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第三十三話

~前回までのあらすじ~

鍬を新調し、ウキウキで冒険していたが、悪質なNPCに厄介事を押し付けられ…

 黄緑色の粘菌と相対する。

 体高はおよそ5m。幅は20m程か。

 見た目こそ巨大だが、雨の日の後に見かける、黄色い菌類そっくりだ。

 さて、こんな見た目をしてるって事は、こいつも粘菌と同じ様な攻撃…。

「ッ!‼」

 敵の攻撃方法に当たりを付けたとこで、粘菌が動いた。

「っぶね!!」

 不定形とは思えない程のバネをみせ、飛び掛かって来たが、豚が上手い事おっ被さって下さり事なきを得る。

「ピギィーーー!」

 そんな豚が、数秒でパンパンになって破裂する様を見て、相当火力が高い事が判り、緊張が高まる。

 そして豚を消化したら、間髪入れずに次の標的の俺に飛び掛かって来たが、丁度リスポンした豚が、またしてもおっ被さって下さり事なきを得る。

 このまま無限ループしてくれれば良いが、そう都合よくいくわけないので、直ぐに畑の造り直しと補修を開始。

 またしても長期戦の構えだが、なんでこれだけドンパチやってんのに、誰も来てくれないかと言うと、どうも蔦蛇が他にもいる様なのだ。と言うのも。

「どうして救援に来てくれないんだ!?こっちはせめて道路は守ろうと、殺人未遂まで犯して…なんだと!?そちらにまで襲撃が…クソ…一体何のために汚名を被ったのだ…」

 とまあ、中々香ばしい通信をしてらっしゃるので、大体の状況が判明した。

 しかし、言ってる意味がマジでわからんわ、施設を守りたけりゃ、畑の無い反対側に誘導して勝手にくたばればいいものを、態々人気のある方に来たんだ。

 口では苦肉の策って風を装っているが、やってる事はタダの擦り付け、外道の所業だ。

 これは面白い事になるかもな。


 粘菌との戦いは、これと言って盛り上がりも無く終わった。

 どうやら、第一形態を倒した油断に漬け込んで、反射ダメージで混乱に陥れてからの、飛び掛かり奇襲で消化するという、一連のコンボで全滅に追い込む、一種の初見殺しボスだった。

 寧ろそれさえ乗り越えれば、飛び掛かりしか攻撃手段が無いので、楽に処理出来ました。

 ちなみにダメージ反射は変態後も継続していたが、俺とシルクの使い魔、マッドのポーションのデバフ、サチの<まきびし>、サーモンの従魔でボッコボコにしたので、これと言って被害は出ていない。

 粘菌も倒し、NPCを無視して帰還する俺達。

 今回のNPCの問題行動は、敢えてギルドには報告せず、無視を決め込む事に。

 G戦隊には、そちらの判断にお任せすると伝え、解散した。

 時間も丁度昼時なので、俺とユキもログアウトした。


 午後。

「で?どうするのよ」

「試金石だよ。プレイヤー同士なら運営が動くが、対NPCで向こうが加害者で、此方が特に影響力の無い無名のカンパニーの場合、どう処理されるのか気になるだろ?」

「ん?それだったらギルドに報告すれば良いじゃない」

「そこは向こうの出方を見たいからだ。言わば向こうは事故現場から逃げた轢き逃げ犯だ。自首、自分で上に報告しなければ、時間毎に罪が重くなる」

「ふーん…まあテツ君がうちのリーダーだから、任せるわ」

 イマイチピンと来ていない様だが、一応理解したユキが出掛ける。

 俺も行動を起こそうかという時、絶好のタイミングで来訪者が。

「こんにちは」

「こんにちはシーラ。ベストタイミング」

 ということで、経緯を説明。

「あらあら、中々性格の悪い事を。でもまあ相手の誠意を見るには一番の方法ですね」

 そう、仮にも態度口先では、申し訳なさそうにはしていたんだ。それが本心からなら即座に菓子折りの一つでも持って、謝罪と俺らの方に態々引き連れてきた事への釈明をしなければならない。

 そういう意味では、既にゲーム内時間で五時間ほど経ってるので、お里が知れる。

「それで、ギルドの俺への監視ってまだあるのか?」

「ええ、バッチし続いてますよ」

「失態の自己申告も無しか」

 なんだかなぁ…こう、NPCの行動が生々しすぎるぞこのゲーム。

 まあ、そんな事言ったら、目の前のシーラ然りギル然り、とてもAIとは…。

「フフフ、良いですね、弱みを握った相手の堕ちていく経過を見るというのは」

 他人事のシーラには殊更愉快な状況だろうよ。


 シーラが帰り、G戦隊から連絡が入る。

『こんにちは、さっきぶりですね。そちらには何か動きは有りましたか?』

「いや、レイナさん達の方には?」

『こちらにも何も、改めて人間臭いですよね、このゲームのNPCは』

「うん、隠蔽…って程じゃないが、隠し通せそうならこのまま行く気だな」

 G戦隊はそのまま冒険に出ると言うので、通話を切る。

「それにしても、未だに監視が付いてるのか」

 俺に監視が付けられたそもそもの理由は、ポーション不足による高騰化を端に発した、薬草不足だったのだが、現在では極端化した事で、供給自体は十分にされている。

 ではどう極端化したかというと、質の低い低級ポーションや薬草の価値は激減し、高級なものは薬草ポーション問わず青天井に高騰している、という状況になっている。

 なので、質にこだわらなければ、十分な数を揃える事が出来るし、ヒーラーが増えたり、ギフトで回復手段が増えたり、回復の必要性が減った人が増えた事も要因になっている。

 では高級品の需要が高まっている要因はと言うと、やはりコスト当たりの換金性の高さは挙がるだろう。

 それと、回復量が100%を超えるポーションに、[持続化:小]等のOPが付くと、回復量が少し上がった上に、短時間だが非常に高い持続回復を得られるので、攻略最前線ではゴリ押しに最適な一品となっている。

 そんな有能OPの付くポーションを作るのに、高品質な薬草が必須なのだ。

 そんなわけで、未だにヤバい量の種を持ち歩く上に、アビリティや自前の戦闘力で、栽培に有利な俺は、未だに薬草の供給元として睨まれているのだ。

「でも、ボトムに相応のポーションが流通してるなら、もう解決してる話だろ普通。それでもなお、監視が付いてるって事は、俺から買い上げた薬草やポーションを、不当値上げして流通させてるんだろうな」

 あの、受付の姉ちゃんが知ってるかは知らんが、多分そういう事なんだろうな。

 本当ドロドロ生臭いねぇ。


「ヤッホー」

「お疲れ、用事は済んだのか?」

「うん、さあ遊ぶわよ~」

 私用を済ませ、ログインしていたアコに、先程の出来事を伝える。

「そんなことがあったんだ。でも、このゲームの開発経緯を考えれば、最高のサンプルだわ」

「あ~、言動、脳波、心拍数とかから犯罪性向を見破るってやつか」

「ええ、私も詳しい事は知らされてないんだけどね、このゲームにはかなり特殊なAI技術が使われているみたいで、どうもプレイヤーの行動を吸収していくみたいなのよ」

「ってぇとなにか?迷惑野郎を参考に、NPCも狡賢くなっていくと?」

「その筈よ」

「なんたってそんな…」

 正直そこまでする必要があるのか?

