第六十三話
反省会っぽいものを終え、人手を募る。
手の空いていたベルとサチを招集し、フォレストへ薬草集めに行く。
ベルも3つ目のタレントを取得した様で、どんなのか話を聞く。
「僕が選んだのは〔逆転の御膳立て〕で、被弾すると完全無敵化します」
〔逆転の御膳立て〕ダメージを受ける毎に、0.1sの完全無敵が発生する。
「ほうほう、カメキチさんの〔痛覚麻痺〕と比べると、時間が圧倒的に短いけど、こっちは完全無敵なのか」
「ええ、非常に短い間ですが、殆どの干渉を防げます」
完全無敵で防げないものって言ったら使用する際の消耗品への攻撃や、食い物を腐らせるような特殊な攻撃、一部の即死ギミック(超高度からの落下等)位だな。
「自傷効果のある装備が有れば、かなり堅くなれるな」
「ええ、このタレントの為に、LPを1万上げる代わりに毎秒100ダメージを受ける指輪を用意しました」
「おお、初期に出回ってたような糞装備が日の目を浴びるとは」
「ただ、これでもやられる時は一瞬でしょうね」
そう言い、ベルが色々と例を出す。
「そもそもの無敵時間が短いので、ある程度の手数と一撃が重い攻撃を持ってる相手には効果が薄いです」
「まあ、0.9秒も隙間があるからな、運次第では…って感じか」
「他にも、ヒットストップする持続性攻撃もきついですね。0.1秒の完全無敵だけじゃ範囲内から抜けるまでに、それなりに被弾してしまいます」
「そうだなぁ…、仮にベッタラがこのタレントを持ってたら、その0.1秒で事態を好転させれるだろうけど、ベルのビルドじゃハマるか」
「ええ、あくまで後衛のヒーラーの生存率を上げる為のタレント、というのがコンセプトだと思うので、前に出なければ良い話です」
過信出来ないが、後衛のお守りとしては強力なタレントだな。
「久々に来たが、ホーム周辺は更に平和になったな」
初期は光が閉ざされ暗く、花粉胞子の嵐吹き荒れる魔境だった。
今の俺らなら、そこそこ冒険出来る筈なので、道中のシンボルを漁りつつ、トレントを求めて北上。
明るくマイナスイオン溢れる環境から、暗い緑の地獄に変貌。
お馴染みのクロスイーターを捌きつつ、トレントを探す。
「トレントが居たわ」
索敵担当のアコがトレントを捕捉し、先制の矢を射る。
貫通範囲化した矢で、大量のクロスイーターを落としつつ、トレントを削るアコ。
ベルは絶えずモグリヒールを使い、全体を支援。
ユナは俺らの姿を隠す為、中心でどっしりと構えている。お陰で集る敵の数は本来よりは大分少なくて済んでいる。
ユキはダークニンバスを中心に魔法で火力をばら撒き貢献。
サチは、小さい当たり判定を活かし、小物を着実に減らしている。
俺はランタンでデバフを撒き散らしつつ、農夫と共に畑を敷き、敵を塞き止める。
ふと、敵から見たら何も無い空間から畑が広がっていくという、意味不明な光景になるんだろうなと思い、顔がにやけてしまう。
そんな横顔をユキに見られ「どうせまたしょうもない事でも考えてたんでしょ? 真面目にやってよね」と釘を刺される。
意識を切り替え、畑や俺らを看破して群がって来る植物共をしゃぶっていった。
「この短時間で薬草130枚は美味しいな」
ランク調整した畑で栽培したわけじゃないから、品質はボチボチだが、それでも需要の高い素材だけに利益も大きい。
欲を言えば、もう少し奥に進んでトレントを狩りたいところだが、僻地に向かう程、加速度的に難易度が上がる為、安全策で留まる事に。
「うわぁ…、なんか凄い気味の悪いのが来たわよ」
アコが示す先を見ると、全身の穴という穴から蔦が飛び出し、疣と茸が生えたインベーダーが居た。
「おお…確かに悍ましいな」
フォレストに侵略しに来たであろう兵士の末路、といった感じか。
恐らく、かなりの強敵なので、慎重に機を窺った。
ゾンビインベーダーが俺の大蛇を捕捉し接近。
かなりの能力差があるようで、向こうのLPを1%削れるかどうかで消滅。
復活した蛇が接近するまで畑を攻撃していたが、そこそこ堅い筈の畑が一撃で爆散していたので、蛇が長持ちしないのも納得だ。
その間、俺らは周囲の雑魚を掃討し、ゾンビを孤立させる事に成功。
直ぐにゾンビの足元を畑に塗り替え、蛇を宛がう。
後は各々が最善を尽くし、ゾンビを削っていった。
「やっと終わったわね」
サチの腰椎への一撃が止めとなり、インベーダーゾンビの討伐が完了。
「こんなのをドロップしたわ」
サチが見せてくれたのは何らかのビーコンで、より奥地を示している。
折角だし、危険を承知で示す方向へと進む。
農夫の拵える畑のせいで、無駄に戦闘が起こるものの、無事に目的地へと到着。
「これは…インベーダーのドロップポッド的な物か?」
工事現場のコーンのような形状のハイテクマシンが、植物菌類に浸食されていた。
どうやら危険はない様なので、中を物色。すると何やら粘菌に浸食されたバーのような物を発見。
手に取ってみると[オルガセンサー]というものだと判明。
「おう、なんか手に入ったぞ」
皆で、何だろうと推理しながら物色を続けたが、結局これだけしか戦利品は見つからなかった。
PAに帰還し、例によって有識者サーモンを頼る。
現物を見せるなり、パクパクと口を開閉するサーモン。
「[オルガセンサー]…ガセネタじゃなかったのか」
「流石サーモン大先生、知ってるんだな」
「眉唾話としてだがな。現時点で解かってるのは、AIを強化出来るって事位だ」
といった感じで、サーモンでも未知の素材っぽいので、我らがタツキチ先生を頼ってみた。
「おめえ、こりゃまたとんでもないお宝を手に入れたな」
タツキチ曰く、これはAIに有機生命体のような五感を再現させられるもので、搭載したAIの挙動に著しい変化を齎すという。
フワッとした説明で、良いのか悪いのかすら判断つかない。
少々入手時のメンツと相談し、ノリで指揮蓋に搭載して貰う事にした。
作業は直ぐに終わり、指揮蓋改の観察を開始。
行き先も指揮蓋改に委任してるので、ただただ後を付いていく。
一方、指揮蓋改は迷いなく北を目指し、行政地区を抜けフィールドへと出る。
門から少し離れた位置に行き、数樹秒程停止してたかと思うと、急加速で西に向かい出す。
慌てて追いかけると、悪党相手に劣勢に追い込まれているプレイヤーを発見。
追い付いた時には既に交戦済みで、圧倒的な物量差で悪党を蹂躙した後だった。
観察を続行。崖際を進む蓋一行を追う。
見ていて気付いたのが、戦闘への参加基準の変化だ。
