表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/63

第四十二話

~前回までのあらすじ~

コスト0で壊れない強化可能な靴を手に入れたテツ。

仲間もそれぞれ順調に強くなっており、ビルドのお披露目も済み、

その流れでバグスターのダンジョンに挑み…

 戦闘に引きずり込まれたが、直ぐに退路を確認する。

「チッ、蟲の大群に塞がれてらぁ」

 しかも、ヤスデが数匹突っ込んで来て、通路にピッタリと嵌りやがり、物理的に封鎖される。

「ふざけんな!!」

 直後、弩級百足の1体が此方に来て、退路を塞ぐ形で横断。

 全長10㎞を優に超えるので、中々ヤスデに攻撃を加えられない事態に。

 仕方ない、腹くくってボス戦に臨むしかないか。

 幸い、敵に事欠かないので、俺らのような中堅にも活躍する機会はある。

 という事で、百足が来たら百足を、それ以外は逃げる為にヤスデの尻を叩く事にした。


「あ~~!!長いっ長すぎる!!」

 百足が通り過ぎ、漸くヤスデの尻にかぶりつけると思いきや、またしても別の百足が壁際を横断。

 これあれだ。引っ切り無しに電車が通過する踏切だ。

 だからといて、百足に攻撃したところで、大分前に2兆と推定されていたLPも、今では測定不能レベルで補正が掛かっていて、十分効いている筈の攻撃が、まるで効いてないかのような錯覚を受ける程、ビクともしない様に心が折れてしまった。

 まあ、誰かが状況に一石を投じてくれるまでは、逃げる事優先で行くしかあるまい。

 救いなのは、以前同様、百足が狂暴性とは無縁で、歩行時の踏みつけ位しかダメージを受ける要素が無いので、今の所はまだまだ余裕が有る。

 暫く悪戦苦闘しつつ、百足の居ぬ間にヤスデを削り、かなりゴリ押し気味に攻めたお陰で、消耗の少ない内にヤスデ1体を討伐。

 急いでその隙間に入り込もうとするが、穴からヤスデがバックしてきて、隙間が消える。

 向こうも、意地でも俺らを返さない心算らしい。

 こうなると、こっちも温まり、意地でも帰りたくなるのが人情。

 最早百足などどうでも良くなり、目の前で尻を晒すヤスデを退かす事が目的に。

 運よく、百足もこちらに来ないので、今の内に最大の努力をしよう。


 現在ヤスデの討伐数は20を超えている。

 でも、一向にヤスデの蓋が消える事は無い。何故なら、他の通路から回り込んだヤスデが入ってるようで、明らかに詰まってる数と討伐数が合わない。

 更に、周囲にもヤスデが無数にいて、俺らをしゃぶりつつ、空いた隙間に滑り込む機会を虎視眈々と狙ってる。

 これのせいで、何時までも通路に入る事さえ出来ていない。

 で、その間対百足に進展があるかというと、脱落者と参戦者が目まぐるしく入れ替わり、ほぼ膠着状態に。

 どうも、百足は常に回復し続けてるようで、横目に2%程減ってたLPが、次視た時には満タンとなってたので、間違いないだろう。

 となると、絶対的な火力が必要となるが、歩兵では限度がある。

 だからか、百足の上に登って記念撮影を始める連中が続出している。

 一応、彼ら的には、捨ててるわけではなく、NPCの援軍を待っているらしい。

 援軍は、モールドーザーという、地下専用の強襲戦車や小型戦車を主力とした機甲師団がメインで、運が良いとマローダーが数両混ざり、その時は百足の1体を瀕死まで追い込んだそうだ。