「さあ、私には判断付かないけど、ただ社長曰く「人の悪意も研究に値するが、悪意に晒された人の取る行動も、同じ位研究価値が有る」と言ってたわ」

 分かるような分からないような…?相手がAIって時点でどうなんだ?でもNPC故に仕返しにも遠慮が無くなりそうだし、やっぱ人の性根を暴くには持ってこいなのか?

「まあ、あまりにNPCからの嫌がらせや妨害が酷くて、ゲームにならなくなったら運営に…ってそうか、その時のやり取りもデータとなるわけか」

「…考えすぎじゃない?」

「いや、態々NPCまでもがユーザーを煽るなら、運営の狙いがそこにある事は明確じゃないか?」

 確かに、少々飛躍してる気もするが、筋は通っている筈。

「普通なら、そんなゲームユーザーがどんどん離れて運営どころじゃない気がするけど…社長がパトロンだと資金の心配も無いし、実験優先な気がしないでも無いわね」

「だろ?まあ、あまりに酷かったらパトロン様に、一人のユーザーからの意見として伝えるのも有りだな」

 そうね、とアコが締めくくり、この話は此処まで。


「それで、ユキは何処に?」

「さあ?ソロで出てったし、その内戻って来るんじゃね」

「ただいま~、あらアコ、こんにちは」

 言ってる傍から戻って来たので、3人でパーティーを組む。

 このメンツで稼げそうな場所となると、かなり限られる。

 協議の結果、もう少し待機して、皆が集まるのを待つことに。

 そして十分後には、休憩から戻って来たパミルと、ログインしてきたトリオを加えて7人パーティーとなった。

 これで、多少の無理も効くようになったので、改めて行き先を決める。

 丁度、クラフト組のパミルも居るので、不足してる素材を聞いてみる。

「そうですね、マッドさん、おりょうさんが使うような液体系は十分有りますし、繊維系も植物動物両方十分。かと言って私が欲しい金属に骨や甲殻類も十分有りますし…」

 当面の素材には困らない様だ。となると。

「候補は雪山、砂漠、この辺りかね」

「テツさん、砂漠ってどんな感じでした?」

 トリオを代表して、ラークが聞いてくる。

「移動にそこそこペナルティが掛かって、SFチックな風景が広がってるな」

 勿論、敵の情報も伝えた上で、砂漠が多数決で選ばれた。

 決め手はモンゴリアンデスワームの存在だった。

 なんかこいつの素材で作る防具が、相当強力な様で、ラーク達は是非とも手に入れたい様だ。

「そうなると7人でも厳しそうだな…ちょっとG戦隊に援軍を頼むか。もしもし」

『こちらシャドーダイバー。どうぞ』

 かくかくしかじか。


「お待たせしました」

 快く参加してくれたレイナさん達と合流し、一路砂漠を目指す。

 道中、拠点に寄って情報収集も済ませ、更に奥地へと進む。

 以前ムゥさんを助けた座標を更に越え、未だに未開扱いになっている、砂漠の超危険区域に到着。

 周囲にはキャンプや簡易要塞が築かれていて、人はそこそこいる様だ。

 さて、俺らもターゲットを探そう、と思った矢先、前方に見えた要塞が一瞬で崩壊した。

「出やがったな」

 初めて全体像を見るが、凄まじく分厚く弾力性靭性に優れてそうな外皮。

 砂中を高速で移動し、獲物を足元から襲う様はあの映画そのものだ。

 奇襲を受けて、混乱の坩堝だったのか、碌に反撃も出来ずに次々と呑まれるプレイヤー。

 混乱から立ち直り、反撃を開始するも、そう時間も経たないうちに全滅してしまった。

 しかも、そんな光景が前方では至る所で見られた。

 ちなみにこのモンゴリアンデスワーム。以前遭遇したのと同様、幼生体の様だ。それでも10m近くは有る。

「流石UMA、数も質も超一級品か」

 この中で、1体だけ釣り出すのは現実的ではなさそうだ。

「という事で、複数同時に相手取る事前提でいこう」

 ここから、やつらが暴れ回る区域まで、まだ距離が有るので畑を作りながら前進。

 数十mすすんだところで、向こうの襲撃圏内に入ったらしく、砂が地上に巻き上げられながらこちらに迫るワーム。

「戦闘開始!![ドッペルゲンガー]<鍬の一振り>!!」

 一度に凄まじい広範囲に畑を造り上げ、その周囲を更に固めていく。

 ドッペルもフラフラ適当に動くものの、畑を拡充するのでどんどん広がる。

 直後、4匹の豚が一斉に悲鳴を上げて、地中に引きずり込まれそうになるが、畑にぶつかり阻まれる。

 判定のせいで、宙に浮きながらどんどん肥大化する豚が、ドンドン!!と畑に打ち付けられる様はとんでもなくシュールだが、お陰で奴らの位置が判るので非常に助かる。

 程なく豚がやられ、攻撃を受ける畑から仲間が退避し、直後リスポンした豚が喰われるのを繰り返し、遂に破壊された部分から、ワームが姿を現した。

「掛ったな!!」

 すかさずワームに向かって<鍬の一振り>を使い、奴を地上に押し上げる。

「思った通り、アッシーよりは軽いみたいだな!!」

 鍬の効果や鎧で、相当に堅くなった畑は、ワームの重さを受け止め、地上に留まらせる。

「うおおおおおおお」

 ワームの巨体に打たれ、酸を浴びせられ、何度も瀕死に追い込まれながらも、豚の肩代わり、[スワンプマン]に<不死の眷属>の発動で、立て直しの時間を稼ぎポーションで傷を癒す。

