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第五十五話

~前回までのあらすじ~

メンバーのビルドが更新されていく中、イベントが告知され、楽しく緩くをモットーに、参加を決意した。

「リーダー、準備は良いか?」

「ああ、何時でも良いぞ」

 2人でエントリーし、戦闘空間に跳んだ。

 戦闘開始のカウントダウンが始まったので、ミッションの内容を。

 敵がNPC2体で、時間内に倒せば勝利。時間切れ又は2人とも死亡で敗北となる。

 ベッタラによると、2人組の構成は王道の前衛後衛との事だ。

 前衛が巨大なナメクジ?に乗ったランスを片手で操る重騎士で、ナメクジが身体に盾を4枚も張り付けていて非常に守りが堅いそうだ。

 後衛はジェネレーターとサモナーとヒーラーの混合で、使い魔は羊と犬と豚で、従魔はジャッカロープとショゴスを召喚するという。

 ちなみに、ショゴスの能力や見た目だが、あのイメージ通りスライムの様な不定形で、兎に角速いのが特徴らしい。


 カウントが0になり、戦闘開始。 

 敵は想定通り、ナメクジ騎士が前に出て混合ヒーラーがジャッカロープを召喚。

 直ぐに従魔とラインを合わせ、死角をカバーしてきた。

 一方こちらも、距離が有るうちに仕込みをする。

 開幕速攻を掛ける手も考えたが、詰まってるベッタラが、持久戦に持ち込んだ方が良いと言うので、先ずはそれで行ってみる事にした。

 ベッタラが待機し、迫る敵に睨みを利かす間に、背後一面を畑に変える。

 連合とドッペルを使用し、戦場の20%程を畑にしたとこで時間切れ。

 相手が目前に迫ったので、殴り合いを開始する。

「俺は相手の足場を崩しに行くから、ベッタラは従魔を瞬殺して騎士を孤立させ続けてくれ」

「応!!」

 これが俺らが考えた作戦だ。

 俺自身は敵の足場を畑にし、行動に制限を掛ける。

 ベッタラは取り巻きの従魔を逐一処理し、後衛が召喚に掛かりっきりにするよう尽力。

 そして騎士は、俺の使い魔が削り切るのを待つというものだ。

「ドッペル!!」

 マッド謹製の、満腹度と保水度を同時に回復出来る栄養ゼリーを使いつつ、ドッペルを都度召喚。

 更にドッペルと一緒に百姓も召喚し、騎士とジャッカロープ18体とショゴス10体を、畑で囲い込む。

 身動きの制限された従魔を、使い魔が弱らせ、ゴーレムの引き寄せが決まったら、ベッタラが処理。

 畑が十分残ってる内に、俺が後衛に圧を掛けに行く。

 あくまで圧を掛けるだけで、深追いはしない。

 といのも、ベッタラから「後衛のヒーラー、あれがまた曲者で…」と始まり、後衛狩りで余裕ぶっこいた阿呆を解らせる手札を幾つも持ってる事を教わっている。例えば…。

「おっと…解ってても危ないな」

 後衛が赤い球を取り出すと、次の瞬間にはファイアーキャノンが飛んできた。しかも貫通まで付いていて、避けないと豚ごと貫かれる羽目に。

「まあ、距離が有れば避けれんことも無いなっ!!」

 再び消耗品でファイアーキャノンを撃たれ、回避する。

 そろそろベッタラの下へ戻るか。


「ただいま」

「お帰り。お陰で従魔の数がここまで減ったぜ」

 激しい攻防の間隙を突き、ベッタラと合流。

 ベッタラの方の成果は、本人が申告する様に、先程は30体近くいた従魔も、今では7体にまで数を減らしている。

 従魔の数が減った事で、後衛が従魔の補充を開始。

 更に、前衛のLPが僅かに減っていたから<ヒール>も発動し、ぱっと見は振出しに戻る。

「どんな感じだ?」

「良いペースだ。後衛の使う回復は<ヒール>と<ハイヒール>で、前者が20%、後者が40%回復、クールタイムはそれぞれ五分だ」

「成程、要は五分間に61%以上削れば有利が取れるのか」

「制限時間が無ければな。だから、火力を集中させるためには従魔を処理して、前衛を一気に削るターンを捻出する必要があるのさ」

 さて、ここからは時間を気にしつつ、攻め時を見極める為に、ターンを回していこうか。

 再びベッタラや敵前衛を囲む様に畑を修復と張り直しをし、後衛に圧を掛けに行く。

 今度は遠巻きに畑を敷くだけに留まらず、敢えてファイアーキャノンに被弾。

 一撃でフュージョンボックスの追加HPやARMが消し飛び、LPを30億程消し飛ばされた。

 俺自身、物理も含め防御力は基本0なので、大ダメージは覚悟の上だが、これは衝撃的だ。

 まあ、敢えての被弾なので、当然メリットも有るわけで…。

「良し、[スワンプマン]の発動に合わせてドッペルと百姓を召喚と」

 ベッタラの傍に帰還する際、更に後衛の仕事を阻む為、置き土産にスワンプを追加。

 スワンプとドッペルの使い魔が、良い感じに後衛の逃走系使い魔を仕留め、STAの回復を阻害。

 従魔の補充が更に遅延し、一気に攻める機会を得た。

「チャンス到来だな!!」

 ベッタラが残りの従魔を斬り捨て、前衛に肉薄。

 マウントと騎士のヘイトを稼ぎ、使い魔の削りをアシスト。

 勿論、ベッタラもチャンスが有れば攻撃をするが、ここで事を急ぐと碌な目に遭わない。

 というのも、このナメクジと騎士は共に反射持ちな上に、カウンター技も持っているので、結構ハイリスクなのだ。

 だからこその、使い魔での削り切り作戦。というわけだな。


「うん、回復されたとはいえ、1回目で30%か」

「悪くないな、前衛を回復させた後で、後衛のLPを20%削れたのも美味しい」

 マウスの同士討ち誘発からのパニックモードと、運良くマンバの噛み付きが決まり、一気にダメージを稼ぐことに成功。

「どうする?多分直ぐにでも…言ってる傍から<ヒール>を撃ったな」

 これで後衛は両方共クールタイム中。四分強もの時間、回復の心配は無くなった。

「あいつらの距離をもっと離せれば、片方しか回復できないのにな」

「俺らじゃキツイな、基本後衛が前衛に寄っていこうとするからな」

 これ以上、良さげな案も無いので、再び作業に戻る。

 そして制限時間が残り二十分で、回復を撃たせた状態で後衛のLPを30%まで減らす事に成功。

