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第二十六話

~前回までのあらすじ~

アッシーの行動パターンを解析し、ついでに牧草という金の成る木を生み出す。

Lvも二度目の再誕直前まで上がり、新たなアビリティ[スワンプマン]を獲得し、

能力的にもかなり充実してきた。

そんな中、ハイエルフの老害がやらかしてしまい…

 一旦昼飯休憩を取り再開。

「ん?おおお!?」

 商品の売れ行き確認のついでに農産物の相場を見てたら、俺の牧草に匹敵する高品質な畑原産の作物が高価格で出品されていた。

「いよいよ他の誰かが良い感じの栽培場所を見つけたか、アッシーの目の前での栽培を確立したか…このままじゃ独占市場も時間の問題か?」

 俺には[種苗袋]という作物の質を上げるアビリティが有るので、特化ビルドの人にも引けを取らない品質の物を収穫出来るので、戦闘に対応している分、条件は有利な筈だが…。

「こうなりゃ値崩れ覚悟で先行逃げ切りの構えで行くか」

 早速準備をして地底湖に向かう。

 そしてLPを減らしてアッシーの巣へ到着し、そこで見た光景が。

「お、もしかしてあの連中が高品質作物の出所か?」

 そこには俺と同様のことを、より大きな規模で展開している一団が居た。

(見た感じ畑や作物も結構やられてるな…)

 先程出品されていた作物の値段を思い出すと、確かに目の前の光景に裏打ちされた価格だった。

(うん。この調子ならもう少しの間は原価の関係で、俺に分がありそうだな)

 なんせ俺の場合は原価0円の、高需要な牧草だ。競合すること自体現状では稀だろう。

 自身の食い扶持がもうしばらく持つことを確信し、意気揚々と牧草を量産していった。


 PAに戻り、牧草を出品してからユキとアコに捕まり3人パーティーで出撃。

 行き先はフォレストで、目的は最近発見された[ツリーオブクイーン]を見に行く事だ。

 フォレストのホームに着き、電光掲示板に目を通す。

 ツリーオブクイーン…クイーンの場所や役割を把握した。

「要はマザーツリーの上位種って事か」

「相当大きいみたいだけど…よく今まで見つからなかったわね」

「そこはゲームだから…ってわけじゃなく、この惑星は胞子を含めた微粒子が飛び交うから、ドローン等の偵察機や衛星が機能しないせいで、地理調査が未だに遅れてるそうよ」

 アレか、ミ〇フスキー粒子的な感じか。

「まあ、確かに胞子や花粉で切り開かれたホーム周辺でも、遠くの景色が霞んで見えないからな」

 予備知識も仕入れたので、現地に向かってみるか。

 あ、十中八九何か起きると思ってるので、準備は万端だ。

 そしてマーカーを頼りに暫く歩き、現地に着くと案の定戦闘中だった。

 しかもクイーンにトレントが寄生してるという、すんごい雑で焼き増し感満載の展開だった。

 それでも多くのプレイヤーやNPCが苦戦している状況から、このトレントが並々ならぬ強敵だという事は理解出来た。

 尤も、そんな状況抜きにしても、100mは有りそうなトレントが弱い訳が無い事は、瞬時に悟ったけどね。


「さて、どうしようか」

「そうね…あそこにヌメさんが居るし、傍に行きましょう」

 ユキの提案で、クイーンの傍で治療を施すヌメさんに近寄る。

「おお君たちか‼見ての通りクイーンが寄生されている。防衛でも討伐でもどちらでも構わない。手を貸してくれ」

 この要請に二つ返事で応じ、周囲を見渡してから防衛を選択した。

 単純に攻勢に出ているユニット数の数が多かったので、俺らは守りを優先した。

 では詳しい状況から確認しよう。目的はクイーンの防衛及びトレントの撃退。

 トレントの能力は未知数だが、蔦と根を自在に繰り、花粉を撒き散らしたり、トレントを召喚したりと中々に多彩だ。

 これに対し俺はいつもと同じように[ドッペルゲンガー]と<鍬の一振り>で陣地を補強。

 ユキは[瞑想]で火力を上げ、アコは旗技を駆使して足止めを徹底。

 前線を掻い潜って押し寄せる蔦や根を迎え撃つ。

 俺らが防衛に加わった後も続々と戦力が集結し、戦闘は拮抗状態に。

 しかし敵もさる者で、一見互角に見える戦いもギリギリのバランスで保たれているに過ぎず、ワンミスで情勢がひっくり返るなど当たり前だ。

 今も突出した団体が花粉に呑まれ錯乱。一瞬にして前線が崩壊寸前まで追い詰められた。

 さて、こういう時こそ後方の出番だ。前線の立て直しのための時間稼ぎにそれぞれが火力を放る。

 多くの火線がトレントに殺到し、大量の部位破壊をもたらしトレントの攻勢を削ぐ。

 この状況だと俺の出番はあまりないので、戦い方を変更。

 側面から<ゴーレム使い>でミニトレントを攫って、執拗にしゃぶる。

 これなら敵の頭数も減らせるし、偶に落とす薬草が美味しいので皆ハッピーな展開だ。

 あ、ミニとか言ってるけどあくまでボスに比べたらで、普通サイズなのであしからず。

 いや、寧ろイベント補正でかなり強化されてるので、同じ様に召喚されたトレントをしゃぶろうとした他のパーティーが、逆にしゃぶられて崩壊しているので、蜜を吸うにしても自己責任でお願いします。