 只管ワームの攻撃に晒されながら、足元の畑を死守した甲斐あって、目の前のワームの孤立化に成功。

 他のはG戦隊が上手い事おびき寄せて、最初に進みながら作った畑で食い止めている。

 このチャンスを是が非でもものにしなければ。


「<ピアシングアロー>!!」

「<アイススピア>!!」

 畑に浮かされ、満足に移動できないワームを、身内ガールズが狙い撃ち。

「グボァーーーー!!」

 化け物に相応しい咆哮を上げ、痛みにのたうち回るワーム。そこへ更なる追い打ちが襲い掛かる。

「<プレートクラッシャー>!‼」

「<スラッシュ>!!」

「<波動剣>!!」

「モ~」

 パミル、トリオが攻撃を加え、ワームのLPを更に削っていく。

 そして、俺の使い魔達が止めとばかりに全身に群がり、返り討ちに遭う。

 それでも俺が目の前に居るから、リスポンして即戦線復帰するので、敵からしたら堪ったものじゃないだろう。

 しかし、複数同時に相手している以上、どうしても単体に掛かりきりになるわけにもいかず…。

「テツさん!!もう畑がこんなに!!」

 レイナさんの声に振り返れば、既に二十m程にまで目減りした耕作地が目に入る。

「…仕方ない、一度陣地の立て直しを優先しよう」

 惜しいが、目の前のワームを見逃し、一旦畑の再構築に奔走。

 その間に追い込んだワームは逃走し、これまでの労力が骨折り損に…

「するわけにはいかねぇな!!」

 何しろ、最初は5体居たワームがこれで4体になったのだ。

 もとより持久戦は覚悟の上。ワームが俺達をしゃぶるのではなく、俺達がワームをしゃぶるのだ。


「ヘヘへ、漸く追い詰めたぞこの芋虫野郎」

 5体のワームの内、4体をタコって逃走させ、最期の1体を全員でボコボコにする。

 そして<蛇の王>の攻撃が止めとなって、粒子となって散っていった。

「あ~~、マジで疲れた…」

 結局、5体のワームをそれぞれ追い込んでおきながら、仕留められたのは最期の1体だけという。

 でも、それだけの価値は有ったと思える戦果だろう。

「レイナさん達もお疲れ様です」

「いえいえとんでもないです。しかしこの人数で斃せるもんなんですね」

「まあ、ある意味裏技だからね」

 この畑に打ち上げて逃げ道を塞ぐ戦法は、色々噛み合った結果生み出された戦法だからな。

 学習能力の高すぎるアッシーにはもう通じないが、ワームには何度も行けたので、これで狩りの手順は確立されたも同然だ…。

「ハア…タイムセール逃しちゃったわね…」

「誠に申し訳ない」

 討伐までに五時間も掛からなければの話だが。

「良いんですよ、ネットショッピングのタイムセールなんで…ああ…友人の結婚式に付けてくアクセサリーが…」

『……』

 そんな落ち込むレイナさんに、帰ってから少々多めに素材を渡し、解散した。


「それじゃシルクちゃん宜しく頼むよ」

「俺―――して―――して」

「そうそうそんな感じで」

 トリオが分け前の素材をシルクに託し、何かを作ってもらう様だ。

「俺らも一旦落ちるか」

「「そうね」」

 そして夕食後に再ログインする。

「どれどれ、[モンゴリアンデスワームの皮][モンゴリアンデスワームの牙]…」

 先程のドロップ品を確認する。

「[ワームの核]…一応レアドロップの筈だが…なんか途端にしょぼくなったな」

 と、独り言ちると。

「なんだって!?テツやん[ワームの核]手に入れたのか!!」

 いつの間にかPAに居たサーモンが、鼻息荒く詰め寄って来る。

「あ、ああ…さっき手に入れてな、レアドロップは止めを刺した俺が貰ったんだ」

「おおおおおお!」

「そんなにレアなのか?」

「勿論!!従魔のワームは地中をワープできるから、奇襲性が高くて超強いんだ」

「ほ~、ワープ持ちか、確かに強いな」

「でもコストは激重だし、持続時間も短くて、使い辛さも中々らしいんだ」

「サーモン的にはどうなんだ?欲しければ相場で売るぞ?」

「欲しいっ!!けど相場は核一個で2000万、しかも一個では従魔に出来ないんだよな」

「ウソォ、幾つ必要なんだ?」

「十個」

「馬鹿か!!」

 五時間も掛けて、苦労して倒して運よくドロップしても、一個じゃ足らんとか。

「これ一個手に入れるのに五時間だぞ…」

「うわぁ…しかもドロ率を上げようと思ったら、止めを[幸運]持ちに譲る必要があんのか」

 途方もねえな。


「それでも諦めきれないと」

「手当は出すから付き合ってクレメンス」

 どうしても、ワームを従魔にしたいサーモンに付き合い、再び砂漠に来ている。

 今回一緒に来てくれたメンツは、ベルにシルクにベッタラにカメキチさんだ。

 ユキ、アコ、トリオは素早く逃げてしまったので、諦めた。

「一応手順は確立してるから、問題は1体ずつ釣れるかに掛かってるな」

 現地に到着し、先程の実績を考え、先程以上に畑を広げておく。

 そして少しづつ前進し、ワームが釣れたので、戦闘へ移行。

 今度は周囲に人が居ない場所まで行った事が良かったのか、2体だけ釣る事が出来た。

 そして戦闘は、実に斬新な方法で乗り切った。

 先ず、ワームを畑で突きあげる、カメキチさんを足側から鎖骨辺りまで食わせる。ベルが適宜回復する。以上。

 これでワームの脅威は取り除かれ、後はカメキチさんが死なないようにダメージを与えるだけで勝つことが出来た。

 カメキチさんの、[クラシカルゾンビ]と[ミイラ]のギフトのお陰で、成し得た異常な戦法は、一部強敵にはぶっ刺さるだろう。

 こうして、気の毒なカメキチさんのお陰でワームは獲物と成り下がり、四十分に1体は狩れるように。

 しかし、一個目のドロップは運が良かったのか、現在二連敗中。全然ドロップしない。

「やっぱもっともっと奥地で、成熟体を相手にしなきゃダメかな~」

「流石に無謀だぜそれは、確かにレアドロの効率は悪いかもしれんが、他の素材自体は数こそ少ないけど、同じ物を落とすから、これでいいだろ」

 とベッタラが力説。

 確かにレアドロップ以外は、少ないながらも、同じものをドロップするようなので、無理してこれ以上奥に行くよりは、幼生体で数を熟す方が良さそうだ。

 その後、終日までワーム狩りに付き合った結果、核を二個ドロップした。


 翌朝ログインすると、アップデートの告知が来ていた。

『アップデート1.9のお知らせ:常日頃からDYIオンラインをご愛顧いただきありがとうございます。本作は、あと数日で一周年を迎えます。それに伴い、Ver2.0の大型アップデートに先駆け、Ver1.9へのアップデートを行います』