ノーマルの蓋は、敵が居れば突っ込んで行き交戦。指揮蓋は回避可能な戦闘は避け、被害を最小限に抑えつつ採取を優先。
そして指揮蓋改だが、戦闘が回避不可の場合は先手を取る事を優先し積極的に仕掛け、回避できる場合はスルー。既に交戦中の場合、味方が不利且つ逆転の目が無い場合に限り援護に入る、それ以外はスルー。こんな感じかな。
何と言うか、世渡り上手な感じに仕上がっている。
無駄な戦闘は避け、本当に助けてほしそうな相手だけを助けるという、非常に優秀なAIへと変貌した。
その他の変化も有り、進行ルートの選定も変わり、これまでと違い、戦闘多発地帯から一歩距離を置いて進む様になり、シンボルの発見率も上がっている。
総合的に見るとより合理的な判断を下すようになったと言える。
ただ、以前よりは能動的な戦闘が減った分、被害は減ったが戦果も減っているので、利益としては微増という程度に収まった。
PAに戻り、サーモンと情報の整理を行う。
「仮説だが、オルガセンサーはフォレストのランダムイベントで入手でき、性能はAIの合理性の向上って感じか」
「サイトに乗せるにゃ検証が要るな」
「そうだな…なんとなくだが、イベントの発生率は低そうだな」
「だろうな、そうじゃなきゃ眉唾話になんてならんからな」
「それでも立証したいんだろ?」
「ああ」
そんなわけで、暫くサーモンと協力して、オルガセンサーの入手手段の確立を図る事にした。
翌日から行動を開始し、この日はトリオの協力を得られた。
早速フォレストへ行き、昨日と同じ場所近辺を捜索。
更に〔嵩増し義足〕を重複したワイドを目掛け、大量のクロスイーターが飛来。
立ってる時に3m宙に浮き、ブースト時には6mも宙に浮いてるワイドは目立ち狙われ易いのだが、しゃがめば義足が消えて急降下できるので、回避は容易。
そんなワイドを囮に、新たに〔己を知る〕というタレントを得たラークがクロスイーターを始末。
〔己を知る〕Lv補正を強化。
シンプルながら非常に強力な効果で、飛来するクロスイーターを、刃で受け止めるだけで倒している。
ショーも新たなタレント〔Eルーツ〕を取得し、装いも原始人風に戻り、敵を殴殺している。
〔Eルーツ〕武器が石か木製、防具が皮製、装飾品が骨製のみの場合、装備の補正が5倍になる。
超キツい縛りが設けられている分、効果は強力。
様々な魔改造法が生み出されている現在、単一材料製の装備もコスト面で優秀な為、出回りも良く良品も多い。
そんな中から、条件を満たした強力な物を厳選してるからか、ショーの破壊力と防御力が非常に高い。
どうしようもない被弾も〔絶対防御〕からなるHPやARM等で耐え、致死の打撃を浴びせている。
そしてサーモンもまた〔従魔P〕というタレントを取得し、ゴブリンを指揮し大活躍している。
〔従魔P〕従魔の行動速度を1.3倍にする。
もうね、これのお陰でゴブリンがきびっきびなのよ。
常に10体程召喚されてるゴブリンが、向上した行動頻度で攻撃と囮を兼任。
サーモンの指揮の下、ラーク達の死角や隙をフォローし、トレント等の大物が出た場合は火力を集中させ迅速に処理。
俺も皆の活躍に負けまいと原木畑を広げ、敵の火力を分散。
着実に周辺の敵の数を減らしていった。
一帯の敵を殲滅し、移動しては殲滅を繰り返したが、イベントに遭遇する事は無かった。
更に数日捜索し、イベント自体は発生したが、手に入るのが[壊れたセンサー]だったり、そもそもビーコンのドロップ無しだったりと散々な結果に。
ただ[壊れたセンサー]をたくさん集めると、[オルガセンサー]を作ったり強化したり出来るそうなので、入手方法がこのイベント絡みなのは確定出来た。
更に、元の眉唾話自体はNPCが発信元だと判明し、いまだに確かな入手手段を知ってるプレイヤーは居ないであろう事も判った。
今なら独占状態で荒稼ぎできそうだけど、俺らにも有用な使い道があるので、市場に出す事は無いだろう。
調査自体は完了したが、引き続きセンサー集めを続け一週間。
最初の1個目は本当に運が良かったみたいで、漸く手に入れた2個目は、廃品からのリサイクルでの入手だった。
まるでチョコ〇ールの金の〇ンゼルと銀のエ〇ゼルみたいだ。
ちなみに、手に入れたセンサーは蓋の強化に使い、現在うちの蓋の内訳は、プレーンが12、改が1、指揮改が1となっている。
センサーだけ積んだ蓋の性能はというと、行動へのタイムタグの軽減が挙げられる。
他の蓋やペット達が、指揮蓋改の指示にワンテンポ遅れて動き出すのに対し、蓋改は同時に動き出す感じだ。
地味ながら馬鹿にならない強化なので、是非とも全機分のセンサーを確保したい。
後は[トリリオンチップ]にダンジョンコアも欲しい。
タツキチ曰く、蓋は現在シングルコアで、これをデュアルコアにする事でHPを、クアッドでARMを、オクタでSHI、セデキムでBARを搭載出来、火力も装甲も順次強化されるという。
そりゃあ、ドローン1機にダンジョンコア16個も突っ込めば強くなるのは当然だろうけど…完全にエンドコンテンツだな。
それでも、14機の蓋全てをセデキムコア…いやそれ以上に強化出来た時を妄想すると、ついつい目指したくなってしまう。
蓋の強化を目指し始めて二週間。
ダンジョンコアを3つ手に入れ指揮蓋改をクアッドコアに、蓋改が3機になった。
これだけなら良かったんだが、折角蓋側が戦闘を避けても、執拗な悪党の攻撃に晒される為、中々利益を上げれなくなってしまっている。
強化された蓋のバウンティポイントが余程美味しいのか、蓋の遠征時間が近づくと、悪党が急増する事態になっている。
その分、激戦に揉まれてペットの平均Lvは2300まで上がり、レインボーマンバはLv50、ツチノコはLv16にまで上がっている。
イタチごっこ感が否めないが、戦力自体は上がっているので納得するしか無いか。
コアを求めてアースを散策。
現在Lvが100とカンストし、繁栄前と遜色ない強さを取り戻したからこそ、広範囲を探す事が出来ている。
今は海底を歩き、ホタテやアコヤ貝の魔物や怪物を探している。
こいつ等は、極稀に真珠代わりにダンジョンコアをドロップするので、海底ダンジョンを探しがてら狙っているのだ。
「ポイっとな」
見つけたホタテの魔物に接近し、挟み込もうとしてきたとこを狙い、内部へマッド謹製の爆薬を放る。
殻が硬く、堅牢な装甲の貝類も、内部は脆くアッサリと昇天。