 あれからユキとアコも俺の傍に来て、トレントをしゃぶり続けていたら、遂にボスが討伐され決着が付いた。

「終わっちゃったか」

「テツ君、薬草何枚手に入ったの?」

 小声で戦果を聞いてくるユキに、俺も小声で答える。

「約300枚」

「美味しいわね」

 勿論普通の素材も大量にドロップしてるので、かなり儲からせて頂いたな。

「それじゃヌメさんから話を聞きましょう」

 アコの言葉に頷き、3人でヌメさんの元へ。

「どんな感じですか?」

「お疲れ様。クイーンは無事だよ」

 少し話をして大体状況が判った。

 今後の開拓はマザーツリーと、新たに存在が確認されたツリーオブクイーンを探す方向で決まり、今回はその新発見されたクイーンを保護する名目で調査隊を派遣したところ、巨大トレントと遭遇したという。

 まあ、やっぱ雑な焼き増しイベントだったわけだ。

「とにかく無事クイーンを保護出来て良かった。ありがとう」

 話も一段落し、追加のNPC作業員が到着したので、入れ替わりで帰還した。


「実装当時に比べたらフォレストも活発になったな」

「そうね。次はどうする?」

 3人で何処に行こうか考える。

「そうだ、久々に砂漠の先を目指してみない?」

 とアコが提案。確かに僻地の先は未踏の地だったな。

「そうだな、他に思いつかないしそれでいこう」

 目的地も決まり、丁度インしてきたサーモンとシルクを加えて砂漠に向かう。

 先ずはこれまでの最高到達点に向かいがてら、異様に発展している砂漠に目が釘付けなる。

「あれだな。ピラミッドを映したカメラをちょいとずらせば都会が映り込む的な?」

 そう驚いてしまう程度に。元ダンジョンを隔てて様相が違うのだ。

「移動し易くて良いのです」

「確かに。この良く解らない材質の道路はペナルティが無いからな」

 アスファルトでもないサメ肌でもない良く解らない材質と質感の道路。

 それが樹海と南山から元ダンジョン現地下基地に敷設されている。

 侵略者から奪い取ったダンジョンは、見事開拓の足掛かりとして役立っている様だ。

 そして目に入る、立派な拠点。前にタロウと屋台をやった時に出来上がったあれの成れの果てだ。

 折角だし、と寄ってみる事にした。

 出店を冷かしつつ、掲示板で情報を漁る。

「何々…砂漠遠方に凶悪な巨大ワーム在り。出現場所は…」

 と色々な情報が手に入り、寄って正解だと思った。

 それじゃ未踏の地目指して行きますか。


 砂漠の拠点を出発し、以前の最高到達点に到着。ここから未踏の地だ。

「しかし結構な人手だな」

 サービス開始当初なら地獄の環境だが、今ならLvさえ上げてればそこまでの難所でも無いし、まるで観光にでも来ているかのような人の数だ。

 お陰で大量の毒蟲も分散するので、戦闘は非常に楽だが、少々物足りなくもある。

 流石にこれじゃ弛んでしまうので、さっさと僻地を目指して移動を続ける。

 道中襲ってくる小型の毒蟲共を片手間で処理。そうこうしてる内に砂漠の雰囲気が変わった。

「凄いな、如何にも危険な砂漠って感じだな」

 良くも悪くも普通な砂漠だったこれまでと違い、異様に高低差のある砂丘に巨大な流砂。二本の牙がクイクイと動いてる蟻地獄の巣。最早ギャグの領域である謎の骨。

 こんな具合にコッテコテな砂漠に様変わりしたのだ。

「なんの骨だよ!!あんな骨格の生物何て一切見なかったぞ!!」

 映画とかでよく見る、巨大なあばらがトンネル状になってるアレだ。

 そんなギャグ砂漠だが、危険性は本物。早速牙を剝いて来た。

「何かが地中から来るぞ!!」

