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第六十二話

「ここも久しぶりだな」

 かつては蠅が無数に飛び交う荒れた渓谷だったが、今では雑草の生い茂り蠅が飛び交う渓谷となっている。

「あの、余所にしません? これじゃあ俺立って動けませんよ」

 義足のせいで、身体が浮いているワイドにとって、蝿の存在は縛りプレイを強要されるようなものだ。

「そうだな、場所を変えるか」


「良し、下流からなら蠅も見当たらないな」

 現在俺らは、下流から渓谷の谷底へ向かっている。

「以前は干上がっていたのに、今ではすっかり渓流になってますね」

「あ、あの岩から飛び込んだら気持ちいだろうなぁ」

「キャンプも良いなぁ」

 ラークを皮切りに、ワイドとショーも若者らしい青春トークに花を咲かす。

「テツさんは、キャンプとか行かないんですか?」

 除け者は良くないと思ったのか、気を利かせて話を振って来るショー。

「学生時代を除くと、十代前半に行ったっきりだな」

 確か親父が気合を入れて、凄い豪華なバーベキューをしてくれたんだよな。

 親父が居て、母さんが居て、雪乃に亜希子、おじさんとおばさんも居たよな…。

 …あれ? 確か9人居たよな…? あとの2人は誰だっけか、亜希の両親…じゃないよな。急用で2人が来れなくなって、亜希が大泣きしたんだもんな。

 ダメだ、思い出せん。

「テツさーん?」

「ああ、悪い。自分の若かりし頃に思いを馳せてたわ」

 これの何が琴線に触れたのか解らんが。

「「「社会人って大変なんですね…」」」

 ってなリアクションを取られてしまった。

「まあな、お前らも今の内にコスパの良いストレス解消法を複数見つけておく方が良いぞ」

 特に誤解を解く必要性も無いので、先達としてアドバイスをしておいた。


 久々の渓谷で、ジャッカロープやスティンガーを狩りつつ断壁を調べる。

「ん、あの亀裂は怪しいな」 

 と思って調べても不発。

 まあ、激レアな魔物だから仕方ないとは言え、これじゃモチベが上がらんな。

 それでもじっくりと怪しい箇所を虱潰しに探し、漸く一体目のミミックを発見。しかし…。

「速ぇーー!!」

 コチラに気付くなり、急加速で擬態を駆使して遁走するミミックに、成す術がなく取り逃がしてしまう。

 流石、ローレン氏ですら滅多に狩れないという魔物だ。

「だが、逃げられただけで消滅したわけじゃない。あの個体を追い込みつつ、他の個体も探し出そう」

「「「おー!!」」」

 気合を入れ、渓谷を遡上。

 以前より減ったがアンデッドも出現し、こちらの心身を削って来る。

 それでも、執念でミミックを追い続け、どうにかミミックの逃走を食い止め討伐に成功。

 結果、核のドロップは無し。

「「「「やってられっか!!」」」」

 こんなの相当欲しい奴しか務まらんわ。


 モチベダダ下がりのミミック狩りから手を引き、最近ホットなロケーションとして注目の、水素コンビナートへ向かう。

 ここで何をするのかと言うと、地下に蔓延る凶悪なスライムを駆除したり、ドロップ品を納品して、報酬を貰う事が目的となる。

 入り口で手続きを済ませ、地下へ入場。

 敷地に対し、あからさまに広大な地下空間。まあゲームだからね。

 そして、今回随伴NPCとして、ユニーク個体のカスタードスライムが同行。

 なんでも、スライムはスライムを捕食する事で強くなるのだとか。

 現にカスタードスライム、以後プリンスライムもバージョンアップしていて、天辺にホイップクリームが添えられている。

 曰く、あと少しでチェリーも添えられ、ア・ラ・モードスライムに成れるのだとか。

 ツッコミ所だらけだが、気にしていても仕方がないので、気にしない事にする。

 さて、4人と1匹、スライム駆除を頑張りますか。


「中々手強い」

 個々もそれなりに強い上に、数も多く至る所に潜んでいるために奇襲性も高く、非常に面倒な敵だ。

 特性も厄介で、水素エネルギーを使い、小石を高速射出したり、ジェット噴射で高速移動したりと攻防共に高水準。

 こんなのが無数に居て、ちょっとした隙間から出入りして襲ってくるのだから堪ったものじゃない。

「私、素早い相手は不得意だから、足止めよろしく」

 と言う、プリンスライムの要望に応えるべく、俺は足止めに専念し、ラーク達は間引きを担当。

 タイマンなら、近接タイプのプリンの方が圧倒的に強く、接触さえできればそのまま捕食まで持って行ける。

 ちなみに、捕食シーンは非常にシンプルで、接触部から浸蝕吸収するという感じだ。

 プリンが喰われたらどうなるんだ? っていう疑問も湧いたが、このゲームはNPCが死ぬ事は基本ないので、しれっと再登場するだけだろう。


「しかし、スライムのNPCって結構居るんだな」

 俺の呟きにラークが反応。

「ですね。中華まん柄とか初めて見ましたよ」

 ワイドもショーもそれぞれ感想を言う。

「個人的に富士山柄が好き」

「俺は海鮮丼柄がツボにハマりましたね」

 俺ら以外のグループにもスライムNPCが随伴しているんだが、その奇抜な柄を見るのが中々に楽しい。

 水素コンビナートが人気スポットの理由を垣間見た気分だ。勿論実入りも良いからこそだけどね。

 そんな感じで、ネタ柄の味方スライムを眺めつつ、プリンの補食を手伝っていると、宣言通りに天辺にチェリーが生え、ア・ラ・モードスライムに進化を遂げた。

 まあ、ゲームバランスとの兼ね合いもあって、この瞬間に急激に強くなるわけでも無く、これと言ってイベントも無く淡々とスライム狩りは継続された。


