第五十四話
~前回までのあらすじ~
統合ライセンス『使い魔師範』を取得し、更にはプロへの昇級を成功。
そして、俺や仲間の淘汰数も2回目3回目と増え、増々個性的なビルドへと変貌していく。
「次は私の番ね」
お次はサチの番。
「私が消去したのは【ワイルドハンター】と《生命マニア》で、刻印は〖忍びの刻印〗と〖詐欺判定の刻印〗よ」
〖忍びの刻印〗足音と匂いが消える。
〖詐欺判定の刻印〗自身の当たり判定を一回り小さくする。
「【ワイルドハンター】消しちゃったんだ」
「ええ、[獣人]はそこまで覚醒させてなかったし、肩書での補強も無かったから」
「そうか。しかし、足音と匂いが消えて、判定まで縮んだのか」
「更に見つかり難くなったし、被弾リスクも下がったわ」
存在感が薄れ、足音限定とはいえ音も消え、匂いも消え…生物系には効果覿面だ。
判定の縮小も、不意の暴れによる事故も減るし、耐久性の底上げにも一役買っているようだ。
実際、戦闘中にサチ以外がわーわーとやってる最中、1人敵の死角を突いて罠を仕掛けると、相手によってはダメージに反応して闇雲に攻撃する事があり、パっと見ではそれに被弾してた場面もあったが、実際にはノーダメージだった。
まあ、あくまで判定が小さくなっただけなので、雑に広範囲な攻撃には意味がないので気を付けたいところだ。
サチもそれが解ってるからこそ、そもそも見つからないように、気配のシャットアウトから入ったのだろう。
被弾したくなければそもそも攻撃させなければ良い、というわけだ。
それでも被弾した時の為、キッチリと耐久面も伸ばしてるのもミソだ。
ステルス性と高耐久。これほどしぶとく生き残れる組み合わせは無いだろう。
お次はラーク。
「俺が消去したのは【百獣の王】と【銅製武器】で、刻印は〖法の刻印〗〖法度の刻印〗です」
〖法の刻印〗現在居る区画に掛かっている制約等を見破る事が出来る。
〖法度の刻印〗敵が何を、反射、吸収、無効化出来るか見破る事が出来る。
「【百獣の王】が消えてるから防具も様変わりしてるのね」
以前と違い、全身キッチリとカバーした防具を纏っている。
「なんか代替の刻印がどうとか言ってた気がするが…」
「ああ、この2つに目移りしたんで後回しにしてます」
「ふむふむ、そんなに強力なのか?」
「強力と言うか、分からん殺し回避用って感じですかね」
「成程。制約って腹が減りやすくなってるとかSTAが回復し辛いとか、追加のルール的な奴だっけ?」
「そうです、その区画に居る全ての存在に科せられるルールですね」
「それを瞬時に見破れるのか」
ラークによると、最近この手のルールを科す様な能力持ち(ルールメイカーとか言われてるらしい)が増えてきていて、油断していると10:0のダイアグラムすらひっくり返されてボコられる事も珍しくないという。
「態々刻印枠を使ってもって事は、相当エグイ制約があるのか」
「俺が見た中では、『武器が壊れやすい』『魔法が連続で使えない』『一分間区画を跨げない』とかですかね」
「…どれか1つでも相当数のビルドが麻痺するな」
制約は、科した本人も影響を受ける為か、結構強力なのが気軽に使えてしまう様だ。範囲がそこまで広くないのも後押ししてるのかもな。
「法度の方は分かりやすい強さだな」
「ですね、メタをメタれるだけでメンタルアドになりますし」
うん、実に堅実なビルドに仕上がっているな。
お次はワイド。
「俺が消去したのは【重力下】と【ホッピングブーツ】で、刻印は〖踏殺人の刻印〗と〖軽業師の刻印〗です」
〖踏殺の刻印〗踏んだ相手から一切の反射ダメージとカウンター技を無効化。
〖軽業師の刻印〗如何なる状況においても、ジャンプ力が半分以下にならず、その他デバフも無効化する。
「その2つの消去に踏み入ったのは、〖軽業師の刻印〗があったからか」
「ええ。正直、十分な+値と重複さえしてれば、このギフト2つの方が強力で確実性が有ったんですが…自分は[跳躍]の覚醒数がそこまで多かったわけでもないので、刻印1つで補う事にしました」
「ワイドは[獣人]と[吸血鬼]を肩書で伸ばしてるもんな」
「そうなんですよ。なので、今のところはですが、ジャンプ関連は刻印で補強して、消去の分を捻出しようかと」
解る、解るぞその気持ち。
本当はどれも消したくないんだが、余程偏ったビルドで来ない限り、パラメータもギフトも肩書も、幾つかは切れても精々その程度で、10個もとなると頭が痛くなるのは必至だ。
「肩書も、覚醒数を増やす系なら、踏み台の数種は躊躇なく切れるけど、○○信者辺りから胸騒ぎがするよな」
「ええ、ギフトの+補正だと5に相当しますし、基礎性能も素の状態の50倍ですからね…そりゃ簡単に切れるわけないよと」
それでも前に進むには必要な犠牲、通過儀礼なのでやるしかない。
「もう1個の方は堅実な効果だな」
踏み限定だが、反射もカウンター技も無効にするとは。
「過信は禁物ですけどね、普通に槍衾とかされるときついですし」
「まあ、ジャンプ中無敵になるとかじゃないからな」
それでも奇襲で踏みに行く分には、リスクが少ないのは何かと助かる筈だ。
最後はショーだ。
「それじゃ種明かしですね。俺が消去したのは[装甲]と[障壁]、刻印は〖漫画星の刻印〗〖氷河期の刻印〗です」
〖漫画星の刻印〗敵を殴打した際、星形の物体が2つ生成され、触れた敵にダメージを与える。
〖氷河期の刻印〗氷水系ダメージを吸収。
「ああ、あの星形のエフェクトはアレか、漫画やアニメで殴打された時の演出か」
「アレにダメージ判定が付いたバージョンですね」
