第二十五話
~前回までのあらすじ~
やっくん達を手助けし、その見返りにランタンが五個に増えたり、
PAの設備が強化されたりと、順調に力を付けていくテツと仲間たち。
更にアッシーのパターン解析に乗り出し…。
検証に協力してくれる人たちが右端に着いたので行動開始。
先ずは俺が前進し、アッシーの注目を独占。程なくレーザーブレスの執拗な照射に晒されるが、豚が万事解決してくれる。
そしてアッシーが水中に消えるラインを割った瞬間に、反対側の協力者達が前進を開始。
するとどうだろうか。祖父母の片割れはそのまま俺に攻撃を継続し、向こうもフリーのまま進みラインを割った。
即座に皆で全力後退をし、消えたアッシーの動向に注目。
「良し!!思った通り先にラインを割った方に来るのか」
予想通り、直前まで俺が居た場所に壊滅的な威力のブレスが注がれた。
これで、打ち合わせした検証の第一段階は終了。続けて第二段階に移行。
先程と同じ手順で、俺が先にラインを割りアッシーを釘付けにし、右側が前進。
今度は俺だけが後退し、向こう側はそのまま前進を続ける。
またしても俺の方に浮上し、強ブレスをお見舞いしてくる。
「さて、ここからが検証の第二段階だが…」
既にライン外に居る俺を一瞥し、直ぐに水中に消えるアッシー。
片割れに継続して豚が炙られる中、反対側がラインを割って入る事を確認。そのまま眺めていると、消えたアッシーが反対側に浮上し、向こうを攻撃した。
「成程。一旦仲間に合流とかしないで、一気に排除に動いて来るのか」
向こう側が何とかブレスをやり過ごし、ライン外に退避し、第二段階を終了。
第三段階の検証の前に、前提条件を満たせるかの検証をする。
「さて…どうだ?」
再びラインを割り、ギリギリまで粘り退避。使い魔を置き去りにする。
そしてそこへ着弾するブレス。果たして使い魔は!?
「おお…豚が1匹生き残った…」
当然、豚以外の使い魔は無傷で生存し、今しがた俺の傍にワープしてきた。
これで、あの奇襲ブレスをやり過ごせることが確定。第三段階へ移行できる。
しかもコレ、[ドッペルゲンガー]無しでの結果だから、安全マージンは相当有るので、良い検証結果が得られそうだ。
という事で、同じ手順で直前までの状況を再現し、俺はデッドゾーンを進み続け、反対側も遅れてラインを割って進む。
俺が水際に辿り着いたところでアッシーが浮上。安全策でドッペルを発動し、<鍬の一振り>を使いアッシーの眼前で蹲って衝撃に備える。
直後、破壊の奔流に襲われ、計8体の豚の内6体がチャーシューになり、残り1体の内片方が破裂寸前まで巨大化していた。
「あっぶね~~!!やっぱ至近距離だと威力が違う」
すかさず第二波を準備するアッシー。俺は構わず水田上を前進し、遂に鷹の攻撃範囲内に到達。
再びブレスに耐える為蹲る。
先程より距離が近いから不安だったが、ドッペルの分と合わせて、2体の鷹が思いの外盾になり、豚の損耗率は先程とほぼ同じ位に落ち着いた。
ふと反対側を見ると、いつの間にか片割れが向こうに行ってた様で、彼らがブレスに呑まれ消える様を目撃した。
あ~あ、まあ予想通りとはいえ、やっぱ2体とも移動するのを見ると攻略が遠のくのは否めないな。
結局、向こうが片付いた事でもう1体が合流し、ブレス浴を楽しんで帰還しました。
「という検証結果だった」
PAにて、先程の結果をマサに面白おかしく伝える。
「中々面白い事やってたんだな」
「ああ、これでハッキリしたのが、小細工は有効だが最後にモノを言うのは力だって事だ」
「まあ、それを言ったら万事がそうだろうな」
こんな感じで話をしていると、G戦隊からお誘いのメッセージが。
「マサはどうする?」
「俺はパス。特訓が残ってるからな」
マサはそのまま[エルフィン]に向かい、俺はレイナさん達と合流した。
「それで?何で地底湖に?」
「そりゃ検証の為ですよ」
なんか何処からか、俺がアッシー攻略の為の検証をしてるって話が誇張され伝わった様だ。
しかも他にも合同検証に参加するパーティーが2つも居て、中々の大所帯だ。
取り敢えず再現性の確認から入り、片方だけの至近距離ブレスなら、耐えれることを再確認。
「それじゃテツさんは左端、私達は天井…」
とレイナさんが場を仕切り配役を決めていく。
ちなみにG戦隊の天井とは、ギフト[散歩の神]を全員が取得した事で、虚空以外は歩けるようになったので、天井から攻める役割を担う様だ。
残りの2パーティーは、堅さ自慢の[アイアンキャッスル]が正面。バランスの良い[黄金の稲穂]が右翼を担う事に。
[黄金の稲穂]は、以前もここ地底湖で共闘したので、やり取りもスムーズだった。
全員が配置に着いたのを確認し、行動を開始する。
「それにしても…」
前進しながら、ちらりと天井を行くG戦隊を見る。
「天井を匍匐で這いずる黒い物体。なぜベストを尽くしてしまったのか」
最早寸分違わずアレにしか見えない一行。天井をカサカサと進む様にアッシーも釘付けだ。
そんな中、俺がラインを割って祖父母の攻撃を受け持つ。
続いてG戦隊がラインを割ったが、位置的に移動する必要が無い為か、その場で残ってた方がG戦隊へ攻撃を開始。
それを散らばって見事に躱したG戦隊。そのままバラバラのまま前進していく。
少し遅れて[黄金の稲穂]もラインを割るが、予想通り祖父母からは相手にされずにいる。
そして最後に[アイアンキャッスル]もラインを超えていった。
俺は引き続き祖父母の片割れを相手にしつつ、畑を水上に拵え距離を詰める。
G戦隊はかなり前進したが、一定以上進んだことで片割れが移動し、対岸付近から照射タイプのレーザーブレスで炙られていた。
だがそこは超硬回避ビルドのG戦隊。命中重視のレーザーを普通に耐えて、仲間内でのダメージローテで上手く凌いでいる。
これで、祖父母は完全に釘付け状態なので、残りの3体を…ん?3体?
