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第三十四話

~前回までのあらすじ~

NPCにトレインをかまされ、ヘルメットのロストと散々な目に遭いながら

ワーム狩りで金を稼ぎ、犬を痛めつけた。

そして失ったヘルメットの代替品を求め、アンデッドの浄化を始めるのだった。

 本日二度目の廃都にやって参りました。

 予想通り、事態が動いたのか慌ただしい気配が漂っている。

 気配を辿りながら、廃都の中心地へと向かうと、徐々に同業の姿が増えていく。

「居たか?」「あっちに居たぞ!!」「クソッまた消えた!!」

 聞き耳を立てていると、このような声が聞こえてくる。

 良く解らんが、味方が引っ掻き回されているのはハッキリした。

「取り敢えず様子見から始めるか」

 先程と変わり、地上にもアンデッドが闊歩しているので、手当たり次第に浄化していく。

「あ、貴殿は先程の!!ところで、ドス黒い五体満足のレイスを見ませんでしたか?」

「ん?ゴーストじゃなくてか?」

 さっき助けた同業からの問いに、問いで返す。

「はい、ゴーストよりも一層禍々しく、全身がどす黒く揺らめいていました」

「生憎とまだ遭遇していないな」

「そうですか…奴は非常に強力で狡猾です、お気を付けを」

「了解」

 同業達は、レイスの捜索を再開すると言い、再び捜索をしに去っていった。


「気分転換に下水も回ってみるか」

 マンホールから地下に降り、通路を進んでいく。

 魔法、科学双方で栄えた文明の残滓らしく、イメージとは全く違う下水道。

 インフラが未だに生きている様で、明るく換気の行き届いた下水は不快感など全くなかった。

 そんな下水を、浄化を挟んだり、かなり強い鼠と戦ったりしながら彷徨う事十数分。

「ん?…ッ!!」

 違和感を感じた時にはすでに時遅し。

「グッフォ!!」

 背後から<ブラストウィンド>を三連発で受け、[スワンプマン]が発動し、瀕死に。

「クッ、なんなんだ!?」

 急いでタブレットでLPを全快させる。[生への執着Lv1]と[死への免疫]のお陰で、5%回復のタブレットでも全快するから、こういう時に隙を晒さずに即全快できるのは強いな。

