第三十話
~前回までのあらすじ~
全員のギフトの情報共有が済み、パーティーでの実戦を経て増々戦力を増した俺達。
そして、ここに来て使い魔の運用に若干の軌道修正を施し、頭数偏重だったのを、質の向上へ僅かにシフト。
これにより、使い魔の種類は減ったが、総数は[養蜂家]により大幅に増え、防御も豚で増強され、更なる安定感を獲得した。
PAに戻り、戦利品の分配を終え、小休止。
その間、マサとサチが合流し、直後アニマルから侵略を受けた。
『市民及び入植者の皆様。現在惑星アニマルより敵性生物が多数ここアースへ向け進行中。非戦闘員は直ちに非難を開始し、戦闘員は直ちに砂漠地帯へ終結せよ、繰り返す…』
「…こりゃ参加するしかないよな」
皆もやる気十分なので、しっかりと準備をして砂漠地帯を目指す。
「一応、いきなり激戦区も困るし、山の中腹辺りで一旦待機しようと思うが良いか?」
「良いんじゃないか?こっちにはアコが居るから戦場を見渡せるし、もしもの時に味方の退路を確保する意味でも有効だろ」
マサも賛成し、反対も無かったので、山の中腹辺りに陣取った。
「…来たか」
はるか上空より、オーラの様な摩擦熱を纏った、大怪鳥が急降下してきた。
更に怪鳥は少なくとも十羽は居て、その爪先にはこれまた巨大なライオンやら河馬などの猛獣が掴まれている。
そしてある程度地表が近づいたところで、それらの猛獣が手放せれ着地、怪鳥含め直ぐに戦闘態勢に移行したので、これを機に戦闘開始となった。
「ねえ…なんか馬鹿でかい鳥がこっちに向かって突っ込んでくるんだけど!?」
『ええ!?』
開戦から暫くの間、中腹で様子見を決め込んでたところ、予想外の展開に驚く俺達。
ふと周囲を見ると、同じ考えを持ったのか、各所に多くのパーティーが潜んでるのを発見。
どうやら敵が多いと見て、飛行戦力が此方に向かって来たようだ。
隠れてやり過ごそうかどうか悩んでいると、何処からか対空攻撃が発生。見事怪鳥に命中したが効き目はイマイチで、却って怒りを買ったのか対地攻撃の集中砲火に遭い、程なく爆撃地が沈黙した。
それで済めばよかったが、この時複数のパーティーが発見され、更に周囲を巻き込んで山全体で戦闘に発展。俺らもなし崩し的に戦闘を開始した。
怪鳥の攻撃方法は雑でシンプルなもので、防風を起こす、爪で捕まえに来る、食べようとして来るの3パターンだ。
取り敢えず先手で、<ゴーレム使い>が引き寄せを試みるが、少し引き寄せはするが、力技で振り切られてしまう。
この攻撃は相手にとっても相当に嫌なもののようで。それ以降は頑なに距離を取って風で攻撃してくるのみになった。
地面に縛り付けさえすれば、毒蛇で瞬殺出来そうだが…。
「こうなると泥仕合も良いとこだよな」
「…フッ!!…ダメね、高すぎて避けられるわ」
アコの弓も効力を発揮せず、離れすぎて蜂はともかく<青龍>も攻めに行かず、打つ手がない。
「どうする?風で煽られるぶんには被害も無いし、このまま引き付け役に徹するか?」
「どうだろうな、うちみたいな名無しのカンパニーがそういった献身をしても評価されないだろうし、帰るか砂漠に降りるかの方が良くないか?」
マサは引くにせよ攻めるにせよ、ここに居る意味は薄いと提案してきた。
「皆はどう思うかな?」
「何とも言えないわね…前線が苦戦若しくは壊滅的なら前に出るべきだと思うけど…現状有利不利すら判断付かないわ」
「そうね、前に出たら戦力過多で無駄足に、下がったら前線が壊滅しましたも困るし…」
ユキとアコは判断材料の少なさに困惑気味だ。
それから少しの間、風に揺られながら協議し。
「時間が時間だしどうせ帰っても、何処かに行くにもアレだから…残って周りの評判を上げた方が幾分かマシだろうから、このまま戦っておこう」
てなわけで、継続して鳥と戯れる事にした。
あれから二十分程経ち、幾つかの動きがあった。
先ず砂漠方面だが、緒戦こそ優位に戦いを進め、順調に数を減らしていったのだが、敵の増援が到着し形勢が一気に覆り、砂漠組は元蟲の巣元地下基地へと逃げ込んでいる。
それに伴い山にも怪鳥の増援が襲来。俺らも只管風に煽られている状況だ。
ただ、こちら側もやられっぱなしではなく、砂漠には戦闘車両が到着し、基地入り口に張り付く巨獣に示威射撃を敢行し、注意を引き付けている。
一方こちら山の方も、たった今戦闘ヘリが到着し、ミニガンやミサイルポッドが怪鳥に対し火を噴いている。
「流石戦闘ヘリ、とんでもない火力だな」
地上からでは碌に火力の出せない空の敵に対し、比較にならない程の火力を披露。
運動性機動性においては怪鳥に分がある様だが、ヘリには様々な兵器が搭載されており、ミニガンで牽制し、ミサイルポッドで打撃を与え、キャプチャーネットで動きを阻害、フレアで目くらましをするなど、多彩な手札を持って、怪鳥を翻弄する。
「あ‼上を取られた!!」
そんな中、一機のヘリが怪鳥に頭上を取られ、急降下の踏み付けで撃墜…と思ったが。
「ええ!?少し揺れた様だけど無傷!!?」
おまけにプロペラの回転で怪鳥が大ダメージを受け墜落。落下ダメージが止めとなり消滅した。
「アコ、見えたか?」
「ええ、ヘリの癖にバリア系を完備でえらい堅いみたいね」
ただでさえ、火力が高く三次元機動が可能な航空戦力が装甲まで持ってるとか、随分と反則じみた性能をしてらっしゃる。
その後もヘリが優位に戦うかと思われたが、やはり機動力は彼方が上なのが痛い所で、ある程度ヘリの手札を見切った怪鳥が戦い方を変更。
常に真上を取るように旋回し、頭上から突風での墜落狙いにシフト。制空権争いは膠着状態に陥った。
こうなってしまうと、いよいよ歩兵に出来る事など限られてしまうな。
翌早朝。
昨夜あの後、出来る事も無く、仕方なく帰還し就寝。
今朝方ログインしたら、未だにアニマルとの戦闘が継続中、というか戦果が拡大し、ホーム周辺でもドンパチやっていて実に賑やかだ。
「しかし此処まで大規模な侵略って初めてかも」
勿論、誰の目にも留まらない僻地では在ったかもしれないが、入植地真っ只中でこの規模は知る限り初めてだ。
先ずは情報収集と、ホーム内を散策していると。
「あ、テツさんこんばんは」
「ギルか、こんばんは」
ただいまゲーム内では夜なので、挨拶も夜用となっている。
「すんごい眩しいんで直ぐに分かりましたよ」
「ん、まあそうだな。目立つ格好する奴も随分と増えたが、光量って意味じゃ俺はそうとうだろうな」
周囲で怒号や爆発音が轟く中、他愛の無い世間話をする俺とギル。
「そういえば事務所が外だったが大丈夫なのか?」
