第四十五話
~前回までのあらすじ~
タツキチをサルベージし、『ジャックオーランタン』も神級になり、装備も強化された。
そして骨の収集が完了し…
「なんか条件満たしたっぽいので、見て下さい」
諸々を説明し、諸々を手渡す。
「どれどれ、ふむふむ、あいわかった。ということだ」
流石に解らんぜよ。
「どうせ、御霊の希望通りに体を作っていくんだ、それとも個々の要望を聞きたいかね?」
「いや、お任せします」
聞いたところで、如何にもならんなら、もう好きに任せてしまった方が楽だしな。
そして半日後。
「出来た」
「前より更に隙間が減りましたね」
御霊4人分となった事で、骨の総量が増え、更にゴツゴツしい鎧に変貌。
名前も[阿修羅の骸]から[御霊の器]に変化。コストも3000と、50倍に増えてしまう。
「…OPが1つも無いのに3000…」
あんまりな変化に、ついつい失望感を露わに呟いてしまう。
すると、心外とばかりに激しく揺れる鎧。
「ほら、君が失礼な事を言うから、お怒りだぞ」
「自己主張激しいなおい。まあそうだな、貴重な胴防具枠を喰った上に、防御力0、OP無し、コスト3000の実力とやらを見せて貰おうか」
俺の挑発に、鎧側も、カタカタと不敵に震える。
そんなわけで、検証に入る。
検証を終え、結論から言えば、微妙過ぎると言わざるを得ない結果となった。
先ず、外に出ると、鎧がパージされる。
ここは以前同様。そして4体のスケルトンになる。これも想定内。
4体は、それぞれゴブリンから貰った骨の杖と、骨で出来た盾を所持。それなりに映える格好だ。
で、肝心な戦闘能力が…微妙過ぎて、評価に困るものだった。
先ず、それぞれ<ウォーターザッパー><ファイアーキャノン><サンドブラスター><ソニックブーム>を使うんだが、発動まで長い上に、威力もかなりしょっぱい結果に。
明らかに、阿修羅時よりも弱体化している。
それでいて、近接も悪くは無いが、やはり以前よりも弱体化していて、とてもじゃないが、[阿修羅の骸]から、コスト50倍の価値が有るかと言われたら、NOと言わざるを得ない。
「という感じなんですが…」
先生の下へ戻り、検証結果を伝える。
「ああ、それは当然だろう。四等分化した上に、これまでの強化分がリセットれてるからね。というか、これまで吸収した魂が有ったからこそ、その程度の弱体化で済んだと言えよう」
先生の擁護に、そうだそうだと言わんばかりに跳ねる骨。
「え、じゃあ一から強化し直しですか?」
「仕方ないだろう?しかも4体分だから、かなりしんどいと思うが…到達点は遥か高みまで引き上げられてるから、時間を掛けさえすれば、コスト3000では利かない次元まで、昇華されるだろう」
成程。強化限界が解放されて、これまでの強化がリセットされた形なのか。
「そうですか…、即戦力とはいかないか」
流石に、ちょっとは後ろめたいのか、骨も静かに揺れる。
仕方ない、一から鍛え直しといくか。
思わぬ負担増戦力ダウンに見舞われ、面喰らったが、立ち止まるわけにもいかないので、アンデッドを探してあちこちへと動く。
「今、ホットなアンデッドスポットだぁ?無くは無いが、新規入植者のテツじゃ行けない惑星だからな~」
ウィルに相談しても、返答は芳しいものではなく、結局地道な努力しかない模様。
鬼ヶ島も、既にアンデッドの激減で効率も悪いし、どうしたもんかね。
そう思ってたら、数日後。
フォレストの開拓が進み、いよいよホームの反対側、最果てに着手し始めたところ、事態が動く。
最果てには、寄生したNPCMOBをゾンビに変えてしまう[黄泉の花]という、彼岸花に似た凶悪な植物が存在するとの事だ。
ただ、このゾンビ化は、死んだわけでは無く、一種の洗脳状態で、その間どんどん衰弱し、寄生されたまま力尽きると、本物のゾンビになるというものらしい。
まあ、そんな事はどうでも良い。要は、NPCのMOBがこいつに寄生されてやられれば、ゾンビになるので、それを浄化していけば、役立たずな御霊共が強化出来る筈だ。
という事で、早速フォレストへ乗り込む。
だが、俺の狙いなど知った事かと、トレントやクロスイーター、食人植物が跋扈し、中々黄泉の花に寄生されるNPCが見つからない。というか、黄泉の花が全然見つからないんだよな…。
それでも、気長に機会を伺っていると、ゾンビ化したNPCが襲ってくる。
タイミング的には、多数に囲まれ、よりにもよってという感じだが、贅沢は言ってられない。
有難く、全身痛めつけられながら、ゾンビを浄化したが、吸魂は発生しなかった。
これはモチベーションだだ下がりだ…。
せめて数を熟せればと思うが、此処まで来ると、NPCも相応に強いので、全体が窮地に陥るような状況でもない限り、アンデッドの大量発生は期待できそうも無いな。
数日後。
相変わらず、金と魂集めをしつつ、発表されたアプデ内容を確認。
『Ver2.2のお知らせ。二週間後に予定されている、アップデートにて、プライマリ、セカンダリに続く、サブライセンスを導入。また成長限界の解放、サーバーの安定性向上、ライセンスの種類追加を行います』
という感じで、保持できるライセンスが増える様だ。しかも、サブは2つのライセンスを選択できるらしい。ただその代わりに、超級までしか上がれない様だ。
「そうなると、ライセンス4つ体制か、デバフ、農業サポートときたから、何が良いかね」
以前シーラ達に紹介された『ファミリアコーザー』『作戦参謀』『使い魔認定員』『マタギ』『案山子職人』『肥育農家』『遊休農地コンサルティング』『群衆煽動者』も候補に入るな。
「アプデ内容は良し、と」
相変わらず懐が寒いので、海底ダンジョンのボス部屋に向かう。
これまで同様に、素材を集めようかと思ったが、どうせならLvを120まで上げ切ってからの方が、効率が良いだろうと、極力ロストを避けつつ往復を繰り返す。
残念ながら、二度ほどやられ、結構な損失が出てしまったが、久方ぶりのLv上げで、78まで上げる事が出来た。
そしたら、各惑星中のシンボルを回り、採取マラソンを敢行。
進化二回目の、資源復活速度なら、大体一巡する頃には、最初のシンボルが復活するので、場所による振れ幅こそあるものの、一番効率が良く飽き難いので、これを繰り返す。