 体制を立て直し、ドッペルと一振りを発動。

 使い魔は、魔法の範囲外に居た豚を除き、<蛇の王>とガーディアンですら打倒され、急ピッチでリスポーン中。

 そんな中、悪寒が走ると同時にガーディアンが何かを攻撃。

 急いで振り返ると、先程話に出てきたドス黒いゴーストだった。

 既に300以上リスポンした蜂が黒いゴーストへ向かうが、杖での格闘戦や魔法で悉く撃退される。

 一応毒爆撃は透過されずにHITしているようだが、ダメージは微々たるものだ。

 そんな蜂達が稼いだ値千金の時間で、強力な使い魔がリスポン。

「さあ、反撃といこうか」


「オラァ!!何処に行こうってんだゴラ!!」

 奴の周囲足元を畑で固め、至近距離でランタンのデバフを浴びせつつ鍬を振るう。

 五重のデバフに<魔道人形>のモルヒネ光線が刺さり、思うように転移できない黒いゴーストを、ひたすらにボコる。

 それでも果敢に反撃を試みてくるが、狭い地下空間で離れられない豚と、傍で俺を守護するガーディアンが悉く無力化し、一方的に攻め続けている。

 だが、此方のレイス系への攻撃手段が少ない事も有り、中々の泥仕合の様相を呈してきた黒いゴースト戦。

 それでも漸くといった感じか。奴のLPが3/4を切った辺りで事態が動く。

「うお!?オートスキルか!!」

 奴の周囲に魔法陣が四つ浮かび、そこからゴーストが召喚された。

 しかも、内2体が黒いゴーストに重なると、奴のLPがほぼ満タンまで回復してしまった。

「っざけんな!!」

 まあ、一回だけなら許容出来るな、とか思ってたが、その後何度追い詰めても25%区切りで召喚からの融合回復をかまされ、すごすごと敗走する羽目になった。

「っという感じで、一気に決めるか、持久戦覚悟で臨むかだな」

「そうですか…情報感謝します!!」

 黒いゴーストも、深追いは不味いと思ったのか、多少追い縋って来ただけで、俺が地上に出るとあっさりと引いた。

 そしてこれらの情報を、同業に伝え、帰還してログアウトした。


「さて、あの黒いのはどうなったか」

 墓地で猪と鼠を痛めつけ、後はギルたちに任せてエルフィンに跳ぶ。

 そして戦況を確認したところ、あの黒いゴーストこと[ハイエルフスペクター]は浄化されたとの事だ。

 でも残念な事に、スペクターはあの1体だけでなく、複数…というか今も増え続けているみたいで、廃都内は地獄絵図となっているらしい。

 今日はサシで浄化するために、高品質な聖水もどきをごまんと持ってきたからな、覚悟しとけよスペクターめ。

 いつもの様に、リソースの確保をしつつ、スペクターを捜索。

 が、こういう準備万端、という時に限って中々遭遇出来ないもので、さっきからドローンと蜂の空戦を眺めるばかりだ。

「居ねーよ…現在進行形で増えてるんじゃないのか?」

 おまけに、[生命]が高い俺がこうして身を晒してるんだ、そろそろ喰いついても良いだろ。

 なんて考えてたら、慌ただしくなった豚が消し飛び、俺も大ダメージ受け瀕死に。

「来やがったな!!」

 即座にタブレットで傷を癒し、聖水もどきを呷る。

 これでアンデッドに対しかなり強くなれるので、確実に仕留める…。

「何で3体もいるの…」

 開幕、豚が盾になったにも関わらず、異様にダメージを受けたと思ったら…。

 そら単体でも<ブラストウィンド>三連発してくるようなのが、3体も居れば豚越しにも壊滅的な被害を受けるわ。

 気を取り直し、リスポンした使い魔にじゃぶじゃぶと聖水もどきを振り掛ける。

 これで物理一辺倒の使い魔でも、奴らにダメージが通るのだ。

 俺自身も聖水を被り、体内体外共に聖水塗れになり、奴らに突っ込んだ。

 流石のスペクターも、全身聖水塗れの矢鱈眩しい奴が突っ込んでくるとあっては、危機を感じたらしく早々に逃げの一手を繰り出そうとした。

 しかし、それより早く肉薄し、ランタンのデバフを浴びせ、ドッペルと一振りでうち1体を包囲し、<魔道人形>×2のモルヒネ光線で完全に拘束。

 どうやら聖水が刺さった事で、拘束が完全に決まったようだ。

 残りの2体には逃げられてしまったが、今はどうでも良い。

 後はこの動けない奴を浄化するだけだ。

 ただでさえ、聖水のバフで天敵と化した使い魔がしゃぶる中、駄目押しで聖水を放る事で、アッサリ(一時間掛かり)とスペクターを浄化した。


 採算度外視で、高品質な聖水もどきを投入した事で、懐は急激に冷えるがその分功績もドロップ品も得られてるので、収支は十分プラスかな。

 そんな事を考えながら、スペクターを計3体浄化したところで、コスト2000分の聖水もどきが底を着いた。

「つか、俺がこんなに身を削って頑張ってるっていうのに、肝心な御上の精鋭部隊は何処にいんだよ」

 聖水の支出でイライラが募り、グチグチ言いながら帰還。

 そしてクレーマーとして部長に会いに行く。

「精鋭はいずこに」

「軍事基地から溢れるアンデッドを抑えるので精いっぱいなんだ」

 そう言われればもう何も言えないな。

 仕方ないので、俺が如何に身を削って、スペクターを3体も浄化したのかを、かなり誇張して伝え、評価に反映するよう頼んだ。

 これでちっとでも上等なアウトプットになると良いが。


「というわけで、聖水もどきは全て使い切ったとさ」

「いやいや…嘘だろ?コスト2000分だぞ?」