「大丈夫では無いです。だから今はホーム内に避難中ですよ」
その割に散歩とか、肝が据わってらっしゃる。
ギルと別れ、西門から外に出てみる事に。
「ぎゃふん!!」
外に出た瞬間、ゴリラに殴られ吹っ飛んでしまう。
「野郎ぶっ殺す!」
ほぼリスキルの様な行為に、胸がキュンキュンしながらゴリラに吶喊。
不意の一撃を受けたが、LPはまだ70万程残ってるので、十分狩れる相手だと確信し仕掛ける。
周りにも味方が沢山居るので、存分に充てにしながらランタンのデバフ光を浴びせる。
アニマル勢のこのゴリラも例に漏れず、超巨大だが流石に場所が悪すぎた。
次から次へとホームから沸いてくる戦闘員に寄って集られ仰向けに転倒。
最早抵抗敵わず全身めった刺しに遭い、程なく消滅していった。
なんというか…自分らでやっておいて中々悍ましい光景だったな…。
とはいえ、躊躇してたらこちらがやられてしまうので、遠慮なく蹂躙させて貰ったけどね。
直後、途轍もない地響きと共に巨象が咆哮を発しながらこちらに突っ込んできた。
「おいおいおい!!?あんなのにぶちかまされたら壁が持つのか!!?」
だが心配をよそに、突撃を止めようとした人たちを制する声が響き、象の進路上からサーっと人波が散り、象が門に突撃。
しかし轟音こそ響いたが、門は未だに健在。なおも門を崩そうとぶちかます象だが、門は一向にダメージを受けた様子が無かった。
「マジか、ホームの防御力ってこんなに堅かったのか」
程なく象のスタミナが切れたのか動きが鈍化。その隙を突いて一斉攻撃を叩き込み討伐。
指示を出していた人物が、引き続き西門を守る者と、他に援軍に行けるものを募り、編成して去っていった。
俺はその場に残り、少しの間巨獣を狩ってPAに戻り小休止にした。
「さーて、再開っと」
さっと情勢を調べ、ホーム周辺は既に沈静化してると判明。
そして現在は、そのままの勢いで最初の侵略地点の砂漠まで逆侵攻し、決戦に打って出ている様だ。
「勝敗は決したも同然か。となると今なら良いタイミングかな?」
こういうお祭りは参加者が多いので、普段の人気スポットも過疎ってる可能性が高いので、地底湖に向かう。
予想通り人が少なかったので、畑になる区画を独占。みっちり三時間牧草栽培に汗を流した。
そして再び休憩を挟み、昼過ぎに再ログイン。
今度はユキにアコも居るし、3人でアニマルに跳んだ。
「アースが大規模な侵略を受けた割に、こっちは静かなもんだな」
勿論、調査や逆襲目的で、普段より人が多く、賑やかなのだが、思っていたよりはずっと平常運転していたアニマルだった。
「まあ、被害を押さえるための地下ホームだしね、思惑通りといったとこかしらね」
一応情報をさらったところ、ここにも襲撃は有ったそうだが、ホームが地下に埋没しているお陰で、オービタルストライクを使用し、地上に犇めいていた巨獣を一掃したそうだ。
なんとも豪快で合理的な解決方法であった。
地上に出て、今回の襲撃の起因となった場所に向かう。
「ここが巨獣たちの巣か」
今、俺達が居るのは眼下に広大な森林と荒野、川に湖が混在するクレーターの外壁の上だ。
「ここを突いたからあれだけの襲撃に発展したわけか」
一体このクレーター内にどれ程の生物が居るのだろうか?
何しろ、兎に角巨大なアニマルの生物ですら完璧に隠れられる程の、森や荒野に湖があるのだからな、その広さは想像を絶していた。
「東京ドーム…うん万個分って感じか…」
最早例えようのない広さで、反対側の壁が見えない程遠い。
そんなクレーターだが、数えきれない程の戦闘員が崖を下り、巨獣討伐に乗り出し修羅場と化している。
此処からじゃ遠すぎて何も見えないが、眼下では轟音爆音響かせながら土煙が上がっている。
仮に距離が近くても、軽く数百mを超える樹木や岩、数十m規模の雑草に覆い隠され視界何てあってないようなものだろう。
「さて、行くか」
そんな地獄の環境に、飛び込む決意を固め、いざ突撃。
今回は敵の規模が頭おかしいレベルなので、最初から全力フルパワーだ。
各種食料飲料を使用し能力をブースト。ドッペルも展開済みだ。
そんな俺が前衛を張り、後ろにユキとアコが追従する。
そして半ば転げ落ちるように坂を下る事数分。漸く鬱蒼とした森に到達した。
「凄いな…フォレストの巨木もデカかったが、ここのは比較にならんほど巨大だ」
冗談抜きに、一本の木の幹を囲うのに、大人数十人が必要な程太い。
「うーん、こうも視界が妨げられてると、視力の良し悪しなんて些細な話ね…テツ君頼むわよ?」
「任された。まあ、他にも大勢人が居るし大丈夫だろう」
索敵に不安が残るが、ヘルメットとアコの旗技を駆使すれば、どうにかなるだろう。
そんな楽観視しながら、超ド級の大樹海を進む。
「おお、薬草がこんなに…」
「流石これまで未踏の領域だっただけあるわね」
「他にもシンボルだらけよ」
森を進み始めて早々、これでもかと目に入る多種多様なシンボルの数々。
俺は常にコストには余裕を持たせて冒険に臨むので、存分に採取する。
ユキとアコも、価値の高い物を優先して採取していく。
だからと言って、ここが未踏のフロンティアかと言うと当然そんな事はなく…。
「ジャガーが出たぞー!!」「や、ヤマアラシだ!!」「チンパンジーの群れが!?」
など、そこらじゅうで巨獣による被害が頻発。あっという間に俺らにも類が及びだした。
「どれ、先ずは一番近いヤマアラシを仕留めよう」
「了解!奇襲を仕掛けるわね、<ミサイルアロー>!!」
襲われているNPCを援護する為、アコがヤマアラシの目を狙いCAを放つ。
「フ――――ッ!‼」
キッチリと命中し、怒りを露わに此方を睨め付けて来るヤマアラシに、ユキが<クラスティオーブ>をぶつける。
これにより、針の一部が爆ぜ、ヤマアラシの攻撃力を著しく下げる事に成功。
其処にNPCの魔法が炸裂し、ヤマアラシを討伐出来た。
ってかNPCの火力が凄まじいな、これなら援護も要らなかったかもしれん。
「やあやあ、助太刀感謝します。そしてお久しぶり」
なんて思ってたら声を掛けてきたのは、以前共闘した事の有るNPCキャスタートリオだった。
「久しぶりだな、確かケインだったか?」
「ええ、どうです?少しの間ご一緒しませんか?」
これはありがたい申し出だったので、受け入れさせてもらう。
残りの2人、セインとティムとも挨拶を交わし、6人で森を進む事に。
しかしこの3人、DIYのNPCが時間経過で強くなるのはなんとなく知ってたが、火力だとか防御力だとか、分かりやすい強さに関してはプレイヤーを軽く凌駕してるのではないか?