そして、二週間後には、Lv108まで上げ、換金物もそれなりにプールした状態で、アプデを迎える事が出来た。
「アップデート完了っと」
今日からVer2.2となり、サブライセンスの取得が可能になったので、早速情報収集を開始。
早速耳に入って来たのは、悪事を一定基準働くと、取得できるようになる『掏り師』や『盗人』、悪党を一定基準懲らしめると取得できる、『自警団』や『秘密警察』といった、PvPに纏わるライセンスだ。
「敵からアイテムを盗める『掏り師』に『盗人』か、そりゃこんなライセンスが有れば、敢えて悪党になるやつも出てくるわな」
その後も、ゲーム内とネットで情報を漁るが、どうしてもサブライセンスのデメリットが、足を引っ張る。
先ず、サブライセンスは超級までというのと、兎に角熟練度の上昇が遅いというのが、選択肢を狭めてくる。
この条件だと、超級でも十分すぎる程強力なライセンスでありながら、現状のプレイスタイルの延長で、熟練度を稼げそうなライセンスが好ましい。
勿論、敢えてそうじゃないライセンスを選ぶのも手だが、どんな廃人でも、ゲームに割ける時間は無限じゃないのだ。熟練度上げが手間になるライセンスの選択は、現実的ではない。
尤も、ビルドとのシナジー次第では、苦労を背負い込むのも、やぶさかでは無いがな。
「とはいえ、そう都合良く見つかるわけも無いか」
ある程度妥協するなら、そらもう、魅力的なライセンスは沢山あるけど、やっぱ一番しっくりくるものが望ましいから、少し様子を見るか。
ライセンス探しを一旦保留にし、金稼ぎを再開する。
Lv108になった事で、危険地帯の素材回収が格段に楽になり、損失の頻度が下がり、効率的に資金を貯められている。
そうだ、危険地帯と言えば、攻略度が100に達してるバグスターなんだけど、てっきり攻略済みの惑星は、凶悪なボスなんかは出ないと思ってたんだけど、そうじゃなかったんだよね。
未だに在来種は健在だし、そいつらが何時突然変異で化けるかもわからない上に、入植が完了した事で、ゲートキーパーまで出現する様になる始末。
しかも、このゲートキーパーが強いのなんのともっぱらの噂で、かなりの人数が、未知なる素材や強敵を求め、バクスターで奇行の数々を披露してる様だ。
結局何が言いたいかというと、攻略済みの惑星でも、というか攻略済みだからこそ行く価値が有るという事だ。
かく言う俺も、出現条件の判明したゲートキーパーを求め、召喚の儀(汚染度稼ぎ)をしてる連中のご相伴に与る心算だ。
暫らく、他の野次馬と一緒に見学する事十分。漸く十分な汚染度が稼げたようで、1人がジャンプし始める。
この、ホーム直ぐ傍の区画のゲートキーパーは、[タイタニックシェル]という、超ド級の蝸牛で、指定座標で連続して14回ジャンプすると、出現するそうだ。
そして14回目のジャンプ時に、タイタニックシェルが出現。
既に何度も倒しているのか、中心グループの手際の良い動きに惚れ惚れする。
悪党の乱入等のアクシデントもあり、俺ら寄生組から夥しい犠牲が出る中、ホスト達は少ない犠牲で乗り切って見せ、止めも無事にさせたようだ。
さて、ゲート―キーパー討伐後の御褒美、変異したシンボルを採取しましょうか。
「ふー、美味すぎる」
特に何かしたわけでも無く(強いて言えば悪党の足止め位か)高級素材に有り付け、たったの二十数分で300万も稼げてしまい、ニヤニヤが止まらない。
しかも、ゲートキーパー戦にしゃしゃって来た悪党をしゃぶった事で、更に30万程お小遣いを貰えたのだ。
「とはいえ、この程度だとLv上げすら出来ないんだよな…」
現在Lv1上げるのに掛る費用は648万円。ちょっとデフレ脱却した程度の経済では、まだまだ追い付かない程の、費用インフレが深刻だ。
最近、このLv上げ費用のインフレが凄く、半端な稼ぎを物に換える傾向が強くなり、再び装備強化の重要度や優先度が上がった事で、物の価値が上がり、デフレは収束したのだが…。
「現金の持ち歩きが怖いから、物に換えたいけど、投資先の見極めがシビア過ぎるのがなぁ」
なんせ、投資先に失敗すると、良くて八割、最悪六割ほどの金しか取り返せず、投資額次第では大損こく羽目に。
かと言って、銀行の無いこのゲームで、現金をそのまま持ち歩くのは、些か危機感に乏しいとしか言えないしで、戦闘でもないのに神経の磨り減る事。
ただ、悪い面ばかりではなく、成功すれば逆に増える事も有るので…、…結局成功させるにも神経使うので、やっぱ辛いわ。
「仕方ない、ちょっと交渉してみるか」
教会へ向かい、『ジャックオーランタン』課窓口で、面会を求め。
「という事で来ました」
「どういう事だよ…」
フレディ部長の下を訪ね、費用の積み立て式を頼む。
「まあ、雁首揃えて20億は大変だろうしな、積み立て式を許可しよう。振り込みは窓口で対応を指示しておく」
「ありがとうございます」
頭を下げ、窓口で手持ちを全て預け入れた。
目標まで、残り19億9670万なり。
半端な残金の、積み立て化に成功したので、金稼ぎの手段を増やす。
半端すぎる報酬の討伐系依頼も、ガンガン受け少しでも時給を上げる。
今も、アースの下水に潜り、害虫害獣を駆除しつつ、ゴミ拾いと清掃をし、一度に6つ以上のタスクを平行する事で、時間当たりの稼ぎを伸ばす。
例え単価が安くとも、使い魔のような自動で戦ってくれる戦力が有れば、戦闘は何もせずにこなせるから、結構な報酬になってくれる。
更に、こういった地味な依頼を積極的に消化していると、同じ作業の延長で熟せる依頼も増えていき、少しずつ効率が上がっていくのも気持ちがいい。
…良いのだが、そういえばNPCからの信用とかいう、クソ要素があったなと思い出す。
資本主義宜しく、サービスに対するハードルが際限なく上がっていき、コスパの悪い仕事をする者は、容赦なく切り捨てられていく世界。
幸い、うちは無名のままカンパニーを運営してるし、コーポレーションも、今は設立する気もないから良いけど、そうじゃない連中は大変だろうな…。
そんな事を考えつつ、依頼をぶん回し金を稼いでいった。
四日後。
Lvも114になり、二回目進化のカンストまで、あと僅かとなった。
積立金も、2000万程まで増えている。
後は、2つのサブライセンス枠の1つに、『使い魔認定員』を採用する事に。
