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第五十二話

~前回までのあらすじ~

メンバー全員が1回目の淘汰を終え、お披露目も完了。

これから全員での戦闘へと臨む。

「もう、陣形の概念なんて在って無い様なものだし、皆適当に動いてくれ」

 全員単独でも動けるようにビルドを組んでる為、各々好きに動いてもらう。

 あ、ユナだけは火力が無いから単独では無理か。

 さて、改めて皆の戦い方を見させて貰おうか。

 俺は積極的に動かなくても、天使とガーディアンの遠隔が有るので、皆の中心で高みの見物を決めこむ。


「マサは…デモンストレーションと違って、普段は超手堅い立ち回りなのな」

 死んでもその場復活の可能性が、現状なら確実にもかかわらず、復活後の状況も考慮し、そもそも死なない立ち回りを徹底するマサ。

「でも、今後は死ぬ事前提のビルドに舵取りするんだろうな」

 非常に高い復活率、そして淘汰によるギフトや肩書の消去。

 これらから導き出されるのは、マサが再び範囲特化のビルドを目指してるであろうという事だ。

 ダメージ反射、何らかの撃ち返し、これらをケアしつつ、広範囲攻撃を繰り出すのなら、復活を保険に掛けるのが一番確実だろう。

 ただ、こういったカウンター能力は、ダメージに限った話でも無いので、その辺の対策は依然必要だが、マサはどうやってケアするのか、はたまた予想を裏切って別のビルドに突き進むのか…今後に注目だな。


 ユキは、縛りが軽くなった事で、<クラスティオーブ><アイススピア>を連射しつつ、[ダークニンバス]と[旋風]を常時展開し、濃密な火力の壁を形成。

 これでもキャスターとしては、底辺火力と言うが、それでも随分と様になってきたものだ。

 やっぱ魔法使いって、こう魔法を連発してこそって感じだもんな。

 それか、どデカいのを一発ドカンでも良いな。

 ユキの場合、打たれ強さと、最低限の移動速度を確保してるから、移動砲台も熟せる筈だ。


 アコは刻印由来の使い魔の天馬に跨り、縦横無尽に空を駆け矢を射かける。

 天馬の特性を考慮し、既に今後の展望が固まってるのか、下馬することなく只管馬上で矢を射る。

 天馬のお陰で【コメディームーブ】は価値が薄れ、ランスの使用率が激落ちした事で、【半馬の騎士】【スイッチファイター】も無用の長物と化したので、今後の消去を見越して、弓の一本化にシフトしてるのだろう。

 しかし天馬は便利だな~。距離を取るから被弾率も低く、刻印由来だから堅いしやられても即復活だしで、非常に使い勝手がいい。

 あ、この時に天馬の復活まで滞空出来る【コメディームーブ】が輝くから、消去はないかも。

 肩書のお陰で、射撃精度に補正を掛ける[銃器]の覚醒数を確保したことも有ってか、兎に角狙撃の精度が凄いのも、天馬による回避運動の強さを際立たせている。

 一方的に、宙から正確な射撃が飛んできて、反撃が当たらないという状況を考えれば、その危機的状況が解るというものだ。


 ベルは、ヒール系とリジェネレイトを軸に、湧き続けるLPを笠に着た暴力で蟲を蹂躙。

 一見強そうに見えるが、反射ダメを警戒する必要が有る為、いずれは通用し辛くなる。

 勿論、どんなビルドだろうと、反射は警戒の対象だが、ベルの場合はより深刻な脅威となる。

 先ず、相手の攻撃を防いだり避けたりではなく、被弾前提のビルドなので、敵の攻撃に加え、反射まで加わると、回復が間に合わず、被弾前提故に立て直しが困難な状況に追い込まれてしまう。

 次に、幾ら火力が鬼だろうと、同等以上の防御力を持った相手には無意味だという事。

 構成上、火力だけは高いがそれだけなので、屈強な前衛の盾を崩せない可能性が高い事。

 そしてそもそも攻撃を当てれるかどうかも未知数な所が有るので、やはり純粋な近接でやっていくには、相当厳しい言わざるを得ないのが現状だ。

 あくまで、本来のコンセプトは、近接も出来るけど…という程度のものなので、率先して殴りに行くビルドでは無いのだ。

 サービス開始から時間が経ち、様々なビルドの特化やハイブリッドが組み上がった中、ハイブリッドが特化にその分野で勝てる程甘くは無い。

 ベルなら回復や支援魔法を活かして、初めて互角の戦いが出来る。

 まあ、一時的に条件が五分になるだけで、ダイアグラム的にはガチの近接相手だと、1:9位差を付けられそうだが…そこは今後の刻印次第で変わるかも。


 パミルはベルとは違い、自衛以上に戦えるようにビルドを組んでるので、蟲の殲滅速度が速い。

 周囲を固める【クリスタルゴーレム】が大活躍だ。

 パミル自身は、使い魔の合間を縫って孤立した蟲を、素手で削るだけでの簡単なお仕事に専念。

 堅さだけなら、うちの中では底辺なパミルだが、それでも[獣人][吸血鬼]をバランスよく覚醒させ、斬撃打撃のカット率も上げてる為、物理に対してはかなり打たれ強く、魔法は使い魔で対処するので、総合的には堅牢だったりする。

 それでいて、刻印のお陰で手数が大幅に増えたので、やられる前にやるが実践出来る。そして反射持ちは使い魔に任せれば良いのも強みだ。

 尤も、本職は採掘と細工なので、ベル同様に、積極的な戦闘の機会はどんどん減っていくだろうが、刻印次第では…といった感じだ。


 シルクは、ベルとパミル以上に戦闘を意識したハイブリッドなので、ガンガン投網で蟲を拘束し、使い魔に止めを刺さしている。

 肩書でHPとバリア三種のパラメータが大幅に覚醒数を伸ばし、ギフトでパラメータに大幅に補正が掛かってるシルクは…というよりシルクの使役する使い魔のステータスは相当高く、止めは勿論、囮から戦線の維持まで八面六臂の大活躍だ。

