第四十三話
~前回までのあらすじ~
バグスターで北のエリアを制覇。
ゲームのクラッシュを目論む連中を監視。
そしていよいよバグスター攻略の仕上げへと入る。
「あと少し耐えれば良い、周りのことは気にせずここだけ全力で守ろう」
あと数十分耐えれば、王手となるので、全体のことよりも、自分たちが生き残る事を最優先に行動。
自身を含め、総勢17名を守る為、全力で畑を拡充。
常に仲間の外側をポジショニングし、豚や羊も最大限活かす総力戦だ。
乱戦になるほど、【ドリス】を最大限に活かせるし、遊ぶ使い魔も減る上に、[スワンプマン]の発動条件を満たす事にも繋がる為、ランタンを活かす事も考慮し、積極的に前に出る。
鼠とマウスが足元をちょろちょろし、蜂と蝙蝠が頭上を飛び回る事で、蟲の注意を上へ下へと引き付ける。
それらの、牽制では済まない牽制に気を取られれば、中段に控える[幸運]や[蛇使い]の凶悪な使い魔達が牙を剥く。
そうして、近くしか見れずに、視野が狭くなった蟲は、ガーディアンの凶悪な魔法、人形とゴーレムの麻痺&引き寄せのコンボの餌食となる。
「そら!!」
マサがトマホークを2本投擲し、跳んできたバッタを駆除。
「フン!!」
その隙に肉薄してきた蟻を、斧の一振りで遥か遠くへ押し返す。
その間に、再び使用可能となったトマホークで蟲を駆除。
「全く、範囲攻撃が有れば随分と楽だったんだがな…」
今後来るであろう、ダメ反射が当たり前のゲームシーンに備えて範囲を捨てたが、やはり圧倒的なリーチが恋しくなるマサ。
「嘆いてても仕方ねえか」
皆、同じ土俵で遣り繰りしてビルドを構築するんだ。
覆水盆に返らずだ。そう割り切って目の前の蟲と相対するのであった。
「はは、マサの奴、以前のビルドが恋しいんだな」
横目でマサの葛藤を見つつ、あと少しの時間耐える事に注力する。
その甲斐あって、周りがどんどん追い込まれる中、うちはまだ余力を残している。
それもその筈で、本来は自衛力に乏しく、数を相手にする雑魚狩りが苦手なビルドが、長所を伸ばす事を捨てた代わりに、短所をカバーして頑張っているのが大きい。
ユキがその筆頭で、キャスターとは思えない程前に出て<岩の体>を展開し、至近距離から蟲に魔法を浴びせる事で、ダメージとヘイトを稼ぎ、タンクの様に味方を守れるし、パーティーとしてもキャスターを守る事に意識を割かなくて済むのも嬉しい。
そう考えると、うちには仲間内での相対的な紙装甲は居るけど、皆がそれぞれのビルドの平均以上の耐久力を持っている。
やっぱ似た者同士で組んだカンパニーなので、そういう傾向になりやすいんだろう。
そんな、ビルドを組むうえで、生存重視なきらいが有ったお陰で、我がカンパニーはまだ余力がある。
そして、その余力が尽きる前に、機甲隊の配備が順次完了し、各所から大攻勢が始まった。
「あっちに即席の拠点が出来上がってるな、一旦下がって補給を済まそう」
簡易拠点には、チェストや最低限の各種クラフト施設が備わっていて、大勢の人が、荷物の整理や補充に躍起になっている。
俺達も、いっぱいの蟲の素材を預け、物資を補充。
ついでに、作物も周囲のプレイヤーやNPCとの物々交換に使う。
思いの外、農産物の備蓄が少ないのか、鮮度抜群の野菜果物は人気が高く、蟲の内臓系素材を大量に得る事が来た。
これをマッドに託せば、小銭になってくれるだろう。
さて、皆も準備が完了した様だし、前線に向かう。
機甲隊が、その火力を遺憾なく発揮し、先程よりずっと嵐の規模が縮小。
それはとてもいい事なのだが、戦線までの移動時間が大幅に伸びて少々怠い。
途中、輸送車が乗っけてくれなかったら、萎えて帰ってしまったかもしれん。
ともあれ、味方の足を借り、前線に到着。
鱗粉の濃度も下がり、嵐の内部が薄っすらと透けて見える。
「百足の移動速度おかしいだろ」
全長10㎞を超える巨体が、F1カーなみの速さで動いている。
そんな状況下へ、絶え間なく注ぐ火線の数々。
規模が縮小し、蟲の密度が濃くなり弾幕の効果が更に上昇。見る見るうちに嵐が縮小し、辺りが硝煙に塗れた為、攻撃が中止された。
一斉掃射が止んだ事で、静寂に包まれる戦場。つまり蟲が沈黙したという事だ。
少しして、舞い上げられた砂埃が薄れ、状況が明らかになり、目に入るのは百足を含む蟲の死骸の山。
この状況に、誰もが「やったぞ!!」と声を上げないあたり、このまま終わるわけがないという謎の一体感を伴う程、確信めいた何かをその場に居た全員が感じているのだろう。
勿論、全員でフラグを立てない様黙ってたにもかかわらず、状況が動く。
そこら中に穴が空き、蟲が大量に這い出てきた上に、死骸だと思ってた百足がひび割れ、中から更に巨大な百足が飛び出した。
更に、百足の節目からも、大量の蟲がスポーンし出す。
「成程、バグスターのラスボスは、超ド級の移動型ジェネレーターって事か」
移動速度こそ、時速30km程に落ちたが、体高も増し、攻撃が当て辛くなった上に、常に節目や甲殻の隙間から蟲が湧き続け、一層肉薄が困難になってしまった。
こりゃ大変なんてもんじゃないな。
「ラスボスに相応しいっちゃ相応しいけど、やり過ぎだよな」
一度、百足と戦ってみて、今は後方で作戦会議中。
「百足自体の火力は全然大した事ないのが救いだな」
一度、俺とカメキチさんが、接触を試みると、思ってたよりもずっと軽いダメージで、うちのメンバーなら、撥ねられたところで、大したダメージにはならない。
「でも、吹き飛ばしとダウン、[スタン][麻痺]が厄介だわ」
「それに、遠隔ダメージ反射も面倒だわ」
ユキとアコの言う通り、百足に撥ねられると、吹っ飛ばされたりダウンする上に、高確率で[スタン]と[麻痺]が発生するという、面倒な仕様と、遠隔のダメージを5%反射するという、怠過ぎる能力を持っていることが判明。
「近接は反射されないといっても、近寄ると撥ねられるしなぁ…」