 聖水が無くなったこと事をマッドに伝え、ついでにもっと作るように泣きつく。

「あれだけでも売れば軽く500万は下らないんだぜ…?無茶しすぎだろ…」

「まあ、無理を言ってるのは理解している。だからこれを進呈しよう」

 [黒いエクトプラズム]:黒く染まった霊魂。超一流の触媒になる。

 [液状化した魂]:物質化した霊魂が更に液状化した物。超希少な触媒。

「どうだ?」

 これらをそれぞれ3つずつマッドに進呈。

「…これは…ヒヒ…良いぜ、価値に見合った聖水もどきを用意させてもらう」

 先程スペクターからドロップしたアイテムで、マッドを納得させる事に成功。

 この二つはレアドロップなので、かなり運が良かったと言える。

 これで聖水の供給には目途が立ったので、引き続き浄化作業を続けるとしよう。


「ありがとうございました」

 担当してくれた従業員の見送りを背に、店を出る。

「ふぅ、散財してしまったな…でも必要経費だしな」

 ちょっとした用で会社に顔を出し、ついでに街にも寄ってお買い物。

 帰宅したら丁度昼時なので、俺、美雪、家政婦の宮原さんと昼食を食べ、一服。

「さて、やっていくか」

 心身ともにリフレッシュした後、ゲームにログイン。

「まだソロ活動は続くのね?」

「ああ、頑張れば頑張る程強力な装備になるからな」

「フフ、こっちも各々頑張ってるからね、アップデート後にパワーアップした私達を見せてあげるわ」

「それは楽しみだ。それじゃ俺は巡回に行って来る」

「行ってらー」


「おうテツか、今日は俺達が一緒だからな」

「ウィルにカイルか、宜しく」

 ギルが手配しといてくれた団子を山ほど持ち、3人で墓地を回る。

「む、またイヌ科が来るようになってきたか」

 鼠や猪に混ざり、イヌ科が少しだけ顔を覗かせる。

「ならうんざりする程喰らわすだけだ、カイル!!テツ!!、獣共にマッドスーロイングアタックを掛けるぞ!!」

「「応!!」」

 と勢いに任せて合わせたが、なんだマッドスローイングアタックって?

 いや、某三位一体の必殺技を模したいのは分かるが…。

 取り敢えず迫る獣共に、ウィルが先頭に立ち、カイルが真ん中、俺が最後尾に並び、迎撃を開始。

 初手はウィルがランタンを激しく発光させ、獣共の目を潰す。

 相手が怯んでいる内にカイルが獣共を放り投げ、一ヶ所にまとめる。

 仕上げは俺が塊に団子を投げるんだが、これ態々連携組む必要があるのだろうか?

 でもおっさん2人が満足気なので、仕方なくそのまま付き合う。

 暫く順調に進んでいたいたが、ウィルが異変を察知して叫ぶ。

「気を付けろ!何かが来るぞ!!」

「あいつは…[ベアイーター]だ!!」

 俺の視界にも入ったそれは、鼠の大群だったが、名前が随分と物々しい。

「なんだそれ?」

「ベアイーターは名前の通り、熊を喰う鼠の事だ」

「だが、熊を喰うというのは本当だが、実際はそれ以上の大物を喰らった事例も在る…例えば竜種とかな」

「ワーオ」

 これはタフな展開になりそうだ。


「ベアイーターは群れで行動し、リーダーを中心に高度過ぎる連携を武器に大物すら容易に狩るという、鼠のモンスターだ」

 接敵するまでウィルの解説を頂く。

「個々のスペックは?」

「鼠といえど侮りがたいぞ、でなければ竜狩り何て夢のまた夢だからな」

 量と質双方を併せ持った超強敵といったとこか。

 だが、俺は既にこいつ等に対する勝ち筋を見出していた。

 何のことはない、いつも通りにやってれば勝てる。そう確信した。

「2人共俺の後ろに。[ドッペルゲンガー]<鍬の一振り>!!」

 同位体を生成し、CAで地面を一気に畑化。

「ウィルはランタンのCAを、カイルは鼠を手掴みで外に投げてくれ」

 後は只々同じ作業を繰り返すだけだった。

 鍬で畑を修復しつつ、使い魔が鼠を痛めつけける。

 それでも柵を越え、鎧をスルーして俺らが構える畑の中心地に来た鼠は、俺のランタン五個と、ウィルの超強力なデバフに晒され、傍でリスポンした使い魔や、ガーディアンに蹴散らされる。

 そして、それらに耐えて何とか牙を届かせようとする鼠の攻撃を、追い込まれて傍に居るしかない豚に吸われ、カイルに手掴みで畑の外側に放り投げられる。

 この単純かつダメージを負う要素が皆無な単純作業で、時間こそ掛ったがベアイーターは討伐された。


「しかしその鍬、反則過ぎるだろ」

 カイルが呆れ気味に指摘する鍬の性能。確かにこれが無ければ楽勝どころか、無理ゲー状態だっただろうな。

「フフン、俺の得の高さのお陰だ」

「否定できないな…実際そんな逸品を送ってくれるなんざ、お前さんはハイエルフに気に入られてるんだな」

 とんでもないレベルで酷使されたけど、それは言わぬが花か。

「まあな、さて、今回は数が数だったし、団子で屈服させれなかったから、まだまだ鼠は来るのかね?」

「どうだかな、少し様子を見るしかなさそうだが…」

 そうウィルが呟いた次の瞬間。

「キュ―キュー!!」

 コチラを発見した鼠が騒がしく鳴くと、結構な数の鼠が一目散に逃げて行った。

「成程。墓地には来るけど、人を見かけると逃げる様になったのか」

 団子で一定以上痛めつけると、種類に応じた怪物が出現して、そいつとの戦闘結果で、種族毎の墓地に対するアクションが変化する感じかな?

