第三十五話
~前回までのあらすじ~
廃都の解放も完了し、鍬の強化もなされ、ガーディアンが魔法を行使出来るようになった。
更に、『ジャックオーランタン』の依頼報酬で、強力なアウトプットも手に入り、[スワンプマン]が使いやすくなった。
取り敢えず、状況確認の為に女王の木の下へ。
「おお!!君たちか!!」
予想通り。木の延命に忙しそうなヌメリコフさんを発見した。
「この地域の女王の木はこれで最後ですか?」
「ああ、ホーム周辺に四本も確保しておけば十分だ。それ以上は保護したところで、守り切れないだろうしな…」
うーん…流石ゲーム。なんで都合よく東西南北に一本ずつ生えてるんだとか、ツッコミどころはあるが、まあそういうもんという事で。
「それに、女王の木は若く、凄い勢いで大地から栄養を吸い、凄い勢いで大地に還元するからな、しっかりと管理しなければ、土壌の栄養バランスが崩れて大変な事になる」
「大変とは?」
「分からんか?あのトレントは女王の木の成れの果てだ…」
ワーオ、ご都合主義万歳とか思ったが、一応そういう理由付けも有ったんだ。
「狭い範囲に、素養を持った木が複数生まれてしまったが故の悲劇だ…」
植物を愛するヌメさんは、悲しそうに語ってくれた。
「成程…では素養を持った木を発見したら?」
「一応別の惑星への移植は試みてみたが、今の所上手くはいっていないな」
ただ他と一緒くたに伐採はせずに、引っこ抜いて移しはしたが、経過は芳しくない模様。
「それでも将来的に上手くいけば、不毛な惑星にも酸素を供給できるようになり、入植の足掛かりに出来る可能性を秘めているからな。今後も女王の木の研究は続けていくよ」
ヌメさんの夢を聞き、俺らも協力しようと、戦いに参加した。
「さて、俺らには強力な飛び道具が豊富に揃っている」
ユキの魔法、アコの弓、俺の使い魔。
「わざわざ近づいてリスクを冒す事もないだろう」
「そうね、取り敢えず側面を抑えちゃいましょう」
「今は3人しかいないし、<聖域の御旗>を使うわ」
決まれば行動は早く、ヌメさん達、味方、トレントが視界に入るポジションに移動。
そこで土を耕し、アコが旗を突き刺し、強固な陣を敷設。
ただでさえ堅い畑に、<聖域の御旗>が加わり、敵が近寄り辛くなり、増々堅牢に。
後は畑が壊されないように、只管修復しながら、ガーディアンと<魔道人形>と<青龍>が敵を攻撃するのを見守る。それ以外の使い魔は、敵が感知範囲外なので、お傍で待機中だ。
ユキは無駄に攻撃せずに[瞑想]で最大火力になった時点で魔法を発射。初手は<旋風>を選択した様だ。
アコは手数重視で兎に角矢を放つ。それでいて、一発一発がかなりの高威力なので、徐々に敵のヘイトが此方に向いてきた。
「良いぞアコ、もっとこっちに来るように煽ってやれ」
「オッケー」
巨大トレントもとい、成れの果ての周囲を固めるトレントを弓で釣るアコ。
一緒に、ガーディアンと人形の魔法が直撃し、<青龍>がブレスを浴びせてトレントを1体撃破。
これで相手も温まった様で、ぞろぞろとこちらへ向け進行するトレント。
それを、最大[瞑想]込みの<旋風>が迎え撃ち、感知範囲に入った事で、使い魔も動き出す。
俺らの陣地も一気に慌ただしくなり、賑やかさに引き寄せられたかクロスイーターも無数に飛来してくる。
「良し、<ダークニンバス>!!」
「フー…<ピアシングアロー>!‼」
<旋風>が切れたと同時に、今度は<ダークニンバス>を展開するユキ。
アコは、クロスイーターが複数重なった瞬間を的確に狙い、貫通弾でダメージを稼ぐ。
だが、肝心な成れの果てに対して、中々攻撃が出来ず、俺ら以外のグループも同様に、無数の敵に阻まれ思うように攻撃が出来ていない。
これはグダる予感。
「やっぱ膠着状態になるよな」
兎に角ボスの取り巻きと、雑魚が無限湧きするせいで、いっこうに有効打を与えられない。
そんな状況が続けば当然ストレスも溜まり、動きも雑になるから味方の被害も拡大。
そうなると、増々慎重にならざるを得なく、深刻な中弛みから更なるストレスへと発展。
行き場のないストレスを溜めこむ羽目になっている。…一部以外。
「真面目にやってる連中には悪いが、こういう状況こそが一番稼げるからな」
ボス戦に入り、既に小一時間は経っているが、俺らは実に快適に稼がせてもらっていた。
「アコ、またコストがいっぱいだから頼む」
「了解よ」
先程から、狩りで素材が貯まる度に、アコにPAへの輸送をお願いし、俺とユキは現場を維持しつつ素材を稼ぎ続ける。
数分でアコが戻り、少々の消耗品を引っ提げ戦線に復帰。
アコが持ち帰った素材は、職人衆が鋭意加工中なので、あぶれる心配は無い。
こんな感じで、俺らはコストの心配を解決し、補給線をも確保しつつ、無限湧き相手に美味しすぎる状況を噛み締めていた。
似たような感じで、稼いでいるグループが複数いて、ボスとその取り巻きは、一定の範囲内に抑え込んでいるので、真面目にやっている連中に叱られる事も無いので安心。
まあ、叱られたところで、戦闘自体はキチンと熟しているので、弱みなんてないんだけどね。
誰かが応援を呼んだのか、漸く事態が動いた。
「全員悪いが下がってくれ!!」
何者かが突如現場を仕切り始め、居合わせた者に下がる様に要請。
「あ?んで従わなきゃなねえんだよ!!」
誰かが反発し、それに釣られ複数の反発する声が各所から上がる。
「別に悪い事をしようってんじゃないんだ。ただスペースが欲しいんだ」
「チッ…まあいい。従ってやるから結果は出せよな」
「ああ。良し!!ミーちゃん来てくれー!!」
男が叫び、首に提げていたホイッスルを景気よく吹く。
「ピィーーーーッ!!」
清い音色が響き渡り、人が引き上げたせいで、大量の敵が押し寄せた空間が突如湾曲し…。
「な~~~~!!」
何時だかアニマルで見た、弩級サイズの子猫が出現。ラインを押し上げてきていた植物がプチっと潰され消滅。
その後、呼び出した飼い主の一生懸命な誘導で、子猫を成れの果てに嗾けた。