「ありがとう、またいつか」

 十分なスライムを狩り、地上に戻りプリンと別れ、報酬を受け取りPAに帰還。

 一旦ログアウトし、休憩を済ませてから雪乃達とログイン。

 ユキユナアコは2回目の繁栄に向かい、俺はマッドと談笑。

「いや~…マジでケツの穴が痛い…」

「調子に乗って激辛に手を出すから。ちなみにそれ、酷いと二週間位はヒリヒリするから覚悟しとけよ」

「ヒヒヒ…マジか」

 という風に、婦女子にはあまり聞かせたくない話で盛り上がっていると。

「「「お待たせ」」」

 ユキ達が戻ってきたので、対インベーダー戦に参加する。

 なおマッドは、しんどいと言ってログアウトしていった。


 いきなり実戦で検証する為、さっさと手近なインベーダーに戦いを吹っ掛ける。

「じゃあ、サクッと実践してみるわ。ダークニンバス!!」

 今回ユキが選んだタレントは〔狂乱の雨雲〕、バロメータは安定の〔楽〕だ。


〔狂乱の雨雲〕超威力のダークニンバスを使用可能。


「ふむふむ、超威力を謳うだけあって中々の威力ね、小物相手なら過剰な火力ね。さて、バロメータを発動すると…」

 ユキがバロメータを発動すると、インベーダーのHPが高速で溶け、LPもモリモリ減っていく。

「単純にダメージが倍って感じね。うん、CT持続共に30秒みたいだし十分戦えるわ」

 複数の設置は無理だが、僅かな切れ間しか挟まないのは強いな。

「アコはどうだ?」

「かなり強いわこのタレント」

 アコが選んだのは〔螺旋矢〕と言う、矢の当たり判定を広げるタレントだ。バロメータは〔楽〕だ。


〔螺旋矢〕矢の当たり判定が6400倍になる。


「バロメータ中だと更に上下左右に4倍広くなるわ」

「そりゃエグイな。でも流石に正面への判定は伸びなかったか」

「そうね、残念だけど流石にね。でもそれは弾速を上げたり矢を換えれば似たような事は出来るから、その内工夫するのもアリかもね」

 そう言いつつ、次々と矢を射掛けるアコ。

 大体素で上下左右にマンホール程の広さの判定を持つ様で、判定ギリギリで矢が刺さった場合、何も無い空間に矢が浮いているシュールな絵面が完成。なんか豚が射られた時を思い出すな。

「さて、聞くまでも無いけど、ユナはどうだ?」

「見ての通りよ」

「確かに見ての通りだよな」

 ユナは〔巨大なリンゴ〕を重複させたので、引き寄せが毎秒20㎝に強化。

 以前の毎秒10㎝でも目に見えて引き寄せてたが、更に磨きが掛った。


 3人の検証が済み、小惑星攻略へと本格参戦。

「ダクトから湧くドローンが凶悪だな」

「分岐と相まって簡単に孤立しそう」

「どうするの?」

「挟撃覚悟で進むか、割り切ってダクト湧きを抑えるか」

 軽く意見をすり合わせ、リスキルを選択。

 無限湧きなのか有限なのか、今後の事を考えれば調べるのは早い方が良いと思ったからだ。

 尤も、有限無限はその時々で変わる可能性が有るので、今からの検証に意味が有るのかは不明だ。

 さて、少しでも有利に戦いたいので、位置取りを真剣に考える。

「前衛は俺がやるから正面は俺、ユキは俺の後ろ、アコはダクトと距離を取りつつ口が見える位置、そしてユナはダクトの左側で伏せていてくれ」

 ユナの位置の意図は、引き寄せに依って、ドローンがダクト内壁で擦れるようにし、少しでも移動速度を抑える為である。

 ドローンは平たいお掃除ロボットのような形状で、壁や天井も自在に動ける上に、熱線を発射し自爆まで備えた、相手にしていて最高に温まる仕様だ。

 幸い、一番打たれ弱いアコでも、繁栄前にLPを伸ばしていたお陰で、ある程度被弾できるので、無理さえしなければ危ない事にはならない筈だ。


「これ無限湧きなのか、プレイヤーの参入がトリガーで増援が来てるのか判断付かないな」

 奥の方は相当激戦なのか、先程から見覚えのあるプレイヤーが何度も通り過ぎていく。

 そして、その少し後にダクトからドローンが大量湧きするので、判断が付かないのだ。

 それから、更に二十分程戦い、仮説を立てる。

「無限湧き+プレイヤー侵入って感じか」

 三十秒毎のポップと、侵入毎のポップ。要は無限湧きだ。

「せめてドロップ品が美味しければな~」

「旨味が無いわけじゃないけど、ちょっと弱いわよね」

「量も少ないし」

「うちのメンバーじゃ畑違いで加工も意味が薄いわね」

 鉄くず、ガラス片、欠けたチップ等々、単価は悪くないけどドロップ率が渋くてうま味が少ない。

 更に、偶に混ざる色違いが矢鱈強く、消耗品や作物の被害で利益も高望み出来なくなってきた上に、後方のリスキル班が消えた様で、挟撃も受けるようになったので後退。

 せめて少しでも援軍を送ろうと、一番手前のダクトで少し戦っていると。

「ん? ちょっとテツ君、これ」

 ユキが何やら見せて来る。

「[トリリオンチップ]初めて聞くな」

「多分レア個体のドロップだと思うんだけど…出口で詰まってる所を一網打尽にしたから、どの色の個体が落としたかは分からないんだけど」

「そうか、まあこういうのは有識者のベルかサーモンに聞けば良いな」

 丁度良いタイミングだし、そろそろ引き上げるとするか。


 PAに戻ると、誂え向きにサーモンが居たので、品評してもらう。

「ちょ!? これどうしたんだ!?」

「ユキがインベーダーの小惑星でドロップした」

「マジか、これ今まではエルフィンの軍事基地のゲートキーパーから超低確率でしかドロップしなかったのに…」

「そんなに貴重なのか」

「まずゲートキーパーのクリーンコロナタスが強過ぎて少数での討伐が困難だし、倒せても中々落とさないし、そもそもロケーションが高難易度で周回もキツイというマゾ仕様だ」