渋いドロップ率故、当然落とさなかったが、遭遇率は悪くないので根気よく続ける。
副産物…というか寧ろ本来は本命の貝柱等もドロップするので、ただ時間を無駄にするだけでは無いのも続けられる理由でもある。
暫らく狩りを続け、引き揚げログアウトした。
「はいよ、おみやげだ」
ベッタラがダンジョンコアを持ち帰り、コーポに寄贈してくれた。
「サンキュ、あと2つでオクタコアに漕ぎつけるな」
「楽しみだな、俺もちょくちょく遠征の様子を観察するんだが、改造した蓋がマジで強くて驚かされるぜ」
「強くて堅くて当たらない上に、HPとARMまで持ってるからな」
「HPは、本来LPを回復できないマシンやドローンに、疑似的に回復出来るLPを付与するようなもんだし、ARMは自動回復するから凶悪だよな」
「HPが付いたおかげで、ヒールを掛けてくれる人も居るみたいだな」
「それだけ聞くと良いが、実際は盾にしたいだけだからな~」
「まあ、遠征は公式が用意した正当な手段とはいえ、マクロ稼ぎみたいな感じで、何をしても良いと思ってる奴も一定数居るからな」
「ホントこのゲームって、そういう人の姑息な部分や汚いところを引き出すの上手いよな」
ベッタラの言葉に、そういうコンセプトで運営されてるゲームだからな、と心の中で呟いた。
「今日はチップを狙ってみるか」
ベッタラとベルとパミルをお供に、インベーダーの小惑星攻略に参加。
ダクトリスキルも慣れたもので、パミルの使い魔を盾に、俺の大蛇とベッタラがドローンを破壊し、ベルがヒールで維持を。
既に辺り一帯は畑にしてるので、仮に前線が崩壊したとこで、俺らが逃げる時間は余裕で稼げる。
稀に混ざる色違いをしっかりと倒しつつ、出来るだけ数を熟してドロップを祈る。
「今回はイマイチ湧きが少ねぇな」
「だな、リスポン組も少ないし、前線が相当優勢っぽいな」
ベッタラのボヤキに相槌を打ちつつ、状況を分析。
「どうします? 前線に出てみますか?」
とベルが提案。
「私は止めた方が良いと思います。今からじゃ旨味も少ないでしょうし、このパターンは今までも経験済みでしょう?」
というパミルの意見を尊重し、どんでん返しで前線が崩壊する事を前提に、その場で狩りを続ける。
程なくして、後方からPCNPCが続々とやって来て、前線へと向かっていく。
時間の経過と共に、その間隔が短くなっていき、遂には俺の拵えた畑が齧られ始めてしまう。
同時にダクトからのリポップも増え、狩りの効率自体は上がったが、予断を許さない状況に。
そんな中、僅かに前線組が戦線を押し上げたタイミングで、念願の[トリリオンチップ]をドロップ。
置き土産として、道中を畑にしながら退却した。
チップを使い、蓋改を指揮蓋改に強化。
遠征をストーキングすると、何となく統率力が増してるように感じる。
具体的にはペットの動かし方がより正確になった感じかな。
多分、指揮権を分割して、半分ずつ指揮してるからだと思う。
それで劇的に何かが良くなったかというと、そんな事は無いが、損害が減った分は良くなったと言えるか。
『イベント開催のお知らせ』という文言の告知があり、内容は以下の通り。
・イベント名はサバイバー。
・参加人数は1~で何人でもOK。
・人数に応じて難度が上昇。
・装備アイテムの持ち込み禁止。
・より長く生き残れるかを競う。
・イベント内時間は、参加メンバーのイベントエリアへの滞在人数に応じて変わり、少ない程遅くなる。
というものだった。
場所はホームの闘技場で、参加すると専用フィールドに隔離されるので、人で溢れる心配はない。
期間は二週間とかなり長く、ガチ勢もエンジョイ勢も楽しめる様に配慮したという。
面白そうだし、積極的に参加してみるか。
イベントに備え、4回目の繁栄をする。
「おお!! とんでもないタレントが追加されたな」
〔追耕〕開墾済みの畑を更に耕す事で、耐久値とランクを上げられる。
現状、一部例外を除いて開墾が守りを固める位しか意味がないので、これは非常に有難い。
戦場で高品質な作物を得られるのは、戦闘と金策共に有効だしな。
勿論、他にも欲しいタレントは有るが、今回はこれに決まりだな。
バロメータは…〔楽〕で良いか。最近は他のバロメータの人気が急激に伸びてきていて、ビルド次第じゃ〔楽〕では到底成し得ない重ね掛けが可能で、とんでもない殲滅力を発揮したりするらしい。
俺の場合、作物でセルフデバフを掛ける事を想定すれば〔哀〕も選択肢には入るが、やはり〔楽〕が無難だろう。
週末となり、イベントが開催。
全員は揃ていないが、事前にメンバー申請しているので問題ない。
更に、今回はG戦隊の皆と合同での参加となっているので、中々の大所帯となっている。
現在居るのが、俺、ユキ、ユナ、ベル、タロウ、G戦隊の10人だ。
闘技場へ赴き、専用会場へ跳んだ。
景色が切り替わり、周囲を観察。
荒野に納屋がポツンとあるだけの、侘しい光景だ。
先ずは納屋を確認、中には各種作業用の道具が入っていて、クラフトの施設も簡素ながら完備。
シャベルや鍬、つるはしに斧など、これで開拓して拠点を強くしていくらしい。
「鍬は俺が持つぞ」
というか、まともに開墾作業が出来るのが俺しか居ない。
鍬の性能は最低で、時間制限のない畑が作れる以外何もない。
「さて、開墾したところで、種も苗も無いから、G戦隊の皆さんは物資の確保を、それ以外は採取伐採採掘を頼む」
『了解!!』
各々が開拓に向けて動い出した。
「こんちー」
「お、サーモンか」
「今どんな感じよ」
「取り敢えず物資の確保と開墾から手を付けてる」
「そうか、俺も早いうちに人型系の核を手に入れなきゃな」
「サモナーが従魔無しは洒落にならんよな」
「全くだ」
そう言い、納屋からショートソードを引っ提げ出掛けて行った。
カサカサとG戦隊が帰還。
「テツさん、リンゴの種とスイカの種が手に入りましたよ」
「ありがとうございます」
その他の物資を納屋のチェストに入れ、再び出掛けていくG戦隊。
入れ替わりでユキ達が帰還し、木材などの建材を色々と持ち帰ってくれた。
「随分と様になってるわね」
ユキの言う通り、農夫のパワーも有って、既にかなりの範囲を畑に変えている。
更に、開墾済みの場所を〔追耕〕で耕し込んでるので、ランクも序盤とは思えない程上昇している。
ただ、まだまだランクを上げれる余地は有っても、鍬がしょうもない性能なのと、ランクが上がるにつれて鈍化していくので、ある程度のランクになると途端に上がらなくなってしまった。