 ヘルメットが何者かの接近を探知し、皆に注意を促す。

「ピギィーーー!!」

 その直後、豚が肥大化しながらズモモモと地中に埋まっていき…。

「パアン!!」

 少し離れた位置で豚が破裂し、砂が跳ね上がった。

 敵が地中から攻めて来るのは判ってるので、<鍬の一振り>で守りを固める。

 しかし、その後も敵は姿を一切露わにせず豚をしゃぶるだけしゃぶって遠ざかってしまった。

「満足したからなのか、豚を食べたいのに謎の当たり判定に阻まれ、霞を喰う羽目になるのに飽きたのか…」

 なんにせよ危機は去ったので先に進む。

「うげ、なにあれ…」

 アコが遠くを指さし顔を顰める。

 差した先をヘルメットの望遠機能で見る。

「んー…巨大なヒヨケムシだな」

 向こうも既にこちらを補足してるようで、鋏角を摺り合わせながら高速で距離を詰めて来る。

 勿論そのまま接近を許す筈もなく、<青龍>と<鷹使い>に依り距離がある内に駆逐された。

 更に進むと妙な人だかりを発見。遠巻きに見学しようと近寄る事にした。


「えーっと、んん!?なんか流砂に自ら入って行ってるな」

「あれじゃないか?砂漠の地下遺跡でもあるんじゃないか?」

 とサーモンがこれまたコテコテの展開を予想する。

「流石にベタ過ぎじゃないかしら?」

「いや、だって蟻地獄に流砂に謎の骨のオンパレードだぜ?遺跡とか古代文明が無い方が不自然だろ」

 自信満々で言う事でもない気がするが、気持ちは解る。

「それで?どうするです?」

「勿論スルーするよ」

 今回の目的とは外れてるし、明らかに危なそうな場所にいきなり突っ込む勇気も無いしな。

 そんなわけで。引き続き砂漠を進んでみる。

 これまで十二分にギャグ砂漠を堪能してきたが、更にアレな光景に遭遇。

「墜落した円盤にヘリコプターか」

 以前闘技場のイベントで遭遇した、アダムスキー型ではなく、おっさんが敵母艦に特攻する、あの映画に出てくるような円盤だ。

「映画村ならぬ映画砂漠ね」

 無駄に凝った意味不明なオブジェクトの数々に流石に呆れてくる。

「確かに馬鹿らしいけど折角だ。観光しておこう」

 此処まで来ると、僻地も僻地だからか既に人気も皆無だからゆったりと見学できそうだ。

 そう思って近づくと違和感が。

「ん?なんか熱が残ってるような…?」

 ヘルメットのサーモグラフィーが、内燃機関の熱を検知する。

「おい、生存者が居るぞ!!」

 更に近づいた事で、円盤とヘリ双方に生存者が居る事が判明し、駆けつける。

「おい!!無事か?」

 ヘリの方は普通の人間、円盤はグレイタイプ宇宙人?だった。

「「み、水…」」

 双方とも大分衰弱していたが、声を掛けた事で意識は覚醒し、喉の渇きを訴えたので水を差しだす。

 ヘリの方は水を飲むと再び意識を手放したので、宇宙人?の方と相対する。

 さて、事情を聞きましょうか。


 事情を聞き、状況はおおよそ判明した。

「いや、お手数掛けました」

 そう頭を下げるグレイ(因子としても存在する正式な種族名)のムゥさん。

 どうも彼の円盤が整備不良で不時着しようとして、偶々通りかかったヘリにぶつかってこうなったとムゥさんは言う。

「ところであなた方は救助隊の筈ですがビークルは…?まさか歩兵だけで陸路を?」

「という事は救助は要請したんですか?」

「いえ、どういう訳か通信機器もダメになってしまっててね、普段ならこんな状況で飛行なんてしないんだが…なんにせよヘリならば常に管制とやり取りしてるはずだからね、位置も把握してるだろうし救助は直ぐに来る…というか来たしね」