 まあ、本人自体にはそれほどの火力があるわけでは無いので、攻勢に関しては非力な感が否めないが、それはビルドの個性でもあるから仕方ないな。


 ベッタラは、戦闘職の悲願とも言える、反射ダメージの無効化に漕ぎつけてるので、火力を伸ばすのに尻込みせずに済むから、今後の自由度は相当に高い。

 その代わりと言ってはなんだが、結構肩書の効果が偏りがちで、打たれ強さに関しては、我がコーポ最下層に位置する。

 一応、刻印で使い魔を用意した事で、多少は火力の分散は図れたが、まだまだ心許ない。

 その分、高い火力、そして[出血][失血]を、一部例外を除けば通す事が可能な事を考慮すれば、多少の打たれ弱さも甘受すべき事柄かもしれない。

 今も、蟲を圧倒的な手数があるにも関わらず、数手で蟲を切り伏せた。

 蟲は比較的[出血]耐性が高いので、《メスの達人》を切った影響は大きそうだが、そもそも一撃入れば20回分になるので、問題無く[出血][失血]に出来てるようだ。


 サチに目を向ける。

 従来のまきびしとトラバサミを計9つ仕掛けられるようになり、出来る事が増えた分、忙しそうだ。

 ただ、従来であれば、サチ自身が狙われ、撒いたまきびしが都度巻き込まれて破壊される事態になり、一層面倒だったのが、今は違う。

 刻印〖間者の刻印〗のお陰で、サチの存在感が希薄になり、<まきびし>やトラバサミを設置して、初めて敵に気取られる位だ。

 これにより、最初に囮用にトラバサミを仕掛け、目晦まし兼速度デバフでの時間稼ぎをし、その間に残りのまきびしとトラバサミを安全に仕掛けやすくなる。

 個々の罠は、ギフトの効果込みでも長持ちする事は稀だが、計9つの罠を遣り繰りすれば、遅滞戦闘も可能だし、火力の面でも固定ダメージ故侮れないのが[罠師]の特徴だ。

 ハイブリッドじゃなく特化型だから、攻撃手段に乏しいものの、高い耐久力のお陰で取れる戦術は幅広い。

 今後の刻印に期待が高まる。


 マッドは【塔に住まうスライム】の完全消去が完了してないので、STAの遣り繰りに苦慮しながら戦っている。

 肩書のお陰で、態々敵に近づかなくても爆発に巻き込める以上、大変な不便を負ってまで完全無敵にこだわる意味は無い。

 次の淘汰でその重荷も下ろせるので、マッドのビルドが大きく飛躍するのもその時だろう。

 しかし事ある毎に爆発してんな。


 ラークは、一般スキルの超補正によって、基本的な能力が非常に高い為、堅実な戦いを安定性を保って行っている。

 一般スキルの効果を14倍は伊達ではなく、本来ならば雑多に取得してスキルLvを上げまくって、漸く専用スキルの足元に及ぶ程度のスキルが、専用スキルに匹敵か、それ以上の効果になっている。

 それでいて、種類がとても多いので、少しでも使えるスキルを片っ端から取得するだけで、凶悪なステータスとなる。

 そして、基礎能力が高いからこそ、盾剣というスタンダードなビルドが一層輝ける。

 さっきも触れたが、普通は、例えタワーシールドの様な大盾をもってしても、一定以上の衝撃や複数からの攻撃を耐え続ける事は厳しい。

 だが、スキルによって莫大なSTA補正を得た事で、人よりも大きな蟲の攻撃にも耐え、押し返す事さえ可能となる。

 更に、それらの補正は片手剣にも及んでいるので、鉄壁の守りから隙間に放たれる斬撃のなんと重い事か。

 勿論、ビルドの関係上、ラークには大技をポンポンとぱなす事は出来ないから、距離を取るなりすれば、能動的な仕切り直しは可能だ。

 しかし、鉄壁の守りがある以上、そこから逆転出来る可能性は低いと思われるので、持久戦に持ち込むメリットは薄いかもしれない。

 PvPにおいて、かなり相性差の出るビルドなので、今後は長所短所をどうするかが見ものだ。


 今度はワイドに目を向ける。

 彼は盾剣トリオの中では、一番戦い方が変化した人物だろう。

 出会った当初は他の2人同様に、盾と剣で堅実に戦うスタイルだったが、アプデで様々な成長要素が解放された結果、現在のピョンピョンスタイルに落ち着いた。

 今も、ジャンプを絶やさず衝撃波を出し続け、蟲を寄付けずに遠隔CAでチクチクと蟲を削る。

 ワイドは[獣人]と[吸血鬼]の最上位肩書の、《吸血神狼》を取得してるので、普通に近接をやっても十分戦えるのだが、追い込まれでもしない限り、態々被弾のリスクを背負う必要無いと、只管遠隔を擦っている。

 それに、そもそも【太陽を背に】で敵のヘイトを逸らしやすい上に、今は刻印のライカンとヴァンパイアの使い魔も居るので、増々好き放題し易くなっている。

 ただ、火力に関しては少々心許ないかもしれない。それも今後の刻印次第か。


 ショーは、見た目こそトリオ随一の変態だが、ビルドのコンセプトは、王道そのものだ。

 圧倒的な火力に防御力、これにモノを言わせ敵を粉砕。近接の目指す姿そのものだ。

 更に、刻印で小範囲ながら、火柱という範囲攻撃を得て、対雑魚戦での優位性をも獲得した。

 そして、肩書の《蛮勇の王Lv2》《蛮勇の覇王Lv1》で、容易に火力を出せるようになった事で、消去を思い切った舵取りに。

 過程で、火力の源泉たる[筋力]などを失い、一時的に大幅な弱体化は避けれないだろうが、順調にパラメータを消去していけば、最後の3回は[生命][持久][積載]の何れかの淘汰補正を倍に出来るので、この際に[持久]を選択すれば、肩書の効果も相まって、火力は異次元へと突入する…。

 今回ショーが選択した刻印が、短所を補うものだったので、今後の刻印の選択にも注目していきたい。


 サーモンに目をやると、ローテーションのマネジメントに追われ、慌ただしさが見て取れる。

 やはり、持ち歩く従魔の数が増えると、その分作業が複雑になって大変そうだ。

 この後、サーモンとはこの状況の解決に向けて、一緒に動く約束をしてるので、詳細はその時にでも。

 で、戦闘面だが、ゴブリンの数を活かしたクレバーな立ち回りは驚異的だが、弱点もハッキリと現れている。

 なんと言っても、射程の足りなさが顕著で、対空が貧弱過ぎる。

 ギフトの【クロスボウ支給】が有れば、まだマシだったかもしれないが、たらればだし、仮にそうしていたとしても、それはそれで地上戦、対空双方が半端という、やや残念な仕様に落ち着いていただろう。