 途中から、前衛に回復を撃たせ、その隙に後衛を削る作戦にシフトし、それが上手くいってる状況だ。

 更に十分後、回復を撃たせ、後衛のLPが70%まで回復したが、五分弱の猶予を得る事に成功。

 一気に畳みかける機会の到来だ。

 ここぞとばかりに、スワンプとドッペルを前衛に押し付け、俺とベッタラで後衛を狩りに行く。

 このタイミングで、ベッタラまで動員した事で、後衛が慌てて弾幕を張るが、止めれるのは精々片一方。

 より脅威に感じたベッタラを止めに掛かったが、最早どちらを狙っても意味がない。

 俺は、最初にして最後の接近戦を後衛に挑む。

 当然奴も抵抗し、消耗品や豚の判定を使い、時間を稼ぐが、直ぐにベッタラが追い付き、2人が狩りで攻め立て、遂には後衛を撃破した。

 結局、どちらを狙おうが、狙った方が後に辿り着くだけで、結果は変わんなかったというわけだ。

「さて、これまでの仕返しをタップリとさせて貰おうか」

「挑戦8回目で漸くだな…」

 こうして、単騎残された前衛を、2人掛かりで蹂躙。

 非常にタフな前衛の始末を終えた頃には、残り時間は三分を切っていた。


「ありがとうよ、これで先のミッションに進めるぜ」

「おう、困ったら俺やメンバーに声を掛けてくれ」

 ベッタラは、そのままミッションの攻略に戻るというので、俺はPAに戻る。

「お帰り」

「ただいま」

 ログインしていたマサとパーティーを組み、便乗してきたマッドとタロウも加え、出撃する。

「今、皆のビルド状況を更新してるから、2人も情報提供よろしく」

 という事で、目的地の干潟までの道中の時間を使い、2人のビルドを更新する。

「んじゃあ、先ずは俺からだな…俺は2回目の淘汰で【塔に住まうスライム】を、3回目で【神獣の加護】を消去したぜ」

「そうか、STAペナルティからは解放されたのか」

「ああ…まあ、無くなったら無くなったで、【塔に住まうスライム】の強さにも気付けたけどな」

「あるあるだな、無くなって気付く有難み」

「でも、デメリットの方が大きかったから、やっぱ消して正解だったぜ…」

「STAが各ゲージ毎に数%まで落ちた上に、ダッシュ中しか無敵が無いんだもんな」

「んでまあ、シビアな管理の必要が減ったから、【神獣の加護】も順次消し始めたんだ」

 良いね、マッドも肩書に因子やパラメータをブーストするものが無いので、ギフトから順調に消去してるようだ。

 何度目かになるが、素の性能なら基本、刻印>ギフトになるので、重複や+補正がない限りは、ギフトを消し、刻印で似たような効果の上位版を取得するのが理想だ。

「そんで、取得した刻印は〖導火線の刻印〗と〖火花の刻印〗だ…フフ」


〖導火線の刻印〗十秒に一度、指定した場所に導火線を設置し、十秒後に爆発する。導火線は攻撃を受けると消滅する。


〖火花の刻印〗フレーバーで発生した火花に攻撃判定を付与する。


 早速実演して貰うと、〖導火線の刻印〗で設置出来る導火線は渦巻き状になっていて、爆発物が付いていないのに爆発する謎効果。〖火花の刻印〗のフレーバーというのは、要はグラフィックだけの火花に、ダメージ判定を持たせるもので、導火線から発生する火花にもダメージが追加されていた。

 導火線の爆発は、阻止されるデメリットがある分ダメージも程々で、範囲が兎に角広く、野犬の群れを一掃。

 火花はヒット数が凄まじく、相手にも依るだろうが、野犬なら、二秒弱触れるだけでくたばる程度には威力があった。

「ノーコストで結構強力な攻撃が出来るんだな」

「ああ、お陰で爆発物と薬品の節約になる」

 確かに、消耗無しの攻撃手段なので、タイミングを考えず、取り敢えず使えるのもポイントが高いな。


「タロウは?」

「俺は【ザラ弾幕】を2つ消して、〖徹甲弾の刻印〗と〖飽食の刻印〗を取得したで」


〖徹甲弾の刻印〗弾丸でのダメージ計算時に、敵のダメージ軽減効果を半減する。


〖飽食の刻印〗飲食で満腹度又は保水度を超過した場合、超過%×秒間、STA補正が10倍になる。


「お~、徹底的に火力の増強を図ったのか」

「そうや、【ザラ弾幕】を消してる分、ペレット数が大分落ちるからね、その分粒毎のダメージを底上げしたんや」

「聞いた感じ、〖徹甲弾の刻印〗だけでもギフト2つ分以上に火力が上がってそうだが?」

「ああ、俺もマッドと一緒で、覚醒数をブーストしてないからね、ギフトの影響はそれ程でもないんや」

 そうだな、敵の%軽減を半減するだけでも、相手によっては余裕でお釣りがくるだろうな。

 逆に、軽減を持たずに防御力が高い相手はキツいだろうが、そこは〖飽食の刻印〗で、無理矢理ぶち抜いていく心算なんだろう。

 タロウは、良質な食料飲料を自前で大量に用意できるので、刻印の効果を発揮する為だけの物資も、問題無く用意出来るのも、お手軽で良い。

 そんなタロウの実戦だが、素の状態でも【超燃焼】で10倍以上のSTA補正が掛かり、中距離でも狼を一撃で仕留めて見せた。

 更に、栄養ゼリーで満腹保水を超過させ、STA補正を10倍…乗算で100倍以上にすると、逃走していた車両泥棒を遠距離から射撃し、一撃でタイヤをパンクさせ、捕獲の手助けをしてみせた。

 ショットガンで50m以上離れてると、相当威力が落ちる筈だが、STA補正は射程の壁すら超える様だ。

 アコ程じゃないにしろ、遠距離での火力も得たタロウに、今後とも期待したい。


「さて、干潟に到着と。で?何を狙うんだ?」

「俺は泥や水草だ」

「こっちはロブスター系の身や貝が目当てやね」

 それぞれ薬品や料理に使うのだろう。

 まあ、そういう事なので、干潟や汽水区間をローラーしていく。

 以前と違い、難易度が上がり、長閑な景色に対し、原生生物の攻撃が非常に激しい。

 ザリガニの分際でソニックブームなぞ出しおってからに…と、お仕置きしてやろうと使い魔を嗾け、入水した途端に次々と感電。電気鯰も寄って来てしまった。

 水中は危険と干潟に戻っても、こちらはこちらで危険で、アサリやマテ貝が水鉄砲で攻撃してきたり、蟹が落とし穴を掘ったり、蝦蛄が豚をのしたりと、数も火力も侮れない危険地帯だった。