 フムフム…。

「そうですか、残念ながら俺達は救助隊では無く、偶々通りがかった入植者なんですよ」

 微妙に位置取りを変えつつムゥさんにそう告げる。

「え?では救助は?事故から大分時間が経ってる筈だが…」

 ムゥさんがそう言い掛けたところで。

「そこまでだ!!大人しくするんだ…」

「ピギィーーーー!!」

 臥せっていたはずの男3人が、シルクの背後に立ちナイフを突きつけようとしたが、丁度豚の判定内に居たのでシルクを人質取るのは失敗。

「な、何で豚が悲鳴を!?」

「ひ、ひい!!」

「なんだこの使い魔の数は!?」

 どうも状況が見えていなかったお馬鹿さん達の様で、敵対した事であっという間に使い魔にタコられていた。

 ヒャッハー!→い、命だけは!!この間僅か5秒であった。

 さて、事情を聞き出しましょうか。


 あらましは実にシンプル。

 ヘリ側の男3人は強盗で、ムゥさんの円盤を奪う為に電子妨害を仕掛けたそうだ。

 このごろつき共の誤算は、ムゥさんの円盤がヘリに突っ込んできた事、偶々俺らが居合わせて豚の判定がおかしかった事だ。

 お陰でムゥさんは命拾いし、悪党共は監獄行だ。

 とはいえ、現場に使える通信機器が無い為、徒歩でホームに戻る羽目になった。

 ごろつきは縄で縛って連行、ムゥさんはそのまま徒歩で付随する。

 そんなムゥさんだが、とんでもなく強かった。

 武器は小型のエネルギー銃だというのに、正確無比な射撃で遠距離のヒヨケムシを灰に。

 かと思うと近づいた蠍を念動で操作して吹っ飛ばしたり叩きつけたりして粉砕。

 それでいて格闘も超一流ときたもんだ。

 勿論装備も超一流だから、仮にごろつきが先に覚醒しても、気絶してるムゥさんをどうこう出来たかは怪しいところだな。

 まあ、狙う相手もタイミングも悪かったわけだ。

 そんな感じでのほほんと帰路についていたが、地中から何者かが急接近。またしても豚がしゃぶられ始める。

「この振動…間違いなく[モンゴリアンデスワーム]だ」

 その名を聞き、喚き散らすごろつき共。

 掲示板で注意喚起されてた化け物か。そして某映画の題材にもなったUMAか。

 しかし情報では、砂漠のもっともっと奥地に居るとあった筈だが。

「奴らは単体で非常に広い縄張りを持つからね、稀に餌を求め文明圏にも進出する事もあるよ」

 ムゥさんのうんちくを有難く拝聴しながら畑を拵える。

「おお、突き抜けたファーミング能力だね」

 柵付き案山子付きの畑を見て、楽し気に感想を漏らすムゥさん。

「守りは問題無いけど…この戦力で狩るのは無謀だからやり過ごそう」

 歴戦の兵がそう言うのだから、素直に従っておこう。

 先程同様、満足したのか遠ざかっていくモンゴリアンデスワーム。

「アレはまだまだ若い個体の様だね。正直完全体じゃなくて助かったよ」

 このムゥさんをしてそうまで言わしめる存在か…。


「いやはや、今回は世話になったね。また会おう」

 無事ホームに辿り着きギルドで事情を説明し、ムゥさんは帰還していった。

 俺達は犯罪者の引き渡しと救助で報奨金を貰いPAに帰還した。

 その際、皆個別にやりたい事が有るというので解散し、ソロで動く。

「そんじゃ俺も立ち回りを磨きに行くか」

 行動指針を決め、目的地に向かう。

 到着したのはバグスターの南のダンジョン。

 夕飯まで、ここの蟲共相手に間合い管理の修練を積む事にした。

 兎に角使い魔が反応するギリギリの距離、敵のリーチ双方から瞬時に最適な間合いを測る判断力を養うのだ。

 使い魔のスペックと、その供給を満たすだけのSTAが確保できてる以上、足らないのは俺の判断力だけだ。

 早速、蟲の巣道場の門を叩き、武者修行を開始。

 既に何度か戦ってる経験が有るので、即死するような無謀な突撃は避け、慎重に慎重に使い魔を嗾ける事から始める。

 十分な安全マージンを取った事で、不意打ち気味に下層から這い上がり押し寄せる蟲に呑まれずに済んだ。

 この南のダンジョンの蟲は、これまでのダンジョンで追加されてきた特性(範囲攻撃や移動速度デバフ)を引き継いだうえで、移動速度が異常に速く、周囲に敵が居なくてもあっという間に距離を詰めて来て囲まれるのはザラだ。

 なので、いい具合に蟲を押し込んでいても、<蛇の王>や<金甲>などの単体で強い使い魔がやられた瞬間が一番危険で、その僅かなリスポン時間の間に距離を詰めて来るのだ。

 ちなみに<金甲>の能力というか特徴だけど、まあ小さい分攻撃力は若干弱い感じはするけど、被弾面積の小ささを考えれば相当強力だと言える。

 何しろ範囲攻撃という、判定の小ささが意味を成さない中でも普通に猛攻に耐えているので、堅さは一線級だ。

 さて、引き続き武者修行を続けるぞ。


 修行開始から一時間程経過。

「大分、蟲の速さと、使い魔の戦線復帰速度の把握が出来てきたぞ」

 この距離間であの使い魔がやられたらあの蟲がこの位詰めて来て…。

 といった具合で、敵味方ユニットの数秒間の変遷が、なんとなく予想できるようになった。

 上達の成果も既に現れていて、最初は入ってすぐの部屋の入口よりでしていた攻防も、次の部屋への通路寄りへと場所を移している。

 たとえステータス的に向上が無くとも、戦闘を有利にする事は可能なのだ。

 それから少しして、ガチ勢がダンジョンに押し寄せ戦場は次の部屋に移行した。

 二つ目の部屋は分岐路になっていて、前方左右下方の四方向からの蟲の大群が迫りくる修羅場だった。

 何度も最初の部屋に押し返されながらも、皆で力を合わせて踏み止まり押し返す。

 そんなシーソーゲームに興じながらも、ここが入り口に近く、敵のスポーンルームが遠い事もあって、少しずつだが押し込み始め、何とか前左右の部屋を確保。

 それでもそれぞれの部屋に下への通路が有る為、状況は非常に不安定だ。

「一旦物資の補給をするか」

 何度もドッペルを使い、作物の備蓄が心許なくなったので、外に出て西瓜でも栽培しよう。

 そう思い引き返してる最中。

「ん?何かが地中を?」

 ヘルメットが敵の接近を検知し、急いで迎撃態勢を取る。

 運よく周囲の人も気付いたり、何かあると察してくれたので、無防備な状態は避けられた。

 そして奇襲を仕掛けてきたのは螻蛄の大群。当然こいつ等もデバフに範囲攻撃に高速移動を標準搭載しているので、かなりの強敵だ。

 他の人には申し訳ないが、真っ先にしかも正確な敵の位置が判ってた俺は、直ぐに逃げれる場所を確保していたので、味方が倒され追い込まれた時点でダンジョンを脱出させて貰った。