 そうなると、ウィルとギルと回った時に出た、ヘルハウンドは謎だが、アレは偶然と割り切るとして…。

 対応した種族を団子で痛めつければ、応じたモンスターが出現するというのは、あながち間違った推測ではないだろう。

 まあ、そんな感じでまだまだ道半ばだが、一歩二歩前進した感じかね。

 その後も巡回を続けたが、鼠はこちらを認めると逃走し、猪は変わらず襲ってきて、イヌ科は極僅かしか登場しなかった。

 いい感じに成果が出てきているな。

 巡回を終え、事務所で解散し、PAに帰還した。


 マッドが用意しといてくれた聖水もどきを持って、廃都へ向かう。

 到着した現地では、廃都の占拠は目前といった感じで、掃討戦の様相を呈していた。

「ようやく終わりが見えて来たってか」

 自力では聖水を、しかも非常に高価な代物をじゃぶじゃぶと投入して、一時間かけてやっとこさ1体浄化出来るスペクター。

 そんなのがワラワラと湧いて出ていたのだ、流石にそろそろ終わりが見えないとやってられんよ。

 そんな思いを胸に、これで締めにする為に、今日も廃都へと足を踏み入れる。

 早速ゾンビに引き寄せられ、危機に瀕している同業を発見。

 急いで接近し、ランタン光を浴びせ、足元に畑をお見舞いする。

「ヒ!?え?助かった…」

 突如足元に現れた畑が、ハイエルフゾンビを宙に押し上げ、拘束から解放された同業。

 色々と消耗しているようなので、ポーション類を少しだけ恵んでやり、はぐれた仲間の元へ連れて行ってやった。

『ありがとうございます!!』

 仲間は地下に居た様で、向こうも突如一人だけ消えた事で、パニックに陥っていた様だ。

 やはり、地形を完全に無視して吸い込める能力はヤバ過ぎる。と改めて実感した。


 廃都を散策しつつ、アンデッドを浄化していると、それは起こった。

「ん、中心地の方が騒がしいな…」

 其処はかつて、行政地区として政をしていた区画であり、ずっと瘴気に覆われていて近づけなかった場所だった。

 そんな場所で動きがあったとなれば、事態が動いた事は想像に難くない。

「議事堂が解放されたのか」

 騒ぎの中心に赴き、状況を確認すると、丁度瘴気が雲散霧消した瞬間に立ち会う。

 続々と同業が集まる中、議事堂からもこれまでとは明らかに格の違うアンデッドが姿を現した。

「元老院…」

 誰かが呟くのが耳に入り、改めてそいつ等に目を向ける。

 成程元老院か。王制を廃し、各氏族の長が席を持つ、エルフの政治や叡智などを束ねる最高の権力機構だったな。

 つまり、あそこから出て来たのは、歴代の長とその護衛、議事堂のガードやスタッフって事か…。

 睨み合う両勢力が続々と集う中、ふと何処からも戦闘音が聞こえない事に気付く。

 どうやら、全ての敵が消滅し、議事堂が解放されたって感じなのか。

 廃都において、未踏の区画は此処だけであり、この状況でこういう展開になったという事は、恐らくこれで廃都の浄化に決着が付くのだろう。

 そして両陣営、十分な数が集った事で、どちらからともなく前に出始め戦いの火蓋が切って落とされた。


「なんかめっちゃ追われるんだが!?」

 開幕直後、青を基調としたスーツやローブを纏うエルフ、赤を基調とする服装のエルフが、何故か俺に向かって突っ込んでくる。

 恐らく青色は水エルフ、赤色は火エルフの派閥なのだろう。

 どういう訳か、俺が水と火のエルフと所縁が在る事を看破したのか、脇目もふらず一直線に。

 そしてそれを見て、勢いよく割れる人混み。

 一瞬で捨て駒にされた事を察し、最高に温まるが、ここは手柄を独占出来ると割り切り、まずは逃げに徹する事に。

 …と思っていたが、流石にエルフの中のエリートの中のエリートが集う議事堂関係者。

 どいつもこいつも高位のアンデッドに堕ちてやがり、かなりの使い魔がゾンビに因って吸い寄せられている。

 しかも、ゴーストやその上位種のスペクターなんかも多数混じっているせいで、一瞬で周囲を囲まれてしまい、本能に従い垂直にジャンプをする。

 直後俺が居た場所に、見た事のない魔法が叩き込まれ、その中のいくつかは追尾性の魔法の様で、宙にいる俺に執拗に追い縋って来る。

 着地した俺は、急いでドッペルと一振りで誘導弾を防ぎ、直後ワープしてきた亡霊共を聖水を浴びる事でやり過ごす。

 これで、何とか開幕のラッシュをやり過ごし、敵の攻勢がやや落ち着いたので、急いで逃走を開始。

 先ずは敵の侵攻方向を限定する為、地下に潜る為のマンホールを目指す。

 中央地区から、最寄りのマンホールポイントまではそう遠く無い筈なので、普段なら問題無いが…。

「クソ!!吸われた!!」

 亡霊のラッシュを乗り切った傍から高位のゾンビに運悪く吸われ、僅かな逃走距離が振出しに戻される。

 そればかりか、周囲を凶悪なゾンビに囲まれた事で、大ピンチに。

 すかさず鍬を足元に叩き付け、防御陣を敷く。

 その間に全身殴打され、噛まれ、引っかかれた傷を癒し、状態異常を直す為と耐性を付与する為に、聖水を飲む。

 これで体内体外聖水塗れになったので、即死圏内は相当に遠のいただろう。

 依然余談の許さない状況だが、<不死の眷属>により召喚された蝙蝠が目くらましとなり、畑で宙に浮いた事で拘束が解かれる。

 この隙に包囲を飛び越え、マンホールを目指す。


「良し、包囲を抜けたぞ!!選んでよかった[跳躍]持っててよかった[速度]だな」

 ギフトで追加した[速度]キャラメイク時に選択した[跳躍]が無ければ、この窮地を戦闘以外で抜ける術は無かっただろう。

 そんな事を数舜考え、気を抜いた瞬間だった。

「え?嘘だろ!!ここで[速度]デバフかよ!!」

 ゾンビの集団の背後に控えるリッチっぽい集団から放たれた黒い靄。

 それが俺にヒットした途端、移動速度がデフォルトの状態にまで下がってしまった。

 周りに助けを求めようにも、既に戦域は廃都全体へと広がり、余っている手などどこにもない状況だ。

 独力で乗り越えなきゃならない事を悟り、牛歩で状況を打破する事を決意する。

 兎に角自身に対する聖水のバフを絶やさず、ゾンビの引き寄せガチャから外れる事を祈りながら後退。

 途中敵のデバフが切れるも、直ぐに靄が飛んできて、数発躱したところで再びデバフを受けてしまう。

 ただ幸いにも、引き寄せは豚と大型の<蛇の王>と<青龍>が受け持ってくれ、マンホールへの距離は着実に縮まっていた。

 そして多数の亡霊に行動を阻害されながらも、漸くマンホールまで辿り着き、地下へ落下。

 俺を追って、亡霊がワープし、遅れてゾンビやスケルトンも下水に降って来る。

 それらを尻目に、少しでも距離を取ろうと中心地から離れる。

 暫く下水を逃げ続け、遂に速度デバフを仕掛けてくるリッチを角で撒き、視界を遮りデバフを防止。

 更に狭い空間故に敵の攻める方向を限定し、数的不利を覆す。

「さあ、これから反撃といこうか」


 反撃宣言してからも、暫くの間右へ左へと舵を切り、ヤバい後衛を引き離せるだけ引き離す。

 そうして、リッチとその他を孤立させたので、ここから反撃を開始する。

 といっても力押しでは、リソース的に今纏わり付いて来る亡霊を処理出来るのが関の山なので、スケルトンやゾンビは聖水に頼らず浄化する様にしたい。

「それでも先ずは…お前ら亡霊だけはキッチリと始末しなければな」

 こいつ等だけは聖水を使ってでも始末を付けなければ、延々とワープからの魔法で危機が何時までも終わらないからな。

 更にアンデッドと距離を離し、曲がり角を曲がった直後、ワープしてきた亡霊共に短期決戦を仕掛ける。

「特別上等な聖水だ、取っときな!!」

 マッド謹製の特上の聖水を五つ放る。

 亡霊共が声にならない叫びを上げ、苦痛にのた打ち回る。

「流石最高の聖水を用意すると言っただけあるな。とんでもない効き目だ」

 驚く事に、これだけでゴーストはめでたく消滅。スペクターも4体残っているが既に浄化間近で、オートスキルで召喚されるゴーストも、リスキルでもしたかの如く出現即浄化の憂き目に遭っていた。

 これでスペクターのLPは四割を切っていたので、初手と同様に聖水を五つ放り、そのまま止めを刺した。

「良し、転移を使うアンデッドは始末。次はスケルトンとゾンビか」

 これまた厄介なのが大量に残っているので辟易してしまうが、ここは気合を入れて戦闘を継続する。

 変に待ち伏せしたとこで、ハイエルフゾンビの感知内に入れば、問答無用で引き寄せが始まるので、何とか一気に距離を詰めたいところだ。


「さて、ゾンビだけ、スケルトンだけなら、今の俺なら十分に安全マージンを確保して戦えるが…混勢は厳しいな…」

 亡霊系を始末した事で、奴らを観察する余裕が生まれ、少しの間逃げながら分断できないか試したが、結果は芳しくなく、単独での分断は捨てた。

 結果、採用した戦法は聖水バフに依るゴリ押しだった。

 変に奇をてらうより、これが一番手っ取り早いと判断した。

 尤も、先程の亡霊戦で、聖水の消耗が予定よりずっと少なかったからこそ採れた手段だったがな。

 聖水を呷り浴びて、一気に距離を詰める。

 本来だったら大ダメージ必至の、水属性で対象の保水を削る<ピュアバブル>。

 対策なしだったら[火傷]が確実な、火の壁を撃ち出す<ファイアーウォール>。

 これらの弾幕が、使い魔を砕き、燃やしていくが、アンデッドの攻撃に対し、異常な程耐性を高めている今、これらの魔法をものともせず肉薄。

 後はいつものドッペル一振りでと思ったら、保水だけはしっかりと削り切られていたので、急いで椰子の実で喉を潤し、改めて使用。

 後は野となれ山となれ、そう時間も掛からずにゾンビとスケルトンを殲滅した。

「聖水はまだ十分にある…イケる!!」

 いよいよメインディッシュ、リッチの集団が相手だ。

 まだ追い付いた様子は無いが、猶予は長くは無いだろう。

 残された時間で、出来るだけの準備をしよう。


「来たな…」

 下水の曲がり角の向くから、下駄に似た足音が複数近づいてくる。

 青白い燐光を発するそいつらが角を曲がり、御対面となった。

 敵の数は全部で6体。後方に控える別格のリッチ2体と、その護衛が4体といったところか。

 先手は向こうが取り、召喚を行使。この行動自体は予想通りだが、少々困った事に。

「オイオイオイ!?」

 召喚は想定通りだが、その数がおかしい。

「ゴーストとゾンビの同時召喚だと!?」

 これまで見た事のあるリッチは、ゾンビの召喚しかしてこなかった。しかし相対する4体の護衛リッチはそれぞれがゴーストとゾンビを1体ずつ召喚。計8体もの僕を召喚したのだ。