なんと言うか、凄くギャグ的ななのに、実際の威力を知ってると、全然笑えないんだよなぁ…。
火柱と同様に多段ヒットするので、対象のゲージの減り方が見ていて楽しくなってくる。
これといってクールタイムも無い様で、殴るだけ火柱と星が出現し、単発ダメージは勿論、総ダメージも申し分ない。
多分、俺の様なLPが高いだけのビルドだと、近寄られたら数秒で消し炭だろうな。
「〖氷河期の刻印〗はなんでまた?」
「[魔導士]メタになるのと、強力な刻印を開放する為です」
氷水系…雪山の環境ダメージを始めとして、水属性と氷属性も吸収出来る為、<アイススピア>を喰らいにいけるのが、相当強いとの事だ。
そして、〖氷河期の刻印〗の取得を条件に解放される刻印、〖温暖化の刻印〗が、袁悦系ダメージを吸収するらしく、察しの通り<ファイアーオーブ>を吸収出来るようになるので、2つ揃えば対[魔導士]メタの最高峰になれるという。
「ウゲ、そんな刻印の存在が既に拡散されてるのね」
最近では、[旋風]や[ダークニンバス]もメイン火力となりつつあるユキでも、<アイススピア>と<ファイアーオーブ>が吸収されるとなると、火力の観点から相当厳しい様だ。
これまで、因子の専用魔法として、重複ボーナス、覚醒の恩恵等で、他の魔法に対し、圧倒的な手軽さで人気を誇ってきた2種だが、ここにきて最悪レベルのメタが認知され始めたので、今後は特化するか多様化を図るかで、一層慎重にビルドを構築する必要がありそうだ。
最後はユナ。
「私で最後ね。私が消去したのは《生命信者》で、刻印は〖重力の刻印〗よ」
〖重力の刻印〗:半径100m以内の敵を、秒間1㎝ずつ引き寄せる。
「えーっと…」
「なにか?」
「どうツッコんだらいいのかと」
小惑星かなんかかよ!範囲は矢鱈広いくせに肝心な引き寄せ効果が分かり難過ぎる。
「巨獣が秒間1㎝引き寄せられたとこで気づかないし意味あるのか…」
「ん…まあ、アニマルではちょっとね…でも、一部ビルドには刺さるんだわこれが」
そう言って、100m先の射手や狙撃手にとって、自身の意図しない座標のズレが、例え1㎝であったとしても、如何に致命的かを熱く語るユナ。
だんだんと洗脳されていく俺と仲間たち。
「確かに1m先では誤差は2㎝にも満たないわ、でも刻印の限界範囲の100m先なら…」
なんか、悪徳商法のセールストークでも聞いてるみたいだ。
「ましてや1㎝も人が動くのよ?分度器に定規を当てて見てよ。たったの1㎝でもどれ程の角度差が出るやら…」
確かに認識は検める必要は有るな。
「でも、射撃主って、自動補正系のスキルかなんかを持ってる人も居るだろう、そういう相手には効果は無いんじゃないか?」
「そうね。でも、誘導系でも遠距離なら修正中に障害物に当たる可能性も増えるし、エイムアシスト系だと、そもそものターゲットがズレる可能性も出てくるわ」
うーん…確かに細かい部分まで考えると、強力な刻印なんだろうな。
「そろそろ帰ろうか」
アニマルでの狩りを終え、PAに帰還。
「それじゃクラフトに専念するです」
「私は落ちるわ」
「俺達は狩りに出ますね」
シルク、サチ、トリオがそれぞれに散っていった。
「俺らも一旦落ちるか」
そして夜に再びログイン。
「おし、3回目の淘汰に入るか」
既にユキアコユナの3人も教会でステータスとにらめっこ中だ。
「さて、今回はどうしよかねぇ…」
先ずは何を消すかを吟味。いや、消すのは決まってるんだが、順序がね…。
「先延ばしにしてると、変に段取りが崩れる可能性も有るしな、ここは【核細胞保護】を消すか」
現状の+値なら、1つ残ってればそれなりに安心出来るだろう。
「さて…刻印は…」
幾つかの選択肢の中に、もうこれを選ぶしかないというものを発見。
〖円盤の刻印〗:敵をキャトルミューティレーションする円盤のサポーターを連れ歩ける。
何故にこんな刻印が?っと思えるが、多分蓋のお陰だろう。
しかも、どうやら自動修理機能も付随してるらしく、撃墜されても時間経過で復帰してくれる様だ。
流石に、使い魔の様に即時復活とはいかない様だが、STA消費無しで復活なら、ビルドによってはこちらの方が便利かもしれない。
気持ち的にはもう決まりだが、一応新たな選択肢にも触れておく。
〖縛りの刻印〗最も数値の高いパラメータ以外のパラメータを20%低下させ、一番高いパラメータに低下した数値の2倍分加算する。
〖使い魔束縛の刻印〗使い魔の行動範囲を狭くするが、モーション速度を30%上昇。
ぶっちゃけ、この2つも相当イカレた効果なんだが、デメリットが存在するのがややネックとなり、今回は見送りとなった。
「という事で、刻印は〖円盤の刻印〗で決まりだな」
「お待たせ」
ユキアコユナと合流し、お互いの新ネタを検証がてら披露する。
「へ~、これでもかってくらい円盤してるわね」
「…小さくない?」
「そうね、どら焼きかな?」
皆が指摘する通り、円盤円盤した円盤なのだが、サイズが想像と違い、どら焼き程度しかない。
「あれだ、円盤は円盤でも、UFOキャッチャーのアームだ」
「「「UFOキャッチャー?」」」
「え?」
そうか、今時の子だと、UFOキャッチャーって何?って感じになるのか。
俺らが幼い頃のプライズ…クレーンゲームのアームはUFO型だったんだ…。
十年仮死状態の雪乃(16)
生まれてこの方ほぼ外出無しの雪奈(16)
そもそも若すぎてゲーセン文化すら触れていない亜希子(24)
「俺がガキの頃にはクレーンゲームのアームと言えばUFOだったんだよ…」
そうだよ、まだ年齢一桁台の頃、よく親父にゲーセンに連れてってもらって…?
