第四十九話
~前回までのあらすじ~
雪乃のスペアとして、クローニングされた雪奈を迎え、私生活の方も落ち着いたが…
NPCの中に、多数の人入りキャラが居るという、衝撃の事実に衝撃を受けた哲也であった。
「ああ~、癒される~」
簡単な紹介も終え、沢山の白モフに埋まるユナ。
「これは癖になるわね」
「でしょ?現実では中々ここまでの多頭飼育って出来ないし」
ご満悦なユナに対し、得意気なアコ。
「フ~、堪能したわ。それじゃ試運転といきますか」
ユナにとって、今のビルドは全く未知のものなので、今から実戦で慣らし運転をする事に。
ちなみに、丁度近くには俺ら身内組しか居ないので、ユナが妙な(ボロが出そうな)事を口走っても大丈夫だ。
まあ、このあたりも徐々に慣れて貰おうか。
さて、PAに居るサーモンとサチも加え、ユナの実戦デビューをサポートするか。
やってきたのPvPメッカのホーム周辺。ただホームから出ただけだ。
「早速巻き込まれた様だな」
既に善人と悪党とでドンパチやっていて、こちらも圏内に居た為、なし崩し的に参加。
「テツさん、私はどう動けば良いかな?」
一応、ゲーム内では他人行儀で行く事にしたので、向こうは俺や他の年上っぽい人はさん付けで呼ぶことにしたらしい。
「攻撃能力が皆無だから、囮になる程度に好きに動いて良いぞ」
「了解」
そう返事をし、敵の側面を抑える様な感じで動き出すユナ。
そんなユナの装備は、徹底的に守り重視な構成で、暴徒鎮圧部隊が持つような大盾にフルプレートメイル一式という、かなりの重装備だ。
まあ、装備自体はNPCの店売り品で、特に吟味もしていないので、そこまでの性能はないそうだ。
さて、こちら側の戦力は、俺ら6人と門番2人と他グループの5人。
対する悪党は全部で3グループで10人。
数の上では勝ってるので、ステータス差で圧殺される前に、数の差で圧殺したい。
とか考えてる間に、敵も味方も増えたり減ったりして、最早全体像の把握が困難に。
数が増えれば増える程、戦闘の中身は大味になりがちだし、気楽にやるのが正解か。
という事で、俺らは悪党のお陰で、高まった耕作地ランクで農耕を開始。
いい具合にバウンティポイントを稼ぎたい奴らも誘因出来、作業にメリハリがあって飽き難いのもよろしい。
そんな感じで、暫く外壁に張り付きながら稼ぎに没頭する。
「うんうん、結構強み弱みがハッキリしてるわね」
何度か悪党とぶつかり、感覚を掴んだユナが戻ってきた。
「どうだった?」
「【威圧の魔眼】が思ってたより弱かったのが残念だわ」
「というと?」
「先ず範囲が絶妙に狭いのよね、Lv5で25m程しかないから、ビルド次第で通常攻撃だけで、範囲外からチクチクされて完封もザラだわ」
「成程、+値補正で範囲は増えないのか」
「あとは、思った以上にSTA消費行動って少ない事かな。STAが枯渇して、一瞬焦ってくれるんだけど、即座に切り替えてSTA回復ポーションで立て直されて、後はずっとアウトレンジに徹される…なんてのが殆どだったわ」
「ああ…ポーション類は呑むだけならSTA消費しないからな」
「他にもSTA消費無しで使える、ダメージ0の仕切り直し用グレネードも厄介だったわ」
「それで距離を取られるのか」
「ええ、その間にやっぱポーションで立て直されたわ」
「そうか、思ってたよりも、対策され易いギフトだったんだな」
「そうね、というかPvPでは、特化すればするほど、勝てなくなる感じがするわ」
それは有るかもな、うちのメンバーも、最低限の打たれ強さを確保しつつ、強みを2~3持ってるからな。
やっぱ、何かに特化し過ぎると、先細りし易いって事か。
「でも、その分ハマると超強いけどね」
「相手を見極めるのが重要、って事か」
「そういう事ね、これで私のビルドの立ち位置は解ったから、もう少しマシになる筈だわ」
そう言って、ユナが再び戦線に戻っていった。
「成程、ユナの奴自分からは絶対に敵に近接しないようにしたのか」
確かに【威圧の魔眼】はユナの切り札であり主力だが、ユナのビルドの本質は、その圧倒的な[生命]を笠に着た囮役だ。
これなら、焦れた相手が接近してくれば魔眼の餌食だし、解ってる相手でも、視界の端でウロチョロされる事で、精神的に追い詰める事が出来るので、味方がペースを握りやすくなる。なんなら物を投げて煽ってもいいしな。
「それにしても堅いな」
さっき「お前LP幾つよ?」って聞いたら「軽く100億超えてるわ♪」って言ってたもんなぁ。
最近のPvPだと、俺の場合一撃で軽く数千万喰らうのが普通だが、ユナの場合それでも掠り傷で済むのか。
敵の脇を攻めようとする、サーモンのゴブリンに混ざり、只管相手にプレッシャーを掛けている。
当然そんな事をしていれば、様々な飛び道具が飛来するが、盾でダメージをカットし、持ち前のLPで耐え切って見せるので、相手のイライラも相当なものだろうな。
しかし、自身が殆ど何も出来ない代わりに、相手の行動をやや縛れるビルドか…。
極限まで特化した割に、得られるものが少ないからこそ、余程先を見据えて何かを計画しない限り、やろうとも思わないな。そりゃ一部の廃人だけが辿り着く極致になるわけだ。
ユナの実戦を終え、PAに戻り雑談中。
「それで、普段の金策はどうするんだ?」
「普段はホーム内で依頼でも熟すわ。誰か居れば協力して貰って、戦果を山分けでも良いわね」
「まあ、誰かと組んで初めて威力を発揮するビルドだし、それが一番だな。それに、常に俺かユキかアコが一緒にインしてるだろうし、仲間不在の心配も無いしな」
そんな感じで、今後の方針も決まったし、俺は4度目の進化をしに教会に向かう。
「とその前に、物を金に換えてと」
タップリ金を持参して、いざ進化!!