 要は、援軍の当たりを引くまでは無理ゲー同然なので、それまで力を抜くのが、ここ数週間の常連の暗黙の了解のようだ。

 ま、俺らは自力での逃走を目指すけどね。


 ヤスデを100体近く狩り、素材がそこら中に散乱し始めた頃、漸く状況に変化が。

「お、ヤスデがバックして来ないぞ!!」

 ベッタラが叫ぶ。が、そこへ俺ら側からのヤスデが嵌ろうと猛ダッシュ。

「させるかこの野郎!!皆急げ!!」

 俺の号令に、一斉に隙間に駆け込む俺ら。

 そして、カメキチさんを除く全員が隙間に入り込み、ヤスデに蓋をされる。

 更に、急いで蓋を外し、カメキチさんを迎え入れ、漸く全員が通路の先端に入り込む事に成功した。

「偉大なる一歩だな(前後をヤスデに挟まれながら)」

 兎に角、後は背後のヤスデをけん制しつつ、目の前のヤスデの尻を叩く事に専念する。

 そして、ヤスデ4体を倒し、広間の前に通った中部屋に到達。

 丁度、ヤスデの増援が、前後左右あらゆる方向から辿り着いた。

 やっぱり、ただでは逃がしてはくれないらしい。

 で、結果から言えば、ヤスデの濁流と、追加で登場したNPCを含めた味方の濁流に呑まれ、結局大広間に戻されてしまった。

 もうコストいっぱいで、戦うだけ損なんだけど…。


「はあ~、勘弁してほしいわね」

 ユキがボヤく様に、コストはいっぱいだし、物資も目減りしてるしで、兎に角余裕がない状態で、再びボス部屋への連行は、精神的にキツイものがある。

 戦う程、取得出来ずに周囲に散乱する素材に心が搔き毟られる。

 そんな涙を飲む展開の中、待望の援軍が到着。…大当たりのマローダー混勢の機甲隊だ。

 これにより、流していた連中も本腰入れ始め、戦場はピリピリとした緊張感に包まれる。

 で、流れとしては、歩兵は百足の回復を相殺しつつ、機甲隊を守るのが一番の役割だそうだ。

 うちでは、ベッタラ、ショー、タロウ(ベッタラのデバフ込みで)の3人なら、百足に回復以上の傷を負わせられるので、頑張ってもらう。

 残りは、適当に陣を敷いて、その場を死守する事に。

 味方が追い込まれた際の、避難所になればって感じだな。

 なんて思ってたら、早速マローダーが煙を噴きながら、畑にピットイン。

 上部から、乗組員が顔を覗かせ、無言で訴えてくるが。

「いや、整備なんて出来ないよ?」

 すると、えーーっ!?といったリアクションをしてくるが、無い袖は振れない。

 まあ、直ぐに随伴歩兵が追い付いて、テキパキ修理補給を済ませ、再び前線に戻っていった。何故か整備兵はそのまま残して行ったが。

 しかし、FF(フレンドリーファイア)が無く、味方オブジェクトを透過する仕様上、戦車に埋まったり突き抜ける柵や鎧がシュールで仕方なかった。

 なんにせよ、想定通りに味方が此処を活用してくれたので、まずまずの滑り出しといった感じか。


「しかし他所は超豪華な拠点を造り上げたな」

 遠目に見える、立派な要塞を眺めつつ、足元の畑を見て呟くマサ。

「そりゃ、鍬一本で築いた超安上がりな陣地と、建材ドバドバつぎ込んだ建造物と比較すりゃ、此処はしょぼいだろうよ」

「いや、別に貶してはいねーよ。なんせ此処が一番人気だからな」

「見た目に反して堅いし、広さはダントツだからな」

 現在、各所に味方が籠る為に造り上げれらた、建物が乱立する中、うちの陣地が一番敵味方で入り乱れ、繁盛している。

 なんせ、堅さこそ建物に遠く及ばないが、味方ならどこからでも侵入出来、敵だけ阻むからな。

 ただし、攻撃をシャットアウトするわけではないから、安全性においてはやはり他に劣るだろう。

 そんな感じで、各々のポジションが定まった所で、本格的な百足退治が開始された。


「ふぅ…行ったか」

 百足の縦断をしゃがんでやり過ごし、急いで畑の修復に着手。

 仲間も、それぞれの火力でもって百足に攻撃を加え、機甲隊の援護を欠かさない。

 今現在、4体の百足の内、1体がLP40%まで減り、その他も80%程と、順調に削っている。

 機甲隊の損耗も、補給部隊が居る事で、物資的には損失は出ているものの、戦力としては損耗率は5%以下に収まっている。

 中々いい感じなのだが、いい加減時間も遅いし、花金とはいえお開きにしたいのだが…周囲のプレイヤーやNPCの無言の圧力が凄い。

 一応、仲間内で確認を取ると、全員問題ないそうなので、このまま続行する事に。

 そして暫くして、1体目の百足の討伐に成功。

 それに伴い、残りの3体の百足の速度が上昇し、接触ダメージも増した。

 おまけに、ヤスデまで速度アップし、そこら中でひき逃げが多発中。

 俺らの陣地もボロボロに踏み荒らされるが、連合ドッペルで瞬く間に修復。

 使い魔が、畑に乗り上げ、無防備に腹を晒すヤスデに攻撃を仕掛け沈めていく。鎧の振り下ろしも地味に良いダメージソースとなっている。

 以前苦戦した敵を、こうも簡単に沈められると、強くなったという実感を得る。

 こういうのも、成長要素のあるゲームの醍醐味だよな。

 折角だし、メンバーの戦いっぷりを眺めながら、畑の維持でもしてよか。


 先ずはマサから観察。

「オラよっと」

 ヤスデをはじき返し、飛び掛かって来る蜘蛛を、トマホークの投擲で仕留める。

 トマホークのクールタイム中は、牛を盾にしつつ、ヤスデを追い返し、再使用可能になったら再び雑魚を投擲で仕留める。

 流石ギフト由来の投擲物と言うべきか、制約はあるもののポンポン投げれる割には威力が高い。

 地上同様、今相対している蟲の全てが、HPにバリア三種を持ち併せていて、それなりに堅い筈なのだが、投擲二連発で、オーバーキル気味だ。

 しかも十秒で再使用可能だから、攻撃範囲が無いに等しい程下がった穴埋めを、十二分にしている。

 時折捌き切れず、牛も抜かれ肉薄されても、耐久にも十分気遣ってる為、軽症で切り抜けられるのも強みだ。

 うん、マサは大丈夫そうだな。


「ユキは…と」

 横を見たら直ぐ傍に居た。

 さっきからずっと固定砲台化してたようだな。

 こうして、戦場に無数のプレイヤーが居ると、当然キャスターも多数存在してるわけだが、やはりユキの火力は、他のキャスターと比較すると、かなり低い言わざるを得ない。

 その分、自衛力や前衛を張れる程のタフネスを得ているので、単純に劣るわけでも無いし、雑魚相手なら十分すぎる火力を誇る。

 要は、ボスキラーか、雑魚相手の定点狩りに優れるかの違いだな。

 うちには、ボスキラー足り得るビルドが複数人いるから、キャスターが雑魚狩りに特化していても、なんら問題ない。

 ユキはユキの思うように遊んでくれればそれでいい。


「アコはマッドとワイドと行動中か」

 3人共、足を使って戦うのが基本だからな、相性が良いのだろう。

 先ずアコが弓で蟲にダメージを与え、2人の突撃の足掛かりを作る。

 お次はマッドが無敵を活かし、雑魚を爆薬でダウンさせ、2人の道を切り開く。

 続いて、ワイドがピョンピョン跳ねながら、蟲の隊列を滅茶苦茶にしながら、マッドの帰還をアシスト、

 爆薬と衝撃波で、ひっくり返りピクピクしてる蟲を、アコが持ち替えたランスで纏めて串刺しにし、ジャンプで滞空しながら引き弓で蟲を削る。

 この連携を繰り返し、効率的かつ安全に雑魚を減らす3人。

 アコも、ランスを使うようになって、矢の消耗を抑えられると同時に、瞬間火力を手に入れた事で、連携がより洗練されたな。

 マッドも、超限定的な無敵という、新たなアイデンティティを獲得し、自爆特攻が特攻でも何でもなくなり、流れを変える力を得た。

 ワイドも、盾剣ビルドの堅実な堅さはそのままに、ジャンプという三次元機動を駆使した機動戦に特化した事で、ステータス以上の堅さと、敵の頭上を取れるアドバンテージで、攻防一体のムーブを会得した。


 さて次は…っとこれは!!

「おいおいこれは凄い事になるんじゃないか!?」

 なんと、百足3体が、こちらに向けて突っ込んでくるではないか。

 完全ランダム移動の百足が、全て同じ個所を目指す確率は如何程か…

 で、これで何が起こるかというと。

「うおおおおおおおおお!!」

 3体の百足が交差する間、とんでもないダメージ音が響き渡り、一気に百足のLPを削る。

 何が起こったかというと、【ドリス】の効果で、百足にFFダメージが発生する様になっていたのだ。

 しかも、都合の良い事に、それぞれにマウスが張り付いたおかげで、3体同時に削る事が出来た、

 流石に、マウスが持たずに、やられてしまうので、常にFFが発生するわけではなかったが、それでもこの交差で百足のLPをそれぞれ10%は削った。

 これで、百足のLP残量の平均は50%程となり、討伐が目に見えて近づいた。


 思わぬフィーバーも終わり、改めてベルに目を向ける。

「向こうは、ベルとサチとサーモンか」

 まあ妥当な組み合わせだよな。

 3人共、能動的に動くビルドってわけでも無いし、どちらかと言えば待ちのビルドだから、回復のベルを、従魔を送り出せるサーモンと、<まきびし>でダメージゾーンを敷けるサチが、守るのは最適解といってもいいんじゃないかな?