 それともう1つ、こちらはトレードオフとなるので、仕方ないのだが、問題点としては上げておくべきなので触れる。

 やはりどう繕うとも、所詮はコスパに優れてるという程度のゴブリンでは、魔物の中級クラスなら兎も角、上級や怪物クラスが相手だと、数を集めたところで…となる。

 サーモンは、その点を【制式装備】を4回も重複し、《召喚神》で+補正を強化して補っているため、そういった個の暴力にも、数で対応出来てはいるが、やはり相性は宜しくないと言える。

 そういった事を考慮し、同じ人型でも、近接でより強いオークを軸にする人も多い様だが、対応できる個の暴力の限界値が多少上がるだけで、根本的な解決には至らない。

 こうなると、対空はどうしようもないとしても、せめてボス級相手に今以上に戦えるようにするには、エース級の従魔の確保が最優先。

 …そう思われたが、サーモンの答えは、更なる数に依る圧殺だった。

 …似た者同士だからツルんだのか、ツルんだせいで似たのかは知らんが、俺の脳筋思考と一緒だ。

 まあ、これは後のお楽しみという事で。


 おりょうさんは、ショーと同じく、パラメータを切り捨てる選択をした。

 基本的に、彼女のギフトや肩書が、互換性のないもので、かつギフトの根幹を担うからこそ、消去が出来ないからだ。

 なので、彼女の選択は、そうしたいからではなく、そうせざるを得ないからだ。

 それでも、後々考えてみて、ギフトと肩書を手付かずのまま、最低限のパラメータを最強の補正で得られる事は、自分のビルドには最適だと判断し、突き進む決意をしたそうだ。

 ただ、幾らお犬様が強かろうと、使役者のパラメータが減っていけば、最終的に攻撃防御のパラメータ補正が消えるし、このままだとおりょうさん自身が戦力外になる。

 今回取得した〖不可染めの刻印〗がどれ程威力を発揮するかは未知数だが、着物を含め、アパレルの性能次第では、このまま近接も可能だし、もしかしたら主力級の活躍も出来るかもしれない。

 現状、本人じゃなくて犬が本体みたいなところが有るし、このままだと本人が前に出れなくなると、犬も戦えなくなるので、活路を見出すのは急務となる。

 まあ、最悪クラフトだけでも良いんだけど、やはり似た者同士の集まりだけあって、全員が戦闘を楽しみたい人間なので、おりょうさん自身の為にも、頑張ってもらいたいところだ。


 今度は大量の蟲と揉み合っているカメキチさんを見る。

 鈍重で、武器を持たないが、関節技を軸に、意外と高火力なカメキチさん。

 絶望的な移動速度の遅さを受け入れる代わりに、圧倒的なLPと各種防御力。

 更に非常に高い魔法へのカット率に、頭部以外へのダメージカット率も併せ持つ。

 それらを武器に、個だろうが多だろうが、捻じ伏せてきた彼だが、やはりその遅さが枷となり、相性差がハッキリと出る。

 言うまでも無く、速い相手、遠隔持ち、飛行ユニットには、手も足も出ない。

 それらが相手になった途端、常に腹這いな事を考慮すれば、置物にすらなれない空気と化す。

 だが、そんな状態も、刻印のお陰で極僅かだが変化の兆しが見えた。

 今までと違い、カメキチさんの半径200m以内に居れば、問答無用で聖属性の放射線に晒されるので、例え攻撃が飛んでこないとしても、意識せざるを得ない存在になった。

 なんせ障害物無視だから、LP二桁台で物陰に隠れて…という相手に止めを刺せる可能性が有るのだ。

 いや、二桁まで回復を渋る奴はいないかもだけど、少なくとも追い込まれた際のダメ押しが居るだけで、相手の戦術に影響を及ぼすので、戦場に居るだけで意味が出てくる。

 刻印の中には、これまでの彼のコンセプトを伸ばす様なモノもあった筈だが、それでも今回このような選択をしたという事は、彼なりに仲間に貢献したかったという思いもあったのかもしれない。