 まあ、こればっかりはソロの身軽さ、利点を生かしただけなんで、諦めてくんろ。

 俺を追って外までついて来た螻蛄をNPCと殲滅。残りはダンジョン内の人たちに向かった様だ。ご愁傷様。


 螻蛄の奇襲を切り抜け、西瓜を補充。

 それにしても警戒すべき事象が一つ増えたな。

 再びダンジョンに侵入し、螻蛄を含んだ蟲の大群と相対する。

 どうやら先の部屋を確保していた連中もダメだったようだ。

「さて、食料も潤沢だし消耗戦としゃれこもうぜ」

 [ドッペルゲンガー]も惜しみなく捨て駒にしながら蟲を押し込む。

 例えドッペルが瞬殺されようと、置き土産に<不死の眷属>と[スワンプマン]が発動し、時間を稼ぐのでドッペルの再使用までの時間はどうにかなっている。

 こうして夢中で蟲とおしくらまんじゅうしていたら、時間も来たしコストもいっぱいになったので帰還した。


 夕食後、ゲームを再開すると、久々に全メンバーが揃った。

 折角だし全員で何処かを攻略しようといことで、アニマルに向かう。

 現在アニマルではホームの建て替えがなされていて、そのお手伝いをする。

 具体的にはホームを丸ごと地下に沈めて、巨大な獣から少しでも守る為らしい。

 どうも最近怪獣クラスの獣の襲撃で、ホームが何度も機能不全に陥り開拓が一向に進まない為、先ずはしっかりとした足場固めをする方向にシフトした様だ。

 前に一度、巨大な象の群れがホームを瓦礫の山にするのを見たので、地下に沈めるのはナイスアイデアだとは思う。

 …果たして重さに耐えられるのかという疑問は残るが…。

 アニマルのホームへ跳び、早速の修羅場に心が躍る。

 だって巨大なアルマジロが転がりながら基礎工事を妨害してるんだよ?思わず笑っちゃうのはしょうがないよね。

「でもこのままじゃ危ないから…[ドッペルゲンガー]に<鍬の一振り>っと」

 駆け付け一杯の感覚で慣れ親しんだコンボをぱなす。

 様子見も兼ねて収穫までその場で待機。オート種蒔きの効果で作付したので、手持ちの種苗類がほぼ牧草なせいで、収穫物は全部牧草だった。

 収穫した牧草の質を見る限り、ここの耕作地ランクは中々に高い事が判明。

 高値で売る事は無理でも、小銭稼ぎにはなってくれそうだ。

 さて、ある程度状況が判ったので、人が居ない場所に移動し陣を構える。

 巨大なヌーが突っ込んでくるが、単体なので<ゴーレム使い>と<魔導人形>で無効化し、皆でタコって撃破。

 アニマルは単体の強さこそとんでもない次元にあるが、あまり数で攻めてこない分やりやすいのが助かる。


 端っこに陣を構えて二十分程経過。

「「「「「か、可愛い~~!!」」」」」

 女性陣が遠目に見える子猫に魅了されている。

 遠目…一体何㎞先なんだろうな…。周囲の景色からその程度は離れてる筈…だがハッキリと子猫と分かる程のサイズ…。

「成程。必ずしも現実のサイズに比例するわけじゃないのね…」

 だってただでさえデカい象が、ここアニマルの象だと正に特撮怪獣クラスになるのだ。

 だが遠目に見えてる子猫はそれを遥かに凌駕したサイズに見える。見た目は文句なしに可愛い子猫なのに。

「あれだけ大きいとじゃれつかれるだけで即死ですね…」

 ベルの呟きに同意せざるを得ない。

 そんな超巨大子猫ちゃんだが、何やら凄い数の人が子猫目掛けて突っ込んで行っている。

「あの自殺志願者達は?」

「勿論テイムする為よ!!っあ~~!!私もテイムに特化してれば~~~!!!」

 どうも土俵にすら上がれないのか、激レアペット枠の子猫ちゃんを前に歯噛みするアコ。

 尤も普通の環境じゃコスト的にもペット化は到底出来ないだろうけどね。

 あの猫の名前は[コズミックキャット]と言うらしく、連れ歩いたり、PAで飼う為の最低コストは4万との事だ。

 ちなみに素の状態で覚醒転生共に9回でLv100時のパラメータが1万。

 きっと理屈じゃないんだろうね。

 テイムを狙って爆走する連中を見る。既にかなり遠くに居るが、集団過ぎてここからでも丸見えだ。

 程なくして猫に接触という時。

「ンナ~~~」

 突然、可愛らしくも大地を振るわすほどの鳴き声を上げ、寝返りをした猫にプチっとプレスされ消滅した。

 なんとも猫らしい感じが笑いを誘うオチだった。

 猫ちゃんはそのままトコトコと何処かに去っていった。

 滅多に出現しない巨大子猫を拝んだりと、貴重な体験をしつつ防衛を続け、巨獣の重さにも耐えうる地下ホームの基礎が完成した。

「どうする?このまま付き合うか?」

 基礎の完成まで漕ぎつけてしまえば、後はこちらのもの。

 残るか他所に向かうかをメンバーに問う。

「私はバグスターが良いです」

「俺も蟲の毒が欲しいからバグスターに一票」

 シルクとマッドは蟲の繭や毒が欲しい様だ。

 しかし賛成の2人を含め、うちは南のダンジョンとは相性が悪い。

 その点が上がると2人も代替が効くので意見を取り下げた。

 皆で話し合って決めた先はアースに出来た森のダンジョンだ。


 現地に到着し、大所帯でゾロゾロとダンジョンに侵入した。

 以前にも増してダンジョンが拡張したのか、入って早々十字植物が待ち受けていた。

 早速豚が美味しそうにしゃぶられたので、纏めて殲滅する事に。

「ユキ、あの辺に<クラスティオーブ>を」

「了解」

 大雑把な指示に大雑把に魔法をぱなすユキ。これで片が付いた。

「いいね、こんな適度な緩い感じが性に合う」

 やはり各々の個性が存分に活かせる良いダンジョンだ。

 前衛中衛後衛遊撃囮とポジションを分け、ダンジョンを進んでゆく。

「ところでこのダンジョンの攻略方法って何?」

 サチがそういえばといった感じで投げかけて来る。

「実は判ってないんですよ。今までの傾向からして、ボスとコアが有って、その両方を処理すれば大方解決するはずですが、ギルドの資料では生物魔物怪物問わず、ダンジョンのリソースが尽きるまで討伐する事で、滅ぶダンジョンも在るそうです」

