクラに今いるということも。

 ……やはり、ここは椿の知る世界ではない。それを思い知らされても意外に冷静だったのは、取り乱す姿を人に見せるのは恥だと思ってきたこれまでの生き方の賜物かもしれなかった。



「――そういうわけで、私には帰る家も泊まるお金もないんです。生活が落ち着くまででいいですから、面倒を見ていただけませんか。それ以外のご迷惑はお掛けしませんから……!」


「……イクバール様、やはり怪しいです。あまりにも突飛で芝居じみている。虚言癖があるのやも……。頭のおかしい女として城門から放り出しましょう」


「誰が芝居してるのよっ! 話聞いてる!?」


 話し終えた直後、ひそりとイクバールの耳元に囁かれた言葉に椿は思わず怒鳴ってしまった。すぐにはっとするが、サーリフは神経質そうな細い眉を嫌そうにしかめる。

 ……あ、こいつ嫌いだ。昔、研究室で犬猿の仲だった同級生を思い出し、椿も顔をしかめる。そんな二人を見てイクバールがぶふっと吹き出した。


「落ち着けサーリフ。お前も、太守の補佐官に歯向かうとはなかなかいい性格をしている」


「あっ……」


 ――まずい。ここで印象を悪くするのは悪手だ。椿が大人しく座り直すと、イクバールはゆったりと問いかける。


「さて、ツバキよ。俺の庇護が欲しいと言ったな。お前、その意味を分かって言っているか?」


「え……?」


「俺の情けが欲しいということで、合っているか?」


「…………」


 にや、と色めいた視線を送られ、椿は困惑した。情け――お情け。

 気に障る言い方だが、助けてもらわなければ治安も文化も分からぬ異国の地で、今夜寝る場所もないのは確かだ。無言でうなずくと、イクバールはゆっくりと立ち上がる。


「そうか。……サーリフ、奥に案内してやれ」


「っ!? しかし、こんな得体の知れない女を――!」


「俺が直に調べるのが一番手っ取り早いだろ。心配なら侍女に検分でもさせておけ。……体を清めて飯を食わせろ。夜に行く」


 それだけ告げると衣をひるがえしてスタスタと出ていってしまう。ぽかんと見送ると、あとに残されたサーリフが盛大に舌打ちした。


「運のいい女だな。……使いをよこす。それまで大人しくしていろ」




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