まあ時間さえ掛ければ幾らでも上げれるので、根気よくやっていくさ。
ユキ達も、まだまだ物資が足りてないので、再度出かけて行った。
「帰ったぜ」
「お帰り。どうだった?」
「ああ、ダメだった」
「やっぱ、ゴブリンはまだ出ない感じか」
「人気従魔だけあって、序盤からは使わせてくれんらしいな」
「そりゃ困ったな」
「仕方ないから、魔犬を狩って核えお手に入れてきた」
「ないよりはマシか」
「一応、呼んでみたが、悪くはなかったな。重複させた〔従魔P〕の効果で1.6倍速く動けるし、Lv補正もあるから無双状態だ」
そういいながら、人型までの繋ぎとして使える様に、+値を上げないとと言ってまた出掛けて行った。
「そろそろ食料の生産を始めるか」
種も苗も有限なので、取り敢えず腹と喉を満たせる西瓜を作る。
一分弱待つと、西瓜のシンボルが発生し、収穫。
ゴテゴテと修飾語の付いた西瓜が大量に取れた。
そこへタロウが単騎で戻り、料理を作り始める。
納屋のキッチンは質が低い為、芋煮鍋を設置し、新たなタレントの〔南極料理人〕の力を借りて調理を開始した。
〔南国料理人〕料理を素材により良い料理を作れる。
芋煮をベースに、続々と肉じゃがやポトフ等を量産。
丁度良いタイミングで調達組が帰還し、腹と喉を満たす。
当面は凌げる食料も確保出来、まずまずのスタートとなった。
休憩から戻ると、G戦隊は離脱していて、うちのメンツもマッドとカメキチさんだけになっていた。
「お疲れ、結構激しくなってきてるな」
「インしたばっかで良く解ってないですが、畑が襲われてたので応戦中です」
ライオンをチョークスリーパーで〆たカメキチさんと、状況確認を行う。
「結構な頻度で襲撃されますね、まだまだ敵の強さは大したことないですが」
「ふむふむ。マッドの方は何してるんだ?」
「俺か? 俺は建材の加工中だ」
チェストを見ると、耐火煉瓦などの加工済みの建材が入っている。
マッドは〔ミリオンナイン〕を重複させたので、高品質な薬品から作られた建材も高品質だ。
「折角少人数でタイマーランクの上昇も遅いし、納屋を強化するか」
「そうだな」
「流石にこの襤褸のままは心許ないですしね」
と言っても何か特別な事をするわけでも無く、専用の箱に素材を突っ込み、指定時間守れば良いだけだ。
まだまだ序盤で、犬や狼、ライオンやキリンが現れるだけで、大した脅威も無く強化は完了。
襤褸納屋から、レンガの蔵に格上げされた。
「今回は楽勝だったけど、今後のランク上昇を考えると、強化のタイミングもしっかりと計った方が良さそうだな」
序盤は兎も角、中盤以降は無暗に強化するのは悪手だな。
「お待たせ」
マサが登場。
「今どんな感じよ?」
「ちょっとずつ敵が増えて来た感じだな、強さは大したことない」
「成程。物資は現地調達だったよな」
「ああ、なにもかも不足気味だ」
「なら、ちょっくら集めて来るか」
伐採用の斧を引っ提げ、遠目に見える雑木林へ向かって行った。
少ししてパミルが参加。
「では私は鉱物を集めてきますね」
状況を確認し、パミルも行動を開始。
暫くして、マサが木材を、パミルが鉱石を大量に持ち帰り、拠点の強化を開始。
苦戦も無く完了し、拠点を囲う柵が生え、蔵内部の設備が良くなった。
「では、本職ではありませんが、最低限使える武器を用意しますね」
本来は細工が本職のパミルだが、うちの中では一番鍛冶に適性があるので、一任した。
俺も俺で、只管に畑に鍬を入れランクを上げていく。
限られたリソースを最大効率で運用するには、畑のランクは出来るだけ高く上げておきたい。堅さにも影響するから、後々大いに助けられるだろう。
マサが帰還したタイミングで、パミルが斧を完成させた。
「まずまずの性能ですが、十分に使えると思います」
「ああ、現段階なら十分すぎる。ありがとうなパミル」
真新しい獲物を手に、出掛けていくマサ。
「さて、次はアコさんの弓でも作りますか」
順次、メンバーの装備を整えてくれるパミル。
「ちょっくら寝てくるわ。たっぷりの爆薬を用意しといたから、必要な時はじゃんじゃん使ってくれや」
マッドが休憩で離脱。
カメキチさんも出たまま帰ってこないし、暇だな。
夜になり、参加メンバー全員が揃う。
各々、パミル、シルク、マッド、おりょうさんの作った装備を身に纏い、役目を果たすべく奔走。
俺は最初に開墾した畑を、これ以上は時間の無駄だと思える程、ランクを上げたので、拠点の外側も開墾し始めた。
経験上、この手のウェーブ制のイベントって、中盤以降の敵の攻勢が頭おかしいレベルになるので、出来る限り高ランクの畑を敷いておきたい。
現状、俺にはこの位しか出来ないしな。
クラフト組は物資を加工し、装備や消耗品を更新量産している。
持ち込み禁止の今イベントにおいて現地調達製作は、長く拠点を維持する上で最重要と言える重要な役割だ。
同時に、クラフト組の手が止まらない様、常に素材を提供し続ける調達組もまた、重要な役割を担っている。
そんな調達組は、まだまだ敵が弱いという事で、全員が分散して事に当たり、出来るだけ広範囲から物資を持ち帰る事を重視。
そんな中、アコとサーモンは物資に加え、別の物を求めている。
サーモンは当然人型従魔用の核、もっと言えばゴブリンの核だ。
そしてアコは、このイベントにおいて役に立つか分からないが、西瓜や人参を引っ提げ、ペットの確保に心血を注いでいる。
専用のタレントも無く、成功率を上げる装備も無い中、何がアコを駆り立てるのかは不明だが、なんかやけにモチベが高かったから、好きにさせる事に。
まあ、戦闘力には期待出来なくても、防柵の外を見回らせるだけでも意味はあるだろう。
アコがペットを連れ帰還。
「軽くレベリングもしたんだけど、かなり高めに倍率が掛かってるんでしょうね、あっというまにLv10まで上がったわ」
「ああ、即戦力になるようにしてるんだろうな」
キッチリと白い兎をテイムしてきたアコ。この状況でよくもまあ色にまで拘ったものだ。
「そういうわけで、ペットも戦力に出来そうだから、餌用の作物なんかもよろしくね」
「了解」
タロウにもペットフードの作製を頼んでおくか。
イベント三日目。
まーだまだ余裕はあるが、放置しておくと拠点の被害が大きくなるような敵が現れ始めた。
蟲や魔物化した犬や狼、最下級のアンデッドもチラホラと見かけ様に。
一応、フレーバー的にはアンデッドは重度の汚染と大量の廃棄体がなきゃ出現しない筈なんだけど…、まあイベントだから何でもありなんだろう。