「これで良しっと」
金も十分すぎる程有った事で、Lvは140まで上げられ、万全の状態だ。
さて、今回因子とパラメータの覚醒数は4回なので、[獣人]を3回[農家]を1回[幸運]を4回覚醒させた。
肩書は無難に《生命信者》を重複し、《生命信者Lv1》にした。
今回も、【引換券】は温存する事に。
ステータスは、これといって何かが劇的に変わったわけでも無いので割愛。全体的に強くなった程度に思ってくれて構わない。
進化に関してはこんな所か。
「良し、『使い魔認定員』と『ファミリアコーザー』を上級にしてくるか」
試験会場に着き、先ずは認定員を受ける。
『準備は宜しいですか~、それでは始め~!』
試験が始まり、目標達成を目指す。
試験の内容は、NPCジェネレーターを相手取り、敵を全て倒せば合格という、実にシンプルなものだ。
で、上級試験なんて高が知れてるので、ものの数分で決着。当然合格が貰えた。
コーザーの方も、全く同じ試験内容の為、ほぼ同じ流れで合格できた。
「おめでとうございます~」
これで双方のライセンスの効果が上がり、こうなった。
『使い魔認定員』使い魔のステータスが20%上昇。
『ファミリアコーザー』使い魔のリスポンで消費するSTAが30%になり、リスポン速度が20%上昇。
実に良い。サブライセンスは超級までしか上げられないのが非常に惜しい。
それでも、ライセンスは特級から個性が出るので、次の昇格と最終昇格ででどう味付けされるのか楽しみである。
「早速実戦で試してみるか」
PvPだと、相手のステータスにムラが有りすぎるので、バグスターで蟲人間をしゃぶる事に。
「うーん、ライセンスの効果というより、進化でステータスが上がってるからなんだろうな」
これまで、散々苦しめられ、一方的に叩けるようになるまで苦労した蟲人間が、その辺の雑魚と同じ様に使い魔の群れに蹂躙されている。
「Lvを上げて行けば、自然とここまで圧倒できるんだったら、無理してまで吸魂を急ぐ事も無かったな」
勿論無駄な行動では無かったが、あの時間で金を必死に集めた方が、もっと早くこの状況を実現できたな。
「でも、苦戦できるってのも、経験を考えると必要だし、良かったか」
ポジティブポジティブ。
それに、なんだかんだで蜂は大量に死ぬので、コーザーのリスポン消費の軽減と速度上昇は大きく、これまで以上に大量の蜂が群がれるようになってるのも、浄化の高速化に一役買っている。
軽めの検証も済み、PAに戻った。
『フォレストの攻略度が100%になりました』
「お、いつの間にか佳境に入ってたのか」
「さんざん話題になってたじゃねえか…ヒヒ」
「マッドか、皆は?」
「そのフォレストに行ったんだよ」
「ハブられたか」
「…まあ行かなくて正解だったかもな…」
と、マッドがマサから送られてきたスクリーンショットを見せてくれた。
「うわぁ…」
「ヒヒ、これ生きて帰るの無理じゃねーか?」
スクリーンショットには、テコ入れで難易度が急上昇し、視界を埋め尽くすクロスイーターの群れに襲われる、大勢のプレイヤーやNPCに混ざるマサ達が映っていた。
マッドとキャッキャしながらスクリーンショットを見てると。
「あ~やられちまった」
マサが死に戻ってきた。
「「おかえり」」
「テツにマッドか、SSの通り酷い目に遭ったぜ」
続いて続々と戻って来る仲間たち。
「マサは『冥府の王Lv1』で粘れなかったのか?」
「粘ってコレだ。復活したところで、周りに敵しか居なけりゃ意味がない」
「それもそうか」
復活率が70%でもダメな時はダメだし、十分に一度だし、そもそも状況が好転するとも限らない。強力な肩書だが、過信は禁物な効果だ。
「んじゃ、その地獄を体験してくるか」
折角4回目の進化を済ませ、Lvもカンストさせたんだ、思いっきり苦戦したいじゃん?
ってなわけで、1人テコ入れフォレストへ向かう。
「ホーム周辺は…既に地獄絵図か」
周囲を夥しい植物系菌類系の生物から魔物、挙句の果てに怪物に囲まれ、絶賛籠城戦の真っ最中だ。
「しかも花粉に胞子が酷いな」
急いでガスマスクをレンタルし、状況の把握に努める。
防壁から外へ注がれる火線。外から聞こえてくる物体の衝撃音が、戦闘の激しさを物語る。
「へへへ、そんじゃ進化4回目の実力を試させてもらおうか」
そうして勇んで防壁から外へダイブし、即座にドッペルと連合を展開。
フュージョンボックスも起動し、全力で開墾する。
当然敵も仕掛けてくるが、大量の使い魔と、背後を味方に守られてるという、地の利のお陰でクロスイーターの襲撃を防ぎ開墾が成立。
そして数十秒で陣地の構築を終え、今度はこちらが圧倒的有利な状況でクロスイーターをしゃぶる。
「と言ってもホーム周辺限定だなこりゃ。ちょっと他の惑星のテコ入れとは一線を画すな」
超絶理不尽な数の暴力に身を浸したいなら最高だが、普通にふらつくには環境が悪くなり過ぎだ。
「その分耕作地ランクが高いんだけどな」
もしかしたら、フォレストは農業用の惑星として使えという、公式からの御達しなのか?
