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第三十二話

~前回までのあらすじ~

お手伝いで莫大な富を得る事になり、それを元手に3度目の再誕を果たす。

更に『案山子職人』を特級に上げ、また一歩戦力が増したテツであった。

 最初の分岐路に到着し、早速熱い歓迎に晒される。

 部屋には大勢の味方も居るのだが、如何せん敵の進軍路が多すぎて、途切れぬ蟲の波に阻まれ、中々先勧めない。

「まあ、想定内なんだけど、何でお香の使用率がこんなに低いんだ?」

 確かに効き目は弱いかもしれないが、それでも確実に効くのだから、ガンガン投入して蟲を狩れば良いのに。

「どうも寄生を嫌がって、皆使いたがらないのでしょう」

 ベル曰く、お香の範囲が広く、本人達以外も恩恵に与れるせいで、他グループのお香を当てにして、自分たちでは身銭を切らない連中が頻発。結果自腹では馬鹿らしいと誰も使わなくなったそうだ。

 たったの一日弱でそんな状況にまでなってしまったのか…。呆れてものが言えんな。

「そりゃ確かに気分が悪くなるな」

「そんなんでストレス感じる位なら、最初から蟲に苦戦する方を選ぶわな」

 けしからん!!とマサとベッタラが憤る。

 多分横取りとか、もっと別のマナー違反とかが根本的な原因なんだろうけどな。

 そういうやつらなら、他にも人をイラつかせる事を平気でしでかすだろうし。

「まあ、イラっと来る話だが、お香を使わなければそういうのも寄って来ないだろう」

 こうして話してる最中にも、蟲は遠慮なく突ってくるからな。

 先ずは自分たちの安全の確保から始めよう。


「良し、取り敢えず型に嵌ったから、少しづつ目当ての通路に向かうぞ」

 蟲を倒す→新手が来る→倒す→また新手。と言う風にサイクルが出来たので、それを維持出来るよう陣形を保ちながら、ちょっとずつ移動する。

 これがまた神経を使うもので、俺達16人で一度に相手取れる蟲は20体程。それを超えて蟲が殺到しないよう、周囲と適度な距離を保たねばならぬので、兎に角気が滅入る。

 そんな、精神の擦り減る移動の甲斐あって、地図で見た中ボスの部屋に繋がるルートに辿り着いた。

「良し、俺が殿を務めるから先に行っててくれ」

 皆を先に行かせ、<鍬の一振り>で蟲の侵攻を防ぐ。

 此処で案山子の…と言うか特級のもう一つ有った特典の話をしよう。

 実はこの案山子、なんと畑が受けるダメージを肩代わりするという、とんでもない能力を宿していた。

 つまり、範囲攻撃が出来る蟲に対しても、案山子がダメージを吸うので、鎧になり堅くなった事も相まって、以前の様…とまではいかないが、長時間蟲を塞き止める事が再び可能となったのだ。

 勿論、範囲攻撃が無くなったわけでは無いので、複数の畑が同時に攻撃される事にはなるのだが、それでも少し前までと比べれば、格段に持ち堪えるようになってくれた。

 俺は自分で敷いた原木畑を通り、道すがらも畑を増やしながら皆の後を追う。

 次第に後ろから聞こえていた、ドゴ!ガゴ!とかいう音も遠ざかっていく。

(どうやら堅すぎる案山子に萎えてくれたようだな)

 正直、そんな事ある?とも思ったが、都合が良いのでそれでいいや。


「お待たせ」

「無事に合流出来たな。蟲は…倒したのか?」

「マサ君、どうやらテツ君の畑に阻まれて諦めたみたい」

 索敵の得意なアコが、蟲の動向をマサに伝える。

「おおう、そんな事が有るんだな」

 さて、同じ要領で幾つかの部屋を渡り、最初の中ボス部屋に到達。

「ここはキメラ百足の部屋みたいだな」

 最初に攻略された北のダンジョンのボスだった奴だ。

 そして始まった戦闘は、短時間で決着。

 勿論こちらの勝利でだ。補正で以前よりも格段に強さを増してはいたが、分かっていればそれほど恐ろしい行動パターンでも無いので、無限湧きする雑魚の方がよっぽど面倒だった。

「さ、また湧かれても面倒だ。とっとと次の目的地へ行こう」

 今度はヤスデの湧く部屋だな。


 東のダンジョンのボスだった、ヤスデを目指し下に降りていくが…。

「ん?なんか蟲がHPを持ってないか!?」

「フンッ!!…おいおいマジだよ」

 ダメージを与えた蟲の、LPとは違うゲージが減るのを見て確信を持つ。

「しかも結構堅いわね…少なくても10万位は有るんじゃないかしら?」

 ここに来て、蟲の堅さが増すのは勘弁願いたいのだが。

 やはり勘違いではなく、蟻や蜘蛛がHPを持ち始めている。

「倒すのにワンテンポ余計に掛かるのは痛いな…」

 武器の耐久度が低いベッタラには、相当重い問題だな。

「…こりゃ厳しいな、出直そう」

 うちは全体的に、火力よりも安定性を取る傾向が強いから、敵の堅さが上がると息切れに直結してしまう。

 どうしても捌き切れない蟲が、使い魔を迂回して此方に肉薄してきてしまう。

 まだまだ安全マージンには余裕が有るけど、こういうのは余裕があるうちに帰るのが鉄則だからな。ここは素材を持ち帰る事を優先して帰還した。


 バグスターのダンジョンから戻り、皆それぞれ行動を開始。

 俺も休憩を兼ねて、現在のゲーム全体の攻略状況を調べてみる。

(どれどれ、それぞれの攻略具合は…アースが32%、バグスターが16%、フォレストが16%、アニマルが12%か…思っていたよりフォレストが高いな)

 ちなみにこの%は、その惑星の攻略度で、惑星を六分割し、ホームを4%として100%となっている。

 アースの24%は、東の大陸と砂漠の探索が進んでいるからだろう。その代わり北の豪雪地帯と地底湖の完全攻略がされていないから、少々低めなのだろう。

 バグスターは、単純にダンジョンと周辺、ホームを合わせて16%。西のダンジョンを攻略できれば20%なると思われる。

 フォレストは良く解らないな。多分母の樹と女王の樹の選定が進み、伐採が進んでいるからなのか?攻略度が何で決まるか良く解らないから、考えても仕方ないな。

 アニマルは巨大なクレーターが見つかって、12%なので、攻略できれば(何をもって攻略とするかは不明)20%まで上がるのかな?