 そんな3人の動きは、これといって見所があるわけでも無く、淡々と各々が仕事をするだけという、良く言えば安定感抜群な状態だ。

 とはいえ、3人のお陰で、他の近接が大いに助かってるし、サーモンの従魔の援軍、サチの防護のお陰で、ベルの安全が確保されてる事を考えれば、3人の近辺が地味な程、状況の良いと言える。


「えーっとパミルは…おりょさんと動いてるのか」

 この2人は、強力なギフト由来の使い魔を多数使役しつつ、装備のパワーが高く、近接という共通点が有る為、連携もし易いのだろう。

 2人の前面には、クリスタルゴーレムと青柴が展開し、ヤスデや雑魚を阻む。

 それらを抜けた蟲を、2人掛かりで殲滅していく。

 パミルは、ギフトで斬撃打撃に対し耐性を持ってるし、おりょうさんは、アパレルに酸と毒防御を付与してるので、蟲相手に真っ向勝負を挑まれたとしても、余裕で対処出来るのも強みになっている。


 次に視線を向けたのは、シルクとタロウのペアだ。

「ポイッ!!です」

「ナイスネット!!」

 シルクが前衛を張り、<代行の剣><代行の盾>と共に、蟲の攻撃を受け止めつつ、投網と【真冬のセーター】で動きを制限。動きの鈍った蟲を、後衛のタロウがぶち抜くという、シンプルで強力な連携で戦っている。

 しかし、この2人は本当に相性抜群だ。

 タロウの攻撃は、どうしても散弾のヒット数で与ダメが大きく振れる為、カス当たり時の火力の低さは如何ともし難かった。

 それが、シルクの投網で動きの鈍くなった蟲なら、散弾のヒット数も向上し、蟲の殲滅速度も向上。

 シルクも、高耐久で妨害に長ける分、火力が使い魔依存で、そのほとんどが非戦闘系の使い魔故に、低火力を余儀なくされてるので、タロウが蟲を瞬殺する事は、攻撃を受け止めるシルクの助けにもなっている。

 やっぱ、攻撃は最大の防御って言うけど、概ね正しい事を証明しているな。


「あっちは、ベッタラとラークのペアか」

 この2人は、性質こそ違うものの、攻防一体のギフト構成で、ラークは前衛、ベッタラは遊撃なので、相性は良好そうだ。

 ラークが、部分的重装甲と盾で抑え、複数の属性が乗った剣で反撃し。そんなラークの死角を狙う蟲を、ベッタラが闇討ちというのが、2人の連携のようだ。

 仮に2人が分断されても、ベッタラには【獣人Lv1】【鍔迫り合い】【競り勝ち】が有るので、タイマンなら圧倒、複数相手取っても手数で勝てる。ラークも複数の高Lv一般スキルの補正と、無敵ヶ所とそれ以外を覆う重装甲、堅牢な盾が有るので、囲まれつつ蟲を切り伏せるのもわけないだろう。

 というか、分断されたのを力でねじ伏せるのを見せてくれたところだ。

 こういうのを見ると、剣戟系のビルドも楽しそうだな~と思う。


 そして、最後はショーとカメキチさんのペア。

 片方は装備に制約がある代わりに、高火力高耐久のビルド。

 もう片方は移動速度を犠牲に、桁外れの耐久を誇るビルド。

 これといって、シナジーのある2人でも無いが、こういう特殊能力の類が無い代わりに、何かが抜きん出てる者が共闘すると、理不尽な暴力へと昇華される。

「フフフ、連携も何もあったもんじゃないが、連携が取れてるように見えるな」

 ただただ、目の前の敵を撲殺絞殺するだけの2人だが、多少は互いのカバーを意識してるようで、背中合わせで事に当たっている。

 お陰で、互いの死角をカバーし合い、必要以上のダメージに見舞わられる事を回避。

 定期的に、ベルから回復が飛んでくるので、数で抑え込まれても、戦い続ける事が出来ていた。

 ってかカメキチさんヤスデより堅くない?


「お、2体目の百足を倒したか」

 かなり遠方で、百足の1体がひっくり返ってるのが見える。

 その百足の死体がスーッと消えると、案の定残りの百足が更に高速化。

 当然接触ダメージも増し、堅牢な要塞の外壁すら破壊されるようになった。

 こうなると、近接は相当なリスクを伴い、ダメージソースはかなり絞られる事となった。

 俺の、[幸運]の使い魔達でも、肉薄して数秒足らずで蒸発してしまうので、ダメージは期待できない。

 まあ、高速化関係なしに、ガーディアンと毒蛇以外は、殆どダメージを与えられてなかっただろうし、気にしてもしょうがない。

 俺の仕事は、少しでも蟲を遠ざける為に、畑の維持に努める事だ。

 少しして、百足に抉られた部分を修復していたら、3体目の百足が討伐された。

 それに伴い、ここからが本番だと言わんばかりに、LPが全快し時速120km程で移動する様になった百足。

 最早、機甲隊ですら歯が立たず、暴れまくった百足は、数ある通路の一つに突っ込み、程なくして消えていった。

 これはどういう事かと思ったが、どうもこの瞬間に、バグスターの攻略度が上がった様で、北のエリアを制覇出来たそうだ。

 成程、あの百足とは、別の場所で決着を付ける事になるのか。

「はあ、なんか徒労感が半端無いな」

 素材の大半は無駄になり、消耗だけ嵩み、手柄はこれといって無し。

 骨折り損だな~と、トボトボホームに戻ると、共闘した機甲隊が、俺らの取りこぼしの素材を持ち帰り、その売却額と、援護の謝礼と言って、一人頭2000万の報酬を出してくれた。