ホームから一歩飛び出しただけで、かなり品質のいい作物が収穫できるから、猛攻に耐えられるなら美味しい農場足り得る。
今後フォレストを訪れるのは、農耕の為になりそうだ。
「大漁大漁♪」
これでもかと[選別された上質なマタンゴ]を栽培し、売り捌いた結果、簡単に1000万もの収入を得る事に成功。
「やべぇ、テコ入れフォレスト最高だ」
ホームから一歩出て、日陰を開墾すればいんだもんな。
こんなんで時給1000万超えだからぼろい商売だ。
なんて思ってたら、既に情報が行き渡ってたらしく、数日後には戦闘可能なファーマーが押し寄せ、ホーム近辺の耕作地ランクの急下落を招く事になった。
まあ、馬鹿みたいに稼げてたから、そりゃ皆群がるわ。それに運営から修正を喰らったわけでも無いし、ちょっとホームから離れれば良いので、危険を冒せば稼げることには変わりは無かった。
十日後。
「大体一月半後にアプデか」
雪奈のことも有って触れなかったが、つい最近もアプデが有って、現在のVerは2.3で、次回で2.4になる。
内容は細かい修正と、成長限界の解放だそうだ。
現段階でも、既に限界まで成長してる連中が結構いるらしく、早く上限を開放しろと五月蠅い様だ。
まあ、アースやバグスター、フォレストについ先日攻略が完了したアニマル等、テコ入れ惑星の難易度がおかし過ぎて、装備の更新だけではどうにもならないからという事なので、気持ちは解る。
最前線を走ってる連中の装備じゃ、OPの厳選や特殊効果の付与成功率とかを考慮すると、更新は絶望的だろうし、成長限界の解放を切望して止まないだろうな。
さて、アプデの告知も確認したし、ゲームの方をやっていくか。
ユナも大分うちに馴染み、積極的に他のメンバーに同行しては、甘い汁を啜っている。
…勿論、最低限の弾除けは買って出てるし、PvPにおいても相手を無力化することも有るので、同行を拒否する者は居ない。
それに、元ギルミーネの中の人という事もあって、兎に角間合いの測り方…特に剣戟戦時が絶妙で、悪党のリズムを崩す事に関してはメンバー1だ。
PAでポップし、先客に挨拶してから教会へ向かう。
5度目の進化を行う為だ。
「先ずは肩書の選択か…おお!!凄いのがあるぞ」
新たに追加されたどうでも良い肩書の中、唯一輝く肩書がコレだ。
《生命神》[生命]の覚醒数を100増やす。
多分[生命]の合計覚醒数が200を超えたからだと思うが、効果がマジでぶっ飛び過ぎだ。
ま、それは置いといて、追覚醒させる因子とパラメータを何にするかだ。
パラメータは[幸運]一択で、5回分全振りだ。
目的は、スキルの4回目、5回目の変化狙いで、覚醒数90を目指すには、現状だと肩書に頼らざるを得ないので、最低でも《幸運マニア》が出るであろう、覚醒数60までは、進化時の追覚醒で賄いたい。これなら、肩書1つで目標の90まで漕ぎつけられるし、無駄が少ない。
打って変わって因子は悩ましい。
現在[獣人][吸血鬼]の覚醒数は25、んでこいつらの3回目の変化に必要な覚醒数は共に40。
この2つを伸ばす意義は大きいし、変化まで漕ぎつければ尚の事だ。
だが、火力を伸ばす為に使い魔系の因子を伸ばすのも、同じ位意義のある事で、現状の覚醒数と照らし合わせてみても、中々決断が出来ない。
「ふぅ…ちょっとスキル変化に囚われ過ぎか」
確かにスキル変化は、重要な自己強化への足掛かりではあるが、絶対視する程のものでもない。
とか言って、ここにきて[幸運]のスキル変化を目指す人間が言っても説得力は無いが…。
それでも、どうせなら少しでも効率のいいビルドにしたいのだから、頑張って最良を目指す。
「という事で、おさらいからするか」
現在5回目の進化中で、残りの追覚醒数は計45回。
【獣人】【吸血鬼】の3回目の変化を狙うと、残りは15回。これで狙える変化は…。ダメだ、一長一短で決定打に欠けるな。
悩んだ結果、取り敢えず[農家]を切りのいい覚醒数10にする為1回、残りは酸と毒防御の為に、[蛇使い]と[植物人間]に2回ずつ振り分けた。
今回も【引換券】は温存する。
最後に、大幅に強化された【生への執着】の効果に触れておく。
【生への執着Lv1+30】LPが70%以下の時、[生命]が8000%最終数値へ乗算される。
これで[死への免疫]と併せてLPが11%減れば、発動条件を満たせるようになった。
もう、ここまでくると、常時発動してるのが当たり前な状態になってくるな。
進化も終え、金策でフォレストを訪れる。
ホーム周辺はランクの下落で美味しくないので、ホームから離れる。
今回のお供はユナとサチとカメキチさん。
3人共自力での稼ぎが少々苦労するビルドなので、思いっきりこき使う代わりに、収穫を山分けにする。
ユナは【威圧の魔眼】でクロスイーターを無力化(一撃は喰らう)。
サチは<まきびし>で小物掃除。
カメキチさんはトレントや粘菌の集合体等の大物の足止めを担当。
ここにベルが居れば完璧だったが、残念ながら狩り組に引っ張られていったので、回復は消耗品でする。
「この辺りが限界か」
「ええ、これ以上ホームから離れると、敵が強過ぎて回復が間に合わないわ」
全員超堅いけど、それでも限界はあるので、安全マージンを確保できる場所で留まるのは当然の事。
という事で、耕作地も定まったし、開墾を開始する。
俺もそうだが、皆も一月弱程で進化を重ね、戦力を増している。
まあ、詳しい事はもう数回進化してから語れば良いか。
そして、物価も上がってるので、ゲーム全体のLvアップ速度が非常に速くなっている。
流石に進化までくると、そう直ぐにLvカンストとはいかないが、低Lv帯は凄い事になっていて、新規が高需要の低ランク素材を売るだけで、ガンガンLvを上げられ、一週間で覚醒まで漕ぎ付ける事もザラだという。
ただ、大した問題では無いが、あまりに速くLvを上げ過ぎたせいで、隠し因子やパラメータの解放が出来ず、駆け上がった者は大体同じビルドになってしまうそうだ。
それが弱いとか言う事も無いので、本人が良ければ問題無いが、のんびりやる事にもメリットが有るというのは良いと思う。
それに、将来的なビルドを意識するのも、再誕まで辿り着いてからだから、それまでには最低限選択肢が増えてるだろう。
そんな事を考えてる内に、作業を終え、PAで分配を行い解散した。
「良し、もう一回フォレストに行くか」
さっきのメンツに声を掛けると、ユナは再同行すると言い、サチとカメキチは狩りに行くので辞退した。
代わりにマサとパミルとシルクが加わり、計5人でフォレストに向かう。
先程と違い、個々の耐久は劣るが、ギフト由来の使い魔が加わった事で、守りは非常に堅くなり、よりホームから離れて作業を開始。
使い魔がぎゅうぎゅうに詰まってるので、畑と相まってシュール過ぎる光景に。