俺らの眼前で繰り広げられた、超巨大トレントが、更なる巨大な子猫にズタボロに転がされるという光景は、僅か数秒で終わってしまった。
「ハア…ハア…もう…ダメ…」
飼い主が力尽き、その場でバタンキュー。
俺らは茫然としていたが、男の仲間たちはには予定調和だった様で、直ぐに場を仕切り出した。
「今の内にボスに止めを!!」
子猫の悪戯で、既に死に体の成れの果ては、この一斉攻撃で撃沈。
十分に稼がせてもらったが、最期はなんともあっけない結末だったな(過程はド派手だったが)
「猫…可愛かったな」
「「可愛かった~」」
取り敢えず戦闘が終わったので、ヌメさんと軽く言葉を交わし、PAに帰還。
先程の戦いを振り返りつつ、猫の話題に。
「あの子猫ってペットだよな?何であんな従魔みたいな挙動に?」
どう見ても、時間制限付きで呼び出したようにしか見えなかったが果たして。
「うーん…多分コスト関係の問題だと思うけど…コズミックキャットってコスト4万だったわよね?」
ユキが、思考を巡らせつつ、この話題に強そうなアコに振る。
「そうよ、私も多分になって悪いけど、時限式でコストを上げる何かを使った。そういう感じだったと見ているわ」
「成程、あの召喚みたいな手順は?」
「あれは別に特別でも何でもないわ。[呼び寄せの笛]っていう、ペットを出先で呼び出せるテイマー必須のアイテムよ」
「へー…でもそうなると、サモナーとの差別化が殆ど無い事になるのか」
「うーん…そう言われるとそうだけど、従魔はやられてもクールタイムが終われば、即再召喚が可能だけど、ペットはやられたら暫くはお休みね、それと[呼び寄せの笛]は物にも寄るけど、コストが凄い掛かるのよ」
成程、従魔は呼び出すのに使う核のコスト(強化分や装備も含む)だけで済む分、時間制限有で連れ歩くのに適さない(だからこそ、長時間呼んでおけるゴブリンが人気)。
ペットは、強化と装備分のコストは従魔と同様に掛かるが、制限時間が無い分連れ歩きには適しているが、やられた場合のリスクはそれなりに、と。
「そのうえで笛のコストが高くて、お休みまで発生か。…しかもPAで飼う分にもコストが掛かるんだろ?大変なんてもんじゃ無いな」
「ああ、その連れ歩かない時とか、PAで飼う時にコストが掛かる仕様。大分前のアプデで改善されて、今はお留守番の時はコストが掛からないわよ」
「えええ!?」
マジか。知らなかった。
「だからあんなにテイムしようと大勢が向かって行ったのか」
「なんだと思ってたのよ…流石に常時、自身かPA内にコスト4万分の空きを工面とか無理にも程が有るわよ…」
「全員そんな無茶を通す変態かと」
「なわけないでしょ…」
「なんの話だっけ…?そうそう、従魔とペットの差異だったな。結局はどっちも一長一短って事で良いのか?」
「ええ、でも可愛さ成分ならペットに軍配が上が…」
実にアコらしい裁定だった。
「それにしても、コスト4万のペットか…確かに強かったけど、ピーキー過ぎるな」
「最低でも4万よ。流石にボスをたったの数秒間で瀕死まで追い込むんだもの、きっと更に強化を重ねているでしょうから、5万6万でもきかないかも」
「それだけのコストを捻出するだけで、ビルドが相当偏るな」
「装備、消耗品、素材の持ち帰りを考えたら…[積載]を7~8回は覚醒させたいけど…そうなると他のギフトが全然解放出来ないわね」
「だからこそ、あの時間制限だったんじゃないかしら?」
「かもな、流石にペットの為だけに、他のギフトを犠牲にするのはキツイだろうしな」
なんやかんだで、猫の話題に時間を使ってしまったので、後れを取り戻さねば。
「植物性の素材はたっぷりと手に入ったし、今度は動物性が欲しいな」
職人衆からは、素材の素性はバランス良くと言われているので、なるべく希望に沿うようにはしたい。
「アニマルかバグスターが候補だと、どっちがいい?」
「どっちも辛そうだけど」
「まだバグスターの方がマシかな」
ユキはどっちつかず、アコはバグスターを推したので、蟲狩りに向かう。
其処へサチとベッタラが合流し、5人でバグスターへ乗り込んだ。
「取り敢えず北へ向かうけど良いかな?」
「良いんじゃないか?俺はダンジョンの先は初見だから、経験者に任せるわ」
ベッタラは俺に一任すると言い、他もそれで構わないというので、北へ向かう。
「ッ…これは厳しいわね」
荒野に出て、少し歩いたところで大量の蟲に襲われた。
「こんなんまだまだマシだぜ、先に進むともっとステータスが上がってARMまで持ち始めるからな」
「「「うわぁ…」」」
「もしかしなくても私の天下?」
うんざりしたようなリアクションのユキアコベッタラとは違い、目に光が灯るサチ。
「良かったな。リーチも正常、移動速度も正常だから、LPに直接固定ダメージを与える<まきびし>は、奴らの天敵だろう」
これまで、バグスターのダンジョンで、散々<まきびし>を着地前に破壊され、碌に活躍できなかったサチだが、今度は敵のリーチが見たまんまなので、本来の活躍が期待できる。
そして予想通り、サチは大活躍をしてくれている。
「あはははは!!最っ高よ!!」
最早どれだけそのビルドを突き詰めているか、想像も出来ない程圧倒的な活躍。
四方八方から攻寄る蟲共が、範囲内に入るや否や凄まじい勢いで衰弱していく。
流石に瞬間火力こそ、このメンツの中では最下位に甘んじているが、<まきびし>の設置に要する時間の短さや、HPやバリア三種を貫通する固定ダメージは、無駄に堅くしぶとい蟲共には最高にぶっ刺さる。
どうかサチの活躍が、三日天下で終わりませんように。
素材を集めつつ、荒野をふらふらと彷徨い続ける。
「良かったわ。なんとなくだけど、直ぐに<まきびし>が役立たずに成り下がる気がしてたけど…今度の地域は大丈夫そうね」
ホームからの距離が一定以上になると、敵が強化されHPおろかARMまで追加された蟲。
そして現在、よりホームから離れた事で、蟲にSHIまで追加されている。
だが、サチには多少LPが上がり、ややしぶとくなった程度にしか感じなかった。
「俺には蜂と毒蛇が居るから良いけど…3人はキツそうだな」