「そして本命はそれか…」

 後方に控える2体の別格リッチ。こいつ等の召喚したのは。

「スナリーガスター…」

 尋常じゃないタフネスを誇り、呪詛を撒き散らす超強敵が2体も召喚されてしまった。

 これで敵の数は総数16、一方こちらは数だけなら400を超えるが…。

 質と量の戦いが幕を開けた。


 メーデーメーデー。こちらテツ、アンデッドの集団に襲われている。至急応援を。

 兎に角、手札が不明な相手に接近は禁物。そう思い距離を取りつつ[速度]デバフを躱して距離を稼ぐ。

 一応、聖水を放ってみたが、なんと召喚されたスナリーガスターが聖水を呪い、無力化とかしてくれちゃったのだ。

 しかも俺自身に掛かっている聖水のバフまで解除してくるもんだから、奴らには聖水でのゴリ押しが効かない事に。

 だがこれで詰んだかといえばそんな事ない。

 要はスナリーガスターを処理さえすれば、聖水は効力を発揮するので、先ずは奴を隔離する事に。

 事前に作っておいた原木畑に誘い込み、ワープしてきた亡霊共々乱戦に持ち込む。

 スナリーガスターに因り、バフを解除され敵の攻撃が兎に角痛い。

 それでも何とか畑を駆使し、ゴーストを浄化。直ぐに追加のゴーストが呼び出されるが、その間にスナリーガスターを少しでも削る。

 再使用可能となったら、ドッペルも一振りも惜しげもなく使用し、何とか一回目のスナリーガスターの撃破に成功。

 即座に二回目の召喚が始まるが、この数秒間が値千金となる。

 急いで聖水の届く距離に走り寄り、五つ投げつける。

「良し!!先ずは2体浄化!!」

 即座に反撃とばかりにデバフが飛んでくるので、使い魔を盾に後退。

 遅れて再度召喚されたスナリーガスターが迫る。

 再び同様の手順を踏んで、先程より手際よく残りの護衛リッチを浄化。

 これで残すは本丸のみとなった。


 護衛を片付け、スナリーガスターを引き離せば、リッチは無防備と思っていたが、そうは問屋が卸さない様で、別格のリッチには何故か聖水が効かない。

 ただ、向こうの攻撃は問題無くバフで軽減出来るので、何かしらの要因で聖水の効果をシャットアウトしている模様。

 種は判らんままだが、聖水を投げても無駄な事がハッキリしただけでも良しとしよう。

 問題は、護衛を排除した事で、別格リッチが戦闘に本格参戦してきた事だ。

 こいつ等は、それぞれ水と火に長けていて、水は<ウォーターザッパー>、火は<ファイアーキャノン>という、超高威力の単発魔法を撃って来るように。

 幸い貫通は付いておらず、豚で防ぐ事は出来るが、その連射速度が余りにイカレ過ぎていて、豚が居ても何一つ安心できない位、死が間近に控えている。

 豚はあくまで保険、俺自身がキチンと回避運動を取る事を心掛け、別格と鎬を削る。


 暫くの間、お互いに距離を取りつつ牽制をしていたが、此方は聖水が効力を発揮せず、彼方はこちらの守りが突破できずに膠着状態に。

 しかし、一見互角に見えるかもしれないが、向こうは常時高威力の魔法を連射しているので、被弾のリスクがある以上、俺の方が圧倒的に不利だった。

 そんなダイアグラムを裏付ける様に、運悪く豚が全て俺の後方にリスポン。

 スナリーガスターから逃げる為、更に後方に退き、魔法で畑が破壊され、遂に魔法が俺に牙を剝いた。

「ガハッ!」

 凄まじい衝撃と共に、後方へ吹っ飛ばされる俺。

 運よく追撃は豚に阻まれ窮地に一生を得る。

 急いで立て直さねば。そう思いタブレットを噛もうとするが。

「ん、豚が何故生きている…そうか!!」

 俺は急いで曲がり角まで退き、ステータスを確認する。

「やっぱり![生への執着]が発動している」

 これのお陰で、ただでさえ堅い豚が鬼耐久になり俺を弾幕から守ってくれたのか。

 当然そんな状態で召喚された<不死の眷属>の蝙蝠も堅く、スナリーガスターを抑え込んでいる。

「この大一番で、偶然にもギフトが威力を発揮するか」

 まるで三文芝居のような展開だが、実に都合が良い。

 どうせ回復したとこで、ジリ貧は避けられない。ならばここは直感で選んだギフトを信じ、このまま瀕死のまま戦い続けよう。

 そうと決まれば、景気づけに[ドッペルゲンガー]と<鍬の一振り>を発動。

 現在の[生命]は1億以上に爆増しているので、幾ら[養蜂家]を重複させてるとは言え、蜂ですら尋常ではない堅さに変貌。

 スキルLv130も相まって、スナリーガスターを一方的に蹂躙している。

 フフフ、これまでの仕返しをさせてもらうとするか。


 あれから一時間。

 仕返しがどうとかのたまったが、別格リッチはそんな甘い相手ではなかった。

 スナリーガスターの瞬殺が引き金となり、スナリーガスターが召喚される時に発生する魔法陣から、攻撃魔法が飛んでくるように。

 水は<アイススピア>が、火は<ファイアーボール>がそれぞれ飛んでくるように。

 召喚と同時に攻撃が飛んでくる、攻防一体の魔法に、此方の攻勢は一気に鈍る。

 そのうえで、<ウォーターザッパー><ファイアーキャノン>は引き続き飛んでくるので、小型の使い魔の消耗は相当に増してしまった。

 それでも[生命]1億越えは伊達ではなく、<蛇の王>は弾幕を受けながら前進、鼠やマウスは判定の小ささと、一撃は耐えれるタフネスを武器に、果敢にスナリーガスターやリッチに挑みかかる。

 暫くは拮抗していた戦況も、徐々にこちら側に傾いて来た。

「良いぞ、少しづつだが押し込み始めたぞ」

 俺とリッチ2体は、使い魔と従魔を挟んで、およそ50m程の距離で相対している。

 そして今や、戦闘地点はリッチから20m程の地点に移っている。

 当然戦場が敵側に近づけば、戦力を戦線に送るのに、此方は不利なので、こういうシチュエーションはシーソーゲームになりがちだが、俺には<誘導>Lv130が有るからな。

 多少離れたところで、問題にはならない。大型の使い魔である<蛇の王>と<青龍>が、非常に堅牢な<山亀><金甲>のお陰で、戦線が下がらないのも大きい。

 リッチへ刃が届くのはもう間もなくだ。


「勝負あったな」

 蜂や鼠がリッチに肉薄し、弾幕を張るどころではなくなった事で、使い魔の火力が発揮される。

 畑の被害も激減し、俺自身の安全も増したから、ガンガン畑を増やし、ラインを押し上げた。

 これで、安全な位置から、スナリーガスターをランタンの範囲内に収める事が可能になり、召喚即浄化が出来るように。

 後は成す術無く使い魔達に転がされるリッチを眺めるばかりだ。

 首都が荒廃する程の時間…。打ち捨てられ、蓋をされた彼らは何を思うのか…。

 空ろな眼窩からは、感情こそ読み取れないが、何かを訴える様な…そんな思いが込められているような気がする。

 俺がそんな事を想っていると、リッチたちが膝から崩れ、使い魔の攻撃が止んだ。

「終わったのか…いや、まだ動く!!」

 しかし攻撃を再開しない使い魔達、此方に這い寄るリッチ。

「何か…伝えたいのか…?」

 傍に控えていたガーディアンも脇に退いて、リッチに俺の御前を譲る。

 ランタンの光に晒され、最早動く事も儘ならない筈のリッチたちだが、何がそうされるのか、震える手で俺の手に握られる鍬を指さす。

「これか?これに触れたいのか?」

 もう腕を動かす力も残されていないのだろう、肯定の動作も無いが、俺は2体の腕に鍬をそっと置く。

『『ああ…我らの子らは無事だったか…』』

 突如、二人分の声が聞こえ。

『『皆もそこに居るのか…ならば我らも参ろう』』

 リッチ2体の身体が塵と化し風化。

 これまでに見た事ない程大きく、力強い光球がランタンへ吸い込まれ。

『『ありがとう…』』

 この言葉を最期に、死闘の幕引きとなった。


 鍬を回収し、地上に出るとまだ戦闘が続いていた。

「よーし、聖水も余ってるし、もう一稼ぎしてくるか」

 早速、此方を捕捉したスケルトンが寄って来る。

 これをガーディアンが<ウォーターザッパー>を放ち粉砕。

「え?」

 状況が呑み込めずにいると、スケルトンが魔法で奇襲を仕掛けてくる。

 それが終わると、お返しとばかりにガーディアンが<ファイアーキャノン>を発射。見事スケルトンを灰にした。

「いやいやいや…」

 勿論どうしてこうなったかは、心当たりありまくりだけど…こんなんアリ?

