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屋上を出て、階段を降りる。
小林さんの背中を、少しだけ距離を空けて追いかける。
さっきの言葉が、頭から離れない。
——ちゃんと、見ててね。
「……見るって、なんだ」
小さく呟いた声は、当然届かない。
でも——
「聞こえてるよ」
前を歩いていた小林さんが、振り向かずに言った。
「……は?」
「今の」
「いや、別に——」
「ふふ」
くすっと笑う声。
それだけで、さっきより距離が近くなった気がするのが、少し悔しい。
教室に戻る直前、小林さんがふと足を止めた。
「ね、白金」
「ん?」
今度は、ちゃんとこっちを向く。
さっきより、少しだけ真面目な顔。
「優奈のこと、“友達”って言ってたけどさ」
「……うん」
「それ、本当に?」
一瞬、言葉が詰まる。
否定する理由はない。
でも、肯定するには——少しだけ引っかかる。
「……今は、そうだよ」
少しだけ曖昧な答え。
小林さんは、それを聞いて小さく頷いた。
「そっか」
それだけ。
それだけなのに——
ほんの少しだけ、安心したようにも見えた。
「じゃあさ」
軽く息をついて、いつもの調子に戻る。
「その“今”が変わるとき、教えてよ」
「え?」
「ちゃんと、最初に知りたいから」
そう言って、にやっと笑う。
さっきまでの空気が、少しだけ崩れる。
でも——
その奥にある本音が、消えたわけじゃない。
「……なんだよ、それ」
「別に?」
くるっと背を向ける。
「約束ね」
「いや、勝手に決めないでよ」
「もう決まった」
即答。
強引なのに、不思議と嫌じゃない。
教室のドアを開ける直前。
「あとさ」
小林さんが、もう一度だけ振り返る。
「“楽”って言った責任、取ってよ?」
「……責任?」
「うん」
少しだけ目を細める。
「他の子にも同じこと言ってたら、ちょっとムカつくから」
「言わない」
反射的に出た言葉。
その瞬間、小林さんがふっと笑った。
「なら、いいや」
ガラッとドアを開けて、中に入る。
——なんなんだよ、ほんと。
自分も後に続きながら、さっきのやり取りを思い返す。
島崎さん。
小林さん。
そして——
「……楽、ね」
自分で言った言葉なのに、妙に引っかかる。
席に座ると、窓の外から風が吹き込んできた。
屋上と同じ風。
でも、さっきより少しだけ——
落ち着かない。
席に座ると、窓の外から風が吹き込んできた。
屋上と同じ風。
でも、さっきより少しだけ——落ち着かない。
「白金ー」
後ろから声がかかる。
振り向くと、島崎さんが机に頬杖をついてこっちを見ていた。
「どうした?」
「どうした、じゃないでしょ」
じっと見てくる視線。
からかってるようで、でも少しだけ探るような目。
「楓と、なに話してたの?」
「別に、普通の話」
「ふーん?」
納得してない顔。
そりゃそうか。
「……気になる?」
「まあね」
あっさり肯定。
その返しに、少しだけ言葉に詰まる。
「だってさ」
島崎さんが少しだけ体を乗り出す。
「最近、楓——白金のこと、めっちゃ見るじゃん」
「は?」
思わず変な声が出る。
「いや、気づいてないの?」
「いや……」
言われてみれば、屋上でも——
「ほら、今も」
「え?」
反射的に視線を前に向ける。
すると——
一瞬だけ、小林さんと目が合った。
すぐに逸らされたけど。
「……」
「ね?」
島崎さんがニヤっと笑う。
「分かりやす」
「うるさい!」
視線を机に落とす。
でも、さっきの言葉がまた浮かぶ。
——ちゃんと、見ててね。
——最初に知りたいから。
「……」
「なにその顔」
「なんでもない」
「嘘だね」
即答。
本当にこいつは——
「白金さ」
島崎さんの声が、少しだけ落ちる。
「どうしたいの?」
「……なにが」
「私と、楓と」
軽い調子じゃない。
ちゃんとした問い。
逃げられないやつ。
「どっちも“楽”で済ませるの、無理だよ?」
「……」
図星だった。
だから、何も言えない。
「別にさ」
島崎さんがふっと笑う。
「どっち選んでもいいよ」
「選ぶって……」
「でも」
そのまま、少しだけ目を細める。
「中途半端なのが一番ダサいから」
「……」
ぐうの音も出ない。
「ま、今すぐじゃなくていいけどね」
空気を戻すように、軽く肩をすくめる。
「ただの忠告」
「……ありがとよ」
「どーいたしまして」
島崎さんは満足そうに笑った。
その向こうで——
小林さんが、また一瞬だけこっちを見ていた。
「……厄介だな」
小さく呟く。
でも——
本当は分かってる。
これは、厄介じゃない。
ただ、
「——ちゃんと、選べってことか」
風が、もう一度強く吹いた。
そのとき——
「ねえ」
前の席から、声が飛んでくる。
顔を上げると、小林さんがこっちを見ていた。
今度は、逸らさない。
「今日、放課後ヒマ?」
「……は?」
教室の空気が、ほんの少しだけ揺れる。
「ちょっと付き合ってよ」
いつもの軽い調子。
でも——
断られる前提じゃない言い方。
「……なんで俺」
「約束」
即答。
にやっと笑う。
「責任、取るんでしょ?」
「……」
言葉に詰まる。
さっきのやり取りが、そのまま返ってくる。
「それとも」
少しだけ目を細める。
「無理?」
「……いや」
気づいたときには、答えていた。
「別に、いいけど」
「よし、決まり」
満足そうに前を向く小林さん。
その横顔を見ながら——
「へぇ」
すぐ後ろで、島崎さんが小さく笑った。
「もう動くんだ」
「……うるさい」
「楽しそうでなにより」
からかう声。
でも、その奥にあるものは——さっきより少しだけ、見えない。
「……」
放課後。
たぶん、何かが変わる。
そんな予感だけが、やけに鮮明だった。
——いや。
違う。
変わるんじゃない。
もう、動き出してる。
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