このライセンスの効果は、ランクに応じて、使い魔の能力が上がるというもので、新人で5%、プロで10%程上がるとの事だ。
当然サブなので、新人からプロに上がるのにも、かなりの労力が要るとされてるが、このライセンスの熟練度上昇条件は、使い魔に敵を倒させるだけなので、特に何かする必要が無いのも、選ぶ決め手となった。
という事で、現地に到着。
「ごめんください」
「はいはーい」
ライセンスの会場は、研究地区にあり、若い女がギュウギュウな状態で応対に出て来た。
「あ、『使い魔認定員』のライセンス発行希望者ですね、ではこちらへどうぞ~」
奥に案内され、軽いテストを受け、新人のライセンスを受け取る。
「本当なら、直ぐにでも特級辺りでも問題ないんですけど~、サブ枠ですと…」
まあ、これまで使い魔主力でやってきたからな、マスクデータで、かなりの実績があってもおかしくはないか。
「問題無い、どうせこれまでと変わらず動けば、自然とプロに上がれるだろうしな」
「みたいですね~」
向こうも、その道のプロだけあって、俺の実力は解ってるようだ。
まあ、このお嬢さんの方が、使い魔に限れば遥か格上っぽいがな。
凄いよ。どういう過程を経てこうなったかは知らんが、傍に居る犬は王冠を被ってるし、クリスタルゴーレムはうじゃうじゃ居るし、雀蜂は大量に飛んでるしで、安全地帯で使い魔が顕現してる時点で色々とおかしいしで、もうわけわからん。
もし、俺が使い魔一本だったら、これくらい突き抜けてたのかも、なんて思いもするが、隣の芝生だし、仕様も無いか。
さて、金稼ぎ金稼ぎ。
現在、マサとドラグーンを散策中。
ドラゴンや恐竜が凶悪過ぎて、未だ攻略度が4%で止まっているので、素材の需要が高く、リスクは高いが稼げるのだ。
「ち、またT-rexだよ…」
「ホントしつけぇな」
恐竜の中でも最恐格のT-rexは、未だに討伐報告が無い、超強敵だ。
その癖、しつこく襲って来るくせに、ちょっと傷を負わすと全力で逃げる為、相手にしていてイライラが募る事で、蛇蝎の如く嫌われている存在だ。
ただ、そんなT-rexだが、テイマーには狂ったレベルで追い回されているのが笑いを誘う。
俺も一度見たが、NPCの連れたT-rexが、アニマルの巨獣を蹂躙する様は衝撃的だった。
その影響で、テイマーがここドラグーンに大挙して押し寄せている。
で、そんなT-rexが、俺らのとこに何度も何度もやって来るせいで、周りがテイマーだらけでウザいったらありゃしない。
理由は勿論豚のせいだ。
一応、最初に寄ってきた連中は…というか顔見知りのペットマスターの面々は、報酬を払ってくれると言い、既に前金を預かっている。
だが、タダ乗りしようとする連中が多すぎて、如何にも動き辛くて仕様がない。
まあ、違反行為でも無いし、寄生は俺もするので、ここは順繰りって事で我慢する。
さて、肝心なT-rexだが、外側のテイマーが八つ裂きにされつつも喰らい付き、結局取り逃がしてしまう。
そんな感じで、少しずつではあるが、金を払ってくれた連中と、タダ乗り連中とで戦力差が生まれ始め、最後はタダ乗り勢が壊滅して、T-rex狩りが本格始動した。
「そい!!」
「フン!!」
迫りくるT-rexを、畑に打ち上げ、更にマサが軽く打ち上げ、寝転がす。
後は畑を維持しつつ、依頼者の作業を手伝うだけだ。
当然、そう簡単に行くわけもなく、何度も逃げられ、陣形を崩され、戻ってきたタダ乗り勢に邪魔され、意気消沈しつつも、粘り強く頑張った結果、漸く1体目のテイムに成功。
『うおおおおお!!』
もうお祭り状態だ。
何度も噛み砕かれ、尾で打たれても怯まず、猫なで声で全身撫でまわしながら口に肉を突っ込む姿は狂気の沙汰で、最後に屈したT-rexの、うんざりした感じの表情は、何とも言えなかった…。
ちなみに、テイム済みのT-rexの初期ステータは、こんな感じ。
名前:無し。 種族:ティラノサウルス。 Lv1。 コスト92000。
LP:67000000 STA:28000000
攻撃力1800000 防御力2200000
うん、まあ、苦労に見合った強さじゃないかな(コストから目を逸らしながら)。
一応、うちの癒しの白兎ちゃんはこんな感じ。
名前:シフォン。 種族:兎。 Lv687。 コスト687。
LP68700 STA68700
攻撃力68700 防御力34350
コストも安く、カンパニーにペットルームが有れば、余裕で賄えるので、数を揃えれば中々の戦力になる。
それに、これはあくまでテイマーの補正抜きでの数値だし、Lvを上げると、表示されないだけで、色々と特殊能力を身に着けていくので、実際は数字以上に強いのもポイントだ。
なので、最近では初期の哺乳類系ペットも着々と人気を伸ばしている。
どうでもいいか。
「ピギィー!!」
最初の1体をテイムし、暫くの間T-rexの気配が消えていたが、再び出現。
早速豚が連れ去られるが、破裂音の後再び現れ、これまでと同じ工程に入る。
十分後。今回は上手くいかず、逃げられてしまったが、人間一度でも成功すると、モチベーションの維持が容易い様で、参加者の士気は異様に高い。
ただ、流石にぶっ通しは辛いので、一旦解散し、夜にまた再開。
今度は、ベルとカメキチさんも呼び、更に安全性を高めて挑む。
先程もそうなんだが、本当は使い魔に攻撃させないように離れるか、いつだかのレッドマンバテイム時と同様に、T-rexの身体の一部を掴む等した方が良いんだが、相手が強力過ぎて、どうしようもなかった。
結局、使い魔を嗾けつつ、畑を修復しながらが一番安全だったが、今回は違う。
「良し、掛かった!!」
「フン!!」
ここまでは同じ手順。
「失礼しまーす」
カメキチさんがT-rexの口に入り、噛み付きを封じる。
後はベルの回復を受けつつ、俺がどっか触りながらとか思ってたが、無理だった。
先ず、片手じゃ鍬が触れないし、尾と前後の足がジタバタ動くせいで、それどころじゃなく、回復も間に合わなかったので、使い魔の攻撃封じは諦め、カメキチさんのオプションのみに留める事に。
「うん、ここまで強敵になると、使い魔の攻撃で弱体化させながらの方が良いかもな」