そこまで打たれ強さを重視していないベッタラは、撥ねられた後に蟲に近づかれると、一気に窮地へと陥る為、この仕様はかなり堪える様だ。
でも、遠隔の反射持ちだから、機甲隊だけに任せられないので、近接も工夫して、遠隔持ちも程よい火力で攻撃しなければ、討伐なんて出来ないだろう。
そんじゃ、少しでも貢献する為に、一丁やってみるか。
取り敢えず、百足自身の火力は、今の所は脅威足り得ないので、近くに来たら近づいて殴る。
遠くに行ってる間は、そこら中で湧く蟲を倒しつつ、作物でも育てれば良いな。うん、結局いつもとやる事は一緒だ。
嵐が消え、百足の行動範囲の制限が撤廃、又は最果てエリア内限定になり、現在は遠くに行ってしまっている様だ。
「速度もそこまで速くなかったし、二度と見る事はないかも」
と高を括って、蟲を倒し作物を育てる事十数分。
「ん?オイオイオイ!?」
妙に騒がしいから、もう百足がこっちに来たのかと思い、視線を喧騒のする方に向けると、先程とは打って変わり、超高速で移動する百足が此方に向かってくる。
「何で!?ついさっきまでゆっくりだったじゃん!」
皆で驚いてるとこに、ベルが情報を提供してくれる。
「最新情報です。百足はダメージを受ける程速くなるみたいです。推定でLP1%毎に300%程速くなってるそうです」
10%減で31倍…音速じゃん。百足のLPは見た感じもっと減ってるので、それ以上の速さで動いてるのか。
既に、俺らの前を通り過ぎ遥か遠方に行ってしまった百足。
ベル曰く、接触ダメージは何故か反比例して下がってるようなので、直接的な事故死の心配はなさそうだ。
まあ、ひき逃げされても、仲間が近くに居れば、大事には至らなそうだし、引き続き蟲を間引きつつ、チャンスが有ったら攻撃すれば良いか。
うん、結局やる事は変わらないな。
あれから百足が傍を通り過ぎる事数十回。
その都度、百足の移動速度が上がっていき、最早察知して進路から退く事すら不可能な状態に。
もう、何度もひき逃げに遭ってるが、既に接触ダメージは0で、只々吹き飛ばされて数秒間動けなくなるだけという、傍迷惑野郎に成り下がっている。
そんな中、非常に面白い光景も見る事が出来た。
百足が畑に突っ込み、まるでジャンプ台を踏んだかのように、空へと跳ぶ現象が発生。
銀河鉄道かよ!!って突っ込みたくなる光景に、数秒して皆で大爆笑した。
ちなみに、跳んでいった百足は、エリアの境界線で、壁にでもぶつかった様に止まり、着地してから高速で移動を再開したようだ。
というか、高速化し始めてから、百足にダメージを与えられてるのは、同じような状況でジャンプからの境界線での一時停止のお陰との事だ。
全く意図していなかったが、知らずに知らずに少しは貢献出来ていた様だ。
そんな事になってたとは露知らず、何度もジャンプする百足を目撃し、新鮮味が無くなり無視してると、いつの間にか百足が討たれ、バグスターの攻略が完了した。
そして、戦後処理で莫大な報酬を受け取る際に、跳んだ百足がどうなってたかの真相をしったのだ。
なんにせよ、貢献を評価され報酬も貰い、バグスターの活動に区切りもついた。
諸々の処理が済んだところで、夜も遅かったので、就寝した。
「よーし、資金も有るし、Lvを上げるか」
昨夜の報酬を等をつぎ込み、Lvを48まで上げた。
…進化二回目だと、Lvキャップが120だからな…まだまだ先は長そうだな。
「一晩明けてバグスターはどうなってるのかな?」
視察がてら現地に跳ぶと、雰囲気自体は特に何も変わっていなかった。
全てのエリアを制覇したと言っても、人類が住みやすいよう改修が済んだわけでも無いしな。
これからは、質の違う忙しさがあるだろうな。
ついでに、蟲共がどうなってるか散歩してみたが、普通に居たし、それらを討伐する人もチラホラと散見された。
入植の本番は、寧ろこれからといったところか。
大体状況は分かったので、バグスターを後にする。
次に向かうのはアースの墓地。
今回の百足戦で、これまでにない程、廃棄体が出ただろうからな。
「どうも―」
「…こんにちはテツさん…」
「ど、どうしたんだ?妙に暗いが」
事務所に顔を出すと、妙に暗いギルが居た。
「…いえ、なんでもありません。本日はどうしましたか?」
直ぐに、いつもの調子を装うが、無理してるのが丸分かりだ。
「ちょっと自主的に見回りをな、ギルは休んでればいい」
お大事に、と1人出陣しようとするが。
「いえ、私も一緒に行きます…行かせて下さい!!」
「お、おう」
あまりの剣幕にたじろいでしまうが、まあ大丈夫そうなので一緒に行く事に。
まだ日が浅いからか、アンデッドの数も大した事なく、何事も無く巡回出来ている。
それに、チラホラとだが、プレイヤーの『ジャックオーランタン』ともすれ違うので、階級を上げたい人が、普段から自主的に見回ってくれてるのだろう。
「先程はすみません、つい声を張り上げてしまって…」
「気にしてないけど、どしたの?」
「少し…ある少女へ感情移入し過ぎてしまって…こっちのことですので気にしないで下さい」
「…ふむ」
何のことやらサッパリだが…
「まあ、イマイチ話が見えてこないけど、いよいよ感情を抑えられなくなったら、自分のしたいように行動すれば良いんじゃないか?あ、勿論節度を持った行動を心掛けてだがな」
とまあ、ふわっとした理解で、ふわっとした事を言ってみたが、少しの沈黙の後、少しだけすっきりした表情で、「そうしてみます」と言ったギル。
これで良かったかは解らんが、俺に出来るのはこの程度だし、後は本人次第だ。
巡回を終え、事務所に戻り、お開きに。
「今の所、問題なさそうだし、もう行くわ」
「お疲れ様です」
一応、無理はしない様言ったし、大丈夫だろう。
墓地を後にし、今日はそのままログアウトした。
十日後。
今日はVer2.1のアプデ日で、内容はこの前テストプレイさせられたアレだ。
あれから内容を詰め、本実装にあたりこんな仕様に落ち着いた様だ。