 どうやら、一周年記念自体は、大型アプデでは無い様だ。

『Ver2.0への備えとして、転生回数の大幅な上限解放を行います。また、数多くのパラメータ、因子、ライセンスを追加します。では引き続きDIYオンラインをお楽しみください』

 割と影響の大きそうなアプデだけど、2.0はもっと大掛かりなものになるのね。

「お、リーダー。待ってたぜ!!」

 PAにスポーンすると、待ち構えて居たサーモンに身柄を確保され、ワーム狩りに連れ出される。

 まあ、核以外の素材は、殆ど協力者側にくれるので、儲けは大きいから良いんだけど…今日で終わると良いな~。

 そんな祈りが通じたか、意外や意外。順調に集まる[ワームの核]

 昼飯時までには四個。そしておやつ時には十個集まった。

 早速ワームを従魔にしたサーモンと出撃し、熊に一当てしてみた

「グゴアーーー!!」

 地中からの奇襲で、先ずは一撃入れるワームだが、直ぐに反撃を喰らい。

「ドゥーワ!!」

 ってな感じで、熊の一撃であっさりと沈むワーム。

「…弱くね?」

『……』

 とても気まずい空気になってしまった。


「っとまあ、ワームは大器晩成って事が判ったな」

 あの後、検証を根気よく続け、ワームの強みが判明。

「格下には滅法強いが、格上には滅法弱いってのがな…」

 つまり、コストと金を惜しみなく注ぎ、強化し続ければ大半の雑魚は格下になるので、無双の始まりだ。そこまで持っていくのが非常に大変だという話だが。

「片鱗は見られたけどな。熊相手にも、先手は取れてた訳だし」

「にしても柔すぎるよ。俺の従魔は、LP二倍に、各種バリア系を1万ずつ持ってるんだぜ?それが一撃って…」

「でも根気よく強化してくんだろ?」

「勿論。少なくとも雑魚相手に無双できる様に成れば、対多が楽になるからな」

 ただコストがなぁ…と零すサーモンであった。


「さて、ワーム狩りも終わったし、何をするか」

 今回のワームの素材とサーモンからの手間賃を合わせれば、再誕直前までLvを上げれるが。

「まあ、アプデで色々追加されるみたいだし、転生三回分のLv上げはそれからでいいか」

 取り敢えず手持ちの200万を宝石類に換えて、最小限の消耗品だけを所持。

「そうだ、メンテナンスに出していたヘルメットを受け取りに行くか」

 カメキチ咥えられ戦法を編み出す前。何度も酸を浴びた事で、不調をきたしていたヘルメットをメンテに出したので、それの受け取りに。

 しかし、そこでフレディ部長に聞かされたのは、ヘルメットの修復不可という悲しい結末だった。

「アレは元々プロトタイプで、余剰パーツも限りが有ったからね。残念だがアレを再度修理するには、損傷が激しすぎたね」

「Oh…」

 残念には残念だが、これはチェーンクエストの類だと確信している。というのも、不調になったのがあまりに唐突だったのだ。

 これで壊れるなら、これまでの戦いで何も起きて無いのがおかしいからだ。

 勿論、蓄積したダメージが、限界を超えたとかの理由かもしれない。現実にも有る事だしね。

「だが、ヘルメットに搭載されていたメモリー類やレコーダーは無事だったから、君に託した意味は十分にあったと言える」

 お、この流れはきたか?

「そこで提案なんだが、このデータをを元に強化手術を施してみないか?」

「強化手術?なんか不穏な響きですけど大丈夫ですか?」

「デメリットの事か?それは強化の度合いに因るからな一概には言えんよ」

 強化の度合いね。一応選択肢があるって事か?

「強化の度合いと言うと、どういったものが?」

「そうだな…まだデータの解析が完了していないんだがそうだな、聴覚強化や視力強化など、ヘルメットの基本的な機能は移植できるな」

 ほうほう、地味だがコスト消費無しで基本スペックを上げれるのか。

「その二つだとデメリットはどんな感じになりそうですか?」

「この二つなら、それぞれ単独の場合はデメリットは無いと思っていい。ただ、こういった基本的な効果でも、複数を同時に移植しようとしたら、それなりに負担が発生するからしっかり考えた方が良いね」

 まあ、そんな美味しい話は無いわな。

「ちなみに暗視とかターゲティングとかは無理ですか?」

 これらは、頻繁に頼っていた目玉機能だが…。

「残念ながら、それらはあくまでモニターが在ってこその機能だからね。同様に防毒もフィルターが在ってこそだから、ナノマシンでも再現は無理だな」

「そうですか」

「まあ、ナノマシンの場合、これまでよりは物足りないと感じるかもしれないが、コストは掛からないからな」

 確かにコスト2000は結構重いからな(性能に対しては異常に軽かったが)。


「イマイチ食いつきが良くないな?」

 そら今までの快適さを知っちゃったらねぇ。

「では本命の提案をしようか」

 …今までの前振りだったのかよ!!

「先程の強化案は、ナノマシン注入による言わばインプット強化に当たる。そしてこれから提案するのは、外付けデバイスの装備による強化、言わばアウトプット強化に相当する」

「つまり、コストは掛からない代わりに、デメリットが有るインプット。コストが掛かる代わりにデメリットの無いアウトプット。そう捉えて良いんですか?」

「ああ、それで外付け機器の構想だが、やはりこちらもヘルメットのような、モニター有りきの機能は持たせられないし、五感強化も相性の関係で搭載が難しい」

 まあ、補聴器とか有るから、聴覚は兎も角、視覚味覚触覚嗅覚を補助機でどうこうするのは確かに難しそうだ。

「勿論、眼鏡や補聴器を使えば、視覚聴覚は向上できるが、今回デザインされたものだと、腰部に取り付ける物となっているので、相性が悪いんだ」

 成程、設計思想の関係で敢えて切り捨てたわけね。

「その代わりと言っては何だが、アウトプットならではの、体の負担を考慮する必要がない事で搭載出来る機能も有ってな、例えばARM(アーマー)発生機能と言って、パラメータに縛られずにARMを得る事が出来るのだ」

 それは凄い。装備でARMを得れるのは大きい。

「他にもパルス発生機能、これはランタンの効果と同様のものを撒き散らせる事が出来、無機物にも有効なんだ。代わりにアンデッドへの効果は落ちているがね」

 良いねぇ、アンデッド以外にもデバフを掛けれるのか。

「ヤバい…めっちゃ欲しい!!」

「フフン!!大分食いつきが良くなったな」

「それはもう、此方はコストを気にしなければ、多機能化も可能なんですよね?」

「当然だ。少なくともヘルメットと同等の数付けてもそうだな。…コスト1200程位かね」

 各防御力3000を捨ててもまだ1200もするのか…如何にヘルメットが壊れ性能か分かるな。


「ときに聞くが、先日墓地でヘルハウンドを退治したそうだな」

「ええ、まさかたった3人の時に、怪物が来るとは思ってませんでした」

「そしてエルフィンの廃都にもいったそうだね?」

「?ええ…えらい粘着されて郊外を逃げ回ってましたけど」

 それが何だって言うんだ?