そして、このアンデッドの出現が騒がれていて、メンバーに『ジャックオーランタン』のライセンス持ち又は経験者が居るか、それなりのクラフターが居ないと終盤詰むのでは? と言われている。
一応、拠点の強化プランには、対アンデッド浄化装置の設置とかもあるから、全く何も出来なくなることはないだろうけど、おいそれと拠点の外をうろつけなくなるなら、実質詰みなのは間違いない。
そんな事を言い出したら、どんな敵が出て来ても、必ず相性の悪いビルドは存在するから、ハンデは全員が負ってる、気にしても仕様がない。
どのビルドにも得手不得手あるわけだし、強みを押し付けて乗り切れば良いだけの事だ。
「まさか、拠点を強化していくと、NPCも常駐するようになるとはな」
途中から、肉やら野菜やら要求されると思ったら、兵糧的な意味だったのか。
NPCには様々な種類が居て、時間帯で変わる様だ。
今の段階だと、過剰すぎる防衛力だが、先手先手を打って今後に備えたいところ。
サーモンの情報だと、ガチ勢の進行度は凄い事になっていて、俺らよりも遥かに人も多く拠点も立派だというのに、日夜問わず怪物クラスの敵が攻めて来るから、毎回大激戦だという。
装備も防衛を整っていない状態で、そんな状況になればジリ貧だから、計画的に強化しないとな。
俺も頑張って畑を敷いていこう。
イベント七日目。
常に3~4人アクティブな、俺らのイベントランクはそれなりに高くなり、そろそろ物資調達に単独で赴くのが危険になってきた。
拠点の方はかなり強化出来、側は完全に要塞と化し、兵士も多数常駐。拠点防衛に関してはまだまだ余裕がある。
畑の方もかなり広範囲に高ランク化出来ていて、多数のペットが徘徊してるので、被害よりも拡大ペースの方が上回っている。
このままランクの上昇を上回る強化具合を維持したいところだ。
イベント十日目。
イベント終盤、ランクはかなりやばいレベルに到達。
俺も見た事なかったアンデッド、デスやリッチロードが毎晩襲って来るし、昼は昼で巨大ヤスデが群れで大挙して来たり、運が悪いとマローダー10両とかいう悪夢に襲われる事も。
アンデッドは俺が居れさえすれば問題無いが、マローダーとかの規格外の強さの敵は、装備が現地調達の状況だと、マジで途方もない強さに感じる。
倒すには畑の被害を受け入れ、要塞まで引き付けてNPCや要塞の兵器を頼る必要がある。
ってかマローダー強すぎんよ~、火力も装甲も攻撃精度も射程もあるとかさ~。
しかも、こいつ等を安定して倒す為に拠点を強化しようとすると、こいつ等が攻めて来る場合があるって本末転倒でしょ。
そりゃあ、イベント序盤でランクが高くなり過ぎた連中が辛いわけだ。
ただ、拠点をある段階まで強化出来れば、一気に防衛が楽になるという。
要塞に対地ロケットランチャー、対空ミサイルランチャーが配備されてからは、マローダーに怯える心配はなくなるらしい。
…その頃には更に強い敵が出る様になる目前で、安らぎはほんの一時だけだったと言うオチも有ったけどな。
「あ~あ、大分食い散らかされたな」
マローダーをスクラップにし、畑の修繕を開始。
現地調達した、火炎放射草や放電草も、射程外からのブラスターで薙ぎ払われ、かなりの損害が出ている。
「よし、レーザー草の種を蒔くか」
ゲーム本編では、高射程高威力のレーザーを出す超高価な草の種だが、イベント内では高ランクになると稀にだが手に入るようになる。
どうせ、イベントから出ればロールバックで消えるので、その内使うつもりで温存しておいたのだ。
「…ついでにビーム草怒も撒くか」
長短射程超絶威力のビームソードを出す草、ビーム草怒。種は1粒数千万円する高級品。
流石にこいつは切り札の中の切り札だから、要塞内の畑に植える。
「こうして曲がり角に蒔けば、最高の不意打ちになるだろう」
こいつならデスだろうとマローダーだろうと余裕でぶった切れる筈だ。
まあ、本編では高嶺過ぎて使った事ないんですけどね。
イベント十二日目。
イベント最終版に入り、本編より敵が強くなり、拠点外への物資調達が困難に。
宙からはオービタルストライクが降り注ぎ、空にはガルーダ、セラフィム、重爆撃機、ドラゴンが飛び交い、地上は百足、完全体ワーム、吸血鬼真祖、コスモマンバ、浸食されたジャガーノートという、ゲーム本編でも見た事ない化け物だらけである。
衛星爆撃、空爆は拠点のシールドで耐え、アコを筆頭に対空班が迎撃。
「ダークニンバス! ファイアーオーブ! アイススピア! ああ、キリがないわ!!」
「今!! これでも落せないか!!」
ユキが魔法で、アコが弓で応戦するが、どうしても敵の強さと装備の弱さで火力不足気味に。
「ポイ!! ポイ!! ポイです!!」
「もぐもぐ…メテオ来いメテオ来いッ!! …こねー」
シルクは投網で低空を飛行する相手を、タロウはお祈りメテオで重爆撃機を狙うが不発。
「私達が爆撃を抑えないと、対地の皆が動けないわ、頑張りましょう!!」
「「「おーー!!」」」
アコの鼓舞に応え、ユキ、シルク、タロウが気合を入れ直す。
NPC、対空設備、植えた対空作物も空の敵を攻撃、低空を飛ぶセラフィムを削る。
セラフィムは、言ってしまえば武装した天使で、他のメンツに比べればマシだが、宙を自在に動く当たり判定の小さいユニットという時点で厄介で、火力の分散を強制させられ面倒だ。
そんな面倒な前衛を相手しつつ、空爆の主力を落とそうと頑張ってくれている対空班。
鍬を振るいつつ俺も頑張ろうと思いながら、対地班に視線を向けた。
「はげすぃー!!」
門を破り、要塞内へと侵入を試みる真祖の大群を防ぐマサ。
「これはキツイですね…」
マサより更に前方で、真祖の1体に縋りつきながら集中砲火を浴びるカメキチさん。
彼は新たに〔細胞活性〕を取り、割合ダメージ対策と20%のダメカットを得ている。
更にブースト時は〔コタツムリ〕でカット率20%〔細胞活性〕で40%で計60%になり、〔楽〕を4回選んだカメキチさんは、25秒毎に30秒のブーストを使えるので、重ね掛けしなければ常時60%のカット率を誇る。
それでいて、ブースト時は毒を吸収し、被ダメで2秒間の無敵があるにもかかわらず、膨大なLPがあっという間に急降下。
後方から、ベルのモグリヒール、マッドのポーションが飛んでこなければ、あっと言う間に死に戻りの憂き目に遭うだろう。