・違反行為や悪質行為が認められた場合、派閥[悪党]への強制加入。
・悪質行為による、能力低下のペナルティや、闘技場での奉仕戦の廃止。
・悪党に参加している間、悪党所属と一部NPC以外の全てと敵対。
・悪党に所属中、全てのソーシャル機能の停止。
・悪党に所属中、アバターに靄が掛かり、IDも不可視となる。
・セーフティーエリア(ホーム内等)内では、通常状態でいられる(但しソーシャル機能は使用不可)。
・悪党に所属中は、セーフティーエリアに居る間、隔離サーバーに移される。
・悪党からの離脱には、あらゆる事象に奉仕の精神で臨まなければならない。
・ある程度は課金で減刑可能。
・悪党所属中に、PKやNPC殺害等の犯罪行為が有った場合、必要奉仕量が増える。
・悪党所属中はステータスが上昇する。
・セーフティーエリアから出た場合、一分間姿が消え、完全無敵に状態になり、九十秒間攻撃が出来ない。
・悪党を仕留めると、悪党の量刑に応じ、懸賞金を貰える。
・悪党がPKやNPCの殺害に成功すると、消耗品や素材を奪える。
という風になった様だ。
さて、インストールも終わったし、始めるか。
「さて、どうなってるかな?」
PAに居たシルクとマッドに挨拶し、消耗品を最小限持って、ホームから出てみる。
すると、直ぐ近くの森を巻き込んで、大規模なドンパチの真っ最中だった。
「ハハ、早速悪党とのPvPに発展してるのか」
そこかしこから、警〇官24時とかで聞く、変声機越しの声や怒号が聞こえてくる。
「悪党側は声も修正入ってるのか」
これなら個人の特定は、運営以外には難しいだろうし、ゲームの良いアクセントになるだろう。
「おっと、俺にも火の粉が降りかかってきたか」
門付近で様子を窺っていると、悪党3人に追い込まれたプレイヤー4人が此方へ敗走してきた。
「頼む!!悪党撃退に協力してくれ!!」
『応!!』
断る理由も無いし、俺と付近のNPC門番も参戦し、戦いは7vs3と、数の上では大幅にリードする形に。
ちなみに、ホーム内に逃げれば、PvPからは逃げれるので、戦いたくない時はそうすると良い。
さて、NPCが混ざった時点で、純粋なPvPとは言えないが、戦いが始まった。
門番は、強固なチョッキを着こみ、非実弾銃器で武装する強兵だ。
この強力な味方を活かす為、俺は門番を守る様に立ち回る。
「そいや」
門番を巻き込みつつ、畑を展開。悪党に対し、使い魔も含め盾として立ちはだかる。
「助かる!!」
「そこだ!!」
門番もそれに応えるように、悪党へ光弾を飛ばす。
「グエ!!」
流石門番の攻撃だけあり、悪党の1人に直撃し、後方へ吹き飛ばす。
悪党側も、相当ステータスにバフが掛かってるようで、大したダメージにはなっていない様だが、吹き飛ばしが効く以上、相手からしたら恐ろしい攻撃に違いない。
仲間が吹き飛ばされた事で、残り2人も吹き飛んだ悪党の傍まで下がる。
この隙に、逃げて来た4人も急いで立て直しを図り、一旦仕切り直しとなった。
「今度はこっちから行くぜ!!」
4人組の1人が気勢を上げ、<アイススピア>を発動。
これが彼の持ち味なのか、弾速がユキの<アイススピア>とは比較にならない程速い。
「こいつはオマケだ」
更に、魔法の硬直が終わった瞬間に、投げナイフをお見舞い、しかも毒が塗りたくられた物をだ。
「チィッ!」
魔法をやり過ごした直後の追撃に、1人が反応しきれず、ナイフが刺さる。だが。
「残念だったな!!この程度の毒じゃ効きやしない!!」
悪党補正なのか、相手の耐性が高すぎて、一撃で[毒]にする事は叶わなかった。
「今度はこちらの番だ!!<ファイアーオーブLv1>!!」
おっと、Lv1とか初めて聞くぞ。
どんなものかと観察すると、先ず大きさが段違いにデカい。そして、着弾時の爆発もより大きくなっていた。
まあ、門番がエネルギー銃で迎撃したので、被害は出なかったが、被弾は避けるべきだな。
なんて、凌いだ事で油断していたら、追加でもう一発<ファイアーオーブLv1>が飛んできた。
「誰が一発だけなんて言ったよ!!」
かなりノリの良い悪党だ。お陰で多少臭い演技でも、否が応にも盛り上がる。
キャスターの攻撃に合わせ、残りの2人も動く。
1人はサモナーで、なんとワームを同時に5体も召喚。
「何故だ!!!?」
しかし、5体とも豚に喰らいつき、全く無意味になってしまった。
こいつは、召喚系統に全振りしてるようで、他に手立ては無いようだ。
「何やってんだお前!?」
仲間の不甲斐なさに、苛立たし気に吐き捨てつつ、残りの1人がバリケードを展開。
悪党共に迫ってた、4人組の前衛2人がこれに妨げられる。
続けてタレットを設置していき、瞬く間に強固な陣を敷設。
キャスターの魔法も合わさり、厄介な盤面になった。
コチラの前衛が戻り、ワームが時間切れで消え、サモナーがバグスターで出てくる蟷螂を3体召喚。
これが第二ラウンドのゴングとなり、対悪党戦は激しさを増す。
さて、向こうの編成はキャスター(仮)ビルダー(仮)サモナー(仮)で、此方は兵士2人、ジェネレーター、魔法剣士、ヒーラー、戦士2人となっている。
現在膠着状態となっていて、お互いに攻め手に欠いている状態だ。
いや、俺が前に出て使い魔を嗾けて、あわよくば【ドリス】を発動出来れば相手の連携は死ぬので、そうするのが手っ取り早いんだが、4人組が相当温まっていて、自分らの手で討ち取りたいと息巻いている。
門番も、悪党をホーム内に入れないのが最大の使命なので、深追いしないのも、一因となっている。
俺としても、PvPが本格的にゲームのフレーバーとして導入された以上、じっくり観察して研究したいところだ。
そういうそれぞれの思惑もあって、彼らに花を持たせつつ、後方で静観する事にしたのだ。
最初に動いたのは、高速<アイススピア>を放つ魔法剣士で、今度は<ファイアーオーブ>をバリケードに放つ。