本来痛めつけてのテイムは、成功率が低いんだけど、もうこのクラス相手には、そんな事は言ってられず、全力で当たるしかない。
一応、カメキチさんをワンクッション挟む事で、正面の安全性が格段に増した事で、テイムの試行回数は飛躍的に増えてるので、後は我慢比べの世界に。
そして三時間後。
『やったああああああ!!』
遂に2体目のT-rexのテイムに成功。
現在、T-rexのテイム済み個体は、ゲーム内に10体らしいので、これで1/5はペットマスターと、その連れが占める事に。
寧ろ、他に8体も居るのかよって思ったが、そちらのテイム作戦を聞くと、とてもじゃないが手軽に真似出来ないと解る。
簡単に言えば、巨大な檻、それもT-rexの猛攻に耐えれるようなものを用意し、閉じ込めて囲んでという感じだ。
もう、前提条件が厳し過ぎて、中堅クラスのコミュニティでは無理だ。
実際、そこまでやれば、テイム率は脅威の100%だが、必要経費が軽く数十億を超える上に、討伐の方は発狂で全てが台無しにされ、未だに成功していないというのだから、如何にもならない。
その点、俺らの方法は、安上がりな分、リスクも高く成功率は渋いが、手軽に始めれる分良いかもしれない。
そんな事を、一週間位続け、漸く解放された。
もうね、いい加減飽きてたんだけど、血走った眼で懇願されれば、誰だって折れて手伝っちゃうよ。
でも、その甲斐あって、俺の取り分は5億円程となり、Lvもカンストし、積み立ても5億程となった。
T-rexテイム作戦の最終的成果は4体。
「もう、コスト的に無理っす」
の一言で幕を閉じた。
そりゃそーだ、コスト92000とか、他のペットの事を考えたら、例え専用に改築してあったとしても、そう何体も囲えるわけないしな。
しかも、最先端を走る大手が[ブラキオサウルス]をテイムした事で、状況が一変したのも大きな要因だ。
ちなみに、ブラキオサウルスのLv1のコストは410000。
LP1200000000 STA600000000 攻撃力10000000 防御力8000000 となっている。
もう、笑うしかない。
そんで、コスト410000は、ペット特化のコーポレーションなら、ペットルームだけで賄うのも不可能ではないので、大手はこぞってこちらに流れているのも、T-rexが下火になった理由でもある。
まあ、コストがコストだから、直ぐに人気も分散するとは思うけどね。
折角の、テイムアシストでの稼ぎも、ブームが去ってしまったので、また地道に稼ぐ。
シンボルが生きてるうちはシンボル巡りを、復活するまでは森でゴブリン狩りをする。
今の俺は[幸運]528000もあり、簡単にゴブリンやその他から核をドロップするので、結構効率よく稼げる。
大体今の相場で、ゴブリンの核が1個50万、ツインヘッドスネークが100万、その他が30万位となている。
ゴブリンはコスパに優れ、ツインヘッドも大型の従魔の割にコストが安いと人気だ。
他の、変異して魔物化した熊や鹿は、汎用性が低い為、若干安めとなっている。
最近では、森はPvPのメッカとなっているので、悪党からの不意打ちに気を付けなければいけないから、護衛として、サーモン、ベッタラ、ラーク、ワイド、ショー、カメキチのうち、2人以上を連れる様にしている。
お陰で、悪党からの不意打ちにも対処出来、核のロストという、大損をこく憂き目には遭わずに済んでいる。
そして現在は、手すきのサーモンとショー、おまけでサチが同行し、核集めをしている。
「それにしても賑やかよね」
俺の使い魔、サーモンのゴブリン、ショーのオーロックスで、密度が濃い。
「というか、サーモン君のゴブリン増え過ぎじゃない?」
現在のサーモンのゴブリン展開数は10体。最大展開数は25体と聞いている。
「最近、リーダーがゴブリンの核を持ち帰ってくれるからな、ガンガン買い取ってるのさ」
「コスト的に大丈夫なんですか?」
「ああ、見た目よりは個々のコストは安いからな」
「なんせ【制式装備Lv3】だもんな」
「お陰でLv1でも、それなりに強いから助かってるぜ」
こんな感じで、駄弁りながら深層に向かう。
「うーん、ゴブリンも居なけりゃ、悪党にも出くわさないな」
一応、それ以外の魔物には遭遇して、核も幾つか手に入れているが…。
「あれですね、今の俺達の組み合わせで、避けられてるんでしょう」
「そうなの?」
「いえ、ノリで言いました」
「ノリかよ」
結局、たまたま一時的に悪党が減ってただけという、なんでもない理由で遭遇しなかっただけと判明。
そら、悪党にもメリットが有るとしても、悪党になるのは極々一握りだからな。
タイミング次第では絡まれない事もあるか。
狩りから戻り、戦果を分配し、もう一回森に向かう。
メンバーはベルとカメキチさんを加え、6人パーティーになっている。
ホームから出ると、凄い勢いで、大勢のプレイヤーやNPC、使い魔などのユニットがホーム外壁に叩き付けられている。というか俺らも叩き付けられる。
「なになになに!?」
あまりに唐突な展開に、動揺する。
「ッ、ダメージは大したことないわね」
サチの言う通り、派手に吹き飛ばされた割には、大して痛くは無い。
「ああ、これはアレか?」
「路線変更前のマサさんと一緒ですね」
起き上がり、体勢を直しつつ、サーモンとショーが解答を口にする。
「成程…敵に回すと、これほど解らん殺しになるんですね」
「これはキツイ、一体どれ程の遠距離から斬られてるか見当も付かない」
ベル、カメキチさんは、事態の厄介さに、深刻な表情に。
敵の姿が見えない中、一方的に切られ続ける恐怖。
この状況、どう打開したもんかと思ってたら。
「ぎゃああああああああ!?」
と、森の奥から微かに悲鳴が聞こえ、斬撃がピタリと止む。
何が起こったかというと、俺らとは離れた位置に居た、ファーマーの作物が破壊され、撃ち返しが発生。
高速で、一直線に飛んでいった撃ち返しで、ハチの巣になったんだろうな。
「マサはこういった事故が怖くて、範囲を捨てたんだっけな」
「実際に見ると、これはリスクが大きいですね」
PvPもバリバリなショーは、この結末は色々と思うとこがある様だ。
今回は撃ち返しだが、ダメージ反射も怖いからなぁ…。
反射の方は、ビルドを歪にする程の無理をすれば、対策できるが、撃ち返しは根本的な解決方法ってあるのかね?