(そしてエルフィンは24%か。何も知らない人からしたら、随分と高いと思うんだろうな)

 この高さは、勿論俺らが使ってる、反対側のホーム近辺お陰だ。

 何しろ渓谷は浄化し、辺り一面は緑化。山まで築いて色々と散策したからな。

(次は一番盛り上がってるロケーションは…アニマルのクレーターが人気なのか)

 あそこは薬草とか高需要の素材が多く採取出来るからな。収支がプラスに出来るなら良い稼ぎ場かもしれない。

「さて、ソロだし何か気楽な依頼でもやってみるか」

 ギルドに向かい、依頼を物色。

「お【下水調査】か、これでもやってみるか」

 依頼を受注し、薬草を催促されるが適当にいなして現地に向かった。


「ここから入るのね」

 ギルド裏のマンホール前に居る職員に声を掛け、開けて貰い中に入る。

「お、追加の人員か。なら君は南の工業地帯方面に向かってくれ」

 言われた通り、南に向かおうとすると。

「そういえば既に先行している者がいたな、ちょっと呼び戻すから待っててくれ」

 その間、鼠やG等の害獣害虫の存在や、不法投棄の影響で変異したそれらの危険性などの説明を受ける。

「お、戻って来たな」

 其処に現れたのは、なんと以前共闘したカスタードスライムだった。

(久しぶり)

「あ、ああ」

 プルンプルンと肉体言語はそのままだが、やはりしっかりと意志は伝わって来る。

 そのままスライムに先導され、南に向かって進む。

 しかし、見た目丸っこいプリンにしか見えないスライムが、下水を進むこの…なんか食い物を粗末にしてるようなモヤモヤ感…。

 そんな思いが顔に出てたのか。

(別に汚れても洗えば済む話)

 それはそうなんだが…スライムを洗うという行為が…まあいいや。


「また[ローチ]か」

(むぅ…油虫は嫌い)

 俺の使い魔が倒す事も有れば、スライムが酸を飛ばして仕留める時も有ったが、兎に角弱い代わりに数が多くてイライラするんだよな。

 それでいて、倒しても何もドロップしないのが最高にクソ。

「うわ…今度は[ビッグローチ]か」

 ローチが魔物化して、犬位のサイズになったローチ。

 そこそこ強くて、兎以上野犬未満といったところか。

 しかし、なんというか…調査というかただの駆除作業になっているな。

(お金の為、気を抜かないで)

 なんか無表情系ヒロインみたいで、可愛いぞこのスライム。

 そして、逆流防止の為か、2m程の段差を下り、工業地区に入ったと思った矢先。前方から慌ただしい気配が伝わって来る。

「なんだ?」

(…トラブル発生…の予感)

 スライムによる、実に外れて欲しい予想だが、まあ大概当たるよな…ってか当たった。

「ぬ、なんだてめぇら!!」

「なんだって良い!!見られた以上消えて貰うだけだ!!」

 言うや即戦闘行為に移行し、此方に火器を向けて来る。

 通路に身を潜り込ませ、汚水に同化したスライムに聞く。

(どうする?)

(悪党、捕まえる、お金)

 戦う気満々の様だ。

 とはいえ、連中の強さが判るまでは判断に困るが…。

 向こうは男が3人、そいつらが此方に狙いを定め、引き金を引いた。

 直後、ジーッという何かが焼ける様な音と共にレーザーが照射される。

 その結果豚4体が、五秒も持たずに蒸発した。

「な、なんだこの豚!?巨大化して破裂したぞ!?」

「河豚か!!」

「ってかまた沸いて出て来たぞ!?そうか使い魔か!!使役者を仕留めなければ終わらないぞ!!」

 と、気付くのは良いが。

「クソ!!使い魔が多すぎる!!」

「うわっく、来るなあああああああ!?」

「「ザンビーーーーー!!」」

 ごろつきの1人が蜂と鼠にマウスに群がられて、抵抗虚しく力尽きた。

「畜生!!ノートン!!火炎放射器で一掃しろ!!」

「兄貴!?それじゃ俺達も!?」

「このままjザンビ―の二の舞だ!!急げ!」

「あ、ああ…え、火炎放射器が錆びて…」

 いつの間にやら敵の背後を取ったスライムが、酸で火炎放射器を破壊した様だ。

 ナイスアシストだ。あのレーザーの火力を思えば、放射器なんか使われたら蜂が一瞬で全滅してしまうからな。

 え?<青龍>に<蛇の王>?通路でつっかえてるよ。

 なんにせよ、これで勝負は決まったな。

 スライムが、俺の使い魔が止めを刺す前にゴロツキを拘束。

 最初の1人も死んではいなかったので、3人の男を連行して出発地点に戻る。

「おお、こいつ等は最近暴れてたジュリク三兄弟じゃないか!!大手柄だぞ!!」

 どうやらそこそこの大物だった様だ。


 地上に戻り、ギルドで懸賞金を受け取る。

「結局調査って何だったんだ?」

(多分犯罪者の摘発に利用されただけね)

「まあ、そうなんだろうな」

 ついでに害虫も駆除しといてね、ってかんじか。

 中々阿漕な事するじゃないかギルドめ。

(またね、私は大体ホームに居るから用が有ったら探してね)

 そう言い残し、ホヨンホヨンと美味しそうに揺れながら去っていった。

「なんかプリンが食べたくなっちまったな」

 ログアウトし、プリンを食べてから寝た。


 数日後。

「なんか久々に忙しかったな」

 元の部署で、退職と年休で欠員が2人も出たという事で、俺にお鉢が回って来た。

 しかも取引先との会食も、担当が病欠な為、急遽俺が出る事になった。

「すまん鈴木君。今回は本当に助かった」

「構いませんよ、しかし課長も中々肝が太いですね」

「ハハハ、いや、本当に切羽詰まっててね…社長に頼るしかなかったんだ」

「今の自分にとっては社長が上役ですからね」

 会食後、2人でちょっとした二次会をし、課長の奢りでタクシー代も出して貰い帰宅。

「ただいま~、やあやあいらっしゃい」

「おかえり…そういう感じ親方にそっくりね哲兄」

「哲也君お帰り。思ってたより酔ってない」

 なんか珍獣を見そびれてがっかりした風な美雪。残念だったな!!

