12
放課後。屋上
夕日に染まる屋上には、俺と末永さんだけがいた。
風が吹き抜けるたび、フェンスがかすかに音を立てる。
緊張で喉が渇く。
手のひらには嫌な汗が滲んでいた。
本当なら。
こんな形で伝えたくなんかなかった。
もっとちゃんとした場所で。
もっとちゃんとしたタイミングで。
俺自身の意思で。
だけど、もう後戻りはできない。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「好きです! 付き合ってください」
言ってしまった。
ずっと胸の奥にしまい込んでいた想い。
それを、最悪の形で伝えてしまった。
末永さんは大きく目を見開く。
「えっ……」
驚くのも無理はない。
昼休みまで普通に話していた相手から、放課後に突然呼び出されて告白されたのだから。
屋上に静寂が流れる。
俺には、その数秒が何分にも感じられた。
やがて末永さんは、小さく息を吐く。
そして、優しく俺を見つめた。
「……ありがとう」
その一言だけで胸が締め付けられる。
「白金君の気持ち、すごく嬉しい」
嬉しい。
その言葉に、一瞬だけ希望を抱いてしまう。
だけど。
「でも……ごめん」
その一言で、淡い期待は静かに崩れ落ちた。
末永さんは申し訳なさそうに視線を伏せる。
「急だったから、すごくびっくりしちゃって……」
「私、こういうこと、まだちゃんと考えたことがなくて……」
少し困ったように笑う。
「だから、今は返事ができないの」
「ごめんね」
そう言って、ゆっくり頭を下げた。
……そうだよな。
俺なんかと付き合いたいなんて思うはずがない。
最初から分かっていた。
分かっていたのに。
胸の奥が、苦しい。
「そ、そうだよね」
必死に笑顔を作る。
「急に呼び出して、ごめん」
「ううん」
末永さんはすぐに首を横へ振った。
「謝らないで」
「ちゃんと気持ちを伝えてくれて、私は嬉しかったよ」
その優しさが、今は痛かった。
「それに……」
「えっ?」
「これからも今まで通り、普通に話してくれると嬉しいな」
柔らかく微笑む末永さん。
「白金君と話してると、すごく楽しいから」
その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。
だけど。
……違う。
きっと気を遣ってくれているだけだ。
末永さんは誰にでも優しい。
だから俺にも、こんな言葉を掛けてくれているだけなんだ。
期待なんてしちゃいけない。
「ありがとう」
それだけ言うのが精一杯だった。
俺は末永さんに背を向け、屋上を後にした。
振り返る勇気はなかった。
――靴箱――
「おつかれ~」
聞きたくもない声が耳に届く。
顔を上げると、靴箱の前には島崎さんたちが待っていた。
三人とも満足そうな笑みを浮かべている。
「これで満足……?」
力なく尋ねる。
「うん。最高」
島崎さんはニヤリと笑いながらスマホを差し出してきた。
画面には、さっきの屋上での光景が映っていた。
『好きです! 付き合ってください』
俺が告白し、
末永さんに断られ、
落ち込んで屋上を去るところまで。
全部。
動画に撮られていた。
「いや~、いい動画撮れたわ」
島崎さんは満足そうに笑う。
「最近さぁ、キモオタがちょっと生意気になってきたじゃん?」
「だから、保険を作っておこうと思って」
保険。
その一言が胸に刺さる。
「これから逆らったら、この動画がどうなるか……分かるよね?」
「学校中に拡散されちゃうかもね~」
原田さんが楽しそうに笑う。
「これでキモオタ君も、私たちの本当のしもべだね」
小林さんまで笑っている。
俺は何も言い返せなかった。
怖かった。
情けなかった。
好きな人に告白し。
振られ。
その姿を動画に撮られ。
弱みまで握られる。
全部、島崎さんたちの思い通りだった。
俺は拳を強く握り締める。
悔しい。
だけど、何もできない。
そんな自分が、一番嫌だった。
⸻
――帰り道――
夕焼けに染まる帰り道。
住宅街には、俺の足音だけが響いていた。
さっきまで必死に我慢していたものが、もう限界だった。
「……っ」
視界が滲む。
一滴。
また一滴。
涙がアスファルトへ落ちていく。
好きな人に振られた。
動画まで撮られた。
俺は、何一つ守れなかった。
「……情けないな」
誰にも聞こえないよう、小さく呟く。
流れ続ける涙は、しばらく止まりそうになかった。
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