その位このキャスター3人の火力は目を見張るレベルで凄かった。
「むう…やはりここは巨獣の領域、一筋縄ではいきませんな」
ケインが呟くように、決して捌き切れない程ではない数だが、個のスペックが高すぎて、ある程度進んだ時から遅々として先に進めなくなってしまった。
当初6人で進んでいたが、いつの間にかその数は100人を超えていて、それだけこの巣が、少数で動くには危険地帯だという事を物語っていた。
そしてこちらの数が増える程、敵の数も増えてきて、膠着状態に陥っているのが現状だ。
取り敢えず、先に進むのは無理そうだと判断し、少しづつ後退してもっともっと人数を増やしてから進もう、という流れになり、後退を開始した。
森の入り口に出戻ってきて、今後の予定を決める。
このまま帰還するか、仲間を募って先に進むか、だ。
俺達は折角だし、このまま残る事を決め、ケイン達も付き合ってくれるとの事だ。
数分後、今後は三十分探索しては一度この場に戻る事をルーティーンとする事が決まった。
確かにそれなら、気軽に参加できるし離脱も容易なので、協力者も増えるだろう。
実際、この方針を打ち出し、共同探索を募ったら、参加者は軽く300人を超えた模様。
どうも、この手の仕切りになれた人が率先してリーダーシップを発揮してくれてる様だ。
俺達も任せっきりは申し訳ないので、少しでも戦闘面で返していこうと思う。
そうして始まった二度目の遠征は、初回よりも遥かにスムーズに進み、十分ほどで先程の最高到達点を超え、未だに距離の更新を続けている。
なんかこう、未踏の危険地帯を探検する様は、昔のTVショーを思い出すな。
そんな感じで三十分が経過し、再び出発地点へと戻る。
「それでは我らはこれでお暇しますね」
「お疲れ様、またいつか」
「ええ、では」
ケインたちは離脱し、俺達もコストがいっぱいなのでこれで帰還した。
「…よし、仕分け終了っと、次はどうする?」
PAにて、先程の戦利品の仕分けを終えたところで、この後の目的を決める。
「そうね、またアニマルの森で良いんじゃない?ただし、今度は私達だけで」
「その方が良いわね、流石にあの規模になるとやる事が無いしね」
という事で、再びクレーターに向かう。
「ほほう、これが巨獣の巣になってるのか」
丁度居合わせたマサを巻き込み、4人で巣に乗り込む。
先程の集団はまだ継続してるようで、出発地点が駅のホームの様になっている。
「今度は便乗しないって事で良いんだな?」
マサは良く解って無いが、多数決に従うという事で、今度は4人だけで森に入る事に。
一応邪魔にならないように、暫く岩肌の坂沿いに移動し、距離を取ってから出発した。
「良い感じで敵にも遭遇するし、さっきよりは充実感有るな」
流石に巨大なチンパンジーが煽ってくるのは我慢ならんが、それ以外は概ね良好だ。
「ところで此処では何を目標に行動するんだ?」
「え?普通に素材集めで良いんじゃないか?」
マサの今更な疑問に、障りの無い返答を返しておく。
「そう言われると身も蓋も無いな。只ここってどう見てもダンジョン枠だろ?だったら攻略する必要があるだろうが、何をもって攻略したと言うんだろうな」
なんか森のダンジョンでも同じような件があったな。
「なんだろうな…、でもそんな事俺らが気にする事でも無いし、普通に楽しんでれば良いじゃん」
ってな具合で、特に何をしようとか無く、のんびりと森を散策する。
「皆消耗具合は?」
「武器が大分痛んできたな」
「ポーションの在庫が心許ないわ」
「矢が尽きそうね」
今しがたオランウータンを討伐し、物資の状況を確認したが、結構ヤバい状況だ。
既に退却を始めてはいるが、中々襲撃が収まらず、スムーズな帰還とはいかないのだ。
「分かった、とっておきを使って俺がどうにかしよう」
[上級親子丼]と[ローヤルエナジー]という飲料を使用。
これで俺のLPは10万程ブースト、STAは30万程ブーストされた。
「LPは分かるが、STAは意味あるのか?」
「開墾に補正が入るだろ?」
「そういえばそうだったな」
地味にだが、開墾時にもSTAの補正は掛かるので、これなら畑の耐久度もかなり高まるだろう。
こうして畑に掛かる補正が大幅に強化されたので、いつものドッペルからの<鍬の一振り>での防御陣も、頼もしさが倍増した。
早速、豹が襲ってくるが、先程までと打って変わって壊れない畑。その堅さに豹も困惑気味で、俺らをそっちのけで、目の前の不気味なオブジェクトの排除に必死だ。
この隙に全力で後退し、都度畑とドッペルを捨て石に逃げ続ける。
ドッペルの過剰使用により、満腹度と保水度の補給用の物資が底を着き、バフ用の物資にまで手が伸び始める。
このままだと全てのリソースが尽き、全滅必至かと思われたが、どうにかすんでのとこで安全圏まで引く事が出来、そっと胸をなでおろした。
PAに帰ってきて、先程同様仕分けを済ませ、休憩がてら雑談タイム。
「これでアニマルにも明確な攻略対象が出来たわね」
「そうだな、バグスターは残りのダンジョンと未だ健在の百足」
「フォレストは攻略とは違うけど、木の保護って目的が有るわね」
「そしてエルフィンは封印解除された廃都と軍事基地だっけ?」
更にアースも幾らでも未開の地は有るからな。コンテンツ不足とは無縁で良い事だ。
「ところで皆三回目の再誕の目途は立ったか?」
「流石に気が早すぎないか?ついこの間再誕したばっかだろ」
「そうだけど、要は1億5千万稼げばいいんだから、一日500万稼げれば一月で一回出来る計算だ」
「まあ…そう聞けば今の俺らなら十分狙えるペースでは有るな」
なんせPAの設備が強力だし、日々職人が金目の品をクラフトしてくれてるからな。
その売却額の分配で、各々の売上金のストックは相当な額になってる筈だ。
「俺としては、再誕後は最低でも五回覚醒9回転生Lv100まで一気に上げるのが目標だから、そうだな…後三週間ほどで三回目の再誕をする心算だ」
「フム…まあ妥当な期間設定じゃないか?廃人層は既に四回五回としてるみたいだし」
「うわぁ…ガチ勢との差は果てしないわね…」
天上人との歴然とした差に、ドン引きのユキ。
「今調べてみたけど、今の所五回目でLvキャップの様ね」
アコ曰く、この上限が次のアプデで解放される様だ。流石関係者、情報が早い。