「あれ?確か前に全部で7体居たのを見たような…」
子供にその親で3体、そのまた親が4体で7体…。
そう思い出した直後、残った親子の注意を引こうとした[アイアンキャッスル]。
右側をこっそりと抜けようとした[黄金の稲穂]の前に、それぞれ巨大なアッシーが浮上。
「まあ、そりゃそうなるわな」
あの後全員仲良く死に戻りし、PAにて戻っていたマサと談笑中。
「いや~、すっかり祖父母が4体居た事を忘れてたわ」
「油断は死を招くな。それにしてもG戦隊はブレないな」
「ああ、あれで天井から滑空したら最高金賞ものだ」
「なんのだよ…」
さて、マサが出撃するというので、俺は一旦休憩でログアウトした。
ゲームを再開し、またしてもアッシーの生息域へ向かった。
というのもさっきの検証で、偶然にも畑が出来上がる場所を発見したのだ。
しかもそこはアッシーの奇襲ライン内の、超危険エリアで、ここの作物は相当高品質になる。
そこで、手元に腐るほど有るねじ込まれた牧草の種。こいつをここで消化しようと思い、開墾速度が速いだけの鍬を用意し、やって来た。
果たして牧草がどれ程の価値になるかは不明だが、現状の最高品質には違いないだろうから、良い値が付くのは確実だろう。
「じゃあ早速やってみよう」
干潟エリアでLPをギリッギリまで削り、使い魔の耐久力を極限まで高める。
アッシーエリアに戻り、原木畑じゃなく普通の畑が出来る場所に進む。
ただここで誤算があり、祖父母アッシーが4体になったままだった。
「まあ、距離も有るしドッペルが居ればイケるだろう」
若干楽観視も有るが、取り敢えずやってみる。
ラインを割り、4体の内2体が水中に沈む。…まあ予想通りだ。
[ドッペルゲンガー]を発動し、<鍬の一振り>を使い、原木畑時々畑を生み出す。
畑に牧草の種を蒔き、弾除けに駒菌もばら撒く。
直後2体のアッシーが浮上し、ブレスを浴びせてきた。
2体の至近距離からのブレスに、2体のレーザーブレスに対し、ギリギリまでLPを削った事が功を奏し、鷹と豚が耐える耐える。
象も判定こそ見た目通りだが、豚に引けを取らない判定で非常に堅く、2体も居るのでかなり余裕を持ってブレスを凌ぐ。
それはドッペルが消えても同じで、十分耐える事が出来ている。
こうして凌ぐ事三分ちょいで、二ヶ所の畑でシンボルが発光した。
そして収穫したのが[最高級の牧草]だった。
しかも一度に50束も収穫出来、短時間(二時間)でコストがいっぱいになり帰還した。
帰還後、自分なりに相場を調べ、5000束の牧草を1束500円で出品。
推移を見守る為、兎にとっておいた牧草をあげながら待機。
数分して売れ始め、順調に在庫は減っていき…。
「二十分で完売か…二時間二十分で250万か…薬草とは一体…」
勿論薬草の方が単価は高いんだが、原価の関係でこれほどの利益は出ない。
牧草の種は元手がただなので、250万そのまま純利益。荒利にも程がある。
「まあそれはそれとして…だ。なんの需要なんだ?」
牧草をあげた事で、体全身を使って喜びを表現する兎を愛でながら調べる。
「成程。丁度今の俺みたくペット用に使うのか」
どうも良い餌をあげる程、ペットは従順になって使い易くなるようなので、騎乗用の馬の餌になる牧草は、多少高くても需要は有るみたいだ。
「フム、ちょっくら[エルフィン]に行ってみるか」
「おやテツ君。どうしたのかな?」
展望台で周囲を眺めていたローレンスさん声を掛ける。
「牧草地ってまだ広げる気有りますか?」
「勿論!!というか君次第だけど、やるのかね?」
「牧草の種を沢山くれるなら」
「ハハーン…何か金儲けを編み出したんだね。良いよ、沢山持っていくと良い」
こうしてまたしても大量の牧草の種を手に入れたので、先ずは義務を果たすべく開墾だ。
「ところで…実際の所何処まで開墾するのが理想ですか?」
「え?惑星の陸地全てだけど?」
なんか凄い事言ってんなこの人。
「勿論牧草地にした後で開発するんだけどね。一時でも地表を植物で覆う事には意味があるのさ。まあそんなわけだから、別口の入植者達と揉めたり干渉し合わない範囲で、出来るだけ広げてくれると嬉しい」
要は、連中の手付かずの場所なら自由と。
そんじゃまあ、開墾第二ラウンドの開始といこうか。
「ふう…自分がした事ながら呆れるよな」
新たに牧草地を広げるにあたって、その外側に来たんだがそれだけでもかなりの距離を移動した。
今後は更に移動に時間が掛かるようになるんだから、一々気にしてる場合じゃないか。
さて、と景気づけに[ドッペルゲンガー]と<鍬の一振り>で盛大に開墾。
最早慣れたもので、一切の無駄なくドッペルと一振りを使って畑を広げる。
無心で開墾を続け、夕食後も同様に開墾を続け、遠目に渓谷が見えてきた。
このまま開墾を続けていれば、渓谷の入り口まで到達しそうだな。なんて思ったりもしたが、荒らされて膠着状態になるのがオチか。
「でも、上手く友好的な魔獣を増やせれば多少は楽になるかも」
一応、牧草地に住み着いた魔獣と、牧草地を破壊する魔獣が敵対するのは確認済みなので、狙ってみる価値は有りそうだ。…まあ、それは追々で良いか。
その後は寝るまで開墾を続け、僅かだが渓谷に近づく事が出来た。
十日後。
アッシーを使った牧草栽培で莫大な富を築き、Lvを大幅に上げた。
覚醒6回転生9回から、覚醒9回転生9回のLv100で再誕手前まで上げた。
因子は[獣人][吸血鬼][農家]それぞれ1回ずつ覚醒させた。
これにより、[獣人]の累計覚醒回数が9回になり、スキルが変化した。
それぞれ<生存本能>が<生存戦略>に、<野生の力>が<野生の息吹き>に変化。
効果は<生存戦略>が従来のSTA回復速度と回復量が1%上昇に加え、STA回復阻害に対する耐性の上昇。
<野生の息吹き>は[生命]が3上昇だったのが、5上昇する様になった。
これはかなり強力な変化だと思う。単純な底上げと今後来るであろうSTAに対するデバフ耐性の獲得は、望外の結果だ。
パラメータは[幸運]を1回に[速度]を2回覚醒。
そして[幸運]が2回目のスキル変化を起こした。
<家族蛇><鏡亀><鯉の群れ><甲虫王>が、それぞれ<蛇の王><山亀><青龍><金甲>に変化した。
具体的な変化だが、<蛇の王>は頭が十頭有る白いヤマタノオロチ風な見た目に変化し、身体もかなり巨大化して象を超えたデカさだ。
代わりにユニット数が10から1へと減ってしまったが、単体での強さは俺の使い魔の中では、後述の使い魔含め堂々の一位に君臨。完全に使い魔の域を超えた存在に昇華された。
<山亀>はシンプルに、三段だった亀が五段に増えて、個々の能力が大幅に引き上げられた。
本格的な検証はまだなので、この後他の使い魔含めアッシーにぶつけてみる心算だ。
<青龍>は超強い飛行ユニットになり、ブレスでの対地攻撃も含め、万能使い魔と化した。
サイズは5m程とミニサイズだが、名前負けはしていない強さだ。
<金甲>は黄金の甲虫になって、何故かサイズまで実物大に縮んでしまった。
能力のほどは未だ調べられてないので、今後調べていく予定だ。