 と言っても、これまでも大型の敵相手の猿轡として口を封じたり、本来の役割である、囮での活躍も目覚ましい彼を、評価していない者などうちには居ないけどな。


 タロウは…なんと言うか、刻印のせいでネタ感満載になってしまったな。

 効果を考えれば、ネタどころか濃密で驚異的な弾幕を形成出来る分、中距離戦での要に等しいポジションなんだが…如何せん散弾の挙動が愉快過ぎる。

 だってクラッカーの紙吹雪だよ?明らかに毛色がおかしいもん。しかも、散弾が跳ねたり貫通したり爆発したりするからな。

 いや、全力で避けるべき弾幕になってるから、頼もしいんだけどね。

 今も、弾幕に突っ込んだ蟲が、着弾時のダメージで大きく怯み、0.5秒間触れた事で2回目のダメージが入り、消滅。

 中距離以上でこの破壊力は、かなりのものだ。

 ユキが中距離中火力中範囲長持続、アコが遠距離高火力単体、そしてタロウが中距離高火力広範囲中持続なので、我がコーポの飛び道具も充実したものだ。


 最後にユナを見る。

 メンバー随一の[生命]を誇り、その源泉たる[生命][吸血]の効果やスキルへのデバフ対策も怠らない徹底ぶり。

 反対に、攻撃能力に関してはメンバー中最下位で、そもそも攻撃手段を持たない論外でもある。

 そんなある意味極地なビルドのユナにとって、生命線とも言えるのが、[吸血鬼]由来のギフトである【威圧の魔眼】だ。

 そして、こんなビルドだからこそ、〖重圧の刻印〗という、凶悪(刺さる相手には)な刻印が解放されたのだろう。

 ただ、その恩恵は感じ難い事この上ない。

 なんせ、【威圧の魔眼】が刺さるのなら、〖重圧の刻印〗刻印の効果が無くても十分で、どちらか片方だけがピンポイントで活躍する機会は無いかもしれない。

 只、片方だけでは不十分な制圧力が、合わさる事で、片方だけなら動いてくる相手を、制圧出来るという場面も少なからずあると思うので、まあ無駄にはならないだろう。

 でも、やっぱユナ単体での活躍は厳しいかもしれないな。


「うん、やっぱ飛行ユニットで遠隔、しかも精密射撃が出来る使い魔は便利だな~」

 のんびりと仲間の中心で農業しつつ、仲間や使い魔の観測に専念していたが、ニューカマーの天使の活躍が際立っている。

 ガーディアンの魔法も、強化が進み、頻度と威力も申し分ないが、天使の射程と弾速と精度には敵わない。

 と言うか、戦闘において、射程と弾速と精度の重要度を、改めて認識する。

「遠くに飛ぶだけでは微妙だけど、数で補えば良いから射程は重要」

 これは人類が原始的な戦いをしてた頃からの不文律だ。

 石だろうと、矢だろうと、命中率は兎も角、先手を取れるという事と、反撃を受けない事は、戦闘において何にも勝る要素だ。

「弾速は、見てから避けれないという条件を満たす為にも、絶対に必要な要素だ」

 ドッヂボールやバレーボール等は、距離が近いからこそ、純粋に飛来物を見ただけじゃ、回避や受ける事は困難だが、距離さえあれば横移動で避けられる。

 勿論予測して、相手にとって先読み弾的に放てばいいが、やはり距離が有れば当てるのは困難。

 弾速さえあれば、距離が有ろうと見てからの回避は困難だ。

「そして、前述の2つを活かす為には、精度が重要っと」

 どれだけ届こうが、どれだけ速かろうが、狙ったとこに飛ばなきゃ意味がない。

 そして、精度が有れば、無駄玉が減り、費用対効果も跳ね上がる為、近代兵器においては、この精度こそが最重要ファクター(射程と弾速はあって当然)として扱われる。

 強いて言えば、飛来物のサイズも小さい程良いが、被視認性と威力のトレードオフなので、バランスの問題だろう。

 長々と語ってしまったが、結局何が言いたいかと言うと、天使は有効攻撃が多く、攻撃する度に敵が削れてくので、カタログスペック通りの性能を発揮してると言える。

 これは結構重要な事で、数値上は強くても、命中率が思いの外低く、期待通りの活躍をしないというのが、武器や兵器を始めとした、様々なジャンルで起こるのだ。

 例えば、サービス開始直後に取った、[幸運]の使い魔4体がそうだ。

 まさか、あれ程攻撃頻度が低いとは思わなんだ。

 そのせいで、攻撃前に蹴散らされたり、攻撃時に敵が目の前に居なくて空振りとか、そんな事が頻発した。

 こういった、実際に試してみないと判らない要素が多々あるので、そういった側面からも、〖天使の刻印〗は優秀と言える。

 持てる火力を、確実に叩き込めるというのは、本当に大事なんだ。


 粗方検証も済み、PAに帰還し、今度は約束通りサーモンに付き合う。

「今回付き合って貰うのは、ゴブリン狩りだ」

「まだ増やすのかよ…既に管理出来てねーじゃん」

「いや、今回は明確な狙いが有ってな、それは[ゴブリン×2の核]だ」

「あ~…×2核か…」

「ああ、これが有れば管理が非常に楽だし、〖二重召喚の刻印〗も一層輝く」

「確率が激渋なのに狙うのか…」

「だからこそテツやんに頼るんじゃないか」

 今回のターゲットである[ゴブリン×2の核]は、名前の通り1つの核で2体のゴブリンを呼べる代物で、コストも2倍となっていて、別段と費用対効果が高いわけではない。

 ただ、前述の通り、管理がしやすくなるので非常に有用なアイテムには違いない。

 そしてそのドロップ率だが、普通の核の1/10000らしい。鮭児かな?

 今まで俺らが得てきた核の総数から考えて、絶望的な確率だが、まあ狙う価値は有るし、過程ですこぶる儲かるので、付き合う事にした。


「場所は鬼ヶ島か」

「ああ、ここのゴブリン至上主義を掲げる西エリアなら、これでもかとゴブリンが湧いてくるからな」

 取り敢えず、件の西エリアに向かってみる。

 目的地に着くと、確かに大量のゴブリンが居て、こちらを認めるなり襲ってくる。

 それに対し、こちらも全力で応戦。

 別に、今の俺らなら、片手間でも問題無いのだが、狙いはゴブリンの中の鮭児。

 数をこなす必要があるので、全力で事に当たった。

 そして、一日が終わるかという時、まさかの事態に。

「ん…[ゴブリン×3の核]…うん」

 見なかった事にして、懐に仕舞おうとするも、血走った眼で俺の手を掴むサーモンに阻止された。


「という事で、交渉を開始します」

 サーモンの仕切りで、突如核の譲渡交渉が開始。

「そもそも狙いは×2の方だろ?良いじゃん、これは死蔵でもしとけば」

「…」

 無言で凄まじい眼力で見つめて来るサーモン。

「で、幾ら出す?」

 逃れられないと悟り、取り敢えず向こうの限界を聞いておく。

「即金は無理だが、分割で1000億でどうだ?」

「微妙…」

 即金なら兎も角、そんな大金払いきる頃には、1000億が端金になってる可能性も有るわけで…。

「そもそも×2が1/10000で、×3が×2の1/10000…つまり通常の核の1/100000000なんだろ?流石に分割ならその数倍は欲しいわ」

「くー…ならダンジョンコア10個ならどうだ?」

「え?まあ価値は余裕で釣り合うけど、余計ハードル高くなってるだろ、それ」

「…5個だ」

「え?」

「今俺が持ってる核の数は5個だ。なるべく早く残りの5個を確保するから、それをキープしておいてくれ」

「ちょ!?あんな貴重なもんをどうやって5個も確保してんだよ」

「…サブキャラで」

「なんという廃人…」

 今度は俺の攻勢になり、根掘り葉掘り聞きだす。


「はあ~、【早起きは三文の得】ビルドのサブキャラをね~」

 確かに以前、あのギフトでダンジョンコアを入手できる事には触れたが…まさか実例を目の前の人物が体験しているとは…。

「実は、その情報の出所も俺だったりして」

「ええ!?」

 実はサーモン、投資で元手を稼ぎつつ、MMOの攻略サイトを運営するプロゲーマである事が判明。

 その資金力と時間を使い、複数のサブキャラを運用し、日々サイトへのアクセスで日銭を稼いでいるとの事。

「まあ、どのアカウントがサーモンのサブキャラなのかとか、詮索はしないけど…ちゃんと寝ろよ?」

「ご忠告痛み入る」

「まあ、そこまで個人情報に近い事情を教えて貰ったんだ、これは譲るわ」

 サーモンに×3の核を譲渡した。

「ありがてえ!!じゃあ取り敢えず5個な」

 サーモンからコアを5つ受け取る。

 これで蓋を更に増やせるなと思ったが、その前にサーモンのゴブリン狩りに、引き続き付き合わされることとなった。


 翌日。

「じゃあ今日も頼むわ」

「ああ、しっかりと寝たか?」

「ああ、タップリと七時間半」

「なら大丈夫だな」

 2人で目的地に向かい、早速狩りを開始。

「ところで昨日はえらくアッサリと、激レアな×3が出たが、これも[幸運]の効果なのか?」

「そうだな~…確証は無いが、ある程度[幸運]が高いと、本来のドロップテーブルや確率の収束すら捻じ曲げる事がある。位の感覚的な情報なら入って来てるな」

「というと、本来なら、通常の核が1万個出る頃に、×2が1個とすると、確率分母的には最初の1つ目で×2を落とした場合、それから1万個は×2が出ないし、×3なんてもっての外。だけど、ドロップテーブルや確率分母すら捻じ曲げて、×2が連続で10個出たり、×3が出ても、通常の核1億個以内に、もう1度×3が出る確率も、十分に有るという事か」