まあ、これまでの傾向的に、想像つくからマサに変に思われる事も無いか。
休憩後、一旦飯落ちし、再びログイン。
先程のメンツに加え、ベッタラとカメキチさんが合流。
「タンクとアタッカーが加わったから、何処でもイケるな」
「…なら蟲の体液を取って来てくれ…そろそろ無くなりそうなんだ…」
黙々と作業をしていたマッドから催促が飛んできた。
「そうだな、じゃあ蟲狩りにでも行くか」
1人でも多い方が良いとマッドを連行し、7人パーティーでバグスターへGO。
そして訪れた南のダンジョンは、大勢の人手ごった返していた。
敵の居ない道中を移動し終え、今まさにボスを追い込んでいるシーンに遭遇。
「これまた、今までの蟲と比べて、実にシンプルなだこと」
これまでの巨大さや異形な姿と打って変わり、俺の使い魔の<金甲>と同じ金色の甲虫と、金色のクワガタムシが一匹ずつ居た。
「ちっさいな~」
言うまでも無いが、恐ろしい程に強い。
小さいから攻撃は当たらないし、矢鱈と高い防御力にARMまで備えていてLPまで異常な程に高い。
それでいて絡め手に対する耐性も高く、ノックバックも効き辛く、おまけにダメージ反射までする様だ。
これのせいで戦車が手を出し辛く、マローダーにデストロイヤーが手をこまねいている状況だ。
「あ、しかもヤスデも居やがるのか、しかも2匹も」
以前東のダンジョンのボス部屋で見た、部屋の隅を移動する巨大ヤスデが2体。
1体は後衛殺しで部屋の隅を、もう1体はランダムで動き回るという、嫌らしい行動パターン。
「うーん、どっしり構えて戦う人たちには相性最悪って感じか」
まあ、俺達にはこれと言って悪い相手じゃなさそうだし、一丁参加してみるか。
「早速だが、部屋の隅を回るヤスデと戦ってみようか」
ヤスデを嫌い、誰も寄り付かない隅に移動し、ドッペル一振りのコンボで陣を敷く。
暫く待機し、のそのそと漸く陣地まできたヤスデを迎え撃つ。
「フン!!」「<アイススピア>!!」「フッ」「オラァッ!!」「ソォイ」
各々が攻撃を仕掛けていき、俺も接近してランタンを浴びせ、使い魔を全力でぶつける。
カメキチさんがヤスデの正面に位置取り真っ向勝負。
其処へ浴びせられる<魔道人形>のモルヒネ光線と<ゴーレム使い>の引き寄せ、更に原木畑とそれに付随する柵と案山子の壁。
これらが組み合わさった今、本当に僅かでは有るが、ヤスデの進行速度を鈍らせ、カメキチさんの轢かれるダメージも減少した。
「今がチャンスだ!!」
俺の号令で、一層激しく攻勢を掛け、更に便乗した他のパーティーの攻撃も加わり、ヤスデが俺らの陣を過ぎるまでに、二割ほどのLPを削り取る事に成功。
このうちの5%位は毒蛇が与えたダメージだと思う。その位毒が直撃した時だけ、ヤスデのLPがゴリっと減ったのだから。
これに勝機を見出したのか、今までヤスデは無視して、金甲金クワの即撃破に依る短期決戦を狙う空気が一変。先ずはヤスデの排除からと方針が変わった。
ただこれも中々の艱難辛苦にまみれた工程で、ヤスデのLPを減らせば減らす程、蟲の増援が発生し、その都度ボス部屋は混乱の坩堝へと陥りかけた。
それでも、戦車を配備出来てたことが功を奏し、増援の被害を一定以下に抑えつつ戦力を維持。
ついには1体目のヤスデの撃破に成功した。
『うおおおおおおお!!』
全体が歓喜し、士気は最高潮にまで登る。
ところでヤスデへの止めだが、ちゃっかり俺が頂いたりしていた。
運よくガーディアンの一撃が決まり、多量の超希少素材が手に入り、この事実に気付いた。
取り敢えず素知らぬ顔をして、この素材を無事持ち帰る事に思考を割かねば。
何とか素材を持ち帰りたかったが、なんと言うか、周囲の無言の圧力に屈し、もう1体のヤスデ狩りにも従事する羽目に。
幸い、此方の戦力は十分で、向こうが此方の予想を上回るほどの何かをしてくることは無いだろう。と希望的観測を交えつつ、欲に呑まれて継戦を決めてしまった。
一応、これで俺らを蔑ろにするような輩が居たら、その瞬間に帰ると決めているので、協力する代わりに精々気持ちよくなれるようお膳立て宜しく!!って気分でいるから気は楽だけどね。
さて、2体目はランダム移動なので、ヤスデの傍に向かい同様の手順で迎え撃つ。
今度は運が良いのか、ヤスデが何度も同じところを往復してくれたので、安定して集中砲火を浴びせ、1体目に比べ短時間で処理が完了した。
少々拍子抜けだが、そう何度もアクシデントは要らないので、これでいい。
ヤスデを処理したところで、通常の蟲が湧き出し、ボス戦も中盤って感じか。
ボス戦に雑魚が混じるという、これまでとなんら変わらない展開だが、ボスのダメージ反射っていう特性が非常に具合の悪い展開を生む。
「痛…クソ、また金甲か金クワが混ざってやがったか…」
マサの様な、範囲攻撃を得意とする者は、こういう集団戦時の反射に兎に角弱い。
分かってても厄介な反射が、対象が小さく、取り巻きが巨大なせいで、何時巻き込むか分からない故に、常に不意打ちの反射に気を配る必要に晒され、精神をガリガリと削られる。
それでも、マサはまだマシな方だ。なんせ範囲を伸ばすために火力は抑え気味だからだ。
不意打ちこそ受けないが、ベッタラの様な高火力アタッカーは、迂闊に殴れば瀕死なので、何か対策が無い限り活躍は制限されるだろう。
ちなみに、魔法や飛び道具に関しては、観察していた限り大丈夫なようで、ユキとアコは問題無く戦えそうだ。
何で戦車がダメで、弓が良いのかは、謎だがまあいいか。
無限湧きの雑魚を抑えつつ、俺もボスに肉薄してみたが、兎に角戦い辛いったらありゃしない。
小さくて他の蟲に隠れるし、それを如何にかしようにも、物理範囲は反射、遠隔や魔法職は飛べる蟲に粘着され機能していない。
戦車?んなもんとっくに弾切れで隅っこで煙吹いてるよ。
そんな状況だが、意外にも使い魔の鼠とマウスが良い働きをしている。
鼠は因子の重複で、マウスはスキルLv50の強化で堅くなっているので、蟲にある程度抗い、その攻撃を足元に誘導する事で範囲攻撃の被害を抑制。
ついでにカブにクワへと攻撃を加え、僅かにだがダメージも与えていて、かなりの活躍を示してくれた。
と言っても、ダメージが通るのは、俺がボスの近くに居る場合のみで、離れてランタンの範囲外に出ると、途端に弱小使い魔の攻撃など通らなくなるので、難しい所だ。