「凄く貴重なのは判ったけど、これで何が出来るんだ?」

「平たく言えば精密機器だな。現状の到達点で言えば、ジャガーノートの製造に必須な素材って言われてるな」

「…そもそもジャガーノートってプレイヤーメイドが存在するのか?」

「ああ、現状3両の存在が確認されてるな、コストは驚異の50兆、しかも最低ラインでだ」

 あまりのインフレ規模に絶句。

「…いや…まあ、車両内に転移出来るんだもんな、そりゃその位コスト食うわな」

「ちなみに、盛りまくったドレッドノートのコストは600兆超えるらしいぞ、しかも半分は主砲が占めるんだとか」

「うわぁ…上澄み層ヤバ過ぎるわ…」

「ただ、現状ビルドのリセットで運用出来てないらしいけどな」

「ああ…軽減系のスキルや因子、ギフトや刻印に肩書が消えたからか」

「まあ、近いうちに以前よりも強力になって運用されんだろう。なんせ繁栄3回目のLv100で、ほぼ淘汰10回目と互角って話だからな」

「そんだけLv補正が大きいって事か」

 しかし、まさかそんなに貴重な品だったとはな。


「それでどうするユキ?」

「そうねえ、売るのも良いけど、どうせなら自分たちの為に使いたいわね」

 うーん、そう言っても、うちじゃ機械系クラフターは居ないからなぁ。

「なら、タツキチの爺さんに相談してみれば良い。なんせアサルトディスクの制作者だからな」

 このサーモンの助言に従い、タツキチの元を訪ねる。

「それでオラんとこへきたと」

 話を聞き、「フム」と思考するタツキチ。

「そうだな、これだけ高性能のチップが有れば、アサルトディスクを大幅に強化する事が可能だな」

「具体的には?」

「処理速度の向上で、運動性が良くなるな。更に別のアプローチとしては、より高度なAIをに換装し、あらゆる動作の効率化を図る事も出来る」

 おお、どちらも魅力的なプランだ。

「解ってると思うが、チップが1つな以上、強化できる蓋は1機のみ、単独でスイスイ避けて当たれる戦闘特化。他の蓋やペットの統率に長けた蓋。どちらが良いかだな」

 その後も内容を詰め、AI強化の方向で改良する事にした。

 現状、ペットを率いらせて遠征させた場合の収益が、ギリ黒字程度の状況なので、テコ入れをするのなら、個のエース登場よりかは全体の質が上がった方が良いと判断した。


 翌夜。

 改良された蓋を受け取り、試運転をする。

「さて、超希少素材と大金を叩いたんだ、それなりの進歩を見せてくれよ」

 改良された蓋、以後指揮蓋をリーダーに、蓋13機とペット200匹を編成。

 行き先は北の渓谷とその先の森に設定。

 砂金と薬草を目当てに、襲って来る動物などを狩る為だ。

 付き添いで、ベルとサーモンを伴い観察を開始した。

 道中、ベルのビルドの話に。

「僕は〔モグリ神官〕と〔楽〕を重複させました。流石に5%回復は物足りないですからね」

「重複で回復量は倍に?」

「ええ、バローメータで更に倍なので、最大20%回復ですね」

「それでCT10秒は強いな」

 話に一区切り着いたタイミングで、渓谷に到着。

 見守っていると、早速変化に気付く。

「不必要に戦闘を仕掛けないで、距離が有るうちは採取を優先するようになってるのか」

 これまでは、敵が見える範囲に居れば攻撃を仕掛けていたが、今は向こうが仕掛けてこない限り、採取を優先している。

「良いなこれ、無駄に蓋が損耗しないから、修理費が抑えられるな」

 それでいて、ペットの位置取りも良く、蓋を守るように周囲を警戒している。

 そのまま観察を続けるが、やはり不必要な戦闘は避け、人の少ない場所を巡って砂金などの資源を集めている。

 渓谷をある程度漁ると、今度は更に北上して雪深い森に入る。

 ここでも積極的に仕掛ける事はせず、採取を優先して警戒を怠らない姿勢を一貫。

 ちょこちょこと、バウンティポイントを稼ごうとする悪党の襲撃もあったが、俺らが手を出さずとも、指揮蓋の巧みな指揮のお陰で、蓋2機とペット43匹の犠牲で乗り越える事が出来た。

