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第四十八話

~前回までのあらすじ~

メンバーのビルドを把握し始め、ラーク、ワイド、カメキチ、タロウ以外のビルドと、その類似派生ビルドの情報を得る事が出来た。

「面白そうな話をしてますね」

 話が一段落した頃。都合よく、残りのラーク、ワイド、カメキチ、タロウが混ざる。

 という事で、4人のビルドの話に移る。

 先ずはそれぞれ、肩書を教えて貰い。

 ラークは《知識人Lv2》

 ワイドは《吸血獣》と《踏殺人》

 カメキチさんは《亡者ラブ》と《地獄の使徒》

 タロウは《ザラ弾の申し子》《Pザラユーザー》

 効果はこうだ。

《知識人Lv2》一般スキルの効果を90%強化し、Lv上限を50上昇

《吸血獣》[獣人]と[吸血鬼]の覚醒数を10増やす

《踏殺人》敵を踏むと大ダメージを与える。

《亡者ラブ》[亡者]覚醒数が40増える。

《地獄の使徒》闇属性と光属性を無効化。

《ザラ弾の申し子》ザラ弾のペレット数が10倍になる。

《Pザラユーザー》散弾が貫通する様になる。

 やや、《闇の住民》のパワーが低く見えるが、先程の前提条件の話を踏まえると、投資とも取れるので、まあ良いんじゃないかな。


 それじゃ、先ずはラークから情勢を語ってもらう。

「ラークのビルドは何て言ったら良いんだ?」

「そうですね、一番言われてるのが基礎重視ビルドですかね」

「ああ、確かに伝わり易くはあるか」

「その中の、盾剣スタイルなんで、盾剣基礎ビルドとでも言えば良いんじゃないですかね」

 一応、便宜上の呼称も決まり、分布の話に。

「基礎重視ビルドでも、やはり盾剣スタイルは人気ですね」

「ザ・スタンダードって感じだしな」

「ええ、というか、基礎能力が低いと盾で受けたり片手剣でダメージを取るのが困難なんですよね」

 そもそもの前提条件が、高スペックである必要があるのか。

「そう考えると、ショーが普通でワイドのがよっぽど異端って感じなのか」

「ですね、最早ワイドのビルドでは、盾剣は主ではなく従ですから」

 尤も、ショーの場合は装備に掛かる補正の力だが、まあこれも基礎スペックと考えても問題ないだろう。

 素の能力か、装備の能力かの違いしかないしな。

「俺の場合、[獣人]と[知力]がビルドの根幹をなしてるので、そこから派生に触れますね」

 そう言い、双方の人気のギフトを紹介してくれる。

「俺が持ってるギフト以外で人気のだと、[獣人]は【ゴリラの力】が圧倒的に人気ですね」

 どちらかというと、守りを担う因子で、絶大な破壊力を生み出すギフトだから、やはり大勢の近接の目に留まるんだろうな。

 ただ、[獣人]のギフトに関しては、これまでも触れる機会が多かったし、これくらいにして、[知力]を掘り下げる。

「[知力]の方は選択肢が多いですね」

 そうして上げられたギフトがこんな感じ。

【ハイパータービン】雷属性ダメージを2倍にする。

【馬鹿と鋏は使いよう】鋏で与えるダメージを4倍にする。

【効率的トレーニング】[知力]の数値が[筋力][体力]に加算される。

【取扱説明書】自爆ダメージを50%軽減。

「どれも個性的で面白いギフトだな」

「個性的過ぎますけどね、鋏の火力4倍とかどう受け止めろと?」

「でも、挙げたって事は、一定数愛好家が居るんだよな?」

「居ますよ、チョキチョキと床屋の鋏の様な何かで、大剣並みの一撃を繰り出してくる狂人共が」

 …それは怖いな。

「更に、工兵が持つような、有刺鉄線の除去に使うような鋏だと…」

 想像絶する威力なんだろうな…。

「【効率的トレーニング】も相当イカレテルな」

「ほんの少しパラメータ構成に縛りが発生しますけどね」

 こんな強力なギフトに恵まれながら、[知力]自体も属性攻撃に補正を掛けるんだから、ホント優秀なパラメータだな。

「ああ、あと面白いのが在りました、【策士策に溺れる】ってやつなんですけど…」

 こいつは、短時間でLPの最大値の50%のダメージを受けた時、周囲に流砂を発生させるというものらしい。

「重複+補正無しだと、只のネタギフト止まりなんですが、強化していくと滅茶滅茶化けるらしいんですよ」

 なんでも、強化されてくと、条件が緩和され、範囲が尋常ではないペースで広がるらしく、簡単に半径数十mを流砂にする事が可能なのだとか。

「ちなみに流砂に呑まれると?」

「少しの間下半身が動かせなくなります」

「うん?強いような弱いような」

「まあビルド次第では、その場から動けない程度は困りませんからね」

 ただ、足を使ったビルドには刺さるってか。


「ワイドのビルドはどんな派生があるんだ?」

「[跳躍]を主軸にしたビルドなら、こんなギフトが在りますね」

【蝗の群れ】敵勢力の田畑に近づくと、田畑に特攻を持つ蝗が32体召喚される。

【綿飴食い】一定の高さまでジャンプすると、LPが50回復し、五秒間満腹度と保水度が減らなくなる。

【仲間発見】戦闘中、一分毎に抽選を行い30%の確率で味方のカンガルーが出現。

「【綿飴食い】が気になりすぎるんだが」

「異彩を放ってますからね、ただ強化していくと相当ヤバいみたいですが」

 ワイドの知る限り、Lv7+4まで上げた猛者が居る様なのだが、その猛者提供の情報によると。

【綿飴食いLv7+4】ジャンプするとLP1935と満腹度と保水度が5%回復し、高さに応じて回復量が増え、五秒間満腹度と保水度が減らなくなる。

 という感じになるそうだ。

「ちなみに、屋外で高く跳んだ場合、LPが40万程、満腹度は一桁から最大まで回復するそうですよ」

「いや、確かに凄いけど、どうやって戦闘や金策するんだ」

「[オーク]の【超燃焼】で狙撃に補正を掛けて戦うようですね」

「ほ~、確かにそれなら火力も出し放題だし、イケるか」

 但し、相当構成が偏るだろうけど。

「あとは、俺と似たようなギフト構成でも、獲物が違ったり、【太陽を背に】を軸に、飛び道具で戦う人も居ますね」

 より落下攻撃を活かす為、重量級の武器を使ったり、姿を眩ませながら弓や吹き矢で闇討ちを狙う者と様々だ。


「カメキチさんの[亡者]ビルドは、バリエーション豊富そうですね」

「そうですね、先ずは俺が選ばなかったギフトから説明しましょう」

【道連れ】攻撃を受けた際、仕掛けてきた相手を引き寄せる。

【乾燥肌】液体の効果が3倍になる。

【ニューゾンビ】[亡者]のスキルのデメリットを無効化。

【アンデッドの宿命】状態異常を無効化するが、回復でダメージを受けるようになる。

【不浄伝播】状態異常に罹ってる間、周囲の敵に状態異常をうつす。

【リッチ】魔法ダメージを2倍にする。

「おお、どれもビルドの軸に成りえる効果ですね」

「【道連れ】なんかは、敵の飛び道具持ちを捕まえるのに持ってこいですね」

 他にも【ニューゾンビ】を取れば、移動速度を落とさずに、[亡者]のスキルのLvをガンガン上げれるので、堅くて速いキャラを目指すなら、是非とも欲しいギフトだ。

「この【アンデッドの宿命】のデメリットって《浄化の克服者》で抑えられるんですかね?」

「イケるそうですよ。ただ、超強力な分、ギフトと肩書1つずつ要りますし、[亡者]ビルド以外では再現できないのがネックですね」

 裏を返せば[亡者]ビルドのアイデンティティになるわけか。

「大体の方向性は解ったんで、人気の型はなんですかね?」

「やっぱ【道連れ】を採用した、他の因子とのハイブリッドがダントツの人気ですね」

「まあ、そうなるよな」

「なんせ[亡者]を1回覚醒させれば取れますからね。ただ、重複無し+値補正無しだと、引き寄せる距離が安定しないので、【ニューゾンビ】を取って、スキルでステータスを底上げする人も多いですね」