 となると此処の攻略法は今の所は不明と。

「それにゲーム的ご都合主義のお陰で、上空からでは映像がぼやけて、ダンジョンの全貌すら判ってないみたいですし」

「んー先ずはダンジョンのタイプを判別しなきゃならんわけか」

「なら一旦戻って、NPCに話を聞いてみますか」

 ベッタラの言葉にカメキチさんが堅実な提案をしたので、それに倣う。


「ダンジョンの情報?悪いが此方でもまだ殆ど判ってないんだ」

「一応あそこの掲示板に随時更新した情報が有るから目を通しておくと良い」

 ダンジョンとの境界線に屯ってたギルド職員に声を掛けたが、大した情報は無かった。

 仕方ないので言われた通り、掲示板で情報を漁る。

「あの十字の植物[クロスイーター]って言うらしいな」

 割とどうでも良い情報しかなかった。

 結局情報は足で稼ぐしか無い様なので、再びダンジョンに侵入。

 そろそろ歯応えのある戦闘をしたかったので、一直線に進んでみる。

 すると徐々にだが敵の襲撃が増えて、敵のバリエーションも豊富になった。

 根に蔦、飛んでくる棘に種や胞子。おまけに使い魔を狂わす芳香を出す花等多岐に渡る。

 景色も色彩豊かになり、殺意の高い攻撃さえ来なければ実に良い自然なのだが。

 今も只の蔓に擬態した触手をユキが灰にし、迫る根はサチの<まきびし>で返り討ちにした。

「大分攻撃が激しくなった様ですね」

 巨大なキノコの魔物をぶった切ったおりょうさんが呟く。

「それでも楽しいですよ」

「なんせちゃんと剣戟出来ますから」

「ホントホント、ゲーム全体のインフレがおかしい方向にいってるんで、こういう正統派の危険地帯は大歓迎です」

 ラーク、ショー、ワイドの3人もトレントを完封しつつ、楽し気に声を上げる。

 確かに全体的にデフレを以ってバランスとると、小奇麗には纏まるだろう。

 だからと言って、インフレでバランスを取ると、範囲攻撃デバフの嵐になるのは明確だし難しいよね。蟲の巣はアレはアレでビルドを選ぶだけで楽しいとは思うけどね…。

 別にこのゲームはNPCの心証とか強さを求めなければ、好きに遊べるから嫌な場所には行く必要がないのは嬉しい配慮だ。

 そんな訳で、俺達はこの楽しい遊び場をたらふく堪能するのだ。


 いやはや、流石未開の地で此処まで成長したダンジョンだけある。

 進めば進む程激しい攻撃に晒されるようになるし、リアルタイムで罠が設置されたりと、完全に殺しに来ていることが解る。

 景色も樹々に日差しが遮られ、薄暗いを通り越して普通に暗い。

 勿論俺には影響は無いが、暗視などの対策をしていない仲間はさあ大変。

 動きも鈍くなるし、(たち)の悪い罠で、夜行茸の様な茸が有ったのだが、なんとこいつ人が近づくとあり得ない程眩しく発光しやがるのだ。

 これで俺とカメキチさん以外が目をやられ、そこに植物の大群が押し寄せ、危機的状況に陥ったが何とか凌ぐ事が出来た。

 なんつー意地の悪い初見殺しだこと。

 他にもピアノ線的な罠や、無理矢理足元や目の前に作られる落とし穴。

 イメージ的にはト〇ネコのパぺッ〇マンがうじゃうじゃ居る感じか?