「上の意向で、現在全ての『ジャックオーランタン』に、エルフィンでの活動が推奨されているのは言っているね?」

「そうみたいですね」

「そのせいで、各地のアンデッド浄化や墓守が疎かになっているんだ」

 うん、話が見えてこない。

「こちらとしては、上の意向は汲む必要があるが、やはり墓所の警邏は基本にして原点。ここを軽視する事は見過ごせない」

「はあ、で結局部長はどっちなんですか?」

「両方だ。基本理念は絶対だが、態々上の機嫌を損ねるのも悪手だからな」

「でも、現に人員の大半が現地入りしてるんでしょ?それでいて墓地にはウィル親子にベテランも居る。シフトは厳しいけど体裁は保ててますよ?」

「それが、上の連中は、廃都攻略の進捗状態に不満が溜まってる様でね、出し惜しみしている人員を前線に送れと圧力が凄いんだ」

「いや…それは無理が…成程これはそういう釣りですか」

「話が早くて助かる」

「見返りは?」

「私用を排して、全力で巡回と廃都の攻略にあたってくれれば、コスト3000まで強化したアウトプット装備を進呈する。どうかね?」

「是非!!」

 迷うことなく餌にかぶりついた。かぶりついた。


 あれから部長と更に話を詰め。頑張り次第で更に強力なアウトプットにしてくれるそうなので、今回ばかりは手柄も積極的に狙いに行く事にした。

 PAに戻り、暫くソロで活動する事を伝る。

 そして、早速自主的に墓地に向かい、様々な順路を駆け回り、野犬やら魔犬やらを片っ端からしゃぶる。

 そこら中でドッカンドッカンやってたら、ミーチャがシャベルを持って駆け足で寄って来た。

「テツか、何事だこれは?」

 部長とのやり取りを伝える。

「ほうほう、ヘルメットが壊れて代わりの装備をか…見事に釣られてるな」

「釣られざるを得ないだろう」

 ついでだとばかりに、ミーチャも巡回に同行。

 いつもは手分けして回る順路を2人で練り歩く。

「シャベル捌きに更に磨きが掛かったな」

 最早大地を割るといった表現がピッタリな程、サクサクと敵を土中に落としていくミーチャ。

「そういうお前だって相変わらずおかしな畑を作りやがって」

 迫る魔犬を、掬った土をぶちまけ殲滅。一発一発が徹甲弾のような散弾だ。

「アンデッドの数が少ないのが、せめてもの救いだねぇ」

「そうだな、そこはこまめに巡回していた俺らの手柄だろう」

 でも、人手が極端に減った今。これから出てくる影響が空恐ろしいぜ。


「じゃあな、俺らはコツコツやるが、まあ装備の為頑張んな」

 ミーチャに見送られ、今度は廃都に全速前進。

 防壁を顔パスで潜り、いざ戦場へ。

「さて、兎に角手柄だ手柄。安全なんて二の次だ」

 幸い敵は探すまでも無くそこら中に居やがるからな、一番手近なアンデッドに急襲。

 相手はハイエルフゴーストだった様で、一瞬でワープしてきたが、問題無く対処。

 ヘルメットが無くなった分、デバフが弱まり相対的に、今までより強く感じる。

 それでもガンガン攻めるべく、パイナップルやバナナを量産。ドッペル使用に備えリソースを確保。

 手当たり次第にアンデッドに突撃していく。

「これで12‼目標は50だからまだまだだな」

 取り敢えず、夕飯までにアンデッド50体浄化を目標に掲げ、奔走。

 今の俺に出来る最大効率を出す為、ドッペルを使った二面作戦を敢行。

 やり方は至ってシンプル。敵に接近し、ドッペルと一振りを使い、自分は急いで他へ当たる。以上。

 ドッペルも同じ装備なので、ランタン五個分のパワーで並み以下のアンデッドなら、一分で十分に浄化出来る。

 相手がハイエルフの強敵ならドッペルと一緒に全力で当たる。これを繰り返しガンガン浄化数を稼ぐ。

 こうして郊外のアンデッドが、気持ち減ったかな?というあたりで目標数に達し、夕飯の為ログアウトした。


「よし、先ずは自主巡回だ」

 再び墓地に向かい、死者を愚弄する不届き者を成敗して回る。

 さっき、あれ程しゃぶったというのに、相も変わらず大量に湧いてくる野犬共。

 意味があるか分からないが、巡回を終えた後、近隣の犬や狼が沸くロケーションを回り蹂躙。

 なんとなくいい事した気分に浸りながら、廃都に向かう。

「「こんばんは」」

「2人ともこんばんは」

 やっくんとモンドと遭遇し、折角なので3人でアンデッド狩りマラソンをする。

 2人が加わった事で、浄化速度が格段に上昇。初めてまだ十分足らずだが、既に10体程浄化した。

「2人ともとんでもなく強くなったな」

 2人とも、廃都や軍事基地攻略で、巡回に暫く顔を出していなかったから、久々に戦いぶりを見たが…両人とも長所が更に洗練されていた。

「やっくんはランタンの範囲も威力も凄いな」

 なんせ、たった一つのランタンで、俺のランタン五個より範囲が広くて威力が高いのだ。

「ランタンにかなりのコストを掛けてますからね、[ランタンオブスピリット]を改造したのがこれで、威力を落とした代わりに、デメリットのLP消費をオミットしました。更にそこへ改良を加え続け、今ではかつての[ランタンオブスピリット]を超える性能になってますよ」