「ッ!?」
「ちょっとテツ君!?ジェネレーションギャップがあったからって、しょんなにショックを受ける事!?大丈夫よ、きっと若い子でもUFOキャッチャーで通じる子もいっぱい居るから」
俺が頭を抱えると、ユキが慌てて謎のフォローをしてくる。
「大丈夫?」
ユナも心配そうに声を掛けて来る。
「大丈夫だ、ちょっと頭痛が」
「そう?辛かったら言ってね?」
さて、少々ハプニングもあったが、お披露目の続きといくか。
「さて、実戦ではどんな挙動をしてくれるのかね」
検証の場に渓谷を選び、谷底を遡上。
森でも良かったんだけど、先ずはモブ相手に見た方が良いと思い、ここを選んだ。
早速ヒグマが現れたので、円盤の挙動に一同注視。
すると、使い魔ではなくサポーター枠という事もあり、まだかなりの距離が有り、天使すら待機中にも関わらず、円盤が凄い速さで距離を詰める。
あっという間にヒグマの頭上を取ると、イメージ通りの光景に発展。
「おお、吸ってるな」
頭上から光が降り注ぎ、ヒグマが僅かにだが宙に浮く。
しかし、移動が阻害されるだけで、動き自体を封じてるわけでは無い様で、振るわれた腕によってアッサリと跳ねのけられ、拘束が解かれる。
払われた円盤は、直ぐに制動し、再びヒグマにキャトルミューティレーション。
その都度ヒグマが振り払い、中々コチラへ近づく事が出来ずにいる。
「成程ね、直接的な火力は持ってないけど、非常にウザい行動制限力が有るってわけか」
それに、刻印由来だからか、ステータスが高い様で、二桁は熊に払われてもLPがまるで減っていない。
よく見ると、減った傍から回復してるので、リジェネレイトも持ってるようだ。
「粘着質な円盤ね…」
うわぁ…という感じで眺めるユキ。
そして、とうとう天使の射程に入ったヒグマに矢が命中しだし、ガーディアンの魔法圏内に入る前に討伐された。
「これはエグイわね…」
アコの言うように、事ある毎に宙に浮かされ歩みを止められ、そこを遠距離精密射撃で削られ続けるという地獄。
「というか、〖天使の刻印〗〖円盤の刻印〗の刻印2つで成立するコンボってのがエゲツナイわ」
ユナの呟きが正鵠を射る。刻印同士のシナジーなので、中々ギフトや肩書でカウンターするのも厳しく、一度嵌ると洒落にならないのだ。
「うーん、刻印間のシナジーとはこれほど強力なのか…」
「そうね、単にこれまでのビルドの延長っていう考えは捨てた方が良いかも」
これからは、刻印同士の相性とかも、しっかり考慮する必要が有るな。
続いてユキの検証タイム。
「今度は【コメット】を消去して、〖黒魔術の刻印〗を取得したわ」
〖黒魔術の刻印〗:攻撃魔法のダメージが10%上昇し、反射されてもダメージを受けない。
「【コメット】はなんで消したの?」
「吸収対策よ、氷炎物理の3属性を付けちゃうから、最悪トントンか赤字化も有るかもしれないし」
確かに、相手が属性の吸収を持ってたら、最悪回復が上回る可能性もあるな。
「刻印は反射メタか」
「うん、流石に魔法の反射無効は強過ぎるからか、あくまで返された際のダメージが無効だけどね」
それでも、不意の反射で事故らないだけマシか。
「手数重視なのに弾幕すら張れないとか流石にね」
そうこうしてる内に、渓谷上流に到着。
「お、自前で汚染度を稼がなくて良さそうだな」
今回検証したいのは、当然ユキの刻印の効果だ。
その為に反射持ちのゲートキーパーが出る区画まで来たのだが、既に何組かの先客がテンプレ化された手順で汚染度を上げ、降臨の儀式をしてる最中だった。
「すみませ~ん」
「はいは~い」
「ちょっと反射持ちに攻撃したいんで、お邪魔してもいいですか?」
「OKですよ、こちらも長々と居座って申し訳ない」
「いえいえ」
という感じで、先客の了承も得たので、早速一番槍をユキに譲ってもらった。
「それじゃいくわね、<アイススピア>!!」
多数の巨大な氷柱と共に紅蓮の火球も飛んでいき、ゲートキーパーの[トラウトイーター]という、ヒグマと全く同じ見た目の怪物に命中。
独特のエフェクトが発生し、ダメージの大半が反射される。
「うん!しっかりと反射ダメ無効が効いてるわね」
「良かった。それじゃお邪魔しました~」
戦線から離脱し、再び下流へと戻った。
ここで少し捕捉するが、今しがたユキが使用した<アイススピア>だが、本来はスキル変化により、<ダイアモンドスピア>に、同様に<ファイアーオーブ>も<フォールンサン>へと変化してるのだが、ユーザーへの配慮なのか、発動する際のキーワードは、これまでのスキル名なら代替出来るようになっている。
なので、ユキの場合は<クラスティオーブ>でも<フォールンサン>でも発動する事で出来るのだ。
以上、遅過ぎた捕捉でした。
「私は2回目の淘汰にも触れるわね」
お次はアコの番で、2回目と先程行った3回目も同時に発表。
「私が消去したのは無用の長物となった【スイッチファイター】と【半馬の騎士】よ」
「あ~、ランスを使わないなら前者は当然後者も全く意味がないもんな」
「その分切るのに躊躇なく出来て良かったけどね。んで刻印は〖鳴弦の刻印〗と、今回新たに取得した〖返し矢の刻印〗よ」
〖鳴弦の刻印〗矢を射った際、一秒間だけダメージを90%軽減する。
〖返し矢の刻印〗命中した矢がオブジェクトとして残るようになり、十秒間残ると追加でダメージが発生す
る。矢のLPは射手の[生命]に依存。
「という感じよ」
「一秒間だけの90%カットのバフか」
「私は素の耐久は低いからね、こういうので騙し騙しやっていかないと」
「確かに。《ゴールド免許Lv2》の90%カットがあってもなお、カメキチさんやユナと比べると二桁位堅さに差があるもんな」
尤も、立ち位置の関係上被弾率がダンチなので、アコが特別柔らかいわけではない、というかアーチャーとしては十二分に堅い方だと思う。
ただ、火力や精度を度外視で、毒矢等を乱れ撃ちするデバッファー的なアーチャーも居て、そいつらは射程と耐久を極限まで伸ばしているそうだ。
話が逸れたな、本題に戻そう。
「さて、今度は〖返し矢の刻印〗か」
「大体のイメージは掴めてるんだけど、実際の挙動を見ないと何とも言えないわ」
という事で、のそのそと渓流で水を飲んでいるヒグマのプリチーなケツにアコが射掛ける。