 兎に角、致死性の高い殺しの手管を遺憾なく発揮してきたフォレスト勢のダンジョンは、常に死と隣り合わせの危険地帯だ。

 それでも数多くの戦利品を手に入れ、未だに誰一人欠く事なくきている。

 こういう時は謙虚になり、帰還するのが一番だ。なので少し前から退却しているんだが…。

「いくら何でも罠が多過ぎる!!」

 まるで進んだ距離に応じて、帰りの難度が上がるかのような現象に、消耗した状態に更なる消耗を強いられる。

 人数補正も相まって、既に『ジャックオーランタン』の超級試験最終日を超える激しさ。

 使い魔も[幸運]の4種に[ガーディアン]<ゴーレム使い><魔導人形><象使い>以外は戦力外となり、非戦闘系も総動員状態だ。

 そして絶えず追い縋って来て、周囲に罠を撒き散らす蔦や根を振り切れず、終いには原木畑を中腰あるいは匍匐で、牛歩退却という超シュールな光景に発展した。

「はっはっは、ガキの頃やってた柔道を思い出しますよ」

 カメキチさんが集団匍匐に、昔を懐かしんでいる様子。

 確かに柔道の準備体操の一環で匍匐とかするけど…「あんた常に匍匐状態じゃないか」…勿論思っただけで言わないけどね。

 そんな逃避行も、追っ手を殲滅して何とか完了。…長かった。


「それにしても発光茸は酷い罠だったな」

 PAに戻るなりマサがうんざりした様子で愚痴る。

「アレは初見では先ず喰らうぜ」

 暗い森の中、突然の超発光だからな、無理もない。

「罠に状態異常、ダンジョンとしては正統派だと思うけどね」

 ヘルメットで大半の罠を看破できる俺には、楽しいダンジョンだ。

「皆時間は?」

 戦利品の仕分けを終え、この後どうするかを訪ねる。

「クラフトに入るわ」「ソロでぶらり旅してくる」等各々動くそうなので、パーティーを解散した。

 俺もどうしようか考え、正規のルートでエルフィンに向かってみた。

 ギルドを訪れ、ホームに跳ぼうと思ったが、廃都の封印解除でハイエルフのアンデッドが溢れてホームも陥落。降下からやり直しらしい。

 仕方ないのでドロップシップに跳んで降下作戦に参加してみた。


「うわぁ…これはエグイ…」

 衛星軌道上から降下するや否や、大量に飛んでくる対空弾幕。

 一つ一つが馬鹿げた威力の<アイススピア>らしき魔法が弾幕シューの如く飛来。

 何度か被弾したが、いい具合に豚が吸ってくれたお陰で無事着地。

 取り敢えずアップリンク復旧の為、ホームを目指して歩を進める。

 道中犬や狼の魔獣と遭遇するが、大した強さも無く撃退。どうやらこちらのホームの周囲はそこまで難易度が高くない様だ。

 なんて思ってたらかなりの遠距離から<ブラストウィンド>が飛んできて、LPが1割ほど削られた。

 こちら側は緑化も碌に出来ていないので、遮蔽物も碌になく、撃たれ放題だ。

 尤もそれはこちらも同じ事。<青龍>と<鷹使い>がエルフのスケルトンに接敵。無事撃破してくれた。

「どうやら普通のエルフのアンデッドか」

 ハイエルフのアンデッドだったら、最初の一撃で2~3割りは削られてただろうから、こんなもんじゃ済まなかったな。

 それでも、魔法のスペシャリストのアンデッドが、数多く解放されちゃったんだもんな。

 しかも索敵もべらぼうに優れてるときたもんだ。奇襲がおっかないったりゃありゃしない。

 ホームを目指すにしても、せめてもう少し仲間が欲しい。そう思ってると。

 ヒュンッ!!ズシン!!と直ぐ傍に見覚えのある巨体が降下してきた。

「フム、ブジニチャクチデキタヨウダ…ン?オマエハ?」

 巨大な盾と杖を持って、三角帽を被ったミノタウロス。間違いない、以前市街地戦で共闘した奴だ。

「久しぶりだな」

「アア、オタガイブジデナニヨリダ」

 と、ミノタウロスの魔法使い、ズールと再会し、共にホームを目指す事に。


 ズールの特徴。雑に強い。以上。

 いやね、高火力の魔法ちゅかいが馬鹿でかい盾を構えながら詠唱するんだよ?殆ど戦車じゃん。

 しかも本人もミノタウロス故に頑強で、歩幅が広いから移動速度も速い。

 そんな奴がしっかりと間合いを見極め、小技大技を使い分けるんだからそら強い。

 雑に強いのが丁寧にゴリ押すんだからそら強い。以上。

 さて、ズールという非常に強力な前衛兼砲台を得た事で、道中の安定感が半端ない。

 ハイエルフスケルトンとも二度遭遇したが、初撃の<ブラストウィンド>をズールが盾で防いでくれるので、後の<ファイアーオーブ>や<アイススピア>などの魔法は、3万の[速度]を持ってすれば、距離を取って動いてれば当てられる事は無いので、接近してランタンの光を浴びせ使い魔を嗾ける事で安定して浄化出来た。

 2人で暫く進み、ホームが見えてきたが…。

「ムウ…カンゼンニカンラクシテイルナ」

「ああ、…お、向こうに陣が敷かれてる。向かってみよう」

 このままホームに突っ込むのは自殺行為と判断し、遠くに見えた味方との合流を優先した。

 近づくにつれ、味方の旗色が芳しくないのが判る。

 何しろ対空砲火で、着地できる仲間が少ないから、一人当たりの負担が大きく、様々な分野において対応が追い付いてない様だ。

 俺達も合流までに潰されぬよう、大きく迂回しながらなんとか本陣に合流した。


 本陣はてんやわんやの絶賛混乱中。

 物資も乏しく、ビルダーも居ないから防壁の設置もままならない後手後手な状況。

「コレハジカンヲカセガネバナランナ」

「そうだな、その為の物資を生産するか」

 前線に加わるというズールと別れ、俺は後方へ向かい農産物の生産へ移行。

 取り敢えず耕作地ランクを見る為に[ドッペルゲンガー]と<鍬の一振り>。

 収穫物を確認すると、アッシーの巣に引けを取らないランクだと判明。

 この状況で使い道があるか分からないが、取り敢えず最高品質の牧草を納品してみる。

「おお!!丁度ペットの餌が不足していたのだ。協力に感謝する」

 今にも牧草にかぶりつきそうなペット達が視界に入り、俄然やる気が沸いてきた。

 ついでにハチミツ、豚肉、ウール、生乳等を納品。こちらも凄く感謝された。

 あれ?チョットしたロケテの心算だったが、稼ぎ時?

 ともなれば兵は神速を貴ぶという。

 札束風呂を妄想し、金稼ぎに邁進じゃ!!


