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第五十三話

~前回までのあらすじ~

砂漠のダンジョンに挑んでる最中に、ペットマスターに捕まり、[アスペルマンバ]のテイムに協力する事に。

捜索の末、狭い通路に追い詰め、何度も噛まれながらも、手掴みでペとマスターの下へ戻った。

「ただいま」

 状態異常で、結構追い詰められたが、無事仲間と合流。

「ほい、お目当てのだアスペルマンバだ」

「ほう、こいつがそうなのか」

「気を付けろよ。こいつに噛まれると一気に複数の状態異常に罹るからな」

 伸ばしかけた手を引っ込め、サッと距離を取るマサ。

 それと同時にペットマスターの面々が正面へと陣取った。

 それからはジッと耐えながら、テイムが成功するのを待つ忍耐の時間。

 超危険なダンジョン下層で何をやってるんだと思えるが、こういう努力こそが、結局は良質な知識の獲得に寄与するので、頑張って堪える。

 そして苦闘の末、漸くアスペルマンバのテイムに成功。

 もし、回復なしだったら、数十回は死亡判定を貰う程のダメージを受けたが、これで取り敢えずの成果が出て一安心。

 だが、クライアントはペットマスター。当然1体だけで満足するわけもなく、その後もずっとマンバの捜索と拘束を繰り返す。

 こんな事を終日まで繰り返し、マンバを計4体テイムし、俺らは彼らの介添えで地下28階まで到達させてもらい、お互いに実りのある冒険とする事が出来た。


 後日、同じメンツで再び地下墓へ赴き、到達点の更新を目指す。

 運よくG戦隊を捕まえられたので、意気揚々と出発すると、道中ペットマスターに捕まってしまい、今日もテイムの補助をする事に。

「今日の目当てはなんですか?」

「今日は[墓守]という、ヤモリの一種を狙いたいと思います」

「墓を守るから墓守ね…シンプルで良し」

「それで、墓守の特徴ですが、マンバとは比較にならない程小さくて、全長5㎝あるかないか程度で、見た目も普通のヤモリと変わらないので、非常に見つけにくいです。それともう一つ特徴があって、妙に堅いんですよね、単に名前だけじゃなく、本当に墓守の心算なんですかね~」

 彼らの体感では、バグスターの巨大ヤスデ位の堅さがあるそうなので、テイム後が楽しみだという。

 そんな墓守の出現階層は地下30。正に攻略最前線となっている。

 道中はクライアントに任せ、俺らは介護され悠々と快適に進行。

 そして地下29階。ここからは俺らも戦闘に参加しなければならない程で、ペットマスターでも全く余裕のない修羅の地となっている。

 そんな中、流石のG戦隊は大活躍だ。

 全員が同じビルドで、かつ戦闘面に全振りだから、火力面を補助して貰えば、最前線でも十分な活躍が出来ている。

 対して俺らは少々Lvが足りない様で、淘汰2回目のサーモンでも、やや苦しそうな感じだ。

「…まあ、防御面は足りてる様だし、頑張ってデコイに徹してようか」

「「…そうだな」」

 そんな感じで、少々力不足が浮き彫りになる展開にもなったが、俺らにも意地は有るので、そこそこの付き合いから生み出される連携でどうにか足掻く。

 その甲斐あって、29階層のスフィンクスを、スリーマンセルで討ち取る事に成功。

 力不足なりに、それなりに仕事を熟せた達成感に浸る。

「お疲れ様です。よく淘汰1~2回でそこまでやれますね」

 ペットマスターに労いの言葉を頂く。

 そんな彼らは淘汰数は平均4回。G戦隊は3回程だそうで、明らかに俺らのLvが低すぎる。

「やっぱもっと積極的にLvを上げてくべきなんだろうかね」

 初期の頃は、収入の大半を、Lv上げに注ぎ込んだ事で、全体でもそこそこの高レベルを維持していたが、覚醒が導入された頃には、仲間内では高い方、進化が導入された頃にはその差すら縮まり、今ではホルダーの強化に費やした大枚分、遅れてるまである。

 まあ、そこに関しては、Lvに寄らない底上げ要素でもあるから、妥協する気は更々無かったし、後悔もしていないけどね。

 なんにせよ、力不足を感じた以上、装備なりLvなり、能動的な自己強化は、積極的にしていくべきだな。

 その為の資金稼ぎもしてきたわけだしな。


 解散後にLvを上げる決意をしたところで、いよいよ地下30階。

 ここからは皆が苦戦している最前線。気を引き締めて臨む。

 早速、全員で戦闘そっちのけで地面やら壁の隙間や窪みを凝視。

 すると、意外にもポンポン見つかる墓守。

「成程…小さい癖に異様な程堅いから、逃げられるのか」

 手で掴もうにも、小さすぎてすばしっこいので、捕らえるのも困難。

 出来れば心証を下げ無い為に、無傷で拘束したかったが、こうなればやむなし。多少は削る事にした。

 そうする事で、ゴーレムの引き寄せが作用し始めるので、最小限の攻撃に留め調整。

 全員で小物相手に神経擦り減らす、シュールな展開を耐えた甲斐あって、墓守の引き寄せに成功。

 急いで俺の手に保護し、一安心…出来なかった。

「ちょ!?噛み付きで7~8千万減るんですけど!?」

 ヒュージョンボックスが無ければ、結構危険な状況だったぜ。

 拘束しつつも、とんでもない勢いで俺のARMやらを削ってくる墓守、これは悠長にしてらんないわ。

 急いでテイムを試みるも、やはりダメージを与えすぎたのか、心証がすこぶる悪い様で、失敗する度に俺の指が捥げそうになる。

 終いには、最前線から敗走した輩がトレインした蝙蝠のせいで、墓守を逃がしてしまう始末。

 これにはテンションダダ下がりで、時間も時間なのでそのまま解散する事にした。


「さて、Lvを上げたいところだけど…」

 現在の資産と、いざという時のマージンを考えると…。

「取り敢えず淘汰1回分に留めておくか」

 さて、今回はなにを消去するか…。

「淘汰は、2回目3回目に入っても、パラメータと因子に転生補正が入らないんだよな」

 進化だったら、2回目以降は回数に応じて、覚醒数が2倍3倍となったが、淘汰後は肩書の存在なのか、転生補正が無くなってしまっている。

 だからこそ、消去には全神経を注いで最善案を模索したいし、刻印もより強力な物を吟味したい。

「なんにせよ、先ずは消去からだ」

 現在の消去候補は《生命フリーク》《生命マニア》《生命信者Lv1》《生命神》《幸運マニア》《運命の神Lv1》《運命の深奥》【生への執着Lv1】【核細胞保護Lv1】【速度】【ドリス】【蛇使い】【植物人間】【獣人】【吸血鬼】[幸運][観察][魔力][制圧][包囲][解体][跳躍]の、24択となっている。