「その場合は、[亡者]の覚醒数を増やしても無駄にならないから、自由度が減る代わりにシナジーが増すのか」

「ええ、その辺の匙加減は個人の好みですね」

 しかし、攻撃を受ける度に敵を引き寄せる、か…団体戦で最高に輝くんだろうな。


「タロウは一応ショットガンビルドで良いのか?」

「良いんじゃない?料理は金策と火力補助の為やし」

 まあ、料理よりも戦闘での稼ぎがメインだから、ショットガンビルドの方が適してはいるか。

「そんで、派生とその分布の話やったな。そうやね~、流石にショットガンだとあまりに派生が少ないから、銃器全般でええかな?」

 そこは仕方ないので、銃器ビルドの話をしてもらう。

「了解。となると、真っ先に挙がるんは突撃銃系が人気やな」

「アサルトライフルは鉄板だよな~」

「威力、精度、拡張性、バランスが最高やね」

「ちなみに料理…飲食バフとの相性は?」

「中々なもんよ、銃器全般がそうやけど、やっぱパラメータ補正が限られる分、バフが火力に与える影響は大きいねん」

 そんな話を挟みつつ、アサルトライフルに関連したギフトも教えてもらう。

【射的の達人】単発式ライフルで敵にダメージを与えた場合、20%確率でダウンさせる。[射撃]2つ目のギフト。

【収束射撃】射撃の集弾性が100%上昇。[射撃]3つ目のギフト。

【デュアルマガジン】オートライフルの装弾数を2倍にする。[射撃]8つ目のギフト。

「良いね、妨害、精度、総火力アップとバランスが良い」

 一区切りつき、突撃銃の次に人気の銃を聞く。

「次点では拳銃やね」

「取り回しは良さそうだけど、火力が低いイメージだな」

「ところがどっこい、銃器では拳銃が一番火力が高いねん。なんと言っても【暗器銃】がチート過ぎるねん」

【暗器銃】ピストルで攻撃した場合、相手のダメージ軽減効果を50%カットする。

 こりゃ確かにチートだわ。

「成程、元の火力が低くても、軽減効果を簡単に無効化できるから、防御力さえ抜けば良いのか」

 尤も、その防御力を貫くのも、拳銃ではそう簡単な事ではないが、軽減効果をどうこうするよりは、遥かに敷居が低いのも事実だ。

「とまあ、此処までは王道な強さで人気なんやけど、ネタもあって水鉄砲とエアーガンも人気を伸ばしてるらしいで」

 そんな、2つのネタ武器の強さを支えるのが、コレだ。

【夏のおもちゃ】水鉄砲に、秒間1000の固定ダメージを加算する。[銃器]7つ目のギフト。

【戦闘用エアーガン】エアーガンに固定5ダメージを加算する。[銃器]9つ目のギフト。

「めっちゃ楽しそう!!」

「だよね~」

 なに?この愉快さと強さを兼ね備えたギフトは。

「このゲームって確か60FPSで動いてたから、1fで約16ダメージ加算か…」

 水を霧状に発射できるミストガンなんかがヤバそうだ。射程に難ありだが。

「エアーガンもええで…BB弾の玩具銃でも、射程100m位出せるし、弾代が超激安やから、電動ガンならトリガーハッピー出来るで、おまけに汚染度の上昇も無しや」

 さらに言えば、射程ギリギリで本来なダメージが出ない様な距離でも、固定ダメージが入るから、運用次第では相当結果を残せそうなポテンシャルは秘めてるな。


 ビルド談議も終わり、これで仲間全員の現状と、類似ビルドの傾向を知る事が出来た。

 これまで遭遇したビルドなんて、氷山の一角だと思い知った。

 まあ、だからと言ってどうこう出来るものでも無いけど、意識はこれまで以上にしようと思う。

 さて、金策の為にシンボル巡りを再開しよう。

「今度は湿地帯を回ってみるか」

 商業地区から外に出て西へ向かうが、道中襲ってくる野犬が鬱陶しいったらありゃしない。

「これ、新規で始めた人、外に出れねーな」

 一応、道路沿いに動けば、一定間隔ごとに監視塔が設置されており、援護射撃をしてはくれるが…。

「その分、ホーム内での金策が、初期に比べれば格段に充実してるし、相対的には寧ろ楽にはなってるか」

 野犬の群れにしつこく付き纏われつつ、湿地帯に到着。

 最早不法投棄は防げない様で、見るも無残な沼地、そして汚泥に跋扈するスラグ系の魔物の群れ。

 取り敢えず一当たりしてみたが、最下級のジャイアントスラグですら、初期のキングスラグ並みの強さに化けていて、結構ハードなロケーションへと変貌していた。

「こんな状態でも、スラグプリミティブを狙う人が居るのか」

 一旦距離を取り、視野が広くなったとこで、ふと視界に入る一団が。

「ん?清掃活動をしてるのか」

 なにやら防護服を着こみ、ごん太の管で汚泥を吸い、対になっている管からは、やや綺麗になった泥水が排水されている。