毒攻撃が可能な蜂の大群、尋常じゃない威力の毒を吐き出す毒蛇。これらが居るお陰で、俺には充分相性が良い蟲共だが、俺とサチ以外にはかなりの難敵の様だ。
「ちっ、HPやARMがこんなに鬱陶しくかんじるたぁな」
大型メスという、非常に脆い武器を獲物としているベッタラにとって、手数が増やされるHP等の、LPを守るゲージを持つ相手は相当に苦しい筈。
それでも、一撃一撃がとんでもなく重いから、サチ以上に素早く蟲を処理するのは流石としか言いようがない。
「カス当たりだと、瞑想無しの<ファイアーオーブ>でも一撃は無理か~」
ユキの主力の魔法ですら、キチンと当てなければ蟲に致命打とはいかない。
まあ、キャスターとしては、大分火力が抑え気味なユキだからこその苦戦とも言えるか。
その分、耐久力に回している分、キャスターとは思えない程自衛力に長けているし、場合によっては前衛も張れるのが強みなのだが。
現に前後左右問わず蟲が押し寄せ、前衛後衛の概念が崩れている今、その堅さゆえに余裕を持って戦えているのだ。
「本っ当に堅いわねぇ!!」
銃器に比べ、どうしても手数に劣る飛び道具の弓。
その分、様々なパラメータの補正が掛かり、単発の火力ならこのゲームの上位に位置する弓。
例え相手が、分厚いHPやARM等に守られていようとも、一撃でLPにダメージを入れている。
ただ、HPは兎も角、ARMとSHIは、削り切ったとしても、十秒間で修復が完了してしまうので、無駄に矢の消耗が強いられているアコ。
やはり防御貫通パラメータの影響を受けないHPやARMは、相性差が激しく出るな。
程なくして、ベッタラが撤退を言い出したので帰還した。
夜。
「お、ベッタラも休憩終わりか」
「ああ、少し前にインしてメスの修理を終えたところだ」
「そうか、少しはメスの強化は進んだか?」
「イマイチだな、やっぱ先にギフトを充実させてからじゃないとな」
「武器に付く耐久アップは頼りないか?」
「そんな事は無いんだが、やっぱ装備強化のOP厳選は沼過ぎてな…」
「ああ…」
遠い目をするベッタラに、ギャンブルで大損こいた人の哀愁を見た。
気長に頑張ってくれと声を掛け、明日のアプデに向けて準備を進める。
明日のアプデ後、用事を済ませた後、再誕をする心算だ。
資金は既に十二分に貯まっており、再誕後にLvを一気に上げ切る事が可能だ。
それでもまだ、現状のカンストには届いていないし、明日には上限が解放されるので、これからも金を稼ぎ続けなければならない。
「さて…動物性、植物性の素材は十分だし…無機物の素材を集めるか」
「それなら是非お供しますよ」
一息ついていたパミルが、俺の独り言を聞いていて、同行を申し出てくれた。
「パミルが一緒なら、採掘が良いな。何処に行くか」
「砂漠で半導体を集めるのはどうですか?」
「半導体か、細工系だと何が作れるんだ?」
「色々ですけど、目玉はCPUですかね」
「このゲーム、そんなのまで手作りできるのか…」
「自由度がウリですからね~、ただ妙に現実的で、成功率は異常な程低いですし、成功しても中々質の高い物が出来上がらないんですよ」
まあ、顕微鏡レベルの細かい作業だからな、それを手作りとか流石ゲームとしか言いようがない。
「そんじゃ半導体の採取に向かいますか」
パミルと2人で砂漠に向かい、片っ端から砂地のシンボルを穿っていく。
「ところで、シリコンって入手先は採取オンリー?」
「いえ、普通に買う事も出来ますよ、費用対効果は兎も角ですが」
「他にもあるのか?」
「鉱脈からも出ますし、敵からのドロップでも手に入りますよ」
「ドロップ、何が落とすんだ?」
「色々ですね、主なのはゴーレム系やドローン等のマシン関連ですかね」
「へー、でもエルフィンで散々ドローンを倒したけど、シリコンなんてドロップしなかったぞ?」
「そういう場合は別の半導体、若しくはそもそも技術が違って使われていなかったとかですかね」
採取をしながら話を続けると、ドローンからしっかりと半導体を手に入れていた事が判明した。
「ああ、確かにダイオードとか真空管とかドロップしていたな」
「良いですね~それらを解体すれば、シリコン等が手に入りますよ。後で融通してください」
「ああ、チェストの肥やしだからな、加工は任せた」
そんな感じで、採取を続けるが、途中からは俺が一人でずっと採取をする形に。
パミルは、ここ等一帯で既に採取をしていたので、早々にする事が無くなっていた。
という事で、ここからは手付かずの危険地帯へ向かう事にした。
「流石に2人じゃ危ないよな?」
「そうですね、万が一この辺りまでモンゴリアンデスワームが来てたら危ないですね」
今から向かう場所では、出ないとは思うけど、一応保険も兼ねて、援軍を呼ぶ。
来てくれたのはサーモンとカメキチさん。この4人なら万が一にも対処出来るだろう。
謎の肋骨の在る、ギャグ砂漠に到達し、採取を開始。
ヒヨケムシや蠍、フンコロガシ等を転がしつつ、ワームに警戒しながらシンボルを目指す。
「今の所良い感じだな」
行列が出来ている流砂をスルーし、採取を続けるが、ハプニングは突然やって来た。
突如足元が、ズズズと音を立て陥没し始める。
「流砂だ!!」
「ダメだ!抜け出せない!!」
あっという間の出来事に、何も出来ずに流砂に呑まれた俺達4人。
砂の流れに身を任せるまま十数秒、俺達は暗い部屋らしき場所に到着した。
「ここは…?」
「この感じからいって、良くある砂漠の遺跡って感じだろ」
俺の呟きに、サーモンが定番を推してくる。
「砂漠の下にこんな空間があるのは、地下遺跡に違いないですね」
「様式美、ってやつですね」
パミル、カメキチさんも、サーモンに同意。
いや、確かにテンプレ展開だけれども…まあいっか。
「先ずは此処からの脱出図らなければ」
俺達が落ちて来た穴は、何処にも見当たらず、何らかの罠に掛かったと思われる。
幸い、光源には不自由しないので、この部屋らしき場所を、壁沿いに散策する。
「フム、進めそうな箇所は全部で三つか」