クロスイーターも、足の踏み場もない(比喩ではなく)状態で、齧りついた後は完全に胴上げ状態に陥り、無抵抗のまま使い魔に処理されていく。
結果、先程以上に効率よく稼ぐ事が出来た。
こんな感じで、アプデまで金策に勤しむ。
頑張って金策をする事数日。
超久々に巡回の招集が掛かり、墓地に向かう。
「おう、テツ!!」
「あ、どうも斎藤さん」
「馬鹿野郎」
という風にじゃれ合う。一番乗りで、周りに誰も居ないからこそ出来るおふざけだ。
「嬢ちゃんの様子はどうだ?」
「元気ですよ」
「そりゃ良かった」
立ち話も人が集まり出したので中断。それに話なら何度かしてるし、世間話なら何時でも出来るしね。
そして久々の巡回だが、理由はテコ入れ後の惑星で廃棄体が増え、現在安置数が増加傾向にある為、ここらで害獣等の大掃除をという事らしい。
「どうもテツさん」
「やっくんも久しぶり。なんかランタンが凄そうな感じなってるな」
「実はこれ、ダンジョンコアを使ったランタンなんですよ」
鳥かごの様な形の格子の中に、どうも見覚えのある球体が浮いてると思ったら…。
「パッと見[ランタンオブスピリット]だっけ?アレに似てるのな」
「ええ、似てるというか改造品がこれですね。ダンジョンコアを使って、爆発的な威力を抑える代わりに、デメリットの一切を取り除きました」
「ほほう、となるとデバフ効果は落ちてるのか」
「大体30%…テツさんのスチールランタンの6倍程ですね」
「大分落ちてるのな」
「その分ボス級相手でも効果が減衰し難いですし、範囲が凄い広いんですよ」
成程、戦場に1人居るだけで面倒なデバッファーになれるのね。
そんな会話をしつつ、巡回は何事も無く終わった。
「ダンジョンコア製の装備かぁ…」
既に十分すぎる程強力な装備を多数所持しているが、人の強力な装備はやはり魅力的に映る。
「どうしました?」
「パミルか。いや、ダンジョンコアを使った装備も良いなぁって」
作業に一段落着いたのか、やってきたパミルと雑談。
「テツさんもその気になれば手に入れれたでしょうに」
「入手過程で皆の手を借りたんだ、流石に独占はしないよ、それに今の形にした結果、俺の利益が増えてるんだから、これで良かったんだよ」
蓋がペットを引率し、ドンドン強くなる事で、皆が恩恵に与り、結果俺が一番得をしてるのだ。
「蓋が2機になって、ペット達の成長が更に加速しましたからね」
「ああ、蓋も堅くて当たり判定が小さいだけだから、今じゃカモ扱いだしな」
今では逆に、介護対象だったペット達が蓋を守る側になっている。
「平均Lv1200オーバーですもんね、しかも60体も居るから悪党からしたら面倒極まりないですね」
ペット、しかも小動物系に手を出すと、刑期が伸び易いので、これ以上の護衛は無いだろう。
「蓋も戦闘も出来るキャリーとして、そこそこ値の張る素材を持ち帰るのも美味しいな」
「クラフト勢としては有難いですよ」
「欲を言えばもっと蓋を増やしたいが、コアは取り合いだからな~」
このゲームの、治安に対する運営の容赦のなさは知れ渡ってるので、競争に負けた者が大それた行動に出る事は無いが、それでも当事者たちが相当ギスギスするので、人知れず出現したダンジョンを狙いたい。
そんな都合の良い事なんて滅多に起こらないけどね。
ちなみにこの間ローレンスさんに教えて貰ったダンジョンは、彼がしっかりと攻略済みだ。
パミルと会話していると、蓋が出撃するのでパミルと付いていく。
PAを出ると、何故か見知らぬ女性プレイヤーがぞろぞろと付いて来る。
困惑気味の俺に、パミルが説明してくれる。
「彼女らは白モフ達のファンですよ。今時最下級のペットをここまで揃えてるのはうち…というかアコさん位ですからね」
可愛いけど、無駄にリソースを喰う存在をいつまでも囲えない、けど可愛いから囲いたい。
そんなジレンマに悩まされてる人にとって、白モフ達が戦場で活躍するのを見るのは、一種の娯楽らしい。
ゲーム内で娯楽とはこれ如何に?と思うが、確かに非戦闘エリアで、低空飛行する円盤に追従する白モフという絵面は、かなり萌える。
「最近、妙に蓋の故障率が低いと思ったら…」
ペットの活躍だけじゃなかったのか。
まあ、残念な実情ではあるが、好意的に捉えられてるのなら良いか。
そういう事なら俺らは遠目に様子を窺う事に。
そしてホームから外に出て、森に入ろうとすると早速悪党どもに絡まれている。
其処に白モフ親衛隊が参戦し、待ってましたとばかりに周囲の善人悪党がこぞって参戦。一気にゲート前は戦場と化してしまった。
「なにこれ?」
「なんかユーザー間の自主的なPvPイベントと化してるみたいですね」
なに人んちのドローンとペットをダシに使ってんだ。と思わなくも無いが、儲かるからウェルカム。
戦闘が始まり、蓋とペットが巻き込まれてる、というか主役なので、俺達の収入は保証済み。なので、2人してのんびりと戦いを観戦。
悪党も、周囲に多数展開するクリスタルゴーレムに怖気付いたか、俺らをスルー。
快適に観戦していると、ペットがちゃんと活躍する様を目撃。
「なんだ、ちゃんと強いじゃん」
「Lv1200オーバーですからね」
「カタログスペックだと全然強く見えないんだけどな」
マスクデータで、色んなスキルを持ってるんだろうと推測できるが、ハッキリしない以上、見て推測するしかない。
「見た感じ、確率回避系のスキルは持ってるな」
「ですね、何度か被弾した中で、ノーダメージの時がありますね」
「判定が小さいといっても、追尾系の攻撃は躱しきれないからな、無効化出来るなら生存率も上がるというものだ」
良い感じでペット達も強くなってるようだ。
「こっちにちょっかい掛けて来る連中も増えてきたな」
畑を増やし修復しながら、虎視眈々と一撃を叩き込もうとしてるパミルに話し掛ける。
「お互い決定打が無いので、相手が直ぐに諦めてしまいますがね」
「そもそも俺らに肉薄出来ないとな」
魔法はパミルの【クリスタルゴーレム】で牽制。その他の遠隔も貫通が付いてないと無意味。近接はそもそも障害物が多すぎて肉薄が困難。そら割に合わないと諦めるわな。
なんと言うか、ジェネレーターとファーマーのハイブリッドビルドって、遅延行為に最適だな。
コチラが落ち着いたので、再びペット達を見ると、時間切れかぞろぞろと退却し始める蓋2機と追従する白モフ。
それが合図なのか、他のプレイヤーも一斉に周囲へと散っていった。
「…俺らも帰るか」
「ええ」
結果として、結構儲かった。
「まさかあんな状態になってたとは」
PAに戻り、丁度インしてきたアコにさっきの出来事を話す。
「テツ君はペット達に感心無さ過ぎよ」
なんてアコに窘められるが、独立行動が軌道に乗った時点で、外での状態なんて気にしないよ。
…でもパミルはちゃんと把握してたから、俺に問題があるのか?