「あれだけ助けて貰っておいて、何処からも報酬が出ないのはあんまりだからな」

 との事だった。温けーなー。

 取り敢えず、俺らの奮闘が無駄にならずに済んだ事は感謝しないとな。

 機甲隊に感謝を伝え、PAに帰還した。


 翌日。

「あれ?ログイン障害か?」

「こっちもログイン出来ないわね…」

 隣の雪乃も同様に、ログインに失敗した様だ。

「うーん、なんか繰り返せばその内イン出来る様だけど、なんかラグと処理落ちが激しいみたいだな」

「亜紀は居ないし…また何かあったんじゃ」

 恐らくそうだろうな…

「折角の休日に障害か~、運営も大変だな」

「掲示板も荒れてるわね…詫び石はよばっかだわ」

 さて、どうしようか。

「どれ、マサにメールでも送ってみるか」

『テツだが、どうよ』

 すると直ぐに返信が有り。

『おはよう、一応イン出来てるが…なんかわからんが、普通じゃないぞ、見てみろ』

 と、マサからスクショが送られて来たので、雪乃と拝見。

「なにこれ!?」

「文字化けにテクスチャ欠け?」

 マサのスクショには、文字化けしたステータスや、テクスチャが掛けたりグラフィックがおかしくなった風景や敵が映っている。

「プレイヤーやNPCの見た目は正常なのか」

「うーん、一応データの保存場所が違うからかしら?」

 となると、ゲームサーバーに負荷が掛かってる…だけじゃ済まないなこりゃ。

 間違いなくハッキングの類だ。それも人口の多い休日に狙うんだから、悪質だ。

「お嬢様、哲兄」

 とそこへ、亜紀がやってきた。

「2人とも、お仕事よ」

 と、何やら16桁のコードが書かれた紙を渡される。

「いつものログインパスの前に、そのコードを打ち込んで、スペースを打ってからパスを打って」

 言われるがまま、16桁のコードを入力し、パスを入れる。

「出来たわね?それじゃログインするわよ」

 ログインしつつ、亜紀に尋ねる。

「これは?」

「そうね、有体に言って2人にGM以上の権限を持たせたうえで、姿が見えなくなる特殊なパスよ。勿論それぞれ2人の専用コードだからね」

 なんだか大事になってるぞ!?

「で?具体的に何をするんだ?」

 PAにポップし、チェストを漁ってるマサの背中を眺めつつ、次の行動を訪ねる。

「哲兄は察してる様だけど、今大規模なハッキングを受けてるわ」

「うん、うん…判ってるならとっとこメンテなりに移って鯖を閉じろよ」

「そうね、でも上は強硬策に出たわ」

 漸くすると、俺えらのようなGM権限を持たせた幽霊プレイヤーを放ち、怪しいプレイヤーとその取り巻きを調べ、開発室では並行してハッカーを探し、色々と仕込むそうだ。

「成程…人手が足りないのか」

「…そう直球で言われると身も蓋も無いけど…その通りよ」

 そりゃ、高負荷系のハッキングなんてゲーム内でやろうものなら、普通は即モニタリング班に捕捉されるからな。

 でも、鯖へのブルートフォースと並行して、ゲーム内各所でグリッチかまされた日にゃ、監視も追い付かんだろう。

「という訳で、お嬢様、哲兄始めるわよ」

「「おー」」

 こうして、ハッカー共を追い詰める仕事が始まった。


「で、具体的に、見つけたらどうするんだ?」

「只管張り付くのよ、で、相手が離合集散するようなら、それぞれに付いて行って監視を続けるわ」

「まあ、此方は消えてるし、それが妥当か」

 一応、GM権限で制圧も簡単だが、それは敵の尻尾を完璧に捕まえてからだという。

「そ、じゃあ先ずは西の樹海に向かうわよ」

「なんだ、当てがあるのか?」

「ええ、DIYシステム…犯罪監視網システムで、以前から目を付けてたグループが居たんだけど、そいつらが2~3日前から不審な動きをしてたようなのよね、そして今は樹海に居る様だから、見張ってくれってモニター班からの指示よ」