 その後も、様々なアンデッドと遭遇するが、実体であろうと霊体であろうと、距離が有れば魔法、近接されたら骨武器で悉く駆逐していった。

「なんだこれ、敵が傍に来なけりゃ戦力に成らなかったガーディアンが、魔法を使うようになって常時戦力に…しかも魔法近接問わず霊体にも強いとか」

 掛け値なしに強い。これなら[聖人]を取る必要はないかもな。

 今後のビルドにおいて、より一層洗練出来る要素の獲得に、心が躍る。

 聖水の在庫セールと併せ、盛大にアンデッド狩りを行なった。


「という感じで廃都は無事解放されました」

「うむ、部下の報告と一致するな」

 俺がはぐれアンデッドをカモにしている間に、カギとなるアンデッドを浄化し尽くしたらしく、それ以上アンデッドがスポーンする事は無くなった。

 俺は廃都の解放が済んだと見て、速やかに帰って来たが、どうやら本当に解放出来た様だ。

「さて、報酬の件。覚えてますよね?」

「ああ、その前に少し…、…やはり君が浄化したのは先代の族長二名か…これは厄介だ…」

「放置が良かったと?」

「そうでは無い…功績が余りに大き過ぎてな…アウトプットに掛ける予算の目途が…」

 そのまま頭を抱える部長を尻目に退出。後日正式に通達があるとの事だ。

「…一応シーラ達にも報告しとくか」


「…えーと…」

 一旦PAに戻り、そこから干潟に向かおうと思ってたら。

「「お待ちしておりました」」

 PAには、跪くシーラとフレイアの姿が、それを困惑気味に見守るメンバーが。

『一体何をした!?』

 一斉に突っ込んでくる居合わせたメンツ。

 このままだと面倒なので、後で説明すると言い残し、2人を連れて干潟へ向かう。

「これは俺が浄化した2体のリッチの件…で良いのか?」

「「はい」」

 まあ、そうだよな。

 そしてホームに着くなり、一斉に跪くハイエルフ達。

 その中には現水エルフの族長である、ハイドライクの姿も有った。

 俺はシーラファミリーとフレイアに促されるまま、集会所のような場所に招かれた。

「此度は我が一族の悲願。先代様の供養をして下さり感謝の意を表します」

「幽閉されし、我が父を…偉大なる先祖を開放していただきありがとうございます」

 改めて、ハイドライクとフレイアが感謝の言葉と共に、お辞儀をするのに合わせ、残りの皆も腰を折る。

「この場合、どういたしまして…が正しいのか…先ずはこれを」

 如何にもむずがゆく、居心地が宜しくないので、話題転換に先代の触れた鍬をテーブルに乗せる。

 経緯を説明すると、一人ひとり鍬に触れていき、皆が涙を流す。

 ここまでリアクション取られると、ランタンの事を言い出し辛い…。

 なんて思っていたら、その場にいた俺以外の全員が、ジーっと俺の腰の左に提ているランタンを見つめてくる。

 仕方ないので、ランタンに先代2人の魂が宿った事を説明し、テーブルに置く。

 当然先程と同様…それ以上の反応をされてしまい、たじろいでしまう。

 一通り鍬とランタンを拝んだ一同は再び俺に礼をし、解放された。

 鍬とランタンは貸し出し中。少しの間仏壇的な使い方をしたいらしい。


 夜。

「あ~漸く一息付けるな」

「お疲れ様」

「でも、鍬もランタンも置いて来たから、する事が無いんだよな」

 鍬が無ければ耕作が、ランタンが無ければ戦闘力が半減するからな。

 そんな状態なので、様子を見に墓地に向かう。

 勿論ランタンが無いので、巡回に参加はしないけど、報告と人手を確認するためだ。

「あ、テツさんこんばんは」

 事務所にギルが居たので、廃都の状況を伝え、巡回の状況を聞く。

「廃都の解放が完了したのは聞きましたよ、お陰で人手が戻って来たので、これで一安心です」

「それは良かった。それで?団子の方は?」

「アレも続けますよ。というのもこれから廃都と軍事基地での犠牲者が、大量に安置されるので」

 …確かに動物や魔物が少しでも少ない方が良いわな。

「まあ、状況が改善されたなら良かったよ、それじゃ」

「ランタンが無いんですもんね、それではまた」

 ギルと別れ、ついでに樹海で採取をして今日はログアウトした。


 三日後。

 アプデを前日に控えた今日。鍬は既に返却され、いよいよ完成したアウトプットの受取日に。

 一昨日、ハイエルフから鍬を返却され、同日にアウトプットの目途が立ったと報告を受け、受取日が今日だと聞いた。

 これから受け取りに向かうのだが、その前に鍬に変化が有ったので、それを紹介。

 [復興の道しるべ]:死の星となったエルフィンを復興させた者へと送られた鍬。非常に丈夫で、かつ様々な希少素材を使った事で、様々な能力を得た。 [開墾範囲拡大:極][作物の質向上:中][生育速度上昇:極][畑の耐久値上昇:大][作物の耐久値上昇:大][開墾速度上昇:中][畑の蟲耐性:大][作物の蟲耐性:大][畑のアンデッド耐性:大][作物のアンデッド耐性:大][修復:中][畑の持続時間上昇:中][コスト低下:極] コスト400。

 元はこんなん。これが。

 [復興の道しるべ]:死の星となったエルフィンを復興させた者へと送られた鍬。非常に丈夫で、かつ様々な希少素材を使った事で、様々な能力を得た。更に、先祖の供養に使用され、多くの血族に祈られた結果、不壊の存在へと昇華された。 [自動修復:小][完全破壊耐性][不壊]。