 ただし、消去によって、意味の無いモノに成り下がったモノは、自動的に消去されるので、消す順番も肝となる。

「今回は…まあ、無難に《生命フリーク》だよな」

 どうせ、パラメータには1回目の20%補正に上乗せで、40%も補正が掛るので、20回分の覚醒数なんて大した被害では無いし、執着と保護も何れは捨てるんだ、効果が落ちる位は甘んじて受け入れる所存だ。

「という事で消去っと。お次はお楽しみの刻印タイムだ!!」

〖悪魔の刻印〗愛らしい悪魔を使役する。

〖覚醒の刻印〗全ての因子とパラメータの覚醒数を10増やす。

〖抱擁の刻印〗死亡時にお金をロストしなくなる。

 の3つが、以前の選択肢に追加されていた。

「…〖抱擁の刻印〗がシステムブレイカー過ぎる…」

 常時金を持ち歩いても、リスクが無くなるとか、色々と便利すぎてヤバい。

〖覚醒の刻印〗は、やむを得ず肩書を消去し、不便を感じてる人向けの、救済的な刻印なんだろうな。

 ぱっと見効果は弱いが、取得してる全てに効果が乗るので、人によってはとんでもない総覚醒数の上昇になるだろう。

 うわー、こんなのが在ると知ってれば、もっと雑多に覚醒を振り分けてたのに!!

 …覆水盆に返らず。こればかりは仕方ないか。

「でも、一番気になるのは〖悪魔の刻印〗だよな~」

 詳細は不明だが、もう想像できてしまう。アレだろ?虫歯でよく使われる、ばい菌のデフォルメ像だろ?フォークを持った。

 しかも、愛らしいと言う位だから、脳内会議(天使と悪魔の間で揺れ動くアレ)に出る様なあの感じなんだろう。

「でも、今必要なのは確実な戦力増だからな。ここは〖神縛りの刻印〗でいこう」

 ステータスは…割愛で。


「良し、早速検証だ」

 ホームから出て、傍に侍る巨大な蛇の怪物を見上げる。

 八岐大蛇。スキル<ウロボロス>が〖神縛りの刻印〗で変化した、使い魔のスキル。

 見た目は夫婦蛇が一体になって、尾の部分が頭部に置き換わっており、2体の中間辺りから、左右に4体ずつの蛇が生えてる感じだ。

 以前の<蛇の王>に似てはいるが、サイズが段違いに大きいし、細部は違っている。

 そんな非常に目立つ存在を引き連れ、PvPのメッカへ突撃。

 そして悪党と対峙したが、<八岐大蛇>は規格外にも程がある強さだった。

 短く例えるのなら、進化5~6回目相当のプレイヤーと同じ位強い、だ。

 たった1体の使い魔が、悪党相手に数十秒粘るその様は、異様の一言。

 実際には、その他多数の使い魔も絡んでるので、1on1の戦いなら、もっと早く倒されるだろうが、それでも非常に頼もしい堅さだ。

 そんな八岐大蛇の行動だが、前進して噛み付きに行く。これだけだ。

 それ故に、巨体で無駄なく間合いを詰める事で、ターゲットに圧を掛けれるのは強力。

 火力も、物理防御を極限まで持ってる相手、軽減効果をしっかり盛ってる相手にはどうしようもないが、それ以外の相手には十分なダメージが出ていて、無視され難いのもグッド。

 この、インフレし続けているプレイヤーに喰らい付けるところから、総じて強力な使い魔が欲しいなら、必須とも言える刻印だと思う。

 尤も、覚醒や進化時に、戦闘系使い魔関連の因子を、十分に覚醒させたプレイヤーなら、刻印に頼らずと強いだろうけどね。


 引き続き検証、というか観察。

「やっぱ突っ込む巨大ユニットは、それだけで強いな~」

 戦闘において、攻めの起点となりうる突破力を得た事で、敵の攻勢を削ぐ力も増した。

 未だに戦線を維持するバランスの取れた使い魔こそ不足がちだが、デカブツが都度突っ込む事で、疑似的に役割を代行出来るようになり、安定感が凄い。

 敵が、常に八岐大蛇の突撃を意識するお陰で、ガーディアンの魔法、マンバの毒、マウスのFFが不意打ち気味に決まり、形勢が一気にこちらに傾く場面も見られた。

 やはり、奇襲性の高い攻撃も、安定感が在ってこそのものだと実感。奇策絡め手だけでは勝てる程甘くはない。

 存分に悪党に使い魔を嗾け、色々と再認識して、PAに帰還した。


「やっほー」

 このタイミングで、勉強を終えたユキとユナがログイン。

 そのまま3人で、エルフィンの渓谷に向かう。

「うわぁ…相変わらずアレな光景よね」

 バレットフライが大群で飛び、黒い旋風となっている渓谷。

「今日は、ここで毒の原料を集める」

「フォレストじゃダメなの?」

 と、ユナが聞いてくる。

「フォレストは飽きた、それに同じ毒でも動物性の素材が欲しいんだと」

 調合に掛かりっきりのマッドが、そう言うんだから、そうなんだろう。

「まあ、どちらも似たような感じか」

 飛んでくるのが、蝿かクロスイーターかの違いしかないからな。


「…話には聞いてたけど、酷くシュールな戦闘よね」

 夥しい蝿が飛来する中、3人で仲良く畑に寝転ぶ様を、自嘲気味に呟くユナ。

「仕方ない、これが安全かつ効率的なんだから」

「そうなんでしょうけど…」

 なんて言ってるが、ある意味ユナが一番の功労者(寝てるだけ)とも言えるのが、皮肉だ。

 なんせ、範囲内に入った途端、蝿の動きが極端に鈍くなって、使い魔や畑の鎧、ユキの設置型魔法の餌食になってるんだからな。

 そんな感じで蠅捕りを続けながら、ふとある事を思い出す。

「そういえば、ここにはミミックが居るんだっけな」

「ミミックって…あの宝箱に擬態してるアレ?」

「そういうイメージがあるわね」

「このゲームだと、毒々しい蛸だったな」

「「へ~」」

 そんで、その蛸が非常に希少価値の高い従魔だと伝える。

「あのローレンスさんですら、持ってない核だなんて…」

 厳密に言うと、持ってないわけじゃないんだけどな…。激レアな事には変わらないか。

 という事で、蝿を狩りがてら、ミミックを探す事にした。


 蝿の大群の切れ間に、少しずつ渓谷を下り、断壁の隙間を覗いて行く。

 激レアな割に、意外と姿を確認する事は出来ているが、如何せん堅くて素早いし、直ぐに逃げるので、全然倒せる気がしない。

 ゴーレムの引き寄せも、作用してる様子が全く見られないし、困ったものだ。

 只、ユナの魔眼の範囲内に入ると、一瞬だけ動きが止まり、ユキの[ダークニンバス]や[旋風]に掠り、そこそこダメージを負ってるのを見たので、兆しを見出せるだけマシとも言える。