「取り敢えず順に回ってみましょう」
最初に見つけた通路に足を踏み入れる。
「ゴホッゴホッ…なんか妙に苦しいぞ…」
通路を進みだしてから、妙な息苦しさと苦痛が襲って来た。
「どうやらカビか何かの環境ダメージのようですね。少しづつですがLPが減っていっています」
【強靭な肺】]を持っているパミルでも、息苦しさは兎も角ダメージは受けている様だ。
じくじくとLPを蝕まれながら、通路を散策したが、一つ目は行き止まりの不発。
続いて二つ目も探ったが不発。
「残りは此処だけか」
他に選択肢も無く、脱出への望みを掛けて残された唯一の道を行く。
先程の部屋と、これまでの二つの通路と同様に、規則正しく切り揃えられた石材が、規則正しく積まれ築かれたこの遺跡らしきロケーション。
さっきから、俺達4人がビンビンに感じている不吉な予感。
それは、通路の先に見えた、新たな部屋に踏み入れた瞬間に、現実のものとなった。
「な、なんだ!?」
俺らが使用していた光源の光が、巨大な銀鏡に反射し、部屋中に乱反射。
そして、その光はある一点へと収束していき…。
「水晶玉」
カメキチさんが呟くように、光の収束点には、占い師が使うような水晶玉が台座に鎮座していて。
「気を付けろ、何かが起こるぞ」
水晶内部から、紫紺色の光が発せられ、次の瞬間には部屋中の壁に設置されていた燭台が点灯。
明るくなった事で、暴かれた部屋の全貌は、巨大な霊安室だった。
「フフフ、俺この先の展開が判っちゃったぜ」
「奇遇ですね、私もですよ」
「俺もだ」
「俺もです」
4人で少々ちょけながらも、直ちに戦闘態勢へ移行。
予想通りの展開が訪れた。
「ミイラ…」
霊安室に安置されていた棺から。大量のミイラが湧き出て来る。
朽ちかけの身体を引き摺る者や、五体満足で歩いてくる者も含め、大量のミイラが。
なんで、未開拓だった筈の惑星にミイラが?というツッコミは野暮なんだろう。
「フフフ、俺にはランタンがある、アンデッドなら無問だ…」
ズガッ!!ドゴ!!ゴガギィン!!と柵や鎧を引き千切り、原木を払い除けて迫るミイラ。
「ウソだろ!!ランタンが一切効いてねぇ!!」
どういう訳か、ミイラ共にはランタンの浄化の光が通用せず、糞堅い筈の畑がどんどん破壊されていく。
「ぐっふ!!」
「カメキチさん!!」
「不味いですよ!!こいつ等尋常じゃない位タフで火力が高いです!!」
チラッと周囲を見れば、次々とやられては、俺の傍で復活する使い魔…。
「ちょ!?STAの回復が遅い!」
いつもなら、空になったSTAは、瞬きの間に回復していたが、今はデフォルトの状態の3倍位に遅くなっていた。
「ここの空気のせいですね、STA回復阻害を受けています」
マジかよ…ってか俺には<生存戦略>っていう、回復阻害を軽減するスキルが有るんだぞ、それでこの遅さは…。
「テツさんは…何とか戦えそうですが…我々は少々キツそうですね」
懸念通り、俺以外はSTA回復が極端に遅くなり、まともに戦えそうにない。
ヤバいかもしれん。
ミイラは狂った強さだった。
アンデッドとは違う括りなのか、浄化が効かず、恐ろしい近接火力に、常軌を逸した生命力。
個々の性能が、マンモスと同等かそれ以上あるのではないか。そう思える程異常なスペックだ。
「こいつ等おかし過ぎる!!」
「一体一体がレイドボス級とかふざけてますよ!!」
<魔道人形>の拘束も効かず、<ゴーレム使い>の引き寄せも機能しない(これは寧ろありがたい)。
この時点で、ミイラがただのMOBでは無い事は明らかだ。いや、アッシーの件が有るから断言は避けよう。
こんな状況で、唯一の救いと言えば、こいつ等ものっそ遅いんだ。
それこそ、カメキチさんが全力で這いずれば、引き離せる程度には。
なので、囲まれても畑で打ち上げれば、囲みを突破出来るので、部屋中を逃げ回りながら逃げ道を探している。
この部屋の分岐は全部で5つ。これまでに何とか2つは調査を完了し、ハズレと判明。
調査方法はサーモンのゴブリン頼り。俺らが直接突っ込んで、行き止まりだったらそのまま詰みだからな。
現に、ハズレの2つは行き止まりだった様で、ゴブリンの命がけの調査のお陰で、俺らは今生きている。
部屋の中で何度も切り返しながら、ミイラを捌き、漸く正解の通路を発見。
念のためゴブリンを数回突撃させ、この部屋よりは安全だとサーモンが言うので、他に選択肢がないから意を決し突撃した。
「良し、敵は居ないな、手筈通り頼む」
俺は来た道を振り返り、<鍬の一振り>を発動。
要は、俺が入り口で敵を塞き止め、他が逃げ道を探すというシンプルな作戦だ。
先程と違い、ミイラを狭い通路で抑える為、攻撃方向を限定させ、修復と併せて畑の維持が可能に。
初見のロケーションではあるが、この堅実な方針が功を奏し、俺達はどうにか地上に出る事が出来た。
「ふう…脱出は出来たが、ここからあの遺跡に入る事は出来ないのか」
「一方通行のようですね」
光が差す階段を登り切り、脱出に成功した途端。階段諸共崩れて水洗トイレの様に砂に埋もれてしまった。
どうやら、行列の出来る流砂とは、別口のロケーションだったようだ。
PAに戻り、仕分けをしつつ、遺跡について振り返る。
「結局ミイラを1体も倒せなかったから、何を落とすかも判らんな」
「調べたら幾つかヒットしたんですが、ランダムダンジョンのようで、探しても必ず遭遇できるわけでは無いので、ガチ勢が挑めた話がありません」
「つまり、ミイラの撃破情報も無いと」
そらガチ勢が、確実性に欠ける狩りに挑むのは、他にする事が無くなってからだろう。
まあ、中には攻略に成功した人も居るかもしれんが、情報を秘匿する人も多いしな。
その内、戦力を整えたら、ワーム狩りと併せて挑むのも良いかもな。
「さて、もうメンテ時間か」
今から約三時間、アプデの為のメンテナンスが行われるので、プレイヤーは強制的にログアウトさせられる。
「皆はこの後どうする?」
メンバーも、皆がログアウトに向け、PAに揃っていたので、時間まで駄弁る。
そして時間が来たので、全員でログアウトした。