 ということで、先ずは敵の分断をと、干潟を畑に塗り替え、海産物を床下に押し込める。

 その間に、マサが投擲で大物を、マッドが導火線と爆弾で小物をガチンコ漁の要領で浮かせ、タロウが射撃で汽水の敵を減らしていく。

 汽水が落ち着いたら、汽水を水田で蓋をし、畑を突き破ってきた干潟の生物の相手をする。

 こちらも同じような手順で数を減らし、再び汽水を…という感じで、交互に狩っていく。

 ちょっとバイオレンスな感じにはなったが、潮干狩りの成果は上々。

 ホクホク顔でPAに凱旋を果たした。


 マッドとタロウがクラフトに戻ったので、更新の済んでいないサーモンとカメキチさんを誘い出撃。

 ギルドで下水調査の依頼を受け、地下を目指す。

「俺の今の状態?良いよ、3回目で《亜人召喚士》を消して〖武装従魔の刻印〗を取得したぜ」


〖武装従魔の刻印〗従魔がそれぞれに適した装備を纏う。既に装備がある場合強化される。


「《亜人召喚士》を消して、ゴブリンの能力が下がるのを、〖武装従魔の刻印〗でカバーした感じか」

「カバーどころか、完全に強化具合が上回ってるけどな」

 下水に着いたので、試しにサーモンがゴブリンを呼ぶと、以前はショートソードに小盾にレザーアーマー一式だったのが、ロングソードにラウンドシールドにプレート一式になっている。

 大分重武装になっているが、動きはそのままで、リーチやガード判定に防御力だけが上がっているそうだ。

「鈍化しないで純粋に強化されるのか」

「【制式装備】と併用だから、一層強力だぜ」

 そのまま、近寄って来た汚いオオサンショウウオに2体のゴブリンを嗾けるサーモン。

 先手とばかりに、ヘドロブレスを吐いてくるサンショウウオに対し、そのまま盾を構えたまま吶喊。

 ラウンドシールドに強化され、全身隠せる事で、見事攻撃をブロックし、無傷で肉薄してみせた。

 相手が爪を立てれば盾で防ぎ、ブレスを吐かれれば側面に避け、その都度反撃で剣を突き立てるゴブリン。

 結局、重装の癖に、一撃もまともに被弾せずに、サンショウウオを撃破した。

 これで、サーモンが持って来てるゴブリンの中では、一番弱いというのだから、頼もしい限りだ。


「最後は俺ですね。俺は2回目の淘汰で《地獄の使徒》を、3回目で《亡者信者》を消去して、〖月光の刻印〗と〖光背の刻印〗を取得しました」


〖月光の刻印〗闇属性の微弱な放射線を放出。


〖光背の刻印〗背中に光と闇属性の放射能を背負う。


「んーっと…要は〖陽光の刻印〗の効果違いと思っとけばいいのかな?」

「そうですね、〖光背の刻印〗の方は、2属性の分、範囲が後方寄りだったりしますけど」

 まあ、概ね似たようなもんだと思って大丈夫と。

 そして、地下に着いてからというもの、そこかしこから騒がしい音が絶え間なく聞こえてくる。

「相当放射線が鬱陶しいんでしょうね」

「俺の背中側なら、光と闇の二属性がそれぞれ二重で出てますからね」

 しかも200m先まで届くのだから、Gや鼠といった小物には、洒落にならない被害だろうよ。

「良いですね、大物は寄って来るし、小物は逃げるから快適だ」

 どうしても小物を狩りたければ、二手に分かれればいいし、なんなら行き止まりに追い詰めて、放射線で焼き殺しても良い。

 近づくほどダメージが上がる仕様なので、寝技が攻撃手段なカメキチさんには火力の底上げと同時に、貴重な遠距離攻撃とも言えるので、似た効果でも3つも取る気持ちは良く解る。