「本当にすばしっこいのね」

「可愛くないは〇れメタルだわ」

「でも、これまで見つけたミミックは、全部下に逃げてるから、いずれは追い込めるはずだ」

 と考えたが、中層以降、敵が強くなり過ぎて、進む事が困難になってしまい、トボトボと上層に戻り、蝿の狩りを再開するのであった。


「あ~…ミミックかぁ…」

 インしてきたサーモンと、PAで駄弁り中。

「ドロ率が渋いとか以前の問題だった」

「ミミックはな~」

「しかも、仮に都合よくドロップしても、1個じゃ召喚出来ないっていうね」

「そうだな、必要核数は、驚異の99個だもんな」

「一応、プレイヤーでも召喚出来る人は居るんだっけ?」

「みたいだな。只、バザーでコツコツと競り落とした成果で、狩りでの成果じゃないらしいがな」

「バザーか、そういうレアものも金次第で手に入るのか」

「ああ、一応金策重視のビルドの救済的な惑星だからな」

 そういう、どんなビルドにも、活躍の機会が有るのは良い事だな。

「それで、ミミックってどうなんだ?」

「強いぞ?NPCの使役してる動画があるが、どんな型のサモナーが持ってても、一線級の活躍が確約されてるからな」

 具体的な内容を聞くと、ミミックは、他の従魔の身体に張り付いて、対象の従魔のステータスをブーストし、被視認性を低下させ、毒と煙幕で援護し、近接ではタコ足でサポートまでしてくれるそうだ。

 で、幾つかある動画では、ミミック装備のゴブリンが極卒を倒したり、ミミックが3体張り付いたワームがマローダーの分隊を蹂躙したりと、どれもこれも桁違いの戦果を挙げてるという。

「マローダーを蹂躙か…それさ、負担コストに見合った戦果なんだろうか」

「…」

 まあ、プレイヤーには少々負担が重すぎるよな。

「ちなみに、核の価値ってどんなもんよ?」

「1つ3000万弱ってところだな」

「激レアな割に安い様な…」

「だが99個必要だからな」

「30億…」

 大富豪じゃなきゃ、おいそれと手が出せんな。


 数日後。

「やあリーダー。漸く残りの核が確保できたから、ホイ」

「ああ、キッチリ残りの5個受け取った」

 そして翌日には、蓋の総数は14機と、大層SF感漂う編隊となった。

 当然、こんな面白い部隊の初陣を見逃す手は無いので、後をついていく。

「しかし、よくもまあこんだけ揃えたもんだな」

 同行者のベッタラが、しみじみと呟く。

「全てがダンジョンコア内臓ですもんね。凄すぎます」

 同じく、同行者のベルの言。

「サーモンの廃人ぷっりには驚いたがな」

「そういや、リーダーは、サーモンがプロゲーマー的なアレだったのは、知らなかったのか」

「ああ、つい最近まではな。寧ろ2人は知ってたのか?」

「俺は結構前から」

「同じく」

 どうやら、意外と周知されてたようだ。

 そんな話をしつつ、お馴染みの森へ到着。

 それからは、善人と悪党の、各グループ各ビルドの個性がぶつかり合う、バラエティー豊かな戦場となった。

 うちの、ドローンと白モフの大群。

 パワードスーツを纏ったメタリックな車両砲使い。

 下段に強力なダメージ軽減効果でもあるのか、異常に堅い竹馬使い。

 蝉のコスプレをし、大音量で戦闘妨害をする者。

 レンガを、投擲やビルディングにと、巧みに使い分ける猛者。

 ドライヤーの様な器具で、吸ったり吹き飛ばしたりと、間合いを支配する者。

 チラッと視界に入っただけでも、このような多様性に富んだビルドに遭遇。

 まあ、それはそれとして、肝心な蓋の活躍だが…。

「うーん…やっぱゲームのインフレに喰らい付くので精いっぱいって感じだな」

 元の硬さと[生命]補正で、しぶとさは十分、火力も中々だけど、やっぱ手札の少なさが相当響いているな。

 ただ、これは蓋だけで見た場合であって、ここにペット達が加わると、話は変わる。

 平均Lv900の総数120超えのペット達が、手札の少なさを補う。

 既に把握しきれない程、スキルを持っている白モフが、判定の小ささを存分に活かし、蓋が動きやすいようにフォロー。

 判定が小さいのなら、範囲攻撃をすれば良いように思うだろうが、単純にペットを虐待する事のペナルティを恐れてるのもあるが、下手に沢山の白モフのヘイトを集めると、洒落にならない程追い込まれるというもあって、そういった大雑把な攻撃も、ある程度抑止できているのも強みになっている。