フカフカのケツにちょこんと生えた尻尾と矢。
即座に吠え散らかしながら距離を詰めて来るが、円盤が邪魔をし、鬱陶しそうにしてる間に十秒が経過しダメージが発生。
ビクンとなるクマがなんか可哀想だ。だってケツに手が届かないんだもん。
かといって敵が見てる前で尻を地面に擦りつけるとか、自殺行為に他ならない。
そんな悲壮感漂うクマが、刺さった矢の追加ダメージで消滅した。
「これは良いわね、これなら追加でどんどん射掛ければ、時間差でもの凄いダメージが入るわ」
ぶっちゃけ、残留が十秒程度だと、他の手段で火力自体を盛った方が良いのだろうが、二十秒以上残れば実質火力は3倍に。
これなら十分価値のある選択と言えるし、対人でも相手のビルド次第じゃ自力では矢を取り除けない可能性もあるので、かなり凶悪な刻印かもしれないな。
そんで最後はユナの検証。
「今回は《生命信者》を切って、〖惑星の刻印〗を取得したわ」
〖惑星の刻印〗:自身の居る区画に入ってきた敵を[火傷]状態にする。
「これまた随分と凶悪な…」
敵が、ラークの様な制約を見破るスキル等を持っていても、これは区画に科せられたルールでは無く、あくまで入ってきた敵を[火傷]させる効果なので、初見では防ぎようがない。
そして、今から大事な検証を行うので、森へ向かう。
森へ着き、ユナが適当に悪党と鬼ごっこをする。
すると、途中で慌てて悪党が距離を取り始める。
その後も悪党と何度か鬼ごっこをするも、やはり途中で逃げられてしまった。
「どうやら、火傷が入ると、しっかりとログに情報が出てしまうようだわ」
「そうか、戦闘中でもしっかりとログを見てる奴だと、最初の1回目で気づかれる感じか」
それに、効果が発動する度に、ジュッとかシュボッとかSEが出てたので、尚更気付かれ易いかもしれない。
「まあ、抑止力として考えるなら、気づかれ易いのもメリットと言えばメリットか」
「まあ、そう考える方が健全よね」
流石にノーヒントだと、昨今のインフレ多様化環境だと、何が原因か判らないと強過ぎるか。
「あとは、過信も禁物ね。所詮[火傷]は防御力が下がるだけだから、相手のスタイル次第では、そのまま押し切られて私のLPが削り切られるわ」
そりゃ、ガン攻めを信条としたビルドなら、多少の瑕疵なんて気にせず押してくるだろうし、そういう駆け引きもまた、PvPの醍醐味だ。
なんにせよ、お手軽に状態異常を与えられる良い刻印だ。
検証から一夜明け、マサとドラグーンを攻略中。
目的はブラキオサウルスの討伐で、マサの装備の更新に必要だからだ。
「漸く思い描いたビルドへの転換の目途が立ったからな。合わせて装備も強化しようってな」
どうやら、以前の様な通常範囲攻撃を主軸にしたビルドに回帰するらしい。
「俺の現在の淘汰数は3回なんだけど、2回目3回目をどうしたかは言ってなかったか」
という事で、マサの2回目3回目の淘汰の話になり、それぞれ【圧縮波】を消したそうだ。
「あと1つ【圧縮波】が残ってるのか」
「ああ、今持ってるこの短い斧と、スキルのブーストと【圧縮波】で、大体相殺されてるから、まあリーチは見た目通りだな」
「ほう、って事は、次の淘汰で【圧縮波】を完全に消すわけか」
「そうそう、そして目当ての刻印を取れば、良い感じに広範囲の通常攻撃が可能になるんだ」
どんな刻印か聞いたが、それは次回のお楽しみと言われてしまった。
まあ、マサにとってベストな刻印が解放されたようで良かった。
「っと、取得した刻印にも触れなきゃな。2回目3回目の選んだ刻印は〖死者の刻印〗〖転生の刻印〗だ」
〖死者の刻印〗死亡時に、35%の確率で復活する。
〖転生の刻印〗死亡時に、35%の確率で復活する。
「両方共〖冥王の刻印〗」と同じ効果なのか
「そうだ、これで刻印だけで復活率が72%になったぜ」
「特に制限のない効果でその確率は強いな」
「更に《蘇りし者Lv2》も入れると93%で、もし仮に《冥府の神Lv3》も残すと、96%まで上がるぜ…まあ此処までくると誤差か」
《冥府の神Lv3》は肩書の枠を4つも食って、復活率50%だからな…制限なしは強いが、3%しか増えないなら消した方が色々と都合が良さそうだな。
話に一段落付いた頃、漸くブラキオサウルスと遭遇。
ガン攻めで短期決戦を望むも、次から次へと現れる援軍と言いう名のハイエナによって戦果は横取りされてしまった。
俺らはマナーを守る様心掛けてるので、グッと堪えたが、逃した魚が大物だった分現場は一触即発の修羅場と化す。
「こりゃ諦めた方が良さげだな」
「しゃーないな」
淘汰も進み、プレイヤー全体の能力が底上げされ、ペット可目当てのテイマーと素材目当てのハンターが大勢詰め掛けてるせいで、競争率が高すぎる。
誰が口火を切ったか、既に激しい罵り合いに発展。
一方的ではない分、直ぐに運営の粛清が行われる事は無いが、自制が効かないと判断されれば、結局はペナルティを科せられる羽目になるというのに…。
しかも、幾ら能力がインフレしてるとはいえ、此処はドラグーン。
未攻略の非テコ入れ環境でも、敵の単体での強さは比類ないというのに…。
現場を離れつつ、呆れていたら悲鳴が聞こえてきた。
直ぐに臨戦態勢を取り構えていると、トリケラトプスの群れが突っ込んできた。
既にマサと2人きりで、大所帯では無い為、畑を敷きつつ脇に避けるだけでやり過ごせた。
「ざまあねえな」
「危険地帯で人数補正が掛かってる状態で集団ヒストリーとか自殺行為だよな」
各々のパーティー単位なら、多少の襲撃は問題無くとも、例えば4人パーティーが50人分の補正を受けた襲撃を、周りとの連携無しで乗り切れるかって話だ。
逆に、俺らのとこに来る頃には、2人分の補正に落ちてるので、アッサリとやり過ごす事が出来た。
こんなハプニングに見舞わられ、余計に割に合わないと感じ撤退した。
「今度は久々のエルフィンか」
「ああ、再占拠された廃都のリッチが良い物を落とすんだ」
リッチのドロップする、古木が斧の柄に使えるそうだ。
「ベースにすると、リーチは長くなるし属性威力が上がるんだとさ」
「そりゃ便利だな」
「その分ドロ率は渋いけどな」
ああ、そこで俺の出番って事か。