「んん!?作業してるのはエルフか?」

 休憩なのか、1人の作業員が防護服を脱ぐと、金髪の美丈夫が。

 と、ここで気配がしたので。

「サボってて良いんですか?」

「まだ何も言ってないよ…」

 ローレンスさん参上。


「で、アレは何をしてるかというとね」

「聞いてないんですが…」

「重金属などの資源を回収してるんだ」

「へ~、でも資源になるなら廃棄する意味ってあります?」

「技術の問題だね。我々は乳化した状態から、あらゆる物質を容易に取り出せる魔法的技術に長けてるからね、暇さえあればこうしたサルベージは造作もないよ」

「だったら、尚更捨てる意味が解らないんですが」

「そうだね、我々にオファーが来れば、格安で引き取るけど、その僅かな金銭や時間、輸送費をケチって犯罪に手を染める馬鹿が後を絶たないのさ」

 現実でも、バレるリスクを考慮すれば、有料で処分、又は根気よく無料回収を待つ方が良い筈なんだが、短気を起こす人間は一定数居るからな。

「おっと、結構回収できたようだね」

 1人のハイエルフがサンプルを持って来てくれた。

「うんうん。カドミウムに鉛にヒ素か、お、アルミニウムまであるじゃないか」

 中々の収穫の様だ。

「良し、そのまま期限いっぱい続けてくれ」

 そう部下に指示を出し、こちらに向き直る氏。

「とまあ、こんな感じで、かなり美味しい事業だったりするのだよ」

 適当に相槌を打ち、そのままフェードアウトを図るも、連行されてしまう。

「そんなに時間がないんですけど」

「なに、少し視察に付き合って貰うだけさ。さあ、ついて来たまえ」

 そう言われ、渋々後を追い、湿地草原を抜け、潜水艦のある干潟にやってきた。


「はい」

「これは?」

「水中適応薬さ、副作用は無いけど効き目が短いからさっさと済まそう」

 取り敢えず、飲めって事なんだろうと、一気に呷る。

 そして、そのまま水中にエスコートされ、少しの間歩くと。

「これが何だか解るかい?」

 水底に現れたのは、これまたコテコテな海中洞穴っぽい入り口だった。

「ダンジョンですか?」

「多分ね、これを見せたかったんだ」

「良く見つけましたね」

「寧ろ、何で今まで気づか中たんだろうって感じだけどね」

 確かに、潜水艦の停泊地から、然程離れていないからな。灯台下暗しってやつか。

 …いや、テコ入れで新たに出現したって方が、納得できるな。

「でね、この暫定ダンジョンなんだけど、とんでもない魔境なんだ」

「もうダンジョンで良いんじゃないですか?」

「それは一応確認が取れてからね。という訳で、少々付き合いたまえ」

 なにが「という訳で」なのか解らんが、まあ弾除け位にはなれそうかな。


「ぬーー!!これは厳しい!!」

 洞穴を進むと、蛸と蟹の大群に熱烈な歓迎を受け、2人して足止めを喰らっている。

「ローレンスさん、まだですか!?」

「…成った!!<ブリザード>!!」

 術を行使した途端、杖の先端から渦巻く様に冷気の奔流が溢れ、洞穴内を極寒地獄へ変えた。

 当然、蛸と蟹は凍り付き砕け散り、先に進める様に。

「なんちゅー威力…」

「その分、手間が掛かって面倒な魔法だけどね」

「その為の壁役ですか」

「助かるよ」

 この人なら、1人でも蹂躙しそうだけど、未知の場所に1人で乗り込まない辺り、歴戦の強者だよな。

 それからしばらく進むが、延々と同じ幅同じ高さの穴が続き、猛烈な飽きが襲い掛かって来る。

「これはクソつまらないね」

「ハア…ハア…蛸と蟹はどんどん強くなってますけどね…」

 身体を張って、敵を食い止める俺は、気持ち的に既に限界だった。

「潮時だね、今日の所は引き返そう」

 こうして、ダンジョン(仮)から引き上げ、ログアウトした。


「おはよう」

「「おはよう」」

 早朝のログインにも関わらず、マサとタロウが居たのでパーティーを組む。

「聞いたか?今アースとバグスターでダンジョンが激増中だってさ」

「皆コアを求めて踏破済みのエリアをローラーしてるわ」

「コアは幾らあっても困らないからなぁ…」

「なんなら、砂漠でカタコンベのダンジョンが見つかったし、行ってみるか?」

 というマサの提案に乗り、3人で南下し砂漠を目指す。

「そのダンジョンって、やっぱりミイラの巣窟なのか?」

「みたいだな、個々のLPが数千億は下らないという話も目にしたが」

「怠過ぎワロタ」

 ワラワラ出てくるMOBの堅さじゃないな。

「まあ、割合ダメージ持ちなら、サクッと倒せるとは見たが、短時間でダメージを与えすぎると、オートスキルなのか、カウンターで状態異常飛んでくるらしいから、お勧めはしないとも書かれてたな」