 仮に、その辺を気にせずブッパしても、スキル等でやり過ごされてしまうと、前述したように白モフが殺到して酷い事に…。

 とまあ、前にも言ったけど、蓋がペットを介護するのではなく、ペットが蓋の採取を護衛するというのが現状だ。

 多分、今後蓋を幾つ増やそうと、根本的なスペックの向上を図らない限り、この図式は覆らないだろうな。


 白モフ達が帰還し、再出撃するのを見送る。

「ヒヒ…どれどれ、お~良い感じで収穫が増えてるな」

 マッドが共有チェストを覗き、蓋の収穫増に喜ぶ。

「錬金と調合の回数が増えれば、金策とライセンスの熟練度稼ぎにもなるしな」

「まあな…というか、生産職はその2つで成り立ってる所が有るからな…」

 少ない元手で素材を確保し、より高く売れる様に加工。

 そうやって金を溜めつつ、ライセンスを強化したり、色々な隠し要素を開放したりして、より効率化を図る。

 戦闘職とは、土俵が違うだけでやってる事は大差ない。

 そういえば、ライセンスと言えば、『使い魔認定員』と『ファミリアコーザー』の熟練度が、それぞれ95%まできてるんだった。

 この分なら、あと数日で昇級試験を受けれそうなので、金策より戦闘経験を重視して、行動を決める。

「戦闘と言えばフォレストだが…質を重視してバグスターの危険地帯でも行ってみるか」


「流石テコ入れ後の最果て…端っこでこの強さか」

 バグスターに跳び、徒歩で北の荒野を抜け、最果てに片足を突っ込んだが、殺意モリモリの蟲に足止めされ、先に進めないでいる。

「まあ、目的通りではあるか」

 兎に角熟練度を稼ぎたいので、先に進めない程の苦戦は、良い経験の筈だ。

「そい‼」

 地面に鍬を突き立て、畑の維持をしつつ、ドッペルと連合を絶やさないようにマネジメント。

「ッ!あぶね!?」

 高速で飛来した雀蜂に、首を切られそうになるが、咄嗟に鍬で相殺し、事なきを得る。

 こういう時、鍬に攻撃判定が付いた恩恵を、最大限に感じるな。

 柵や鎧を無視し、畑を突っ切る蟻を牽制しつつ、なるべく危険に身を置き続ける。

 そんな事を2日間続け、想定より若干早く、熟練度が100%になった。


「お久しぶりですね~…ほうほう、両方共昇級できれば特級ですか~」

 相変わらずマイペースな感じの担当者だが、強者感に磨きが掛かっている。

 なんか、王冠を被ってた犬が、マントまで着るようになってるんだが…。

「これは提案なんですけど~、『使い魔認定員』と『ファミリアコーザー』を統合しませんか?」

「統合…ですか?なんですかそれ?」

 なんか、巷でそんな情報を聞いた気がするが、詳しく説明して貰おう。

「ではご説明いたします」

 間延び口調を止め、襟を正し説明を始める担当。

「統合とは、対象となるビルドが同じ且つ異なる2つのライセンスを統合し、新たなライセンス…上級ライセンスへと昇華する事を言います。今回の2つのライセンスを統合いたしますと、『使い魔師範』『ファミリアルーラー』の2つが候補になります」


『使い魔師範』:使い魔のステータスを5%上昇させ、AIを僅かに向上。

『ファミリアルーラー』:使い魔のリスポンSTAを5%軽減し、リスポン速度を5%上昇。更に使い魔の行動範囲を僅かに広げる。


 これが、2つのライセンスの効果だ。ちなみに効果は新人級のものだ。

「とまあ、統合というより、片方を素材に片方を強化する感じですね。それと大事な事を言い忘れてましたが、統合してもライセンス枠を2つ取るので、新たにライセンスを選ぶという事は出来ません。ただその代わり、ライセンスの等級上限が、プライマリとサブ同じになるので、多様性か特化を取るかになりますね」

 これは迷うな。短期的に見れば、このままサブ2つ体制のが、絶対に強いと思えるが、サブは超級までしか上げれない。そして統合すれば、片方は消滅するが、結構ヤバめな効果が増え、上限も撤廃されるとなると…。

「統合…してみるか」

「そうですね~、将来的には統合した方が強いですからね~」

 さて、そうなるとどちらを選択するかだな。

「使い魔の補充回りを捨て賢さを取るか、能力補正を捨て範囲の拡大を取るか…」

 捨てるものも大きければ得るものも大きい。

 AI向上がどの程度仕事をするかは不明だが、従魔の場合、思考と戦闘技術に分かれたものがギフトで在ったので、一応両方が僅かに向上すると考える。

 一方、行動範囲拡大は、単純に射程の延長と捉える事が出来る。

 ざっくり言えば、小回りか射程か。といったところか。

 どっちも有用には違いないのが悩ましい。

「ぬー、ええい!『使い魔師範』にしよう!!」

「宜しいんですね~?」

 確認に首肯し、ライセンスの統合を行った。

 決定の理由だが、数より質の方が、魅力的に思えたからだ。

 例えばつい最近なら、蟻が畑を跨いできた時、最優先で斃してくれれば良いのに、どうも使い魔は最初に仕掛けたターゲットを狙い続ける様で、その仕様のせいで、激戦でも漏れた敵が後ろに来てしまうのだ。

 そんなとこに、範囲の拡大を追加したら、一層密度が薄くなり、事故の危険性が高まると思い、この選択にした。

「ではこれで貴方は『使い魔師範』新人級です。頑張って昇級を目指してください」


 会場を後にし、早速検証に入る。

 場所は気分でフォレストを選択。

「おー…『ファミリアコーザー』の消失が痛いな…」

 STA負担は兎も角、リスポン速度の低下が滅茶苦茶響く。

 それに、双方とも上級だったのが、片方は消え、片方は新人級に格下げなので、補正も弱く殊更厳しい。

「でも、希望も見出せる程度に、AI向上が実感出来るのは救いだ」

 最初はどうかと思ったが、新人級では僅かな向上とはなっていたが、中々どうして地味に目に見えて効いているのが分かる。

 兎に角合理的なのだ。数を活かして突っ込んだ結果囲うのではなく、最初から囲うのが目的で突っむ感じに変化。

 流石に最適解でも無ければ、薙ぎ倒される事前提で、美しくもないムーブだが、数を活かしたタコ殴り(正確にはこれも手段だが)という目的の為の、囲うという手段が円滑になった。そんな感じだ。

「これがプロ、上級となったら、どうなるんだろうな」

 かなり期待が持てる結果となった。


 サブライセンスを統合し、今度はそのライセンスの熟練度を稼ぐ必要がある。

 担当者によると、統合ライセンスは、総じて熟練度が上がり辛いそうで、例えば戦闘が熟練度上昇の条件になってたとしても、一定以上の格の敵と戦わないと意味がない、そんな閾値が設定されてるようだ。

「そうなると、戦う相手は強ければ強い程いいのか」

 現在、単体の敵の(平均的な)強さはアニマルが頭1つ抜けている。

 数ならフォレストが圧倒的だ。

「ドラグーンと鬼ヶ島も攻略されれば良さげなんだがなぁ…」

 まだ100%には届かないので、熟練度稼ぎには向いていない。

「ただ、ゲートキーパーの出現条件が色々と判ってきてるアースも悪くないんだよな」

 下準備の面倒臭さはあるものの、強敵という意味ではこれ以上ない存在だろう。

「でも、お手軽な奴の大半が、修羅場の森の中だからやっぱ面倒過ぎるか」

 かつて苦戦した、高速当たり判定極小の烏も、一時は雑魚と化していたが、今ではテコ入れで恐ろしい存在へと返り咲いた。

 条件も、決まった区画で同じ軌跡をなぞるという簡単なものだったのも良かったのだが、今の環境で悠長に降臨の儀なんてやってたら、悪党と変異生物の餌食が関の山。

「やっぱアニマルが安牌か」

 という事で、なるべく個の暴力に特化した獲物を求め、アニマルへ向かう。


「コズミックキャットのスポーンに遭遇とは、幸先が良いな」

 ホームから地上に出て、高難度地帯のクレーターを目指した直後、フッと巨大な子猫が出現。

 相変わらず可愛すぎる毛玉に、頬が緩みっぱなしだ。

「いたぞぉ、いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 今日も今日とて張り込んでいたテイマーが叫ぶ。