特化型では無い為、一撃で破壊には至らなかったが、それでも放って置いたらマズいのか、悪党のビルダーが修復を開始。
先程の<アイススピア>の火力を見ると、そこまでのダメージが出るとは思えないので、パラメータの[解体]を採用してるのかもしれない。
成程、魔法は牽制と遠距離からの対建造物として、使用するのか。
確かに、これなら今みたいに、敵の陣地に近寄り難い時にも、破壊工作という仕事が生まれるので、手持無沙汰にならないな。
それに、状況が動けば、建築物を切ってもいいし、そのままプレイヤーに斬りかかっても良しと、臨機応変に動けるのも良いな。
魔法剣士の牽制で、ビルダーの動きが制限された事で、前衛2人とヒーラーが前に出る。
先ずヒーラーが、<パワーアップ>と<リジェネレイト>を味方全体に掛ける。
(おお!?これだけ離れてても、俺と門番にも届くのか、それに…)
バフの時間を確認すると、五分と凄い長時間持続する事に驚く。
(範囲と持続性に優れたバフ持ちか)
範囲が広く持続が長ければ、シビアな管理が要らず、又自身の手も空きやすい利点があるが…それをどう活かすか。
そう思い、ヒーラーの次の行動を見てると、触媒のタリスマンを弓に持ち替え、悪党のキャスターを牽制し始めた。
(良いね、バフが切れるか回復が要るまでの間、弓で前衛の援護か)
その分、咄嗟の回復や、ディスペルでバフが割られた時の対処に困りそうだが…そこは前衛の粘りを信じる事で割り切っているのだろう。妥協って大事だよね。
魔法剣士とヒーラーが、悪党のビルダーとキャスターを妨害する中、前衛の2人がバリケードを迂回し、サモナーに肉薄。
前衛の2人は、全身鎧に盾と斧という、スタンダードな構成で、能力的にも攻撃力と防御力に秀でている様だ。
そんな前衛2人に対し、サモナーは蟷螂を1:2に分け、2on2戦を展開。
能力補正の差もあるのか、蟷螂2体を相手取る方は劣勢、蟷螂とサモナー相手は更に劣勢を強いられてるみたいで、前衛が自力で状況を好転させるのは、少々厳しそうに見える。
今も、従魔をローテーションさせる為に、絶妙なタイミングでオークを召喚し、中々隙を晒してくれない。
そんな感じなんで、ヒーラーか魔法剣士の活躍に期待が高まる。
このままだと、前衛が押しつぶされるのも時間の問題か。そう思われ始めた時、魔法剣士が場の状況を一変させた。
これまで[魔導士]の専用魔法で、牽制に徹していた魔法剣士が、何の前触れもなく、<ウォーターザッパー>を発動。
これにより、バリケードが消し飛び、後方に居たビルダーも大ダメージを受け、バリケードの再建が遅れる。
「成程、【詠唱ストック】か【事前詠唱】で、高威力の魔法を仕込んでたのか」
戦闘中に、別の魔法を行使しながら、高威力な魔法の詠唱を完遂するのは無理があるので、【事前詠唱】の方の効果かな?
彼は、常に魔法を撃ち続けてるので、仕込み完了までそれなりに時間が掛かってしまったのだろう。
だが、その遣り繰りの効果は絶大で、ビルダーが立て直しに隙を晒した瞬間距離を詰め。一部バリケードを以外を切り捨て、残したバリケードでタレットからの射線を遮りつつ、魔法でタレットを排除。
こうなれば、もうビルダーに勝ち目はないだろう。…まあ相手が本気だったら話は別だろうが。
ぶっちゃけ、相手はとっとこ悪党から抜けたいが為、程々に手を抜きつつ、激戦を演じてるに過ぎない。
4人組は、頭に血が上って、悪党の事情を忘れ去っている様で、あからさまな手抜きにも気づかずに、状況の好転に気持ちよくなっている。
まあ、アプデ初日だから仕方ないけど、今後はもっと悪党側は厳しい条件にになるだろう。
悪党側にも、見つからないように頑張って集めた素材を持ち帰りたいという、切実な思いも有ったりして、奉仕量が増えようともPKに手を染めて生き残る必要が出てくるだろう。
で、そういう場合は必死さが伝わって、退治する側も本気になれるから、結果どうなるかは別として、手を抜かれた事で、退治する側が萎えてマイナスになる事は無いだろう。
それが、奉仕量を減らす為だけに、手を抜き戦って勝ちを譲られた場合、人によっては不快に感じ、結果奉仕量は減るどころか増える羽目に…。
あ、どうやって快か不快かに感じてるか判定するかって?そんなの脳波脈拍で一発さ(開発談)。
そんな感じで、如何に相手を接待で気持ちよくさせるかが肝なので、猿芝居大根芝居には気を付けなければならない。
そんな事を考えてたら、決着が着いた様だ。
4人組は、相手が手を抜いていると、薄々は分かっていたが、程良い苦戦と熱くなれた事で、戦いには満足してる様だ。
そんなこんなで、新PvPの空気感も掴めたし、4人組と門番と別れ、PAに戻った。
「こんばんは」
夕飯を済ませ、ログインすると、マサがPAに居たのでPvPの話題に。
「—―っていう感じで、茶番好きには堪らない感じに仕上がってたな」
「茶番好きって…んまあ…茶番だわな」
マサも、既に経験済みな様で、苦笑いする。
「軽く見学がてら、森方面から外に出たら、「余の猛撃に耐えられるかな?」「我が槍で応えよう!!」とかやっててさ。思わず吹き出したら、真っ赤になった両陣営から、説教喰らっちまったわ」
「そりゃ吹き出すわ。なんで悪党側だけじゃなくて退治側もノリノリなんだよ」
なんというか…思ってたより、接待は簡単だったりするかもな。
「さて、折角の初日なんだし、悪党退治に行こうぜ」
2人で森方面の門から外に出て、変異した兎や熊を捌きつつ、森を進むと喧騒が聞こえてくる。
音のする方に向かうと、G戦隊が8人の悪党に襲われてるのを発見。
俺という、使い魔だらけの目立つ存在にも気づかず、連中はそのままG戦隊と戦い続ける。
こうなると、知り合いが襲われてるのを放置するのも忍びないし、加勢する事に。
「ジョイン!!」
「エントリー!!」
俺とマサも、なんかおかしなテンションになり、乱入。
G戦隊を襲撃した連中は8人で、どうも因縁がある様だ。