「増々面倒だな」

「でも、資源は最高らしいで、なんせ[至高の輝く死霊の腰掛]や劣化してない[死人茸]が採取出来るゆうからな」

「[死人茸]…もう名前からして食うのを躊躇うキノコだな」

「まあ例の高級貝もアレだし、美味けりゃ生育環境なんて気にしないやろ、ましてやゲームやし」

 こんな感じで駄弁りつつ、目的地に到着した。


「ここか、人が多すぎて観光名所みたいだな」

 砂漠にぽっかりと空いた穴に、続々と人が入っては出ていくを繰り返している。

 時折中から悲鳴が聞こえてくる感じは、お化け屋敷を連想してしまう。

「これだけ人でごった返してる中、入る意味が有るかアレだが、折角だし」

 そんな感じでカタコンベに足を踏み入れたが、心配は杞憂に終わる。

「おおう、聞いてた以上に広く複雑な迷路してんだな」

 マサが零す様に、想像とは違い、幅も高さもあり、無数の分岐が存在する大部屋が出迎えてくれる。

「壁や天井の亀裂から蠍や蝙蝠が湧いてるのか」

 取り敢えず、様子見で大部屋入り口付近で屯ッてると、部屋の隅の方から悲鳴や戦闘音が聞こえてくる。

 見た感じ、俺らなら問題無く戦えると踏み、人気の少ない通路に向かいがてら、蠍と戦ってみた。

「強かったけど、俺にはカモだったな」

 ゴーレムが引き寄せ、蜂が群がるだけでアッサリと処理が完了。

「俺には相当相性が悪かったけどな」

「うちもや」

 牛の大群という壁こそ居るが、ちっこい蠍には意味を成さず、斧の攻撃も当たり難いマサ。

 小さすぎて、散弾のヒット数が激減し、ダメ効率が芳しくないタロウ。

 2人にとっては、少々相性が悪い敵だった。

「2人には対ミイラで頑張ってもらうから、雑魚は任せてくれ」

 そして、通路に通り抜けた先で、幾つものグループと、武装したミイラが戦闘中。

 新手の登場に、フリーだった武装ミイラが軽い足取りで向かってくる。

「ミイラの癖に速いぞ」

 ボロボロの鎧に、ボロボロの盾と曲剣を携えてる割に、プレイヤーのデフォルト以上の移動速度で迫って来るミイラ。

 さて、どれ程強敵か見極めてやろう。


「うーん、捌く分には困らないが、倒そうと思うとマジで怠いな」

 コチラに駆けてきたミイラ5体は、マサの牛と俺の使い魔に阻まれ、戦闘は絶賛膠着中だ。

「そんじゃ処理を始めるか」

 武装ミイラの戦力を測り終えたので、タロウが戦闘に参加。

「先ずは一発ドン!!」

 動きを拘束され、身動きの取れないミイラの頭部を撃ち抜く。

「一撃で大体3~4割か~」

「[制圧][包囲]の多重デバフと、弱点で3割強か、十分と言えば十分だが、堅いな」

「こっちは程々にバフを盛ってるゆうのにこれか~」

 あまりな堅さに辟易する上に。

「で、呪いはどんな感じ?」

「[混乱]と[恐慌]を受けたわ」

「動作に不具合と被ダメ上昇か、また地味にウザい状態異常だな」

 対策も可能、有利な状況なら致命傷になり難いが、面倒極まりない状態異常だ。

「お、治ったで。持続は精々十秒そこらやね」

「なら止めを頼む」

 もう一度、頭部へ散弾を撃ち、ミイラを討伐するタロウ。

「使い魔の削りと、部位破壊でダメージが上がったか」

 追撃で斃し切れるとは思わなかったので、少し驚いたが、これは嬉しい誤算だ。

「じゃあ、残りも俺とマサで拘束するから、止めはタロウが頼む」

 こうして、思いの外ミイラ戦を楽に切り抜けられる事が判り、ダンジョン探索を開始した。


「ハア…地下2階は地獄だったな」

「俺は二度死んだぞ」

「マサやんのお陰で助かったわ」

 地下1階で、ミイラをしゃぶった俺らは、そのまま下層への下り坂を発見し、地下2階へ降り立っては見たが…。

「ちょ!?速い!!」「牛が一撃で!?」「あかん!!散弾が全く通らへん!!」

 とまあ、異常な程膨れ上がった武装ミイラのステータスの暴力に屈し、すごすごと敗走してきたわけだ。

「地下2階でも戦えてる連中はヤバいな」

「確実に進化数が2回は多いだろうな」

「桁違いやったね」

 こうして生き延びられてるのも、そうした天井人達の手助けが有ったからこそだ。

「流石テコ入れダンジョン…って事だな」

 視線の先にある、地下2階へと続く下り坂から、同じように洗礼を受けた人たちが這う這うの体で逃げ帰って来る。

「さて、今の俺らにはどうにもならんし、地下1階でめぼしい物を集めて帰ろう」

「「おおー」」

 そんな感じで、金目の物を出来る限り回収し、PAに帰還した。


「ふう、十一時か」

 そろそろ昼食だしと、ログタウトして視線を転じると、マッサージチェアに深刻な顔をした雪乃が鎮座している。

「…、…本宅へ行くか」

 剛速で投じられたクッションをキャッチし、改めて雪乃と向かい合う。

「で?」

「…私ってさ、誰なんだろうね?」

「お薬出しておきますね…って茶化す場面じゃないのか」

「私は至って真剣よ。勿論そんなリアクションも覚悟してたけどね」

 雪乃が真面目に話す以上、茶化しこそはすれど、中途半端に相談に乗る気はさらさら無かったが…今の雪乃の雰囲気は、おどけの1つでもかまさにゃ呑まれそうな程、凄味を帯びている。

「私は私、それ以上でも以下でもない。こんな、拗らせでもしない限り、出てこないセリフが浮かぶくらい…今の私は病んでるのよ」

「経緯を辿る前に…おじさんや亜紀、宮原さんには?」

「言って無いわ、皆向こう側だもの、こっち側…哲兄にこそ聞いて欲しいの」

 つまり、一連の出来事に関連付いた何かって訳か。


「哲兄さあ、DIYのログイン回りって、どう管理されてるか知ってる?」

「そりゃパスワードからなる個人情報で…だろ?」

「50点よ、実際は脳波、脈拍、指紋、声紋と紐づけられた個人情報が一致して、初めてログイン出来る様になってるわ」

「VRヘッドギアと周辺機器の本領発揮って感じだな」

 なんか若干煽られた感あるが、ここは大人の余裕で流す。

「そうね…指紋ってさ、例え双子であっても胎内での生育時に差が出るらしいのよ」

「うん?うん」

「でも、一度定まった指紋は、例え指紋が擦り切れる程の怪我をしても、全く同じように再生するのよ」

「まあ、そうじゃなきゃ環境や職次第で、指紋が変わりまくる事になるからな」

「私も詳しくはないから絶対とは言えない、言えないけど…VRセットの装着が絶対条件のDIYにおいて、多重ログインは出来ない筈なんだけど…」

「…雪乃以外の雪乃がログインしていた…のか?」

 言ってて自分でも意味が解らないが、目の前の雪乃の雰囲気が…。

「信じてくれるのね?」

「他でもない雪乃の言葉だからな」

「うん…」

「ちなみにどういう状況になるんだ?」

「『現在、同一人物に依る複数のアカウントからのログインを検知。不正アクセス者は直ちにログアウトし、二度と同様の行為を行わないように』だったかしら?そんな感じの文言が画面に表示されたわ」

「ほー、マクロでの稼ぎが矢鱈少ないのは、ハードルが高すぎる上にそれすら跳ねのける対策がしてあるからか」

「まあ、正直抜け道は有るから、本気の業者はマクロを使ってるとは思うけどね」

(それにしても…よりにもよってあのタイミングでだもんね。あれから色々探ったけど、やっぱアレは…)