「対アンデッドのスペシャリストにして[幸運]持ちのテツ様が頼りだぜ
「なにを調子の良い事言ってんだよ」
一般向けのホームから徒歩で廃都に向かう。
「おー、結構賑わってるな」
「色々と有用な素材の宝庫らしいからな」
そんな廃都に久々に挑む俺ら。
「さて、どうする…ってマサが居ねえ!?」
周囲をよく見ると、視界にゾンビに囲まれてるマサと豚を捉える。
俺の円盤や天使は全然関係のないアンデッドを狙っていて、救出の役には立ちそうにないので自ら赴く。
「おーい、大丈夫か~?」
「なんとかな~」
変に吹き飛ばすと、その先で吸われて更に面倒な事になるのを警戒してか、ゾンビを打ち上げるに止めて凌いでいた。
合流するや、俺とマサの足元に畑を敷設。
落ちてきたゾンビを隔離しつつ各個浄化していく。
「相変わらず堅ぇな」
「しぶといのがアンデッドの特徴だからな」
ランタン10個で炙ってるのに、短時間なら平然と動いて来るからな。
「さ、リッチは内部の議事堂付近なんだろう?気張っていくぞ」
マサが気合十分に先行し、俺も後に続いて内部へと侵入した。
「早速熱い歓迎が始まったな」
内部へ突入するなり、大量のドローンによる弾幕に晒される。
豚と畑で身を守りつつ、マサが【トマホーク】で、俺は使い魔でドローンの数を減らしていく。
「チッ…数が多いな」
「そんだけ人が居るって事だろう」
余所様が湧かせたドローンも混ざってるのか、兎に角数が多くて困る。
「仕方ない、一旦下水に降りよう」
廃都の構造は熟知してるので、下水から議事堂を目指す事に。
「下水は下水でゴーストとかスペクターとかヤバいのが出るんだが、数で押されるよりはまだマシだろう」
「そうだな、特に飛行ドローンが面倒だしな」
使い魔が面倒なのを優先してくれればいいんだが、如何せん狙い通りには戦ってくれないからな。マサの投擲も大群を追っ払うのは厳しいし。
「せめて雨観亀の降水高度がもうちょい高ければな」
突っ込んでくるクロスイーターとかなら問題無いが、距離を取ってチマチマと飛び道具で圧を掛けて来るドローン相手だと、例え真上にこられても高さが足らずに当たらないんだよなぁ…。
「まあ、所詮は使い魔だからな。もしz軸に対しても普通に届いたらヤバ過ぎる」
「そうだな」
変化を重ね過ぎて、大分感覚が麻痺してきているが、本来使い魔は安い弱いで数を補う為の存在だからな。
プレイヤーや強モブ相手だと、強めの使い魔が10体居ても勝てないのが当たり前だ。
それをどう運用するかは個々のビルド次第ではあるが、基本的にはヒエラルキーの最下層に在るのが使い魔という存在なのだ。
マサと下水進んでいると、一瞬でスペクターに囲まれた。
「ホント厄介だな瞬間移動ってのは」
「おまけに物理も通らねえときた」
取り敢えず畑を敷き、2人で聖水を投げながら使い魔を援護。
「元がただの水とは思えない威力だな」
マサが、マッド謹製の聖水の威力に感心する。
「凄いだろ?俺も散々お世話になったからな」
原価格安故にぽいぽい気兼ねなく投げれるので、ストレスフリーなのが有難い。
「とはいえ、こうも引っ切り無しなのは困りもだな」
「だな、どっから湧いてるんだ」
中央に近づくにつれ、エンカウント、ちょっと進んでまたエンカウント。これの繰り返しで中々先に進めん。
戦闘の絶え間に耳を澄ますと、地上やら同じ下水から激しい戦闘音が聞こえてくる。
「マサは聖水の在庫は大丈夫か?」
「ああ、まだ1万個ほどあるぜ」
「俺もその位あるから余裕だな」
俺もマサも、装備にそこまでのコストを割いていないので、こういう消耗品が大事な場面では、息が長く続くという強みがある。
差し当って物資の不足は心配ないので、このまま聖水をじゃぶじゃぶつぎ込んで進む事に。
そしてしつこ過ぎるエンカウントに辟易しつつ、漸く議事堂前のマンホールに到着。
やっとこさ本番だ。
「わーお、凄い激戦区だ」
「おっと危ない。こりゃ流れ弾にも気を付けないとな」
飛んできた氷柱を躱しつつ、マサと下準備をする。
あんまり議事堂に近すぎると、巻き添えで酷い目に遭いそうだから、少々後方に陣取る事に。
それでも準備中にも関わらず、色とりどりの魔法が飛び交い、都度ボロボロに荒れる畑。
「豚の耐久力じゃ耐え切れんか」
弾幕で豚が破裂し、リポップまでの僅かな隙間でも、驚異的な攻撃が叩き込まれるこの状況。
既に執着免疫も発動してるというのに恐ろしいものだ。
所詮は使い魔の分際、そして[養豚家]の覚醒数がたったの2回というのも、ここぞという時に微妙に力不足に感じる要因だろう。
「良し、この位畑を広げれば十分だろう」
退路を確保しつつ、地上ドローンを抑える為に、広めの畑を用意。
取り敢えずリッチが寄って来るまでは、ドローンを狩って半導体などを集める。
偶に、リッチの流れ弾やゴーストの不意打ちで瓦解仕掛けるが、その都度立て直しつつ粘る事三十分。
「…流石に同時に3体は無理だろ…」
「逃げ一択だな」
運悪く、死角をカバーし合っていたお隣さんパーティーが壊滅し、一気にしわ寄せが来てしまう。
既にスナリーガスターも召喚済みで、脇をドローンとゾンビが固めてる絶望的な布陣。
勝てない戦いは避ける主義なので、残念ではあるが、今回は撤退する事にした。
後日。
じゃれついてくる白モフの相手をしつつ、自身のステータスとにらめっこ。
「うーん…いつもの事だが、またこの問題にぶち当たるか」
毎度おなじみの、自己強化の手段の少なさである。
「Lv上げてけば確かに強くはなるが、特化にせよ汎用化にせよ、Lvだけだと限界が見えてるんだよな」
ライセンスは神級、超級、統合プロ級で、簡単には上げれない。
アビリティは、最近になって判明した、1キャラにつき10個までという制限が発覚し、チェーンクエスト等で得られるモノを考え無しで取得すると、後悔する羽目になるので、迂闊には手出しが出来ない。一応、アビリティ専門のNPCに頼れば、不必要なアビリティは消せる様だが、回数に制限があるらしく、更に一度消したアビリティは二度と取得できない制約もあるそうなので、ある程度考えてからの方が無難だ。
装備に関しては、伸びしろは十分だが、強化は沼過ぎて優先度はどうしても下がってしまう。