「ふう…美雪と亜紀はどうする?」
「私は…仮眠を取ってまたインするわ」
「私もそうするよ」
2人とも、メンテ明けまで仮眠を取って、時間を潰す様だ。
流石連休中日。今日…明日はメンテ明けに、皆が一斉ログインするんだろうな。
そして一時間後。
「日付が変わったか…」
DYI一周年、そして…。
「哲也君、起きてるかしら?」
「宮原さん?どうしました?」
縁側から顔を出した宮原さんが、声を掛けてきた。
「ちょっと本宅まで来てくれるかしら?」
「?ええ」
言われるがまま、本宅へと向かう。
『ハッピーバースデー!!』
玄関を潜り、居間に入った瞬間これだった。
「えっと、ありがとう?」
「何よ哲兄、嬉しくないのかしら?」
「いや、明日の朝でも良かったんじゃって」
まさか、日付が変わった瞬間に祝われるとは…。
そう。今日この日は、DIYの一周年と共に、俺の誕生日でもあったのだ。
「いや~、これで哲也君も33歳か。ついこの間まで、こんなだったのにな~」
自分の腰辺りに手を翳す、おじさん。
「ははは…この歳になるとめでたくも無いんですが…ありがとうございます。それにしてもよく俺の誕生日なんて覚えてまし…なんでもないです」
「…、なに、姪が言い出した事でな、こういった祝い事もしなくなって久しいし、折角だからと乗っからせてもらったのだよ」
既に呑んでいるのか、若干赤ら顔のおじさん。
「嫌だった?」
不安げに、上目遣いで聞いてくる美雪。
あまりの可憐さに動揺しそうになるが、平静を装う。
「いや、ちょっと面を喰らったけど、嬉しいよ、ありがとう」
自然と手が伸び、美雪の頭をなでなで。
「どういたしまして」
あぶね、思わずやってしまったが、嫌がられずに済んでよかった。
「さ~軽食も有りますので、始めましょうか」
宮原さんが飲食を用意し、5人で誕生日会を開始。
こういう団欒は久しいが、良いものだな…。
「ちょっと食い過ぎたか」
誕生日会が終わり、俺と美雪は離れに、亜紀は休憩。おじさんと宮原さんは就寝した。
「メンテ明けまで、まだ時間が有るな」
「そうね、まあのんびり待ちましょう」
ゲーミングルーム兼居間で、美雪が寝転んで寛ぐ。
「全く、年頃の娘がはしたないぞ」
「あら?哲也君私の事そういう目で見てるんだ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、揶揄ってくる美雪。
「まあ、16歳になった娘なら…な」
「そう…」
「……」
「……え?」
目を見開いて、こちらを凝視する彼女を余所に、仕舞っておいたものを取り出す。
「ほい、誕生日プレゼント。おめでとう雪乃」
「…まあ、流石に気付いてるわよね…ありがとう哲兄」
「どういたしまして。お前もあまり隠す気が無かっただろ?爬虫類が平気とか偶然にしては出来過ぎだしな」
「ああ…女子は普通蛇とか苦手だものね。まあ、言う通り隠す気はそんなには無かったわ」
そう言いながら、俺から箱を受け取った美雪改め、雪乃が取り出したのはプラチナのブローチ。
「いつの間に用意したのよ」
用意の良さに、かなり前から、俺が気づいていた事に、そして今日まで引っ張っていた事に呆れつつも、嬉しそうにブローチを首から提げてくれた。
「さて、話してくれるんですよね、おじさん?」
俺は先程から、縁側でニヤニヤ顔で出歯亀している、おじさんに声を掛けた。
「どこから話したものか…」
そう言いながらも、予め語る内容を詰めていた様で、スラスラ経緯を話し出した。
約二十年前。
これといって特別な意味を持つわけでも無いある日、悲劇は起こった。
「なんだって!?妻…子供たちが飛行機事故に遭っただと!!」
二十年前のあの日、美雪さん…若奥様が成長した孫を両親に見せようと、実家に帰省する為に乗っていた飛行機が墜落した。
「美雪!!」
「藤堂さん…残念ながら奥様は…」
「あああ…美雪…どうしてこんな事に…」
「奥様の方は救助が駆け付けた時には既にお亡くなりに…恐らく即死だったのでしょう」
絶望の淵に落とされながらも、医者の次の言葉で、希望の灯が灯る。
「幸いな事に、お子さんの方は、奇跡的に一命を取り留めました…ですが」
雪乃が無事。その言葉に居ても立っても居られず、最期まで言葉を聞かずに飛び出すが、またしても絶望が襲い掛かる。
「残念ながらお嬢さんは二度と目を覚まさないでしょう…脳死状態です」
「あの時は目の前が真っ白だったね…」
「脳死って…じゃあこの雪乃は…」
「あーうん。その幽霊を見る様な目を止めて貰っていいかしら?」
話の続きを聞くと、色々信じられない話のオンパレードだったが、こうして事実として、雪乃が目の前に居るので、信じざるを得なかった。
「つまり、脳死と診断された雪乃を、延命の為に冷凍催眠、仮死状態にして治療法の確立まで時間稼ぎをしたと」
「ああ、妻はもう帰って来ない以上、雪乃だけは失う訳にはいかなかったからね。当時最先端だった、身体丸々仮死状態に出来る技術に縋ったんだ」
「そして、事故後十年で、脳死からの完全蘇生が確立されて、雪乃を目覚めさせたと」
「ああ、目覚めた雪乃が、第一声で悲鳴を上げたのは吃驚したが」
「そりゃ…私の記憶では、直前まで恐怖を味わっていたのに、起きたら全身管にテープ塗れで拘束までされてて…」
当時を思い出したのか、自らを抱き身体をブルブルと震わす雪乃。
「あ‼もしかして高所恐怖症と触手嫌いって…」
「それ今触れる!?…そうよ」
なんとなく、高所恐怖症には、思い当たりがあったけど、触手も深刻な事情だったのか。
「そこからは艱難辛苦の道のりだったな」
「そうね、私はお母さんの訃報、自分が寝たきりになっていた事のショック。そして自分が世界から十年間取り残された現実と、過酷なリハビリで頭がおかしくなりそうだったわ」
「そんな雪乃を傍で支えられなかったのは、父親として不甲斐無いばかりだった」
「お父さんも色々大変だったからね、仕方ないわよ。それに、戸籍上は生きてる事になっているのよね、私。どういった手を使って誤魔化してるかは…知りたくはないけどね」