「今は…まだ九時半か、2人とも今日は終いか?」

「いや、私も一時間ほど前に帰って来たばっかで、これからよ」

「私も血を抜いたりして疲れたからさっきまで寝たのよ」

 2人とも、これから遊ぶ様だ。

 俺はさっぱりして来ると言って、風呂に入り本宅にお邪魔しておつまみを拝借。

「何?哲也君まだ吞むの?」

「今日は2人の雄姿を肴にやらせてもらうよ」

 缶ビールを掲げ、上機嫌で宣言した。

 2人とも「仕方ないわね」と肩をすくめて、PCに向かい合った。


「ンーッ良く寝たぜ」

 昨夜、酒を飲みながらマッサージチェアに座ってたらいつの間にか寝落ちしていた。

 深夜にふと起きたら部屋が真っ暗でブランケットが掛けられていた。

 流石にそのまま寝ると身体を痛めそうだったので、布団に入って今の今まで熟睡していた。

「おはようございます、宮原さん」

「あら哲也君今お目覚め?」

「ははは、朝飯有りますか?」

「ええ、悪いけど自分で温めてね」

 視線の先には、裏返しになっている俺の茶碗と、おかずの入った鍋が有った。

 それらを温め直し、ご飯とみそ汁をよそって、おかずを用意してちょっと遅めの朝餉を頂いた。

 その後は昨日に引き続き出社し、年休明けと病欠明けの同僚に引継ぎをして午後からはオフとなった。

「そういやここんところ、街中に来てなかったな」

 折角だし、と少しぶらぶらしてみる…つもりだったのだが、これと言って目的も無いので、直ぐに飽きて帰る事に。

 別宅に戻り、小休止してから昼食を頂きゲームを始めた。


「あらテツさん、こんにちは」

「いらっしゃいシーラ」

 大量の水をせっせとインベントリに取り込むシーラ。

「エルフィンの湿度はどうだ?」

「良い具合で上昇していますね。あ、そうだ。廃都の方の制圧ですが、如何にも上手くいってない様ですよ」

「うん、そんな気はしてたよ、俺にも応援要請が来てたから」

「あらまあ、その様子ですと参加はしなかたので?」

「俺も入れて3人で巡回したんだよね…しかもヘルハウンドが出てきたし…」

「それは…おめでとうございます?」

「何でそうなる…確かに俺にはカモだったんだけどさ」

「流石『案山子職人』特級ですね。さぞ鎧が堅かったんでしょうね」

「!?」

「フフフフ」

 あ、これアカンやつや。


「ではテツさん。畑の更新宜しく頼みますよ」

「あのさ~、いい加減開発予定箇所教えてくれよ。分かってればその部分はスルーするからよ」

「テツさんに朗報です。なんと文句を言わずにやると、私達からとっても素敵な鍬を進呈致します」

「おーし、何処までだ?」

「当然今までの場所まで頼みますよ?」

 …まあ、仕方ないね。

 そんなこんなで、物に釣られ再び牧草地を更新していくことに。

 再び[開拓用の鍬]と[修復の鍬]を受け取り、早速ホーム周辺から耕していく。


 二週間後。

「いや~、俺めっちゃ頑張った」

 天高く聳えるホームの展望台から、眼下の牧草地を一望。

「こうして見ると、農地で戦争でもしてるみたいだな」

 一面柵と牧草が生えている農地に、無数の鎧が立ち並んでいるのだ。これから敵軍と衝突寸前の軍にしか見えん。

 それにしてもこの二週間は…いや現在進行形でだが凄かった。

 最初の数日間は何事も無く順調だった。しかしほどなくしてアンデッドが此方のホームにも進行してきたのだ。

 どうも、発展宜しくない向こう側より、此方の方が濃い生気に満ちている為か、遠い所態々訪れに来たアンデッド共。

 もうそこらじゅうでハイエルフ対アンデッドの小競り合いが頻発し、牧草地が荒れに荒れた。

 折角水源辺りまで更新したのに台無しになり相当萎えたが、鎧を盾にしたハイエルフ達から感謝の雨あられと美味しすぎる報酬の数々に、コロッと懐柔された。

 それからは、緑地化とか関係なく、格安で用意できる防柵として開墾を要求され、只管に鍬を振るい続けた。

 そうしてどうにか戦線を渓谷辺りまで上げ、現在俺は展望台から近場に穴が無いか確認中なのだ。


「やっぱ補修漏れがちょこちょこ有るな」

 展望台を降り、マップに付けたータブを頼りに補修漏れを埋めていく。

 周囲を見渡すと、一面柵草鎧の謎空間という状況に、一時は狂いそうになったが今では慣れたものだ。

 味方判定の一部オブジェはすり抜けられるので、鎧と重なって遊びつつ戦線に向かう。

「おお、やってるやってる」

 迫りくるエルフ、ハイエルフのアンデッドに、道中それらに倒されアンデッドに堕とされたであろう魔獣が追従。

 それを迎え撃つのは、畑を盾にするハイエルフの精鋭達。パッと見残念な光景だが、彼ら彼女らは途轍もない実力者ばかりなので、俺は荒れた畑の修復だけをする。

 畑が完全に消滅し、禿げあがった大地には[開拓用の鍬]、損傷激しい畑には[修復の鍬]を適宜振るい。ハイエルフの皆さんをサポート。

 俺自身、護衛の要らないバックアッパーなので、後方への不意打ちにも対応。

 後方で鍬を振るう俺に気付き、ローレンスさんがやって来る。

「精が出るね」

「サボってて良いんですか?」

「問題無いよ。それに若い衆にも経験を積ませないとね」

「そうですか」

 どいつもこいつも見た目が若いから、若いとか全然分からんわ。

「しかし、堅い案山子だよね~」

 前線に目を光らせつつも、俺に絡んでくるローレンスさん。

「サボってて良いんですか?」

「問題無いよ。それに次世代にも経験を積ませないとね」

「そうですか…言い方を変えただけですね」

 どうやら暇でしょうがないらしい。


 なんと言うか、ハイエルフの精鋭が凄すぎて、暇を持て余したローレンスんに纏わりつかれたので、何か面白そうな事は無いかダメもとで聞いてみた。

「え?有ったらこんなに暇そうにしてないよ」

 だろうな。

「こう、過去の奇人変人エピソード的なのとか」

「そうだね~…あれはもう千年も前かな?私がまだ世間知らずだったガキの頃…」

 と語り出したが、導入は特に盛り上がりが無かったんで割愛。

「で、一人の農家と遭遇したんだ。彼の名はタツキチと言ってね。突っ込みどころ満載の農家だったよ」

 そんな感じで始まった、そのタツキチさんとやらのエピソードは、なんと言うか…。

「初遭遇時に、ちょっとした誤解があってね、タツキチと戦闘になったんだけど…いや~完膚なきまで叩きのめされたのは今でもしっかりと覚えてるよ」

 なんと、幾ら若かりし頃とはいえ、農家がローレンスさんを圧倒するとは。

「どんな風にって?最初に言っとくけど私は正気だからね?彼の作物を破壊するとね…撃ち返してくるんだよ…」

「…ソレハヤッカイデスネ」

「しかも、時間差撃ち返しもあってね、所見では到底躱せる代物じゃなかったよ」

「ソウデスカ」

 なんだろう…作物が撃ち返してくるって…パ〇ディウスかな?