 さいですか。

 まあ、闇雲に探さずに済むんだから良い事だ。

 で、樹海に向かい、暫く散策すると。

「お、あいつらっぽいな」

 何やらゴテゴテとはいからな装備に身を包んだ連中が、10人程膝を突き合わせている。

 そいつらの周囲には、数えるのが到底不可に思える程の、蜂を始めとした、数が売りの使い魔で溢れており…。

 次の瞬間。一瞬だけ処理落ちが発生し、激しい爆発音が発生。

 直後、使い魔のリスポンに応じて、細かな処理落ちが頻発。

「これは…FFありの爆薬で、数万体の使い魔を消す事で、鯖に負荷を掛けてるのか」

「そんな…絶対ただの暇人じゃないわね…」

「間違いなく雇われね」

 態々専用のビルドを組んで、描写負荷の高そうな樹海を選んで、こんな事するんだからな、愉快犯にしては手が込み過ぎてる。

 取り敢えず、覗かれてるとも知らず、負荷を掛けまくる連中をあらゆる角度距離から撮影し、張り込みを続ける。

 何度目かの自爆で、2人落ちたからか、連中が移動を開始。

 その前に、何やらやり取りがあった感じなので、仲間と合流する可能性が高い。

 という事で、後を付けようとしてたら。

「グヲオオオオオオオ!!」

『!?』

 突如方向が響き渡り、何事かと出所を見ると。

「あ~あ、ゲートキーパーが出ちゃったか」

「そういえば何度も何度も爆薬を使ってたしね~、環境破壊も大概よね」

「いやいや、折角他のグループの尻尾が掴めるかもってチャンスに不味いわよ!!」

 あ、そういえばこいつ等じゃアレに勝てるとは思えないな…。

 今回出現したゲートキーパーは、[カメレオントロール]という、非常に隠密性の高い巨大なゴリラだ。

 案の定、爆薬のロストを恐れ、逃げ出す迷惑野郎ども。

 しかし参った、このままこいつ等が死に戻りしたら、最悪そのまま落ちるか、物資不足で計画中止にもなりかねん。

 ここはGM権限でどうにかするべきか、そう思ってたら。

「おいおいおいおい!!なんだこりゃ!?」

 なんと間の悪い事に、ふらっとやってきたマサが巻き込まれてしまった。

 これ幸いと押し付けて逃げる迷惑野郎ども。

「おいゴラざけんなーー!ぬわーーーー!!」

 マサ…お前のことは忘れない。


 さて、マサのお陰で、連中の計画の続行し、なおかつ悪質行為を新たに撮影出来たからペナルティを科せれる事も確定。

 つくづくマサ様様だな。

 さて、改めて糞共を追いかけると、PAに入っていく。

 勿論、俺らもGM権限を使い、堂々と合法侵入をする。

 そこでは、FFありの爆薬を補充し、幾つのグループに分かれ、どこでやるかの相談が行われていた。

「フムフム、此処に居るだけでも30人は超えてるな」

「ホント不快だわ、でもBANはしないんでしょ?」

「ええ、社長と開発の意向だから仕方が無いですね」

「その分課金したくなる程のペナルティを科すんだろ?」

「当然よ。そうね…この規模の迷惑行為なら、罰則の即解除に5~6万は掛かる様に科すと思うわ」

 エゲツネー。

「ま、此処まで育ててると、雇い主側も金で解決するだろうな」

「そうね、それにこいつ等の個人情報も握ってるから、金の流れから黒幕を辿る事もする筈よ」

 成程、ゲーム内、開発、現実と多方面で動いてるわけね。

 暫く糞共のやり取りを眺めてると、連中動き始めるようだ。

「それじゃ三手に別れましょう。足りない分はモニター班に伝えて監視して貰うわ」

 という事で、引き続き監視を続ける為、2人とはここで別れる。

 で、昼食を終え、おやつの時間まで監視を続け、上から十分な調査と成果が得られたとの事で、解散の判断が下った。


「んで現在メンテと称して時間稼ぎ中と」

「誰に言ってるの?」

 亜紀は会社に向かい、俺と雪乃は間食中。

「さて、状況確認をと」

 煎餅を食い終わり、DIYのホームページを見る。

「どれどれ…『本日午前中より派生していた大規模障害は、一部プレイヤーが、ゲームに意図的に高負荷を掛けた事によって…、…したがって、今回悪質行為に加担したプレイヤーにはペナルティを科したうえで、再発防止に努めます。プレイヤーの皆様にはご迷惑とご心配をおかけしました。引き続きDYIオンラインをご愛顧頂けるようお願い致します』ってさ」