 といった感じで、新たに自動修復能力と、何をされても破壊には至らなくなるOPが追加された。

 いや~、これは非常に嬉しい能力を得る事が出来た。

 例えどんなに損傷しても、損壊の一歩手前で留まってくれる。

 ちなみに装備が破壊されると、戦闘中だろうが問答無用で装備が解除されてしまうという、恐ろしい仕様になっている。

 まあ、俺はこれが怖くて、アパレルは初期装備仕様のシャツとズボン。

 可能な限り、デフォルトで不壊仕様の装備で身を固めている。

 ランタンも阿修羅の鎧もホルダーも、ギリギリまで耐久値が減るが、デフォルトで破壊耐性を持っている。

 これで、鍬も不壊仕様になったので、大分安心出来るな。

 尤も、以前のままでもまるで損耗しなかったから、その不安は無かったが。


「よく来たな、さあこれが君への報酬だ」

 教会の部長の部屋で、新たな装備と御対面。

「これが…」

「君の要望に沿った君だけの最高のアウトプットだ」

 渡されたのは、ティッシュボックス程のサイズの箱だった。

 非常に重く、メタリックな重厚感が堪らなくそそる。

 [フュージョンボックス]:最先端から最古のあらゆる技術を取り入れた究極のアウトプット。動力は内臓された小型の核融合炉で賄われ、演算には量子コンピューターを採用した為、尋常ならざる高熱を発する為、使用にはダメージと喉の渇きを伴う。

「ちょ!?なんか恐ろしいデメリットが有るんですが!?」

「仕方なかろう…君の要望と、功績に報いる為には、その程度の欠陥を許容しなければ、開発が先に進まなかったのだから」

「それにしたって…」

 続いてOP(付加効果)を見ていく。

 [HP追加:小][ARM追加:極小][SHI追加:極小][BAR追加:極小][出血耐性:極][麻痺耐性:極][混乱耐性:極][コスト低下:極][不壊]。 コスト1500。

「うわぁ…」

「満足してくれたかね?」

「[コスト低下:極]で1500…」

「技術者も唸っていたぞ?だが苦労に見合う品が出来たと胸を張っていた」

「そりゃそうでしょうよ」

 軽く説明すると、~追加ってやつは極小で[生命]の5%、小で10%。つまり、HPを10%他は5%分として、ゲージが追加されるというわけだ。

 この時点でLPの肩代わりをするステータスが40万程増えた計算になる。ヤバ過ぎる。

 これなら、ヘルメット時から失われた、各種防御力3000に代わりは十分に務まるだろう。

 そして出血、麻痺、混乱耐性。これらの極がどれ程の効果かはまだ判んないが、罹患する確率となった時の症状や持続時間に影響が出るので、これらを武器にする者に対し、相当有利になる筈だ。

 最後はコスト低下と不壊。コストの1/10化と破壊無効化だ。

 これで、戦闘中不意に外れる心配もなく、コストも元々の15000から、ヘルメットより軽い1500に下がってるので、転生時にもPAで増設したチェストを使えば、問題無く引継ぎが出来る。

 ヘルメット時に比べ、各種センサー類、防御力、マスク機能、ランタン効果と、失った物は非常に大きいが、それらを補って余りあるほどの品に仕上がっており、検証が楽しみだ。…デメリットさえなかったらな。

 ちなみに、パルス発生装置は、製造コストの面で断念したとの事だ。残念だ。


 さて、この喉に引っかかっているデメリット、先ずはこいつを検証しなければ。

「どれ、これで装備出来たはず…ってアッツ!!??」

 腰の左側に装着し、起動した途端超高熱を発し自傷ダメージが発生。

「ヤバいヤバい!!秒間100も減るんだが!!」

 まあ、その分状態異常耐性に、HP等計40万も得ているので、その分を考えると一時間程は実質ノーリスクと言えるが。

 今の俺の[生命]は170万を超えているので、[死への免疫]と併せればタブレットでも十分賄える程度のダメージかな?

 という事で、自傷ダメージは良いとして…問題は保水の減少速度だ。

「マジで減りが早すぎるな…」

 保水度100%で、大体二時間は掛かる枯渇速度だが、まだ数分しか経っていないのに、既に10%程の保水度が減っていた。

「大体5倍位か…これは椰子の苗を買い占めておかないとマズいな」

 デメリットの検証も済んだし、一旦ボックスを落とすか。

 このアウトプットの嬉しいとこが、装備しながらオンオフが一瞬で任意に切り替えれるところだ。

 これで一々付け外しが必要だったら発狂していたわ。

「良し、今度は実戦で試していこう」

 検証と言えば森、という事で現地へGO。


「いいねいいね!!」

 ジュウジュウと腰のあたりが熱せられながらも、狼の攻撃を受け続ける俺。

 と言っても、使い魔が勝手に倒してしまう為、そう長くは試せないが。

「雑魚の攻撃ならバリア系の回復が上回るから、被害は0に出来ると」

 なんだかんだで、防御力3000は、雑魚の攻撃を防ぐ分には便利だったので、同様の役目を務められたことで、安心感が増した。

「でも定期的にタブレットを噛むのは手間だな」

 まあ、手間とは言え一時間に4~5個程度で十分なので、余程追い詰められた状況でなければ大丈夫だろう。

「ん?自傷ダメージ…もしかしてこれ…」

 気になったら即時検証。急いで渓谷に向かう。

「とりゃ」

 現地に着くや否や、崖から渓流へ飛び降りる。

「ぐっふ!!」

 大体50万程のダメージを受けたので、続けて二回程投身を図る。そして…。

「スイッチオン!!熱い!!…良しキタコレ!!」

 俺の直ぐ傍には、自傷ダメージに因り、出現した[スワンプマン]が。

[スワンプマン]の発動条件は、LPが10%以下の時にダメージを受けるというもの。

 もしかしてと思い、LPを削ってフュージョンボックスで自傷してみたが。

「フフフフ…デメリットが最高のメリットに早変わりしやがった」

 アウトプットの強みが一つ増え、ホクホク顔で検証を終えた。


「ようテツ」

「おうマサ」

「聞いたか?バグスターのダンジョンが攻略され、バグスターの攻略度が20%になったようだぞ」

「ほほう、これで1/6か、中々先は長いな」

「そうだな。あと、ホーム近辺のダンジョンを駆逐した事で、大規模な首都計画が始まったみたいだぞ」

「ここののホームの拡張と同じ流れか」

 東西南北の安全の確保、又は危険の排除が完了すると、ホームの拡充が始まるのかな?