 とまあ、これで全員分の淘汰3回目まで、ビルドを把握出来た。


「さて、今回の下水調査の目標は、違法薬物の密造所の捜索だ」

「また、中々にハードな内容だな」

「今、ゴブリンを放ってるが、まだ当たりはないな」

「今更なんですが、俺の放射線が悪さしませんかね?」

 最後のカメキチさんの言葉に、一同思案。

「…寧ろダメージに反応してくれた方が、見つけるのが楽じゃないですか?」

「言われればそうだな」

「確かに、ゴブリンの傍で異変が起これば、直ぐに分かるしな」

 という事で、いつも以上にゆっくりじっくりねっとりと練り歩き、悪人共を炙りだす事に。

 時折、カメキチさんに大量のドロップ品が流れ込みなどしつつ、大物を狩りながら練り歩く事三十分。

「んんんんがあああああ!!テメ―等か、さっきからこの鬱陶しい波動を流してるのは!!」

 突如、壁の一部が透過し、ブチギレした様子の男たちが飛び出して来た。

 その後も聞き取れない罵詈雑言を撒き散らしながら、使い魔に集られ乱戦へ。

 少しして、騒ぎを聞きつけた敵味方双方のNPCやプレイヤーが入り乱れ、激しい応酬へと発展。

 何時の間にやらどさくさで端に追いやられ、フェードアウトしてしまう。

「しゃーない、別件の害獣駆除でも熟して帰ろう」

 騒ぎから距離を取り、浄化槽方面へと舵を切る。


 少し移動し、物陰から誰かが飛び出してくる。

「クク…やるじゃないか、まさか陽動を見破られるとはな」

 なにやらしたり顔で語りだす、カトラスと短銃で武装した、海賊風のおっさんと相対する。

 1人で楽しそうに語るおっさんの話を総合すると、こいつこそが密造者の首領で、騒ぎ出したのは末端の木端共で、その隙に自身や幹部級は逃走を図ってたそうだ。

 ちなみに、浄化槽の先は渓谷に繋がっていて、飲み水レベルまで浄化した排水を流してるそうだ。

「フン、俺は逃げ遅れちまったがまあいい。個分共は逃げれたし、お前らを始末すればまだ…」

 会話の途中で敵判定に移ったのか、一斉に使い魔が殺到。

 飛来する矢を剣で切り払い、魔法を短銃で相殺し、蜂の大群は翻したマントで蹴散らし、主力級の使い魔は四股踏みで怯ませる。

 かなりの武闘派で、犯罪組織のボスだけあって相当に強い。

 マサ達も各々仕掛け、首領を攻め立てるが、地理を熟知してるからか、巧妙に距離を取られ続け、各所に仕掛けてあるトラップや防衛装置に煮え湯を飲まされる。

「はっはっは!!お前らやるな!!まさか自分の縄張りでここまで喰らい付かれるとは思わなかったぜ!!」

 この瞬間も、首領が壁の一部を押し込むと、鉄格子が降り、行く手を阻まれる。

 急いで鉄格子を破り、首領の背中が見えた頃にはもう決着が付いていた。

「そんじゃまあ、ここらでお別れさせてもらうぜ!!」

 排水口から出て、すっかり暗くなった夜空へと視線を向けると、凄い勢いで遠ざかっていく首領。

 手下が手配した様で、ヘリから垂れたロープに掴まっていた。

「逃げられたか」

「まあ、仕方ないな」

「かなりの強敵だったもんな」

「いやあ、同じ人型で、狡猾な相手は面倒極まりないですね」

 それぞれ、感想を零し、ギルドへと報告に戻った。


「結構貰えたな」

 首領を取り逃がしたが、害獣駆除の方で大戦果を挙げ、ボスこそ逃がしたが、最初に見つけたのは俺らで、ボスの逃走を遅延させたのも俺らだ。

 その事実がしっかりと評価され、1人3000万程の報酬を受け取った。

 その後、ギルドでは逃走した首領に懸賞金を掛け、捕縛作戦を発令した。

 一応、まだアース内に居るらしいので、見つけるだけでも大金が貰えるらしく、大勢が依頼に詰め寄せていた。

 俺らは疲れたのでスルーし、PAに戻ってパーティーを解散。

 夕飯時なので、一足先にログアウトした。

 そして夜に再ログインし、コーポの評判稼ぎをする事に。

 イベントをガチでやり込む心算ではないが、その間不測の事態が起こって下がるのもつまらないからな。

 今のうちに安全マージンとして、少しでも依頼を熟した方が、精神衛生上宜しい筈だ。

 まあ、最優先は金策だから、あくまでついでではあるんだけどね。

「それで?どんな依頼を受けるのかしら?」

 今回はユナだけを連れ、ギルドで依頼を吟味。

「そうだな~、回転率を重視したいからな~…お、ユナ、お前コストの空きってどんなもんだ?」

「コスト?大体53…私のコストは53万です」

「ネタは良いから本当は?」

「50万ちょっとね」

「…マジで50万超えてるのか」

「装備も店売りだし、消耗品も回復を少しだけしか持ってないしね。勿論、ちゃんとした冒険に行く時は、もっと用意するけどね」

「そうか、ならこんな依頼があるぞ」

『急募!!食品配達依頼』という、分かりやすい依頼。

「どれどれ…総コスト200万の食品を各所に配達か~」

「ユナの空きが50万、俺の空きは200万以上あるから、一度で運びきれるぞ」

「良いわね、これにしましょう」

 早速依頼を受け、各所を巡る。


「ここで最後ね」

「随分と過酷な配達だったな」

 てっきりお使いクエスト的なものを想像していたが、そんなのは最初の数件だけで、後半はずっと危険地帯ばっかりだった。

「なんっでバグスターの毒沼まで、弁当の配達に行かねばならんのだ」

「本当よね…どういう設定で、あんなとこで釣りをしてたのかしらね」

 NPC(中身の有無は不明)相手にどうかと思ったが、皮肉の心算で「釣れますか?」って聞いたら、「大量だよ」って、傍にあるコンテナを指さすんで中を見ると、足が50本以上ある百足と歩行海老のキメラのような生物が、大型コンテナの中でわしゃわしゃ動いてるのを見て、2人してドン引きした。

 そんな珍事が続くもんだから、2人してかなりイライラしながら熟したものだ。

「でも、一度に配達し終えたから、効率は良い感じじゃない?」

「そうだな、結構な高難易度の依頼だったし、気持ち評判が上がってる気はするな」

 依頼内容こそアレだったが、手応えを感じ、更に依頼を消化していく。

 他のメンバーも、ソロだったりパーティーを組んだりしつつ、依頼を熟してくれている。

 そんな感じで、結構な依頼を消化し、それなりに評判を稼ぐ事が出来た。


 さあ、やって参りましたイベント開催日。

 仕事のゴタゴタに引っ張り出され、午前は解決に奔走した為、午後からの参加となる。

「こんにちは」

「こんにちは」

 インしてるメンバーと挨拶を交わし、屋台の設置場所を決める。

「一応、事前に西の丘か、南の山かの二択だったけど、どうする?」

 どちらも、うちの職人に必要な素材が満遍なく近くで取れ、難易度も程々の良ロケーションだ。

「私は南の山に一票です」

「俺は西の丘に一票や」

 シルクは繊維系の宝庫の、樹海に近い南の山。タロウは甲殻類に貝類の豊富な干潟に近い、西の丘をチョイス。

 多数決で、ホームに近い西の丘が得票数で勝り、設置場所が決まる。

 先に俺が現地に向かい、何処に設置するかを吟味。

 他の皆は、今のうちに方々で素材を集めてる最中だ。

「まあ、ここら辺が無難だよな」

 丘の麓で、少々脇に逸れた場所に屋台を設置した。

 回りを見てみると、良さげなロケーションの割に、人が少ない様だ。

「お疲れ」

「おおマサか、お疲れ」

 マサが合流し、周囲を見て感じた事を話す。

「普通に補正目当てで危険地帯に人気が集中してるだけだろ」

「そうなんかね~、確かに単価とかは良さそうだけど、トラブルの頻度も厄介度も段違いだろうに」

 まあ、うちはうち、余所は余所なので、のんびりとやっていこう。

 取り敢えず畑を拵え、マサは潮干狩りへ向かう。

 そこへ、用事の済んだユキとユナが合流し、マサに合流するべく干潟へ向かっていった。

 基本、俺ら戦闘組は、素材の仕入れが主な仕事なので、後方支援も出来る俺や、移動の遅いカメキチさん以外は、出払う事が多いだろう。

「お待たせです」

 ここでシルクが到着し、我がコーポも、本格的に営業を開始した。


「…営業を開始した途端にすげえNPCの数だな」

 屋台に搭載されている自販機に、これでもかとNPCが殺到している。

 確かに、購買層としてNPCが増員されるとは書いてあったが、まさかこれほどとは…。

「でも、見た目程売れるわけではないのか」

 遅れて合流した、マッドが急拵えで用意したポーション類がポツポツと売れるだけで、売上自体は微妙の一言だ。

「まだ再序盤だしな、気長にやろうや」

 そうして、再度のんびり宣言をし、作物を量産し、生成された素材を職人に提供。

 仕入れ班が調達した素材も加工し、商品をどんどん量産していく。

 すると、商品のラインナップの変化のお陰か、徐々に食料が売れ始める。

 たまーに、包帯や砥石が売れたりと、時間の経過と共に売れ筋も増えているように感じる。

「しかし、売り物を自販機に突っ込むだけで済むから楽だな」

 面倒な接客をしないで済む様に調整したのは英断だ。

 更に時間が経過し、食料飲料の売れ行きが増す。食事時かな?