なんせ取り巻きは強いし、今しがたボスに投げ飛ばされ、端っこに追いやられてしまったので、再び接近しなければならず、それも取り巻きに阻まれままならない。
この取り巻きの苛烈さと、ボスの堅さと当たり判定の小ささ。そして理不尽なまでの投げ飛ばしにより除去能力の高さで、安定して張り付く事が困難であり、効率よくダメージを与えられずにいる。
「うーん…これ以上は俺達には無理そうだな」
「みたいだな、反射で迂闊に手は出せんし取り巻きが多くて魔法遠隔も機能不全じゃな」
このまま俺達が頑張った所で、ボスの素材に有りつける気もしないし、うちは名声とは無縁な立場だしな。
「潮時だな、どうせ居ても意味無さそうだし帰ろう」
ちらりと周囲を見ると、同様にボスに有効打を与えられず、リソースばかり消耗する中小パーティーがしょんぼりしながら帰還していた。
それらをほくそ笑みながら見送るプレイヤー、困惑しながら見つめるNPCの対比が印象的だった。
俺らも入れ代わり立ち代わりする人波に混ざり、ボス部屋を後にした。
「どうやら南のダンジョンを制覇したみたいだな」
PAにて、戦利品の仕分けをしていると、マサが最新情報を告げる。
「まあ、戦力外から帰還していったからな、精鋭だけが残れば当然の結果だろう」
「それでもNPCには結構な被害が出たみたいでな、帰還者が多発しなければ犠牲者を減らせたのにと、現状の報酬の問題点を上げてるみたいだな」
分からんでも無いな、止めじゃなくて、貢献度で素材が自動分配されりゃ良いんだが、そうしないのは運営が敢えてそうしてるわけだし。
報酬に関しては、もっと評価項目を増やして個人単位の報酬を増やさないと、割に合わなければ帰るのは当然だしな。
「しかし、敵の特殊能力が増えてきて、どんどん格差が生まれてきたな」
初期に比べ、格段に金を稼ぎ易くなったとはいえ、それは初心者低Lvに限らず、全体の底上げなので、当然上位層は一層上に駆け上る為、格下との歴然とした差は埋まるどころか広まる一方。
さっきの様な戦場だと、中堅の俺らですら最早活躍の機会が限られる始末。
「そこは仕方無いんじゃないかしら?寧ろ先人が発掘したルートをなぞれる分、有難いまで有るし」
確かにそうだ。良くある先行組が強ビルドでゲームを荒らすだけ荒らし、後発組がそのビルドを組める頃にはパッチでナーフ祭り。結局幻のビルドと化すってのが良くありがちだ。
しかしこのゲームでは敵がインフレする事で、これまでの強戦法が通じ難くなったりはするが、滅多な事ではプレイヤー側の性能を弄ってどうこうはしない分、先行組のプレイは大いにお手本となるので、人柱としても必要な存在だろうな。
「それはそれとして、これからどうする?早速西のダンジョンにでも行ってみるか?」
『賛成!!』
という事で、夕飯まで西のダンジョンの観光に行く事に。
ダンジョン入り口に着くと、早速瓦礫の撤去がされていて、今しがた空いた穴から蟲が沸いて現場は大パニック。
これまでのダンジョンで、高速移動、範囲攻撃、デバフ、脱皮と特殊能力を身に着けてきた蟲共。
「さて、今度はどんな能力を引っ提げてきやがったかな?」
少し距離を取り、使い魔を当て馬に様子を窺う…までも無く違いはあまりに顕著だった。
「マジかよ!?蟲が魔法を使ってるぞ!?」
これまでなら、基本接近するか、体液を飛ばすなどの原始的な攻撃方法のみの蟲共が、地属性の魔法を行使し、穴を掘ったり壁を造ったり岩弾を飛ばしたりとやりたい放題だ。
混乱から立ち直ったNPCがPC達と連携し、蟲を駆逐。
NPCの現場責任者が憶測を述べる。
「ううむ…恐らくだが先の三つのダンジョン攻略で、ここ等一帯の汚染が広まり地下にも影響を及ぼしているのだろう…」
確かにホームの開発から車両の運用。更に戦略兵器も何度かぱなしてるからな。
普通に考えれば環境汚染も甚だしい所業だし、当然と言えば当然なのか。
「しかし蟲が魔物化して、魔法まで使い始めたか」
「…ヤバいな…魔物化でステータスも相当上がったし、見た感じ絡め手に防御と使い分けしつつ、これまで以上の射程まで備えるんじゃな…」
これから行おうとしていた観光だが、軽い気持ちでは乗り切れない様だ。
なんて思っていたが、思いの外普通に対抗出来ている。
「やっぱ使い魔の移動速度は大事なんだな」
遠距離から魔法を使い、近づけば範囲攻撃や絡めて魔法に[速度]デバフの蟲に対し。
重複した<誘導>Lv120により、爆速の使い魔がデバフを受けてもなお速さを保ち肉薄。
頭上を抑える<青龍>に蜜蜂、足元に群がる鼠とマウスの連携、そして<蛇の王>などの超強力な使い魔が、上段中段下段と翻弄し、範囲攻撃の強みを殺す。
例え蜜蜂や鼠がやられても即座に前線に復帰。他の使い魔は堅いから早々やられる事も無く、蟲共は常に使い魔の攻撃に晒され粘着され、瞬く間に衰弱し力尽きた。
「良い感じだな。数を絞った事で個々の性能が上がってるから、使い魔の壁が崩れなくてやり易いぜ」
使い魔や俺らの後方からチクチクと蟲をいたぶるマサが、安定性に喜んでいる。
実際、使い魔の戦線復帰速度と個々の性能。マサのリーチとノックバックで完封で来てるので、やり易い事には違いない。
「これは考えさせられるわね、幾ら数が居ても、能力が高くても、適切なタイミングで適切な場所に居合わせて無ければ意味がない。今までだって普通の使い魔よりは速かったのに、輪をかけて速くなった途端この結果だものね」
ユキは、改めて位置取りや、それに掛かる時間のロスなどの重要性に着眼している様だ。
そんな感じで、使い魔の移動速度の急上昇と、これまでの経験で使い魔を蟲に嗾けた結果、蟲との距離を十分にとる事が容易になり、蟲を相手にする事が苦痛では無くなった。
蟲の理不尽な特殊能力やステータスを、数と運用速度という更なる理不尽で捻じ伏せ、順調に進んでいく。
周りを見てみても、同じ使い魔メインの人で戦えている人は、皆<パイパー>を採用しているか、なんらかの方法で使い魔の移動速度をブーストしてる人ばっかだった。
逆を言えば、使い魔の移動速度が足らない人は、蟲と使い魔と自身の距離が近すぎて、範囲攻撃に巻き込まれる、又は遠距離で魔法に嬲り殺しにされている。