「キー―ッ!!Gに味方するなんて碌でもない奴らだわ!!懲らしめてやる!!」
あ、マジでしょうもない因縁っぽいな、これ。
「危ない‼?」
俺らの乱入で、余所見したG戦隊が、悪党の攻撃を慌ててササ―ッっと避ける。
『キャーキャー!!』
そのリアルすぎる(何が?とは言うまでもない)挙動に発狂する襲撃者たち。
その混乱に乗じ、俺が初手から全力で畑と使い魔を駆使して動きを封じる。
すかさずマサが3人の悪党をかちあげ落下死させる。
そのまま相手に何もさせず、全員を退治した。
「危ない所をありがとうございます」
「いや、ちょっとマサと2人で悪党を探しててね」
「丁度襲撃現場に居合わせたわけだ」
取り敢えず、挨拶を済ませ、先程の連中の話を聞く。
「多分、前にうちに対して、気持ち悪いから他所に行けって絡んできた連中だと思うんすよ」
とうふ君には心当たりが有った様で、経緯を語り出す。
要するに、コスチュームと立ち回りが生理的に受け付けられないと、暴言を浴びせた上になんの権利か狩場から追い出そうともしたことで、運営からペナルティを受けたようだ。
「成程、それの腹いせの復讐って訳か」
マサが身も蓋も無く言うが、ホントただの腹いせだな
「面倒なのに目を付けられましたね」
「ああ、だが私怨での襲撃じゃ、却って刑期も長くなるだろうし、これに凝りて何度も粘着されることも無いと思うが」
「うーん、でも悪党を退治すると資金が美味しいんですよね。今の襲撃を退けた事で、130万程お金が入りましたし」
量刑に応じてと有ったが、8人倒して7人で割って130万なら、結構おいしいかも。
うん、そう考えると鬱陶しい事には違いないけど、速攻出来るのなら割と良い稼ぎかもな。
「良し、俺らも協力するんで、ちょっと悪党退治しませんか?」
G戦隊を誘い、了承を得たので、このまま付近のPvPに積極参戦する事にした。
魔物が跋扈し、汚染された環境でも、変異せずに生き残ってる生物と戦いながら、森の入り口付近に戻る。
結局、魔物は勿論、環境に適応した原生生物(兎や犬)が凶悪なまでに強化されていて、魔物や生物とも戦わなければいけない悪党は、ちょっと見た限りでは、奥地には居なかった。
さて、入り口付近では、そこかしこでPvPが発生していて、続々と悪党と善人(区別の為こう呼称する)双方の増援が到着。
悪党側は、短時間ながらホームから出ても姿が消えてるので、攻撃こそ直ぐには出来なくても奇襲性が高いのが厄介だ。
一方、善人側は数が圧倒的なので、そこを活かしていきたい。
取り敢えず、俺らは門番の傍に移動し、苦戦してそうなグループを探す。
ってか、思ってたより悪党側がガチ気味なんだよな…早く解放されたくないんだろうか?でも本気を出して激戦を演じた方が受けが良くて、勝ってしまった場合でもプラスの方が大きいのかも。
まあ、接待の裁量は各々が決めて、各々が評価すれば良いか。
「お、あそこのグループが一番苦戦気味だな」
どこもかしこも激戦の中、一番苦戦してそうなところに加勢する。
悪党側は、見た感じ騎士が6人の脳筋グループで、善人側は全員キャスターという、これまた編成が脳筋なグループだった。
そりゃ壁無しで数まで負けてりゃ無理だろうな。
一応、取り分にも影響するから、一声かけたが「助けてくれ」と加勢を歓迎された。
即座にG戦隊が散開し、悪党どもを翻弄する様に、合間を縫って交差する。
一体どんな構成かは知らんが、相変わらず堅い。
幾ら高速低姿勢で動いていても、昨今は余裕で攻撃を当てられるのが当たり前、そんな中でも被弾をものともしない堅牢さ。
多分防御系ギフトが多数に、《ゴールド免許》とか取ってるんだろうな~。
その一方、やはりと言うか、火力の方はイマイチの様だが、0では無い様で、悪党たちが相当鬱陶しそうにしている。
G戦隊の攪乱で、キャスターの後退が完了し、一斉に詠唱を開始。
傍には俺とマサも控え、万全の状態にしたとこで、相手が逃走。
仕組み上、逃げても損な筈だが、それでもという事は、ロストを避けたい何かを持ってるのかもな。
…でも、今後も隙を見てホームに駆け込むのと、先に奉仕を終えてから気兼ねなく金策するのと、どちらが楽かは…考えるまでもないと思うんだがね。
うーん、あれから何度か悪党と戦ったが、全力で殺しに来る奴、負けそうになると逃げる奴、奉仕重視の奴、これらの比率が5:3:2と、如何なる事情があっても、負けたくないという人が多い事に驚いた。
そりゃ、善人側が満足すれば、PKが成立してもプラスになるかもしれないけど…負けた方が素直に相手を賞賛するとも思えない、ましてや脳波や脈拍で量るんだから、何かしら禍根は残る筈だ。
うん、そりゃ負けたくないからこそ、勝っても状況が好転しないとしても、全力になる人の方が多いかもな、しかも、悪党専用のステータス補正で、ハンデまで貰ってる以上、余計に負けられないだろうな。
お陰で、これまでPvEが基本だった俺からしたら、凄い新鮮な体験にもなったし、ビルドごとの強みや弱みを把握出来た。
俺のビルド、ジェネレーターとファーマーの立ち位置も大体判った。
ジェネレーターは遊撃か中衛が基本で、パーティー編成において、必須でも無いが、居たら便利的な感じだ。ファーマーも、自衛出来るのなら居たら便利程度の認識っぽい。
まあ、個人技がモノを言うようなビルドでも無いので、そういう評価なのも納得だ。
尤も、俺がその枠に収まるかは別にしてだけどな。
それに、俺の知らないギフトや、強力な肩書の発現次第で、ビルドそのものの評価がガラリと変わるのも良くある話だからな。
要は、捨てビルドなんて無いし、ダイアグラムは常に変化してるという事だ。
さて、現状への考察も程々にして、普通に金策をするか。
PvPも飽きたので、G戦隊と共にマンモスの巣へ向かう。
今、市場のデフレも程よく収まり、物価が上がる中、マンモスの素材が良い値で売れるらしい。