そんな事を考えさせる一幕だった。
「さっきの範囲攻撃あったじゃないですか?」
「ああ」
あれから小一時間経った頃、ベルが話題に出す。
「どうも、反射ダメージの対策は完璧だったようですね」
掲示板情報で、同じ戦場に反射持ちがいっぱい居た事が判明し、相手が対策済みな事が判明したようだ。
「それで、火力の方はイマイチだったのか」
「そうですね、今のところは…ですが、シナジーの薄い[モンク]を9回覚醒させるしか、ダメージ反射軽減のギフトは無いですし、装備の効果でもきいた事ないですし」
「それだけ無理して、致命的な弱点の1つを克服したのに、もう1つの弱点にかち合うとか…」
ちょっと気の毒だな…。
「それにしても範囲攻撃…俺も何かしらの対策を取るか」
ギフトでは既に無理だからな、肩書に丁度良いのがあったし、一考の価値はあるな。
森で、金目の物を漁ってると、多種多様なビルドに遭遇する。
高高度から<まきびし>を撒いてくるのとか、樹に擬態するも羊の挙動でバレる馬鹿とか、魔法をあり得ない頻度で連発してくるのとか、どれもこれも、完全に対策を取るのが不可能な程、ビルドの多様性が生まれている。
一応、擬態マンの擁護をすると、プレイヤーの感知はしっかりと防いでいたんだ。
けど、魔物の対策はしてても、野生動物の対策を怠ったのか、アッサリと羊の感知に引っかかりバレてしまうというね。
でもま、人、動物、魔物、機械、全てを簡単に欺けたら、隠密系ビルドが強すぎるので、この位抜けがある方がバランスは良いのではないだろうか?
きっと、バレたあいつも、このまま動物系を切り捨てるか、現状の構成を崩してでも完璧を追求するか、悩んでいる事だろう。
「うーん、ゴーレムの引き寄せって、何依存で判定してるんだ?PvPだと中々決まらないんだが」
前から、気にはなっていたが、こうも効かない事が多いと、原因が知りたくなってくる。
「そりゃ、感知内なら問答無用で引き寄せられてた以前が異常なだけでしょ。単純に敵が強いと効かないだけじゃないかしら?」
サチの言う通り、以前が凶悪過ぎたかもだが、こうも効きが悪くなってくるとなぁ。
「スキルLvは200なんだよな?」
という、サーモンの質問に「そうだ」と答える。
「ちなみに、一切効かない奴も居れば、殆ど効かない…つまり、少しは引き付けられるのも居るって感じだな」
「という事は、何かの数値を見て、判定してるのは間違いなさそうですね」
識者のベルですら、明確な答えを知らないとなると、断定は出来そうも無いか。
「ざっくりで良いんじゃないですか?効けば格下効かなければ格上」
「確かに分かりやすくはある」
ショーとカメキチさんは、判らないなら判らないなりに、判断材料にすれば良いと提案。
そうだな、その位割り切った感じで、充てにするのが丁度良いか。
こんな感じで、各々の能力を話題に、森を回り帰還。
戦果を分配し、一旦休憩に入った。
「こんにちは」
「こんにちは。聞いたかテツ?」
「何を?」
「T-rexが初めて討伐されたってよ」
「おお!!快挙だな」
「かなりの激戦だったようだが、戦利品でどうにか黒字に持って行けたらしいぜ」
「へ~、テイムも死ぬほど面倒だったからな、追い込む程発狂でヤバくなるT-rexじゃ、輪を掛けてしんどかっただろうな」
なんにせよ、何かしらの新装備が出来上がって、変化が起きるんだろうな。
「そんで、アースのラスボス枠こと、ボスアッシーの方は、全く糸口が見つからないらしい」
あれはなぁ…狙われる=蒸発だもんなぁ。
「あと、バグスターもヤバい事になってるらしいぞ」
言われて少し調べると。
「…なんだこれ、人に寄生した蟲が超進化してるだって!?」
「通称蟲人間。個々が怪物級の化け物で、既に惑星中に拡散してるってさ」
なんという…、戦後処理に追われるってレベルじゃねえな。
「あれだな、攻略済みの惑星にも、コンテンツを供給し続けなきゃだしな」
「身も蓋もね~」
あんまりな物言いだが、そういう一面が強いんだろうな、一種のテコ入れってやつだ。
しかし、蟲人間ときたか、ある意味アンデッドと似た境遇かもな。
死体が魔素汚染で魔に堕ちる。死体が蟲に支配される。うん、可能性は有るな。
「ちょっくらバグスターいってくらぁ」
「ん?おう」
という事で、バグスターにやってきました。
で、蟲人間を倒したら、狙い通り吸魂出来ました。
「良し良し、これでガーディアンの強化の目途が立ったぜ」
なんせ、蟲人間はそこら中に居るからな。
しかも『ジャックオーランタン』の昇格には関係ないので、アンデッドのように奪い合いにはならないというね。
あくまで、偶然自我を形成した魂を吸ってるだけで、アンデッドを浄化してわけじゃないからな。
ただ、止めを刺す時だけ、浄化したようなエフェクトが出るので、本質的にはゾンビとかと同じなんだろうな。
こうして、他と競合しない形で、吸魂数を稼げる目途が立った。
「それにしても蟲人間…強敵だな」
人をベースに進化した蟲という事で、双方の良いとこ取りな蟲人間。
強靭で、器用で、狡猾で、賢くて、それでいて単純にステータスもバカ高いときた。
怪物級は伊達ではなかったわけだ。
俺が戦ったのは、百足から人の上半身が生えた、ケンタウロスの百足版のような怪物で、人間の部分も外骨格を纏い、生前の武器なのか、チェーンソーを振り回す強敵だった。
チェーンソーの高火力で、使い魔は勿論、オブジェクトに特攻でもあるのか、畑が豆腐の様に破壊され、移動速度も速く、毒持ち毒耐性持ちとくれば、激戦は必至。
何度も畑と使い魔の波を突破し、毒を打ち込まれチェーンソーで切られ、追い詰められながらも、デバフと、数の暴力を押し付け続け、消耗戦を制した。
そして、この記念すべき一勝目で、吸魂現象が発生し、めでたく説立証となったわけだ。