 そして、周囲には何時の間にか屋台が増えていた。

 朝昼は仕事で、夜から参加する人も多いので、そういったカジュアル層が、比較的穏やかなロケーションを選ぶからだろう。

 屋台が増えて来た事で、一層NPCも増え賑やかに。

 だが、良いことも有れば悪いことも有る。賑やかになったせいで、敵が襲って来るようになってしまった。


「このタイミングで襲撃か」

 現在、職人衆と、留守番組の俺とカメキチさんしか居らず、手薄にも関わらず数百体の野犬が襲ってきている。

「人気と食い物に釣られたのでしょうか?」

「何でしょうね、兎も角屋台を守らないと」

 既に、他のPCやNPCが戦いを始めているが、多勢に無勢で超苦戦している。

 俺らも自分たちの事で手いっぱいなので、一生懸命守りを固め、犬を迎え撃った。

 ご近所の手前、そこまで畑を広げていないとはいえ、屋台1つ守る程度なら十分な広さを耕してる筈なんだが、数が多い上に身軽な犬だけあって、柵有の畑を飛び越えてきてしまう。

 幸い、屋台の周囲には、シルクとパミルとおりょうさんの使い魔が犇めいているため、易々と屋台が攻撃に晒される事は無いだろうが、余裕がない事には違いない。

「屋台の設置場所、もっと吟味するべきだったか」

 群がる犬を相手にしながら、傍で戦うカメキチさんに聞こえるよう呟く。

「いや、流石に全く人が寄り付かない場所は不便ですし、例えそういう場所を選んだとて、後から人が来ない保証ないんで、どうしようもないかと」

「ですよね~」

 それに、ある程度人が集まるメリットも有る以上、敵が増える事や使える面積が減るデメリットは、受け入れるべきだろう。

 …はあ、それにしても凄い数だ。

「コツコツ倒してるのに、全然減ってる気がしねえ」

「それは減ったそばから増えてるからですね」

 ここで、ログインしてきたベルが登場。屋台の中でログアウトしてた様で、唐突な登場となった。

「ベル、来てくれたか」

「お待たせしました。それでですね、今回のイベントは、一定時間毎に襲撃フェーズに突入する様で、その激しさや時間は、エリアの難易度と滞在人数で変わる様です」

「成程…この程度の人口密度でこれって…」

「人気エリア、高難度エリアはヤバそうですね」

 南の砂漠、ワームの縄張りとかどうなってるんだろうな…。

 まあなんにせよ、先ずはこの状況を解決してからだな。


 犬の襲撃を乗り切り、さっき思った事を蒸し返す。

「イベント中の、砂漠がどうなってるか見て見たくない?」

 俺のこの一言で、砂漠の見学を計画する。

 結果、明日の夜に、職人と仕入れ班を、半々で分けて、前半後半で見に行くことに決定。

 そして翌日には、予定通り前半後半に分け、砂漠の見学を敢行。

 たった今、前半組が戻ってきて、交代で後半組が出撃する。

 後半組のメンバーは、俺、パミル、シルク、ベッタラ、マッド、ラーク、ワイド、ショーの8人だ。

 皆で山を越え、道中蠍や百足にハゲワシ等を狩りつつ、デスワームの領域へと到達。

 そこでは、見渡す限り屋台が設置され、人でごった返している状況にも関わらず、更なる圧倒的な物量差で、屋台諸共押しつぶされ、壊滅するグループが多々見られるという、地獄の様相を呈していた。