 小声で「コストが3000を超えてますが…」と聞こえたが。

「モンドは随分と変わったな」

 武器は鞭からガン〇ムハンマーのような鉄球に変わり、大型の丸い盾を装備。

 そしてその盾からガスを噴射しながら、鉄球で粉砕という刺激的なスタイルになっていた。

「[状態変化]で気化させた聖水を浴びせながら、この鉄球でスケルトンを粉砕します。更に腰に付けた香炉型ランタンで、聖水を焚いてるので、デバフも強烈ですよ」

 3人で郊外を走り回り、浄化数が三桁に届こうかという時。廃都内部が騒がしくなる。


「この感じ、何か出てきたのかね」

 もしボスだったら、是非とも倒したいが、複雑な迷路状と言われる廃都で、目標を探すのは些か効率が悪そうなので、2人に聞いてみる。

「2人はどうする?突入したいか?」

 すると、2人とも中は面倒だと言い、俺に付き合ってくれる様だ。

 2人のありがたい申し出を受け入れ、引き続き郊外でアンデッドを浄化する。

 少しすると、廃都内から夥しい数のアンデッドが吐き出されてくる。

「ん、獲物が態々おいでなすった」

 逃げ惑うPCNPCを脇目に、畑を増やしながら孤立したアンデッドから浄化。

 逃げていた連中も、俺らが広げた耕作地に入り、立て直しを図り反撃に移っている。

 別に助ける意図で用意していたわけじゃないが、結果として人助けにもなった事だし、これも手柄になる様に後でごねてみるか。

 そうと決まれば、早合点な気もするが、周囲に対しての援護も功績になると踏み、浄化を2人に任せ畑を拡充。アンデッドの踏み場を狭めていく。

 そうこうしている内に、廃都から色とりどりの火線が周囲に発射され、俺が丹精込めて増やした畑が一瞬でボロボロに。

 尤も、作付自体は最初の方しかやっていないので、金銭的な被害は無い。

「あ~あ、折角の一大農地が」

「寧ろあの魔法の嵐の中耐えてるのが…」

「下手なビルドより堅い畑…」

 と少々2人に引かれてる気もするが、まあいいだろう。

 直後、第二波が到来し、俺の農地は跡形もなく消滅。人的被害は0で済んだ。


「さぁて~、あの骨と腐肉の塊共には落とし前付けさせなけりゃな‼」

 周囲がアンデッドの一斉射撃で混乱の坩堝のなか、俺ら超級3人はアンデッドに突撃。

 怖いのは、範囲攻撃魔法の<ブラストウィンド>を使うハイエルフスケルトンで、それ以外は適当に相手しても問題ない。

 その上、<蛇の王>や豚を盾にする事でも、<ブラストウィンド>をやり過ごせる上に、今のステータスならそもそも直撃しても耐えれるので、今の所はと但し書きが付くが、出てくるアンデッドはゴリ押しでいけちゃうので、気持ちは楽だ。

 なので、気兼ねなく畑の損害賠償を体で償って貰う。

 早速、犠牲者一号を見繕い、他から孤立させるように遠回りで畑を作っていく。

 客観的に見たら、対象を丸っと囲むように、地面から柵と鎧が生えてくる様は、シュールでありながら恐怖も伴う光景だろう。

 一度に9マスを二秒弱で畑に変え、ゾンビ3体組に迫る。

 相手はハイエルフのゾンビだった様で、運よく俺が引き寄せられたので、そのまま奴らの足元へ<鍬の一振り>をお見舞い。

 ゾンビが宙に浮いた事で拘束が解かれ、2人に合流する様に開墾しながら移動する。

 再度俺を引き寄せようとするゾンビだが、今度は傍にワープしてきた豚が判定に被り肩代わり。その隙に囲みを完了し、合流した2人とゾンビを浄化。畑に夢中なアンデッドも順に浄化していく。

 そうこうしている内に、立て直しや再編成が済み、増援も到着した事で反撃が開始される。

「うん、郊外は粗方片付いたな。俺はこれで帰るけど2人は?」

 やっくんとモンドはそのまま残ると言うので、別れて帰還した。


「と言う感じなので、俺の畑が誰かの盾になったらポイントを下さい」

「それは構わんが…どうしてその状況で帰って来たんだ…」

「え?だって確実性と効率に劣りますし、大物の捜索に手間取る位なら、墓地の巡回をした方が社会貢献度が高いかと」

「ぐぬぬ…間違ってはいないが」

 なんせ上に立って平等に評価を下すなら、依怙贔屓はご法度。

 当然俺も活躍に応じた評価しか貰えない。なら態々功績が分散する人混みより、競合相手が居ない場所、又は他に狙う人が居ない獲物を狩る方が、数を熟せる分手柄は立てやすいという。

「まあ、そういう訳なんで宜しくお願いします」

 最後まで何か言いたげだが、言葉を呑み込む部長の視線を背中に再度墓地へ。

 少し気になっていた事を検証する。

「フム。やっぱりガーディアンの能力が上がっているな」

 今まで気づいていなかったが、アンデッドを浄化した時、ランタンに魂が吸い込まれる現象を何度も見てきたが、今日は何気なしに吸い込まれてきた魂を見ていたら、ランタンではなく傍らのガーディアンにスーッと光が入っていったのだ。

 それを見て、ここ最近密かに疑問に思っていた事への回答が浮かんだ。

 この現象のお陰でガーディアンの能力が上がってるのではないかと。

 何時の事かな?俺の使い魔の中では<蛇の王>が単体では最強で、ガーディアンは二番手に甘んじていた。

 けどここ最近は、互角かそれ以上にガーディアンが強いように感じていたのだ。

 でも、俺のステータスがコロコロ変わる事と、パラメータ依存率が双方で違い、偶々ガーディアンが強く感じる塩梅だっただけかもと思っていた。スキルLvの上限解放も有ったしね。

 それが前述の、吸収現象を目撃した事で考えが一変。

 確実にガーディアンが強くなっていると確信を得たので、敵に宛がって確かめてみた。

 上手い事双方に宛がうのに苦労したが、結果は予想通りだったって訳だ。

「いやはや、確かにガーディアンは自分から戦いに行かないから、戦闘を見る機会にそれほど恵まれないとはいえ、まさかこれほど強くなっているとは」

 現在では、確実にスキルLv130の<蛇の王>を超えた強さのガーディアン。

 厳密にどういう強化がなされてるかは不明だが、アンデッドを倒しまくって魂を吸わせれば、ガーディアンが強くなるのは間違いなさそうだ。

 となれば、更に浄化作業に力が入るが、先ずは足元から。人手が無い今こそ、巡回に力を入れねばな。

 そうして自主的に障害を取り除き、事務所を訪ねる。


「こんばんは」

「あ、テツさんこんばんは」

 紅茶とスコーンで優雅にティータイムを満喫するギルが居た。

「自主的に巡回をして下さっているのですね。ありがとうございます」

「構わんよ。それより聞きたい事が有って…」

 俺は、ここに来る犬や狼の出所と、それらは出所で狩れば、ここに来る数が減るのかどうかを聞いてみた。

「勿論影響は出ますよ。良くも悪くもですが」

「生態系の話か」

「ええ、例えば森で狼を狩りすぎると、草食動物の食害が始まり、猪や熊が大増殖します」

「狼は群れれば森の頂点だもんな」

 …狼が群れて猪や熊を襲ってるとこなんて見た事ないけどな!