 もの凄い勢いで子猫へと突撃していった。

「何度見てもシュールな光景だよな」

 気を取り直し、目的地まで移動。

 かつては攻略勢で賑わっていたクレーターも、現在は非常に静かだ。

 勿論、適度に人は居るんだけどね。

「えーっと、ここの強エネミーってなんだっけかな?」

 鰐や河馬は覚えてるけど、なんか猫科も強かった記憶が有るな。

 取り敢えず、眼下に広がる森や池を見てみる。

 巨大故に、隠れ切れていない豹を発見。直ちに向かい戦闘を開始した。


「ふぅ…毎戦がボス級の緊張感だな」

 豹に近づき、そろそろこちらの間合いに入るかと思った瞬間。

「うわ!?」

 巨体にも関わらず、一瞬でこちらへ飛び掛かり、豚が引き裂かれた。

 すかさず二撃目を放ち、豚がまた犠牲に。

 その隙に畑を拵え、ドッペルと百姓を呼び、数で押そうとするも、跳躍で一気に間合いを外されてしまう。

 猫科だけあって、俊敏で一撃離脱に優れる強敵だった。

 そりゃ、勝てるかどうかで言えば勝てるんだが、苦戦必至で緊張感がある戦闘だ。

 そんなのを数戦経て、『使い魔師範』の熟練度を見ると、30%となっていて、この分ならプロへは直ぐに上がれそうだと安心。

 流石にいつまでも新人級は辛すぎるんでね。

 強敵との連戦はしんどいが、モチベーションが維持出来るので、更に戦闘を重ねる。

 一度、調子に乗って池まで行ったが、流石に1人じゃ厳しく敗走。

 コツコツと浅い区画で熟練度を稼ぐ。


「良し、これでプロへの昇級試験を受けれるな」

 翌日には熟練度が100%になったので、会場へ向かう。

「ようこそ~、このタイミングって事はプロ試験ですね?」

 問いに肯定し、試験の概要を聞く。

「統合ライセンスの試験は非常に厳しいものとなります。例えるならいきなり特級試験レベルのものが来ると思って下さい」

 プロの時点で特級クラス!!…これはヤバそうな気配。

「内容ですが、まあ、やる事はこれまでと同じですね。只管戦闘です」

 ただ、より使い魔を活かす事が肝要な防衛戦で、一定時間魔物寄せのオブジェクトを守るというものだ。

 能力の制限なども無いので、持てる全てで挑むとしよう。

『では始めます』

 仮想空間に跳び、試験がスタートした。

 オブジェクトは何故かお菓子の家。確かに惹き付けられる魅力があるけどさ。

 まあ、意匠はどうであれ、これを守る必要があるので、早速周囲を開墾する。

 少しして、敵である蟻が湧き出す。

 サイズはバグスター産のものより小さいが、それでも個々が鼠程の大きさという、十分巨大な蟻だ。

 ジェネレーターなのか、そこら中に巣穴が出現し、そこから蟻が湧いてるようだ。

「成程、ジェネレーター対ジェネレーターの戦いって訳か」

 先ずは様子見で、開墾をしつつ敵の戦力を見極める。

「むう…特級クラスという割に、蟻の強さが既におかしいんだが」

 流石に中型大型の使い魔には、秒で蹴散らされてるものの、マウスや蜂にはそれなりに喰らい付けてるところからも、個々のスペックの高さが窺える。

 そして、そんな蟻が巣穴1つに付き、数百匹はポップしてるので、使い魔だけだったら、お菓子の家があっという間に食い尽くされてたかもしれない。

「やっぱ、こういうシチュエーションだと、ただで設置出来るオブジェクトは強力だな」

 バグスターの蟻と違い、簡単には畑を越えてこられないので、足止めは十分。

 地味に鎧の攻撃も仕事をし、傍に控えるガーディアンと天使が次々と仕留めていく。

「メェーーー!!」「ワンワン!!」

 そんな中、蟻に群がられた羊がどんどん上昇し、それにつられてシープドッグもどんどん上昇。

 限界まで離れると傍にワープしてくるが、即宇宙開発を再開。凄まじく愉快な光景だ。

 そんなギャグ的な光景もありつつ、使い魔の活躍を眺めていると、事態が動いた。

 最初に出現したのより、小型の蟻の巣が無数に出現。

 そこからカナブン程の大きさの蟻が湧いてくる。

 小さく弱くなった分、湧く速度は速くなり、被弾面積も小さいので、大雑把な攻撃を持たない使い魔が苦戦している。

 一方大雑把な攻撃が出来る、八岐大蛇は踏みつけで応戦、雨観亀は周囲に降る雨で小型アリを削り、双方大活躍だ。

 特級クラスというだけあって、厳しい内容ではあるが、流石に今のステータスでクリア出来ない道理は無いので、終始圧倒気味で試験は合格となった。


「おめでとうございます~」

 晴れて、『使い魔師範』プロ級へと昇級。

 効果は使い魔のステータスを10%上昇と、AIを少し向上となった。

 少しとはどれ程か。早速検証してみた。

 結果、貫通攻撃を警戒する様になった事が判った。

 具体的には、接敵までの移動時に、なるべく縦列にならない様、横にばらけて突っ込む様になった。

 お陰で、肉薄するまでの間の消耗が、僅かだが軽減出来るようになった。

 まあ、範囲攻撃に対しては、それほど効果が有るわけでも無いし、貫通付きの範囲攻撃だと、尚更だ。

 劇的な変化では無いが、無いよりマシ、あった方が嬉しい程度の強化に留まった。

 現状、ステータス10%の方が恩恵が大きいと言わざるを得ないな。


 PAに戻り、小休止していると、襲撃イベントが発生。

 アンノウン(所属不明)が、プレイヤーが行き来できる全ての惑星に接近中との事。

「バザーやノウン226とかの、商業惑星にも来るのか」

 其処へタロウがやって来る。

「どないするん?」

「そうだな~、取り敢えず様子見で良いんじゃないか?」

「まあ、現状どう動けばいいかも分らんもんな~」

 2人で、臨機応変という名の優柔不断を決めこみ、まったりしていると。

(ちょっと哲兄。いいかしら?)

