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午後の授業開始を告げるチャイムが鳴る。
「はーい、席着いてー」
担任が教室へ入ってきた。
昼休みの賑やかさが少しずつ落ち着き、生徒たちはそれぞれ自分の席へ戻っていく。
「じゃあ白金くん、またあとでね」
「今日は逃げないでよー」
「逃げないって」
「怪しい」
「だから何がだよ」
最後まで笑いながら、優奈と原田さんは自分の席へ戻っていった。
楓も小さく会釈をすると席へ向かう。
「またね」
「ああ」
その後ろ姿を見送っていると、末永さんが立ち止まった。
「白金くん」
「ん?」
「さっきの話だけど」
少しだけ真面目な表情だった。
「無理して変わろうとしなくてもいいからね」
「……え?」
「自然に笑ってる今の方が、私は好きだから」
そう言って柔らかく笑うと、自分の席へ戻っていった。
「……」
思わず言葉を失う。
(自然、か)
俺は変わろうとしていたわけじゃない。
ただ流れに巻き込まれていただけだと思っていた。
でも。
みんなは違うように見えているらしい。
「白金ー」
先生の声が飛んできた。
「ボーっとしてないで席。」
「あ、はい」
教室に小さな笑いが起きる。
「白金くん、珍しく怒られてる」
「レアだね」
「昼休みの余韻かな?」
「違うから」
軽く返すと、また笑い声が広がる。
(また笑われた)
けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
◇
五時間目は現代文。
先生が教科書を開き、順番に音読を始める。
静かな空気が教室を包む中。
「じゃあ次、白金」
「はい」
立ち上がり、教科書を読む。
読み終えて席へ座ると、後ろから小さな声が聞こえた。
「上手」
振り向くと、小林楓が小さく親指を立てていた。
「ありがとう」
小声で返す。
その様子を見ていた原田さんが、にやりと笑う。
(絶対また何か言う)
嫌な予感は当たるものだ。
授業が終わるなり、原田さんが身を乗り出してきた。
「はいはい!」
「今の何?」
「何って?」
「目で会話してましたよねー?」
「してない」
「してた」
「してない」
「してた」
「どっちでもいいだろ」
「認めた!」
「認めてない!」
「白金くん、最近ツッコミ上達したよね」
優奈が笑う。
「確かに」
末永さんも頷く。
「前なら無言だったのに」
「それは成長じゃない?」
「良い傾向」
「みんなで育ててる感あるよね」
「俺はペットじゃない」
その一言で、教室中に笑いが起きた。
「あははは!」
「今の面白い!」
「白金くん、自分で言った!」
「今日は調子いいね」
笑いに包まれる教室。
その時だった。
ガラッ。
教室のドアが開き、一人の女子生徒が顔を覗かせる。
「失礼します」
見慣れない制服。
他クラスの生徒だ。
彼女は教室を見渡すと、迷いなく口を開いた。
「一年B組の白金結城くんっていますか?」
教室の空気が、一瞬だけ止まる。
「え?」
「白金?」
「誰?」
「女の子?」
視線が一斉に俺へ集まる。
「白金くん」
優奈がにやりと笑った。
「……また新イベント、始まったね」
俺は嫌な予感しかしないまま、静かに席を立った。