ああ、そういえばこの4つのスキル。Lvが50を超えようが100を超えようが、何も変化が起きなかった。
スキルLvに因る特典には何か条件があるのかな?まあこれも追々か。
さて、現在の[生命]だが、180万を超えている。
この状態でLP30万位になれば[生への執着]と[死への免疫]で[生命]は約7000万となる。
Lvを上げてからも、義務の開墾を優先してたから、未だ強敵との実戦は行っていないので、これからアッシーを相手に戦いを挑んでみる。
地底湖に向かい、御馴染みのLP調整を行いアッシーの住処に到着。
そして目の前でアッシー一族がボコボコにされ、逃げて行くシーンに遭遇した。
「…先を越されたか…」
まあこういう事も有るわな。そう納得して、折角なので便乗して対岸に渡ってみる。
周囲には当事者に加え、沢山の見学者が存在し、皆が障害の取り除かれた水上を行く。
そして未知の領域である対岸に到達し、穴に侵入する。
少しして穴を抜けると、そこには大量のアッシーが犇めく湖が。
水面からニョキニョキと生えてる竜の首。中々に絵になっている。
「なんとなくこうなると思ってたよ…」
まあ、俺としては実戦の機会が巡ってきて嬉しいので、他人の迷惑にならない位置に向かう。
運よく左端ががら空きだったので、そこを起点に前進する。
早速注がれる各種ブレスのオンパレード。炙られる豚。
構わず進み、浮上したアッシーの大群に鷹と<青龍>が突撃をかます。
数が減ったからなのか、<青龍>は鷹と同等以上に索敵範囲が広くてこういう時に便利だ。
幾ら[生命]約7000万とはいえ、大量のブレスを浴びればひとたまりもなく、鷹が早々に蒸発。
だが<青龍>はそのブレスを浴びながらも、同じくブレスで応戦。
流石にそれ以上は持たずに蒸発したが、かなりの善戦と言って良いだろう。
ちなみにアッシーの群れの内訳は、祖父母級が三割、父母級が六割、子供級が一割で、今俺を襲っているのは父母級だと思われる。
というのも、一つ前のエリアの親アッシーよりも明らかに強力だけど、サイズ的には父母級なのが、イマイチ確信が持てない要因だ。
…ここは素直に、エリアが進んだことでゲーム的補正が強く掛かってる。と思えば良いか。
暫くアッシーと戯れ、一つの結論に至る。
「討伐は無理か…」
なんせ、追い詰めても逃げるし他がフォローに入るし、抜けた穴もつの間にか増えたアッシーで埋まるしでキリがない。
せめて、<鷹使い>と<青龍>がもっと耐えて攻撃出来ればあるいは…。
どの道現状では打開策が無いので無理か。
なので、他の何とか討伐を目指す人々を尻目に、ギリギリまでアッシーに近寄り、牧草稼ぎを開始。
このエリアにも何ヶ所か畑になる場所が有ったので、調べながら開墾を続ける。
結果として、前のエリアと同等の畑区画を発見し、牧草を量産出来た。
PAに戻り、牧草を出品して、今度は[エルフィン]に向かう。
開墾で渓谷を呑み込む為に鍬を振るう。
そういえばこの十日間で、パラメータの[速度]について考えさせられた。
今までは、必中のスキル等が有ったには有ったが、[速度]さえ高ければ万事有利だった概念が覆った。
というのも、[バグスター]の東のダンジョンの深層や、[フォレスト]の僻地、ここ[エルフィン]渓谷の下層などには、[速度]のパラメータを下げたり無効化する敵が出始め、移動速度が殺されてしまうのだ。
これのせいで、[速度]を笠に着た雑な立ち回りは取り締まられ、何度も死ぬ事になった。
今ではもう慣れたので、そういった妨害も込みで立ち回れるが、最初は戸惑った。
そして再び再評価された[速度上昇]。これは今の所は…と但し書きが付くが、そういったデバフに影響を受けないので、[速度]を0にされても、スキルLv110ならデフォルトの2.1倍で動けるので、どうにかなる場合が多いそうだ。
ましてや[速度]を覚醒させて、スキルが余程変な変化をしたプレイヤーじゃなければ、尚更スキルをお守りで取っておく価値が上がったと言える。
俺?俺は2.1倍で動けたところで…って感じなので、取らないまんまだ。
そんな、[速度]鉄板パラメータ説が崩れる状況の変化でした。
渓谷周辺の畑を修復し、いよいよ渓谷の内部を耕し始める。
最早上層の敵など歯牙にもかけないレベルなので、雑に進む。
というか<鷹使い>と<青龍>で悪魔の手も事前に処理出来るので、最早危険すらない。
少しずつ牧草地に変え、中層を目指した。
翌日。
前日に引き続き、渓谷の緑化作業を再開。
「まあそうなるわな…」
現地に到着し、荒れに荒れた畑を眺める。
という事で先に畑の修復作業から始めるか。
周辺の修復を終え、上層に足を踏み入れ、そこでも荒れた畑が目に映る。
まだ、畑として残ってればいい方で、中には完全に荒れ地に戻ってるマスも有り、中々骨が折れる作業だ。
そんな作業をコツコツと行い、上層の牧草地化に成功した。
「中層はどうしようか…」
このまま中層に手を入れたところで、一晩寝て起きれば荒れ地まっしぐら。
渓谷の緑地化は、最終目標としては有りだが、後回しで良いか。
あまりに非効率な展開を想像し、渓谷を後にした。
再び環状にすべく荒れ地を耕しつつ、襲ってくる魔獣を処理。
今の所、鷹と龍がサーチアンドデストロイで素早く処理。
障害らしい障害も無く、只々単純な作業に従事する。
それから程なくして雨が降り始めた。
「うんうん。降水頻度も雨量も増えてきたな」
引き続き開墾を続け、何時だか敗走した巨大ガエルの居るクレーターに到着した。
「ふふふ…今の俺ならあのカエル共とて軽く一捻りだ」
リベンジの為クレーターに入り、底に溜まった水溜まりで行水するカエルに襲い掛かる。
戦闘はこちらの圧勝で幕を閉じた。
<蛇の王>と<青龍>が大暴れして、あっと言う間の出来事だった。
リベンジを果たし、勝利の余韻に浸りたかったが、腐臭と激しくなる雨足に邪魔され離れようとしたとき。
「ッ!!?」
突然発生した雷に身を貫かれダウンした。
「クッ…酷い目に遭ったぜ…」
起き上がり、ステータスを見ると。
「LPが10%を切ってるじゃん…」
雷の威力って、オービタルストライクの余波より強いんだな~。なんて思ってふと横を見ると…。
「!!??」
どういう訳か、ボーっと突っ立っている俺が居た。
「え?どういう事?」
ステータスを確認するが、[ドッペルゲンガー]を使った様子も無い。
「うわ!?動き出した?」
目の前の俺の周囲に使い魔が一斉にポップし、周囲は使い魔だらけに。
そしてその俺が<鍬の一振り>を発動。土いじりを開始した。
「装備もまんま俺と一緒なのか」
敵では無い様で、至近距離から観察し、ドッペルと似た何かだと判る。
そして、少しすると謎の俺がスーッと消え。『アビリティ[スワンプマン]を獲得しました』というアナウンスが出た。
「何?[スワンプマン]って?」
面を食らっていても仕方ないので、説明を読んでみる。
「何々?LPが10%以下の時にダメージを受けると発動。自身の完全同位体の[スワンプマン]が発生する…?」
なにこれ?[ドッペルゲンガー]の亜種?