 ホームでリスポンし、急いで屋台の立て直しを図るべく、縄張りへと急ぐ人を横目で見つつ、この状況でも耐えているグループに魅入る。

「はえ~…あの状況で屋台を破壊されずに維持するとか、半端じゃないな」

 足場の悪い砂漠で、真下や下段中段からの執拗な攻撃も、ビルダーが築き上げた堅牢な防塞がこ如く防ぐ。

 そんな防塞の上から、仲間やNPCが飛び道具で応戦し、ワームの数を確実に減らしていく。

 うちには、本格的なビルダーが居ないので、こういう建築が大活躍するシーンは、とても新鮮に映る。

「やっぱ、幾ら堅いと言っても、所詮は畑、本格的な防衛施設には敵わんな」

「まあ、あれだけの防塞となると、素材も馬鹿にならないでしょうから、当然かと」

 パミルの言う通り、鍬を足元に振り下ろすだけで出来る畑が、建材を消費して築いた建造物に、耐久面で劣るのは当然だわな。


「さて、このメンツならワームを数匹は狩れそうだし、少しつまみ食いしていこう」

 砂中への逃走を防ぐ畑、動きを制限する投網、横槍防止の多数の捨て駒、屈強な前衛に、近中距離の瞬間火力。

 これらの要素が揃っていれば、単体を誘き寄せれさえすれば、十分に狩れる筈だ。

 早速境界線に近づくと、ワームが砂中から豚に急襲。

 待ってましたとばかりに、シルクが間髪入れずに次々と網を放る。

 俺もすかさずワームの真下を畑に変え、奴の逃走を阻止。

 こうなってしまえば、俎板の鯉と一緒だ。さっさと料理してしまう。

 ラークとショーで危険な正面を抑え、ワイドが頭上から<波動剣>や踏みつけをお見舞い。

 前衛が大ダメージを与えつつ、注意を引き付けてる間に、ベッタラ一気に間合いを詰め、止めの一撃を見舞う。

 こうして、マッドの出番も無く、一戦目は完勝となった。

 マッドはマッドで、何時ワームが使い魔の壁を潜り抜けて来ても良いように、警戒に当たってたので、仕事は熟していた事には触れておく。

 境界線という事もあって、一度にあり得ない数が殺到する事もなく、順調に釣りだしに成功。

 計4体程狩ってから、自分たちの屋台へと帰還した。


「はい、おみやげ」

 ワーム4体分の素材を職人へ託し、仕入れ班は各々冒険へ、俺とカメキチさんは昨日と同様警護に入る。

「凄かったでしょ?」

「凄かったですね~」

 2人で屋台の警護をしつつ、ワームの縄張りの光景などの話題で盛り上がる。

「もし、あの状況に、1人で放り出されたとして、うちならだれが生き残れますかね~?」

「そうですね、単純に堅いだけでは話にならないので、俺は無理ですね」

「といっても、火力が有ればどうこうなるほど、あの状況は温く無いですからね」

「アコさんとワイド君なんかは、イケるでしょうね」

「アコは使い魔で飛べるし、ワイドはジャンプで常に宙に浮いてるし、着地も十分にケアしてますからね」

「あとはユナさんと、サチさんは…どうかな」

「ユナはイケそうですね。サチはどうだろう?刻印でどれだけ隠密出来るかによりそうですね」

 今名前の上がった4人だが、飛行、ジャンプ、超耐久STAデバフ、隠密被弾面積小、とそれぞれ毛色が違うが、大きく2つに分ける事が出来る。

 アコとユナは能力が噛み合うかどうかの運ゲー要素が強く、ワイドとサチは立ち回りが生死を大きく左右する。

 アコは使い魔のペガサスの動き次第、ユナは間合いの管理など多少は技術介入の余地があるが、やはりSTAデバフが効くかどうかで全てが決まるので、運ゲーに近い。

 一方、ワイドとサチは、能動的に立ち回る事が出来るので、何も考えずに動けば無駄死にだが、きちんと強みを生かした立ち回りが出来れば、今回想定している状況でも生還出来るのではと思っている。

 別に何かが言いたいとかいうわけでは無いが、こう、色んなビルドの中にも、相性差で全てが決まるビルドと、技術である程度補えるビルドと、各々の好みで別れるのが面白いなと思ったのだ。