そうと来れば、じゃんじゃん蟲人間を狩って稼げるかと言えば、そうもいかなかった。
「マジで強ぇ…」
最初のとは別Verの、両手が百足版の蟲人間にボコボコにされ、PAでリスポン。
これはタフな展開になるな。
「お、『使い魔認定員』の昇格案内か」
まさか、ライセンス保持からプロまでに、一週間掛かるとは思わなんだ。
「確か、プロに上がればステ補正が10%になるんだったな」
10%は馬鹿にならんからな、直ぐにでも試験を受けよう。
無事試験突破。
「流石に~、苦戦のくの字もなかったですね~」
「そう思うなら、一気に特級に上げてくれてもいいんやで」
「それはダメです」
「だろうな」
さて、用は済んだ。次が何時になるか分からんが、早いとこ上級に上がりたいもんだ。
「良し、早速増えた5%分の補正を確認するか」
バグスターに向かい、蟲人間と戦ってみる。
「んー、実感し難いなぁ…」
強くなってる気もするが…いや、確実に強くなってる筈だが、5%程度じゃこんなものか。
という事で、僅かな差が大きな差となる状況に飛び込むまで。
アースに戻り、海底ダンジョンのボスアッシーの間に侵入。
「さあ来い!!」
早速こちらにブレスが照射され、豚が一瞬で蒸発…しちゃうかやっぱ。
「お?でもほんの一瞬だけ伸び…ぬわ――!!」
感想を全て口に出す前に俺自身も蒸発した。
「ま、程々に効いてはいるってか」
「誰にいってるんだ?」
「誰なんだろうな」
「ほう…」
なんか、マサが思案しだしてしまった。
「いや、テキトーに言っただけだからな?」
「そうか、テツの事だから、遂に透明のNPCでも侍らせてるのかと」
「すんごい斜め上の解釈だな、オイ」
その発想はなかったわ。
マサが狩りに出て行ったので、俺もホームの散策に出掛ける。
サブライセンスの、あまりに遅い熟練度の溜まり具合に直面し、保留していたもう1つのライセンスの選択を急ぐ為だ。
「やっぱ『ファミリアコーザー』が安牌かなぁ」
このライセンスの効果は、使い魔がリスポンする時のSTA消費を軽減し、リスポン速度を上昇させるというものだ。
新人で5%、プロで10%程、消費を下げてリスポン速度を上げるみたいだ。
STAって、何時デバフで回復し無くなったり、回復が遅くなってもおかしくないから、STA消費を抑えるのは強力だよな~。
「うん、やっぱ『ファミリアコーザー』にしよう」
という事で、ライセンスの試験会場に向かう。
「はいはーい、さっき振りですね~」
「どうも、認定員に続いて『ファミリアコーザー』も所持したくて」
「まあ王道の組み合わせですからね~。では適正テストをしますね~」
そして数秒で終わり、ライセンスの新人級が発行された。
「では、プロを目指して頑張って下さ~い」
これも認定員と同じで、使い魔の戦闘実績で熟練度が溜まる仕組みなので、その内プロに上がれるだろう。
「うん、コーザーのライセンス、思った以上に有用じゃないか」
たったいま、ボスアッシーに焼かれてきたが、使い魔のリスポン速度が上がった事で、継続するブレスに割り込んで、豚が復活した事で、ライセンス取得前よりも、僅かだが生存時間が伸びた。
「新人級でこれなら、プロ、上級ならワンチャン凌げるかも」
あの暴威の中、真っ向から(豚頼み)生き残れる可能性が出てきた事で、色々と意欲が増してきた。
「さて、熟練度稼ぎには、使い魔の戦闘実績が要るからな、敵が引っ切り無しに来るフォレストに行くか」
「なら私も行くわ」
ユキも同行してくれるというので、2人でフォレストの最果てに跳んだ。
安全地帯を出ると、即座に大群で押し寄せるトレントに、亜空間から攻めてくるクロスイーター。
以前と違い、Lv120になっているので、使い魔を嗾け畑を敷設し、ガンガン押し戻していく。
「私は、あの動く彼岸花を仕留めるわ」
ユキは、黄泉の花を優先して狙うと言うので、俺は守りに専念。
畑を修復しつつ、ドッペルと百姓を都度召喚。偶に直撃コースで飛んでくる撃ち返しを鍬で弾く。
「準備オッケーよ、先ずは守りを固めるわ、[ダークニンバス]!!」
アビリティの[瞑想]で、最大まで溜めた[ダークニンバス]を放つユキ。
ギフト【魔法接射】と【コメットLv1】も相まって、持続性の長い魔法とは思えない火力を発揮。
畑を無視し、亜空間から奇襲してくるクロスイーターも、[ダークニンバス]の範囲に入った途端に墜落するので、更に守りが堅くなる。
「それじゃ本命を狙うわね」
今度は<クラスティオーブ>を黄泉の花目掛け放ち、見事に一撃で粉砕。
「取り敢えず他には見当たらないわね」
やはり、黄泉の花はレアエネミー枠なのか、中々遭遇出来ない様だ。
その後は、ユキが[ダークニンバス]と[旋風]をローテーションし、使い魔のライン上げを後押し。
使い魔が進路をこじ開け、そこへ畑を敷いていく。
こうして、圧倒的な物量で攻めてくる植物相手に、道を切り開いていく。
「それにしても暗いわね…テツ君もっと光れないの?」
「乞うご期待」
「つまりまだまだ掛るのね」
現在、俺が大金を賭して、ホルダーを強化し、ランタンの強化なり、増設なりを計画してるのは、皆知っているが、まだ道半ば未満なんだよね。
しかし、携帯光源ってコストに比例して、耐久性が上がってくからなぁ…。
俺の愛用してる、スチールランタンは、デバフ効果こそ低いものの、耐久性はぴか一だし、光源としてもそこそこ有用だ。
一方、なんの効果も無いカンテラやライト等の光源は、光量こそ優れているが、コストが安い物は、ちょっと戦闘すると、直ぐに壊れてしまう為、戦闘職で前衛には避けられがちなのだ。
何が言いたいかというと、明かりを用意してくれる人は大事にしようって事だ。
薄いどころではない暗さの中、植物や菌類に群がられつつも前進し、一際大きな樹の洞に辿り着く。