 背後から、亜紀が声を掛けて来る。

(どうした?)

(寺門んさん案件よ)

「すまん、ちょっと急用が出来たわ」

「そうなん?まあ気いつけて」

 タロウに一言伝え、ログアウトした。


「で?今度は何が起きたって?」

「説明は移動中にするわ。付いて来て」

 急いで支度をし、車に乗り込む。

「来たわね」

「やっぱ男の人は身支度が早いわね」

 既に雪乃と雪奈も乗り込んでいた。

「ついさっき、DIY内でイベントが起きたでしょ?」

「ああ、つまりそれ関連って事か」

「ええ。以前みたく敵対勢力からの攻撃があったんだけど、今回は、それをユーザーに処理して貰おうとい、以前から在った計画を実行に移したのよ」

 亜紀曰く、DIYユーザーのPCは、それぞれ少しずつ処理能力をDIY運営に譲渡し、仮想のスパコン(単純な演算限定)を形成する等、普段からゲームに貢献しているとの事。

「今回は、更に踏み込んで、ハッキングを始めとした妨害行為を、ゲームプレイの一環として退治して貰う。という計画よ」

 ここで会社に到着し、寺門さんと合流。

「待ってましたよ」

「お久しぶりです。概要は簡単に聞きましたが、具体的には…」

「ええ、先ずはこれをご覧ください」

 モニタの1つを示され、4人でそれを見る。

 其処には、善人悪党問わず、大勢のプレイヤーが、耳なし芳一のお経が、0と1の羅列になった、人型の何かと戦っている光景が映っていた。

「うわぁ…なんなのコレ…」

「気持ち悪いわね…」

 雪乃も雪奈も、あまりに気味の悪いビジュアルにドン引きだ。

「寺門さん…これは流石に気味が悪すぎますよ…」

 亜紀も引き気味だ。

「これは…悪さをしてる連中を、強制的にこのアバターにしてるんですか?」

「平たく言えばそうですね。まあ、本人達は自身がゲームをプレイしてる自覚は無いでしょうが」

「でも、こっちの攻撃は、しっかりとウィルスバスターみたいな感じで効くと」

「早い話そういう事ですね」

「まあ、そういうもんだと思っておきますよ」

 流石に何から突っ込めば良いのかも分らん。


「イベントの概要は理解したんですが、我々が呼ばれた理由は?」

「特には有りませんよ?一応説明は早い方がいいと思い、機密なので此処で話した方がと思っただけです」

「あー…まあ、知らないよりは知ってた方が良いか」

 そんな事で呼び出すなとも思ったが、関係者な以上、致し方ないと納得。

「まあ、折角なんで遊んで行ってください。フィードバックも直接の方が楽ですしね」

 とまあ、そういう事で、4人でログインする。

「お、お帰り。ユキ、アコ、ユナもこんにちは」

「「「こんにちは」」」

「ただいま。タロウはずっと寛いでたのか?」

「いんや、さっき出てて戻ってきたとこよん。しかし今回の敵はケッタイやで、全身0と1の模様でビッシリや」

「SNSで見たよ。それで、どんな感じだった?」

「なんやろうな~、多分ギミック系やと思うんやけど、一定数倒すと本体が出現して、それを倒すとまたダミーが出現って感じかな?あ、敵の能力の話か、それだったら殆どプレイヤーと同じやね。ただ、それほど奇抜なビルドは見なかったから、幾つかのプリセットからランダムで出る感じやね」

「フム…」

 ここでリアルの方で、目の前に企画書が差し出される。

(何々…ハッカーのアクセスを多数に分割してアバター化し、個々の処理能力を下げ微弱性を持たせる事で、ゲーム内での処理が簡単になる。そして、多数のポイントからハッカーに負荷を掛け、下手人のPCに負荷を掛け、PCのクラッシュかバックドアを仕掛けるのが目的…か)

 本当かよ!?って言いたくなるが、一度納得したんだ、諦めよう。

(こうやって「お前らが幾ら小細工を弄しようが、うちには益しかないぞ」と示す事で、諦めれば良いんですけどね~)

 と、背後の寺門さんが呟く。

 確かにそう思うが、それで諦める位ならもっと違う状況だったろうな。


「良し、一度戦ってみるか」

 クラフトに夢中になってたパミルとマッドを連行し、タロウも連れて7人で出撃する。

「最寄りの襲撃スポットは?」

「一番近いのは砂漠やね」

 行き先も決まり、皆でホームから南下。

 山を越え、砂漠に付くと、拠点の周辺でドンパチやっているのが見える。

「アレが今回の襲撃者ねえ」

「名称はインベーダーに決まった様やね」

侵入者(インベーダー)か…」

 ピッタリの名称だな。

「さ、俺らも戦闘に参加しよう」

 全員で固まりながら侵入者へ近寄る。

「一番槍は頂くわね」

 アコが矢を番え、侵入者へ射掛ける。

 矢が命中したが、特にリアクションするわけでも無く、淡々とコチラをターゲットに寄って来る。

「う、見た目も気味悪いのに、挙動も気味悪いわね」

 まあ、ユーザーにハッカーへの過負荷を代理して貰う為の見た目だからな。

 普通を期待してはいけない。

 尤も、その異質な感じが、侵入者という不気味な敵を一層引き立てる要素にもなっているので、手抜きが良い感じに受け止められてるとも言える。

 そんな事を考えてる間にも、アコが二射目三射目と射掛け、天使やガーディアンも迎撃を開始。

 順次使い魔が反応し出し、ユキ達も攻撃を開始する。

「…超堅いな」

 ミイラ並みの硬さで、プレイヤーのデフォルト速度で迫って来るから、非常に堅く感じる。

 しかも、数が矢鱈と居るので、派手に戦ってると直ぐに目を付けられてしまう。

 最初の1体を遠隔で斃した頃には、侵入者10体以上に狙われてしまっている。

「行動パターンが単純なのが救いだな」

「ここは引き撃ち戦法で行きましょう」

 ユキの提案に乗り、這うナメクジが如く、軌跡に畑という粘液を置き土産に、迫る侵入者から距離を取り続ける。

 良い感じに戦えてるなと安心し、ふと周囲を見渡すと、大体の人が引き撃ち戦法で戦っていた。

 まあ、普通に動いてくるミイラとまともに戦うかって話だよな。

 中には真っ向からガチムチを仕掛ける猛者も居るが、流石に囲まれるのは避けていた。

 やっぱ、堅いだけじゃなく、火力もそれなり以上なのだろう。

 その後も、時間をかけ、引き撃ちで数を減らす事数十分。

 タロウの言った通り、ギミックなのか、模様がよりクッキリとした侵入者が複数出現。

 どうやらこれを倒し、終わらない場合は最初に戻るのだろう。

 さて、数が減った分、やはりというか侵入者のステータスが大幅に上昇。

 コチラも数の上では圧倒的になってるので、相対的な危険は変わらずといった感じか?