 その後、PAまで帰還し、資源と賞金合わせて3000万程の黒字となった。

「素晴らしい戦果だな」

「ですね、自動で1回辺りこの黒字は凄いです」

「流石超激レア素材を使っただけはあったな」

 その後も、遠征に付いて回り観察したが、採取と生還を重視した指揮のお陰で、四半日程度でも億を超える利益を叩き出す事に成功した。


「なんかこのパターン既視感半端無いな…」

 折角、遠征の効率化を計れたのに、一夜明けるとPA内で煙を噴く蓋に既視感がビンビンだ。

「例によって、指揮蓋のバウンティポイントが非常に高い事が露見して、積極的に狩られてるみたいだな」

 インしていたサーモンの説明を聞き、またかという思いが沸き上がる。

「肝心な収益は…ギリ黒字か」

 タツキチに蓋を遠隔修理して貰い、対策を練る。

「まあ、薄々この展開は予想できてたから、問題ない」

「と言うと?」

「俺のレインボーマンバとツチノコを付けるのさ」

「態々自分がコスト負担してるペットを遠征に回すのか」

「いざという時の最強のデコイと火力を置いてくのは惜しいが、遠征の利益率を上げた方が絶対に良いからな」

 自信満々に語る俺に、サーモンがボソッと一言。

「レインボーマンバのバウンティポイント…」

 結果から言えば、サーモンの予想通り、レインボーマンバの膨大なバウンティポイントを目当てに、更に過激化した悪党に狙われる羽目に。

 しかし、レインボーマンバの驚異的な性能と、理不尽の権化のツチノコの唾つけのお陰で、賞金ががっぽがっぽ入り、大幅な黒字化に成功。

 一部悪党が発狂してるみたいだが、そんな事は俺の知った事ではない。


 今まで以上に蓋が煙を噴いてるのが日常になった頃。

 G戦隊からのお誘いで、対インベーダー戦に参加。

 他にもサチとタロウも参加。

 そうそう、サチもタロウも2つ目のタレントを取得してるので、触れておく。


〔漫画的食レポ〕飲食すると自然災害が発生。


 サチは〔小人化〕を重複させ、タロウが〔漫画的食レポ〕を取得している。

 自然災害って何ぞや? って感じだが早い話、味〇様の背景が噴火したりするアレだ。

 ブーストすると災害のランクが上がり、酷いと隕石が降ってきたり、氷河期が訪れたりと、超局所的だがその破壊力は凄まじいものがある。

 ただ、如何せんランダム性が強く、熱に強い敵との戦闘中に、日照りが発生したりとスベる事もしばしば。

 それでも、〔芋煮会委員〕で大量に手に入る芋煮を火力に変換できるというのは、ユニークで強力だ。


「それではよろしくお願いしますね」

 戦場に付き、レイナさん達G戦隊がカサカサと敵に向かって行く。

 相変わらずな絵面だけど、見慣れた上に最近では珍しくもないビルドなので、周囲のプレイヤーとの連携にもそつがない。

「私も前に出るわね」

〔小人化〕の重複で、縦横高さが3/5、ブースト時なら1/2にまで縮むサチ。

 装備も更新され、盾はラウンドシールド、ショートスピアはエストックになり、リーチは縮んだがより被弾面積が減り、小回りが利く様になった。

 流石にこのビルドは珍しいのか、時折ギョッとした感じにガン見するプレイヤーも散見された。

 そんなサチもG戦隊に負けじと前に出て、己の強みを押し付けて戦っている。

「うーん、流石に敵が強いから、芋煮の収集率が悪いな~」

 食い物飲み物のストックが十分に貯まってからが勝負なタロウがボヤく。

「いや、これまでの持越し品位持って来てるだろ?」

「勿論在庫はあるけど、ある程度は現地で調達してからじゃないと、消耗に追い付かんねん」

「ああ、芋煮鍋の上で止めを刺さなきゃダメだっけな」

 初っ端から運ゲーを押し付けて、よしんば強力な災害を引けても、鍋上で倒せなければ弾の消費になるからな。

 2人の状況を見つつ、俺は俺で鍬を振るう手を止めない。というか止めると攻め込まれてサチたちの退路が無くなってしまう。

 繁栄前みたいなゴリ押しが利かない分、しっかりとマージンはとっておく。

 それぞれが役割を全うし、着実に戦果を挙げていった。


「不味いですね、前線が大分押されてるみたいで、こちらへ向かって来る敵が増えてます」

 G戦隊がサチと一緒に畑まで下がってきて、戦況の悪化を伝えて来る。

 下がって来たって事は、既に手に負えなくなってるわけだし、素直に撤収を選択。

 畑を敷きながら少しずつ下がっていると、前方から敗走したPCとNPCが流れ込んで来る。

 退却を補助するのは構わないが、このままだと敵を押し付けられそうなので、開墾を止め撤退。

 このまま敗北で終わるかと思われたが、今度は味方の増援が後方から駆け付け、瞬く間に激戦へと発展。

「ここで調子に乗って突っ込むと、痛い目を見るパターンだな」

「そうですね…って言ってる傍からアソコ」

 腹這い状態のレイナさんが示す先を見ると、味方が大勢居るにもかかわらず孤立してるプレイヤーグループが。

「そりゃ、全員と意思の疎通が出来てるわけじゃないんだから、一歩間違えばああなるわな」

 そんなミスった連中を反面教師に、前半同様慎重に堅実に戦い続ける事にした。


 あれから一進一退の攻防が続き、インベーダー側の質が時間と共に向上した事で、今の俺らじゃ付け入る隙が無くなったので、離脱。

 やはり、最低でも繁栄前の強さを取り戻してからじゃないと、攻略前線では厳しい。

 報酬を受け取り、G戦隊と別れてから、金策を開始。

 引き続きサチとタロウとパーティーを組み、更にマッドとカメキチさんを加え出撃。

 ついでにマッドの2つ目のタレントも紹介。


〔赤い線と青い線〕一分後に50%で大爆発する破壊可能な超強力な爆弾を設置。CT60sec


 見た目はまんま、よくドラマとかで見るコテコテの爆弾だ。

 火力は神掛かってるんだけど、起爆まで漕ぎつける事は稀だ。

 どうにか敵の猛攻から守っても、50%の壁を越える必要があるし、いざ起爆の可能性が見えて来ても、敵が離れれば意味がないという、中々に悲しいタレントではある。

 ただ、威力はマジで神だから、爆発対策をしてない相手なら、破壊か逃走の二択を迫れるので、戦術を制限する意味では有効。

 ちなみにバロメータは〔楽〕だ。…もうこれベッタラ以外で触れる意味がないかもな。


「漸く目標額が貯まったな」

 コツコツ金を稼ぎ、やっとの事で繁栄3日目に突入できる資金の確保が出来た。

 早速繁栄3回目に入り、タレントを選択。

「今回は新規が1つだけか」


〔農神の怒り〕畑や作物に柵などが破壊されると、撃ち返し弾を放ち、破壊されたアニメーションが終わった際にも撃ち返し弾を放つ。


 時間差撃ち返しまで付いた、ファーマーにとって心強い効果のタレントだ。

「欲しいッ!! けど他にも欲しいのが有るし悩ましいな」

 原点回帰を目指す為に〔蛇使役〕を取るも良し、集団戦時の守りを固める為に〔未来農業〕〔バンカー畑〕〔豪農〕〔鳥獣対策〕〔農神の怒り〕の何れかを取るのも良し、他にも欲しいのがいっぱい、選択肢は多岐に渡る。

 悩んだ結果、今回は〔豪農〕を選択。

 これ1つで農夫を4体も使役出来るので、守りはこれまでとは比較にならない程向上する筈だ。

 ただ、STAの回復が心許ない現状、使い魔を増やす事はデメリットにもなるので、立ち回りに若干の改良を加える必要もありそうだ。

 3回目の繁栄を完了し、有り金を叩いてLvを10まで上げPAに戻った。


「お、2人ともこんにちは」

「「こんにちは」」

 ログインしてきたばっかの、ベッタラとおりょうさんと挨拶を交わす。

 ついさっき3回目の繁栄を終えたとこで、タレントの検証に行くと言うと、2人も3回目の繁栄をすると言うので、少し待つことに。

 その後、3人で検証の為に地底湖に向かう。と言っても道中で粗方知りたい事は知れたので、テコ入れ後のアッシー相手にどこまで戦えるかを試すのが狙いだ。

 道中試した結果、〔豪農〕はやはり強力で、繁栄3回目Lv10の補正も相まって、畑が凄い勢いで広がり、淘汰10回目の全力時よりも開墾効率が高い。

 ただ、他のプレイヤーへの配慮なのか、使役出来る農夫の行動範囲が極めて狭く、ただ突っ立ってるだけだと直ぐに周囲を耕し尽くしてしまう。

 コンバットアーツやアクティブスキルと違って、常時展開の使い魔だと、他者が開墾したい場所まで無差別に開墾してしまう為の措置だと思う。

 まあ、行動範囲が狭いのは、激戦時には密度の濃い方が堅いので、メリットとも言える。

 うん、これで開墾に関しては過去を超える事が出来たな。

 んでベッタラだが、未紹介の2つ目のタレントにもついでに触れていく。

 ベッタラ仲間内では珍しく、バロメータを〔喜〕で統一。

 当然バロメータゲージの回収率も3倍なので、戦闘時にはバロメータの重ね掛けが当たり前になり、凄まじい殲滅力を発揮。

 そんなベッタラの2つ目のタレントは〔真空の刃〕3つ目は〔理性の剣〕となっている。


〔理性の剣〕刀剣類での攻撃が、カウンター技の対象外になる。

〔真空の刃〕刀剣類のリーチが伸び、ダメージ反射を無効化。


 両方かなり強い効果で、ブーストすると精神系状態異常を無効化し、リーチを伸ばせるという、これまた強力な効果を得る。

 近接は、ただでさえ被弾のリスクが高く神経を使うから、こういうリスクを減らす能力は可能な限り手に入れたい。

 お次はおりょうさんだが、2つ目に〔防護服〕3つ目に〔マジックコーティング〕を選択。


〔防護服〕アパレルの防御力分、毒と酸のダメージを軽減する。

〔マジックコーティング〕魔法ダメージを半減する。


 大分マシになったとはいえ、未だに対策し難い毒と酸を、アパレルの防御力分軽減という、一部のビルドを死に追いやる凶悪なタレントと、シンプルかつ縛りの無い強力な魔法ダメメタのタレント。