「どうした?」

「ううん」

「さて、纏めると雪乃のなりすまし…って事にしておこう、それが何らかの目的で別アカウントからログインしてると」

「いえ、警告が出たのは一度切りだから、今は分からないの」

「…偶然で片付けなかった根拠は?」

「女の勘かしら」

「ふーん?」

「ごめん、心当たりはあるんだ、けど踏み込む勇気が…」

「そうか、言えない事の1つや2つあっても仕方ないよな」

「ごめんね…ただでさえ面倒な話題を振っておきながら、消化不良で…」

「藪蛇が怖いのは誰しも同じだ。ってか雪乃の想像が俺の推測と同じなら、俺も怖い」

「!!」

「大丈夫。その時が来たら一緒に受け止めてやるさ」

「ありがとう…」


 結局、雪乃の抱えてる不安や闇は一切解消されて無いが、俺と共有した事で、前向きに棚上げする事が出来たようだ。

 今も、昼食を完食し、元気にログインしている。

「さて、俺は買い出しに行くか」

 そのついでに会社へ寄り、おじさんと今朝ぶりに会う。

「雪乃の事だね?」

「マジで壁や障子に耳や目でもあるんですかね」

「商人というのは、人の機微に聡く無ければならんのだよ」

「まあそういう事にしておきましょう。それで、聞けば答えてくれますか?」

「それについて、問いただすのがあの子と一緒でなくて良いのかい?」

「やっぱ耳も目もあったか」

「結構気障ったらしい事を言ってたよね」

「なんで煽られてるんですか俺?」

 まあ、端から転がされる事前提ではあったのだが、こうもアッサリと摘ままれ掌に乗せられ転がされるとは。

 ここは機転を利かせ「お嬢さんを下さい!!」とか言ってみたら面白いかもしれないが、タイミングがタイミングなので、ガチギレされても困るのでやらないけどね。

「結論から言えば、近い内にカミングアウトの場を設ける。とだけ言っておこう」

 この一点張りで、後は何を聞いてもはぐらかされるのみだったので、大人しく帰路についた。


「で?「大丈夫。その時が来たら一緒に受け止めてやるさ」とか言ってた癖に、なに自分だけ予習しようとしてるのよ」

 帰宅するなり雪乃に詰められている俺。

「やっぱ、どの位深刻なのか知っておこうかと」

「そこは一緒に驚愕してくれても良いのよ?」

「備えあれば患いなし、だ」

 軽くじゃれ合いつつ。

「じゃあ、近い内に答えが出るのね…」

「顔色が悪いぞ」

「いざその時が来るとなるとね…」

 そして二週間後。

 とうとう、疑問への回答の準備が出来たと言われ、会社の地下へと呼び出された。


「待っていたよ」

 まるで病院の様な雰囲気のフロアの一室で、おじさんに出迎えられた。

「会社にこんなフロアが在ったなんて」

「私も知らなかったわ…」

 俺らを引率していた亜紀はいつの間にかいなくなり、3人だけで話が始まる。

「さて、何処まで推測している?」

「私のクローンが居るってところかしら」

「同じく」

「ふむ…」

 こんな荒唐無稽な仮説を立てるのは、どうなのかという思いも在った。

 だが、ハイジャック事件の被害者の末路を、大きくなってから知った俺にとって、雪乃が五体満足で居たこと自体が、どうしても、奇跡だと手放しでは信じられなかった。

 仮死状態での重篤者の保管、その蘇生術、そして治療法の確立。

 これらの情報を鑑みれば、恐らくおじさんは超高度な再生医療の技術を手中に収めてる筈。俺はそう結論付けた。

「再生医療と関連性の高い、クローン技術を確立していてもおかしくはない。そう推測しました」

「多分、私の仮死状態からの蘇生、更に治療の失敗に備えて…」

「もういい、()()正解だ」

 まあ、ここまでは予想の範疇だ。

「では、そのクローンが何故DIYにログインを?」

「そうだな…それ自体にはそれほど深い意味は無かったんだが…」

 そう区切り。

「そもそもDIYオンラインはどういった経緯で始めったか知っているかね?」

 当然表向きな理由では無いだろうし、知る由もない。


「DIYオンラインは、私とテロの()()()と遺族によって設立された財団によって運営されている」

 当然初耳だ。

「被害者や遺族の中には、隠れた有力者も結構いてね、先ずはそれらの大物と手を組んでから、他被害者たちを纏め、鍛え上げ、あらゆる方面へ送り込んだんだ」

 被害者同盟による諜報活動って事か。ってかたった二十年かそこらでとんでもないな…。

「…あれ?被害者?」

「…そうよね、表向きは私を含め生存者無しだった筈だけど…まさか!!」

「そういう事だ。他にも雪乃と同じ経緯で復活、又はクローニングで蘇った者もいる」

「…」

「どうかしたかね?」

「その…自分で推測を立てておいてなんですが、記憶…人格はどうやって」

「そんな事か、それは遺伝子情報から、その人物が後天的に得た情報が保存されてる領域の特定、そして解析し量子化出来るからだ。尤も、今の技術では血の一滴、髪の毛一本レベルからの完全蘇生は不可能だがね…それでも、記憶や人格の量子化はどうにか出来る様になったんだよね」

「…おじさん世界征服でも目論んでますか?」

 DNAから、脳が、身体が学習してきた情報を取り出し再生とか、どんだけ先の医療だよ。

 これ以上は話が進まなくなるから無理矢理吞み込もう。

「話を戻すぞ。DIY仮想空間は、言わば被害者の身体を再生させるまでの間、又は肉体の完全復活が厳しくとも人格のサルベージが叶った被害者の、遺族や家族と交流する為の、生活空間みたいなものだ。やはり、技術として確立したとはいえ、完全非公開の独占技術だからな。そう簡単に順番待ち全員の復活は出来ないのさ」