「表向きの発表だから、こんなものじゃないかしら」

「そうだな、裏でどう動いてるかはさておき、余所行きの発表は要るもんな」

「それで?もうログイン出来るのかしら?」

「大丈夫そうだな」

「それじゃ始めましょうか」

 2人揃ってインすると、超ご機嫌斜めなマサが居た。

 そういえばそうだったな。


「こんち、どうしたんだマサ」

 素知らぬ風を装い声を掛ける。

「ああテツか。ちょっとな、色々イライラしてるタイミングで擦り付けを喰らってな」

 そりゃ、あの爆心地付近じゃ処理落ちも凄かっただろしな。

「GMへの違反報告は?」

「しようとメニュー開いたらエラー落ちした」

 こりゃイカン、マサが相当温まってる。

 幸い、俺とユキには、擦り付けの証拠がこれでもかと残ってるので、少々根回しをしてから報告。

 すると直ぐに動きがあり。

「お」

 とマサが何かに目を通し。

「どうやら擦り付けを、GM側がモニタリングしてたようだ。たった今、犯人を処分して金が送られてきた…こんな事も有るんだな~」

 どうにか溜飲を下げ、機嫌が戻った様だ。

 その後は、インしてきたメンバーと冒険に繰り出したりして、終日まで過ごした。


 翌朝。

「先ずはLvを上げるか」

 物に換えていた換金物を金に戻し、教会へ向かい、Lvを10から30まで上げた。

 これで格段にステータスが増したので、ヤバいとの噂のバグスター真裏のエリアに向かってみた。

 現在バグスターの攻略度は68%。ホームエリア、北エリア、西エリアは制覇済みで、南と東がそれぞれ二ヶ所ずつ制圧し、真裏が未開拓という内訳だ。

 南と東の制圧は時間の問題との事で、真裏エリアへ本格的な入植が始まったものの、あまりの苛烈な蟲の抵抗に、遅々として開拓が進まない模様だ。

 それなら是非、苛烈な抵抗とやらを体感しようと思い、やってきました最果ての地へ。

「うん、既に凄いのが見て取れるな」

 制覇済みの西エリアには、最果てへの前哨基地として、境界線に砦が築かれてるので、そこから前線を観察中だが…。

「やべぇな、通常の3倍とかいう次元じゃないな」

 視線の先では、全ての蟲が残像を残しかねん程の高速で、味方を掻き乱し圧倒する光景が繰り広げられている。

 それでいて、ステータスも最果てに相応しい程高く、この短時間で幾つものグループが壊滅させられている。

 取り敢えず、俺も一当てしてみよう。


 丁度、基地から部隊が出撃、というタイミングだったので、便乗する。、

 基地から出て、ある程度進んだところで、群れから離脱して鍬を振るう。

 狙いとしては、馬鹿げた速度の蟲を複数相手取るのは大変なので、前線から零れた蟲を、<ゴーレム1号><ゴーレム2号>の引き寄せで、安全にしゃぶりたいとの思いからだ。

「この位置なら、味方の死角に回り込む蟲を据える筈」

 程なくして、増援に気付いた蟲が急接近し、前方で戦闘が始まる。

 思った通り、回り込もうと膨らんだ蟲をギリギリの位置から吸う事に成功。

 引き寄せられた蟻と蟷螂を、数の暴力で攻め立てる。

 前線の味方も、背後を守られてる安心感からか、攻撃を前方に集中し、善戦。

「けど長くはもたないだろうな」

 無尽蔵の蟲が、高速で戦線に参加し続けるので、どうしても常に数で負ける事を強いられ、能力も高いからな。

 前哨基地で戦うならいざ知らず、此方から打って出ても厳しいものがある。

 一応、先を見越して、後方に陣を張ったから、味方が下がって来ても問題ないようにはしてるが…。

「もうダメか」

 善戦も束の間、あっと言う間に押され気味になり、味方が敗走を開始。

 ゴーレム以外の使い魔も反応し始め、俺の周囲も俄かに騒がしくなる。

 下がる味方に対し、蟲をしゃぶらせてくれた借りを返す意味でも、殿軍を買って出る。

 事前に、可能な限り畑に変えておいたので、使い魔の粘りもあって数十秒は、時間を稼げるだろう。

 こと戦場では、数十秒も時間を稼げれば、状況が一変する。

 敗走していた味方が立て直し、統率の取り戻し下がるのを確認し、俺も陣を放棄して退却した。


「しかし、マジで苛烈極まりないな」

 放棄していった農地が、ものの数分で全て撤去されてしまった。

「一直線に掘られたら二十秒ももたなかったな」

 敵の脅威度を肌で感じる事が出来たし、作物の質に影響する、耕作地ランクも非常に高い事が判ったので、収穫としてはまずまずだな。

 蟲共も、エリアの境までは来ないのか、途中で引き返していった。

「引き付けて、こちらの有利な場所で戦うのも無理か」

 やはり、最初は力押しで地盤を形成する他なさそうだ。

「ま、俺1人なら、農作業をしつつ、蟲10体程までなら相手取れるし、後方支援をメインでいくか」

 そうと決まれば、残り少なってきた牧草の種を使い切る事から始めるか。

 最果てエリアを覗き、蟲が完全に引き上げたのを確認して、再度出撃する。

「それじゃ、在庫一掃始めますか」

 あれだけ[種苗袋]にねじ込まれた牧草の種も、遂に底が見えてきた。

 一応、今でも隙間商売をする上では、そこそこの需要があるものの、本格的な栽培をする連中の牧草には敵わなくなってしまった。

 俺のような複合ビルドで薄利多売はほぼ淘汰されたも同然なので、これからは耕作地ランクの高い場所で、トリュフのような、単価の高い物を育てる方向にシフトしていく。

 その為の元手を確保する為にも、牧草の種には最後まで頑張って貰おう。

 蟲に攻め立てられても、基地まで逃げ切れる位置で、開墾を開始。

 瞬く間に広範囲を開墾し、内側にのみ作付をする。

 直後、蟲が押し寄せ始めるが、既に最初に作付した牧草が収穫可能になっている為、作付していない畑を捨て駒に、牧草を収穫し撤退。

 これを、休憩まで繰り替えし、牧草の種を消化しきった。


「よーし、高級農産物の種と苗を買った事だし、本格的な金策を始めるぞ」

 と言っても、やる事は基本変わらない。

 要は、収穫まで畑を守り切る事が大事なので、捨て駒用の畑を十分に用意し、作付は最低限に抑えれば良いのだ。

 耕作地ランクは、前線に近い程高くなるため、地力で乗り切れるギリギリを攻めて、作業開始。

 じっくり慎重に立ち回り、マンゴー、ドリアン、メロンを収穫。

 撤収してから、これらを入札式で競売に掛けたところ、総額130万の売り上げを記録。

 バランスを見極める為、手探り状態だったからか、収穫量がそれほど伸びず、思うような収入には成らなかった。

「ま、高級品を金策に使うのは、まだまだ初心者って事か」

 さ、慣れる為にも、数を熟していこう。


「良し、慣れてきたもんだ」

 五度目の収穫売却で、時間当たりの収入が160万まで伸ばす事に成功。

「Lvもまだ30だし、効率は更によくなる事は確実だし、これなら三度目の進化もそう遠くないな」

 さて、現金を消化する為、Lvを32に上げ、種や苗を購入。

 先程同様、最果てエリアで農耕に精を出す。

 Lvが上がったからか更に効率が良くなり、終日頑張ってLvを36まで上げる事が出来た。


 最果てエリアで金策を初めて数日。

 高級作物の種や苗、駒菌を大量に購入し、Lvも40まで上がった。

 あと、バグスターの東と南エリアも制覇し、最果てエリアへの入植が四方面からになった。

 更に、南方面から少し進んだあたりに、かつてアースから侵略した勢力が残したと思われる、拠点の廃墟が見つかった。

 痕跡から、ゴブリンやオークなどの、二足歩行の生物や魔物の拠点だったと推測がされる。

 既に、滅んでから時間が経ってるようなので、有難く再利用させてもらっている。

 幸い、整地された地形自体は無事だったので、少々の手直しで直ぐに機能を回復。

 南方からの入植の足掛かりとして、多大な貢献をしてくれている。

「今日もやっていくか」

 現在、ここバグスターの攻略度が一番高く、88%と残すは最果ての3ロケーションのみとなっている。

 そんな中、俺が農作業に選んだのは、北方面からの進入路。

 理由は単純で、ここが一番不人気で、人が少ない分耕作地ランクが高いからだ。

 あれからLvも更に上がり、多数の蟲を相手取れるようになったため、効率が急上昇。

 よりランクの高い奥地で、長時間粘れるようになった事で、質と量が上がった為だ。

 二時間ほど作業を続け、作物を現金化したとこで、休憩を挟む。

 休憩中、亜紀がこの間のハッキング騒動の進展があったと言うので、話を聞く事に。


「結論から言えば、蜥蜴の尻尾切りで、黒幕には刃が届かなかったわ」

「そうか、黒幕の正体は?」

「名前も無い秘密結社とだけしか…ただ、こいつ等が二十年前のテロを仕掛けたのは間違いないわ」

「つまり同一組織による犯行の可能性が高いと」

「ええ、よっぽど社長が怖いと見たわ」

「そいつらがお母さんを…」

 雪乃が俯き、拳が震える。

 無理もない、自身と母親の仇が、今なおちょっかいを掛けてきているとなれば、心中穏やかなわけない。

 俺だって、その糞共をこの手で肉片に変えてやりたいくらい憎い。

「今回の件で、事情を知らない下っ端を監視下に抑えたし、金の流れも掴んだから、相手も大分動き難くなったはずだわ」