中には、俺なんかよりも更にスペック重視のビルドを組んでいるのか、そうした猛攻の中<代行の剣><代行の盾>と一緒に前に出て、壮絶な殴り合いで敵を殲滅する人も居た。
一体どれ程使い魔特化のパラメータ構成にして、何度因子を重複させればあれ程の戦力に昇華されるのか…。
きっと、ファーマーとの兼業に逃げなければ、アレが俺の目指す一つの形だったんだろうな。
意識を自身に戻し、障害が排除された通路に周囲の人々と侵入。
新たに辿り着いた部屋は、過去に見ない程広い部屋で、分岐も普通の蟻の巣ではありえない程有り、数えきれない程となっている。
当然そんな部屋だからこそ、最初から夥しい程の数の蟲が居り、この瞬間にも各分岐路から膨大な数の蟲が押し寄せてきている。
どちらからともなく始まる戦。だが明確な先手は蟲が取り、魔法の一斉掃射で始まった。
俺達はこれを豚でやり過ごし、邪魔にならない場所でキノコを栽培する。
「フフフ…【有害危険植物研究所】で買った秘密兵器の出番だな」
暫くして、紫に白の斑点が毒々しいキノコを収穫。
[狂虫茸]:虫を発狂させる成分を多量に含んだキノコ。様々な用途がある。
という物を、携帯七輪で炙る。
「ギギギギ…」「キチチ…」[カチカチカチ!!!]「ブーーーン!!」
という風に、徐々に静かになっていった蟲共が、一気に騒がしくなり見境なしに暴れ出す。
あまり周囲を巻き込むのも良くないかと思い、団扇で自分たちの前の蟲にのみ香りをお届け。
同士討ちを始めたり、何も無い空間を攻撃する蟲を楽々処理。
そんな光景を、物欲しそうな目で見てくるNPCが居たので、そちらにも香りをお裾分け。
彼方も蟲狩りがスムーズにいき、此方に会釈をしてきた。
そんなやり取りを、その後暫くする羽目になってしまったのは、想像に難くないだろう。
蟲の発狂作業に一段落着き、その場で即席キノコ販売をする。
なんせこの[狂虫茸]は、普通の店では買えないし、自然での採取も出来ない限定品なのだ。
今の所これを扱える人は此処には居ない様で、購入希望者が続出。
急遽即売会を開催したのだ。
さて、肝心なお値段は一個5000円なり。
え?高いって?仕方ないじゃん、このキノコの駒菌一粒1万もするんだから。
それでいて収穫量も一粒で5~6個と、[幸運]8000にしては矢鱈と少ないし、一人しか収穫できないから、この位取って当然だろう。
それでも効き目はさっき実演したからな、当然もの凄い勢いで売れていく。
そんなバカ売れ状態を見ると、三回目の再誕も目前だなと笑みが零れてくる。
これまで端金が出来る度に、買いためておいたので、かなりの利益を叩き出せた。
売り切れを掲げ店じまいをし、離れたとこで狩りをしていた仲間と合流した。
「お待たせ」
こっちはこっちで、俺が持たせた[狂虫茸]で蟲をカモにしていたらしく、凄いホクホク顔だ。
「いや~、中々儲けたぜ」
「こっちも闇雲に暴れる蟲を美味しく頂いてたぜ」
さんざん実演でキノコを使ったんだ、今度は購入者のキノコに便乗して蟲をしゃぶるとしよう。
適当に人も蟲も多そうな部屋…つまり今いる部屋をウロウロしながらパニクル蟲を蹂躙。
かなり広い部屋だけに、幾ら狩っても蟲が尽きる事なく湧いてくる。
「キノコが無かったらこの部屋で詰ん…て事は無いだろうが、今頃もっと消耗してただろうな…」
暫くすると、キノコを使い切った購入者が戻ってきて、再度売ってくれと言って来るが、売り切れを告げると凄いがっかりした表情される。
仕方ないんだ。原価が高いからあまり在庫が無かったんだ。
それでもここで売る方が、皆が得をするので、自分たち用に確保していた在庫を放出。
そのままダンジョンを出て、入り口のNPCに[狂虫茸]が有効だと告げ、帰還を果たす。
夕飯後。
「まさかこの短時間で[狂虫茸]の駒菌の在庫が切れるとは…」
先程の稼ぎを元手に、研究所に仕入れに来たら、既にギルド関係者が来て買い占めていったそうだ。
「まあ、純利益で言えばそこまででは無かったしな、別の方向性で攻めてみるか」
取り敢えず、ポルチーニ、マタンゴ、トリュフ、マッシュルーム、椎茸、松茸、獄炎茸の駒菌を400万円分購入。これで所持金は0になり、身軽になれた。
そして全員揃っていたメンバーを伴い、再びバグスター西のダンジョンに乗り込んだ。
ダンジョン入り口で、格安で売りに出されていた[狂虫茸]を使ったお香を購入し、大部屋に乗り込む。
「あ、あれ?」
其処には動きこそ鈍いが、戦闘に支障が無さそうな蟲がPCNPC問わず蹂躙して光景が広まっていた。
「おい!?この香あんま効いてねえぞ!?」「詐欺や!!これは詐欺やで!!」
至る所で、お香の効き目に対し罵詈雑言が飛び交っている。
「確かに安かったけど…本当に効かないのか?」
自分でも試す為、お香に火を入れて蟲に戦いを挑む。
「うん…確かにキノコを直接焼いた場合に比べると効き目は微々たるものだが…効き目はしっかりと出てるじゃないか」
体感で一割ほどの効き目か?でも持続性と安さを考えれば値段相応だと思う。
そんな感想を抱き、仲間とも意見交換する。
「…そりゃ大量販売で安いって事は、成分も希釈してるんだろうし、効き目が下がって当然だろ?」
とはマッドの言。
どうやら俺の栽培品の効果が独り歩きした結果かもしれんな。
「なあ、あんた。さっきキノコを売ってた人だろ?仕入れは…出来たんだろ?」
先程の購入者と思しき人が尋ねて来るが。
「いや、スマンが買い占めで俺も買えなかったんだ。一応この香も値段相応に効くのは確認したから、これで我慢してくれ」
「マジか…」と一言残して去っていった。同様の理由で傍に寄ってきてた人も散っていった。
「なんだかなぁ…」
まあ、この香と俺の使い魔が居て、フルメンバーで来てるんだ。しっかりと稼がせて貰おうか。
先程同様に足固めを済ませ、キノコ栽培を開始。
買い漁った高級キノコをジャンジャン量産する。
「うーん、こいつ等も一人採取したら終わりか」
原価が高い、需要が高い物は必然的に収穫人数に制限が掛けられているので、仕方ないか。
[低品質なポルチーニ]:質が低くても非常に美味しいキノコ。[料理の効果上昇][料理の質が上昇]コスト1。
[未熟なマタンゴ]:栄養不足の未熟なマタンゴ。[魔法防御力30%上昇][魔力30%上昇]コスト5。
[トリュフ]:豚も大好き!!香り高い高級キノコ。コスト1