 という俺の言葉に。

「そうやって、纏めてみると、ただのリアルラックにも思えるな」

「だが、流石に通常の核13個目で、×2をすっ飛ばしたとなると、あながち嘘では無いと思うな」

「まあゲン担ぎ程度には充てにできる感じか」

 そんな事を話しつつ、ひたむきにゴブリンを狩る。

 だが特に何か起こるわけでも無く、昼になったので休憩を挟んだ。


「…これまた随分とまあ持ち込んできたもんだ」

「俺も面食らったよ」

「だろうな。しかし、[ゴブリン×3の核]か…とんでもない秘宝をよくもまあ簡単に手に入れやがって」

 休憩後、サーモンを待機させ、タツキチにコアを渡し、蓋の増産を依頼。

「やっぱ×3にもなると、相当希少なんだな」

「そりゃな。まあ世の中にゃあ、[ドラゴン×2の核]や[ジャイアントスラグ×3の核]とか、値が付けられない物も数多く在るがな」

 成程、まだ狩り放題なゴブリンだからこそ、秘宝程度で済むのか。

 さて、用も済んだしサーモンと合流するか。


 サーモンと合流し、ゴブリン狩りを再開。

「ところで核を売りまくってるけど、そろそろ値崩れとかしないのかね?」

「大丈夫だろう、核もただ強化するだけじゃなく、合成も出来るかから、需要は底知らずだ」

「合成…強化とどう違うんだ?」

「種類によって違うが、ゴブリンの場合は、+1でステータスとコストが+10%だな」

「ちょっと重くなってちょっと強くなるのか」

「そうだな。一応+値は、今の所だが青天井らしいから、装備全般と一緒で、核の合成もエンドコンテンツの一種になってるな」

「ほ~、じゃあ+1000Lv1000のゴブリンも作れるって事か」

「そこまで行けるかは知らんが、Lv1000なら結構出回ってたな」

 んー、ゴブリンってコスト50とかだっけ?ならLv1000で5万…その+1000だと500万か、確かに行けるかどうか分らんわ。


「お、キタ!!サーモン、第一号だ」

「おっしゃああああああ!!」

 狩りから数時間。漸く×2核の1つ目をゲットした。

「それで、結局は幾つ欲しいんだ?」

「幾つでも」

 まあ、合成の話が出た時点で察してたわ。

「しかし、そうなるとホント終わりが無いな」

「エンドコンテンツって言ったろ?」

 まだ狩り放題なゴブリンだからこそ、こんなんで済んでるが、これが前提条件の厳しい従魔だったらと思うと…。

 そんな考えが透けてたのか。

「だからこそ、サモナーは限界値が青天井なんだ」

「確かに、従魔の強さで幾らでもダイアグラムが変化するな」

 そうだ、ふと思い出した事を聞いてみる。

「そういえば、前にNPCが従魔を同時に3体召喚したんだけど、最大で5体イケるとか言ってたんだよな。可能なのか?」

「んー…多分アビリティの類だと思うんだが…いや、ライセンスの特級って線もあるか」

「ああ、ライセンスの特級保持者だったな」

「成程…もしかしたらそういう固有特典も有るかもしれないな」

 という事は、再現性は低いという事か。

「ちなみに、極卒の3体同時召喚だったな」

「マジか、流石NPC…」


「さて、やってくか」

「目指せ2つ目!!」

 夜、作業と化したゴブリン狩りを惰性で再開。

 サーモンは相変わらず高いモチベーションを維持してるが、俺の方は既に飽き飽きしている。

 だが、サブキャラ含めたサーモンの財力は凄まじく、歩合制の報酬が確約されてるので、仕方なく付き合っているのだ。

「さっき従魔の同時召喚の話をしたろ?」

 サーモンが先程の話を振って来る。

「休憩中に伝手を頼って情報を集めたら、見つかったよ関連情報が」

「ほうほう」

「やっぱりライセンス関連で、ジャンル的には魔法的な要素の絡むライセンスの、特級以上に付く特典らしいな」

「魔法的というと、肉弾戦系や化学系クラフトのライセンスでは、発現しない感じか」

「そうなるな。で、この特典だが、ライセンスを取得し直しての、特典ガチャ…では無いが、兎に角条件を満たしてやり直しをすれば、誰でも取れる事が判明したんだ」

「つまり、目当ての特典を持ってる奴と同じ様な行動を取ってから、ライセンスを破棄してから上げ直せば、狙った特典を得られる可能性が有るって事か」

「そうのようだ」

「…苦行だな」

「ああ、だから俺もやり直そうとは思わないな」

 いくら隣の芝がどうたら言っても、ライセンスの特級特典は、その時の自分に合ったモノが付与されるので、今更苦行を熟してまで、変えようとは思わないな。

 …中には奇特な人も居るかもだが、それはそれだ。


 翌日。

「おはよう」

「おはよう、若いの。出来上がってるから持ってくといい」

 タツキチから蓋を受け取り、PAで編成する。

 これで、アサルトディスクの総数は9機。これで更に安定感が増した事だろう。

 さて、サーモンはまだインしていないので、森方面で唾付けでもしてるか。

 早速商業地区から外に出て、門から逸れて防壁傍で土いじりを開始。

 すると、思惑通り天使が忙しなく矢を射り始める。

「良し良し、唾付けは順調だな」

 農作業を続けてると、続々と懐に入って来る懸賞金。

 矢に温まったのか、時折悪党や魔物が攻めてくるが、7000を超える蜂と、ガーディアンの上位単体魔法に、悪党は尻込みし、魔物は成す術もなく蒸発していく。

 そうして小銭を稼ぎ、休憩に入った。


 急遽、顧客の対応をする等、急な仕事を熟し、再びログイン。

 今度はサーモンがインしていたので、ゴブリン狩りに付き合う。

 そして翌日の昼。遂に2つ目の×2核をドロップした。

 これで×3も含めれば、複数召喚の核は3つ目か。

「良し、取り敢えずの目標は達成だな」

「上限は無いとか言ってなかったか?」

「勿論随時集める心算だが、取り急ぎで欲しいかったのは3つなんだ」

「というと?」

「次に取る刻印なんだが、〖自動召喚の刻印〗っていって、所持してる核の、コスト上位3位までを、一切の負担無く、クールタイムが切れる毎に自動召喚してくれるんだ」

「一切の負担なく自動召喚…召喚動作も要らなくてSTA消費もペナルティも無いのか」

「ああ」

「成程、それの適応が従魔3枠分までだから、3つ欲しかったのか」