まあ、ちょっと色々有ったからな。うん、そういう事にしておこう。
「そういえば増えてるとは思ったが…」
ペットルームで各20匹ずつ居る白い犬猫兎。
「ついこの間まで、40も居なかったのに…」
「頑張ったわ!!」
「確かに圧倒的な癒し空間には成ってるな」
小動物が特に苦手で無いのなら、この光景だけで自然と表情が緩むはずだ。
「まだまだ増やしていくわ」
「まあ、止はしないけどさ。ただリソースは有限だからな、最悪コーポレーションの設立も有るから責任の一端を背負う覚悟はしてくれよ?」
「勿論!!というか早くコーポにしましょうよ」
確かに、蓋2機とペットの独立行動が成った今、付き纏うNPCの依頼に足を引っ張られることも無いだろう。
「アリだがギリギリまで引っ張ろう」
「なら少しでも早くリソースを使い尽くしてやるわ!!」
なんか主旨が変わってねーか?まいっか。
数日が経ち、アコは現在進行形で有言実行している。
「増々増えてやがる…」
犬猫兎に続き、白いリスが20匹増えている。
「苦労したのよ?すばしっこくてかなりのツンデレさんだから」
それ、ツンデレの使い方おかしくないか?でもニュアンスは伝わった。
確かにリスは見た目とは裏腹に、常軌を逸して狂暴だからな。リアルでは。
どうやらゲームでもそうらしいが、噛まれても血が出ないから全然マシだ。
「しかしよくもまあ、白いので統一したよなホント」
「頑張ったわ!!」
ある意味、世界一このゲームを楽しんでるわ。
「次は何が良いかしら、家鴨かフェレットも良いわね」
数もそうだが種類も増やす気か。…俺はフェレットに一票。
なんて思ってたら、一週間で本当にフェレットを20匹集めやがった。
「「「癒される~~」」」
ユキアコユナの3人で、癒し空間で蕩けまくっている。
幸せそうで何よりだ。
「で、戦力的にはどうなんだ?」
「悪くないんじゃないかしら?栗鼠とフェレットはちょっとLvが低いけど、数がそのまま力になってるからね」
平均Lvこそ、800弱にまで落ちてしまったが、数の力で補えるし、今後に期待が持てるので、根気よく育てていけば良い、アコが。
それはそうと、ペットが増え過ぎた事で、引率の蓋が足らないと感じ、カンパニー総出でダンジョンを探していたのだが、つい先日誰も見つけていないダンジョンを、カメキチさんが発見した。
場所はアニマルのクレーター内にある巨大な池の底だ。
既に内部の偵察も済ませていて、少数でも攻略出来そうとの事なので、メンバーを選抜し挑む。
「あまり大所帯で行くと、他所にバレるからな。精々5人位が理想だ」
そして選ばれたのが、ユキ、ユナ、サチ、カメキチ、タロウの5人だ。
選抜基準は、狭い所でも身動きできる上に、火力と耐久に安定感がある事だ。
ユナは条件とは異なるが、狭い空間なら【威圧の魔眼】を最大限活かせるし、打たれ強さはダントツなので、特攻隊長に任命した。
そしてフォレストで金稼ぎを終え、PAに戻ったと同時に、ユナたちのダンジョン攻略も完了。
早速稼いだ金とコアを持って、蓋3号機の制作を依頼した。
そして翌日には、製作依頼をした蓋3号機を受け取り、早速独立行動部隊に組み込む。
これで、戦利品も増えるし、ペットの負担も減る事だろう。
蓋3号機の完成から二週間。
Ver2.4まで三週間弱となった頃。
「遂にこの時が来たか」
「頑張ったわ!!」
「これほどの短期間でPAのリソースを使い切るとは…」
これ以上の施設の拡張は、コーポレーションにしないと出来ない為、いよいよ我々もコーポを設立する時が来た。
前にも言ったが、コーポは兎に角面倒くさいのだ。
様々な恩恵を受けれる代わりに、NPCからの評価という糞仕様が付随し、常に依頼に追われるという、リアリティある心がキュンキュンするありがたい仕様だ。
そんな面倒が、今なら蓋3機とペット100匹という、独立行動部隊という駒を使う事で、解消できてしまう。
これはもう、はやいとこコーポを作れという啓示だろう。
「という事で、コーポレーションを設立するから、名前を考えて」
「はい」
「はいアコ君」
「白モフで」
「この案に賛成の方は挙手を」
俺も含め全員が挙手をし、社名が決まった。
「では我が社はこれより[白モフ]となります」
ワーと歓声と拍手が起こる。ツッコミ不在って素敵だよね。
「では続いて。業種を選択します。どれが良い挙手してください」
選択肢は以下の4つだ。
・傭兵:依頼を受けてる最中に、戦闘エリアに入った場合、コーポLvに応じて、ステータスが上昇。
・一次産業:天然資源の産出量が、コーポLvに応じて増加。
・二次産業:クラフトに、コーポLvに応じた補正を掛ける。
・三次産業:コーポLvに応じ、コストを負担しないで物資を持てるようになる。
「…では最後に、三次産業がいい方は挙手をお願いします」
またしても全員一致で決まった。
まあ、これが一番平等に恩恵を受けれるもんな。
「じゃあ早速申請してくるわ」
こうして我らがコーポレーション、白モフが設立された。
「どれどれ」
PAに戻り、社長室の端末を弄る。
「早速依頼が舞い込んでいるな」
「どんなのが来てるんだ?」
後ろから覗き込んでいるマサが聞いてくる。
「ゴミ拾いに害虫駆除だな」
「早速独立部隊を派遣しようぜ」
「おう」
これまでホーム傍の森を巡回ルートにしていたのを解除し、ホーム内の依頼で達成可能なモノを遂行する様に設定。
「お、早速出撃する様だな」
取り敢えず、これで名声は一定保たれる筈だ。
ぞろぞろとペットを引率する蓋を見送り、端末弄りを再開。
「凄いな、施設関連のスペースが10倍になってる」
「つまり、カンパニーの時の施設群が10個入るわけか」
マサが当たり前のことを口ずさむが、改めて考えるとやっぱ凄い。
「急いで埋める必要もないし、必要に駆られる度に拡張すれば良いか」
「という事は、早速ペットルームの拡張から入るのか?」
「そうなるな」
その為にコーポにしたまであるからな。
「金は既に女性陣から受け取ってるからな、取り敢えず倍にすれば、当面はもつだろう」