 金はどうとでもなるが、場所と時間と人手がどうしても不足してるし、おじさんの目指す場所が、可能な限りの被害者の救済だからか、相当時間が掛かる模様だ。

 それでも雪乃の蘇生が優先された辺り、おじさんも無茶をしたんだろうな。


 取り敢えず、事情は軽く把握出来たので、話題を変える。

「しかし記憶の完全再現まで出来る再生医療となると、隠し通すのも大変ですね」

「そうだな、というか一定以上の識者の間では、公然の秘密状態だがな」

「え!?不味くないですか?」

「私もね、理想に燃えていた若造時代とは違ってね、勝つためには何でもやる様にしてるのさ。例えば尻尾切りに遭って首を括った人物を復活させて…とかね」

 冷や汗が出た。

「…確かに…どんな悪事の隠蔽すら不可能になったわけですね、しかも一方的に。最早覆らないマウントポジションですね」

 最強の情報流出元である人の口。それを封じる事が一方的に出来なくなるとなると、情報戦においては最早敵なしと言っても過言では無いか。

「改めておじさんを尊敬します。よくこの短期間でこれだけの状況を…」

 一番の懸念である、身内の裏切り、人質も、表向きの理由で開発されたDIYシステムでカバー。

 尚且つ信頼できる配下も要所に置き、敵への牽制も怠らないときた。

「お陰で私の両手は血塗られてしまったがね…例えどれだけ善良な研究者であっても、それが利敵行為とみれば、あらゆる手段を講じて全て始末してきた」

「後悔してますか?」

「これっぽちもしてないさ、躊躇えば喰われるのは我々だからね」

 そんなおじさんの、壮絶な覚悟を改めて目の当たりにし、話は雪乃の事に戻る。


「さて、そろそろ良いだろう」

 そうおじさんが呟いた矢先。

「社長、準備が整いました」

 外から亜紀が声を掛けてきた。

「そうか、ならば移動しようか」

 …いよいよ雪乃のクローンとの御対面か。

 おじさんに連れられ、亜紀が待つ部屋へ着く。

「心の準備は良いかね?では参ろう」

 部屋へ入り、やはり驚愕を禁じ得ないかった。

「初めまして…なのかな…?」

 後姿の時点で、雪乃と確信してしまう程の人物が振り返ると、服装や髪型こそ違えど、雪乃と全く同じ顔が…。

「…なんと言ったら良いか…本当に雪乃と瓜二つだな」

「本当に私…と同じ顔なんだ…」

 いつの間にかおじさんと亜紀は退散しており、気まずい中での邂逅となった。


「「「…」」」

 非常に気まずい中、俺が率先して話題を振る事に。

「えーっと、その…なんて呼んだら良いのかな?」

「私の事は雪奈と呼んでください」

 最初の困惑気味に挨拶してきた時と違い、完全に他人行儀な態度で接してくる雪乃と同じ顔の人物…違和感が半端ない。

「雪奈は…その…雪乃としての記憶があるんだよな?」

「はい、小さい頃に哲也さんに良く遊んでもらった記憶が」

「それなのに…そんなに他人行儀なのか」

「私は所詮クローンです…オリジナルである雪乃さんにとって代わることなど出来ないんですから」

「そんな…」

 雪奈のあまりに物悲しい言葉に、成り行きを見守ってた雪乃も言葉が漏れる。

 確かに、雪奈からしたら、自身がクローンであると知らされた時点で、足元が崩壊する程のショックを受けた事は想像に難くない。

 だが、それにしてもこの諦観はあんまり過ぎる。

「そういう風に考えるよう、おじさんに強要されてるのか?」

 自分でも、少し怒りに火が付いてるいてるのを自覚するが、確認が先だ。

「そんな事はありません。父…正浩さんは、私の事も娘として扱ってくれますし、父と呼ぶように言ってくれてます」

「だったらなんで、そこまで自分を卑下する?」

 おじさんが家族と認めてる以上、俺と雪乃にここまで遠慮がちになる必要なんてないだろうに。

「成程…哲兄、ちょっと席を外してちょうだい」

 ここに来て、雪乃が行動に出る様だ。

「分かった、だがくれぐれも…」

「大丈夫よ」

 落ち着いた様子で、俺の言葉を制し、退出を促すので、ここは大人しく任せる事にした。


「良いの?一緒に居てあげなくて?」

「大丈夫だろう」

 廊下で待機してた亜紀に聞かれ、雪乃への信頼から問題無いと応じる。

「心中は複雑だろうが、赤の他人ではないんだ。しかも、しっかり者の雪乃なら大丈夫だ」

「ふーん…なんだか妬けるわね、一緒に居た時間は私の方が長い筈なのに、哲兄の方がお嬢様を解ってるのかしら」

「どうだかな…ただ、雪奈の方は出自に負い目があるからこその、あの態度なんだろう?」

「ええ、私達も散々言ったのよ?たとえ出自がどうであれ、貴方は大事な存在だし、お嬢様も哲兄も絶対に受け入れてくれるって。それに、普段はお嬢様そっくりで凄い明るいのよ?だから、私もちょっと驚いてるのよね」