 一見打たれ弱そうなおりょうさんだが、彼女は淘汰時に基本のパラメータ三種以外を消去してるので、LPとSTAとCOSTが非常に高く、アパレルも厳選した素材から作られ半端な防具よりも堅い物を装備しているので、この2つのタレントの効果を十全に活かせるのだ。

 見つかり難く、被弾への備えも怠らないおりょうさんは、サチとは違う方向性で、今後の我がコーポの奇襲要員を担える逸材になりつつあった。


 さあ、やって参りました地底湖。

 取り敢えずアッシーの巣を目指そうと思ったが、前座エリアの沢蟹やテッポウウオにフジツボが既に相当強い。

 足元の沢蟹につま先を突かれるだけで、DPS約30億も叩き出されるのだから恐ろしい。

 そんなもんだから、前座を突破していざアッシーの巣に足を踏み入れたところで、目に入ってきた光景にも納得。

 誰一人として湖上にすら踏み込めておらず、凶悪な照射ブレスに追い払われ二の足を踏んでいる。

「砂浜や磯エリア、洞窟エリアの難易度を考えれば当然の状況だよな」

「だな。って事でプランBでいくんだな?」

 ベッタラの言うプランBとは、これまで幾度となく懐を潤わせてくれた耕作で、この危険地帯の耕作地ランクを最大限に活かすものだ。

「といって豚が居ないから位置取りが難しいな…」

 豚の判定の広さが有れば、雑に壁を背にすればOKだったけど、今は蛇だけだからな。

 流石に〔豪農〕込みでも、複数のブレスに晒されようもんなら、作付から収穫なんて無理だ。

 どこに腰を据えるか見極めなきゃな。


「ここが妥協点かな」

「そうだな、これ以上前は感知してくるアッシーが2体以上になるから、ここしか無いな」

「他の方々と距離もありますし、良いと思います」

 ベッタラ、おりょうさんもここしか無いだろうとの事なので、ここでファーミングをする事に。

 俺らが陣取った場所は、地下空間や水辺でも稀に存在する、耕した土地が畑になる区画を有し、且つアッシーの射程範囲内で、単体からしか狙われないという絶好のポイントだ。

 早速射程内に侵入し、農夫と一緒に開墾開始。

 すぐさまブレスの照射が始まるが、こちらの耕作速度が向こうの殲滅力を上回り、徐々に陣地が構築されていく。

 少しして、アッシーのブレス照射を、田んぼ三面に絞らすことで封じ込めに成功。

 後は射程圏内でブレスが届かない畑や水田に作付して収穫しまくるだけだ。

 さて、出来るだけ稼がせていただこうか。


 ファーミングを始めてから一時間。

 途中途中で、俺らに便乗しようとする連中のせいで、フォーメーションを崩されることも有ったが、都度冷静に対処し、手持ちの高級作物の種苗を使い切る事が出来た。

 そしてお楽しみの仕分けタイム。

「おお!! [後光差すマンゴー]とか初めて見たぞ」

「こっちは[七色メロン]だとよ」

「これは[仏の大根]ですね」

 どれもこれも初めて修飾語ばかりだ。

 仕分けが終わり、自分の取り分を競売に掛け、休憩の為ログアウトした。


 夜にログインすると、出品物が全て売れ、約7億もの大金が舞い込んできた。

「繁栄実装から時間が経ったからか、また物価が上がってきたな」

 最初は皆、繁栄直前の強さを取り戻すべくLv上げの費用を捻出しようと、金の価値が高かったが、段々と過去一の強さを更新しつつある今、装備や消耗品にお金を掛けるプレイヤーが増えて来たのだろう。

 お陰で、物を売る側の俺は、より金策が効率化し、Lv上げも捗るというものだ。

 早速Lvを15に上げ、残額で作物の種苗を買い漁ってきた。

 味を占めたので、同行者にマサとシルクを伴い、貯め込んできた種苗も持参して地底湖に向かう。

「ってな感じで〔豪農〕はかなり強いタレントだったよ。2人のは?」

「俺は〔再構築〕を重複させたぜ」

「私は〔寵児〕を重複させました」


〔寵児〕STA補正が三倍になる。


「マサは随分復活効果に拘るんだな」

「継戦能力に優れるからな。ブースト込みで3分間に4回復活できるから、かなり無茶が利くように成ったぜ」

「ブレスからの畑の護衛、頼りにしてるぜ。シルクは2つ目も〔寵児〕だったよな? やっぱSTA補正が上がると強いか?」

「はいです、投網の拘束力が比較にならない程強力なるです」

「でも、現状敵を倒す手段が乏しいよな? 〔ニットでガソスタ〕はSTA補正乗らなかったろ」

 炎上ダメージは相当高いのは知ってるが、いくら拘束してても近付ける敵にも限りがあるだろうし。

「ですです、火力はマッドさんの薬品を頂いてるので、それでなんとかなっているです」

 成程、それなら問題無いか。キチンとLvも遅れずに上げれてる以上は収支も安定してるって事だしな。

「まあ、今回は道中の露払いくらいしかやる事ないだろうけど、頼むぜ」


 そしてやって来た地底湖だが、さっき見つけた畑に化ける区画は、既に他のプレイヤーに抑えられていてた。

「あー…どうするか」

 空くのを待つか、余所を当たるか思案。

「…ちょっと考えがある、フジツボの洞窟エリアに向かおう」

 現地に到着し、プランを説明。

「つまり、他のプレイヤーの邪魔にならない場所且つ、通路が日みたいな形状の場所を探せば良いんだな?」

「私は正面の敵を網で拘束すれば良いんですね?」

「ああ、シルクは言った通り拘束。マサは蛇が倒してしまうフジツボや蛸の代わりに、蛸を余所から釣ってきて、美味い事撒いて蛸が通路の反対側から俺らの方に来るように仕向けてくれ」