だが、現場は人で溢れ返っており、おまけにPvPまで発生していてカオス極まりない環境。
「皆稼げる場所に集中するから仕方ないか」
仕方無いので、フォレストの最前線へと向かう。
ここで、クロスイーターをしゃぶりつつ、俺の農作業をフォローして貰う事に。
何度もポータルを乗り継ぎし、暗く、花粉や胞子が吹き荒れる地獄へと到着。
ヘルメットがあった以前と違い、ランタンだけではこの粒子の嵐は防げないので、俺とマサはマスクをレンタル。G戦隊は大丈夫だそうだ。
「しかし、暗いですね~、テツさんが明るいんで問題無いですが」
俺の腰部では、煌々と灯るランタンが5つ。どうせ皆固まって動くのだ、光源としては十分と言える。
「良し、行くか」
ポータル周辺に展開されている結界を抜け、最前線へ踏み出した。
即座に周囲にワープし飛来するクロスイーターの大群。
ワンパターンだが、能力が足りて無いと手も足も出ないのだから、極めて凶悪な環境だ。
豚を筆頭に、使い魔が食い止めてる間に、畑を敷設。
ドッペルと百姓も呼び、あっと言う間に広範囲に広げた。
すると、少し離れた位置に居た人たちが、助けを求めワラワラと寄って来る。
コチラとしても、人が増えて敵が増えれば、耕作地ランクも稼げるし、皆一声掛けてきたので、共闘を受け入れる。
これで、プレイヤーとNPC合わせて50人程の大所帯となり、敵も凄まじい数が押し寄せる。
お陰で、試しに栽培したエノキが[選別された究極無敵の]~となり、ランクの大幅な上昇が確認できた。
ここまで来ると、元がただのエノキであっても、相当な価値になるので、山分けにしつつじゃんじゃん栽培する。
途中、死霊の腰掛を栽培したところ、[選別された太った上質な死霊の腰掛]という、過去最高の品質を叩き出した。
半端なビルドや土地ランクでは、[欠けた][痩せた]等のゴミしか出来ない物が、これほどの質になるとは。
高級な菌類を間に挟みつつ、7人で分けても十分な収入になる分を収穫し、アースに戻る。
少し調べ、加工してから売った方が儲けが大きい物も有ったので、一部は後から渡す事になり、解散となった。
翌日。
マッドがキノコの加工品を売ってくれたようで、売上金がストックされている。
これを、シャドーダイバーに入金し、教会に向かう。
Lvを52に上げ、主要スキルが全てLv200となった。
「これで漸く本領発揮出来るな」
取り敢えず、小手調べとして、PvPのホットスポットと化してる森に移動。
アプデから一日経過し、早くも一大コンテンツとなった悪党システム。
既に、悪党に堕ちるのが出現条件の、因子やパラメータにライセンスが見つかっていて、悪意が無くても態々悪党に入る人も急増中みたいだ。
こうやって、常に一定数の悪党を確保していくのか。
後に、寺門さんにこの仕様の利点について尋ねると、「本気で嫌がらせをする人と、コンプ癖の為に仕方なくの人とでは、脳波脈拍に大きな違いが有り、犯罪性向の研究に際し、非常に優れたデータになるんですよ」と笑顔で語っていた。
ホームに出て、ちょっとした実験を行う。
どこかの戦闘に混ざる事もせず、兎に角辺り一面を開墾していく。
悪党も、ソロで土いじりをしてる俺を、害無しと思い放置してるのか、藪蛇を嫌って見ぬ振りをしてるかは、定かではないが、誰にも害されないので、只管耕す。
少しすると、何処かのグループが、俺の畑を盾にし始めた。
「さて、どうなる事やら」
今回調べてるのは、開墾した畑を利用された場合、悪党を退治した際の褒賞が貰えるかどうかだ。
で、結果を言うと、貰えた。
要は、悪党退治において、自分の設置したオブジェクトが、一定の成果を挙げれば、ルート権を得られるという事が判明。
俺の畑の場合、鎧が攻撃をするので、悪党の使い魔などを倒したりと、貢献度がそれなりにあったからこその結果だろう。
お陰で、ホームの周囲を開墾しながらグルグルするだけで、かなりのお金が懐に入ってきた。
途中から、悪党どもにかなり粘着されたが、畑と無数の使い魔が妨げとなり、防壁の傍という事もあって、衛兵の援護があって、一度もやられる事なく逃げ切る事に成功。
最後の方は、かなり温まった悪党集団に追われたが、無事ホームに逃げ帰る事が出来た。
「やべぇ、効率は兎も角、楽し過ぎる!!」
直ぐに再開したいが、先に現金の消化の為、Lvを53に上げる。
それに、敵が強くなった事と、他の使い魔がスキルで強くなった事で、、ガーディアンが相対的に弱く感じるので、一度強化の為に、エルフィンに籠ろうと思う。
暫らくアンデッドを浄化して、金と吸魂数を稼ごう。
「やって参りましたエルフィンへ」
「ようこそ」
「何で居るんですか?」
さも当たり前の様に、横に居るローレンス氏。
「問題無いよ、後続達にも経験を積ませないとね」
「うん…被せるどころか先読みし過ぎですね。で?何で居るんですか?」
「そう邪険に扱う事ないだろう。なに、偶々見かけたからさ」
「そうですか、ではアースに戻りますね」
その場を離脱しようとしたが、有無言わさず強制連行されてしまう。
そしてやってきたのは、軍事基地。未だに『ジャックオーランタン』上層部がちんたら浄化してる筈だが。
「何故ここに?というかシーラとハンニバルも何故に?」
いつの間にか、息子と娘もいるんだが…。
「君の所の上層部がね、私兵での制圧を諦めてね。でも他の派閥に手柄をやりたくないそうなんだ」
「はあ…?」
「早い話、障害の除去を我々に要請してきたんだよ、で、取り除いたら自分らの功績という事にして欲しいとのたまってるのさ。かなりの手土産付きでだがね」
「はあ…それと俺の関係性が解らんのですが?」
「鈍いですね~」
「俺らの伝手で動かせる、浄化手段の持ち主なんて、テツさん。あんたしか居ないだろう」
サラッとシーラにディスられ、ハンニバルが単刀直入に言う。
「え?3人で無理なんですか?」
この化け物3人居て、なお俺を駆りだすレベルなのか?