 サシでやりあったらヤバそうだが、普通に数十対一とかなので、ゴリゴリ削る。

 そんな大味な戦闘の果てに、漸く侵入者を討伐。

 どうやらここには追加でポップして来ない様で、戦闘が終了した。


 一旦PAに戻り、状況を確認。

 パミルとマッドはクラフトに戻っていき、タロウは休憩落ちした。

「それにしても気味が悪かったわね」

「そうね、あの見た目は無いわ」

「本当よね、もうちょっとあったでしょうに」

 と、女三人寄れば姦しいとは言うが、侵入者への不満が噴出だ。

(しかし、ハッカー、クラッカーをプレイヤーに対処させるとはね…これはそう遠くない内に大規模なサイバー攻撃でも来るかもな)

 よっぽどDIYのプロジェクトが邪魔なんだろうな。

「テツ君、聞いてる?」

「ん?」

「次は何処に行くか決めて」

「そうだな~」

 ま、俺があれこれ考えたところで、馬鹿の考え休むに似たりだ。あれ?下手の考えだったかな?まいっか。


「それじゃ今日はこれでお暇しますね」

「もう帰るんですか?」

「どうせなら寛ぎながらやりたいんで」

「まあ…少々修羅場じみてますからね…」

 流石運営兼開発室なだけあって、寝不足からか、トリップしてるヤバめな人もチラホラ居たりと、少々いや大分居心地が悪いのだ。

 開発室を出て、帰宅。

「ただいまっと」

 時刻は夕飯時。宮原さんが丁度支度を終え、晩餐となった。

 風呂に入り、後輩からの泣きつきの電話に対応し、寛いでいると。

「さあ始めるわよ!!」

 ドタドタと双子が上がり込んできて、一気に賑やかに。

「ほら、そこのおじさん。さっさと指定席に着く」

「そんな急かすな、こっちは33のおっさんだぞ?」

「「ぐふっ!?」」

 突然ダメージを受ける2人。

「どうした?ああ…戸籍年齢だと雪乃も2じゅう…」

「「そおい!!」」

 2人から全力の枕投げを喰らった。

「兎に角、女に歳の話はタブーよ」

「相変わらずデリカシーが無いわね」

 散々な言われようだ。

「…まあ良いけどね」

 3人で仲良くログインした。


「「「こんばんは」」」

 だが、PAには誰も居なかった。

「皆出払ってるのか」

「皆、襲撃イベントに参加してるのかしら?」

「かもな」

 ちなみに、サイバー攻撃自体は数時間で収束し、現在は運営が用意したダミーの侵入者が暴れてるようだ。

 …ツッコんだら負けだ。

「そんじゃ俺らもイベントを楽しむとするか」

「「おー」」

 そこへ、マサが帰還し、何処が賑わっているかを聞く。

「今ならバザーの卸売市場が一番だな。兎に角盛大にドンパチやってるぜ」

 ほ~。普段は戦闘出来ないエリアが熱いのか。

 早速バザーに向かってみた。


「んー?なんか動きとか堅さが違う感じ?」

 先程の、ハッカーのアバター化と違い、動きが良くて火力が高い代わりに、堅さが鳴りを潜めてる感じだ。

 ええい!!なんでこう次から次へとツッコミどころが出てくるんだよ!!