「ちょっと俺だけ難し過ぎないか?」

「ああ、だが今回の稼ぎの肝はマサに掛かってるんだ、頼んだぞ」

「しゃーないか」

 ってな感じで、敵を通路に溜め、耕作地ランクを維持して稼ごう作戦を開始した。


「良し、通路の長さ良し、通路内のフジツボの数も位置も良し、正解のルートから外れてる上に退路もある、ここにしよう」

「んじゃあタコを釣って来るぞ」

 それから少しの間、T字路で畑がフジツボのレーザーで炙られるのを眺めていると。

「あ、タコが来たです」

 マサが上手い事やってくれたようで、タコが分岐路先から3匹やって来た。

 少しずつシメジを作付収穫し、ランクを見る。

「キタ!! [仏のシメジ]になったぞ!!」

 これで、耕作地ランクがアッシーエリアと同等になった事になる。

 ただ残念なのが、ここには畑や水田に化ける区画が無い為、茸系しか栽培出来ない。

 まあ、茸系は単価が高いので、寧ろ効率は良いとも言えるか。

 ちょこちょこ様子を見に来るマサを労いつつ、只管ランクの維持と上昇に努め、高級菌類の増産を続ける。

「ん?」

「どうしたです?」

「いや、作物のランクが更に上がってる」

「だめなんです?」

「そういうわけじゃないんだが」

 そこへマサがやって来て。

「テツ、俺らのファーミングがバレて便乗組が急激に増えて来た。このままだとその内エリア自体のランクの上昇で手に負えなくなるぞ」

「ナイス情報だマサ。聞いたなシルク、直ぐに退却だ」

「ハイです。でもその前に…ポイです」

 去り際に一際大きな爆薬を通路に投げ込み、ダメ押しの一稼ぎをしてから退却した。


「良し、無事帰ってこれたな」

 繁栄の影響で[種苗袋]が消えてるので、高級品を持ち歩くのドキドキする。

 仕分けを行ない、競売に掛けようと思ってたら、マッドが「俺に預けてくれれば普通に売るより倍以上にしてやるぜ」と言うので、マサもシルクもマッドに一任。

 そんなマッドは〔ミリオンナイン〕といタレントを手に入れたようだ。


〔ミリオンナイン〕作成した薬品の質を大幅に向上。


 確かに、これなら任せろと言う自身も頷ける。

 事実、数時間後にはマッドの薬品が競売に掛けられ、約60億もの大金に大化け。

 お陰で、繁栄前からの種苗のストックがかなり減ってしまったが、そんなのが些細な程の稼ぎを得る事が出来た。


 60億を、俺の取り分多めで分け、一気にLvを40まで上げた。

「さて、駒菌は無くなったが、まだ種も苗も有るし、Lv40の力試しも兼ねて、もう一稼ぎに行きたいな」

 マサもシルクも、一気に15程Lvを上げ、意気揚々と腕試しに出掛けて行った。

「ほなら俺と一緒に出掛けようや」

 タロウの誘いを受け、ホーム横の森へカチコミに行く。

「最近、料理を少しだけ持って、悪党やインベーダーの傍で食べて災害テロすんのにハマっててな、ネタが割れるまでの間に随分と稼がせて貰て、今じゃ繁栄4回目に入ってるねん」

「速過ぎだろ」

「まあ、今じゃネタが割れてて、喰らってくれる奴なんて居らんねんけどな」

 そんなタロウの新たなタレントは〔芋煮会委員〕と〔活け造り〕だ。


〔活け造り〕視界内の敵が飲食しようとした場合、飲食物が暴れる。


 少々限定的な効果だが、人型のMOBや対プレイヤーで輝くであろタレントだ。

「今回は、この〔活け造り〕がどれ程威力を発揮するかを見たいねん」

 さて、所望品は必要最低限だけだ、死に戻り前提のゾンビアタックで悪党を懲らしめよう。


「クソッマタアイツラダ!!」「オマエライヤガラセガソンナニタノシイカ!?」「ヒマジンオツ」

 等々酷い言われようだが、幾らライセンスやタレントの為とは言え、ヒールプレイを進んでやる連中に言われたかないな。

 俺とタロウの行動は至ってシンプル。

 只管悪党を目指し、俺は軌跡を畑に変え、タロウはより多くの悪党を視界に治めつつ、何時でも芋煮を食えるように容器と箸をチラつかせるというものだ。…言語化すると全然シンプルじゃないな。

 タロウ単体だと、近づいて芋煮を食うまでに阻まれてたのが、俺が加わる事で、災害に巻き込める確率が上がり、唾付けに成功しつつ貢献度も稼げるようになった。

 俺自身のLvアップの恩恵もしっかりと自覚出来、自身と農夫の開墾速度が上がり、畑の強度も上昇。蛇も最終形態だったヨルムンガルドを凌駕し、悪党相手にタイマンなら良い勝負をするまでになった。

 尤も、死に戻りを前提している通り、アッサリと返り討ちに合う事も多く、俺らは悪党サイドにも旨味のある存在となっている。

 コチラは賞金、アチラはバウンティポイント、持ちつ持たれつである。


 存分に悪党たちとしゃぶりしゃぶられを楽しみ小休止。

「しかし〔活け造り〕をブーストすると、ポーションの使用にも妨害が入るのは凶悪だな」

「やね、解ってれば失敗する事は無いとはいえ、急に瓶が暴れるのは鬱陶しいやろうな」

 初見で、手の中で暴れる食べ物やポーションに吃驚して、落とす様を見た時は2人して爆笑だったわ。

 さて、今回のゾンビアタック賞金稼ぎだが、一時間で1億ちょいで、タロウの方は2億弱だった。

 当然と言えば当然だが、効率はビルドで差が付き、今の俺だと広範囲への唾つけ手段、又は瞬間的な火力に乏しい為、悪くは無いが良くもないといった具合に落ち着いた。

 タロウもタロウで、引き当てる災害が上振れれば良いけど、下振れが酷いと今回の俺と同等まで下がるというので、自身にも敵も左右される一種の博打とも言える手法だ。

 それでも、他者と絡めるのが楽しいと、また1人で出かけて行ったタロウは、ゲームを楽しんでいると思う。


 次は何処に行こうか、誰を誘おうかとPAを見渡すと、更に小さくなっているサチを発見。

「…また〔小人化〕」を選んだのか?