なんて思ったが、そういや前に、ローレンスさんが二度と行きたくないとか言ってたが…。
「そりゃ軍事基地だからね、待ち構えるのは政治のトップではなく軍事のトップ集団とその取り巻きだ。元老院以上の強敵に決まってるじゃないか」
そりゃ理屈ではそうかもだけどね…。
「まあ、協力自体は吝かではないんですが、準備が…」
一応、聖水等は持ち込んでいるけど回復の数が…
「大丈夫、アレを見たまえ」
先程から、気にはなっていたが、まるで自家用車のようなノリでそこに在った大型の戦車。
どう見てもマローダーやデストロイヤー級と同等かそれ以上の格に見えるが。
「戦車ですね」
「ああ、ジャガーノート級戦車で、中に一方通行のテレポーターとチェストが有るから、必要な物を補充すると良いよ」
用意周到過ぎるでしょ。ちなみに、一方通行ってのは、ジャガーノートに対して一方通行って事ね。
それで、いつの間にかシーラとハンニバルが居たわけだ。
逃げ場は無いなと観念し、戦車と言うか装甲車のような構造のジャガーノート、その背面から内部にアクセスすると、中に奥さんのエレノーラが居て手を振ってきた。
「ようこそ」
「どうも」
もう突っ込む気力も無いので、さっさと準備を済ませる。
俺の準備が済むと、エレノーラさんも降車し、ジャガーノートがブレる様に消失した。
「さあ、行こうか。取り敢えず今回は様子見だけど、気を引き締めて行こう」
おおー!!俺以外の4人で盛り上がっている。
なにこれ、何で俺がハイエルフ一家のピクニックに付きあわにゃならんのじゃ。
「まあまあ、今回の件、完遂出来たら最高の品を進呈しますので」
俺の気持ちを察してか、シーラがニンジンをぶら下げて来る。
そんなこと言われたら、必死にかぶりつきたくなるじゃない。
「まあ、出来る事はさせて貰うよ」
という事で、再封印も儘ならず、アンデッドが氾濫している軍事基地に突入する。
「それで、基本的な目的は何ですか?」
「んー、君のとこの上はね、良い線までは行ったんだ。でも、幾ら対アンデッド戦のエキスパート集団と言えど、戦闘力自体はまちまちでね、完全武闘派に司令官系の同胞のアンデッドには、今一歩及ばなかった様だ。つまり、私達の目標は、高級将校を筆頭に、大物を鎮める事だ」
「じゃ皆さんは俺の護衛って事で良いんですね?」
「ああ、君なら我々の御先祖様の加護も有るし、きっと軍人たちの御霊も鎮められる事だろう」
成程、そういう根拠も有って、俺が連行されたわけか。
って事は、普通に浄化しようにも、抵抗が激しくて今一歩及ばなかった、そういう事か。
基本的な事を確認し終えると、見計らったかのようなタイミングで、ミリ服のエルフゾンビが出現。
「む、気を付けるんだ、アレはエルフだが、軍人は厳しい訓練を修了し、一段とパワーアップしてるからね。ハイエルフ級と思ってくれて構わない」
と、ローレンスさんの忠告が終わるなり、豚が吸われる。
ああ、つまりハイエルフゾンビと思えってわけね。
直後、吸われた豚が一瞬で膨張破裂。その手には硝煙を噴く散弾銃が。
「至近距離で散弾の全被弾か、痛そうで嫌だね」
まあ、この4人なら痛いどころか痒いで済みそうだけどな。
「さあ、テツさん出番だ」
いつの間にか、ゾンビから散弾銃を取り上げ、後ろ手に組み敷くハンニバル。
目にも留まらぬと言うか、マジで背後に瞬間移動してるからな。
それは兎も角として、俺の役目である浄化に入る。
「これ、俺らは弱らせてから浄化してたんだが、こうやって動きだけ封じてから、浄化だけで鎮めるのが一番良いのか?」
「ええ、例え死後であっても、傷ついてよりも、無傷で成仏の方が具合が良いのよ」
と、エレノーラさんが言うが、なんだよ具合がいいって。説明になってねぇよ。
まあ、他の3人も同意してるので、そういうもんだと思うしかないんだろうけど…。
そうこうしてる内に、ゾンビの抵抗が弱々しくなり、最後は粒子となって溶けていった。
そして、十字架に吸われる霊魂。
「ほらね?こうして丁寧に送る事で、御霊の支持を得やすくなるんだ」
偶然だろって言いたいが、どうせ真偽は直ぐに判明するしな。素直に頷いておくか。
偶然じゃありませんでした。
「本当に効果あったんですね」
「いや、こんな重要な事で嘘言わないよ」
ローレンスさんは言うが「良い具合」とかふわっとした説明を受ければ、眉唾と思うでしょ、普通。
「ただ、相当な労力が伴うからね、普通は止めだけ浄化ってなるんだけど、このメンツならそれも可能だし、此方は少しでも同胞に安息を、テツ君は昇格に近づくからね」
昇格に有利…神級をパスできてないのに、その先か…今考える事じゃないか。
さて、話は変わって、強力な護衛が4人も居るから、アンデッドを傷つける可能性のある畑は、必要無いと思ったが、寧ろ耕せとせっつかれ、何やら見た事のない種を渡された。
「[マンドラゴラの種][マリーゴールドの種][椿の種]です。高品質で収穫出来たら高く買いますよ」
とシーラにねじ込まれ、栽培してみたところ、無事[選別された]が付き、[立派な]まで質を上げる事が出来た。
「良いですね、これなら十分化粧品に使えますね」
命懸け…ではないが、大事なスペア体を危険に晒してまで、要求してきたものが化粧品用素材って。
「ム、馬鹿にする事なかれですよテツさん。良い物になると、肌に塗ると短い間ですが、防御力を上げたり出来るんですよ?実力伯仲の勝負では、化粧品が勝敗を分ける事も十分有りますから」
俺の知ってる化粧品とは、概念が違う様だ。でも紫外線対策的な考えなら、おかしくはないのか。
なんにせよ、金銭的な恩恵が増えるなら嬉しい限りだ。
作物の質が及第点と判り、浄化と栽培を半々で、軍事基地を練り歩く。
こうしていると、改めてこの4人、特にローレンスさんが強い事が分かる。
何時だって最初に敵に気付くのは彼で、遠くから榴弾で狙われた時も、俺を含め家族を的確に守り、逆に下手人をひっ捕らえてきたりと、もう滅茶苦茶だ。
更に、ゾンビが一斉に仕掛けてきて、豚の売り切れ中に氏が吸われ、散弾の接射を受けても、何事も無かったように、ゾンビの首を掴み上げ「活きが良いね」とか言うんだもん。
そのまま首根っこ掴みながら、俺の方に歩いてくる様は、中々背筋が凍る光景だった。
そんな事も有りつつ、4人が強過ぎて、今の所手が空き気味なので、雑談をしていると。
「おお、テツ君はムゥを知ってるのか」
砂漠で円盤の事故現場に遭遇し、グレイのムゥさんを助けた時の話になると、なんとローレンスさんの知り合いだという事が判明。
「あいつとは若い頃からのマブダチだよ。最後に会ったのが三年程前だから…その少し後にテツ君とあいつが知り合ったのか」
世の中案外狭いもんだね~、としみじみ呟くローレンスさん。
この人とマブダチ…ムゥさんも規格外の強さだったけど、凄く納得だ。
「それでさ、私が愛車のレイピアで爆走してたらさ、あいつがカトラスで煽ってきてさ」