[上質なマッシュルーム]:パスタにスープにと大活躍。[料理の効果上昇]コスト1。
[上質な椎茸]:焼いて良し揚げて良しの優等生。[汁物の質を大幅に上昇]
[獄炎茸の欠片]:あまりにお粗末な環境で育ったがために、欠けてしまった超猛毒のキノコ。コスト10。
てな具合で色々と収穫したが…やはり高級品な為か、一部俺の手には余る様だ。
なんだよ未熟とか欠片って!!高い耕作地ランクであっても、作り手の能力不足だとこうなってしまうのか。
それとももっとランクの高い場所を見つけて、そこで栽培すればちっとはマシになるのだろうか?今後の課題だな。
一応サンプルとして、[マタンゴ]と[獄炎茸]も少量栽培し、残りは駒菌分全てキノコにしてしまった。
勝手に突ってきてやられる蟲の素材合わせ、コストが一杯になったので帰還した。
「ほい、どうだ?使えそうか?」
「…ああ、確かに質はかなり悪い様だが、それでもかなりのヤバい薬品が作れそうだぜヒヒ…」
栽培したキノコと素材をマッドに渡し、今度は真面目に戦闘しに再びダンジョンに向かう。
「やっぱこの部屋が最初の難関の様だな」
まだ解放初日とはいえ、あまりに広く分岐の多すぎるこの部屋から、まともに進めている人が少なすぎる。
「僕のような後衛職には厳し過ぎる条件ですからね、常に挟み撃ちを警戒し、身動きが取れないのは」
「そうね、後衛の護衛にと、後ろにも前衛を配置すると、本当に動けるスペースが無くなっちゃうものね」
ベルの危惧にアコが同調する。
「となると、少々リスキーだけど、通路入り口を守る班、先行班、そしてその間を取り持つ連絡班と分ければ、挟み撃ちとスペースの問題は解決出来るな」
「それいつだかも、似たような事したな」
あれも蟲相手に戦ってた時だったかな?覚えてないや。
「ものは試しで一度やってみましょう」
サチが実践が一番手っ取り早いと言うので、早速フォーメーションを組む。
「先ず連絡係1人目はアコが適任だな」
「任せといて」
足が一番早く、遠隔持ちだから融通が利きやすいのが理由だ。
「先行は…ラークワイドショーの3人が真っ先に埋まるか」
「「「任せて下さい」」」
火力と防御力のバランスが取れた盾剣トリオなら、道を切り開くのに適任だろう。
「となると防衛は、カメキチさんに俺にサチを、連絡にマサとユキを追加だな」
守りの堅いカメキチさん、同じく守りが堅く、数を補える俺は定点守備に、その定点守備をより強固にするサチをどうポジションに配置すれば盤石だ。
そんな感じで班を分け、俺、カメキチさん、サチ、シルク、おりょうさんが防衛班。
盾剣トリオ、ベル、ベッタラ、パミルが先行組。
アコ、マサ、ユキ、マッド、サーモンが連絡班に決まった。
これはあくまで通路の危険を防ぐ為のフォーメーションなので、無事先の部屋で合流出来たら、即別の最良の形に変えるのであしからず。
という事で、早速フォーメーションの実戦に移る。
大部屋のとある通路の前にて、先行班と連絡班を見送る。
「お、早速おいでなすったか」
仲間を送り出して早々、別の通路から沸いて来た蟲が此方に向かってくる。
即座に蜜蜂の群れと<青龍>が巨蟻に肉薄する。
魔法を使う暇すら与えずに、400を超える毒爆撃とブレスに晒される蟻。
魔物化に因り、疲労ダメージの通りが悪くなったようだが、[制圧]の三つのスキルが機能してる為、最初の毒爆撃とブレスで目に見えて蟻の動きが鈍った。
其処へ鼠とマウスが足元に群がり止めとなった。
その後も大部屋では人と蟲が絶えず行き来し、当然多くの蟲が俺らの元へ向かって来た。
それらを駆逐してる間、背後の通路からも戦闘音が絶えなかった。
『先行班が先の部屋に辿り着いたわ』
「了解、引き続き直ぐ動けるように宜しく」
アコからチャットでの報告を受け、防衛を続ける。
報告から程なくして、背後が騒がしくなる。
少しして連絡班に導かれながら、先刻班が蟲に追い立てられながら下がって来た。
コチラも事前に報告が来てたので、既にスタンバイ済みで、全員を受け入れ後、即穴を塞ぐように蟲に立ちはだかった。
そして先行班を追って来た蟲を全滅させ、一息ついたので、報告会を始める。
「先の部屋はどうだった?」
「いや~参ったね、この部屋と同じような規模と作りをしてたぞ」
代表して、ベッタラが受け答えをしてくれる。
「という事は、この部屋同様無数の分岐があるって事か」
「ああ、広いし分岐も半端ないから蟲の行き来もヤバかったぜ」
「そうか、じゃあこの部屋の分岐も何割かはその部屋に通じてるのか」
「だと思うぜ、だから、実質蟲の行き来を塞き止めて封殺ってのは、このダンジョンでは無理だな」
人手が足りないって事か。
「分かった。調査ご苦労さん。となるとこのダンジョンでは、挟み撃ち不意打ち当たり前で、更に螻蛄の様な地中を通って来る蟲も警戒する必要があるのか」
蟲の全魔物化、そして地形の規模拡大に分岐増加による迷路化か。
「部屋が広くなった分、範囲攻撃の脅威度は下がったが、それはこちらも同じだしな…」
マサにとって、蟲が犇めいていれば、一度に叩ける敵が増えてお得だが、このダンジョンみたいに、巨大な蟲ですら十分な間隔を取れるような場所では、強みが半減してしまうのか。
一応、他の部屋も調べてみたが、やはり全ての部屋が巨大で多数の分岐が有ったので、それがこのダンジョンの持ち味なんだろう。
「この大部屋とリンクしてる部屋数は10…と」
あれから調査を続け、通路で繋がる部屋の数を10と特定した。
「やっぱ挟み撃ちは実質され放題って事だな」
それもまだまだ地上に近い場所でこれだ。相当にタフな攻略になりそうだな。
「さて、一旦戻って、次にどうするか決めようぜ」
物資も乏しくなり、一度地上に戻る事に。
その際、ダンジョン入り口にMAPが設置されていたので、拝む事に。
「おお!?すんごい勢いで更新されてるぞこれ」
リアルタイムで蟲の巣の形状が、スクリーンに書き足されていく。
「ハハハ、凄いだろう?斥候の最精鋭を投入してマッピングしてるんだ。…そうでもしないと終わりが見えてこないからな」
入り口の警護に当たるNPCからの情報だ。
改めて地図を拝見。成程、正攻法で正解のルートを見つけるのは無理だな。