「あらテツ君、そうよ。なんかここまで来たらとことんまで小さく成ってやろうって思ってね」

 そんな〔小人化〕を3回も選んだサチの素の体積は1/8で、縦横高さが1/2。ブースト時にはおよそ2/5にまで縮むそうだ。

「そこまで小さいと、武器とか持つ時大変そうだな」

「まあそこはゲームだから平気よ。単に身長より獲物が長いとしっくりこないから換えてるだけよ」

 そんなやり取りの最中、カメキチさんがログインしてきた。

 挨拶を交わし、情報交換。

 カメキチさんも3度目の繁栄を済ませ、〔痛覚麻痺〕を取ったという。


〔痛覚麻痺〕ダメージを受けると1秒間無敵になる。


 これまた、凄まじい強さのタレントだ。

「特殊なビルドの通過者じゃなきゃ選出されないのが救いね」

「だな、こんなん選択肢に出たら、取らない理由がないもんな」

「お陰で、追い込まれた際の足掻きの効果が大幅に増し増した」

 逃げるにせよ回復するにせよ、ダメージを受けないのは大きい。

 ましてやカメキチさんの場合、匍匐時はスーパーアーマー状態だし、以前と違って走って逃げる事も出来るので、復活への道筋はかなり太くなってる筈だ。

 ちょいバランスが偏ってる気がするけど、このメンツで出るとしようか。


 やって来たのはアース南方の砂漠地帯。

 狙うはワームの完全体で、ちょっとやってみたい戦法があったからだ。

 大分かつての強さに近づいたとはいえ、テコ入れ後の完全体ワームを複数相手取るのは無謀なので、慎重に釣り出しを図る。

 少しずつ南下し、砂漠を畑に塗っていくと、巨大なワームが畑を突き破って飛び上がる。

 すかさず農夫と連携し、直下を畑に変え、砂に潜り込むのを阻止。

「良し、そんじゃサチ、カメキチさん」

「うー、気が進まないけど」

「ははは、多分大丈夫なんで気を楽に」

 2人が前に出て、先ずはサチがワームの門を叩く。

 直ぐにカメキチさんも強引に上がり込んで、いつもの半身浴スタイルになる。

 直後からワームが凄まじい暴れっぷりを見せ、数分でぐったりとして、程なく力尽きた。

「お疲れ様ですサチさん」

「うえー、ゲームって分かってても気持ち悪いわね」

「2人ともナイスファイト」

 作戦は至ってシンプル。俺がワームの逃げ道を塞ぎ、サチが口腔への攻撃を担当し、カメキチさんがつっかえとなりサチを守るというものだ。

 サチが小さからこそ出来た新たな大型種の攻略法と言える。

「酸が痛いからそこそこリスクが高いわよこれ」

「そこはリジェネレイトのポーションでどうとでもなるだろ」

「そうなんだけどさ…」

 と、繰り返しに消極的なサチ。

 まあ、気持ちは分かるんだけどね。


「…」

「悪かったって、機嫌直してくれよ」

 あの後、執拗な説得を試み、サチをワーム狩りへ誘い、計50体の完全体を狩る事が出来たが、サチのテンションは極限まで低下してしまった。

「分け前を3割五分…いや4割出すから許してくれよ」

「…はあ、仕方ないわね」

 流石に報酬には抗えず、機嫌を持ち直してくれた。

 俺の取り分は減ってしまったが、かなりの収穫なので、売却額が楽しみだ。

 サチが疲れたとログアウトし、カメキチさんも飯落ち。

 ユキ達も別で楽しんでるみたいだし、俺も落ちるか。


 翌日。

 おじさんに誘われ、開発現場の見学に来ている。

「どうも鈴木さん、ご無沙汰してます」

「寺門さんもお元気そうで」

 軽く会話をし、疑問に思ってた今回の措置について聞いてみる。

「ああ、一言で言えばハッキング対策ですよ。以前ゲームをクラッシュさせるような方法でハッキングを仕掛けられてたので、その対策で根本的な負荷の軽減を図ったんですよ。以前はダメージ計算やらなにやら、参照データが多すぎだったので、それらを一気に簡素化しました。お陰で現状負荷が3%軽減され、最終的には10%程軽減出来る見通しです」

「まあ、確かに以前はパラメータ因子を始めとして、かなり情報量が多かったですもんね」

「ええ、現状3%の軽減ですが、かなり処理が安定してますね。1%が消費税の1%と同じ位重いと言えば、その重大さが判ると思います」

「それは……劇的な差がでますね」

「はい。フフフ、カス共め、精々今の内に余生を楽しんでおけよ」

「…ホントご苦労様です」

 開発主任として、色々ストレス抱えてんだろうな。


「どうだい哲也君」

「勉強になります」

「…具体的には?」

「コンテンツを使った印象操作、レッテル張り、スタンスの明確化とかですね」

「いやはや、流石だよ」

「連中の得意分野ですからね、学習しますよ」

「そうだな」

 俺ですら、雪乃をあんな目に遭わせ、美雪さんを殺した連中の汚さに腸が煮えくり返る思いなのに、おじさんは表裏問わず悪辣な印象操作を喰らって来たんだ、その胸中は計り知れない。

「DIYの現在の同接は約10万、アクティブユーザーは50万を超える、サンプルとして申し分ない。もう少しだよ哲也君。あと少しで、的確かつ効率的、それでいて決して嘘を使わない煽動プログラムが完成する」

「連中を叩く為の…世論を味方につける方法の確立ですか」

「ああ、その時が来たら一気に行動を起こす。その時が来たら…()()()()()頼むよ」

「はい」


「おー、凄い優雅だな」

 そこには、リクライニングチェアで干し芋と麦茶を味わいつつ、ゲームに興じる雪乃と雪奈の姿が。

 一応、PC一式が余ってて俺も遊ぼうと思えば遊べるが、気が乗らないので2人が満足するまで煎餅でも食べながら待つ事

に。

 それから一時間程して、空腹を理由に切り上げた2人を連れ、社食で昼飯を食ってから帰宅した。


 夕食後、ログインした俺はユキたちの検証に付き添う事に。

 ユキは〔専門魔導士〕を重複、アコは〔剛弓使い〕を選択、ユナは〔無空間〕というタレントを選択。


〔剛弓使い〕矢が貫通する様になり、与ダメが二倍。

〔無空間〕半径10m以内の情報(光景や音等)を秘匿する。


 検証の為にエルフィンに跳び、渓谷で蠅に向かってアコが試射。

 予想はしていたが、直径がマンホール程の貫通弾が飛んでいくんだ、その殲滅力は素晴らしいの一言。

 何故かついてきたローレンスさんが、後ろで腕組みしながら「うん、うん」と満足げにしてるのが非常にウザかったが、確かに気持ちの良い光景ではあった。

 ユナの方も優れた効果を発揮し、俺らが一塊になると、姿が見えなくなった事で、蝿の大群がローレンスさんに殺到。MOB相手にもしっかりと効くようで安心だ。

 ただ、ある程度賢い相手やプレイヤーだと、その周囲だけ何もない不自然さでバレてしまうので、隠密で使うというより、その場に在る戦力を誤魔化す感じが良いのかもしれないな。