「そうか、なら増々雪乃に任せるべきだな」

「お嬢様なら雪奈ちゃんの気持ちが解ると?」

「多分な。ってか雪奈ちゃんって…」

「本人が希望したのよ、私は構わないんだけど、きっと私が甲斐甲斐しく世話をするのに遠慮してるんでしょうね」

「そうかもな…出自を知っちゃったら、どうにも居心地の悪さと申し訳なさを感じるだろうな、なんせ元が雪乃なんだから」

「そうね…やっぱ哲兄には敵わないわね」

「そんな事はない。亜紀、よくこの二十年雪乃を守ってくれた。ありがとう」

「うん」

 そして、部屋の中で話し合いに決着が付いたのか、俺と亜紀、そしておじさんも呼び出され、招き入れらた。


「話し合いの結果、私と雪奈は双子という事になったから、同じように扱うように」

「そういう事なので」

 どうやら、2人は相当打ち解けたようで、便宜上雪乃が姉、雪奈が妹という事になったらしい。

 ふと気付いたが、2人の目が赤くなってるので、2人して泣きながら思いの丈をぶちまけたのだろう。

「ふむ、まあ想定通りの着地点か」

 と、おじさんはしたり顔で頷いている。

 この反応を見て、雪乃と雪奈がニヤリと嗤う。

「そういう事だから」

 そう言いながら雪乃が俺の右腕に。

「哲兄の御嫁さんは私とお姉ちゃん2人よ。平等に扱ってね!!」

 雪奈が俺の左腕に抱き着き、おじさんに意趣返しとばかりに仕掛ける。

 でもね、百戦錬磨のおじさんにそんなの効くわけないだろうに。

「哲也君、ちょっと話し合おうか」

 めっちゃ効いてるやん。…いや、おじさん笑いを堪えるのに必死で肩が震えてるよ。

 そんな、動じない俺とおじさんを見て。

「うーん、やっぱ動じないかぁ…」

「まだまだ時間が掛かりそうね…」

 と、悪戯が失敗して落胆する2人。

 まあ、打ち解けたようで何よりだ。


「で?今更俺込みで話す事があるのか?」

「何言ってるのよ、私と雪奈は打ち解けても、哲兄と雪奈がまだじゃない」

「ああ…クローンな私ってやっぱりそんな存在なのね…」

「うん、まあ良いけど何から話すか」

「スルー!?」

 早々に本性を現した雪奈をスルーしつつ、取り敢えず会話。

「うーん、と言っても墜落直前までは雪乃と同じ記憶を持ってるんだろ?」

「うん、哲兄が蟻まみれになって絶叫してたこととか」

「うん、お前は間違いなく雪乃の生き写しだ」

「どういう意味よ!!」

 雪乃が突っ込んでくるが、スルー。

「あ、じゃあ雪奈の歳を教えてくれよ」

「うわぁ…いきなり女に歳聞く…」

「お姉と一緒で16歳よ」

「となると、事件から五年後…」

「うん、ただ自我はこの身体が5歳…事件直前まで育ってから植え付けられたみたい」

「ちょっと!!」

 これ以上のスルーは流石に止め、雪乃も交え再開。

「そうよね、仮にも失敗に備えてなのに、赤ん坊のころから5歳児の記憶がとか、流石に誤魔化しきれないものね」

「うん、父さんもそう言ってたわ、私が自身の出自を知ったのは、姉さんが蘇生されたおよそ十一年前よ」

「自我が戻った直後か、その時におじさんになんて?」

「凄い申し訳なさそうに謝られて、事の経緯を聞いたわ…ショックと同時に色々と腑に落ちたわ」

「というと?」

「だってここから一度も外に出られなかったのよ?流石に自身の境遇に疑問を抱くわよ」

「辛かったな」

「お母さんも死んだって聞いて…それに…」

「もういい、頑張ったな」

 思わず雪奈の頭を撫でてしまう。

「えへへ」

 可愛らしい反応に、俺もデレてたら。

「私も撫でてくれてもいいのよ?」

「じゃあ遠慮なく」

「…これは恥ずかしいわね…」

 なら何故振ってきたし。

「それにしても、記憶の再生は兎も角、体の再生は早回し出来ないのか」

「出来る事は出来るみたいよ?ただ不具合が怖いから、生育は自然に忠実に行うと聞いたわ」

 いや、試験管ベイビーの時点で自然も何もないだろう。まあいっか。

「ところで、雪乃としての記憶がありながら、雪奈に改名して大変じゃなかったか?」

「最初だけよ、今となっては雪奈としての時間の方が長いもの」

「じゃあ、思い出に関してだけちょっとややこしいだけで、今では雪奈としての自我が完全に確立されてるのか」

「勿論。お姉ちゃんとの記憶の共有は5歳まで、そっから十一年もたってれば、流石にね」

「そっか、これからよろしくな雪奈」

「うん、哲兄」


「さて、今となっては些細な問題なんだが…DIYでの多重ログインの事なんだが」

「ああ、うん。確かに私もしょっちゅうログインしてるわ」

「その割に警告が出たのは1回だけ、だったよな雪乃?」

「そうよ」

「ちなみに雪乃は誰が雪奈かは検討ついてるのか?」

「ええ」

「それって雪奈的には知られたら困るのか?」

「うーーん…困ると言えば困るけど…私の都合ではないからねぇ…」

「ああ…大体察した」

「う、哲兄も感づいてた?」

「まあ」

「寧ろ哲兄の方が気付くだろうしね」

「うー…」

 ちょっと恥ずかしそうな雪奈。

「別に秘密のままでも構わないけどな、ただ折角だし一緒に遊べる方が良いと思っただけだし」

「それは私もそうなんだけど…今からサブ垢はキツイわね…」

 という事で。

「おじさん如何にかなりませんか?」

「どうにかってか、どうにでもなるけど」

「そりゃそうでしょうけど、その…仮に俺達と普通に遊べるようにする場合、雪奈の欠員はどうするんですか」

「一般プレイヤー向けの説明か、まあ適当に繕っておくよう開発に伝えるから心配するな」

 よきに計らってくれるらしい。

 ちんみに、多重ログインの原因は、雪奈の激しい動揺によって引き起こされた、脳波や脈拍の改竄が解けた事によって起こったらしい。


 雪奈との邂逅を経て、5人で屋敷へ帰宅。

 今日から雪奈も一緒に暮らしてくそうだ。

「ただいま…二十年ぶりの実家はこんな風に見えるのね」

 中々壮絶な経験の果てか、感慨深い様子で邸宅を進む雪奈。

「あ、大黒柱。懐かしいわね…」

「物心ついた頃から、毎年背を測って記録したわね」

「これは私…というかお姉、これは…亜紀か!!小さい!!」

「こっちは哲兄ね、ホント懐かしいわ」

 2人してはしゃぐ様子を微笑ましく眺めていると…。

(ん?…どういう事だ?)

「どうかした哲兄?」

 急に黙りこくった俺に、不審に思った亜紀が声を掛ける。

「…いや、なんでもない(やはりこれは…)」

「…」

 雪乃と雪奈の双子の気が済んだ様で、部屋割り等を決め、必需品や欲しい物は明日容易という事で、今日は早めの夕食を取って、解散となった。


「で、2人とも別宅に来るのか」

「まあ流れ的に?」

「これからは、私の遊戯室にもなるわけだし?視察は必要よね」

 雪奈だけ別室とか、流石にあり得ないしな、それは構わんのだが。

「今日でなくても良いじゃん。どうせ勉強も習い事も自宅や身内の施設でやるんだろ?時間なんて有り余ってるだろうに」

「「暇人扱いすんな!!」」

「おお、息ピッタリ。まあいいや、俺は風呂入ってリフレッシュして寝るから好きにしてくれ」

 そんな感じで、俺がその場を離れると、雪乃が自分の、雪奈が亜紀のPCを借りて遊びはじめた様だ。

 そして、サッパリして、マッサージチェアで体を癒し、寝る直前。

「そういや雪奈の引継ぎはどうなってた?」

 既にログアウト済みで、2人してネットであーでもないこーでもない唸っていた。

「うん、私のアバター、ギルミーネは旅に出る設定で一時凍結。私には代わりのキャラメイク権と、哲兄の強さに合わせられるための資金が用意されていたわ」

 まあ、予想通り過ぎて驚かないが、雪奈がギルの中の人だったとはね。

 ギルの正体云々じゃなく、NPCに中身が居たって事実が驚きだわ。

「しかし大変だったな、NPCのフリをしながらずっと声優の真似事をしてたんだから」

「もうね、最近はマシだったけど、初期は本当に酷かったんだから!!」

 そういえば、糞NPCがどうたら言われたとか、愚痴ってたな…その時はNPCだと信じてたが、いやはやだ。

「まあその辺は追々で。他のNPC…ウィルとかはどうなるんだ?」

「ああ、斎藤さんの事?」

 斎藤さん!?

「あのキャラも中の人が…というか他の3キャラも中身在りだから、全然問題無いわよ?」

「うおおおい!!俺の感動を返せ!!」

 ゲームのキャラであったとしても、あの4人はそれなりに思い入れが有ったっていうのに…。全部中の人ありで演技だったのかよ…。

「皆、家族との交流時以外は、ああやってDIYオンラインでNPCを演じるお仕事をしてるのよ」

「そんな事実、知りとう無かった!!」

 あんまりだ!!