「ですからそうですね…犬たちが此処へ来たくなくなるように仕向けるのが得策かと」

 ギルと話を詰めていき、後日実戦する事に決定した。


「おはようございます、テツさん」

「おはよう」

 翌夜。

 昨日打ち合わせした作戦を決行すべく、ギルと合流。

「それで、例の物は?」

「三日有ったので充分に用意出来ました。半分はテツさんが持ってください」

 俺が持たされたのは、なんのことは無い泥団子だ。

「ここの土にタップリと無臭の刺激物を混ぜ込んでありますからね…コレを痛めつけた獣に投げつけて追い返せば、いづれはここの匂いに忌避感を持つようになるでしょう」

 やる事はトラウマ作戦だ。一種の刷り込みでもある。

 早速ギルと巡回を開始し、犬や狼に土団子をぶつけまくる。

「キャイン!!」「フーッ!?」「キューンキューン!!」

「えらい効いてるが、何が混ざってるんだ?」

 不思議な事に、直に触ってるにも関わらず、使用者には特に影響がないので、作成者に聞いてみた。

「高濃度のハッカ油でしょ、針状結晶でしょ、高濃度の辛み成分でしょ…」

 他にも出るは出るは、いやらしさ満点な添加物の数々が。

 寒くて痒くて痛くてと、苦痛のオンパレードが襲ってくる素晴らしい嫌がらせアイテムだ。

 こんなのを痛めつけられた後に浴びせられるんだから、案外効果は早めに出てくるかもしれないな。

 そんな感じで、2人して、切なそうな声で許しを請う犬に、団子をぶつけ続ける。

 傍から見たら、相当狂気を孕んだ光景かもしれないが、俺達は至って真剣だ。

 こうして討伐自体は全然していないが、全弾撃ち尽くしたとこで初回は完了した。


「お疲れ様」

「お疲れ様です。ではまた沢山用意しておくので」

 ギルと別れ、今度は廃都へ向かう。

「いよーし、手柄とガーディアン強化のために暴れるぜ」

 先ず状況確認の為、周囲を観察。昨日の氾濫から反撃の流れで、戦場は廃都内に移ってる様だ。

 とはいえ、郊外に敵が居ないわけではないので、廃都内で確実に敵と遭遇できる保証がない以上、確実な実績を積む為に、先に郊外のお掃除から始める。

 暫く郊外を走ったり跳んだり奔走し、文字通りアンデッドを殲滅。

「ふぅ、一仕事したぜ」

 一息つきながら、西瓜や新たに導入した椰子を栽培し、食料飲料を量産。

 満を持して廃都に乗り込む。

「鬼が出るか蛇が出るか」

 こうして迷路攻略が幕を開けた。


「ああ、元からある程度の迷路だったのが、経年劣化からの崩壊で、より迷宮化してる感じか」

 ちなみに、瓦礫や壁はジャンプで飛び越えられるので、手段と覚悟が有れば有効な手立てだ。

 というのも、まず飛べば付近の敵に見つかり的に。次に防衛システムによる迎撃に遭う。

 この二点をものともしないのならば、迷路は有ってないようなものだ。

 俺は袋叩き上等なので、ピョンピョン跳びまくり駆けまくりだ。

 そうして集めたアンデッドを、これでもかと持参した、マッドが錬金で質を高めた疑似聖水で浄化していく。

 消耗品もじゃぶじゃぶ投入する事で、これまでにない程効率が上がる。

「よーしよし、また魂が吸収されたぞ」

 これまでも薄々感じてはいたが、やはりアンデッドが強力な程、吸収現象が発生する様だ。

 そして、ランタンとガーディアンの吸収比率は大体9:1、とガーディアンが吸収する確率はかなり低い。

 だからこそ、こうして数を熟す必要があるのだ。

 途中何度か危機的状況に陥ったが、暇を見つけては広げておいた農地に助けられ、寝るまで浄化を続ける事が出来た。


「さ、今日もやってくか」

「前回より更に、奮発して団子を用意しました」

 ギルからこれでもかと団子を受け取り、巡回を開始。

 何度か使い魔が止めを刺してしまう事故を起こしながら、イヌ科に猪へと団子を放る。

「もしかして犬の比率が減った?」

「かもしれませんね。早速ここの匂いに忌避感を持ち始めたのでしょう」

 犬に混ざり出現する猪にも、団子をぶつけて追い払うこと暫く。

「なあギル、俺の見間違いじゃなきゃ、またヘルハウンドが来てるんだけど?」

「奇遇ですね、僕もヘルハウンドが来てる様に見えます」

 お前仮にもモンスターだろ!と言いたくなるが、来たものはしょうがない。

「キャインキャイン!!」

 畑で身動きが取れないようにし、使い魔でネチネチと削りながら団子を只管放る。

「なんか涙目で許しを請われてる気がするな」

「そうですね、気がするどころではない気もしますが…」

 流石モンスターだけあり、打たれ強さも火力もやはり大したものだが、鍬を更新した俺の畑を突破できず、不快感に晒され続ける犬がどこか哀愁漂う。

 程なく、ビクンビクンと全身を震わせたと思いきや、仰向けになり服従のポーズをとるヘルハウンド。

 使い魔も攻撃を止めたので、既に敵ではない様だ。

「なんだ?」

「これは一体…?」

 少しの間様子を見ていると、見逃されたと思ったのか、犬が柵や鎧をすり抜けて逃走した。

 オブジェを抜けれるって事は、味方判定って事か。

 しかし、こんなイベントは初めてだな。


「どうやら犬系を屈服させたって事で良いのかね?」

「ハッキリとそうとは言えませんが、その解釈で良さそうですね」

 ヘルハンドを見逃して以降、犬系の敵を墓地で見かける事は無くなり、代わりに鼠や猪を大量に見かけるようになる。

「どうするか、鼠も猪も嗅覚は良さそうだし、匂いでトラウマ作戦は継続するか?」

「検証も兼ねて続けましょうよ」

 ギルはこの作戦に相当な手ごたえを感じたようで、継続を強く支持。

 とはいえ、手持ちの団子は既に心許ない程しかないので、次回以降に持ち越しだ。

 残りの道程を討伐重視に切り替え、巡回をやり切った。


 今度は廃都へ向かい、功績と吸収の為、体を張る。

 ゲーム内時間では、昨日から四日経過しているので、状況が大分動いてる様だ。

 今まではアンデッドが闊歩していた郊外も、『ジャックオーランタン』のテントやらが立ち並び、遠征軍のキャンプ地みたいに変貌していた。