「蛇の道は蛇。ということだ」
色々有るんですね。
「それじゃ私は先に寝るわね。おやすみなさい、お父さん、哲兄」
これから、幾らでも話す時間は有るので、今日はお開きにして、雪乃は先に本宅へ戻っていった。
「さて、どこから話そうか」
おじさんとサシで向かい合い、話を聞く。
「結論から言えば、墜落事故は私を狙った敵勢力の犯行だった」
様々な分野で著作権を持ち、藤堂家を世界有数の資産家へと押し上げたおじさん。
その手腕は、先代様の後を継ぐ以前から片鱗を見せており、危機感を募らせた勢力から、刺客を差し向けられた結果。凄惨な航空事故となった。
「本来だったなら、私も同行していた筈だったが、急遽用事が発生し、私だけ残らなければならなくなった」
「犯人はそれを知らずに?」
「ああ、連中はお互いに、同業者の存在を知らずに、複数のグループが存在していた。事前に幾つかのグループを看破し、排除出来ていたので、安心していたのだが…」
おじさんが乗らなかったにも関わらず、何故ハイジャックをしたかは、憶測でしかないが、恐らく万が一を恐れて、ターゲットを知らせずに、目的だけを遂行する様に指示していたのではないか、そういう結論となったようだ。
「無我夢中だったよ。他の御遺族の方々を纏めあげ、真相究明を各機関へ要請したが、圧力のせいか全て退けられた」
今思い出しても、腹立たしいのか、語気を荒げながらも、悪事に加担した者を末端から中心まで、時間を掛けて始末していったという話は、鬼気迫るものがあり、これは雪乃には聞かせられないなと納得した。
「その過程でな、方々に莫大な貸しを付けてやってな、そのお陰で雪乃の蘇生にも漕ぎつけたし、DIYシステムの開発にも、余計な口出しをされずに済んでいるんだ。美雪の仇もあって、派手に立ち回ってやったさ」
「それで、ちょっかいを掛けてきた連中は…」
「勿論。あらゆる手を尽くして消えて貰ったよ」
そりゃそうか。俺だって身内が殺されて、報復の手段があるのなら、迷わず手を打つだろうからな。
「とまあ、色々有ったが今は平和と言えるかな」
「何か懸念でもあるんですか?」
「最近、賄賂やハニトラが露骨になってきていてな。目的は判らんが、注意を怠る気は無い。哲也君もうちに出入りしている関係上、気を付けるといい」
「ええ!?うちの両親は大丈夫なんですかね」
「心配ない。親父さんもご母堂も武術に秀でているし、護衛も付いているからね」
そういえば、親父が柔道、母さんが合気道をやっていたとか言ってたな。
おじさんの口ぶりじゃ、現役レベルで戦えるって事か。全く知らんかった。
「これで、知っていて貰いたい事は一通り話したな。じゃあ私も寝るとするか、おやすみ」
そう言って、おじさんも本宅へ戻っていった。
「…」
知っていて貰いたい事、か…
(…ま、これは明日考えるとするか)
俺も、疲れてしまったので、ゲームはまたにして、寝るとするか。
「雪乃、ちょっと良いか?」
「うん?」
翌朝。
おじさんも亜紀も仕事で留守にしていて、別宅で雪乃と2人になったので、少々確認事をする。
「今から二十年以上前…雪乃にとっては十年とちょっと前になるか。なあ、俺と俺の親父と昆虫採取をしたことを覚えているか?」
「うん?うーん…それって当時の私は五歳よね?覚えが無いと言うか、多分参加自体拒否りそうなんだけど…」
「…ふむ」
「どうしたの?」
「それじゃもう一つ、俺と庭を散策中に、蜂の巣を突くような事をした覚えはあるか?」
「うーん…覚えがあると言うか、それって前にゲームでハチミツを取る時のハプニングじゃ?」
「…そうか」
「もう!!さっきからどうしたのよ一体?」
俺は少し迷ったが、雪乃にここ最近の疑問を打ち明ける事に。
「え?私のお父さんが何かを隠してるって?」
「ああ」
「それって私の事…じゃないのよね」
首肯してから続ける。
「先に蜂の巣の件だが、あの時雪乃、お前は俺に顔を寄せて、「哲兄は相変わらずね」って確かに言ったんだよ。お前は発言そのものを認識していない感じだったが」
「ちょっと待って…確かに私がそんな事言ったの?」
「間違いない、だからこそ、何かハチの巣に纏わる思い出が無いか訊ねたんだ」
「どういう事?そんなの訊ねる以前の話じゃない?」
そこで、俺の記憶の欠如と、おじさんが嘘を吐いている事も告げる。
「さっきの昆虫採取の話ね?結果は惨敗だったけど、お父さんには上手くいったって伝えた。でもそれはそのまま伝えられた話を鵜呑みしただけじゃ?」
「確かに、それ単体ならそうも言えるんだが…俺の微かな記憶では確かに、俺、親父、そしてもう一人居たんだ」
「…成程、お父さんが、あたかもその場に居て、一緒に甲虫を捕まえた風に言ったから、嘘を吐いていると判断したのね」
「そうだ、でも、あの場に居た3人目はおじさんではなかった」
「気を遣って、成功したって言った事を覚えてるんだものね」
「正直、何が確かな記憶で、何が間違っているか解らない。でも、あの場におじさん以外の3人目が居た事は自信をもって言える」
そして、それは雪乃ではない。あくまで俺の記憶では、だが。
「うーん…なんかふわっとしていて、雲を掴むような話ね。でも、私が自分の認識外で、意味深な言葉を発している以上、私にも何かあると考えて良さそうだわ」
なんとなくではあるが、雪乃も違和感を共有してくれた。
「それにしてもハチの巣かぁ…アナフィラキシーショックとか危ないのに、普通突くかしら」
「まあ、当時はガキだし」
「まあ…そう言われるとそうなん…だけ…ど…?」
「どうした?」
「ッ…」
急に頭痛に苦しみだした雪乃。
「おい!大丈夫か!?」
雪乃を介抱しつつ、慌てて人を呼ぼうかとしていたら。
「待って!!…ハア…ハア…。…大声出してごめんなさい。ねえ哲兄、蜂じゃなくて蟻の巣を突いた記憶は?」
「蟻の巣?…ッ!!」
何かがフラシュバックし、酷い頭痛に襲われる。
今度は雪乃が俺を介抱してくれ、俺も落ち着くまでジッと耐えた。
「…蟻だな。突いたのは蟻の巣だ。どうして忘れてたんだ…」