「クールタイムが五分で持続が二分…発動はオートか…そして[スワンプマン]が[スワンプマン]の発動は出来ない…と」
まあそうだよな。そうでなきゃ無限増殖しちゃうからな。
…ん?待てよ?
ふと気になって、[ドッペルゲンガー]の説明を見る。
「[ドッペルゲンガー]の発動は、プレイヤー本人にしか出来ない…これは…」
[エルフィン]を離れ、やって来たのは[アース]の地底湖…のアッシーの住処。
「さて…」
アッシーに近づき、そろそろ射程内というとこで[ドッペルゲンガー]を発動し離脱。
ドッペルがアッシーの群れに襲われるのを離れて観察。
相当に粘っているが、流石にLPを削っていないドッペルでは使い魔の堅さも不十分。程なくしてドッペルにも攻撃が直撃しだし…。
「キタ!![ドッペルゲンガー]は[スワンプマン]を発動出来るのか!!」
双方の説明を読み、もしやと思い検証したが…予想通りの結果に大満足。
その後、ドッペルは時間切れで消滅。[スワンプマン]も時間一杯働いて消滅した。
「これで条件さえ満たせば、最大で使い魔の数を4倍に増やせるな」
思いがけずに手に入れたとんでもないアビリティに、興奮冷めやらぬ俺。
高揚に背中を押され、アッシーの群れに吶喊し、リスポーンした。
まあね、流石に真正面からじゃ無理だわな。
興奮も収まり、何をしようか思案。既に貰った牧草の種以上の働きはしたので、開墾に従事するかは俺の気分次第だ。
折角強力で面白いアビリティを手に入れたんだ。どこかに行きたいな…。
「こんにちは」
「ベルか、こんにちは」
更にカメキチさんがインしてきたので、3人で[バグスター]に向かう。
「ここの深層で攻略組が詰まってるみたいですね」
東のダンジョンに着き、攻略状況を共有する。
「前にサチと来たときは、中層辺りで敵が範囲攻撃をしてくる様になって帰ったんだが…確か深層だと[速度]を下げる蟲が出始めるんだっけ?」
「そうですね。地形自体にも移動を妨害する効果が付き始めるので、[速度]頼りのビルドが相当厳しいようですね」
このベルの補足にカメキチさんが踏み込む。
「ん?ギフトの[散歩の神]でもダメなんですか?[速度]重視のプレイヤーなら、結構な人が取得してそうですけど…」
「ええ、[散歩の神]が防げるのはあくまで地形のペナルティで、深層以降は蟲が撒いた粘液や糸も原因らしいので、[散歩の神]でも防げないそうですよ」
うーん。それはビルドのコンセプトデスに等しいハンデだな。
「まあ良いんじゃない?俺は稼ぎの為だし、2人も堅さは十分だし問題ないさ」
「そうですね」
「俺には全く関係無いですしね」
ベルも大した影響は無いし、カメキチさんに至っては端から移動は死んでるからな。
そんなわけで、俺達には大した脅威にはならんので、そのまま突入した。
「件の深層に来たが…確かに地形そのものにもペナルティが有るな」
「それに、そこら中に粘液やら糸やらが撒かれててマジで動き辛いですね」
いよいよダンジョンが牙をむき始め、俺達も気を引き締める。
「ところで此処のボスはもう判ってるのか?」
「堅牢極まりないヤスデみたいですね。毒も酸も殆ど効かない鉄壁のようですよ」
「攻撃方法は判ってるんですか?」
「ええ、と言っても轢き潰すのみで、進路に立たなければ害は無いどうです…ただ取り巻きが多くて相当厳しいみたいですね」
成程、今も地上を動き回ってる百足の様な行動パターンか。
「折角だし一目ボスを見ようぜ」
本格的な攻略の準備はしてきていないので、取り敢えずロケテ気分で行く。
3人で劣悪な足回りの中、目印と周りの人を頼りにボス部屋を目指す。
「これ…[幸運]のスキルが変化したから何とかなってるけど、相当ヤバい難易度だな…」
範囲攻撃が標準となった、超リーチ+妨害持ちの蟲の群れが引っ切り無しに襲ってくる深層は、控えめに言っても地獄だった。
スキル変化により、<蛇の王>や<青龍>といった超強力な使い魔が居たからこそ、余裕を持って攻略できているが、これが変化前だったら状況は厳しいものだっただろう。
「ホント使い魔様様だよ。この状況で頭数で優位に立てるのは助かる」
前衛で、敵の猛攻に晒されるカメキチさんにとっては、数で押され続ける事は死活問題なのだ。
そんな地獄も終点に近づき、激しい戦闘音が聞こえて来る。
ゆっくりと戦闘音の発生源たる部屋を覗くと、聞いてた通り。巨大なヤスデとその取り巻きとの戦闘が繰り広げられていた。
「お~、アレがヤスデのボスか。見るからに堅そうな装甲をお持ちでらっしゃる」
分厚い装甲を纏い、鋭い強靭な足でボス部屋を壁沿いに移動するヤスデ。
「ああ、そういう系のボス戦なのか」
ボスは常に動き回り、火力職の砲台化を阻止。メインの戦闘は手下任せなのか。
「さ、引き返すか。流石に素材が勿体ないし、無策じゃ何も出来ん」
「「賛成!!」」
というわけで、ボス部屋で大量の蟲にしゃぶられてる人たちを尻目に来た道を引き返す。
…筈の心算だが、どういう訳か矢鱈と戦闘中のNPCと遭遇し、助ける度にこのまま手を貸してくれという流れが発生。勿論断って地上を目指すが、事ある毎に同じ状況が発生。俺達をボス戦に誘おうとする謎の力が作用し、中々に時間を取られてしまった。
「全く…とんだ手間が掛かったぜ、まあ無名カンパニー万歳だな」
「ですね。これで社名が有ったら名声が地に堕ちるんですからやってられません」
「ホント、何でこんな面倒な仕様にしたんだか」
いやホント。前触れもなく巻き込まれ事故に発展するのは勘弁。
「仮に助けたとしても、旨味は成功した先に有る事前提だから、それなりの配当が有って然るべきなんだが…多分良い事した気分になれるだけだろうな」
正しく現実と一緒だ。それが悪いとは言わないけどね。
PAに戻りパーティーを解散。ちょっと休憩を入れようか。