「ここは思い切ってアビリティを10個取ってみるか?」
現状、最もお手軽な、Lvに拠らない強化手段が、アビリティの取得だしな…。
「いや、こいつ等を地道に育てるのも悪くないか」
白モフをこれまで以上に強化し、蓋に率いらせ連れ歩くだけでも大分違う筈だ。
ただまあ、先にアビリティについてしっかりと検討するべきか。
先程、アビリティをバンバン取ってると、後悔すると言ったが、厳密には無駄になる事は無いのでそこは心配していない。
というのも、今回の淘汰では、刻印によって無意味になったモノは自動で消去され、選択消去とは別に、パラメータ補正を得られるチャンスにもなるので、もし「こんなの取らなきゃ良かった…」というアビリティが有っても、刻印次第でパラメータを伸ばす糧に出来るので、無駄にはならない。
まあ、俺の持ってるアビリティ[ドッペルゲンガー][種苗袋][ボロボロ防柵][スワンプマン][死への免疫][高純度ヒアルロン酸]の中だと、[死への免疫]…。
「ちょっと待った!!これ〖命の刻印〗を取ったら【生への執着】と[死への免疫]は勿論、[スワンプマン]も消えちゃうじゃん!!」
おいおいおいおい!?完璧だと思ってたビルドプランに暗雲が立ち込めだしたぞ。
スワンプの発動条件は、LPが10%以下の時にダメージを受けるなので、LPがLGに置き換わった瞬間にアビリティそのものが消えてしまう。
「流石に[スワンプマン]の消滅は許容できないよな…」
ガチの主力アビリティだからな。
「嗚呼クソ…ここにきてまたビルドの練り直しか…いや、このタイミングで気づけて良かったと思えば良いか」
もはやアビリティの取得がどうとか言ってる場合ではない。
さあ、知恵熱の時間だ。
「えーっと…」
現状、既に割合ダメージメタの【核細胞保護】を1つ消去してしまっているので、無傷とはいかないが、肩書で[生命]の覚醒数を確保し、十分な+値補正を得られれば何とかなる。
「元々《運命の神Lv1》は残す心算だったからここは問題ないと」
多分、よっぽど割合いダメージに特化した相手じゃない限り、+20以上あれば何とかなるだろう…と思いたい。
「現状、消去済みが《幸運フリーク》《生命フリーク》も含め3つ。《生命マニア》《生命信者Lv1》《幸運マニア》を切れば7つまで捻出できる…」
ここまでは、つい先ほどまでのプランとそこまで乖離していないのだが…。
「良く考えろ…最善手を探るんだ」
プラン崩壊により、後々消すはずだった【生への執着】。こいつは使い魔の驚異的な堅さに寄与するだけでなく、[スワンプマン]の発動条件の緩和にも役立っていた、俺のビルドの立役者とも言えるギフト。
もし、今考えてる仮のプランで行くと、【生への執着】の+値は37となって、単体での効果が42%以下で48倍…。
「…なんか1つでも十分な気がしてきたな」
42%以下なら、免疫の効果でLPが74%以下で発動するわけだからな。ただ、Lv1の場合95%で発動だから、この状態も捨てがたいんだよな。
「でもこの状態も《生命神》を残した場合だからな…」
もしこれを消去した場合、+値は27まで落ち、効果も32%以下の38倍となる。
こうなると、免疫込みでもLPが65%まで減らないといけなくなり、昨今のインフレ環境だとこの9%の差は生死を分けるのには十分な差と成りえる。
ましてや[生命]の覚醒数が100も減れば、尚更一撃死のリスクも増える事だろうし。
「となると、【生への執着】も1つ消す代わりに、《生命神》を残す方が何かと融通が利く感じか」
これで8つか…ダメだ、頭が痛いわ。
「取り敢えず、このプランで行ってみて、残り2つはその時に考えよう」
問題の先延ばしではあるが、これはもう仕方ない。
もしかしたら、解決策成りえる刻印が解放される事も期待しつつ、この方針で行くとしよう。
脳を酷使し、甘い物が欲しくなったので小休止。
冷凍庫からワッフルを取り出し、齧りながらマッサージチェアで夢見心地へ…とはいかなかった。
丁度暇になった双子が押しかけてきて、俺の安息は儚くも崩れ去った。
「何ブツブツ言ってるのよ」
「可愛い妹分が誘ってるんだから付き合ってよね」
全く、好き勝手言ってくれちゃって。
「あのなぁ、歳食うと色々と疲れやすくなるんだよ」
「またこのパターン?」
「同じネタ擦ってもウケないわよ?」
「あーもう、五月蠅い小娘共だな!!」
だが、ここは居候の身分故に、俺が引き下がるべきだろう。
そのままゲーミングチェアに収まると、2人とも満足したようにヘッドギアを装着。
俺も黒飴を3つ口に放り込んで、ゲームを再開した。
「あ、皆さんこんにちは」
出撃準備中のベルと挨拶を交わしつつ、ベルもパーティーに誘う。
「いいですよ、何処に行きます?」
「人口密度が低いとこが良いんだが、今は何処も盛況だもんな」
「そうですね~、鬼ヶ島はオーガの金棒のドロップ目当てで、ドラグーンはブラキオサウルスの素材、その他もバランスよく人が居ますからね」
こんな感じで、現在はどの惑星もそれなりに賑わっているので、人気のないエリアというのは、それなりに瑕疵のある現場という事になる。
「仕方ない、海底探索でもするか」
未だに未知の領域となっている、アースの海底全域。
適応薬のコストと、最悪な視界に加え、極悪な深海生物の魔境な為、生身での探索は殆ど進んでいないという。
その分、何か成果が有れば、見返りは大きいので、ちょっとギャンブル感覚で行ってみる事にした。
準備中、パミルも合流し、5人で沖合に停泊中の輸送艦へと跳び、そこでしこたま適応薬を買い込んでから、海底へダイブした。
ちなみに、帰りは錨と一緒に垂らしてある、エレベーターで帰艦する事が出来る。
「…長い…」
真っ暗な中、ランタン10個の明かりを頼りに錨とエレベーターの脇を降りて行くが、海底が遠すぎる。
「っと、漸く着いたようね」
「何にも見えないわね」
ユナが言う通り、ハッキリと見えるのは足元と周囲10m程だけだ。
「マップに印を付けて…良し行くか」
海底を歩き始めてから、ベルとパミルの刻印を聞く。
「僕ですか?僕はあれから〖赤十字の刻印〗と〖防疫の刻印〗を取りました。消去は【神のお膝元】と《神官フリーク》です」
〖赤十字の刻印〗周囲の味方の状態異常の被害を30%軽減する。