「そうか、カイル達も中身はリアルなおっさんだったか、道理で管巻き具合がリアルすぎたわけだ」

「DIYには、既に復活済みの人、体の再生が不可で意識だけの人、体の再生待ちの人が扮したNPCが結構な数居るわ」

「知りたくもなかった裏側がどんどん暴かれるわね…」

「それに、現在進行形で、コチラに取り込んだ有力者とその身内にまで波及してるから、これからも中身在りNPC(意味不明)が増えているわ」

 ってかこれからどんな気持ちで斎藤さん達に会えばいいんだ?

 …シーラやローレンスさん達も大分怪しいな…ってかシーラは十中八九黒だ。

「…疲れた、寝る」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 こうして寝る直前に、雪乃のクローン、そしてギルの正体という知ってた案件が、余裕で消し飛ぶレベルで衝撃を受け、一日が終了した。


「昨日は衝撃的な事実が発覚したな」

 早朝、鶏の大合唱で起床し、昨夜の出来事を思い出す。斎藤さん…。

「「おはよう哲兄」」

「おはよ…って同じ恰好するの止めろや」

 昨日と違い、全く同じ装いの双子。

「「分からないの?」」

「寧ろどう見分ければいいんだよ…」

 一卵性双生児じゃなく、ガチの同一人物だからな。

「どう見分けるかって?」

「そんなのこっちが知りたいわ」

「喧しいわ!!」

 早朝から絡んでくる2人を相手にしつつ、軒先で光合成。

 その後、朝食を済ませ、亜紀が雪奈の物を買い出しに行くというので、俺も便乗して車に乗せて貰う。

 丁度酒とつまみが欲しかったんだよな~。


 買い物から戻ると、離れの居間に新たなゲーミングPCが新調されていた。

「こうしてハイスペックマシンが4台も並んでると、ネトゲカフェみたいだ」

「これで4人並んで遊べるわね。さて、私達もログインしましょうか」

 今日はおじさんもオフで、亜紀も仕事が無いので、朝からログインする様だ。

「そんじゃ俺も始めますか」

 そしてログインするなりユキからチャットで呼び出しが来る。

『今から雪奈…ユナのお披露目をするから教会に来てね』

 どうやら雪奈のアバターの名前はユナという様だ。分かり易さって大事だもんな。

 アコと教会に付くと、ユキの隣にギルを幼くしたようなアバターのユナが居た。

「どうかな?」

「良いと思うよ、でもちょっと以前のアバターに似せ過ぎじゃないか?」

「やっぱ違和感がない方が良くて」

「そういうもんか、ところで多重ログイン問題は…声を弄ってるのは解るけど」

 声の方も、肉声より若干低めになっている。

「そっちは単純に、私と姉さんだけ特例にして貰ったわ。ちなみに以前トラブったのは、私と姉さんがゲーム内で接近する事が、想定外だったから起こった事故だって」

「あの時か、まあ問題ないなら良いさ」


「今日からうちに入るユナだ。皆よろしく」

『よろしく』

「よろしくお願いします」

 何食わぬ顔でユナも同伴でPAに戻り、さも今知り合った体で皆に紹介した。

 まあ、この辺は適当で良いだろう。

「それで、ユナはどんなビルドなんだ?」

 何でお前が知らないんだよって突っ込まれそうだが、誘ったのはユキとアコって事になってるから、今このタイミングで俺がビルドを訪ねるのは、不自然には映らない筈だ。

「私はのんびりとこのヴァーチャル空間を楽しむのが目的なので、戦闘度外視の耐久特化ですね」

 そんなユナのビルドは驚愕に塗れていた。

([生命]覚醒数90[吸血鬼]覚醒数90…一度にここまでLvを上げ切れる資金が無ければ、こんな特化はありえないよな…)

 勿論、他のメンバーには、実際の覚醒数等はぼかして伝えた。

(ってか、マジで戦闘に参加する気ないのか)

「一応、堅さには自信が有るので、戦闘になれば囮くらいはしますよ」

 というか餌にしかならないけどな。気を取り直して。

「ギフトや肩書はどんなものを?」

「私のギフトと肩書ですか?ギフトは【超生命力】【早期発見】【吸血鬼Lv1】【威圧の魔眼Lv5】です。肩書は《吸生鬼ラブ》《生命信者》《吸血鬼信者》です」

 ちなみにこの部分も、実際にはぼかして伝えている。

《吸生鬼》は、[生命]と[吸血鬼]の覚醒数+40である。《吸血鬼信者》は察しの通り+50となっている。

 しかしこんな構成、今から始めた上で、事前に相当知識を仕入れた上で、うん十億もの資金が手元にないと出来っこないな。

 …それでも、一部の廃人がこういった極限ビルドを成立させてるらしいから、恐ろしい話だ。

「ほ~、そりゃまた随分と変わったビルドだな~」

 何も知らないサーモンが、呑気にユナのビルドの感想を述べる。

(変わったって言うか、+値補正を考慮すると、完全なガチビルドだ)

 肩書の補正で、[生命]は180、[吸血鬼]も180と、馬鹿みたいな覚醒数を誇っている。

 なので、ギフトの方も実際にはこうなっている。


【超生命力+18】LPが80%以上の時にダメージを受けても40%未満にはならず、20%以上の時は10%未満にはならず、10%以上の時は一撃で死ななくなる。


【早期発見+17】状態異常の蓄積値を170%軽減


【吸血鬼Lv1+17】覚醒済みの因子[吸血鬼]を取得。キャラメイク時に[吸血鬼]を取得した場合、スキルの取得が可能になり、スキルも強化され、重複数が+18回の状態になる。


【威圧の魔眼Lv5+17】範囲内の相手がSTA消費行動をした時、追加で510%STAを消費する。


 全部ヤバいけど、【威圧の魔眼Lv5+13】が頭おかしい効果なんだが。

 範囲がどの程度かは知らないけど、追加で510%も消費したら、出来る事が大幅に制限されるぞコレ。

 一応、STA消費しない行動で、戦闘が出来ないわけでも無いし、攻撃のSTA消費を0にする方法も有る為、相手によっては全くと言っていい程意味の無い効果だが、それでも驚異的な妨害効果だ。

 あと、一応留意するべきなのが、【早期発見】だが、これはあくまで蓄積値を減らすだけなので、確率で発動するものや、確定で状態異常にする能力には意味が無いので、そこはあしからず。

【超生命力+17】も、少々解り辛い効果だが、要はどんだけ連続で大ダメージを受けても、80%、20%、10%で踏み止まってくれますよってことだ。

 いやホント、とんでもない地雷ビルド(敵にとって)だなこりゃ。

2/25に出たゲームの影響で、執筆にかなりの遅れが出てしまいました…

次回は三週間は掛かりそうです。

それと、感想感謝です。励みになります。

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