休憩からの急な仕事からの夕飯を済ませ、ゲームを再開。
「先ずは牧草の量産から始めるか」
現状の最高級品の牧草。これの出所が俺だと薄々気づかれてる様だが、未だに真似出来る人が居ないようなので、独占状態が続いている。
だからと言って流通量を増やし過ぎても値崩れが怖いので、バランスは取っている。
地底湖に辿り着き、恒例のLP削りからのアッシーとの戯れを開始する。
既にアッシーの近くでは、作物の品質が大幅に上昇する事は周知で、周りには何とか真似しようと目論むプレイヤーも多い。
(良い線行ってる人も居るんだけど、何かしらが足りて無いんだよな)
そんな事を想っている最中、先客が蒸発したのでそのスペースに俺が滑り込む。
別に菌類でも良いんだが、元手タダの牧草を有効活用したいからこその、畑区画の必要性なんだけど、どうも高値の牧草栽培ってのが独り歩きして、皆が畑の確保と牧草栽培に執心しているのが現状だ。
この流れが何時まで続くかは不明だが、近い内にお手軽な栽培地が確立されるだろうから、精々今の内に稼がせてもらおうかな。
暫く牧草栽培に勤しみながら、ふと有る事を思いつく。
(この状況でヌメさんから貰った高級な薬草の種を使ったらどうなるんだ…?)
試してみたい衝動に駆られるが、シーラからの忠告も有ったし思い留まる。
(壁に耳あり障子に目あり。というか人目だらけのここじゃ止めた方が良いな)
もし、想像通り御上禁制クラスの薬草が取れたら絶対一波乱あるだろうしな。
何処からか嗅ぎ付けたギルドからの刺客が面倒そうだ。
そんなナイスアイデアとはならなかった薬草栽培は止め、大量の牧草を持ち帰った。
「お、テツか、こんばんは」
「こんばんは、マサ」
PAに戻り、インしていたマサと談笑。
「ついさっき[バグスター]の2つ目のダンジョンが制覇されたぞ」
「ほうほう。それで?予想通りの展開か?」
「みたいだな、早速3つ目のダンジョン…南のダンジョンの入り口の瓦礫撤去を始めたらしい」
「フットワークが軽いな」
「それだけ得るものが大きいという事だな。安全にしろ素材にしろ」
少なくとも[バグスター]のホーム周辺では、脅威が2つ取り除かれた事になるな。
「そういえばダンジョンの話題と言えば、ここ[アース]の東の大陸の北部に、[フォレスト]の勢力の大規模ダンジョンが発見されたな」
「そうなの!?初耳だわ」
あの森を超えた魔境に居着いた植物か、巨薔薇とは比較にならん脅威なんだろうな。
しかしなんというか…方々で変化が有りすぎて把握しきれないぜ。
「さて、折角だし3つ目のダンジョンでも見に行って来るか」
「お、なら俺も行くわ」
野郎2人でパーティーを組み、[バグスター]に向かう。
現地に到着した時には、既に入り口の瓦礫撤去は完了し、攻略が開始されていた。
「そんじゃまあ、俺らも行ってみよう」
ダンジョンに入って早々だが、2人してK.O.されPAにリスポーンした。
「…いくら何でも難易度ヤバすぎでしょ」
「だな…範囲攻撃に[速度]デバフが標準搭載とか…」
意気揚々と侵入した傍から、他の人と一緒に粘液やら糸やらで雁字搦めにされ、超絶フルボッコにされてしまった。
使い魔はね…しっかり通じていたんだ。でも範囲攻撃で俺がやられちゃあ意味がない。
「開墾も範囲攻撃の前じゃ効果激減だもんな」
「地味に耐性が有るのか、ノックバックも怯み、よろけも効き辛かったな」
どうやら3つ目のダンジョンは、ちっとやそっとの能力でのゴリ押しは通じない様だ。
「そうなると圧倒的な堅さか、敵を一瞬で消せる火力が無いと如何にもならんか」
「何がヤバいって範囲攻撃とデバフで、一度捕まると不殺では切り抜けられないのがヤバい」
それでいて数も質も驚異的と来るもんだから、火力職を守るのも一苦労だ。
「良し、ならこちらも理不尽な堅さで対抗してやろうぜ」
という事で、G戦隊に連絡を取り、丁度居合わせたカメキチさんを伴いリベンジに向かう。
ついさっき、能力のゴリ押しがどうたら言った気がするが、最早そんな事は頭にはなく、やろうとしているのは結局ゴリ押しである。
そして意気揚々とダンジョンに突撃し、再びフルボッコされPAにリスポーンした。
一応弁明しておくと、ちゃんと見せ場は有ったんだ。
凶悪な蟲の猛攻にも耐えながら、デバフの中でなお高速で壁や天井を這いずり回るG戦隊。
それ以上に堅く、端からデバフなどお構いなしのカメキチさん。
でも結局は、火力が足らない上に範囲攻撃で纏めてダメージを負うので、堅い壁が意味を成さず俺とマサが脱落し、程なく全滅した。
「か、火力が足らなすぎる!!」
敗因はこれに尽きる。
こればかりは、ランタンのデバフが有ったとしても、根本的な解決んはならんしなぁ…。
若しくは今以上に堅くして持久戦を仕掛けるか…。
それでも火力面の改善をしなければジリ貧は免れないか。
「うーん…攻撃系パラメータが2つな上に素のままじゃ補正も小さいか」
そうなると、今後の転生でパラメータを変える必要が有るな。
そうなると切り捨て候補は…[体力]と[傀儡]だな。
この2つは今となっては必要不可欠…ではないパラメータになってしまった。
[体力]は[生命]のインフレに対し殆ど意味を成さなくなり、[傀儡]も今更使い魔のLPを数値分増やしたところで…といった感じなので、切るならこの2つになるだろう。
二度の死に戻りで萎えたので、パーティーを解散しログアウトして寝た。
「いや~助かったよ哲也君」
「いえいえ。この位何時でも頼ってください」
今日は、おじさんが会社の社長室を整理するというので、その作業に駆り出された。
やっぱ扱いがデリケートな資料なども多い様で、おいそれと信用の置けない者を使う訳にはいかない様だ。
その点俺なら、身内だし見られても問題ない、そもそも見ても把握しきれないという事で、安全性信用度の観点から抜擢された。