〖防疫の刻印〗周囲の味方の状態異常耐性を強化。
「あれ?【教会兵】は消さなくて良かったのか?」
「ええ、最近は寧ろ丁度いい位に思えてきて…今より火力が下がると逆にキツイなと」
「成程、周りの防御力がインフレしてきてバランスが取れてきたのか」
以前は反射ダメージが怖いと言ってたベルだが、現在は自身のLPも増大し、例え大半のダメージを反射されても耐えられるようになったのも、方針転換の決め手だろう。
「さて、〖赤十字の刻印〗はどうなんだ?」
「便利ですよ。自分も含まれますし、30%軽減も複数を守れることを考慮すれば、十分過ぎます。ちなみに範囲は今見えてる位は有りますね」
「半径10mは有る感じか、〖防疫の刻印〗も同じ位か」
「ええ、こちらも範囲がそれなりの割に、耐性上昇も加算なのか、元が低くても結構耐えてくれるので、持久戦にはもってこいですね」
成程、耐性を30%上昇じゃなく、蓄積を30%軽減とかそんな感じか。
と、そこへあつらえ向きに深海生物が登場。
「海月とグソクムシか」
どちらも[毒]等の状態異常を持ってる為、ベルの刻印の威力を図るのには丁度いい。
「おお、確かにベルの傍を離れると、あからさまに蓄積が増えるな」
一度敢えて攻撃を受け、次に皆から離れて攻撃を受けて見て、差を実感。
その後は普通に戦闘し、撃破。
海月は電気と触手の毒、グソクムシは噛み付きと毒液を使ってきた。
陸の生物に比べると、確かに強力だが、まあ流石に海月とグソクムシじゃこんなもんか。
深海故か、そこまで敵がわんさか現れる事が無いのも、そう思う一因かもしれない。
こいつ等よりもずっと弱い筈のクロスイーターも、悍ましい程の数で攻めて来るからこそ、強力に感じるからな。
更に、今回はベルが居る事で、状態異常のリスクが減ってるのも大きい、というかこれが全てな気がするがな。
ベルのお陰で、小規模な雑魚なら問題ない事が判り、散策を開始。
お次はパミルの話を聞く。
「私は【強靭な肺】を消去して〖地竜の刻印〗を、《宝石商マニア》を消して〖指輪の刻印〗を取得しました」
〖地竜の刻印〗鉱物系の状態異常と転倒を無効化する。
〖指輪の刻印〗指輪を4つ装備できるようになる。
「【強靭な肺】の上位互換に、装備枠拡張か」
転倒無効はあらゆるシーンで威力を発揮するだろうし、指輪枠2倍は相当強力だ。
「ちなみに指輪は拘ってるのかな?」
「少なくとも、現時点で自分に出来る最高峰を装備してますよ」
「それはまた…」
アクセサリ職人の全力の成果が4つもか、指輪自体の効果もさることながら、OPも厳選した優良なのがてんこ盛りなんだろうな。
そんなパミルだが、今回同行したのは海底の資源の採掘をするからだ。
「色々と採れますね、固形ガス、宝石、貴金属、どれも高値で売れますよ~」
海底でしゃがみ、素手で地面をザクザクと掘る姿は、潮干狩りにきた少年の様だ。
尤も、周囲が真っ暗な中、アラブ系のアバターで行っている事を考慮すると、とんでもなくシュールな光景と化すがな。
採掘の最中、新手が登場。
「今度は大王烏賊とリュウグウノツカイか…一気に質が上がり過ぎじゃない?」
暗闇のせいか、天使や円盤の索敵も落ちていて、突如現れたこいつ等にヒヤッとする。
とはいえ、常に海底を畑にしながら移動してるので、人的被害は出ていない。
そんな大物の奇襲を防いだとこで、採掘に精を出していたパミルも参戦。
果敢に前に出て、大王烏賊と格闘する。
大王烏賊に足を絡め捕られるも、刻印の効果で転倒は防がれ、【擦り傷は勲章】【ルビーシールド】の効果でダメージも軽減。
そして、反撃とばかりに手刀でゲソを千切っていく。
堪らず距離を取ろうとするも、既にクリスタルゴーレムに周囲を固められ、頭上は俺のリュウグウノツカイや金蝙蝠に蓋をされ、逃走も叶わない。
最後はどうに貫き手を浴び、消滅した。
一方リュウグウノツカイはユキの魔法で蹴散らされていた。
「海底だと昆布やワカメが栽培出来るのね」
「みたいだな、種が現地調達出来て良かったぜ」
海藻のシンボルから昆布やワカメ、海ブドウや海苔の種が手に入らなきゃ気づけなかった。
んで、肝心な収穫物だが、まあ可もなく不可もなくという感じだ。
海底は、そこそこの耕作地ランクの筈なので、昆布等はそれなりに敷居の高い農(?)産物の様だ。
とまあ、こんな感じで海底を農作業がてら散策し、時折現れる大物を相手にしつつ、適応薬の在庫分粘った。
地上に戻り、PAで仕分けを済ませる。
ベルは単騎で出撃し、パミルはクラフトに戻っていき、俺らは深海を振り返る。
「海底は敵襲が少ないから中弛みが酷かったな」
「そうね、敵の強さ的にはあの位で丁度良いとは思うけど」
「視界の狭さもしんどかったわ」
雑談中、シルクとおりょうさんがログインし、アパレル用の素材集めに協力する事に。
「今回はフォレストで植物性の素材を集めるです」
「私も染料になる素材を集めます」
早速現地へ跳び、いつもとは違い、賑わっているエリアに向かう。
というのも、今回は採取は行わず、ドロップのみで素材を確保する気なので、人数補正を上げる為に敢えて人の多い所にした。
移動中、例によっておりょうさんのビルドの話に。
「私も淘汰の3回目に入ってまして、[精神][科学]を消して、〖深染めの刻印〗と〖乳化染めの刻印〗を取得しました」
〖深染めの刻印〗染色に補正が掛かり、クラフト品の質が向上。
〖乳化染めの刻印〗本来同時に付かない効果やOPを、染色で付与できる。
「今回のもクラフト関連なんですね」
「戦闘系とも迷ったんですが、先ずは自身の強化から優先しようかと」
「そうなんですか。ところで同時に付かないOPって、具体的にはどんなものがありますか?」
「そうですね、代表的なのは[隠密]等の目立ち難くするものと、[敵視]等のヘイトを集めるものですかね」
「確かに相反しますからね」
「ちなみに両方付けると、離れてる場合一瞬迷って他に、近い場合は一瞬迷ってから襲ってきますね」
「ほ~、ちょっとだけ戸惑わせるんですか」
「他にはそうですね~、[声量増]と[声量減]もありましたね」
「ああ、それならなんとなく解るわ」