それだけ複雑怪奇に相互接続されてる巨大な部屋。こんなの無限に湧く蟲の相手しながらとか不可能だろ。
…いや、廃人なら力押しでも可能か?まあこのMAPのお陰で、ローラーせずに済むんだから、考えるだけ無駄か。
どんどん充実していく地図を眺めるのも楽しいが、PAに帰還する為その場を離れた。
PAに戻り、職人はクラフトに、ラーク達PvP勢は闘技場へ向かって行った。
「んじゃあ、エンジョイ勢の俺らは何をするか」
残ったのは俺、マサ、ユキ、アコ、ベル、サチ、サーモンだった。
以外にもカメキチさんがPvPをするという事に驚いた。しかもかなりガチ勢らしい事をラーク達に聞き更に驚いた。
「俺はゴブリン狩りに行くからソロで動くわ」
「なら私も行くわ、良いでしょ?」
サーモンは森に行く様で、サチもそれに同行する様だ。
「私は矢の材料を集めて来るわ」
アコは樹海に行く様だ。
「ユキとベルはどうする?」
「私はテツ君についてくわ」
「僕も同じく」
ウム、キャスターとヒーラー同伴なら、多少は融通が利くな。
「じゃあ、久々に砂金掬いをしながら、渓谷の上流を目指してみるか」
何時だかグリズリーに阻まれ、途中で引き返したが、今ならかなり先までイケるだろう。
3人で渓谷に着き、砂金を求めて上流へ練り歩く。
「のどかだな~」
まだまだ下流に位置する為、敵も殆ど居らず、居てもハゲタカや狐などの小者だけだ。
暫く歩き続け、熊が出始めるが、全く問題にならず採取に力を入れる。
そして未踏の区間まで来ると渓谷も無くなり、左手には濃い緑が、右手には薄っすらと雪景色が広がり始める。
「この先は初見だな。まだまだ余裕だと思うけど、一応警戒していこう」
おーー!!掛け声を上げ、未知なる土地を行く。
「雪豹か、最初の頃なら相当強く感じたんだろうな」
出てきて早々<青龍>に炙られ昇天する雪豹を見ながら呟く。
更に上流に向かい、突き当りに行きついた。
「滝か、この先は雪山側に行かないと進めないのか…」
「マンモスは勘弁だわ」
「今の戦力じゃ無謀ですね」
「となると森側に入ってみるか」
森に入り、奥に進んでみる。
「この森も全然散策して無いな」
「蛇の森、リザードマンの居た辺りまでよね」
「そうですね、良い機会ですからしっかりと探索しておきましょう」
そして薄暗い中、当ても無く斜面を登り続けると、ふと木々が途切れる場所に到着。
そして幅50m程の空白地帯を隔て、森の中にある森という、奇妙なロケーションを発見。しかもその手前にはそこそこの人がキャンプを張り行き来している。
「なんなんだここは?…ッ!?」
「ギャ―――!!」
謎な場所に困惑していると、突如絶叫が聞こえてきて、身が強張る。
「フフフ、また犠牲者が出たか」
「俺が成功するまで皆死ねばいいんだ」
「これに懲りてとっとこ降りてくれればいいんだがな」
と口々に犠牲者?を嘲笑う声が聞こえてくる。
良く解らないが、危険であると同時に何か良い物がある事は分った。
「取り敢えず進んでみるか」
そしてこの小森の目玉が判明。
「また毒蛇系の巣窟かよ…」
俺の手には、頭上から降って来たレッドマンバ?と思しき細い蛇が握られている。
「テツ君良く平気ね…」
「何言ってんだ?爬虫類は結構好きだし、ユキも割と平気だろ?」
「んまあ忌避感はそんなに…ってそうじゃなくて噛まれてたでしょ!?」
「ああ、毒防御力150だからな、全く効いてないぞ?」
「ふーん?チョット試しに…」
とユキが赤いマンバの口元に指を近付け。
「カプッ」
「うああああああ!!ヤバいヤバい!!?回復回復!!」
急いでポーションを擦りまくり一命を取り留めたユキ。
「ゼ―…ハー…とんでもないわね毒防御150。累計で100万位減ったんだけど」
「それがノーダメージですか…やはり毒や酸の対策は早めに準備しとくべきですかね?」
ユキに回復を施しまくってたベルが、一息つきながら聞いてくる
「俺は必要だと睨んで[蛇使い]の覚醒数を稼いでるな。それに使い魔も優秀だし」
それにしても、こうして完全に掌握している敵に対して、使い魔が反応しなくなるのは驚いたな。
あれかな?テイムっていうシステムがに配慮して、プレイヤーの身体が触れていて無害化した敵には攻撃しないようになってるのかな?まあ別に不都合があるわけじゃないから良いか。
そんな感じで赤いマンバを掴みながら話をしていると・
「お、おいあんた!それレッドマンバだよな?頼む!それを俺に譲ってくれ、頼む!!」
と男が懇願してきた。
「(やっぱレッドマンバって言うのか)テイムしたいって言うのか?構わんが見返りは有るのか?」
「す、少し待っててくれ!!直ぐに金目の物を持って来るから!!」
そういい神速で行って戻って来た男が提示したのは、500万もの大金だった。
「譲るのは良いんだが、そのまま渡せば良いのか?」
「あ、いや、そうだな…出来れば成功するまで付き合ってくれないか?長引くなら追加で金を出すから」
まあ、いい稼ぎになるし了承するか。
…しかし…そうか…やっぱそうなんだな…。
そして六時間後。
「おっしゃああああああああ!!」
最初に頼んできた男とその仲間10人分のレッドマンバのテイムに協力し、計1億もの大金を得てしまった。
ユキとベルはとっくに帰ってログアウト済みだ。
経緯を簡単に説明すると、例によってテイム率激渋のレッドマンバをを始めとした凶悪な爬虫類が跋扈する小森。
彼らはここ数ヶ月此処とホームを行き来しながら、レッドマンバを狙っていたそうで、これまで3匹テイムに成功しているとの事だ。
あまりの渋さにドン引きしたが、レッドマンバにはそれだけの価値が有るそうで、なんと毒属性と辛属性というマスクデータ扱いの属性があるようで、これが状態異常を引き起こし、かなり強い様だ。
でも俺にはそんな影響はなかったので、恐らくはランタンのデバフで無効化される程度の弱さなんだろう。
まあ、それでも専用の状態異常を追加で引き起こせるなら、それに越した事は無いか。
んで、ただでさえ渋いのに出現率も激渋で、おまけにレッドマンバは勿論他の爬虫類も凶悪なので、安定すらしなかったという。
其処にレッドマンバを長時間拘束でき、他の爬虫類をものともしない俺が登場。
これ以上続けたら精神が病みそうだったので、協力を仰いできたのが一連の出来ごとの顛末だ。
次は出来たら早く上げます。