こうしてカンパニーをコーポレーションに格上げし、目的を果たす事が出来た。
「お、順調にNPCからの依頼を消化していってるな」
その分、収入面やペット達のLvアップ面で失速したが、そこはこれからの頑張りで挽回する心算だ。
「おお~、立派になりましたね~」
シーラが水を取りに来たようで、立派になったPAに感心している。
「いらっしゃい」
「お邪魔してます。これで有益な依頼を受けれますね」
「あんま気乗りしないけどな。最低限の体裁を保てる様にはしたが」
「良いと思いますよ、恩恵だけ受けようと考えるより立派です」
大量の水を異次元に放り込みながら、シーラがこんな事を。
「そうだ、このバナーを社長室に飾っておいて下さい。そうすると、私達ハイエルフの御用達という事で、エルフからの心証が悪くなり難くなりますよ」
「マジで?」
「マジです」
うおおお!!種族限定だが、そんな便利な仕様があったとは。
「御用達は簡単には得られませんからね、それだけテツさん達が、私達に良くしてくれたという事ですよ」
なんだろう、初めてシーラがまともに恩恵を与えてくれた気がする。
「そんな事考えてると、何か面倒事を押し付けますよ?」
「…やっぱシーラにも中のひ…」
「そういう興醒めする様な事はを言うのはNG」
「まあ、今まで通り接するわ」
「そうしてください。ではご機嫌用」
全く、脳波で感情を読むのはやめて欲しいわ。
「これで良し」
社長室に、石膏像の様なタッチのエルフの絵が描かれたバナーを飾り、効果が発揮されたのを確認。
「なんだろう、親密度が最大になった種族から、バナーを貰える感じかな?」
そうなると、色んな種族のNPCと仲良くなれば、依頼を放置する事での心証悪化を軽減できるな。
「サボる為に頑張るって、本末転倒な気がするな」
まあ、得てしてそういうもんだけどな。
「それに、種族って言ったって幾つあるんだ?」
実際に遭遇したのだと、スライムやアラクネも友好種族としているわけだからな。
「意図して親密度を上げるのはしんどそうだし、自然に上がるのを待てばいいか」
そう結論付け、ふと新規の依頼が入ったので見てみると。
「何々?『ふれあい動物園の開催』…なにこれ?」
概要を見ると、商業地区の広場に、うちのペットを全て貸し出して欲しいとあった。
ただ、但し書きでペットの機嫌が悪化する可能性があると書かれている。
「うーん…こういうジャンルの依頼もあるのか…」
取り敢えず自動消化の対象にはせず、アコに一声かける。
「良いと思うわよ。ほら、依頼元がプレイヤーだから、ちゃんと可愛がってくれるだろうし、いじわるしたりする人は、向こうで対処する筈よ。それにケアも私達でするから問題無いわ」
プレイヤーからも依頼がくるのか。
「そういう事なら、ペットプロダクション系の依頼にも、自動消化を付けておくぞ」
それから四時間後。商業地区でのふれあい動物園は大成功に終わり、ホーム内の依頼とは思えない程収入があった。
「うわ、なんだこれ!?」
一夜明け、ログインして依頼を見てみると、ペットの貸し出し系依頼が、数時間おきにビッシリと埋まっていた。
「ペットの送迎も蓋がやってくれるから楽で良いが…この状況はどうなんだ」
別に、白い小動物が激レアって訳ではないし、その気になればだれでもペットに出来る筈なんだが…。
しかも、ペットプロダクションを生業にしてる所は幾つかある様なので、ここまでの需要が有るのが理解出来ん。
「簡単な理屈よ、数が多いからだわ」
という風にアコは言うが、それだけじゃ解らん。
「ほら、ペットにも機嫌があるじゃない?だからあまり構い過ぎると逃げちゃうんだけど、種類を絞って数を増やしてるから、個々の機嫌も悪くなり過ぎずに、代わる代わるでずっとモフモフしてられるのよ」
ああ、要は数を活かしてストレスマネジメント出来る分、ペットの負担は少なく、依頼側も1匹に逃げられても、直ぐに代わりが寄って来るから幸せなのか。
「凄いじゃん、趣味全開で突っ走ってたのが、実を結んで良かったな」
「そうね、最初はあの子達の負担も不安だったけど、数が多い分個々のケアが簡単で安心したわ」
流石に、何時までも問題が発生しない保証は無いが、その時は中止にする等対策を取れば良いしな、暫く様子を見てみるか。
「それじゃ新しい子を探しに行って来るわ」
まだまだ足りないとばかりに出掛けて行ったアコ。
『エルフィンの攻略が完了しました』
「お、エルフィンも遂に100%か」
元々ハイエルフの縄張り付近は魔境が多かったが、テコ入れでどうなったか見ておくか。
「お、テツもエルフィンに行くのか?」
丁度出撃の準備をしていたマサに呼び止められる。
「ああ」
「なら一緒に行こうぜ」
「おう」
こうしてマサと2人で干潟から跳び、ハイエルフ陣営のホームに到着。
「あら、早速来たのですね」
シーラがボロボロのホームの外壁を修繕しながら挨拶してくる。
「だ、大丈夫なのか…?」
「ええまあ。所詮壁なんてあっても無くても変わらないので」
流石一騎当千のハイエルフ。言う事が違うわ。
「さ、テツさん。畑が破壊されてるので直してくださいな。依頼は出しておきましたので」
そう言われ、自社に出された依頼一覧に、シーラからの指名依頼が入っていた。
「報酬はそうですね…ペット用のケアルームなんてどうでしょう?」
聞くと、ペットのストレスを大幅に軽減してくれる、部屋を増設してくれるとの事だ。
「ハイエルフ謹製なので、完全非売品ですし、効果は折り紙付きですよ」
そんな事を言われちゃあ受けざるを得ないわ。
「さて、何処から手を着けたものか…」
「見事に禿げあがってるな」
ホームから出ると、監視塔など、ハイエルフの手によって開発された区画を除き、殆どの牧草地が壊滅状態に陥っている。
「しかも大雨というね」
「ボロボロのホームと相まって、戦後処理感半端無いな」
言っていても始まらないし、兎に角目に付くところから片っ端から鍬を振るう。
「あ、完全に破壊されてるとこれじゃダメか」