 報告が終わり、亜紀と2人だけに。

「で?実際は何処まで進展したんだ?」

「下っ端は個人情報の網羅で留めたけど、指示役や幹部級は軒並み身柄を拘束したわ」

「そうか…」

「二十年前の社長の復讐で、連中の力は相当削いだ筈だったんだけど…」

「仕方ないな、二十年もあれば状況も変わるからな」

「そうね。今後はサイバー攻撃は下火になるでしょうけど、実力行使が怖いわ、私達は十分な警護があるけど、哲兄は人手の関係でちょっと不安が残るかも」

「構わんさ、自分の身は自分で守る。もし、俺に何かあっても最悪切り捨ててくれて構わない」

「ッ!!…そう」

 これが俺の覚悟だ。まあ、両親を悲しませない為にも、俺自身細心の注意を怠る気は無いがね。


 亜紀の報告から数日。

「いよいよバグスターの入植も終盤か」

 あれから、更に攻略度が上がり、現在96%。

 あと一ヶ所ロケーションを占拠すれば、バグスターの入植は完了となる。

 その記念すべき日が、今日になりそうという事もあり、バグスターの賑わいが凄い事に。

 最果ての中心地も凄い事に。

「ド級百足も居て、中心地一帯が超濃度の鱗粉が吹き荒れる地獄か」

 それでいて、先手を打たれて、オービタルストライクを始めとした、衛星兵器も軒並み破壊されてしまい、大規模戦略兵器が封じられてしまっている。

 百足は、嵐の中でしか動かない上に、以前より更に強化されている。

 そんで、嵐の中は凶悪なダメージゾーンとなっていて、無策で突っ込むと秒間数万のダメージを受ける上に、電子機器は使えず、視界も最悪ときた。

 そんななか、うちもメンバー総出で参戦。

「取り敢えず、嵐の手前に陣を敷いて、そこから内部へ圧を掛けるでいいか?」

『OK!!』

 作戦も決まったので、早速鱗粉の嵐手前にやってきた。

 本当は、もっとギリギリの手前にしたかったが、既に他人が確保済みなので、少々離れた位置に陣取った。

「それじゃ嵐に近寄ってみるか」

 長期戦を見越し、十分な食料飲料を用意し、境界線に立つ。

「うぬぬぬ、環境ダメージが痛い!!」

「それで確認出来た?」

 と、アコが聞いてくる。

「ああ、ここからだと数匹しか見えなかったが、超巨大な蛾が飛んでるのが確認出来たぞ」

「そいつを全て倒せば、嵐が止むって訳か」

 マサの言う通り、蛾を殲滅すれば、内部での活動も楽になるだろう。

 というのも、最果ての攻略が進むにつれ、問題の蛾が増え続け、何時しかこのような鱗粉の嵐にまで発展。

 蛾がこの惨状の原因なのは間違いなだろう。


「取り敢えず、蛾を如何にかする方向でいくとして、どうやるかだ」

 視界不良の中、無数に飛び回る巨大な蛾を倒すのは困難だが。

「俺は蜂が死に続けるから、何も出来んぞ」

「俺も【トマホーク】含め届かないからパス」

 といった感じで、蛾に対し、攻撃手段を持つ者持たない者別れて行動する事に。

 待機組は、嵐から出てくる蟲を、侵入組は、蛾への攻撃の為に内部へ突入する。

「それじゃ、俺らもしっかりと陣地を守らなきゃな」

 蛾や百足は、嵐から出てこないが、雑魚は無数に湧いてくるからな。

 陣地を守りつつ、タロウに作物と豚肉とハチミツを渡し、料理を作ってもらう。

 時折やって来る蟲を駆除してると、ボロボロの侵入組が帰ってきた。

「ヤバいわ、視界が悪すぎてどこに魔法を撃てばいいか見当もつかないわ」

 それでも、アコと当てずっぽうで撃ちまくり、蛾を1体仕留めたそうだが、それっきりとの事。

 これで、この作戦が無謀だと判明し、決断を迫られる。

「このまま、外側で誰かが嵐を止めるのを待つか、他所へ行くか」

 惑星の完全攻略に立ち会いたい気持ちも当然あるが、この状況だとな…。

「自分らが去って直ぐに事態が動くとも限らんし、俺は離れても良いと思うけどな」

 マサが言うように、直ぐにどうこうなるとも思えんが、ここは個々の意志を尊重したい。

 結果、残るか去るかは各々の判断に委ねる事に。

 俺は最後に少し関われれば良いやって気分だし、去る事にした。


 PAに戻り、帰還組と別れ、ソロで動く。

「丁度巡回の時間だし、墓地に行くか」

 墓地に着き、モンドと合流。

「こんばんは」

「こんばんは、どうです?神級試験は?」

「今の所糸口が見えんな」

「確か、テツさんは廃都解放時には、長を2体浄化したんですよね?」

「まあな、でもたったの1人で廃都中のアンデッドを相手取るわけだからな、序盤中盤終盤何時でも死と隣り合わせで無理ゲーだ」

 と、いずれはモンドも神級を受けるので、分かる範囲で内容を教える。

 そんな感じで、話しながら巡回を終え、モンドと別れ、事務所でウィル達と話をする。

「ところで、軍事基地ってどうなったんだ?」

「ああ、一応御上の発表だと、解放まで秒読みとの事だが分からんな」

「俺らは一切関わってねーからな」

「は、あんな派閥争いになんて関わりたかぁねえな」

「違いねえ」

 ガハハハと酒を煽る4人。

「そういえば最近ギルを見ないが?」

「ああ、なんか寝込んでるな」

「…割と大事じゃ?」

「んまあ、最初は動揺したが、あいつは昔から定期的に寝込むからなぁ」

「ふむ、まあ問題ないってことか」

 事務所を後にし、PAに戻り一旦休憩。


「ウマウマ」

 チーズと梅干を肴に、少々酒を呷りつつ、寛いでると、雪乃もブレイクタイムに突入。

「ホントお酒好きよね」

「呑める体質だったからしゃーない」

「何が仕方ないのよ…」

「雪乃も本当なら吞めたのにな」

「うーん…仮に何事も無かったとしても、呑んだかは分からないわね」

 吞めるかどうかは個人差も有るしな。最近は呑まない若者も一定数居るしな。

「ところで動きは有ったか?」

「あれから蛾を数体仕留めただけだわ」

「やっぱ長期戦前提なのかね」

「少なくとも数時間でどうこう、って感じではなかったわね」

 やっぱ時間が掛かりそうだな。


 ゲームを再開し、アースの真裏エリア…最果てに向かう。

「おー、大分拠点が様になってるな」

 港と造船所も簡易ながら完成している。

「で、相変わらずイヌサルキジがメインで襲ってくるのか」

 犬が集団で防壁を攻撃し、猿が門をこじ開けようと躍起になり、キジが石で空爆を仕掛けている。

 取り敢えず、見ているのもなんだし、撃退に協力する。

 外に打って出て、犬共の足元に畑をお見舞い。更に大量の使い魔を嗾け圧殺。

 豚や羊も、猿共を引き付けるのに一役買っている。

 キジも他人によって駆逐され、最後は猿を袋叩きにして終了。

 戦闘開始から、数分程度の出来事だが、これが一時間に何度も発生するんだから、中々に面倒だ。

 折角周辺を散策したいのに、また絡まれたらだるいし、さっさと拠点を離れた。


「森と草原に山に川、生物が凶悪じゃなければ長閑だな」

 先程から、キジのしつこすぎる襲撃に晒されながら、対岸に森がある川沿いを行く。

 流石は最果て、高難易度地帯、川底のシンボルからは、砂金や翡翠がザックザクと採れる。

 豚がキジに突かれ爆散するのをBGMに、手当たり次第資源を採取。

 暫らくすると、川が森を突っ切る様になった為、無理せずに引き返す。

 帰りは、川から距離を置いて草原を進みつつ、資源を漁る。

 無事に拠点まで戻り、ホームに跳んで相場を調べる。

「今はNPCの方が買取が高いな」

 このまま競売に掛けるより、NPCに売った方が早く高く売れそうなので、金目の物を全て売っ払う。

 寝るまで、各地で未採取のシンボルを漁り、金策に勤しんでから、就寝した。


「おはようございます」

「あら、おはよう哲也君」

「宮原さん今日の朝餉はなんすか?」

「魚と肉じゃがよ」

 旨そうだな。

 そこへ、おじさん、雪乃、亜紀もやってきて、朝食を取る。

 朝食を終え、おじさんと2人で一服中、こんな話を切り出してくる。

「哲也君は今日暇かい?」

「暇と言えば暇ですけど」

「なら私に付き合いなさい、ちょっと…いや、かなり大事な話があるんだ」

 どっちだよ、まあ大事だけど深刻ではないって感じか。

「良いですよ」

「なら早速出掛けよう」

「ええ!?急ですねまた」

 急すぎる展開に面を喰らうが、おじさんの先導に従い、送迎車に乗り込む。

「ああ、2人も来るんだ」

「私とお嬢様はオマケよ」

「良く解らないけどオマケよ」

 おじさんは、かなり大事な話って言ってたけど、こんな緩い感じで良いんかな~。


 会社に着き、例によって秘密のエレベーターで地下に降り、開発室へ。

「おう、連れて来たぞ」

 おじさんが、開発の寺門さんに声を掛け、案内させる。

「ようこそいらっしゃいました。おや、お嬢さんと三島君も同伴ですか」

 特に問題無い様で、軽く触れるだけで、直ぐに俺に向き合う。

「では鈴木さん、説明を致しますね。最近当社や当社のゲームがハッキングに遭っているのはご存知ですね?端的に言えば、今回のお話はそれらに関係しています。それでですね、今回鈴木さんに頼みたいのは、悪質なユーザーを、ゲームの演出として退治する、という新要素のテストプレイヤーになって欲しいんです」