「俺も〔再構築〕4回取得で相当しぶとい自信はあるけど…流石はカメキチさん」
現在のマサの復活数は3分間に4回。カメキチさん同様〔楽〕4つで常時ブーストが可能なので、復活数は3分間に5回となっている。
それでも、自分にカメキチさんのような集中砲火を浴びながら味方の回復を待つ、という凌ぎ方は到底真似できないなと思っているのだろう。
「マサさんも凄いですよ。さあ粘りましょう」
カメキチさんはカメキチさんで、復活数に物言わすマサの耐久は違うベクトルで凄いと考えてる筈だ。
「おうよ!!」
そんな風に、互いの長所を尊重し合いながら、必死に要所を守ってくれている。
「忙しいですね…」
「ヒヒ…マジで総力戦だぜ」
「全くだ、おっとベッタラ達の方に向かわせたゴブリンがやられたか」
仲間を出来るだけ視界に入れられる位置に陣取り、只管回復で編後をするベルとマッド。
ブーストモグリヒールで、先手先手で味方を癒し、それでも足りない部分をマッドがフォロー。
サーモンはこれでもかと集めたゴブリンの核を総動員し、各所に派遣。
1.6倍速でコールブランドを得物にしたゴブリンは、当てさえすればどんな相手にもダメージを与えられるため、全体の火力の底上げに貢献している。
戦場の縁の下の力持ちのお陰で戦線は維持され、俺も鍬を振るい続けられている。
「皆! 今度はあっちに行って敵を崩すわよ!!」
サチの号令に、ユナ、おりょうさん、パミルが続く。
「えーっと、門から敵を引き剥がしつつ、孤立させるには…」
ユナがブツブツ言いながら、立ち位置を微調整。
4つ目のタレントにまたしても〔巨大なリンゴ〕を選んだ事で、ユナの引き寄せは毎秒30㎝となっていて、ブーストで半径200mにも効果が及ぶ。
低空飛行のセラフィムも偶に範囲内に入り、突如干渉を受けた事で慌てて離脱したりと、ダメージこそ発生しないものの、その影響力は大きい。
ユナに引き寄せられ、最初は思考停止していた武者ゾンビだが、直ぐにユナを標的に定め猛進。
「捉えました」
しかし〔ナチュラルコーデ〕を重複させたおりょうさんを看破できず、不意打ちで両足を欠損。
極端に機動力の落ちたゾンビを放置し、すぐに息を潜め景色へ溶け込み、次の獲物へ忍び寄る。
見ていて中々戦慄の光景だ。俺ら味方には当然姿は丸見えなんだが、敵からしたら景色に溶け込んだ状態から痛打を浴びせて来るんだからな。
武器も万全には程遠く、タレントにも火力系のものが無いおりょうさんだが、淘汰時に得た高いSTAがあるので、その補正の乗った不意打ちの威力はアタッカーのそれに劣るものではない。
「うーん、惜しいですね」
パミルは最近、4つ目のタレントで〔ドワーフの系譜〕というタレントを取得している。
〔ドワーフの系譜〕採掘と鍛冶細工に補正。
「ゲーム本編では見られない素材が多いから、時間とクラフトに専念できる時間があれば、もっと良い物を作れたのに」
本編に何も持ち越せないとしても、良い素材で良い物を作るのは、経験を積む意味でとても重要な事で、それがイベントの苛烈さのせいで、チャンスを活かせない事を残念に思うパミル。
もう少しで本編と同等のアクセサリーが作れそうだっただけに実に悔しそうだ。
まあ、今回は高みに触れる機会が無かっただけで、そのうちこれまで以上に素晴らしい物を提供してくれるだろうパミルに期待しよう。
「鬼さんこっちら~」
極卒長相手に逃げながら持久戦を仕掛けるサチ。
何かに取り付かれてるのか、4つ目のタレントも〔小人化〕を選び、身長は1/3如何にまで縮んでしまった。
更に、常時ブーストが可能になったので、体積が更に半分になり、その身長は遂に1/4にまでなってしまった。
ここまで小さいと、攻撃も中々当たらず、当たっても小盾で全身を隠せるほど小さく軽量なので、ノックバックこそすれど、ダメージの大半を受け流され効果は薄い。
そうなると、直接捕まえて締め付けようとするのだが、低く薄いので中腰で追う羽目に。
その姿が、鶏を追う光景に見え、微笑ましくも滑稽で面白い。
武器はダガーのような小型の短剣を持ち、毒や聖水を塗布してるので、捕まっても簡単には拘束されない。
ぶっちゃけ、火力は終わっているが、サチ自身中々に堅いので、カメキチさんやマサとはまた違ったしぶとさがある。
うん、こちらも頑張っているな。
今度はベッタラ達を見ると、流石近接アタッカーが固まってるだけあって、破壊力は申し分ない。
「ち、倒しても倒してもキリがないな」
火力こそ十分だが、如何せん編成が偏ってる為、決して楽な戦いではない。
新たに〔七支刀〕という、脳筋の極みたいなタレントを得た事で、究極の破壊力を得たベッタラ。
〔七支刀〕一分に1回刀剣類のダメージを100倍にする。
更に、与ダメでゲージ回収出来る〔喜〕を4つ持ってるベッタラ回収率は凄まじく、ブーストの重ね掛けも3回4回は軽くいく。
上手い事そうなったときのダメージ倍率は1600倍以上に跳ね上がり、耐性で極端にダメージ減衰されなければ、必殺の一撃と化す。
「ベッタラさん、ワイド、ショー、俺の正面の相手のバフは粗方消しておきました」
「「「了解!!」」」
ラークは重複させた〔己を知る〕で基礎能力を上げ、自身へのデバフを軽減し、相手のバフを剥がして回り味方に貢献。
強敵になればなるほど、バフデバフも凶悪になるので、こうしたバフ剥がしの効果は大きい。
勿論、他を圧倒するLv補正のお陰で、普通の殴り合いにもめっぽう強いが、今回はメイン火力のベッタラとショーを活かす為にサポートに徹している。
「貰いっ!!」
4つのタレントを全て〔嵩増し義足〕で揃え、常時ブーストが可能になり、ワイドは常に8m宙に浮いている状態になった。
その高さを活かし、敵の上を通過し、盾を駆使して飛び道具をやり過ごし、隙を見せた敵の背後に突如義足を消して降り、不意打ちをかますという、かなりの糞ムーブを駆使して敵を翻弄。
反撃しようにも、直ぐに頭上に避難する為、反撃も覚束ない。
これがMOBのAI的にも糞ムーブ認定したのか、ワイドへのヘイトが鰻登りで、どんどん火線が集中。
「ちょっと!? 異様に狙われるんですけど!?」
お陰で他の3人の負担が相当減ったので、ワイドは最高の仕事をした。
「オラァ!!」
今イベント唯一、優秀な装備に身を包んだショー。
縛り上、装備が単一材料製な上、原始的な物に限られるから、こういう状況でも比較的上等なものが用意しやすいからだ。