面倒だが、[開墾用の鍬]を装備し耕すが、[復興の道しるべ]に比べると、あまりに遅すぎる。
「それも怠そうだが、アレを見てみろ」
マサが指さす方を見ると、何時だがローレンスさんのトラックの荷台にあった、巨大キマイラが此方へ向かってきている。
「うわぁ…マサに任せた」
「怠そうだが仕方ないな」
役割分担で、修復は俺、戦闘はマサに託し、一生懸命エルフィンの再緑化に尽力。
「うおら!!やっと終わったぜ」
「どうだった?」
「巨大なだけあってかなり強かったぞ」
先制でトマホークを盛大に浴びたにもかかわらず、勢いそのままにマサへと肉薄。
またしてもマサが先手を取り、斧の一撃で後退させるも、驚異の踏み止まりを見せ、即反撃に転じ、牛を一撃で撃破。
火力もノックバック耐性も驚異的だが、相性が良かったのか、時間こそ掛ったがマサが完勝。
「勝てる事は勝てるが、単体がこの強さはヤバいな」
2人だけだと危険だし、効率も落ちるので、今日は引き上げ明日から本気で臨もう。
「今日は出来るだけ人を連れて行きたいな」
居る人居る人に声を掛け、ベルとトリオが同行してくれることに。
現地に到着すると、昨日修復した畑が損壊してたりと、中々の前途多難っぷりを予感させられる光景が目に入る。
昨日と同じ様な感じでやろうとしたが、これは方針転換しなければならなそうだ。
少しの間戦闘に集中し、巨大キマイラ、大怪鳥、アースドラゴンと戦ってみる。
「全員タイマンなら余裕、複数相手だとちょっと厳しい感じか」
「これは1:2:2で分けるべきかと」
俺が1人、ベルとトリオで2グループ作り、戦闘班には別行動で敵の間引き作業をして貰う。
「ベルとラークは無事な畑の防衛を、ワイドとショーは兎に角目に付く敵の殲滅を頼む」
同時に複数のタスクを熟していかないと、鼬ごっこでいつまでも作業が終わらないので、戦力の分散というリスクを負ってでも、進展を重視する。
何よりも効率が求められる今回のミッション。
[復興の道しるべ]で修復できるのは、あくまで消滅を免れている畑に限るから、先ずは全ての土地を畑に変えてからだ。
大量に持ち込んだ食料飲料にモノを言わせ、ドッペルと百姓を呼びまくる。
俺が[開墾用の鍬]を装備してればそれを、道しるべを装備してれば同じ能力の鍬を持つようになるので、こまめに状況に応じて持ち換える。
ホーム近辺は順調だった作業も、離れる毎に合間を縫って畑を破壊する敵が増え、どうしても敵が増える水源地から先に進めなくなる。
残念ながら、5人3グループではこれが限界の様だ。
「今日は更に人数を増やそう」
前回の教訓を活かし、グループもより多く編成しなければ。
という事で、今日はマサと昨日の4人、パミルとベッタラとタロウの3人を加え、9人体制で臨む。
グループ分けは、1:1:1:2:2:2で、俺、マサ、タロウがソロで、俺は修復、2人は見回りを担当。
ラークとベッタラ、ワイドとパミル、ショーとベルが組んで、間引きをして貰う。
これで守れる範囲が昨日の3倍になり、水源地を越えた先の修復も可能になる筈だ。
そして作業を開始し、作戦通りに事が進み、順調に荒れ地を畑に塗り替えていく。
でも、結局は昨日と同じで、ホームから離れれう程隙間が増え、合間を縫られるだけだった。
それに、二十四時間体制で警邏も無理が有るし、現状の方法では先は見えている。
そう思ったが、ホームの修繕が完了した事で、ハイエルフが見回りに復帰。
今後は多少はマシになるかもしれない。
「それでも無理だった、と」
「魔物の数が多すぎますね」
シーラと作戦会議をしたが、テコ入れ後の敵が強い事と、結局は数の暴力でホームが空いてる時を狙って襲撃されると、防ぎようがない。
「なあ、コレ根本的な解決って無理じゃねーか?」
「かもしれませんが、こちらは遥かにマシなんですよ?」
聞くと、一般向けのホームはもっと状況が酷く、折角制圧した廃都と軍事基地も魔物に占拠され、今も魔物の軍勢に襲われてるとの事だ。
「それでもいつまでも終わらないんじゃなあ…」
「困りましたね、今こちらも手が離せない案件で、深刻な人手不足なので、手を引かれると厳しいのですが」
「手が離せない案件ねぇ」
「エルフの派閥争いの仲裁に、ハイエルフの実力者たちが出向いているのですよ」
「なんという切実な理由」
「ホントゲームなのに凝ってますよね」
「メタいなぁ…」
「そんなわけなので、私の裁量で報酬を先払いするのでもう一踏ん張り頼みますよ」
「仕方ないな~」
「という感じになります」
早速PAに、ペットのケアルームを増設。
「これは素晴らしいわね」
丁度居合わせたアコが、しきりに「これはいいものだ」と褒めちぎる。
「効果は大体ですが、ペットのストレス低下速度を25%程速くしてくれますよ」
「25%!!素敵!!」
「イマイチ解らないんだが」
「25%と言ったら、四時間でふれあい動物園1回分位回復出来るのよ?」
「それは凄いな、一日で6回分のストレスをケア出来るのか」
「今のペースなら、ストレス解消の方が蓄積を上回るわね」
これにより、アコのペットのケアに掛ける時間が浮いたので、付き添っていた女性陣も含め、畑の修復に駆り出せることに。
「ついでに、ふれあい動物園の回数も減らして、エルフィンで警邏に参加させましょう」
今の我が社の評判は中の中。多少プレイヤーからの依頼を断っても、問題無いだろう。
早速蓋の設定を変え、シーラからの依頼を消化する様にした。
「ところで、ペット達が一斉に干潟に向かうと思うが、色々と大丈夫なのか?」
「ああ、ではこれでどうでしょうか」
シーラが何かしたのか、蓋とペット達が突如消えた。
「私の依頼に参加する時、直接エルフィンにワープする様にしました」
「なにそれ、俺もワープできるようにしてくれ」
「残念ながら」
「まあ、そこまで都合よくは無いわよね」
いや、蓋とペットのワープだけでも相当ご都合主義全開だぞ。
なんにせよ、これで導入できる戦力は大幅に増した。
全戦力をエルフィンに投入し、数日が経った。