「神秘的ね」
「大中小のトロールとか出てきそうだな」
一応周囲を見て回り、洞に侵入。
内部は、相当に広く、幅10mは超えそうな道を下る。
すると、サッカーコートを越えそうな広い空間に、浴槽一杯分程の粘菌が群れを成し待ち構えて居て、シンボルもこれでもかとてんこ盛りで存在していた。
「うげぇ…ねばねば…」
「お前触手以外もダメなのかよ」
「いや哲兄…大半の女子はああいうのダメだと思うんだけど」
思わず素で返してくるユキ。そりゃ俺だって、リアルでナメクジとか触りたいとは思わないけどね。
「っと、無駄口叩いてる場合じゃないな」
コチラに気付いた粘菌共が、一斉に這いだし向かってくる。しかも速い。
「取り敢えず通路まで引きましょう」
2人で下がり、通路に原木畑を敷いて待ち構える。
ユキもニンバスと[旋風]を使い、継続的にダメージを取っていく。
火力をユキが担当し、守りは俺が管轄。順調にいくと思って戦いだが、トラブル発生。
「な!?入り口側からも粘菌が来たぞ!?」
「成程、そういう罠だったわけね」
まさか、フォレストでこういう初歩的な挟撃に嵌められるとは…完全に相手が植物菌類という先入観に足元を掬われた形だ。
「でも、問題なさそうね」
「俺のLvが120だからか、畑が余裕を持って耐えれらてるのがデカいな」
それに、幅が10mと言っても、俺の使い魔が埋め尽くす程度には狭いからな。
その分、1体に集中できる火力が増えてるのも、優勢を後押ししてるのだろう。
なんにせよ、安全の確保は絶対なので、先に退路の確保に掛かる。
通ってきた道を登り、囮系使い魔と位置を入れ替え、応戦。
背後で、豚や羊の鳴き声が木霊し、<シープドッグ>のワープが連発されている。
ユキも、総ダメージより瞬間ダメージを優先し、短時間で粘菌を潰していく。
少しして、入り口からの刺客を駆逐出来たので、改めてお宝目指して前進する。
「ふいー、やっとこさ殲滅出来たな」
「いやぁ、気持ち悪かったわ」
粘菌を排除し、そこら中に存在するシンボルを漁る。
しかし、採取開始から数分で、不吉な地揺れが発生し始め、ドンドン間隔が短くなっていく。
「ああ、そういう展開か」
「一種のランダムイベントって事なのかしら」
「だろうな、多分一定時間で封鎖されるし、再発生も完全にランダムなんだろうう」
という推測を立て、急いで採取を行い、ヤバめな揺れが来た事で、即座に退散。
その数分後に、入り口が塞がり、中で崩落が起こったような轟音が聞こえてくる。
「もう少し粘れたか、惜しいな」
「まあ、命取りにならなくて良かったじゃない」
「ポジティブに考えた方が良いか、そんじゃ帰って分配するか」
PAに戻り、戦利品の分配と、チェストの整理をする。
「うーん…」
「どうしたのテツ君?」
「いやこれさ」
「それって[茨の核]だよね?」
「ああ、カンパニー施設の強化にでも使おうと思ってたんだがな」
「エルフと『ジャックオーランタン』の技術で強化したしねぇ」
「そうなんだよ、これ以上施設を強化するのも、核を使った強化が可能な伝手もなぁ」
「別にテツ君が個人で使っても良いと思うけど」
確かに、一度はそういう話になったんだが。
「いや、超強力な一点物の素材だからな。出来れば全員が恩恵に与れる形で使いたいんだ」
中々狙って手に入れられるような代物じゃないからな。
「皆が恩恵に与れる使い道かぁ…設備以上の平等性を求めるなら、車両関係かドローンとかのサポーターかしら?」
「お、車両にサポーターか、良いかもしれんな」
「でも、伝手は有るの?」
「無いな、ただローレンスさん達が超便利な戦車を持ってたし、話だけでも聞いてみるか」
「という訳なんです」
「成程。じゃあ、先ずは現物を見せてくれ」
ききなり押しかけても、ちゃんと対応してくれるローレンスさん。
「ほーう、ダンジョンコアとしては小さいが、中々パワフルだな」
おまけで居るタツキチ。
「結論から言えば、ジャガーノート級には到底足りないね」
「機能次第と言えるが、ジャガーノートは無理だなぁ」
「そうですか」
「勿論、ダンジョンコアを使うなら、それなりに強力な車両は動かせるけどね、維持費も馬鹿にならないよ?」
「だな。レン坊、ジャガーノートの年間維持費っていくら位だ?」
「約4億程だったかなー、それに修理込みならもっといくね」
「高すぎですね…」
これに、弾代も乗ると思うと、戦車は止めた方が良いな。
「では輸送車だとどうですかね?」
「ピンキリだけど、ダンジョンコアを動力にするなら、中々の物が作れるね」
「悪く無いが、だったらターレー的な、動力付きの荷台とかの方が便利じゃねーか?」
「成程、荷物持ちのドローンか、そういうアプローチも良いな」
という風に、俺そっちのけで盛り上がり始める2人。
途中おふざけも混じるも、真剣に考えてくれたようで、幾つかの案を出してくれた。
その1。自立型採取採掘機。指示が無くても、単独で出撃し、素材を掻き集めてくれるドローン。頑丈で、維持費も安めだが、戦闘は出来ないし、搭載コストは低い。壊れてもPAに戻って来る。
その2。随伴型ホバーキャリー。許可された人物に随伴する、随伴型のキャリー。 超頑丈で、維持費も安めで、搭載コストも多い。
その3。自立型戦闘ドローン。指示が無くても単独で出撃し、戦闘を行うドローン。維持費はかなり高め。壊れてもPAに戻って来る。
その4。随伴型戦闘ドローン。許可された人物に随伴する、戦闘型ドローン。頑丈で強い。維持費は高め。
「どうかね?」
「どれも魅力的ですね…」
「ダンジョンコアを使うから、更に強力になるからな、どれも良いぞぉ」
どれもこれも素敵な選択肢なので、あつらえ向きにメンバーが揃ってたので、チャットで決を採る。
すると、俺に一任となったので、再び考える。