「んー…要は、限定的なPvPのテストって事か」

「そうです。現状では、闘技場や一定条件を満たした場合のみ、PvPが発生するんですが、それを、こちら側で能動的に発生させるようにします。それも、一方が完全に悪者っていう状況で」

「公開処刑の導入か…随分とまどろっこしいな。メリットは?」

「技術的には全く。ただ相手に、「我々は貴様らの拙いサイバー攻撃なんて屁でもないぜ!!」という煽りですね」

「フム…まあ、悪さをした奴を、皆でタコ殴りに出来ると思えば、突発イベントの目玉コンテンツになりうるか。それに、敵の行動を逆手に取るのは、煽りとしては抜群の効き目だろうしな」

 と、概ね好意的に受け止めたところで、詳細を詰めていく。

 これには雪乃と亜紀も交え、開発もユーザーフィードバックを元に意見を出し合う。

 こうして案を煮詰め、こんな感じになった。

・悪質行為の末、対象になった者は、派閥[悪党]に強制加入させられる。

・悪党に所属している限り、それ以外のプレイヤー全てと、一部NPCと強制的に敵対する。

・グリッチ等、ゲームに深刻な負荷を掛ける行為は一発アウト。

・ちょっとした悪質行為は、科料か悪党に参加するかを選ぶ。

・悪党に加入した場合、ステータスが上昇する代わりに、ソーシャル系システムの使用不可。

・悪党から離脱するには、ゲームに貢献する立ち回りをする等して、[徳]を積む必要がある。

 という感じになった。


「それじゃ軽くテストしましょう」

 今回、俺が悪党に入り、それを雪乃と亜紀が一般側で退治するというシチェーション。

「ええと、ゲームに貢献するってどんな感じなんだ?」

『深く考える事は有りません、要は悪役として正義の味方を接待するのです』

 ああ、変身を見守るとかそういうのか。

「フハハハハハ!!よく来たな勇者どもよ!!」

「…?」

「?」

『ハイ、テツさん-10ポイント』

「ええー!?」

『駄目ですよ、相手が困惑したり、引くような演出をしたら』

「相手の受け次第かよ!!…難しいなぁ」

 って言うか、-10ってなんだよ!!基準も無しに言われてもわかんねえよ!!

 仕方ないので、無言で戦おうとするも。

『それじゃ接待にならないですよ、-10』

 またかよ!?

 気を取り直し、適度に悪態をつきながら、2人が気持ちよくなれる様に、かつ歯応えを感じる様に接待。

 普段なら、この上なく面倒な事だが、悪党補正でステータスが上がってるので、結構良い演出が可能に。

 畑に2人を分断し、使い魔の数の暴力を押し付けつつ、後一歩で逆転されやられる。

 そんな感じでやったら、30ポイントを貰った。

『ポイントが100溜まれば悪党から離脱できます。ただ、ポイントの初期値は、人によって違うので、最悪-200とかからになったりします』

 しかも、一般人に勝つと、徳が大幅に減るそうなので、相当ストレスを溜める羽目になる。

 確かに、これは色々な意味で煽りになる新要素かもな。


 翌日、漸くバグスターに動きがあったようなので、今一度、皆で最果てエリアへ乗り込む。

「おおー、まだまだ広い様だけど、最初に比べれば嵐の規模が下がったな」

 それこそ、最初なんて北海道位有ったんじゃと思う広さが、今では青森位に縮小している。

 この分なら、嵐を止め、百足に引導を渡すのも目前。そう思われたが、そう簡単にはいかず、蟲のスポーン地点に近づいた分、常に蟲の波に襲われる事態に発展。

 現状、何とか前線を維持しているが、何処か孔が発生した場合、そこから瞬く間に前線が崩壊するだろう。

 なので、層の薄そうな場所を探し、そのちょい後ろで陣を敷いた。

 そして、陣を敷いて早々蟲の波が押し寄せる。

 前線が崩壊したわけではないが、数が多すぎて抜けてきたのだろう。

 前線の取りこぼしを食い止め、尻拭い。

 前回と違い、後方にも出番があるようで良かった。


「全く止まらねぇな!!」

 数分置きに、嵐内部から数万単位で蟲が沸き続け、此方に凄まじい消耗を強いてくる。

 被害の程で言えば、うちは全然大した事はない。

 俺の使い魔と畑を筆頭に、使い捨ての駒が多くあるからだ。

 だが、運用にコストが嵩む建築物や車両は、圧倒的な堅牢さや火力を誇るものの、ウェーブの1つ1つを無傷無弾薬で乗り切らなければ、ジリ貧で崩壊は確定している。

 そんな、先の無いグループがそこかしこに居るので、このまま手を打たなければ、近いうちに特大規模の敗走劇が始まるだろう。

 まあ、既に手は打たれてるんですけどね。

「お、キタキタ」

 嵐を囲うように急接近してくる、空と大地を埋め尽くす機甲群。

 戦闘用支援用とあらゆるタイプのマシンの群れ。

 ここまで嵐の規模が縮小されたからこそ、大規模な機甲隊の派遣の実現が叶ったのだ。

 なんせ、内部は電子機器が機能不全を起こし使えないからな、かと言って北海道を囲って、何も見えない中闇雲に爆撃しても無駄が多すぎる。

 そら青森を囲うのも無茶だろってツッコミもしたくなるが、前者に比べれば十分現実的だ。蛾に対する流れ弾の命中率も段違いだろうし、その分規模の縮小も進んで効率が良くなる。

 それに、此処がバグスターにおいての、最後のロケーションだからこそ、これほどの戦力を集められたのだろう。

 さて、機甲隊の配備が済むまでの数十分。なんとしても守り切るぞ。

次回も二週ほどで

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