「ハイエルフ相手に、畑なんて作り出すもんだから、正気を疑いつつも完膚なきまでに叩き潰す心算だったんだけどね…畑に<ハリケーンエッジ>を放って、彼諸共細切れにしてやろうとしたんだが…」

 …当時のローレンスさんやんちゃすぎるだろ。

「…彼には碌にダメージが通らずに、破壊した作物からの撃ち返しで大ダメージを受けてね、止めの時間差撃ち返しで身動きが取れなくなってね…最早此処までってところでエレノーラ…妻が割って入ってくれて命拾いしたんだ」

 此処から、いつの間にか甘ったるい惚気になったんで割愛。

 まあ、タツキチと奥さんが知り合いでうんたらかんたら、同族のよしみで話を聞きたいから止めはうんたらかんたら、これがきっかけでうんたらかんたらと、まあ三文記事のような経緯を経て一緒になった…って話が逸れ過ぎだ!!

「当時の私は[農家]や[百姓]など、戦闘が出来ぬ臆病者の選択肢だと侮っていたが、極めると恐ろしい戦闘職になるんだと分からせられたよ」

 うん?うん…そういう話だっけ?まあ、そのタツキチが奇人変人には違いないか。


「テツ君はこの先どうするか迷ったら、どんな因子やパラメータにも必ず戦闘で役立つ時が来るというのを覚えておくと良い」

 フム、多分ギフトの事を言ってるんだろうけど、少なくとも[農家]にも、何かしらの戦闘系ギフトが在る事は分った。

 少なくとも[百姓]には、農具にパラメータの補正を追加するギフトが在ったし、これらについては攻略が進んでくるのを待つしか無いな。

 折角だし、この方向から有益な情報を得られないかと、鍬を振るいながらおだててみると、喋りたかったのか、色々有益な情報が盛りだくさん。

 例えばパミルのような宝石を扱う細工師的な人は、打撃に非常に打たれ強い能力を得る事があるだとか。

 又は、採掘を生業にする者、裁縫を生業にする者は斬撃に強くなるだとか、そういうのだ。

 これらをギフトに当てはめるなら、クラフト関係の因子やパラメータでも、覚醒数を稼げば戦闘に有利になる、耐性ギフトが解放されるという事だろう。

 そんな感じで結構な情報を貰い、近辺の開墾修復が終わったので、別の場所に移動。

 流石に監督放棄はしない様で、ローレンスさんはついては来なかった。


 細かい漏れを修復し、ホームに戻りシーラに報告。

「ご苦労様でした。では提供された素材もふんだんに使い、最高の鍬を用意いたしますね。そうですね…四日も待っていただければ完成するので、お届けに参りますね」

 つまりリアルの一日って事か。

 エルフィンを後にし、干潟エリアを散策する。

「近い内に再誕するだろうし、今の内にシンボルを廻っておくか」

 これまで踏破してきたマップを時計回りに巡り、シンボルを枯渇させた。

「寝るにはまだ早いし、エルフィンの反対側でも見て来るか」

 ギルドからエルフィンに跳び、様子を窺う。

「今の所こちらのホームも無事か」

 外に出ても、直近で大規模な襲撃があった様子も無いので、ここ最近は比較的安定してたのだろう。

 一旦ホーム内に戻り、周辺や最近の情勢を調べる。

「廃都に軍事基地は相変わらず部外者は立ち入り禁止。それ以外だと…禿山が幾つか見つかってる位か」

 中には、アースドラゴンは当然のこと、アッシーすら軽く凌駕する程強力な竜種が居る山もあるようで、こちら側も中々ローケーションに恵まれてるらしい。

 一通り情報に目を通し、折角だから廃都の観光に向かう。


「そこのお前、ここは一般人は…失礼しました!!超級の方でしたか」

 廃都の数百m手前に築かれた防壁。そこパスしてPCNPC問わず『ジャックオーランタン』が行き来している。

(セカンドライセンス実装と、この特殊クエストの影響か、随分と人が増えたものだ)

 しかも、初期の問題点を踏まえてか、合格基準に礼儀や人格も加わり、所持者の品性が非常に優れていることも、所持者増大に繋がっている様だ。

 裏を返せば、悪態を吐いたり規則を破るなどして出禁を喰らった連中や、同レベルの連中は一切参加出来ないという事だ。

 さて、関所を超えて廃都に近づくが、もうすでに戦いは始まっていた。

 廃都を円で囲むように築かれた防壁内、その至る所で激しい火花が散っている。

 そんな中、あくまで観光目当ての俺は、誰も邪魔しないようにそーっと中心地を目指そうとするのだが…。

「アー…」「ウー…」「カタカタカタ!!」

 と大量のゾンビやスケルトンが、俺一直線に目掛けて突撃してくる。

 どうもこの戦場に居る中でも、俺が一番生命力に満ちている様だ。

「ハッハー!!だが甘かったな!!俺の[速度]について来れるか?」

 のんびり歩いてたのを早歩きに変え、ぐんぐんアンデッドを引き剥がす。

 しかし、前方に新たな一群を発見し、進路を変えようとした瞬間。

「…は?」

 俺はその一群の中のゾンビに拘束されていた。

「しまった!!ハイエルフのゾンビか!!」

 すっかりハイエルフゾンビの能力を忘れていた上に、エルフゾンビと見た目が変わらないせいで、すっかり油断してしまった。

 とはいえ、直ぐに傍にワープしてきた使い魔と、ランタン五個の効果で危機を脱する。

 そのまま超強化された畑を足元にプレゼントし、宙に浮いたアンデッドを蹂躙する。

 それから間もなく一群を殲滅した。


「成程…どうして多対多に持ち込まないかと思ったが、確かに引き寄せが有ると、各個撃破が怖くて固まれないのか」

 確かに、多対多なら火力を集中させ、より敵に効率的にダメージを与えられるだろう。

 しかし、ここに引き寄せが加わると。例えば99対99で前中後で分かれているとし、前衛すべてがハイエルフゾンビだった場合、乱戦に持ち込む前に前衛が攫われ尽くして33対99をやる羽目になるし、遠距離戦はハイエルフスケルトン、ゾンビを増やすハイエルフリッチ、ワープしてくるハイエルフゴーストが混ざると、『ジャックオーランタン』限定の戦力だと、主導権を握る事は困難を極めるだろう。