以前持ってたパラメータの[声量]、その専用スキルの<野次>と<声を潜める>と同じ感じで、敵が少しだけ挙動不審になるんだろうな。
そんな感じで、中々遊びに幅出来そうな刻印という印象だ。
話も一段落し、ポータル周辺の安全地帯から出て激戦区へ到着した。
早速無数のクロスイーターがワープしてくるが、ワープアウトしてから数舜だけ止まり、豚に張り付いていく。
「おお、いまのが矛盾するOPの相乗効果ですか」
先程の話の中で、既に自身のアパレルに相反するOPを組み込んでいると言ったおりょうさん。
ある程度の強さのモブには効かないらしいが、数が取り柄の雑魚にはしっかりと効くようで、ワープアウトしてきたクロスイーターが、ピタッと止まるのが非常に愉快だ。
そのまま豚や大型の使い魔に張り付いたり、ユナに近寄って墜落したものから順次狩っていく。
ヒダや消化液など、繊維や染料の素材がザクザクと貯まる一方、人数補正もあってか敵の攻勢も苛烈極まりなく、物資の消耗も激しい。
クロスイーターだけならこうはならんのだが、トレント、寄生ラフレシア、黄泉の花、粘菌大蛇等の強敵や魔物も絡むと、豚や畑の守りすら簡単にぶち抜かれてしまい、消耗は避けられない。
ユナのSTAに対するデバフも、クロスイーターやトレントにはちゃんと効いてるのだが、例えばラフレシアは匂いを振り撒くだけならSTAを必要としないのか普通に動いて来るし、粘菌も部位破壊の撃ち返しや酸のカウンターは普通にしてくるので、いつもよりは堅さに陰りが見える。
その分〖惑星の刻印〗で、敵を[火傷]にしまくってるので、活躍自体は十分なんだけどね。
シルクは対個では相当有利な手札を持っているが、こういうシチュエーションには対応力が低く、一度に対処できる数が少なく後手に回っている。
おりょうさんは、着物を含めアパレルに酸や毒防御を盛りまくってるので、クロスイーターの噛み付きは勿論、粘菌の酸幕にも耐え、強力な犬の使い魔で安定してはいるが、やはり総合的な打たれ強さは決して高くは無いので、囲まれないよう慎重に戦っている。
そんな中、ユキは凄い生き生きと戦っている。
「楽しいわね!!こういう大量の敵を相手に持久戦をしてる時が、一番今のビルドにして良かったって感じるわ」
刻印で反射を気にする必要もなくなり、持ち前の[生命]の高さと【命の泉】による、驚異的なリジェネレイト、《省魔導士》の恩恵で連発できる[旋風]と[ダークニンバス]。
その持ち味の全てが状況と噛み合い、驚異的な戦果を挙げている。
お陰で、物資の消耗こそ激しいが、短時間で十分な素材を確保し、ホクホクでPAに帰還した。
PAでシルクとおりょうさんがクラフトで離脱し、俺達は次の行き先を決めていると。
『イベント開催のお知らせ』
というインフォメーションが出て、大まかな概要が告知された。
・開催期間は来週の木曜から火曜日まで。
・内容は売り物自由な屋台対決。
・屋台の設置可能なエリアはアースの全エリア。
・一度設置場所を決めると変更は不可。
・屋台が破壊されても、ゲーム内時間で二時間経過で復活する。
・順位はは売上で決まる。
・危険な場所ほど売り上げと商品の品質に補正が掛かる。
・イベントの参加者は、屋台から商品を購入できない。
・購買層としてNPCが大量に徘徊する。
・参加は個人からコーポ単位まで自由だが、少ない方が売り上げに補正が掛かる。
・売り物は必ず屋台で作成した物とする。
・屋台でクラフト又は購入した物は、イベント期間中のみ使用できる。
・屋台には最低限のクラフト設備が搭載されている。
・屋台への素材の持ち込みは可能だが、期間中の採取やドロップでの入手品に限定される。
・順位上位1%以内には、賞金1億円。
・上位3位までには追加で10億円。
・1位は追加で100億、2位は追加で50億円。
といった感じだ。中々面白そうなイベントだな。
「へ~、どうするのテツ君?」
と、聞いてくるユキだが、答えは当然。
「デメリットが無いから参加するさ、特に行動に制限が掛かる感じでもないしな」
流石に、アースから出れないとかなら、不参加だったけどな。
「危険な場所ほど補正が掛かるとか、最初からモブとの戦闘ありきなのがアレよね」
ユナの言う通り、ただ各地で屋台を展開して、ワイワイと活気のあるイベントを楽しむ。そういうのじゃなく、構えた場所次第では、終始屋台を守りながらの修羅場となるだろう。
「まあ、取り敢えず参加はするけど、緩ーく楽しめれば良いから、力抜いて開催日を待とうや」
そんな感じでイベントへのスタンスを決め、メンバーへもその旨を通達しておいた。
イベントの告知もあってか、ゲーム内が気持ち活気づいている。
メンバーも金策への意欲が増し、いつもよりも活発に動いている。
俺はベッタラと一緒に闘技場のミッションへ挑む。
ベッタラが詰まってるという、ペアでのミッションを攻略する為だ。
さて、そんなベッタラのビルド情報を聞き出して、更新したので触れておく。
彼は2回目の淘汰で【剣の声を聞く】を消去し〖白衣の刻印〗を取得。
3回目の淘汰で【楔打ち込み】を消去し〖剣の刻印〗を取得した。
〖白衣の刻印〗白衣系のアパレルを着ている場合、毒系病系の状態異常を無効化する。
〖剣の刻印〗刀剣類の装備解除を防ぎ、相手の斬撃防御とカット率を半減する。
という感じで、【剣の声を聞く】は、肩書の《メスの愛用者Lv2》の耐久度上昇とダメージアップで十分なので消去。
同様に、【楔打ち込み】も〖剣の刻印〗が完全なる上位互換な為、入れ替えた形になる。
ベッタラが次々とギフトを消去出来るのは、素の覚醒数が偏ってるわけでも無く、肩書でのブーストも無い為だ。
肩書での覚醒数底上げは強力だが、ギフトに執着しがちになる分、ビルドの自由度や拡張性は低いと言えるかもしれない。
「何で白衣?と思ったが、刻印の効果を発揮させる為だったのね」
いつの間にか、アウターとして白衣を纏うようになったっていたベッタラ。
「ああ、白衣を着る事にデメリットもないし、それだけで毒と疾病系の状態異常を防げるのはデカい」
確かに、条件付きとはいえ、2系統の状態異常を無効化は、かなり強力な効果だ。
さて、最新のベッタラも把握出来たので、ミッションに挑むとしようか。
次も二週間位で。