「そういう事、これで直ぐに淘汰を行なえば、マネジメントが凄い楽になるだろうよ」

 という事で、サーモンが2回目の淘汰を行い、予定通り〖自動召喚の刻印〗を取ったので、その検証に同行した。


「うーん、戦闘区域に入った瞬間から、自動召喚が始まるから、ちょッと煩わしいかもな」

 検証の場をアースのホーム近辺にした為、外に出た瞬間にゴブリンが10体同時に召喚された。

「でも、負担なしの自動召喚だから、<過剰供給>のデメリットも帳消しなのは嬉しいな」

<過剰供給>は、パラメータ[召喚]の専用スキルで、従魔召喚の際、STA消費を増やす代わりに、従魔の与えるダメージ量が増えるスキルだ。

 その後も絶えずゴブリンを召喚し続け、森に放っていくサーモン。

 そして時間切れか、再び10体のゴブリンが召喚される。

 当然、その間もサーモンの召喚が途切れる事は無い。

「これは実際に見てみると、強さが実感し易いな」

 マジで、一切の隙無し負担なしで、突如として従魔が湧いてくるのだからな。

「そうだな、しかもゴブリンはクールタイムも短めだから、スキルで短縮すれば、例え召喚直後にやられても、ほぼノータイムで再召喚出来るから、より一層この刻印が活きてくるな」

 つまり、これだけの強さのゴブリン達が、使い魔と同じ扱いで運用出来るわけだ。

「これでまだまだ伸びしろが有るってんだから、上を見たらキリがないし気が遠くなるな」

「それでも目指すのがゲーマーってもんだぜ」


 検証を済ませ、一旦PAで雑談。

「ところで、淘汰2回目の、Lvアップ時のパラメータの上昇値って据え置きだった?」

「ああ、やっぱ1Lv辺り1000で固定の様だな」

「そうか」

 今後、どんな成長要素が追加されるかは、現時点では判らんが、少なくともパラメータの上昇値はLv1辺り1000で頭打ちなんだろうな。

「まあ、それなら刻印の差しか出ないって事で、安心ではあるな」

 今までは、成長する程パラメータの上がり方も強化されてたから、Lv差を付けられるとPvPでは致命的だったが、淘汰ではまだマシな様だ。

 尤も、刻印が超強力な分、やっぱり致命的な差になりそうではあるがな。

「さて、俺はサブキャラの育成をするから落ちるわ」

「お疲れさん」

 サーモンを見送り、俺も一旦休憩を挟む事にした。


 休憩後、双子と一緒にドラグーンに来ている。

 特に目的があるわけでは無いが、稼ぎ目当てで攻略済みの惑星にばかり籠るのもどうかと思い、気分転換にやってきた。

 折角だし、ブラキオサウルスでも拝んでみようとなり、南に位置する大森林へと向かう。

「居ねえ…」

 先程から確認出来るのは、トリケラトプスやステゴサウルス、コモドドラゴンっぽい奴やアースドラゴンばかりで、ブラキオサウルスはおろかT-rexとも遭遇しない。

 これまで、俺自身が明確な目的を掲げて探してなかった上で、T-rexにはそこそこ遭遇してたから、ブラキオサウルスも直ぐに見つかると思ってたが、いざ探し出すとT-rexすら見つからんとは…。

 これが物欲センサーという事か。

「居ないわね…」

「流石超レア恐竜だけあるわね」

 双子も捜索に辟易してきたのか、空気がグダり始める。

 もう適当に素材を集めたら帰るか。そう指針を変えた途端、ブラキオサウルスを発見した。

「…流石にデカいな」

「「そうね…」」

 全長20m、体高も10m以上はあるだろうか。

 もしゃもしゃと高所の葉を食べてる姿は、どことなく可愛げがあって、ついつい魅入ってしまう。

 そんなブラキオサウルスに、これまた巨大なイリエワニ級のワニが襲い掛かる。

「おー、全く歯牙にもかけないな」

 正に鎧袖一触。テールスイングの一薙ぎで、ワニの群れは潰走していった。

「これがペット化すると、大分弱体化するのよね…」

「でも、Lvを上げればアッと言う間に越すらしいけどね」

「とてもじゃないがコストを直視できないだろうな、それ」

 それでも、現状PvPの環境トップには、そういったコストをバカ食いする何かが必ず入って来るので、ガチ勢ほど、コストという楔に苦しめられる。

 ま、俺らエンジョイ勢には関係のない話か。


 ブラキオサウルスの雄姿を拝み、一旦PAに戻ってきた。

「いや~、雄大だったな」

 デカい者は強いを地でいってる圧倒的な存在だった。

「直ぐに大勢のテイマーに囲まれてたけどね」

「アレはブラキオサウルスが気の毒だったわ」

 まるで獲物に群がる蟻の如く、ブラキオサウルスに絡むテイマー達。

 何度も幾人も粉砕されつつも、徐々に包囲網を狭め、あらゆる手段を講じ身動きを封じ、テイム地獄へ突入する過程は、中々に怖気の走る光景だった。

 流石、現状の最強ペットだけはある人気ぶりだった。

 さて、気分転換も済んだし、金稼ぎを再開するか。


 引き続き双子を伴い、フォレストで土弄りを開始。

 高級素材の[マタンゴ]をドロップする、巨大キノコが沢山湧くエリアで作業中。

 作物は、需要急上昇中の、酒の原料になる物を見繕い栽培。

 ちなみに酒の需要が高まっているのは、酒から造れる消毒アルコールや火酒などの、状態異常回復アイテムの材料になるからだ。

 今更こういった基本的な消耗品を、多く必要とするロケーションが見つかったのかな?NPCも品切れを起こす程度には、そういった物資が売れてるようだ。

 普段だったら「へーそうなんだ」って感じで、特に気にはしないんだけど、つい最近物相場で大儲けしたことも有って、ちょいと気になったので、作業の傍ら要因を調べてみる。

 そして、おあつらえ向きにインしていたベルとサーモンに聞いてみると、先程上げた消耗品から、強力なバフアイテムを作れる事が判った。

「STA消費を倍にする酒アイテムか…確かに強力だ」

「成程ね、それなら今の高騰も納得だわ」

「まさか、アルコール関連の消耗品から、そんなバフアイテムが出来るなんてね」

 STA消費を倍と聞くと、デメリットの様に聞こえるが、ユナの能力の様に、強制的に追消費させるものと違い、バフで消費を増やす場合は、キチンとSTA補正も倍かかる為、手っ取り早く戦闘力を上げる事が出来る。