 どんな風に生まれ変わるか分からんが、楽しみに待っておくか。

「さて、俺は稼ぎに出てくるわ」

「行ってら―」

 マサを見送り、俺もバグスターの様子を見に向かう。

「おお、人足がいっぱい居る」

 バグスター都市化計画が大々的に発表され、ギルドの依頼にも載った事で、数多の出稼ぎ労働者がバグスターに押しかけている。

「何々。都市の構想は…アニマルと一緒で地下都市にするのか」

 それもそうか、ここには未だに無軌道に動き続ける弩級百足が4体健在だからな。

 それらに都度破壊されていては、運営なんて出来やしないだろうし、妥当な判断だ。

 ただし、その地下都市がダンジョンを再利用して作られるというのは驚いた。

 だって一個一個がとんでもない規模のダンジョンを、地下で開通して繋げるというのだ。

 砂漠の時の再利用とは規模が違い過ぎだ。

 でも再利用なら、規模に対して工期は比較的短いんだろう。でなきゃ意味がないわ。

 ざっくりと土地計画を読み、新たな土地へ出発。


「そうだな…どの方角に向かおうかな」

 ホームを起点に、惑星を六分割したうちの1/6を攻略し、残り5の地域を攻略するわけだが…。

「東西南北何処に向かうにしても、全部陸続きだから選択肢が多い」

 バグスターには湖やらは存在するらしいが、海は無いとの事で、基本的に全ての地域に陸路でいけてしまう。

 なので、各々の気の赴くままに行き先を選べる。

「良し、最初のダンジョンの北に進んでみるか」

 ホームを出て、北に向かって徒歩で進む。

 途中、ダンジョン跡地が目に入ったが、入り口は頑丈に補修され、人や重機が頻繁に出入りしていた。

「やってるやってる」

 ダンジョンの改修工事を尻目に北へ向かう。

 暫く進むと、これまでちょこっとでは有るが、何かしらの緑が点在していたが、ある地点を境に一切の緑が無い、荒れ果てた荒野が広がっていた。

「新たな地域に入ったか」

 気持ち新たに荒野に足を踏み入れると、早速蟲共の歓迎を受ける。

 相手は、これまでと変わり映えしない蟻だったが、なんとHPを持っていて、中々に堅かった。

 その代わりか、これまでのダンジョンで追加されていった、特性のようなものは無く、非常に楽に相手が出来たと言っておこう。

 周囲を見ても、多少は苦戦をしつつも、問題無く蟲を狩るいくつものグループが目に入る。

 どうやら十分に立ち回れる危険度の様だ。


 荒野を当ても無く彷徨い続け一時間。

 そろそろ昼飯の為にログアウトしたいので、引き返したいが…

「もう!蟲がウザいったらありゃしないな」

 北の地域に人が増えてきた影響か、そこら中に点在する穴から蟲が湧き続け、俺の帰りを妨害してくる。

 それに、ホームから離れる程蟲が強化されていくので、帰りは結構しんどい。

 俺が今いる地点がどの程度かは分からないが、単純な能力の高さも厄介だが、蟲がHP以外にもARMを持つようになったせいで、増々堅くなって余計に面倒だ。

 それでも地形に[速度]デバフが無い事も手伝い、順調にホームに近づき、蟲のARMが消え、今しがたホームの有る地域に帰る事が出来た。

 そこからの道中で、敵とのエンカウントはしたものの、あまりの雑魚さに寧ろ不安を覚えてしまった。

 改めて、人類の生存圏の外は総じて魔境だと思い知らされた。


「お、アニマルの攻略度が16%、エルフィンが24%になってる」

 ん-っと…この数値の増え方を考えると、何か条件を満たす度に4%ずつ増えているという事かな?

「ホームが4%で各地域が16%って事は…それぞれ攻略箇所、又はベースの建築箇所が4つずつある感じだと思えば辻褄が合うな」

 アースはベース4つに半島のベースにホーム分を足して24%。

 バグスターはホーム+ダンジョン4つで20%。

 フォレストは、ホームと保護した女王の木が3本で16%。

 アニマルは…、ちょっと自信ないが、ホームとクレーター発見で8%だったのが、16%になってるから、クレーターの五割が踏破済みって事か?これは憶測だから何とも言えないな。

 エルフィンは、ホーム2個と人工の山、渓谷の浄化と、巨大蛙の沼、廃都で24%。

 うん。アニマルだけは確信が持てないが、ロケーションの攻略かベースの完成毎に4%ずつ増えていくようだ。

 つまり、各惑星で計25のロケーションの攻略、ベースの設営をすれば、100%の攻略率になり、入植が完了するというわけだ。


 休憩後。

「それじゃあ行きますか」

 ユキにアコを連れ、フォレストへ向かう。

 ここ最近、下がり続けていた薬草の相場が、再び上がり始めているので、備えとしてトレントの薬草ドロップを狙いに行く。

「そういえばNPCの擦り付けってどうなったの?」

 とユキが思い出し、俺に聞いてくる。

「なにも?ギルドが把握してるかすら知らんし、まあこちらが言わないなら黙って有耶無耶にするんだろうよ」

「…NPC相手に言ってもしょうがないけど、モヤモヤするわね」

「その事で、一度社長に聞いてみたのよね」

「おじさんに?」

「そう。そうしたら予想通りで、そういう目に遭ったプレイヤーの反応すらも資料になるから、敢えてNPCの悪意は制限していないみたい」

 おじさん…まあパトロン様の意見は絶対なので、開発は悪くない…か?

「それと、AIの成長も同時に行っているから、狡賢くなったAIも良い教材だと言ってたわ」

「うーん、それほどまで人の感情の変動、AIの行動を観察して何をしたいのか」

「それは社長の考えだから、私は知らないわ。でも藤堂家の資産や影響力は、社長の代になってから、更に増しているわ。だからこの事業の方針も、きっと大きな意味がある筈よ」

 確かに、あのおじさんの事だから必ず意味が有るんだろうな。


 ホームから出て、西に向かう。

「確か女王の木がまだ見つかってない方角よね」

「みたいだな、もしかしたら前みたいに湧いたトレントをハントできるかもしれんし、向かう価値は有ると思う」

 2人も異論は無く、3人で西に向かう。

 整備され、歩きやすかった道も、ホームから離れる毎に簡易的な道にランクダウンしていく。

 終いには碌に踏み固められていない凸凹道…ならまだマシで、一切人の手が加えられていない、樹海そのままになってしまう。

 此処まで来ると、光も遮られ暗くてかなり不便だ。

 以前と違い、暗視も出来なくなったので、ランタンの光を頼りに進む。

 程なくして、一際大きい木に寄生する巨大トレントと、人が戦っている場面に遭遇。

「またこの展開か」

「そうね、でもいつだかの時とは比べ物にならない位キツそうよ」

 この地域最後のマザーツリー解放戦だからか、敵にクロスイーターが混ざり、同じ焼き増しイベントであっても、その難易度は桁違いに増していた。

 これは薬草稼ぎとか、甘い事は言ってられないかもしれん。

次回も二週ほどで。

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