ふれあい動物園を減らした事で、少々顰蹙を買った様だが、ペットのケアが理由だろうと思われ、依頼は引き続き入っている。
NPCの評判はやや落ちてる様だが、中の下程度を推移。こちらも問題ない。
肝心なエルフィンはというと、女性陣の積極参加とペットの定期巡回で、被害の程度が軽減された事で、修復ペースが上回った。
そのお陰でこの数日で、一気に修復が進み、時間稼ぎも捗る様に。
そしてハイエルフの実力者たちが帰還し、一気に状況が改善された。
「漸く人手も戻り、魔物に後れを取る事も無くなりました」
「これで依頼完了かな?」
「ええ、お疲れ様です」
「そういえば以前よりも随分と開発が進んでいたな」
荒れ地だと思って、鍬を振るっても畑にならない区画が多く、聞いたら何かしらの建造物があった場所だと知った。
「緑化は人口山や水源地が有りますからね。そろそろ本格的な土木工事の時期です」
攻略度も100%に達し、いよいよもって復興が始まるという事か。
「そういえば、ハイエルフって純血のエルフって事だったけど、どう考えても人口足らない様な?」
「確かに在りし日のエルフィンには及びませんが、各地で政治闘争を繰り広げてる同胞が集えば、ある程度の体裁は保てますよ」
そういえば、老害とそれを抑える勢力がどうとか言ってた気がする。
そういう事なら、苦難の道には違いなくとも、希望はありそうだ。
エルフィンを後にし、PAに戻るとペットが増えていた。
「白犬が増えてる」
「お帰り」
アコが、ニューカマーな白犬3匹を愛でながら、寛いでいる。
「テツ君、蓋が足りないわ」
「ええ!?まさか盗難か!?」
「いや、そういう意味じゃなくて、依頼消化用と、ペットのLv上げ用で分けれたら良かったのにってね」
「うーん、なら依頼用1Lv上げ用2で分けてみるか?」
「流石に戦力的にも効率的にも、今の総数だと分散は避けたいわね」
ペットのLvは、平均こそ700オーバーと高いのだが、低いのは精々2~300とまだまだ弱いので、最高Lvの1300オーバーもセットで運用したいとアコは言う。
そして、蓋の方も、刻々と強くなるプレイヤーに対抗するには、現状の3機でも厳しいとの事で、分散して2機体制はもってのほかだと言われた。
「なら、独立行動はLv上げに専念させて、NPCの評判稼ぎは俺らでやるか?」
「…それも面倒よね」
現在、蓋とペットが消化するNPCの依頼数は、日に10個前後。これで評判を中の下に維持するのがやっとなので、これをメンバーの手でとなると、中々面倒だ。
「いや、そうでもないぞ」
ここでマッドが登場。
「収入が多少減っても良いなら、蓋が持ち帰る素材で何かを作って、ギルドの納品依頼を只管消化していけば、その内に依頼がこっちに回ってくるだろうから、それを片手間で消化すれば、評判の維持も難しくないぞ」
何時になく真面目なマッドが、かなり現実的かつ魅力的な提案をしてくれた。
収入減という、明確なデメリットこそあるが、メリットとの兼ね合いも考えると、これ以上ない案に思えるので即採用を決定。
早速、マッドを通して職人衆に、共有の素材を使ってギルドの依頼の消化を要請した。
「ヒヒ…見ろよリーダー、まだ一日だが、早速[ポークビーンズ納品]の依頼が入ってるぜ」
後日。NPCからの依頼を見ると、タロウ管轄の食品関連の納品依頼が1件入っていた。
「おおー、早速成果が表れてるな。ってか納品系は材料さえ確保出来るなら、結構お手軽なのかもな」
「ところがどっこい…簡単な納品依頼だと、評判の上昇も微々たるもんらしくて、うちみたいにある程度クラフトに精通した人材が、複数居ないと厳しいらしいな」
「成程。で、評判の上昇が良いのは、素材のハードルが厳しいから、どの道手間が掛かると」
「ああ…」
あちこちと回らないで、最少の労力だけで済まそうにも、そう簡単にはいかないわけか。
この、ポークビーンズの納品にしたって、缶詰が作れることが前提なので、何気にハードルが高いのもイヤらしい。
そういう意味では、うちは結構クラフト関連にPAのリソースを割いているから、かなり有利なのかもしれないな。
マッドも、『ジャックオーランタン』とハイエルフの設備補正がある分、少しは楽が出来ると言っている。
「同じ物を納品するにしても、品質が高かったりOPが付いていると、その分評価も良くなるからな…フヒヒ」
「なら、このままNPC対策は任せても大丈夫だな?」
「ああ」
こうして、我が社の職人衆に、NPC対策を一任する事にした。
「任せるにしても、負担は分かち合うべきだよな」
という事で、目減りしてきた共有チェストを満たす為、素材集めに出掛ける。
丁度居合わせたユナとサチを連行し、樹海に向かう。
ちなみにこの2人を連行した理由は、ビルドの関係上コストが余りがちな為、荷物持ちとしてこき使う為だ。
3人でモヒカンチンパンを華麗にスルーし、只管シンボルを漁る。
途中、調子に乗りすぎて、ユナに近づいてSTAが枯渇したチンパンを、拷問して息抜きをしつつ、樹海を練り歩き、有機系の素材を大量に確保。
PAに戻り、素材をチェストに放り込んだら、直ぐに次の採取場へ向かう。
今度は西の丘に登り、無機質系の素材をタンマリと確保。
今度は生物由来の素材を集める為、湿地帯にナメクジ狩りに向かう。
未だにスラグプリミティブを狙ってか、人も多いし汚染度も酷い。
そんな険悪な現場から距離を取り、ナメクジ退治の配置に着く。
3人で一塊で待機するだけで、<まきびし>、STA削り、使い魔のコンボで、ドンドン粘液を量産。
時たま変異した巨大なロブスターがしゃしゃって来るが、返り討ちにしてその身をゲット。
食べるには、マッドに頼んで除染して貰う必要があるが、依頼消化に役立てる筈だ。
十分な素材を確保し、PAに帰還した。
次回も三週間程で。
追記:感想での指摘を頂き、目を通したところ、確かにミスが在りましたが、少々のごまかしで何とかなりました。後の災いとならずに済みました。ありがとうございました。