 その結果、少数同士戦う遭遇戦にシフトしたのだろう。

「危うくタコられるとこだったな」

 しかし、相変わらず俺に寄って来るアンデッドが多いので、更に距離を取りながらドッペルや畑を駆使してアンデッドを分断。

 鎧が良い仕事をし、長持ちする畑のお陰で各個撃破が捗る。

「これはこれで点数稼ぎにはなるんだろうけど、これじゃ中に入れんな」

 相変わらず平野で鬼ごっこを繰り返すばかりで、一向に廃都に張り付く事が出来ない。

 それどころか、俺が大量のゾンビを引き受けている隙に、かなりの人数が廃都に侵入していくのを目撃。

 その理不尽さに何とも言えない気持ちになるが、ポジティブに考える事に。

「つまり、上級アンデッドの素材は俺が総なめにして良いんだな?」

 誰に聞いてるんだ?と思われるような独り言をしながら、逃げの姿勢を攻めの姿勢に変えた。

「とその前に…作物の回収っと」

 これからドッペルをガンガン使うので、運よく実った食料を収穫し、改めてアンデッド狩りに転身する。

 そして二時間みっちりアンデッドを狩りまくり、大量の素材を確保し帰還した。


「さあ、テツさん。これがお礼の品です」

 翌日シーラから鍬を受け取り、性能を確認する。

 [復興の道しるべ]:死の星となったエルフィンを復興させた者へと送られた鍬。非常に丈夫で、かつ様々な希少素材を使った事で、様々な能力を得た。 [開墾範囲拡大:極][作物の質向上:中][生育速度上昇:極][畑の耐久値上昇:大][作物の耐久値上昇:大][開墾速度上昇:中][畑の蟲耐性:大][作物の蟲耐性:大][畑のアンデッド耐性:大][作物のアンデッド耐性:大][修復:中][畑の持続時間上昇:中][コスト低下:極] コスト400。

「ヤバい」

「お気に召しましたか?」

 自信満々に、聞いてくるシーラに、勿論と返す。

「これ市場に流したらいくらするんだろう」

「そうです~…OPで[修復:中]が付いてるだけも200万は確定ですね~」

 以前聞いた通りなら、基本性能やOP数に比例すると言うのだから…億は下らない…かもな。

「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

「こちらこそ、あの案山子のお陰でアンデッドの襲来という一大事にも関わらず、大した怪我人も出ず感謝の念が絶えませんよ」

 用事も済み、シーラが水を持って帰っていくのを見送る。

「おし、早速鍬の性能を試すとしようか」


 敵がある程度強くないと、真価が判らないので、バグスターに跳ぶ。

 そして西のダンジョンに向かい、試し切りを開始した。

「そい、おお!一度に9マスも開墾できるのか」

 これまで使っていた鍬は、確率で周囲も開墾だったが、[開墾範囲拡大:極]は周囲8マス含め、一度に9マスも開墾出来るというチート仕様となっていた。

「ヤバい、これと[修復]だけで数千万はいきそうだ」

 そして次々と真価を発揮するOPと鍬の基本性能の高さ。

「開墾HAEEEE」

 これまでの鍬では、諸々の恩恵込みで五秒弱程で、1マス開墾出来ていた。

 そして、今回の鍬に変更したら、二秒弱にまで短縮され、恐ろしい速度で開墾出来るようになり、あっという間に9マス原木畑になってしまった。

 そんな畑を今度は蟲にぶつけてみた。

「畑KATEEEEE」

 [畑の耐久値上昇:大]と[畑の蟲耐性:大]がヤバいレベルで効いてる様で、鎧の効果も相まって異様な程攻撃に耐える畑。

 そこに[修復:中]を試す為に鍬を振るい修復。結構痛むまで様子見した畑がたったの二振りで完全修復されてしまった。

 その後も検証を重ね、性能を把握する頃には、相当な数の素材をゲットした。

 ちなみにこの鍬の本来のコストは4000らしい、というのもこの鍬に付いた[コスト低下:極]は、コストを90%カットする効果の様なので、性能に対して、相当に装備しやすくなっている。

 それと、牧草を栽培したが、OPの効果も相まって、作付して一分程で収穫出来、質も[園芸]もあってこれまでの牧草を更新した。


 PAにて、戦利品を仕分けして、更に質の高まった牧草を出品し、小休止。

「こんばんはテツさん。鍬の性能はどうでした?」

 丁度インしてきたベルと挨拶を交わしつつ、鍬の話になる。

「凄いよ、市場に流せば数十億は下らない筈だ」

「それは…」

 実際その位でも、買う奴は間違いなく買うだろうと思われる。それ位ぶっ飛んだ性能だからな。

「畑も作物も堅くした上で、畑を修復出来るんだ。使い捨てバリケードの極致とも言える」

 2人で会話していると、ベッタラとカメキチさんが合流したので、野郎4人でアニマルに乗り込む。

「それにしても…いかれた開墾速度と範囲だな」

 ベッタラが呆れる様な感心したような感じで言う通り、本当にイカレテル。

 なんせたったの二秒弱で9マスも畑を作れるからな。

 カメキチさんの移動に合わせているお陰で、俺らが軌跡には、まるでナメクジの通った後みたいに畑と原木畑が連なっている。

 現在俺らはクレーターの攻略に来ているので、これらの畑が巨獣の分断にも、後のバリケードにもなると思えば、精も出るというものだ。

 ちなみに現在の畑の持続時間は五十分となっている。

 他を優先しているため、中々[農家]を覚醒させれない為、少々短めになっている。とはいえ、五十分も有れば、ちょっとした探索ならば行き帰り分の時間位残るだろうから、十分だと言える筈だ。


 一部破壊不可オブジェや、シンボルのあるマス以外、カメキチさんの移動速度に合わせ開墾しまくる。

 お陰で、本来だったら人の背丈を優に超える藪に視界が遮られ、しんどい行軍になる筈だったが、周囲はや通ってきた場所はかなり広い範囲で畑化してるので、柵や鎧が景色に対し不釣り合いな事を覗けば、視界は随分とマシになっている。