社長室は質実剛健なおじさんらしく、機能美に優れたレイアウトで、様々な媒体の資料や機密情報の宝庫だった。
そんな社長室をおじさん、亜紀、宮原さん、俺、そして美雪の5人で一日がかりで片付けた。
美雪はおじさんの意向で、ボチボチ社会に慣らすために連れて来たようだ。
ただ、あまり外出には不慣れな様で、人見知りも心配なのか、重役専用の出入り口から入ったので、他人との接触は無かった。
全員で帰宅し、夕食を取ってからログインすると、アプデの告知が来ていた。
内容は特に語るものでも無いので割愛する。
「今日は何をしようかしら」
同時にログインしたユキが横で呟く。
「テツ君何かある?」
「うん?そうだな~、なら検証に付き合ってくれるか?」
「検証?良いわよ」
という事でユキとアコ、居合わせたベルとベッタラを連れて三度蟲に挑む。
「それで?何を検証するの?」
「ここの耕作地ランクがどの程度か知りたくてね。その為にはしっかりとした火力が無いと畑が守れないからな、まだ一度も収穫出来てないんだ」
耕作地ランクって名称は、俺が勝手にそう言ってるだけだ。意味は勿論収穫物に掛かる補正の目安の事だ。
「そんなに厳しいんだ…」
マサやG戦隊との共闘での失敗談を聞かせた事で、難易度が伝わった様だ。
現時刻がゴールデンタイムなのもあり、周囲には人が沢山居るので、彼らも充てにしよう。
ダンジョンに侵入し、最初の部屋が既に大激戦の様相を呈している。
邪魔にならない様入り口近くの端っこに退避し、陣形を構築して実験を開始する。
その最中、何度も前線が崩壊し押し寄せる蟲に対処。やはり我がカンパニー最強の近接火力を誇るベッタラが混ざった事で、蟲の殲滅速度が昨日とは段違いだ。
これにより使い魔の攻撃も数体により集中し、殲滅速度に拍車を掛ける。
俺らの負傷はベルが上手く対処してくれるので、安心できる。
更に後衛のユキとアコもその火力と牽制札を遺憾なく発揮し、前線からの蟲の濁流はなんとか抑えられた。
そんな風に凌ぐ事数分。念願の初収穫を行い、ここのおおよそのランクが判明した。
「うん。現時点での最高ランクと同等だな。アッシーの射程内と同じだ」
取れたエノキからそう推測した。
「俺には相性が悪過ぎる…けど副産物として蟲の素材がある分儲けは大きいかな?」
「いや、普通は作物が副産物だからね?」
そんなユキのツッコミを受けながら、引き続き作物を育てていると…。
「すみませーん、隣良いですか?」
「ん?ええどうぞ…あれ?以前一緒に開墾した…?」
「お久しぶりです」
そんな感じで、同志との久々の共同戦線を張っていると…。
「お久しぶりっス!!」
「祭りの会場は此処ですか?」
と見覚えのある顔ぶれが次から次へとダンジョンに乗り込んできた。
どうやら、最初に来た人がここの耕作地ランクが超高い事を触れ回った様で、続々とファーマーが集結している。
成程。そういう流れなのね。
こうして[バグスター]収穫祭の第二弾が突発的に始まった。
サービス開始からそれなりに時間の経ったこのDIY。
様々な攻略情報が出回り、各ビルドの構成もかなり洗練された。
当然ファーマーもそれに該当し、一口にファーマーと言っても以前とは事情が大きく異なる。
細かい例を挙げれば切りがないので、ここでは取り上げないが、一番の差は戦闘が出来ない人がかなり減った事だろう。言い方を変えれば殆どの人が戦闘職と兼任する形を取っている。
勿論PA内での作業に特化した人も、少ないながらも居る。
つまり何が言いたいかというと、ダンジョン内がすんごい事になってるという事だ。
最近出回り出した最高級品の農産物。出所は勿論俺なのだが…これが他のファーマーを刺激し、鼻の利く連中は地底湖が鍵だと直ぐに看破。
だが結果が芳しくないのは以前触れた通りだ。
そしてそんな中、諦めの悪い連中に齎された一獲千金の情報が有った。
それこそが此処の耕作地ランクの情報で、今現在も凄い勢いで拡散され続けている。
そんなこんなで、戦える人が大勢詰め掛けたダンジョン内は熱気が凄まじく、入り口付近を確保できなかった連中が更なる耕作地を求め、奥へ奥へと魔の手を伸ばしているのだ。
「前にもこんな事あったけど…凄い事になってるわね…」
暇そうなユキが、若干引き気味にポツリと呟く。
最早蟻一匹通さない勢いのプレイヤーのお陰で、敵が一切攻めてこない入り口付近。
用心棒で連れて来た仲間は暇そうでしょうがない様だ。
まあ、敵が来ないならこれほど農耕に適した場所は無いな。と最初は思ってたんだが…。
「うーん…やっぱ気のせいじゃないな…」
「どうしたの?」
「どうも少しづつ作物の質が落ちてる気がし…じゃないな、確実に落ちてるな」
ふと周囲を観察すると、同じように首を傾げている同志を数多く見かける。
「もしかして、人が増え過ぎてランクが落ちたのでしょうか?」
ベルが推論を述べるが、俺もそれしかないと思い同意する。
「それっぽいな。以前のホーム防衛戦の時は、蟲が後方まで来てずっと戦闘してたしな」
今は前線がどこまで進んでるか分からんが、マジで敵が攻めてこない。
そりゃ相応にランクが落ちても仕方ないかもな。まさかリアルタイムで変動するのかと驚きもしたがな…。
「さて、どうしようか?」
このままここで下がり続ける作物を育てるか、帰るか、奥を目指すか。
「テツ君的には相性悪いんでしょ?だったらここに拘る意味も無いし帰ろうよ」
「だな、稼げてる内なら良いが…こうなったらもう無理だろ。今更前を目指したって相当時間を喰うだけだしな」
アコとベッタラの主張は尤もな話なんで、帰還を選び祭りから離脱した。
余談だが、俺らが帰還するのを見て、隣に陣取ってたファーマーも察して撤退。