 勿論、その分管理はシビアになるが、攻撃から防御、回避も全て強くなるので、非常に強力だ。

 そんなお手軽バフアイテムが、アルコールから作れる物資を素材に、生産出来るレシピが出回り、現在の高騰に繋がった様だ。


「さてと、こんなもんかな」

 コーポレーションの物資のコスト肩代わりが効かなくなったので、撤収。

 夕飯と休憩を経て、再びログイン。

 そろそろシンボルが復活する頃合いなので、各地を回って適宜換金物に変換。

 これで大体の資産が6億程になった。

 2回目の淘汰を完走するには、約4億掛かるから、一応は一区切り付いてはいるが、このゲームは行動でも成長要素に補正が掛かるから、金が貯まると同時にLvを上げるのが、必ずしも有利とは限らない。

 まあ、そういう事なので、このままLvを据え置きで行ってみようと思う。

「といっても、何をしたら良いかなんて判らないんだけどな」

「どうしたいきなり?」

「ん?いや、何がきっかけでスキルが変化したり、強力な刻印が解放されたりするのかなと」

「完全にブラックボックスだもんな、その辺りの情報は」

 居合わせたマサと、雑談がてら出撃する。

「マサのビルドってさ、追い込まれたらソロじゃ挽回無理だよな」

「まあ、どんなビルドでもそうだと思うが、復活の恩恵は逆転の目が在ってこそ発揮するのは間違いないな」

「ただ、今後解放される刻印次第じゃ、一気に化けるかもな」

「俺としては、復活時に短時間で良いから無敵を付けてくれたら最高なんだが」

「流石に高望みが過ぎるぞ、それ」

 そんな、ほぼノーリスクで自爆特攻が出来ちゃ、ゲームが破壊されちまう。

 …ただ、このゲーム、時間が経つにつれ、ぶっ壊れが増えてきて、寧ろ過去の壊れがまともに思える程度に日々壊れているので、寧ろそうなると構えてた方が良さそうだな。


「で?アニマルまで来て何をするんだ?」

「取り敢えず作物の種を集めようと思う」

 アニマルには、巨獣たちの餌となる食物が沢山自生してるので、それらのシンボルから種や苗の獲得を目指す。

「お、見ろよマサ、コズミックキャットが居るぞ」

「言われなくても見えてるよ。相変わらずラブリー過ぎるな」

 超巨大な子猫という、ギャグにしか見えない存在。

 しかし、可愛いは正義とは言ったもので、出回りが少ないことも有って、未だに出現が知れると人の集まりが凄い。

「あ~あ、テコ入れ補正で強化されてるから、一瞬で潰されてるな」

「倒すだけならどうにでもなるんだけどな~」

 あくまでテイムが目的何で、倒すなんてもっての外。皆必死だ。

 そんな微笑ましい光景を楽しみつつ、十分な収穫を得て、バグスターに跳ぶ。

 コチラでは蟲の素材と作物の収穫をメインに動く。

 そして一時間程掛けて程々に稼ぎ、眠くなったのでお開きとした。


「ん?アプデの告知か」

『Ver2.41のお知らせ。日頃からDIYオンラインをご愛顧いただき誠にありがとうございます。本日はおよそ十日後にアップデートを実施いたしますので、その内容についての告知を行います…』

「何々?NPCの能力の拡張?どういうこっちゃ?」

 単に強化ではなく、能力の拡充とは?まあ、その時が来れば判る事か。

「そんじゃおれらプレイヤーも、更に向上しなきゃな」

 でもやる事は、変わらず金策だがな。

「今日はどうするか…」

 金策と言えば、コーポレーションの依頼消化も地味に良い稼ぎを出している。

 評判の方も、ハイエルフのバナーのお陰で、若干だが底上げされてるので、安全域を保っている。

「蓋も追加でもう5機増える予定だし、ここらで運用方針を…変えるのは無しだな」

 欲を出しても、結局は堅実が一番って事が大概だし、やはり適度な依頼消化と、ペットのLv上げ重視が一番の近道だろう。

 ましてや、最近は栗鼠にフェレットまで増えたんだ。一層他の活動に浮気なんて出来ないな。

「さて、折角だし、ペット達のLv上げついでに悪党への唾付けでもするか」

 この日は、ペットや蓋を主役に、サポートに徹して過ごした。


「おはようございます」

「なんか久しぶりですね」

「ですね~」

 今日は、久々にG戦隊と一緒に行動する事に。

 コチラはサーモンとタロウが同行している。

 行き先は、砂漠のカタコンベ。以前ボコボコにされ、無様に敗走を喫したダンジョンだ。

 現在、カタコンベの攻略は、地下30階まで進んでいる様で、想像絶する強敵犇めく地獄の様相を呈してるのだとか。

「私達もチョコチョコ挑んでるんですが、15階からスフィンクスが出る様になって、歯が立たないんですよね」

 スフィンクス…聞くところによると、マンモス以上のタフネスに火力を備えた化け物で、こいつが蠍や蝙蝠、ミイラに交じって雑魚の様に数で攻めてくるそうだ。

 取り敢えず、G戦隊に軽く情報をおさらいして貰い、ダンジョンアタックを開始した。


 現在地下12階。

 G戦隊が15階で詰まってると言うので、そこまでは楽に行けるのかと思ってたがとんでもない。既に十分な噛み応えを味わっている。

「普段は蝙蝠だけ撃退して、蠍やミイラはスルーしているんですよね」

 高速かつ被弾面積が小さく、堅牢な彼女等は、追い縋って来る蝙蝠だけは処理し、他はスルーしてる様だが、今回は俺らも同行してるので、まともに戦ってくれているが、やはり彼女等にとっても堅い様だ。