 ユキはこれと言って語る事も無く、単純に威力が上がっただけだった。


「で? 今回はどのような御用向きで?」

「それはもうヘイトコントロールさ」

「最早繕う気0ですね」

 まあ、固有名詞ありのNPCには中の人が居るっていう、裏事情を知ってる俺らに繕う意味も無いか。ってかやっぱローレンスさんも中身在りだったか。

「此処に居るのは全員身内なんで、意味あります?」

「本来想定する効果は無いけど、これはこれで有意義なデータが取れるそうだよ」

「さいですか、なら如何にインベーダーとそいつらに加担する悪党が酷い連中か教えてくださいな」

 という事で、ローレンスさんに連れられ、敵方の悪行三昧を観察。

 ん、まあ感情移入してて、緊急時にはインベーダーとハッカーが同期されて、インベーダーを倒せばハッカーにもダメージを与えられる事が知られれば、ユーザの扇動は出来そうではあるな。

 態々そんな迂遠な手を講じる必要性があるかはちと疑問だが、人の心理を研究してるおじさん達がイケると思うのなら、きっと有効な手なんだろうな。


「ほら見たまえ、あの連中は漸く復旧の目途が立ってきたエルフィンを滅茶苦茶にしようとしてるよ」

 氏の示す先では、大地に掘削機を突き立て、資源を掠め取っているインベーダーと悪党が数人いる。

「まあ、そういうわけでハイドーン」

 茶番成分100%の前置きに飽きたのか、さっさと畳に掛かるローレンスさん。

 ブラストウィンドの三連射で現場をお掃除。

(今頃、悪党をやってる奴ら、リスポン地点でポカーンとしてんだろうな)

 唐突な襲撃で、気付いたら死に戻りとか、意味が分からんだろうよ。

 とまあ、そんな雑な根回しイベントを終え、「じゃ」と帰っていったローレンスさん。

 最初から最後まで雑なイベントだったな。


 検証と雑なイベントを消化し、PAに帰還。

「こんばんは」

「「「「こんばんは」」」」

 パミルと挨拶を交わし、雑談。

 今しがた3つ目のタレントを取って来たというので、俺らも見学の為に同行。

 パミルの3つ目のタレントはコチラ。


〔しつこい宝石商〕敵の正面に陣取るセールスマンを使役。


 敵に使い手が居たら、ウザそうなタレントだ。

 実際の挙動も素晴らしく、相手が何であろうと正面に張り付いて、うさん臭いセールストークを浴びせ続けるという、やられたら気が狂いそうなムーブをかましてくれる。

 直接的な戦闘力は皆無だが、かなり堅く、余程の速度で振り切られない限り正面を維持し続けるので、妨害性能は極めて高い。

 絵面のシュールさという点でも申し分なく、言葉か通じない巨大ヤスデに押されながら、同じ文言を繰り返す様は滑稽だった。

 ただ、前述した通り非常に硬く、ダメージを受けても一切揺らがない為、壁としては超一流。

 セールスマンを盾に囮に、ドリルで蟲人間を秒殺しまくるパミルを見れば、このタレントがネタでも何でもないのが良く解る。

「これは良いですね、対多だとそこまで威力を発揮しないでしょうけど、対個なら相当優秀ですよ」

 パミルも満足のゆく結果となった。


 検証も終え、折角バグスターに足を運んだ事だし、久々にダンジョンに潜る事にした。

「凄い空いてるな」

「テコ入れの影響で各地に変化が出てるようですし、人が分散するのも仕方ないですね」

 かつて攻略最前線だったころの面影も無く、数人のプレイヤーとNPCが居るだけのダンジョン。

 ただ、人が居ない分、採取採掘は楽だし、エリアのランクも抑えられてるので、移動も戦闘も容易い。

 パミルを中心に片っ端から採掘していき、金策の為の資源を確保。

 このゲーム、初心初級者が有難る鉄や銅を、ビルド次第では古参も湯水の如く使うから、需要が無くならないんだよな。

 まあ、石や砂が今なお一線級の建材だから、それより上等な鉄や銅の価値が下がらないのは当然と言えば当然か。

 そいうわけで、目の前に広がる鉱石のシンボルは、大金には程遠いが、小銭を稼ぐには十分な資源となるので、兎に角目に付く限り取り尽くしていく。

 しゃしゃってくる蟲を惨殺しつつ、ダンジョンを下っていく。

 しかし、それまで快進撃を続けていたが、中層に差し掛かった頃には一切の余裕が消え去っていた。

「く、強い」

 敵のステータスに極端な倍率が掛かってるのか、異常な程強くて堅い蟲。

「でも、素材の質が一気に上がったから、出来る限り頑張ろう」

 仲間を鼓舞し、螻蛄と蜻蛉の猛攻に晒されつつも、シンボルを掘り続ける。

「テツ君、ポーションがもう残り少ないわ」

 ユキを皮切りに、ユナもアコも回復手段が尽きかけてきたので、退却を決定。

 俺とパミルのポーションを3人に分け与え、慎重に後退して浅層に退避完了。

 無事を喜びつつも、警戒を怠らずにホームに辿り着き、帰還できた。


「それじゃ私は工房に籠りますね」

 クラフトに専念すべく、パミルが離脱。

 俺らは反省会をする。

「それにしても、中層に入った途端、狂った強さだったわね」

 ユキの言葉にユナが続く。

「そうね、体感だけど数百倍は補正が違ったわね」

 更にアコが。

「そもそもの最初期の蟲と比較すると、地上や浅層の蟲ですら、数千倍は補正が掛かってると思うわ」

 まあ、最初期は俺のLPも4桁そこらだった筈だから、そう考えれば補正の弱い地域ですら、相当な強化がされてるよな。

「そう言えば、ユナ引き寄せ効果だけど、螻蛄みたいな壁の中の相手にもしっかりと効いてたな」

「そう言えばそうね、まあ、効いた後だからこそ言えるけど、効いて当然よねって感じだけど」

 普通は壁の中に入れないから、そこに壁があればそれ以上は引き寄せられないってだけだから、壁に入れるのなら、そりゃ壁の中でも引き寄せられるわな。

「あとは〔無空間〕も過信できないって分かったな」

「うん、数が少ない内は良いけど、敵がいること自体バレてると、数の力で直ぐに探し当てられるのはどうしようもないわね」

 もうちょっと頭数が居れば良かったけど、たったの5人だとバレないで敵を処理するのも、バレた後の対処も厳しかったな。

 やはりユナのタレントは、味方が多くいて初めて真価を発揮するものだな。

次回は出来れば一ヶ月以内でアップしたいなあ…

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