 そういった前線の構築が出来たお陰で、廃都への進入路が格段に増えていた。

「東西南北その他諸々の門に、無理矢理開けた小穴、用水路、下水道、選り取り見取りだな」

 今の所、下水道が一番安全に進軍退却が出来るという事で、人気が高い様だ。

 俺はあくまで位階の高いアンデッドを浄化するのが目的でもあり手段なので、適当に選んだ門からエントリー。

 昨日の時点では、内部に入ろうものなら、弾幕の雨あられだった。しかし今は防衛システムのレーザーやブラスターこそ飛んでくるが、肝心なアンデッドが居ない。

「んだよこれ…全然稼げないじゃん」

 仕方ないので、防衛システム相手にジャンクを集める事に。

 各種タレット、ドローン、オートマタを相手に暴れまくる。

 正直こいつ等は、何かと一緒に襲ってくることで、その真価を発揮するので、壁を大量に確保できる俺には、高級なガラクタでしかなかった。

 適当にジャンプして、炙られながらドローンを集めたら後は畑に寝転んで放置で完了。

 実に実入りの良い作業とも言えた。


 何故か全く湧いてこないアンデッドに疑問が沸くが、屑鉄や貴金属、レアアースがザクザクドロップする事が快感になり、いつの間にかジャンク集めに夢中になっていた。

「イケないイケない。当初の目的を忘れてしまっていた」

 改めて、アンデッドが居ない事に疑問が募る中、事は発生した。

「か、囲まれたー!!」「アンデッドがこんなに!?」「待ち伏せされてたのかよ!?」

 といった声が少し先にあるマンホールから聞こえてきた。

「ああ、地下からの進入路に罠を張られてたのね。しゃーないな~」

 マンホールまで近づき、蓋を取っ払い声を張り上げる。

「おーい!!もしかしたらこっちに登って来れば安全かもよ~」

 あくまで安全かどうかは、俺の主観でしかないので、断言はしないが余裕が有る事は匂わせる。

「援軍か!!済まない、地上の安全の確保を頼む!!」

 地下から返答が反響して帰って来たので、そのまま防衛システムからカツアゲしながら待機。

 数分後、地下から疲労困憊といった感じのNPCがぞろぞろと這い出てきた。

 そして状況を聞くと、予想通り罠を張られ、一番密度が濃い瞬間を狙われ挟み撃ちに遭っていたそうだ。

「我々は運よく貴殿に見つけて貰ったが、他にも分断されたグループが大勢いるんだ!!助けに行かないと!!」

 チラチラッとこちらに熱視線を送って来る同業の男。

「まあ、そんなに大それた事は出来んが、近場の連中なら何とかやってみるか。ところであんたら何級?」

「我々は上級であります」

「フム…なら地上の防衛システムには何とか対抗できるか…ならこのまま地上からマンホールを探すとするか」

「その…貴殿の階級は…」

「ん?超級だから高位のアンデッドが出てこない限り楽勝だから心配するな」

『おおおお!!』

 てな具合で、士気も高まったので、廃都の地上を散策する事に。


「テツ殿、此方から声が!!」

「ドローンは俺が請け負うから誘導は任せた」

 あれから現地の御同業をマンホールからサルベージしつつ、廃都を偵察。

 最初は4人だった味方が、今では30人程に増え、現在進行形で増え続けている。

 アンデッドが全て地下に引っ込んでいる今、地上は俺にとって脅威になり得ないので、マンホールを見つける度に全ての味方を救出に充てる。

 お陰で数を熟す毎に手際も効率も向上し、今も30人の『ジャックオーランタン』がマンホールを潜り下水へと突撃していった。

 彼れらの中には、味方の盾になれるタンク役が何人も居るので、ハイエルフスケルトンによる出会い頭の<ブラストウィンド>にも対抗出来る為、安心して送り出せる。

 そして今しがた、小部屋状になった空間に追い込まれていた仲間を救出し、ぞろぞろと戻って来た。

 これで救出した人数は37人。罠に掛かった同業が総数約300人との事なので、まだまだな状況だ。

「さて、このまま今のやり方で行くか、二手に分かれるか…」

 これだけ集まれば、上級アンデッドすら鎧袖一触だ。いっそのこと地下を行ってもらった方が効率がいいと思うのだが。

「現状維持に賛成は挙手」

 ババっと一斉に上がる腕。

「二面作戦に賛成は挙手」

 沈黙が訪れる。

「という事なので、引き続き護衛をお願いします」

 どうやら自分らだけで地下に入るのは極力避けたい様だ。仲間を救出したいとは何だったのか。まあ自分の身は可愛いから仕方ないか。


 あれから更に廃都を回り、全体の20%程を歩いた時点で、救出数は60人。

 当然間に合わなかったグループも居るのだが、その割に救出数が多いのは、二次被害が広がっているせいだ。

 仲間を助けろ!!→げ!?アンデッド!!→助けてくれー!!のループに陥ってる様だ。

 そして現在俺に付いてきている人数は10人。50人は途中のマンホールに置いて来た。

 決して見捨てたわけではなく、二次被害三次被害を抑える為に、セーフティーゾーンを設けようという事で、その場を任せてきた。

 ちなみに陣形は、地上が30人、地下が20人で固まってるので、まず壊滅する事は無いだろう。

 さて、またしてもマンホールを見つけたので、連れて来た連中に確認させつつドローンをしゃぶる。

 そして踏破率が25%になったとこで、待機組に合流。

「それじゃ後は任せた」

『ありがとうございました!!』

 流石にコスト数千分の素材を集める程戦ってると言えば、引き止められる事も無く、感謝の気持ちと共に見送られた。

 彼らは残ってセーフティーゾーンを維持するそうだ。

 多分、これほどの罠が張られていたという事は、何処かにボス級が居るのだろうが、今は帰還を優先しよう。

 まだ寝るには時間も有るし、一旦戻って準備をしてからでも遅くは無いだろうしな。

次回も二週間程で。

あと誤字修正有難うございます。まさか摘みと詰みの間違いを一年以上放置していたとは…

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