 尤も、敵が巨大なアニマルにおいて、視界の良し悪しは索敵にそこまで影響しないので、もっぱら、気分と連携の取りやすさの話になる。

「お、大鼠が群れで突っ込んでくるぞ」

 大体5~6m程の鼠が数十匹で突撃してくる。

 流石にこいつ等クラスのサイズになると、遠目では気付きにくいので、視界確保の恩恵を十分に感じられる。

 更に、このサイズなら攻撃範囲も大したことないので、畑を盾にした戦法が機能するので、ベッタラが大暴れして、次々と鼠を屠っていく。

「ヒャッハー!」

 案山子や柵を盾にし、巨大な鼠をメスで切り刻むその光景は、言葉にし辛く…うん。

 ベッタラのすぐ後ろで修復をしつつ使い魔を供給。

 ベルは回復を常に待機させ、状況に目を光らせる。

 サーモンはオークを側面から送り込み、鼠を分断。

 こうして俺達の連携の前に、鼠の群れは十分足らずで壊滅した。


「そろそろ戻るか」

 もし、破壊されていなければの話だが、最初に拵えた畑が消える、五十分が経過したので、まだ目印兼陣地が残ってる内に、帰還を始める。

 帰るまでが遠足とはよく言ったもので、フォレスト勢の森ダンジョンと同じ仕組みなのか、以前同様引き返す時に襲撃が頻発。

 前から後ろからと、敵が延々と襲い掛かって来るが、これでもかと敷設しておいた畑が奴らを妨害し、俺達の元へ辿り着く巨獣の数は、それほどでもなかった。

 だが、周囲から響いてくる鎧を叩く金属音や、柵や畑がダメージを受けるSEが、いつ大群に囲まれてもおかしくない事を物語っている。

 更に困るのが、他所のグループが俺らの畑を盾にし使い潰し、此方にまで敵を引き連れて来たりすることが多発した。

 幸いなのが、稼働からそろそろ一年経とうという今、余程の覚悟を持ったやつ、又は花が咲いた奴以外、悪質行為に手を染める者が激減しているので、擦り付けはしてこず、そのまま迷惑料代わりに帰還をアシストしてくれたので、問題にはならずに俺らも無事に帰還できた。

 そして、援護してくれた連中は、そのまま俺らが残した畑を有効活用すると言い、再び樹海へと旅立っていった。


 PAに戻り、俺以外の3人は落ちると言いログアウト。

 代わりにユキとおりょうさんとパーティーを組んだ。

「2人とも行きたいところは?」

「うーん、フォレストが相性的に無難かしら」

「そうですね、私達3人のビルドならフォレストが一番安牌でしょうね」

 という事で、ユキの提案に乗り、フォレストで一稼ぎする事に。

 すっかり視界の良くなったホームに跳び、道なりに進んでみる。

 流石整備された道だけあって、敵との遭遇率が低い。

 裏を返せば、一度道を踏み外せば植物の脅威にさらされる。

 ホームに近い内は敵も弱く、見るべき素材も乏しい為、暫くは道路を進む。

「そろそろ素材の質も上がってる頃かしら」

「結構進んだよな、ちょっと道を外れてみるか」

 感覚からして、以前巨大なボストレントと戦った場所と同じ位、ホームから離れたと思うので、一旦敵の強さを測る。

 早速シダの藁人形みたいなのが襲ってきた。

「なんだ!?この草人間!?」

 中々のインパクトを発揮し、掴みこそ悪くなかった草人間。しかしスッと距離を詰めたおりょうさんにバッサリとやられ、即ご退場となった。

「まだまだ難易度的には低いようですね」

 まあ、今の俺らが巨大トレントを相手にしたところで、人数が少ない分苦戦も長引きもするだろうが、絶対に勝てると言い切れるしな。


 あれから更に先に進むと、疎らだった人通りが増えてきて、道路が途絶えた。

 そこからは敵も味方も多く賑やかで、そこら中にビルディングで築かれた要塞やら、簡易的なキャンプ、畑は勿論、始めて見るビニールハウスも点在し、カオスな景観を造り上げていた。

「あ、クロスイーターだ。…流石本家とも言うのかしら、凄い強いわね」

 アースでは、数だけは多い雑魚だった十字植物ことクロスイーター。

 本来の生息地である、フォレストではサイズが二回りほど肥大化し、ステータスも上がりとても厄介な敵となっていた。

 この瞬間にも、1体の豚にペタペタと引っ付き、粘膜に生えた鋭い歯で豚の周囲を咀嚼。

 あっという間に肥大化した、豚のLPが尽き破裂した。

 そして、ボトボトと地面に落ちたクロスイーターが、もぞもぞと丸くなったと思ったら、跳ねたスーパーボールの様に弾んで跳び、バッと十字に開き、再び豚に引っ付いた。

 それによく見ると、地面を触手系(蔦や蔓)が蠢き、罠を作ったり足を絡めたりと縦横無尽に暗躍している。

 確かにこれほど激しい攻撃に晒されるなら、周りと協力しないと先に進めないのも納得だ。

「取り敢えず…あっちに行って陣地を構築しよう」

 周囲を見渡し、少し離れた場所に空白地帯が有ったので、そちらへ向かう。

 ドッペルと一振りであっという間に細長い畑のバリケードを築き上げ、植物を迎え撃つ。

 ユキとおりょうさんが、俺の使い魔と協力して敵を減らす中、更に畑を拡張しL字型に、そこから更に拡張しコの字型に変えた。

 いつの間にか、自前でバリケードを築く手立てがない人たちが集まり、協力プレイに発展。

 ちゃんと一声かけてくれたので、此方も挨拶を返し、俺は修復に意識を注ぐ。

 状況が大分落ち着いてきたので、周りの戦い方を見ると、ローレンスさんから聞いた、作物が打ち返すという現象を目撃。

 興味深いので、作業の傍ら観察。破壊されたキノコから、駒菌のような粒が敵に射出され、草人間がはじけ飛ぶ。

「フムフム…火力は高いって程じゃないけど、無視できるほどでもないと…」

 ただ、観察するだけでは限度があるので、詳細は自分で試すほかないか。

 多分、[農家]か[百姓]のギフトが引き起こす現象だろうから、何時かは…。


 暫く修復に勤しみながら、使い魔の活躍を見ていたが、改めて<守護霊>や<代行の剣><代行の盾>のような、小回りの利くスタンダードな使い魔が必要だと感じた。

 なんというか<蛇の王>は確かに糞強いんだが、随伴歩兵の居ない戦車…いや、そんなものなくても十分強いが、<親子蛇>の時と違い、所詮単体な上に当たり判定も巨大だからな。やられる時はアッサリとやられるので、見た目やステータスの高さほど活躍できていない。

 思い返すと、<ブリキ兵1号>も非力だが、人型の使い魔という事もあって、安定感は有ったな。

 これは単純な与ダメ被ダメとは別の、ノックバック耐性などの地味な耐性、敵を怯ませたりよろけさせたりする、ちょっとした能力がが効いているのかな?