話続けてると、如何にも雲行きが怪しいなと思ってたら、案の定しょうもないやんちゃ話に。
というか、ムゥさんも若い頃やんちゃしてたのか…ちょっと、いや大分衝撃を受けたんだが。
昔を懐かしんでいるのか、饒舌に語る氏とは対照的に、妻と子2人は実に気まずそうな感じだ。
「私が番犬の気を引いている隙に、ムゥが虹リンゴを摘んで逃げようとしたら、タツキチが現れてさ」
出たよ、撃ち返し作物の人ことタツキチ。ってかあんたら何やってんのさ…
奥さんもプルプルしだしてるし…
「ところで、そのタツキチさんって今は…」
(ああ、もう何千年…もっとか?故人だよ)
口におしぼりを突っ込まれてるので、念話で返してくる様が最高にシュール。
それもそうか、確か人間って言ってたもんな。手を尽くせば今でも生きてただろうけど、そういう人ではなかったのか。
子供2人とは接点が少しは有った様だが、夫婦は濃い関係だったのか、しんみりした空気に。
全員がアンデッドを拘束して、俺を囲んで円陣を組んでるせいで、怪しさがヤバいが。
結構なアンデッドを浄化したが、まだまだ数は多く、未だ基地の表層で数を減らす事を優先。
流石にこの4人でも、俺を守りながらだと、最深部への突撃は無謀だと踏んでる様だ。
俺の方は、まだまだ時間も有るので、興も乗ってきた事だし、最後まで付き合う次第だ。
順調にランタンと十字架に魂が集まり、ガーディアンも気持ち強くなっている。
「そういえば今更なんですけど、他に戦力は無いんですか?」
「居るけど同胞の封じ込めに人員を割いてるから、内部を浄化するのは我々だけだね」
いや、人員が居るなら協力して事に当たれよ。その旨をオブラートに包まずに伝えるが、何故か拒否されてしまった。
その時の氏の雰囲気がただ事では無かったので、それ以上の問答はせずに引き下がったが…。
なんだろう?『ジャックオーランタン』上層部が敗走したという、将校クラスに知り合いでも居たのか…。
それなら自分で引導を渡してやりたい気持ちも理解できるが…。
なんにせよ、氏は明確な目的を伴って俺を巻き込んだようだし、さっき決意したように、終点まで乗ってやろうじゃないの。
その後も順調にエルフのアンデッドを浄化し、自立兵器を倒していると次第に数が減り、ハイエルフのアンデッドが混ざり始める。
「さあ、ここからが本番だよ。アレ見るんだ、ハイエルフのゾンビだ。当然一段とパワーアップしてるから、その特殊能力に注意するんだ」
と言われましても…初見なんで判りませんわ。
そう思いながら、もう少しでゴーレムの吸い寄せ範囲に入るな、と見ていたら。
「!?」、
なんと俺とハイエルフ4人、使い魔が全てゾンビに吸い寄せられる。
「馬鹿な!?範囲内の全ての敵を引き寄せるだと!?」
「その通り、全くとんでもない能力だよね。あ、火炎放射が来るよ」
俺達を吸い寄せ、火炎放射器を横薙ぎにして、此方を火炎で焼き払おうとするゾンビ。
これに対し、既にシーラが<ウィンドシールド>と<ウォーターウォール>の二重防護を展開しており、一切の被害を受けずに切り抜ける。
「はい、一丁上がり」
直ぐにハンニバルが背後に回り、ハイエルフゾンビを拘束。
取り敢えず、相手がランクアップしても、まだまだ余裕が有りそうで安心した、
敷地内を練り歩き、アンデッドの数が減ってきた事で、次のステップに移行する様だ。
「ここは?」
4人に連れられ、辿り着いたのは、縦横数十mは有りそうな扉の付いた倉庫のような建物だった。
「今我々が居るのは、基地の地上部分で、この先から地下に入り、司令部を目指すのさ」
「懐かしいわね~、誰かさんを引き取りによく来たわ~」
奥さんの言葉に、バツが悪そうに苦い顔をするローレンスさん。
「爺ちゃんも良く結婚を許したもんだよな」
「そうね、お父さんの武勇伝(笑)を聞く度に思うわ」
なんかここに来て、氏の株がだだ下がりだが大丈夫か?
「ん~、でも誰かさんは、各氏族の中でもダントツの腕っぷしだったしね~」
すげえな、力で嫁さんまで獲得してたんか。
「ほらほら、そんな昔の話は置いといて…出迎えが来たぞ」
先程から、ゲート前の端末を操作していたローレンスさんが、話を切ったタイミングで、けたたましい警報が鳴り響く。
そして、ゲートが開くと、まあ現れるわ自立兵器の数々が。
「ほらテツ君、早く蓋をするんだ」
確かに、態々出てくるのを見てる必要は無いので、ゲート前に畑を拵える。
暫くの間、俺が畑を維持して、ローレンスさんが<テスラボール>という、暫く放電する球体を複数展開し、機械が売り切れるまで待機。
戦利品は、全てシーラが回収してくれるので、あぶれる心配もない。
ある程度機械を破壊し、警報が止まったので、いよいよ内部へ侵入する。
内部に侵入すると、敵の強さに更に磨きが掛かる。
その上、半ば廃墟と化していた地上部分とは打って変わり、地下部分は未だ軍事基地としての機能を保持しており、様々な防衛システムが、俺達の行く手を阻む。
この瞬間も、天井や壁に付いたタレットからの弾幕と、サイコロステーキ製造機こと網目のレーザーグリッドが通り過ぎた。
「テツ君、大丈夫かい?」
「ええ、不思議と大したダメージは無いですね」
「それは良かった…ああ、君は【核細胞保護】を持っていたね、それでダメージを受けなかったんだろう」
どうやらレーザーグリッドは、その大半が割合ダメージで占められたトラップで在り、対策済みの俺にはほぼ意味がなかった模様。
ちなみに4人も対策済みなので、被害は皆無だった。
基地地下を順調に進む中、またとない機会かもという事で、各部屋を物色中。
「良いわね、今でも十分に参考になる資料が沢山出てくるわ」
何やら、ティッシュボックス程の大きさの、記録メディアらしきものを調べ、うっとりとした様子の奥さん。
「テツさん、あんたにとっても有益な情報が沢山あったぜ、仕事が済んだら送ってやるよ」
ハンニバルも、ガサゴソと選別しつつ、俺に合った何かを見つけている。
そんな感じで、情報から物資まで、有用なものを全て回収しつつ、度重なる襲撃を撃退し、いよいよ最深部へ…。
そして、最高司令官以下、高級将校達のアンデッドと相対。
誰も彼も、廃都で戦った者以上の強者の気配を纏っていて、このまま戦うか退くか、ローレンスさんの判断に委ねる。
「流石にこのままここで戦うのはまずそうだね、一旦地上まで退こう」
即断即決。全員で急ぎ地上を目指そうと踵を返す。
しかし、いつの間に回り込まれたか、退路には1人の人物が佇んでいて…。
「な!?」
その人物が、突如何かを床にたたきつける。すると、俺ら全員を巻き込みつつ、通路いっぱいに原木畑が発生し、逃走を防がれてしまった。
「タツキチ…」
ローレンスさんの呟きが聞こえ、過去最高の危機に瀕してる事を察した。
あけましておめでとうございます。
沢山の誤字脱字報告ありがとうございました!
ダメですね、気を付けてる心算でも、あんな山の様に出してしまうとは…
次回も二週間程で。