「うん、凄かったよね、全身蟻まみれで絶叫してたよね」
「ああ、雪乃は腹抱えて爆笑していたな」
「だって、あまりに滑稽な上に、哲兄のお父さんがバケツで水を浴びせるんだもの」
そうだったな。流石に毒性の弱い蟻とはいえ、あまりに群がられて、親父に助けられたっけな。でも…。
「あの場には、俺と雪乃、親父もおじさんも居たな」
「ええ」
「そしてもう1人」
「うん…」
「恐らく、おじさんが隠してるのはその人物についてだ。そして虫取りに同行していたもう1人も…」
「その人物って訳ね…」
「なあ…雪乃…」
「…ダメ…今はまだ、覚悟が出来てないから」
「…分かった」
おじさんも言っていた。今は私を信じてくれと。
美雪が雪乃だったという事は、あくまで俺が自身で指摘したまでだ。おじさんから打ち明けてきたわけではない。
つまり、おじさんにとっては、秘密でも何でもなかった。そういう事だったのだ。
…正直、これ以上は恐ろしくて踏み込めない。
親父や母さん、おじさんが何らかの事情で、そして何らかの方法で俺と雪乃の記憶を改竄したんだろう。
でもそれで良いじゃないか。雪乃は生きていた。うんそれでいい。
「良し、アプデで色々と追加されてる様だし、早速ログインするぞ」
「「おー」」
2人で折り合いを付け、見計らったようなタイミングで亜紀が帰宅。
一応、隠し事について2人で亜紀に詰め寄ってみたが、今は何も言えないの一点張り。
「ごめんなさい、お嬢様にも哲兄にも悪いとは思うけど…」
これには仕方ないなと諦め、3人でゲームを始めた。
アップデート自体は、俺が昨夜のうちに3人分のPCで済ませているので、直ぐにログインできた。
「こんにちはー」
「おう、テツ達はあのまま寝たんだな」
「ああ、疲れたからそのままな。ところで変化はどうだ?」
「因子パラメータが追加されたってのは、皆知ってるし、まだ把握しきれてないから置いといてそうだな。樹海を抜けた先に、造船ドックが完成したな」
「おお、確か随分前に港の建設が始まってたが、遂にドックまで出来たのか」
「まだ見てないから分からんが、相当立派な造船所が出来てるっぽいな」
早速大きな変化が起こってたようなので、見に行く事にした。
『おおお~~』
ユキとアコも含め、4人で樹海先の港に到着。
「凄いな、こんなに立派になるとは」
「随分長い事、開発中だっただけあるな」
「見て、巨大な漁船だわ」
「本当だ、あそこに卸売市場も有るし、これからは海鮮の流通も盛んになるのね」
今まで同様、娯楽施設や屋台が立ち並んだビーチはそのままに、立派な港町が存在した。
「あ、あそこにテレポーターがあるぞ」
「なんだ、態々歩いてくる必要なんてなかったのか」
事前にアクセス方法をしっかりと確認するべきだったか。
「えーと、漁船に輸送船、巡洋艦に戦艦、おいおい空母まで有るのか」
プレイヤーやNPCは、これらの船に同乗し、近海や遠洋を旅する事も可能だそうだ。
「しかも、大型船には物資限定のテレポーターまで設置してあるそうだ」
これで、いよいよアースの入植も本番突入って感じか。
港町の見学を終え、一旦PAに帰還した。
「良し、一気にLvを上げるとするか」
俺はLv上げに、他の3人も一緒に上げると言うので、一緒に教会へ向かう。
事前にチェストの中身や装備類の整理整頓もしておいたので、直ぐに行動に移る。
そしてここで嬉しい事実が発覚。
なんと、アプデで転生時のみ、お金のロストが発生しなくなるように、調整が入っていたのだ。
更に、一々転生、Lv100、転生と繰り返さなくても、金が許す限り一括でLvを上げれるように。
これのお陰で、一度に大金を持ち込んで、一気にLv上げるのがかなり楽になった。
まあ、便利になった事は嬉しいが、以前の仕様も過度なインフレ防止策として嫌いではなかったけどな。
さて、Lv上げをするか。
「Lvは…うん。再誕後の覚醒9回転生9回Lv100までイケるな」
Lvのシークバーを動かし、必要金額を確認。
「では、残り3回の覚醒をどれにするか」
現在の因子の覚醒数は、[獣人]13[吸血鬼]8[農家]3[百姓]2[蛇使い]7。
パラメータは[生命]8[幸運]10[速度]10[観察]5。
となっており、因子パラメータ共に、後3回覚醒出来る。
「因子は[蛇使い]一択だな、これでギフトの【蛇使い】を開放して今回の再誕で取得しよう」
パラメータはどうしようか。
「[観察]のギフトも解放したいし、【生への執着】も強化したいから、[生命]2の[観察]1にするか」
こうして、再誕3回覚醒9回転生9回Lv100になったので、4回目の再誕を行う。
「ギフトは【蛇使い】で決まりだな」
でも一応解放されたギフトも紹介…の前に、[蛇使い][生命]の覚醒数が一定数を越えた事で、スキルが強化されたので、そちらを先に紹介。
<蛇壺>:毒蛇を2体使役する。→<高価な蛇壺>キングコブラを2体使役する。
<蛇笛>:毒蛇を2体使役する。→<名工の蛇笛>キングコブラを2体使役する。
<生命上昇>:[生命]が2上昇。→<生命強化>:[生命]が4上昇
<生命増加>:[生命]が1%上昇。→<生命増強>:[生命]が2%上昇
<奮起>:LPが30%以下の時、防御力が3上昇。→<早めの奮起>LPが40%以下の時、防御力が4上昇。
<奮闘>:LPが20%以下の時、攻撃力が3上昇。→<奮戦>LPが30%以下の時、攻撃力が上昇。
ぱっと見、シンプルに強くなった印象を受ける。
壺と笛が強化され、使役数そのままに、キングコブラを使役出来るとの事だが、どの位強くなるやら。
変化前でも、蛇はコブラだったので、キングというからには巨大化した筈だ。
[生命]のスキルは微妙だな。
無いよりは良いが、劇的には強くならない感じだ。
まあ、あくまでギフトの強化の為なので、オマケで多少は強くなれると思えば儲けもんか。
それじゃ、ギフトの紹介といこう。
【獣王の威光+1】範囲内の敵から受けるダメージを25%軽減。
[獣人]12回目の覚醒で強化されたギフト。