そんなショーは、〔原子の戦士〕というタレントを取得し、戦闘力に磨きを掛けている。
〔原始の戦士〕装備が植物、皮、骨、石製で単一素材の場合、与えるダメージが倍になり、受けるダメージを半減する。
素で莫大なLPを誇り、タレントでHP、ARM、SHI、BARまで持ち、狭い範囲ながら超高性能な感知の能力を持ち、圧倒的な補正を受けた装備に与ダメ被ダメ補正。
およそ殴り合いにおいて、これ以上ないくらいのスペックとなっている。
実際、真祖や極卒長、キリングマシーンやデスパラディン相手に、殴り合いが成立しているのは、ショーだけである。
耐えるだけでなく、反撃して敵を倒せているので、マサやカメキチさんみたいなしぶとく耐える者が居なくても、何とか門を死守出来ていた。
…でもそろそろ終わりかもな。
「みんな、出来るだけ要塞内に入った敵を倒すわよ」
『応!!』
G戦隊も、侵入して悪さをしてる敵を探し出し、排除する事に全力だ。
火力こそ乏しいが、繁栄でプレイヤー全体の移動速度が遅くなった中、匍匐での高速移動を維持、寧ろより滑らかになった機動と装甲を存分に活かし、孤立した魔物を確実に処理。
たった今も、内部の畑を毒で破壊してるコスモマンバを手掴みで捕獲し、高速でカメキチさんの横を通り過ぎ、外へ投棄。
ついでにマサ達の援護をする等、掃除に救援とマルチな活躍をしている。
こういう、仕事をそつなく熟してくれてるのを見ると、今回はG戦隊と組めて良かったなと思う。
「ダメだ、被害に修繕が追い付かねえ」
東西南北の門うち3つを仲間に任せ、俺は北門を1人で守ってきたが、もう抑えるのは限界だ。
大蛇も農夫もリスポンしてはやられ、STAはカツカツ。
ランクを上げに上げまくった畑ですら、瞬く間に破壊されてゆく。
助力を請おうにも他もギリギリで、何処かが抜かれた瞬間総崩れ間違いなしだ。
そうなる前に、門を放棄して、最終防衛ラインまで戦線を下げるべきか。
「皆、俺のとこがもうダメだ。このままだと濁流に呑み込まれて立て直しが利かなくなるから、今の内に戦線を下げよう」
パーティーチャットで呼びかけ、タイミングを合わせて門を放棄。
中央の、元は襤褸納屋だった、今では立派な建物に入り込む。
アコ達も対空を棄て屋内に入り、ペットやNPCも続々と引き揚げて来る。
後は、大量に植えておいたレーザー草やビーム草怒に時間を稼いでもらい、防衛ラインの強化を図る。
最終防衛ライン、拠点のコアが存在する地下に続く道とコアルームへの道を急いで強化する。
ここまで下がってしまえば最早敵襲も関係ないので、拠点強化用の素材もフル投入。
そして、地上の喧騒が次第に無くなり、敵が最終防衛ラインに姿を現すタイミングで強化が完了。
空いたスペースにありったけ畑を敷き、レーザー草、ビーム草怒を植え、準備が完了した。
さて、どこまで凌げるかな。
「敵の増援が速すぎる。ジャガーノートを処理できなかった時点で詰んでたか…」
戦闘開始して最初の頃は、敵の攻めて来る方向が限定され、戦力を全投入した事で、順調に敵の侵入を捌けていたが、敵の流れが途切れることなく早くもジリ貧状態に。
「地上にユナとベッタラとマッドを残しておいて、奇襲でジャガーノートの撃破を狙うべきだったか…いや無理だな」
こうも戦力差があると、隠密も十全に機能しないし、ユナの場合は味方を隠せても引き寄せで台無しにするからなぁ…。
あれはあくまで、戦力を把握させないのが強みであって、奇襲に使うには癖が強過ぎる。
なんて考えている間にも状況は悪化。
最早ここまでか。
結局、直ぐに最奥のコアルームまで攻め込まれ、俺らの拠点は陥落。
イベント期間を二日残して、最初からやり直しとなった。
もう精魂尽き果てたので、そのまま結果発表までイベントからフェードアウト。
そして、結果発表では、参加チーム1728チーム中、37位という凄いのかどうなのか分からない微妙な位置にランクイン。
ただ報酬は破格で、上位50以内は1人辺り賞金50億か、イベント内で手に入れたモノを1つ入手できると言うもだ。
それ以下はアクティブ率に応じて賞金が変わるみたいだが、熱心に参加していたチームは軒並み1人辺り30億前後貰えたそうだ。
んで、うちらは俺以外は皆賞金を、俺はイベント内で手に入れたモノを受け取った。
「シャー」
「まさかテイム出来ていたとはな」
思い出すのはコアルームでの最期の瞬間の攻防だ。
「せめて最後まで抗ってやるぜ!!」
敵の足元目掛け鍬を振るい、1fでも妨害してやろうと思っていたら。
「シャー!!」
「おわっ危ね!?」
死角から飛び掛かってきたコスモマンバと取っ組み合いに。
その僅かな間にコアが破壊され、防衛失敗でイベントエリアから吐き出されたのだ。
どうやら、その最期の取っ組み合いの最中、その心算が無かったにも関わらず、テイム挑戦の判定になって、何の因果か成功したようだ。
さて、そんな経緯でテイム出来たコスモマンバ。
スペックはこんな感じ。
コスモマンバ コスト5000000000
LP3000000000 STA 800000000 攻撃力500000000 防御力1000000000
10秒間噛み付いた相手のバフやパッシブ効果を無効化。
コストの割に能力値は大した事なく、マンバの癖に毒も無い代わりに、バフとパッシブを無効化という、非常にユニークな能力を持っている。
10秒とはいえ、この妨害は極悪極まりない。
喰らった状況次第では、そのまま詰みかねないぞコレ。
素の能力値が高いPvEのボス相手にも、特殊効果を封じる事で有利に戦えるし、PvPじゃ必殺の一撃足り得る効果だ。
「シャー」
「さて、どうしようか」
超強力な能力だけに、連れ歩くのもアリだが、金策効率を考えると遠征に組み込んだ方が良いのか。
「まあ、今直ぐ必要な戦力でも無いし、遠征に編入してLv上げでもしておくか」
早速、コスモマンバを遠征に組み込み、その後を付いていく。
相変わらず戦闘区域に出た瞬間逃走するツチノコを見送り、適度に距離を取って追従。
行き先は完全に委託していて、今回は南門から出て、南西へと進んでいる。
どうやら湿地帯、干潟を中心に採取を行なう様だ。
暫らく進んでいると、プレイヤーが4人飛びだして来て、続いて悪党が6人飛び出して来た。
蓋たちも既に範囲貫通攻撃を警戒し、鶴翼のような陣形に。
直ぐに介入しない所を見ると、追われてる側も強く、また追っ手側も強いので、無暗に仕掛けて被害を出さないようにしている。といった感じかな?