 実際、鼠やマウスはその手の物理的な特殊耐性は皆無なので、攻撃されればガンガン吹っ飛ばされるので、敵の敏捷性が高ければ、割り込まれてラインを上げられることも多々あった。

 <青龍>や蜂は、制空権を握るうえでは重要だったが、肉薄するタイプでも無いし、蜂に至っては鼠マウスより、簡単に蹴散らされるので、敵を押し止めるには不向き。

 その点、<山亀><金甲>は戦線維持にはうってつけだが、<蛇の王>の進軍を助ける様なタイプじゃないんだよな~。

「ガーディアンが前に出てくれれば解決なんだが…」

 傍らで、俺の護衛をする多腕多脚のスケルトンを見ながらしみじみ思う。

 勿論、今の使い魔達は強力だということは、改めて言っておく。ただ、これまで面白そうだと適当取り入れていた、非戦闘系も含めた使い魔達は、俺が思ってた以上にシナジーを発揮していた様だ。

 でも、これは当然の事で、そもそも個々の能力が低い使い魔が、活躍するに最も手っ取り早いのは数を揃える事だからな。

 昨今は、敵の手数や攻撃範囲の拡大で、ただ数を揃えれば良いというわけでも無くなったかが、リスポンを支え切れるのなら、薙ぎ払われるとしても十分に役に立つ。

 と、そんなことを考えてしまう時間だった。


「…潮時ですね」

「そうみたいですね」

 おりょうさんの呟きに同意。

「流石最前線ね、本当に一筋縄ではいかないわ」

 他のグループと協力し、戦線こそ維持し続けたが、結局そこからは先に進めず終い。

「兎に角本家本元のクロスイーターがヤバ過ぎる」

 引っ切り無しに飛んできては、その高い火力でこちらを掻き乱し続けたこいつは、レトロACゲームの永パ防止キャラの様であった。

 ただ倒せば素材はしっかりと落とすので、短時間で稼ぐのには向いているとも言えた。

 お陰でインベントリは消化液や棘でいっぱいに。

 うちには設備も職人も揃ってるので、これらを財に変える事は容易い。

 疲れたけど、その分得るものの大きい冒険だった。

 おりょうさんは、クラフトに入るとパーティーを抜けたので、ユキと2人に。

「どうする?」

「そうね、闘技場でやってるPvEのイベントでも参加する?」

 ルールを軽く確認すると、アイテム全般の持ち込みありで、終了時にロールバック。

 その際に成績に応じて金や品が報酬として受け取れる。

「うん、気軽に参加できそうだし行ってみよう」

 他に誘えそうな人が居ないか見渡すと、丁度マサがインしてきたので誘い、3人で闘技場に向かった。


「えーっと、内容はいつだかのと同じか」

 以前はUFOだドラゴンだと、ぶっ飛んでいたが果たして。

 取り敢えず適当にエントリーすれば、勝手に戦場に放り込んでくれるので、さっさと済ませて待機。

 二十秒程でゲームが開始され、戦場に放り込まれた。

「ここは…湖の岸?」

 目の前に広がる巨大な湖。水面には人が乗っても平気そうな蓮の葉がプカプカと浮かんでいる。

 そして背後には平野が広がっているが、一定距離を境に暗黒空間になっていて、それ以上進めなくなっている。

 そして直ぐに変化が訪れた。闇の先から武装したゴブリンが次から次へと湧いてくるではないか。

「背水の陣って事か」

 コチラが使える陸地は、境界線まで入れておよそ50m。

 これは直ぐに動く必要があると感じ、即座に湖に水田を拵え始める。

 だが、湖の中も決して安全ではなかった。

「うおおお!?」

 周りから聞こえてくる悲鳴に目をやると、なんと蓮に飛び乗った人たちが、蓮に食べられてるではないか。

 更に、俺が拵えた畑にも、水中から激しく攻撃され、田んぼの底がダメージ音を奏でる。

「ピラニアか…」

 偶々水に落ちた豚に、一斉に群がるピラニア。

「前門の虎後門の狼ってところか」

 さて、どうしようか。


「まあ、こうなるよな」

 俺達はあのまま湖に足場を築き、湖の中心地を目指している。

 水中からの攻撃は豚が吸うし、今は鍬のお陰で修復も可能なので、水上一択だった。

「数だけ居ても、此方に届かないんだったらカモだぜ」

 マサが大斧を振れば、田んぼ下の生物にダメージが入るので、自衛力は十分。

「来たわ!!大鯰よ!!」

 時たま水面を撥ねて襲ってくる全長10m程の鯰は、瞑想込みのユキの魔法で蒲焼に。

 こうして、安定して生き残る筈だったが、開始からわずか十数分で事態が一変した。

「お、おい!!」「ゴブリンが橋を架けてるぞ!!」「アッシーだーー!!!」

 とうとうイベント戦の雑魚にまで格下げになってしまったアッシーに敬礼。じゃなくて、驚く事にゴブリンがビルディングを駆使して、参加者を水上まで追って来る。

 俺らは、全員がしっかりと戦闘を、しかも肉薄する事を念頭にビルドを組んでいるから良い。

 だが、距離を取る事前提の人たちは、この事態に慌てふためく。

 逆に、そんな中でも生き生きと戦場を駆け回る連中も居た。

「ヒャッハーーー!!」

 ホバークラフトのような水陸両用のビークルを使い、ゴブリンをロードキルしまくる猛者。

 ジェットパック、ウィング、ホッピングブーツを駆使し、三次元機動で水上陸地を行き来し翻弄する猛者。

 高速匍匐で、ゴブリンの合間をスルスルと抜けるGみたいな連中…顔見知りだった。

 そんな感じで、独自に暴れ回るやつらも居るので、今はまだ一進一退の攻防と言ったところか。


 水上に陣を敷いていることを、G戦隊に見つかってしまい、合流された。

 ふと遠目に視線が交差したと思ったら、恐ろしい速さで水上をカサカサとする様はかなりキテた。

「…」

 この沈黙するユキが、俺とマサの心境をも代弁してくれた。

 とまあ、別に困る事も無いし、お互いやり易くなるので、そのまま共闘。

 しかし気のせいかな?水上を高速匍匐移動する彼らを見て、ゴブリンが慄いているように見える。

「では、アッシー狩りの第二ラウンドといきましょう」

 追っ手のゴブリンはマサに任せ、ユキは瞑想、G戦隊はアッシーを攪乱、俺は徐々にアッシーに田んぼを寄せる。

 この空間でのアッシーには、耕作に対する警戒心は無い様で、実に簡単に接近出来た。

 後はもう俎板の鯉も同然。矢鱈と堅くなった田んぼがアッシーを支え、そこに叩き込まれたユキの魔法。使い魔の集団リンチであっさりとアッシーを撃破した。