「自立型は、随伴型よりも、性能が劣るという認識で良いんですね?」
「そうだ。思考に演算を割く上に、状況対応力を高める為に、構造上脆くなり易いんだ」
どうするか、随伴は性能面では、自立型を凌駕するかもしれないが、人が居ない時は意味が無いし、誰が連れてくかで不公平さが出る事を考えると…。
「取り敢えず、自立型を検討します。どちらがお勧めですか?」
という質問に対し。
「どちらも良いけど、戦闘型の方がお勧めかな」
「俺も戦闘型を推す」
ローレンス氏とタツキチ、双方の意見が一致。
「理由を窺っても?」
「折角ダンジョンコアを使うのなら、性能の劣るという点を克服出来るから、戦闘型の方がお得だと思うんだよね」
「そうだな、採取ドローンなら、そこそこの素材で数を用意する方が良いだろうしな、それに、動力が良い程、AIも賢くなるから、その賢さを戦闘に活かさない手はない」
成程、折角いい素材を使うなら、戦闘型の方が恩恵を実感しやすいと。
「分かりました、戦闘型をお願いします。ところで何処で作るんですか?」
「ん?タツキチが此処で作ってくれるよ」
「え?!」
「これでも、移民入植政策で、機械工学を学んだんだ。そんじゃそこらの機械工には負けんぞ?」
農業神かと思えば、機械工学の達人でもあるのか。なんという超人。
まあ、そういう事なら任せてみるか。
代金はタダで良いというので、お言葉に甘えて、核を預けて帰還した。
そして二日後。
「どうも~。ドローンは完成しましたか?」
「こんにちは、出来てるよ」
「おう若いの、バッチシだ」
そして、ドローンのお披露目で出て来たののは、どうやって浮力を得てるか謎だが、浮いているマンホールの蓋っぽい何かだった。
「んー?ちょっと想像の埒外ですね」
「そうかい?」
「ええ、てっきりラジコン戦車か撮影用ドローン、若しくは人型の形状を想像してたんで」
「甘い、甘いぞ若いの。この形状こそが合理を突き詰めた結果なんだぞ」
「いや、被弾面積、被視認性的に、至高なのは分かるんですけどね。あんだけ楽しそうに話てた割に、ガチなんだな~と」
「ロマンはあくまでロマンとして割り切ってるからな」
まあ、性能がガチなら良いんだけども。
「良し、若いの。ちょっとそいつを持ってみろ」
持った瞬間感電死とかしないよな?と思いつつ、言われた通り持ってみると。
「な!?尋常じゃない位軽いんですけど!?」
「凄いだろう?ガ〇ラも吃驚な比重だろ?」
マンホールから手を離すと、ふよふよと落下し、床から10㎝程の高さに滞空する。
「こんなに軽くて大丈夫!?」
「何をもって大丈夫かは、人それぞれだと思うが、まあこれを見ると良い」
すると、空間にソリッドビジョンが映し出される。
「これは、アサルトディスク…このマンホールの蓋もどきの開発コードね、こいつの戦闘シミュレータ映像だ。そして、これがマローダー級との戦闘シミュだ」
戦闘記録は、両者が50m程距離を置いた状態からスタート。
マローダーが、回避運動の為、助走を付けつつ蓋に照準を合わす。
一方蓋は、ふよふよと浮かんでいる時とは打って変わり、やや前傾で車輪の様に回転しつつ距離を詰める。
直後、狙いが付いたのか、マローダーの砲塔が火を噴き、蓋が吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ事で、次弾以降を回避し、即座に機体を制御し距離を詰める。
正確無比なマローダーの射撃を、持ち前の被弾面積の小ささと、超軽量化と被弾時の反動で、被害を最小限に抑えつつ、あと少しで接触というタイミングで、被弾し屑鉄と化した。
「どうだ?」
「とんでもなく堅いですね」
「ああ、なんせ動力が素晴らしいからな。お陰で冷却装置以外を最小限に抑えられ、あの小型化と軽量化と堅牢さが実現できたんだ。でもな、今のはまだ本領発揮してないんだぞ?」
おいおい、自立ドローンにあれ以上のステージがあるのかよ!?
「良し、所有者登録をするぞ、此処に手を突っ込んでくれ」
言われるがまま、スタイリッシュ血圧計に手を突っ込む。
「完了っと。…ほうほう、早速再シミュレートだ」
良く解らんが、先程と同じ条件で、戦闘が開始される。
ぱっと見先程と変わらんぞ、見た目も戦闘内容も。
だが、変化は顕著に表れていた。
「なにこれ?さっきよりずっと堅くない?」
先程と違い、マローダーへの接触に成功し、体当たりをかます蓋。
その際、砲塔の死角に入るが、銃座から撃たれ死角外に弾かれ、砲撃を被弾。
それでも、やられずに、再び体当たりを敢行。
かなり善戦し、マローダーのLPを二割ほど削る大健闘を果たした。
「どうだった?」
「最初とは雲泥の差が」
「そうだろう、そこがダンジョンコアを使った兵器の核心とも言える特徴でな、使用者登録をすると、登録者のステータスを一部反映するのさ。当然若いのの場合はその莫大な[生命]からなるLPだ」
「いやー凄かったね、蓋自体の装甲も在るけど、LPに換算したら数十億は下らないんじゃないか?」
「おう、これがカタログスペックだが、LPは15億あるぞ。ちなみに登録前は3億程だ」
「一気に5倍か、ふふ、どんだけ[生命]が好きなんだテツ君は」
「コストは…5000分搭載出来るんですね」
「少し少なめだが、どうせ自立型だからな、何度も往復するから低くても問題ない筈だ」
「まあ、肝心なのは強さだしね。どうだい?気に入ったかな?」
「ええ。ちなみにこいつの維持運用には、何か特別な施設って要りますかね?」
「ああ、この位小型のサポーターなら、特に必要無いな」
それならうちのPAでも問題無く置いとけるな。
「では、確かに受け取りました」
「ああ、また来ると良い」
「おう、またな」
2人に礼を言い、PAに帰還した。
次回も二週間程で上げます。