その後は連鎖して人が帰り、いつの間にか孤立した前線が壊滅して祭りは終了した模様。
帰還後大量のキノコを瓶詰にして販売。値崩れが予想されるので安価で出品した。
「実験は大成功だし次は何するかね」
「ああ、そういえばそもそもは検証って話だったな」
当初の目的を忘れていたのか、ベッタラがしみじみと呟く。
「忘れんなよ…でもランクが状況に応じて、リアルタイムで変動する事が判ったのは収穫だ」
俺がそう結果を話すと。
「あれ?前にアッシーの住処でも、アッシーに近い程ランクが変わったって言ってなかったっけ?」
「そうだな…大体一緒なんだけど…アッシーは一応特別な存在の筈だからな、そのアッシーの行動次第で周辺のランクが変わるのは解るんだ。でも蟲は普通のMOB雑魚じゃん?それの数…かは判らんけどそういった要素でランクが都度変わるのは今回初めて確認できたんだよな。まあもしかしたら、知らぬ間にアプデでそうなった可能性も有るけど」
「多分そうだと思いますよ。今まで激戦区で特別、収穫物が良くなったり悪くなったりってありましたっけ?」
「そう言われると…なんだかんだで敵が攻めて来たり、前線の移動に合わせて動いたりもしてたからなぁ…意識してなかったから、今更思い出せないよ」
もしかしたらその時も変わってたかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
「なんにせよ、ランクが常に変動するのが判っただけでも大収穫だ」
取り敢えず、現状そういう結果が出たからそうしておこう。
検証も一段落し、今度は東の大陸に出来たダンジョンを見に行く事にした。
道中。「そういえば…」と気になった事が有ったので、アコに尋ねる。
「さっきの蟲のダンジョン内でさ、殆どの人が鈍くなってる中、アコを含め一部の人はなんも影響なしに動いてたけど…なんか絡繰りが?」
「いや絡繰りって程でも無いわよ。ただ単にスキルの効果で移動速度を上げてるだけだから、パラメータの[速度]を下げられたところでって話よ。そもそも私は[速度]を採用してないしね」
という事は、因子か何かしらのパラメータのスキルで尋常じゃない移動速度を得ているのか。
ああ、そういえば[ケンタウロス]のスキルが移動速度と弓の強化だったな。
「成程、把握した。確かにそれなら全く意味無いな」
「そうね、でもパラメータじゃなくて移動速度そのものを下げる効果が地形に有ったら流石に影響は受けるわ、それにスキルを無効化するような敵が出てきたら…話は変わって来るわね」
『ありそう』
アコの一言に、全員で頷く。
そんなやり取りをしつつ、目的地に到着した。
「はえ~…なんちゅー巨大なダンジョンだこと」
俺はてっきり、以前囮で逃げ回った森を超えた先に、ダンジョンが有ると思っていたが、実際はその森一部がダンジョンに変化し、今では森全体がダンジョンと化してしまった様だ。
なので、アクセスは非常に良好なのだが、大陸での開拓を明らかに妨げている。
そんな事情からなのか、攻略にはギルド関係のNPCが大勢関わっていた。
俺らもNPCに便乗し、ダンジョンと化した森へ足を踏み入れた。
ピリピリした空気の中、ダンジョンを進むが、今の所は普通の森だ。
…なんて思ってたんだが、直ぐにその本性を露わにした。
「囲まれた!!」
ヘルメットが敵を検知し、既に囲まれてる事が判明した。
「直前まで全く分からん隠密性か」
「これで1つ判りましたね。ここの敵は圧倒的な隠密性を誇ると」
厄介な能力だ。森で植物が敵じゃ検知は容易じゃないしな。それにヘルメットの索敵が効かない事が増えてきてるし、コスト2000も今じゃぶっ飛んだコストでも無いから、性能が環境に追い付かれた感じか。
尤も、未だに超が付くほどの高性能なのは疑いようが無いので、今後も頼るけどね。
話を戻して、敵への対処をしなくては。
取り敢えず敵が使い魔に喰いつくのを待つ。程なく豚が悲鳴を上げて肥大化した。
「うわ!?なんだアレ!?」
肥大化した豚を観察すると、その数m先の虚空に張り付いている謎の十字植物。
これがまた気持ち悪くて堪らない。虚空に張り付いてるせいでその内側が丸見えなんだが…びっしりと鋭い歯のような棘が生えており、生肉の様な赤い果肉がウネウネと蠢いている。
次いで他の豚にも同様の十字植物が食らいつき、豚を肥大化させながら弱らせる。
まるで顔面に張り付いて寄生するアレの様な植物に、寒気がする。
程なく十字植物は蜂の群れに駆逐された。
「どうやら耐久力は低そうね」
触手嫌いな割にこういうグロイのは平気なのか、冷静に分析するユキ。
無事敵の包囲を打ち破り、再び奥地を目指し進む。
今度は軽い地揺れが発生し、ヘルメットが敵を補足してくれた。
「気を付けろ、何かが地中を高速で進んで来てる」
ユキとアコを中心に据え敵に備える。
そして地中からウネウネと動く木の根が絡みつこうとして来るが…。
「…」
静かにキレたユキが<クラスティオーブ>で爆殺。触手を彷彿とさせるモノには容赦がない。
「危機は去ったわ、行きましょう」
『お、おう』
暫く森の中を彷徨い確信。
「俺達には最高に相性が良いな」
「そうね、蟲の巣とは正反対ね」
「ホントよね、見晴らしが悪いから若干弓とは相性悪いけど、此方の射線が通らないなら向こうの飛び道具も防げるし、悪い事ばかりじゃないわ」
「良いですよね、緩急の有る緊張感は」
「だな、あっちのダンジョンはどっちの物量が勝るかどうかの大味な展開だからな」
と口々にこの森の楽しさを語る皆。
「あれはあれでお祭り感あって好きなんだけどね…自分のビルドが通じ難いとなった途端クソゲー感爆増で一気に萎えちまった」
今の[バグスター]の第三のダンジョンは、個の戦闘力とその数がモノを言う戦場だ。
うちで言ったらベッタラ、辛うじてマサとユキがイケる感じかな?