「お、襲撃が始まりましたね」

 今度は犬ではなく、猪が大量にポップしているようだ。

 そこらじゅうで「フゴ―ッ!」「ブヒブヒ」と鳴き声が聞こえてくる。

 数は野犬ほどでは無いが、突進力と跳躍力に優れ、突破力が凄まじい。

 うちの屋台も、イベント開始後初のダメージを喫し、職人も防衛に参加し始める程だ。

 ただ、その分戦利品も良く、食肉が大量にドロップし、料理の売り上げアップに繋がると、タロウが喜んでいる。

 途中、戻って来たメンバーも防衛に加わり、全員が揃った頃には盤石の布陣となり、そのまま襲撃を乗り越える事が出来た。

 屋台の被害も軽微で、放置しとけば大丈夫な状態で済んだ。

 周囲も落ち着いたようで、再びNPCが各屋台の販売機に殺到し始める。

 こんな感じで、メリハリのあるイベントを熟していった。


 イベント三日目。

 今日は休日で、朝から4人でイベントへ参加。

 ログインすると、徹夜で屋台の番をしてくれたベッタラとカメキチさんが眠そうに挨拶してくれた。

「お2人ともお疲れ様」

「眠い…」

「我々は落ちますね…」

 2人ともこれだけ言い残し、ログアウトしていった。

 という事で、他のメンバーが来るまで、4人でしっかりと屋台を守っていこう。

 現実では早朝だが、ゲーム内では日の出前位だろうか?ほんのりと空が明るい気がする。

 そんな、まだ夜明け前にも関わらず、相も変わらず各所の販売機に群がるNPC達。

「おっと、商品が減ってきてるな」

 ログアウト前に、職人衆が十分に補充していった筈だが、既に在庫が半分以下に。

「急場が凌げれば良いから、久々に料理でも作るか」

 材料は、時間経過で手に入る、豚肉やハチミツ。

「これなら…生姜焼きが良さげだな」

 豚肉を叩き、塩を振り、蜂蜜を塗り込み軟化させる…といった工程が一瞬で済む。

「ホント、ゲームだと寝かすのが一瞬だし、手が汚れないのが最高だな」

 脂をうっかりタオルで拭いちゃうと以降使い道が限定されるし、段取りを考えるのも面倒だし、各種調味料の片付けも面倒だし、手も荒れるしで、料理は何かと面倒なのだ。

「そうよね、芋も皮むきが一瞬だもの」

 横で、ユキが芋の下処理をしているが、一瞬でストレートカット状に変化。

「技術を高めたいんじゃなくて、やってみたいだけなら、VRでの疑似体験は有りかもしれんな」

 そんな事を話しつつ、俺は生姜焼き、ユキはフライドポテトを量産していく。

 ちなみに芋は、俺が栽培したもので、他にも色々と用意はあるので、様子を見て売れそうなら投入してみる心算だ。

 出来上がった料理を販売機に登録すると、そこそこのペースで売れていく。

 特に強力な効果やOPは無いが、タロウの料理より安く出してるので、手が出しやすいのかもしれない。

 この分なら、そうそう売れ残りも無いだろうから、もっと追加で作っておくか。


 ゲーム内で朝になった頃、パミルとシルクがログイン。

 直後、沼地からジャイアントスラグが溢れ出し、各屋台付近で暴れ出した。

 パミルとシルクには、そのまま作業に入って貰い、4人で迎え撃つ。

「これまた馬鹿みたいにポップしたな」

 近くに生息地があるからか、犬や猪以上に湧いてくる。

「NPCが結構強いのが救いよね」

 ユキの言うように、客として徘徊するNPCはそれなりに強く、エリアごとに補正もあるのか、砂漠でもワーム相手に戦えてたくらいだ。

「でも、火力は相当抑え気味っぽいわね」

「うん、キャスターですら大したダメージは取れてないっぽいわ」

 アコとユナの指摘通り、火力の方はかなり控えめな模様。

 大槌やランス、ミドルマシンガンやミサイルランチャーなどの、高火力武器でも、普通じゃ考えられない程、ダメージが出ていない。

 まあ、NPCが全部解決してたら、イベントのコンセプトに反するから仕方ない。

 ただ、どうもNPCは、屋台から買った商品を使用する様で、うちで買い物をしたキャスターが、マッド謹製の爆薬を使ったのを見たので、多分正解だと思う。

 なので、良質な商品を安価に売る程、襲撃フェーズは楽になるという絡繰りだ。多分。

 そんな推測を充てにし、NPCが自販機へ辿り着けるために、自販機前を重点的にお掃除。

 すると、戦闘中でもNPCが自販機に寄ってきては何かしらを購入。直ぐに、シルク謹製の網を戦闘に使ってる様子を確認出来た。

 成程ね、こうやってNPCを強化しながら競うイベントだったのか。


 襲撃を凌ぎ、良いタイミングでインしてきたベルに聞くと、やはり今回のイベントは、NPCを活用してポイントを競い合うもので間違いない様だ。

「流石に三日目ともなると、結構なチームが気付いてるんですが、問題は値段設定ですね」

 どの程度の質で、どの程度の値段までなら売れるのか。

 このラインの見極めが肝なので、どこも情報を秘匿しているし、エリア毎でも違うようなのと、タイミングでも変わるらしいので、正解は無いとの事だ。

「イベントで上位に行きたければ、なるべく高く売るのが好ましいけど、襲撃の厳しさを考えると多少安く売ってもNPCを強化するべきか」

「でも、そうすると、襲撃っていう貴重な、素材の大量確保の機会をフイにする事にもなりますからね」

「そうか、NPCに倒して貰うとドロップが無いもんな」

 留守番や仕入れの事も考えつつだからな、中々難しいぜ。

「よし、うちは屋台の稼働率を重視して、NPCを強化していく方向性でいこう」

 具体的には、俺やシルクの、自動生成素材を使った物は低価格で。農耕や近場で取れる素材で出来た物は中間、遠出が必要な素材や襲撃で得られた素材の物は高価格で売る事に。

 一応、素材を得る際の対価で決めてるので、高く売る物の素材が、必ずしも良い物とは限らないが、まあそこは緩くていいだろう。


 方向性も決まり、早速商品のラインナップや価格を変更。

 当然、出数は安いものほど良くはなるが、金額ベースでは、中価格や高価格帯と変わらない感じになった。

 安い物は原価は安いが人件費が、高い物は原価は高いが人件費比率は低い。というバランス。

 ちょこちょこメンバーが入れ替わりつつ、お昼まで続け、休憩落ち。

 再開直後に襲撃が発生したが、自販機前の掃除を徹底し、在庫を十分に確保を心掛けつつ、NPCに止めを刺されない様意識する事で、襲撃時の成果の向上にも成功した。

 NPCから手柄を横取りしてるので、若干後ろめたさを感じるが、そこは妥協せずに美味しいとこを頂く事を貫く所存だ。

 横取りで得た素材を元に、更に商品を充実させ、襲撃に備える。

「気のせいじゃなければだが、少しずつ襲撃の頻度が上がってないか?」

 ふと、そんな気がして横に居るマサに聞いてみる。

「言われてみればそんな気もするが…夜は間隔が短いしそれじゃね?」

 現在、ゲーム内は真夜中なので、襲撃が頻発しているので、それじゃないかとマサは言うが。

「うーん、気のせいだと良いんだが、間隔が二分くらい縮んでるような?」

 そんな感じで駄弁りつつ、夜が明けた事で襲撃が減り、話は有耶無耶になった。


 夕飯後、マサと共に再びゲーム内で夜を迎える。

「なあ、やっぱり頻度が増してるよな」

「…そうみたいだな」

 時間を計ってみると、襲撃で湧いた敵の数が一定数以下になった瞬間からタイマーが回る様だ。

 なんで曖昧なのかというと、一定数以下になったタイミングを計れないからだ。

 なんせ、目に見える範囲でも結構な屋台が存在するし、それなりの範囲を1つの区間として判定してるようなので、全体像が把握できない以上は正確なタイミングが掴めないからだ。

 ただ、夜間の襲撃間隔が、大体で二十分程だったのが、現在は十七~八分なので、やはり縮んでるという結論に至った。

「この分だと、終盤はインターバルが十分を切りそうだな」

「そう考えると、本当に屋台の場所を難度の低い場所にして良かったよな」

 砂漠で見た、ワームの大群に呑まれる屋台を見た分、襲撃の頻度が短くなる地獄が容易に想像できてしまう。

 そういうリスクを含めての設置場所選びでもあるので、身の丈を超える欲をかいた人は御愁傷さまだ。


 イベント四日目。

 イベントも後半戦へ入り、何かと激しさを増している。

 例えば、NPCの数なんかはあからさまに増えており、襲撃が発生する度に合戦でもしてるのかと思える程だ。

 んで襲撃だが、夜以外の時間帯でもインターバルの短縮が始まり、大体一時間毎だったのが、現在では五十分を切っている。

 更に、襲撃のタイマーの回り始めるタイミングが、『敵の数が一定数以下になる』から、襲撃が開始されてからに変更されたようで、更に頻度が増した。

 なので、昼はまだ良いが、近いうちに夜間は襲撃から襲撃に繋がる…常時襲撃状態になるだろう。

 後半になるにつれ、状況は過酷になるが、NPCの購買意欲は更に高まるだろうから、終盤にどれだけ屋台と在庫の維持を出来るかがカギになる。あくまで、イベントで上位に入りたければの話だけどな。

 イベント終了後に消えるのは、期間中に屋台でクラフトした物に限るので、素材は当然残る。

 何が言いたいかというと、イベント無視で、襲撃で素材集めにだけ注力して、イベント後を見据えるのもアリって事だ。

 というか、うちみたいな中堅が、設置場所の選択で置きにいってる時点で、上位なんて夢のまた夢だ。

 一応、屋台の売上金も馬鹿にならないので、完走は目指すが、素材集めの方が儲かると判断できれば、屋台の放棄も視野に入れておくべきかな。


「後半戦に入って、息つく暇も無いな」

 更にインターバルが短くなり、夜間は常時襲撃状態に片足を突っ込んでる状態に。

 敵は、犬系、猪系、ナメクジ系が大半で、偶に森から蜘蛛や鹿等が来る感じで、バラエティーは特にないのだが、嬉しい事に、襲撃に怪物が混ざるようになったのだ。

 犬系ならヘルハウンド、猪系なら物理ダメージが殆ど通らない[タンクボア]、ナメクジ系はスラグプリミティブと、ゲートキーパーを担う怪物級と高確率で戦える。

 尤も、追い込まれる程火力の上がるヘルハウンド、物理メタのタンクボア、キングやジャイアントを吸収して持久戦を仕掛けて来るスラグプリミティブ、どれもデスワームに引けを取らない超強敵なので、易々とはしゃぶれない。