 素材も無いし、これと言って感慨も湧かないので、その後も淡々と敵を処理。

 途中のアナウンスで、大分人が減った事を知るが、鉄壁の布陣を敷いた俺らにはどうという事は無く、そのまま時間いっぱい凌いでゲームを完了した。

 きりも良い時間なので、解散してログアウトした。


「今日は宜しくお願いします」

 翌朝。

 昨夜一緒に遊ぶと約束したG戦隊と合流。

 向こうは当然フルメンバーで、此方はアコとトリオが不在で12人の計17人でパーティーを組む。

「方針を決めよう。稼ぎ優先?攻略優先?」

 多数決の結果は稼ぎ優先だったので、敵が勝手に突っ込んでくるフォレストの最前線に向かう。

 昨日と変わらず、引っ切り無しに迫るクロスイーターをしゃぶる為、人混みから離れ戦闘を開始した。

 数分掛け、1ヘクタール程開墾し、修復しながら敵を迎え撃つ。

 次第に攻勢が弱まってきて、何事かと思ったら、いつの間にか戦線が動いていた様だ。

 俺らとしては、定点狩りをしたいので、今度はもっと距離を取って陣を敷く。

 周りから味方が消え、負担は相応に増えてしまったが、獲物を多く狩れるので、そのままとどまり続け植物を狩りまくる。

 そんな感じで、植物を美味しくしゃぶってたら、何やら遠くから喧騒が聞こえてくる。

 なんとなく嫌な予感がするが、流石に此処まで道路から離れれば、こっちに累は及ばないだろう。フラグではなく、そう言えるだけの距離が有るからだ。

 そう思ってたんだが、中々のクソ野郎の集団らしく、一直線にこちらに向かって突っ込んでくる一団と、それを追う蔦で出来た大蛇のような生物が姿を現した。

「ちょ、テメ―らふざけんな!!」

 どう考えてもこちらへ嗾ける心算が見え見えな行動に、言葉も荒くなる。

「す、すまない!どうか手を貸してくれ!!」

 そう言ってきたのはどうもNPCらしく、道路を壊させたくないが、このままでは…ってとこで、延々と連なる畑を見てこちらに来たという。

「…最悪殺人だぞ?」

「すまない…すまない…」

 いやはや、まさかNPCにこんな迷惑行為を仕掛けられるとはな。

 一応戦う気はある様だが、だったら素直に戦線を下げて援軍でも呼べと。

 まあいい、後でたっぷりと搾り取ってやるとするか。


 どうせやる事は変わらないと、改めて敵を観察する。

 胴回り5mはあろうかという太さ。大小さまざまな蔦で構成され、装甲も決して侮れない堅牢さが見て取れる。

 全長も6~70mは有りそうで、体の至る所からヤバそうな花が咲き誇り、毒々しいキノコも生えている。

 そんなのが、畑に接触した途端口から大量の毒と酸を撒き散らし始める。

「うお!?急いで修復を」

 ジュウジュウと音を立てて、傷み始める畑に急いで鍬を振るう。

 当然俺にも掛かるが、毒は耐性とランタンで無効化、酸は…馬鹿痛いけどベルのフォローで何とか耐える。

 お返しにと、俺の代わりにユキが最大火力の<クラスティオーブ>を発動。蔦蛇に痛打を浴びせ、幾つかの花やキノコを焼失した。

「キャッ!?」

 焼けた花やキノコから打ち返しが発生し、ユキが可愛らしい悲鳴を上げる。

「ちょ!?なんか弾が飛んできたんだけど!?」

 幸い<岩の体>と柵や鎧で被害は出なかったけど、打ち返しで柵が一発で壊れ、鎧も一瞬で草臥れ、豚が破裂したので、冗談にならない威力の打ち返しだ。

「成程、迂闊に手を出すと危険ってか。だが分ってればどうにでもなるな」

 とマサがカッコよく言い放ち、豚を盾に鎧を盾にとコソコソしながら、蔦蛇に一撃を放つ。

 すると全身の花やキノコが破壊され、凄まじい数の打ち返しが発生。

 急いでうつぶせになり、何とかやり過ごしたマサが、やり切ったと達成感に満ちた顔をしていた。カッコいいのやら悪いのやら。

 でもここで悲報。破壊した花が少しすると復活してしまった。

「あ~…これまた面倒なボスだな」

 巨体に、軽減手段に乏しい毒と酸の飛び道具、打ち返し有の部位持ちかつ部位復活有りとかクソ面倒だ。

 でも、蛇の様で蛇ではないからなのか、あまり柔軟に動けない様で、巨体を使った肉弾戦を仕掛けてこないのが意外だ。

 ただ、その死角をカバーする花やキノコの打ち返し、それらから放出される花粉や胞子がこれまた地味に痛くて困る。

 見た目とは裏腹に、シューティングゲームの様相を呈したボス戦となっています。


 さて、こうなって来ると、ベッタラを筆頭に近接ビルドは半分戦力外に。

 コスト度外視に、マッドの薬品でブーストするなら兎も角、素の状態では色々ときつすぎる相手だ。

 更に、こういう時に一番活躍するはずのアコが居ないのも痛手だ。

 G戦隊が、その穴を埋めてくれてはいるが、火力の面ではやはり厳しい言わざるを得ない。

 NPCは後方でクロスイーター相手に手いっぱいだし…持久戦を構えるしかなさそうだ。

 相手が近接攻撃を仕掛けてこないと分かったので、俺も無理に唾液を浴びる必要も無いので、距離を取りつつ畑を作成。

 使い魔がねちねちとボスを削り切るのを待つ。

 そして、マサが部位破壊をして、打ち返しをやり過ごした直後、ユキの魔法で痛打を与え、ここが勝負どころとパミルとベッタラが、薬品で耐性を盛ってから突撃し、大ダメージを与えた。

「やったか?」

 取り敢えず、フラグを立ててみようと、言葉を発してみる。

 すると、蔦蛇が巨体を支えきれずに地面に伏し、動かなくなる。

 しかし、直ぐに顕著な変化が訪れた。

「なんだ?体液が漏れ始め…」

 ちょろちょろと垂れていた、黄緑色の体液が、徐々に勢いを増し吹き出し始める。

 少しして蔦蛇が緑色から薄茶色の枯れ木のようになり朽ち、体液がもぞもぞと蠢きだす。

「なんか急にパニック物の映画みたいになったぞ」

 この間に、攻撃しろよ変身を待つ悪の組織じゃあるまいし、と思うかもしれないが、使い魔が既に攻撃を加えていて、反射ダメージで次々とやられているので、手出しが出来ないのだ。

 なんか敵ばっかズルいよね。

 そんな体液の変態も終わり、ちっとも可愛くないグロテスクな粘菌の怪物が出来上がった。

次は二週後くらいかな。

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