でもその3人も、楽しいとは言わないあたり中々のロケーションだと思う。
「ま、アッチはそういう個人戦に特化した人たちに任せれば良いさ」
時間も時間だし、帰還してパーティーを解散。ログアウトした。
今日は休日で、美雪も亜紀もフリーなので朝っぱらからゲーム三昧だ。
とは言え朝食後の6:30からは流石に眠いので、俺は二度寝した。
十分な睡眠を取り、10:00に再起床して俺も混ざる。
「先ずは[エルフィン]の様子を見に行くか」
現地に到着し、様変わりした風景に驚く。
「ほほー、随分と綺麗に整備されてるな」
まだまだ短いが、街道が敷かれ脇には防風林やベンチなどが設置されている。
そして、至る所で見知らぬエルフを見かけるが、彼方は俺に一礼しては作業に戻っていく。
良く解らないが、シーラ達が手配した人足なんだろう。
そんな作業中のエルフ達を見ながら街道を歩き、一番近い水源に向かう。
どうやら街道は水源にも敷かれてるようで、道なりに進んでたら到着した。
一応造水装置の故障チェックをしたが、街道が敷かれてるだけあって、問題無く稼働していた。
人手も増え、彼らで直せる部分は直してくれるようなので、所々歯抜けになっている牧草地を修復し、PAに帰還した。
「キノコ類の相場はどうかな~?」
昨日あれだけダンジョンにファーマーが集ったからね。きっと値崩れが凄い事に…。
「お、思いの外高いな。ああ…ロストした人が多いのか」
幾ら栽培しようと、持ち帰れなければ意味がないからな。
「そんなんだから、自家製瓶詰もめでたく完売か」
正直嬉しい誤算だ。兎に角再誕後に一気にLvを上げたい現状、売上金のストックはいくらあっても足りないからな。
「お次は…お!巡回が始まってるな」
という事で墓地に向かい参加する事にした。
現地に到着し、既に開始から時間が経ってたからか誰も居ない。
「しゃーないな。1人で安全なルートを通るか」
最近は人手も増え、[アース]でも各惑星でも『ジャックオーランタン』が常に何人か居るので、巡回の危険性がグッと下がっている。
野犬や狼も殺し過ぎたのか、全然湧いてこず暇の嵐だ。
「テツさんこんにちは」
「こんにちはギル」
途中ギルと遭遇したが、向こうもソロでのんびりと散歩していた。
「暇だねぇ」
「良い事ですよ。我々が忙しい時は碌な状況じゃないんで」
その通りなので、今はこの暇を謳歌しておくか。
その後も特に何も起こらず巡回は終了。
だが事務所で手続きを取る時にそれは発生した。
「失礼する」
なんとフレディ部長が直々に訪ねてきた。深刻な顔で。
「ウィル達は?」
「えと…直ぐ戻ると思います」
待つと言い椅子に腰かける部長。俺も引き止められ、程なくおっさん達が帰還した。
「おう!フレディじゃねーか!!今日は非番か?」
「なら良かったんだがな。仕事だよ、それも飛び切り危険な案件だ」
この一言で瞬時に真剣な顔つきになるウィル達。
「[エルフィン]でハイエルフのアンデッドが廃都から溢れ出した様だ」
「馬鹿な!?あそこは厳重に封印されてたはずだ!!」
「その通りだ。…未だに現実の見えていない老害共がやりやがった様だ」
「そこまで耄碌してやがったか…」
ざっくりいえば、過去の栄光と望郷の念に縛られた馬鹿どもが、勝手に封印を解いて凱旋しようとしたが、自慢の私設軍隊はアッサリと消滅。再封印すらせずにとんずらこいたらしい。
「大方何処にも相手にされず焦ったんだろうな。そこでかつての首都を自力で取り戻して主権を主張したかったんだろうが…」
「結果は今聞いたまんまと」
馬鹿すぎる。
「で?その仕事とやらは?流石にそんな状態じゃ転移もまともに出来やしねぇだろ?」
「聞いて呆れるぞ?全『ジャックオーランタン』による降下作戦で浄化だとよ」
「…呆れてものも言えんな」
「だがどんな見返りがあるか知らんが、上が決めたんだ。従わざるを得んさ」
「保証はどこまで効くんだ?」
「そこは安心して良いぞ。全員一律バックアップ体の支給そしてくれるそうだ」
つまりNPCにとって死のリスクは消えたと。
「それは豪気な話だな。その予算で戦略兵器でも撃ち込めば一瞬だろうに」
「そこはそれ、上層部の判断だからな」
とまあこんな感じで話が進み、後日日程が決まるという話まで行ったので、口を挟む。
「聞くだけ聞いてみるって話なんだけど、ハイエルフに伝手が有るからこの事を相談しても良いかな?」
「何!?ハイエルフの知り合いが居るのか!?」
「詳しくは言えないけど一応」
これを聞き「ううむ…」とうなる部長。
「分かった。どうなるかは分からんが、視点の違った意見も大事だからな、話を聞いておいてくれ」
俺は了承し、解散となったのでそのまま[エルフィン]に向かった。
「という訳なんだけど…」
丁度良いタイミングシーラと会えたので、話を持ち掛けた。
「ええ、状況は把握しました…恐らく老害共が差し出したのは廃都そのものでしょう」
もうここに至っては立場や名誉の挽回は不可能。せめて隠居後の安泰と事態の収拾の見返りに、廃都の土地を差し出した様だ。
「まあ、我々としてはここが十分発展しているので、今更かつての首都が他種族の手に渡ろうとどうとも思いませんが」
そう言い俺を見据えるシーラ。言外に手助けは出来ないと言われてるなこりゃ。
「…まあどうしても政治闘争に発展するもんな」
「ただそうですね。渓谷を無償で浄化して下さるなら、古都の奪還時にもこちらのテレポーターを提供するのも吝かでは無い。とお伝えして貰っても構いませんよ」
という条件を聞き出したので、今度は[アース]の教会へ向かい部長と面談。
「そうか。分かった、上に伝えてみるよ。ご苦労様」
後は水エルフと上層部の交渉次第だな。
パイプ役を終え、PAに帰還した。
お次も二週間で。