「こんな緩いエリアでこれだと、砂漠とか最果ての大陸とか絶望だろうな…」

 横に居るベルと、既視感たっぷりな会話をする。

「気にはなりますが、流石に見に行くのは無理ですね」

「その間に屋台がやられちまうもんな」

 いやまあ、時間経過で復活するから、目を瞑れるなら有りか?…無いな。

 屋台は兎も角、場所を取り返す時間と労力に見合わないわ。

 今だって、犬数百体に交じって、ヘルハウンドが3体程暴れてるんだもの。

 こんな状況で、呑気に観光なんてしてたら、戻って来た時には生き残った怪物だらけになってて、収拾がつかない事は想像に難くない。

 うん、無難に堅実にが一番だな。


「やったわ!!タンクボアに止めを刺せたわ」

 ユキが怪物を仕留め、素材が美味しい。

 しかし、どこぞの地球外生命体どうしの戦いを題材にした映画、そのPV並みに物量で押されてる中、よく狙った獲物を仕留めたものだ。

「そりゃあもう、ゴリ押ししたに決まってるじゃない」

 LPなら俺以上で、<岩の体>【命の泉】のお陰で堅さと継戦能力も十分、火力の低さは手数と【魔法接射】カバー。要は、0距離で魔法をぱなし続けてただけだ。

 まあ、そういう戦法を取れること自体が、ユキのビルドの強みでもあるがな。

 なんだかんだで、個性的なビルドが集う我がコーポは、こういう状況でこそ輝くのかもしれない。

 視線を宙に向けると、アコが弱った猪を効率よくハイエナしている。

 回避重視の飛行ユニットに騎乗しつつ、本人も低LP紙装甲を補う為に過剰にダメージ軽減を盛っている為、生存力は高水準。

 そして、任意で動かせない飛行ユニットからでも、高精度な矢を放てるだけの[銃器]の数値を確保しているのも、状況と噛み合っている。

 普通、弓や銃の威力に直結する[射撃]は兎も角、精度に補正を掛ける[銃器]はそこまで伸ばさないのだが、アコはしっかりと覚醒させた上で、肩書でのブーストもあり、超精密射撃が可能となったのだ。


 襲撃を乗り越え、一時の休息をしつつ、次の襲撃に備える。

「さ、今のうちに補給と位置取りを済ませないとね」

 物資を整え、屋台の背後にある断壁へと昇っていくサチ。

 各々が配置に着いた頃、襲撃が発生。

 先程、断壁にある足場に着いたサチが、<まきびし>やトラバサミを、ポイポイと投下する。

 計6つの固定ダメージ発生装置に敵が近づくと、僅か数秒で何度も硬直しながら溶けていく。

 犬共が、頑張って罠を撤去するが、都度上から降って来るので、被害が止まらない。

 下手人を捜索するも、他のメンバーや畑などの障害でままならず、サチ自身が存在希薄なので、位置取りも相まってかなり一方的な展開となっている。

「あ~れ~」

 カメキチさんの間の抜けた声に視線を向けると、ダンゴムシの様に丸まったカメキチさんが、ヘルハウンドを始めとした、大型種にジャグリングされている。

 頭部以外なら、相手の能力次第ではノーダメージもありうるカメキチさんは、守りに徹し手も足も出ていないが、刻印の効果で着実に、多数相手にダメージを与えていく。

 そのお陰で一層狙われるが、その分仲間の行動をアシスト出来てるので、デコイとして大活躍だ。


 休憩を挟みつつ、四日目の夜になり、イベントは更に激しさを増す。

 襲撃時の敵も増えたがNPCも大増員され、一度戦闘に入ると、何時の間にやら敵味方が入り乱れ、囲碁の様な盤面になってしまう。

 こうなると、前衛の後ろで火力を出すビルドは苦戦を余儀なくされ、かなり戦い難そうにしていた。

 うちは、全員が最低限の自衛力を持ち併せている為、屋台運営が出来ているが、中にはイベントを放棄し、戦場の端っこまで退いてから戦うグループや、そもそも撤収した者も出始めている。

 なんと言うか、随分とスパルタ気質なイベントだと思う。

「さて、周囲のライバルが減った分、屋台としては好調だが、そろそろ厳しい感じかな?」

 今いるメンツに、このまま正攻法で行くか、素材の確保に走るか聞いてみる。

 決定は、まだイケそうだからもう少し粘ろうととなった。

 ここまでくると、NPCの火力には期待できず(NPCの火力を補強する物を売る店が減ってるから)自力で振り掛かる火の粉を払う必要がある。

 ベッタラ、マッド、ショー、タロウが居る間は心配ないが、この3人のうち、誰か1人でも居ないと、途端に火力不足が浮き彫りとなる為、その間をどう凌ぐかが鍵となる。


「そんじゃ、悪いが先に落ちるわ」

 言ってる傍から、ベッタラがログアウトし、瞬間火力要因が1人も居ない状態に。

 現在居るのは、ユキ、アコ、ユナ、ベル、ワイド、おりょうさん7人。

 この中で、単体に対する火力ならユキが、対多ならワイドが良い線いってるので、この2人を主軸に布陣を組む。

「アコは遊撃だからお任せで良いとして、…うん、他もユキとワイドが動きやすいようにうまい事やってくれ」

 結局は、いつものように、各々好きにしてくれで済ます事に。

 そして襲撃が始まり、俺は皆の退避場所を確保しつつ、ついでに屋台を守りながら農耕。要は何も変わらないって事だ。

 ユキは単騎で動きつつも、常に<ヒール>の範囲内に留まり、ナメクジの数を減らしていく。

 アコは宙から矢を射掛け、討ち漏らしを確実に始末していく。

 ユナはワイドと行動を共にし、ワイドの安全を確保しつつ、敵を引き寄せながら[火傷]させていく。

 ベルは後方で、適宜仲間を回復をさせつつ、抜けて来たナメクジを撲殺。

 おりょうさんは、柴犬ズと一緒にナメクジを倒していく。

 今いるメンツの出せる戦果としては十分だが、やはり殲滅力が足りない。

「あっという間に屋台周辺に追い込まれたわね」

 ユキが、[旋風]を設置しつつ呟く。

「仕方ない、元々攻めより守りが得意な人間ばっかだしな」

 広く敷いた畑を、ナメクジが持ち前の踏破性で乗り越え迫るのを、皆で押し止める。

 以前は、畑がある場所の移動は保証されてたのに、今では敵も柵やら何やらを平気で超えて来るからな。

 動き易さの為にも、積極的に侵入者を排除しなければならない。

 7人もいて、動ける足場が十畳ほどしか無いとか、もはや戦闘どころではないからね。

 格ゲーでも、例え溜め系の待ちキャラでも、多少の余白は欲しいものだ。画面端は本当に択が限られる。

 そんな事を意識し、常に空間を広く確保する様に立ち回る。

 そして、襲撃をやり過ごした頃、マッドがインしてきたが。

「…これはもう、明日皆がインするまでは、守るのは無理だろう…」

 という、マッドの意見を採用し、一旦売り物を回収し、屋台を放棄する事にした。

「ここでログアウトした奴らには、俺がメッセ飛ばしたうえで、出来る限り残るから、落ちる人はどうぞ」

 こうして、俺とマッドはログイン直後のリスキルを防ぐために残り、他はPAに戻りログアウトしていった。

次回も二週間程で。

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