 その分、強敵からの戦利品が得られてるから、決して無駄では無いが、時間は掛かってしまっている。

 まあ、多少リスキーではあるが、ある程度スルーして進む事も可能なので、若干ペースアップして、15階に向かう事に。

 そして目的の階層に辿り着くと、階段部屋に溢れる人に驚く。

「すげえ人だかりだな」

「皆ここから一気に詰まりだすんですよね」

 それだけスフィンクスがヤバいって事か。

 早速俺らも一当たりしてみようと、適当に進んでみると直ぐに遭遇。

 見た目はスタンダードな、人面ライオン的な感じだ。

 攻撃方法はシンプルに突進やスタンプ。引っ掻きや魔法を使用してくる。

 もう、この時点でマンモスを遥かに凌駕する攻撃性能だが、加えてマンモス並みの耐久に再生能力を併せ持つという、中々に理不尽な雑魚だ。

 まあ、こちらも同じように理不尽を押し付けるだけなので、お互い様といえばお互い様だ。

 凶悪な使い魔の<ウロボロス>だけで、スフィンクス1体なら止められるので、火力さえあれば安全に狩る事が出来る。

 ただ、雑魚故に数で圧してくるのがキツい。これはG戦隊にはキツイ筈だ。

 火力が無いから、結局追い込まれてジリ貧必至だもんな。

 まあ、今回はタロウが居るし、俺もサーモンも、限定的だが、高火力を持ってるので、十分やって行ける筈だ。


「漸く16回への階段に到着か」

 ここまでの感触だが、淘汰まで行ってると、パラメータの上昇率自体には差がないからか、上位層との格差はそれほど感じず、結構戦えると結論付けた。

 まあ、淘汰を重ねると、刻印と消去ボーナス分、パラメータに差が出るので、もっと深層に潜ると明確に差が出そうだがな。

 あくまで、この辺りの階層なら、俺らでもイケると判ったってだけだ。

「さて、16階はどうかな?」

 1階層違うだけで、敵の強さに大分開きが有る為、G戦隊が初見な以上、ここは慎重に歩を進める。

 すると、丁度良い所に蠍が5匹程向かって来たので相対。

 先ずは小手調べと<ウロボロス>をあてがう。

 蛇2体と蠍5匹の戦闘とは思えない程、重厚なサウンドが響き渡る。

 直ぐに他の使い魔の参戦もあり、圧倒的な物量差で押し切ったが、大蛇は2体とも1回ずつやられている。

「うーん、まだまだ余裕はあるけど、使い魔7000オーバー対蠍5匹でこれじゃ、相当慎重に立ち回る必要が有るな」

 皆も同意し、孤立だけは絶対に避ける為、積極的に他のグループとも共闘する方針で行く。

 一体どういう物理法則が働いてるんだと思う程、大した基礎も無い癖に矢鱈広い地下墓地。

 お陰で大勢の攻略者居る為、共闘相手には困らない。

 早速、こちらを伺いながらソワソワしているペットマスターの面々に声を掛ける。

「こんにちは」

 待ってましたとばかりに応じる面々。

 聞くと、22階から出るレアエネミーの、アスペルマンバという、感染症系の状態異常特化のマンバを狙ってるとの事だ。

 例によって、圧倒的な耐性での手掴み作戦に期待してる様だが…。

「…俺の耐性はあくまで毒と酸なので、状態異常には意味ないですよ」

『!?』

 どうやら本気で、思い込みでもしていたようだ。

 とはいえ、状態異常は防御力より、LPの値が高い方が有効なので、やはり顔見知りという事もあって、俺が適任だと言われ、同行する事にした。


 G戦隊とも顔合わせを済ませ、ガンガン下層を目指す。

「流石ペットマスター…とんでもなく強いな」

 もうね、引き連れてるペットの強さが常軌を逸している。

「あのスノーマンバLv幾つなんだろう…」

 先程から、スフィンクスが速攻で状態異常塗れになり、手早く処理されていくのを見ると、自分たちが場違いなんじゃないかと思えてくる。

「俺的にはあの熊が気になってしょうがないだが」

 マサの視線の先では、蠍の大群相手に奮闘する5体の熊が居る。

 圧倒的な個の暴力がな成せる所業は、目を惹いてしょうがないな。

「通路で詰まってるコズミックキャットはネタ枠なのかね」

 動画サイトとかで見る様な、頭だけ部屋側に突き出た形の猫。超かわいい。

 更に、通路に嵌ったケツを蠍やスフィンクスに齧られてるのか、鳴き声がこれまた愛らしい。

「私達要る?」

 レイナさんのこの一言に全てが集約されていた。


 なんだかんだで大幅なペースアップにより、22階へ到達。

「それじゃ行ってきます」

 散らばるG戦隊。

 ここからは、アスペルマンバを見つけるのが最優先となり、低い被視認性、堅牢な装甲、非常に速い移動速度を持つ彼女等は、こういった捜索には持ってこいだ。

 俺らも移動と定点狩りを交互に行いつつ、G戦隊の報告を待つ。

 暫くして、マンバ発見の報告が齎される。

 先導に従い、現地に向かうと、人一人が腹這いで通れるかどうかの小穴に到着。

「あ~、これは中々発見できないな」

「そもそも、こんな危険地帯で匍匐移動する人が居ませんからね…」

 と、ペットマスターも、発見率の低さに納得な様子。

「でも、こういう隠し通路的なのは沢山あるけど、全然マンバを見かけないから、、やっぱり相当渋いポップ率なんでしょうね」

「で?ここからどうする?」

 勿論、誰が行くか、もしくは誰が連れて来るかだ。

 当然、全員の視線が俺に突き刺さる。

 はいはい、行けばよろしゅうんでしょ。


「さて、匍匐移動なんて久々だな…」

 1人寂しく狭い通路を這って行き、50m程行ったところで行き止まりとなった。

 そして、追い込まれた形でこちらを牽制するアスペルマンバと対峙する。

「ほう、全身白カビ塗れのマンバなのか」

 ベースはグリーンマンバで、カビとのコントラストが非常に病的なマンバだ。

 幸い、非常に狭い環境の為、使い魔が勢い余ってマンバを始末…という展開は避けられた。

 ただ、予断を許さない状況なので、急いで肉薄し手掴みを敢行。

 カプッ。

 早速毒牙の洗礼を受ける。

「うおおおお!?」

 たったの一噛みで、[出血]や[眩暈]に[体温低下]が引き起こされ、同時に毒ダメージも発生。

 尤も、こちらは耐性を盛ってる為、大した事なく済んでいる。

 取り敢えず、これでマンバの身柄を確保したので、急いで皆の下へ戻る事にした。

次回は二週間を予定に考えてます。

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