無印の時は、軽減率20%だったので、かなりの強化を受けた事になる。
このギフトが重複可能になるのかは、現時点では不明(少なくともシルクには無いと聞いた)だが、もし可能であるのならば、近距離での無敵化も夢ではないかも。
そうでなくとも、比較的覚醒数を稼ぐ事に、不利益の少ない[獣人]のギフトという事も、このギフトの強力さの要因だろう。
【猛虎の化身+1】移動速度とジャンプ力が60%乗算。
[獣人]13回目の覚醒で強化されたギフト。
以前は、そこまで強いとは思わなかったギフトだが、【速度】を取得し、[跳躍]を採用した今なら解る。このギフトは超強い。
無印でも、移動速度とジャンプ力に50%乗算は、数字上でも単純に二倍強化で強いし、[獣人]のギフトで[速度]と[跳躍]を強化出来るので、それぞれ10回ずつ覚醒させて【速度】【跳躍】を開放したら、[獣人]を覚醒させていくだけで、どんどん移動が便利になるのだから凄い便利。
スキルはそこそこ、パラメータ自身が強力な[速度]と[跳躍]を活かすには持ってこいのギフトだ。
【血の支配者】状態異常[出血]を無効化し、付近に居る敵を一分毎に10%確率で[出血]状態にする。
[吸血鬼]7回目の覚醒で解放されたギフト。
凄い今更カモしれないけど、状態異常について少し捕捉。
状態異常は、[出血]ならこう、といった感じで効果が固定されているわけではなく、状態異常の度合いや相手の耐性で効果や時間が変動する。
そして、[出血]は同じ[出血]を重ねていく毎に、ダメージとダメージ頻度と持続時間が伸びていくので、軽めの症状だからと放置していると、あっと言う間に死に戻る羽目になる。
以上を踏まえて言うと、このギフトは地味だけど超強力なギフトと言える。
一分に一度と、少々頻度に難があるが、その都度10%の[出血]抽選が発生するというのは、かなりいやらしい。
ミソなのは、[出血]の蓄積値が増えるではなく、10%を引き当てた時点で、無効化されてない限りは確定で[出血]状態に出来る点だ。
今のところ、状態異常は耐性こそ盛るのは難しくは無いが、無効化まで漕ぎつけようとすると、ギフトなどのビルドに大きな影響を及ぼす手段に限られるので、その点でもこのギフトは強力だと言える。
【富血】LPが1%減る毎に、物理ダメージを1%軽減する。
[吸血鬼]8回目の覚醒で解放されたギフト。
ネーミング的に、血が豊富ですよって事かね?
それで何で、追い込まれる物理を軽減するかは不明だが、そういうもんだと思うしかないか。
現状、あらゆる攻撃に物理、魔法、属性とそれぞれの属性を乗せる事が容易な環境で、過信こそ出来ないが、まあ強力な効果だと思う。
【凝血毒】使い魔の毒攻撃がヒットした場合、3秒間敵の移動速度を50%低下させる。
[蛇使い]6回目の覚醒で解放されたギフト。
文面的に、蜜蜂の毒でも効果を発揮する様だが…エグイ。
こんなに簡単に移動速度半減のデバフが使えて良いのだろうか?
何がヤバいって、パラメータでもスキルでも無く、移動速度そのものに影響を与えるのがヤバ過ぎる。
効果がエグイ分、対策を取る人が多そうだから、実際に活躍するかは不透明だが、ゲーム全体のビルドに影響を及ぼしかねない危険なギフトだ。
【溶血毒】使い魔の毒攻撃がヒットした場合、敵の[出血]耐性を低下させ、[出血]の効果が上昇。
[蛇使い]7回目の覚醒で解放されたギフト。
これはまたピンポイントな効果だな。
単体では【血の支配者】の方が汎用性がありそうだし、あちらは[吸血鬼]のギフトってのも大きいしなぁ…。
ビルド次第で大化けしそうではあるが、俺には無縁なギフトかな。
【サーマルアイ】使い魔の毒蛇が、敵のステルスを看破しやすくなる。
[蛇使い]8回目の覚醒で解放されたギフト。
これは中々に有能なギフトかも。
使い魔は、ペットや従魔と違い索敵がゴミで、ステルス看破なんて夢物語だ。
しかし、このギフトが有れば、ステルスを看破しやすくなるというのだから、ステルスアタックへの安全性が格段に上がりそうだ。
ただ、どの程度の効果が見込めるかが未知数なのが歯がゆいところだな。
【道具の追加】<蛇笛><蛇壺>で使役出来る毒蛇が倍になる。
[蛇使い]9回目の覚醒で解放されたギフト。
使役出来る毒蛇の総数が8になるという、ガチギフト。
総火力が二倍という、シンプルな強化に加え、囮も倍になるので防御面も強化出来るという、お得さも魅力的だ。
考えるまでも無く、強力なギフトなので、取得したいところだが、ギフトが無限に取得できるとも思えないし、他にも欲しいギフトが目白押しなので、恐らくこれを取得する事は無いだろう。
仕方ないので、使い魔の数や火力は他で補っていくほかあるまい。
【蛇使い】覚醒済みの因子[蛇使い]を取得。キャラメイク時に[蛇使い]を取得した場合、スキルの取得が可能になり、スキルも強化される。
[蛇使い]10回目の覚醒で解放されたギフト。
大本命、というか今回取得したギフトだ。
しつこいかもしれないが、取得理由を。
先ず大前提としてあるのが、今後の凶悪な毒攻撃に備える為だ。
このギフトが有れば、覚醒済みの[蛇使い]が得られ、覚醒直前まで行けば、それだけで毒防御力が50も確保出来るので、毒の脅威は相当に下げられる。
理由その2は、火力だ。
使い魔を主軸にしたビルド、所謂ジェネレーターを長い事やっているが、使い魔関連の因子を初めて重複させたのは割と最近だった。
その時に、重複に伴うスキルの強化の恩恵を目の当たりにし、重複の重要性を改めて認識した。
そこで、火力の高い使い魔を擁し、効果が便利かつ将来性抜群な因子という事で、[蛇使い]に白羽の矢が立ち、目当ての恩恵を同時に満たせる【蛇使い】を選んだのだ。
これで、毒防御の確保も容易になり、因子の重複に因る火力の増強も継続するし、キャラメイクで[蛇使い]を一回取得するだけで、スキルも強化されるので、これまで以上の火力が期待できる。
此処までは因子のギフト9個。ここからはパラメータのギフト9個を紹介しよう。
次回も二週間後位で。