成行きを見守っていると、善人側が蓋に近づき悪党側を見据える。どうやら共闘を選んだ様だ。
俺も見るだけで手持無沙汰なので、足元を耕し始める。
4人&蓋軍VS悪党6人の戦いは、当然ながらこちら側が優勢に推移。
だが、余程の拘りで悪党をやってる人以外は、兎に角ドンパチやりたい層が大半を占める為、喧騒を聞きつけどんどん集めって来て、戦場は混迷を極める。
そんな中、蓋たちは常に戦場の外側を位置取り、集中砲火を浴びない様に機を窺い、迂闊に孤立した悪党を袋叩きにして賞金を稼いでいる。
この際、コスモマンバが大活躍で、噛まれた相手が一瞬フリーズし、数秒後に発狂。
その隙にペットに集られ、LPを削り切られ退場。
大量のペットに紛れ、不意打ち気味に襲って来る封印効果は凶悪の一言で、多くの悪党がその牙の犠牲になっていった。
そうこうしてる内に時間切れとなり、蓋たちは帰還。
クールタイムを挟み、再度遠征に出ると、ネタが割れてるのか、コスモマンバを先に処理しようとするか、飛び道具で徹底的にアウトレンジを保とうとする悪党が急増。
従来なら、これで振出しなんだが、その最初にマンバの対処を迫る事で、ワンクッション生まれたのと、蓋のAIが強化されてる事が相乗効果を生み、巧みに敵の行動を抑止しながら戦闘を進め、被害を抑えながらホームまで後退し、衛兵やプレイヤーと協力し、悪党を撃退していた。
コスモマンバが加わった事で、絶対に喰らってはいけない攻撃を持つことが出来、悪党の行動を大幅に制限出来る様になり、結果被害を更に抑える事が出来る様になった。
コスモマンバのお陰で、今までよりは悪党の妨害を受けなくなり、収入がやや上昇。
金も貯まりつつあり、次はどのタレントを取ろうかと思ってると。
『警告。強力な特殊個体のインベーダーが出現中。協力して討伐してください』
という、公式のメッセージが流れる。
(これはアレか、ハッキングされてるから、同期させたインベーダーに攻撃を加えて、ハッカーのPCに負荷を掛けろという事か)
チラッと横を見れば、ユキもユナも頷いたので3人で出撃。
最寄りの出現場所は下水道となっていたので、地下に降りる。
既にかなりの人が戦闘に参加していて、もの凄い数の攻撃に晒されてるいるインベーダーを発見。
「お、重い」
「それだけ負荷が掛かってるのね」
「私達でこれじゃ、ハッカーのPCには相当負荷が掛かってそう…あ、消えたわ」
明らかに、普段敵を倒した時とは違う、やられ様すら無く消えた事にざわつくユーザーたち。
「クラッシュ出来たって事かな?」
「多分そうよね」
「態々用意したインベーダーも消したのは、用が済んだ以上、これ以上人が留まらない様にする為かしらね」
祭りが終わったらさっさと解散しろって事か。
まあ、これでそこそこの報酬も用意されてるわけだし、残りのハッカー撃退にも参加して、甘い汁を吸おうじゃないか。
「アース内は駆逐済みか」
「えーっと、アニマルと鬼ヶ島も終わってるみたいだわ」
「人口の多いロケーションは早いわね」
となると、行き先の候補はフィレストとバグスターか。
この2つの惑星、決して旨味が薄いわけじゃないが、敵のヴィジュアルが受け付けない人が結構いるのが、現在の人気の低さの原因になっている。
そりゃゲームとは言え、巨大な蟲や内粘膜が棘だらけの植物を直視したいとは思わんわな。
もしフォレストが前みたいに薬草で人気のエリアだったら、オルガセンサーも知れ渡っていただろうな。
そう思うと、バグスターにも何か超強力な素材が眠ってたりして…ちょっとワクワクしてきたぞ。
「よし、バグスターに行ってみよう」
2人も特に反対せず、バグスターに跳んだ。
ぱっと見、近くには居ない様で、なんだかんだで集まってきたプレイヤーも、インベーダーを求めて散っていく。
どうせなら、近場に纏めておいてほしいものだが、ハッカーだけに一方的な負荷を掛ける事は出来ないんだろうな。
だからこそ、セーフティーマージンとして、インベーダーを分散して配置して、一度にサーバーに掛かる負荷を減らしているのだろう。
ホント、何度でも思うが、なんでこんな迂遠なやり方をするのやら。
おじさん達曰く、楽しいゲーム体験と結びつけることが、後の扇動に大いに役立つとの事だが。
まあ、憂さ晴らしに大義名分が付くと、人間どこまでも過激に残酷に成れるからな。
ただ、そこまで上手くいくもんかね?
次回は年明け後になると思います。