「テツ君さっきからブツブツ言ってるけど大丈夫?」

 お陰でユキに要らぬ心配までされる始末。

「もう良いじゃない。気にしたら負けよ」

 アコが、ポンと肩に手を置いてそう言い放つ。

「釈然としないが…精神衛生上良くないか」

「そうよ。ほら、お嬢様方は気にせず楽しんでる事だし」

 アコの示す先で、頑張って侵入者を攻撃する2人。

「さ、私達も頑張るわよ」

「そうだな」

 どうせ、また妙な仕様が出てくるんだろうと高を括り、目の前の戦闘に集中する。

「向かって来てるのは…ピストル持ちとショーテル二刀流の2体か」

 取り回しの良い飛び道具に、ガードアクションをある程度貫通するショーテル持ち。

 そしてその後ろに控える複数の侵入者。

 一度に全てを相手取るのは危険だし、さっさと前列の2体を始末してしまおう。

 拳銃持ちは既に射程圏内に入った様で、牽制射撃を開始。

 幸い貫通はしない様で、豚が吸う事で脅威とはならない。

 射撃で拳銃持ちが遅れた事で、ショーテル持ちが突出。

 この機を逃さず一気に攻め込み撃破。

 拳銃持ちと、その後ろに控える侵入者が近づく前に、一気に陣地を構築。

「これで、一先ず安心だな」

 周りの味方をの邪魔にならない様、且つしっかりと退路を確保。

 後は敵が近づくまでに処理できるよう、キッチリと各々が役割を果たしてく。

 途中途中で味方が瓦解する等、結構な危機が訪れたものの、味方の進入路の傍に構えてたので、俺らがやられる事は無かった。

 そしてバザーが鎮圧された頃には、襲撃イベントが完了。

 運営的にはどうだったかは知らないが、まあ1人のユーザーとしてはそれなりに楽しめたと思う。


 翌朝。

「おはよう。昨日はお疲れ様」

「おはよう亜紀。寺門さん的にはどうだって?」

「ハッカーが直ぐに退いて、尺が足らない以外は概ね良いそうよ」

「確かに、直ぐに中身が差し変わってたもんな」

「そうね。でも寺門さんと社長は、このイベント化が必ず役に立つ時が来ると言ってるわ」

「そうか…そうならないのが一番だが…」

 こればかりは相手次第だし、備えないわけにはいかないからな。

「「おはよ~」」

 双子も起きてきて、朝食を済ます。

 亜紀は出社、双子は勉強、俺は後輩と以前担当してた取引先に向かった。

 午前はトラブルの対応に費やし、後輩のケツを燃やして帰宅。

「ただいま。はい、きんつばとたい焼き」

「まあ、嬉しいわ。早速頂きましょう」

 宮原さんがお茶を入れ、双子を呼んで甘味を味わった。


「そんじゃ、やっていくか」

 午後は特にする事もなく、双子とゲームをする。

 ログインすると、サチとシルクとトリオが出撃準備をしていた。

 丁度いいので、俺らも同行させてもらう。

「今回は私が使う繊維集めに行くのです」

 どうやら、シルクのクラフト素材の確保が目的の様だ。

「本当は近場で集める予定でしたが、テツさん達が来てくれたので、アニマルに向かうです」

 こうして8人で、アニマルへ繊維集めに向かう。

「繊維集めだから毛がふさふさの奴が良いのかな?」

「いえ、基本動物性でお肉以外なら、繊維に出来るので、何でもいいです」

 そういう事なので、頭隠せず尻も隠せずの巨獣を狩っていく。

 今回は、我がコーポ屈指の近接アタッカーのショーが居るので、ダメージ効率が非常に良い。

 ってか、肩書と刻印の効果で、一撃が重い上に追加の火柱と、なにやら触れるとダメージが発生するアニメ的な星が出現して、総ダメージがとんでもない事に。

「すげぇ…テコ入れ後の巨獣って、こんなにアッサリと倒せるもんなのか」

 肉薄からものの数十秒。巨大バイソンが地に伏した。

「笑える火力だな、前のお披露目会から淘汰も増えたのか?」

「ええ、俺は3回目ですね」

「お~、1回分離されてるのか」

 聞くと、ユキとユナは俺に合わせて2回。シルクもサチもトリオも、現在は3回目だと言う。

「なら、折角だし中間報告じゃないけど、現状のビルドの情報交換をしましょう」

 素材集めの最中、サチが情報交換を提案。

「そうだな、別に淘汰10回目まで待つ意味もないしな」

 という事で、巨獣を狩りつつビルド談議に移った。


「じゃあ、いつもの流れで俺から。俺が2回目で消去したのは《生命フリーク》で、選んだ刻印は〖神縛りの刻印〗。効果は一番格の高い使い魔を進化させて、ステータスを2倍にする、だ。」

「は~、それで<ウロボロス>でしたっけ?それが<八岐大蛇>になったんですね」

 改めて、八岐大蛇を眺めるラーク。

「使い魔としては超強いんだけど、やっぱ色々足らない感じだな」

「追加の変化とステ2倍でもそんなもんですか」

「確かに使い魔の枠を超えてるかもしれんが、やっぱ使い魔故に基礎能力が抑え気味なのがな」

「まあ、そうじゃないとペットや従魔の意味が無いですからね」

 それでも、使い捨てに出来る駒と考えれば、破格な事には変わらないけどね。

 それに、俺自身のパラメータも、ガチのジェネレーターに比べたら、大したことは無いので、補正の観点からも、若干見掛け倒しになってしまうのは致し方ない事なのだ。

 しかも、淘汰の最中にこれまでお世話になった【生への執着】[死への免疫]をも切り捨てる心算なのだから、一層見掛け倒し感が増すだろう。


 二番手はユキ。

「それじゃマサ君が居ないから次は私ね。私が消去したのは《魔生マニア》で、刻印は〖魔の刻印〗にしたわ」


〖魔の刻印〗魔法の威力が100%上昇し、与えるダメージが100%上昇。


「え?それであの火力ですか?」

 パーティー内で、一番火力の高いショーが思わず口に出す。

 確かに、こんな刻印がありながら、ダメージレートはショーに遥かに及ばないもんな。

「ショー君、ナチュラルにディスるの止めてくれないかな」

「いや、悪気はなかったんだけど…」

「まあ、キャスターとしては最底辺火力だからね、私のビルドは」

「ユキさんはその分堅いから仕方ないです」

「フォローありがと。シルクちゃんは優しいわね~」

「まあ、最近は火力より堅さを重視するキャスターも増えてるからな」

 一応俺もフォローを入れておく。

「ただ、今更火力を盛ろうと思った理由はなんだ?」

「やっぱ、キャスターな以上、高火力をぱなしたいじゃない」

 尤もな理由だった。

「…確かに、堅ければそれだけ叩き込める総火力は相当なものになりますからね」

 単発火力やDPSではなく、一度の戦闘での攻撃回数や総ダメージという、視点を切り替えて再評価するショー。

「そう!!火力が高くても、有効打を打てないなら意味は無いわ!!」

 ショーの掌返しにここぞとばかりに便乗するユキ。

 尤も、ガンマンやライフルマンの早撃ちには勿論、大型近接武器にも攻撃の回転率で劣るキャスターは、火力がなければ置物同然だというのも、改めて言及しておこう。


 お次はシルク。

「次は私です。私が消去したのは《聖獣の裁縫頭》《ハードボディ初級》で、取得した刻印は〖天然物の刻印〗〖放逐の刻印〗の2つです」


〖天然物の刻印〗入手した有機系の素材の質を向上。


〖放逐の刻印〗素材を生成する使い魔が二分間生存した場合、モブとして解放される。


「成程、さっきから家鴨や兎が増え続けてるのは〖放逐の刻印〗の効果だったのか」

「そうです。ちょっとテンポが遅いですけど、弾除けを無限に増やせるのは結構便利です」

 言ってる傍から生成系の使い魔がモブ化し、新たに使い魔がリスポン。

 モブ化した元使い魔は、味方判定ではあるが、都度勝手に散らばっていく。そして巨獣たちにプチプチと潰されているのか、時折ドスドスと足踏みが聞こえてくる。

「少なくとも賑やかしにはもってこいだな」

「フフフ、テツさん甘いです、なんと解放された使い魔達は、そのエリアの難易度補正を受けていて、危険地帯に行く程しぶとくなるです」

 そう言われ、実際に見てみようと周囲に気を配ると、あつらえ向きにトラに追われてる家鴨が目に移る。

 そして、爪撃が家鴨に振るわれ、やられた!!と思った家鴨が起き上がり、再び逃走を開始。

「おお…確かに堅い」

 シルクもドヤ顔だ。

「もう1つの刻印はどうなんだ?」

「こっちも強力です、流石刻印といった感じで、+値数十のギフトすら凌ぐ効き目です」

「まあ、その位強力じゃないと割に合わんもんな」

 なんせ、消去という過去にない激重な負担の上に成り立っているからな。

 そんな犠牲と引き換えで、上質な素材を何時でも手に入れられるシルクの投網。

 アニマルのパワフルな巨獣ですら、数舜は硬直させる凶悪っぷり。

 それをほぼ際限なく浴びせ続けるので、敵だけ処理落ちしたかのような動きとなり、その隙を好き放題にボコる霊騎士の使い魔2体。

 膨大な数と、畑というオブジェクトを駆使し、対多を得意とする俺に対し、シルクは対個に特化してきてる感じか。

次も二週間程で。

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