 後方で牧草やら西瓜やら作物を栽培し、時間経過で手に入る素材食材と一緒に納品。

 餌が豊富に供給された事で、ペットが機能し始め前線が活気づく。

 そのペットが稼いだ時間で休憩がローテーションされ、徐々に立て直しされる本陣。

 更に着地出来た人員も集まり出し、ビークルやタレットが投下され始め戦線が激化。

 こういう感じは久々だが良いな。後方でそこそこ全体に影響のある役割を熟しつつ、全体の推移を見守る感じ。

 デバフの嵐に範囲攻撃の脅威に蹂躙されたり、能動的に罠を仕掛けて来る殺意の高いダンジョン。

 そんな殺伐とした場所ばかり回っていたので、こういった癒し空間は蕩ける様な甘味だ。

 偶に後方まで抜けてきたアンデッドが作物を荒らすが、これもまたピリッとしたアクセントになって良い感じだ。

 しかし凄い戦場だ。戦闘ヘリはどんどん撃墜されるは、戦車はスクラップにされるは、前線に直接投下されたタレットは即破壊いされるはで、何とも硝煙臭い戦場だ。

 しかもそれらを成してる敵が、魔法を使うアンデッドってのがまた…。

 シュー…中々絵になる光景だ。そんな戦場で農業してるお前はどうなんだって?まあそこはね、これでも運営がパトロンに見せる程の公式奇人ですから。

 そんなとりとめのない思考をしつつも、作業は正確に熟し評価を稼ぐ。

 戦場の喧騒をBGMに裏方作業をしてると、ようやく戦場に動きが有った。

「ん、味方がホームに取り付いたか」

 何やら前線が慌ただしくなり、ラインを上げろと怒号が飛び交う。

 それじゃまあ、俺も詰めに入りますか。


 激戦を制し、ホームを奪還。

 アップリンクも復旧し、テレポーターも再稼働した。

 俺はホームへの一番槍を果たしたズールと再会を果たし、互いの健闘を称え合ってから別れて帰還した。

「無事、ホームを取り返したけど多分長くは持たないんだろうな…」

 これまでの経験上、崩壊や奪取されたホームが直ぐに安定する事は無いと確信している。

 であれば、廃都をどうこうするには水エルフの援助は不可欠。

 『ジャックオーランタン』との交渉はどうなってる事やら。

 恐らく近い内に何かしらの沙汰があるだろう。それまでは再誕は保留しておかなければならない。

 まあ、それだけなら差し当たって問題は無いが、さあ、この手元にある先程の報酬。これの使い道が問題だ。

 現在の所持金は70万と、半端に高額な金額で、何かの拍子にロストするのも馬鹿らしい。かと言って薬草の種はあまりに高価だし、監視が付いているらしい現状迂闊には購入できない。

「うーん…いっそのこと鍬でも新調するか」

 現在使用してる鍬は、[オート種蒔き]が付いたメインと何もOPが付いていないサブの鍬だ。

 これらを処分して、[オート種蒔き]が付いていない高性能な鍬を新調しようと思う。

 という事でPAを出て、ホームの散策に繰り出した。


「…想像よりずっと需要が高かったんだな…」

 鍬を求めて3000秒。プレイヤー、NPC、競売問わず様々な店を当たってみたが、会心の鍬は直ぐに売れてしまうそうで、逸品に出会えないでいる。

 そして傑作とも言える様な物は、例え在庫にお目にかかれても、高すぎて手が届かないというね。

 吃驚したよ、鍬一本が一千万もするなんて。しかもコストが1200と来たもんだ。

 現状は、兼業農家に良い感じの鍬は品薄だという事だ。

 きっと今、俺が使ってる[タングステン鋼の鍬]を売ったら、かなり高値で転売できそうだ。

「当てが外れたか…それに今更70万じゃ、今使ってるのより高性能な鍬は買えなさそうだ」

 仕方がないので、70万を使ってPAの設備を適当にLvアップしといた。

 PAの設備も、メンバーがそれぞれ投資をしているので、今更70万程度つぎ込んだところで感は有るんだが…まあロストに比べれば遥かに有意義だし、ここ等が妥協点だろう。

 これでお金を、被弾したソ〇ック並みにぶちまける未来は回避できた。

「時間も時間だし落ちて寝るか」

 ログアウトして、未だに遊び続ける美雪と亜紀に一声かけ、おっさんは眠りに着いたとさ。


「んー…気分爽快良い目覚め」

 早朝、鶏の大合唱に起こされ、顔を洗って軒下で光合成。

 存分にビタミンDを生成し、朝食を頂き二度寝。気持ち良すぎて堪らんわ。

 数時間後に起床し、PCを立ち上げてログインしようとして、アプデ告知が目に入る。

 内容はゲームバランスの調整で、細々としたアッパー調整とナーフだったが、特に類が及ぶようなものは無かったので一安心。改めてログインした。

「ん?」

 情報の項目が点滅してるので、チェックをすると教会に来るよう要請が来ている。

 多分エルフィン関連だろうと当たりを付け、現地に向かう。

「フム、来たか」

 部長の部屋に案内され入室すると、水エルフの族長ハイドライクさんが鎮座していて、向かいで部長が畏まった感じで相対している。

「自分が呼ばれたって事は、何かしらの進展があったので?」

「そうだ。端的に言えばうちと火の一派と『ジャックオーランタン』で一時的な同盟を結ぶ事となった」

 うん、それで何で俺が?

「シーラの提示した条件を聞いてると思うが、此方が廃都制圧に際して此方のホームの使用を許可する代わりに、渓谷の掃除をして貰う」

 うんうん。

「だが、彼方のホームは未だ荒れてるからな、渓谷への遠征もまだまだ無理がある。だからと言ってこちらの要求を叶えてもいない内に、此方のホームの使用許可を出すのも取引として順序がおかしい事になる」

 此処から部長が引継ぎ。

「まあ、そういう訳でテツ君には申し訳ないが、君が主導で渓谷の浄化をして貰いたい」

「いやいやどうやって?」

 何しろ『ジャックオーランタン』の面々は水エルフ側のホームを使えないから、実質俺一人だよ?無理に決まってる。

「何を言う、君には仲間が沢山居るだろう?」

 これはカンパニーのメンバーの事だろう。つまり『ジャックオーランタン』から俺らに下請けとして働けと。

「という事は、別に何かしらの報酬をくれると?」

「ああ、奮発すると約束する。だから頼む」

「まあそういう事なら」

 一応念押しで、早急には無理、ペナルティは受け入れられない事は断固として認めさせた。

 族長からも、俺達は引き続きホームの使用を認めるというので、受ける事にした。


 PAに戻り、つい先ほどの件を居合わせたメンバーに口頭で伝え、居ないメンバーにはメールで送っておく。

 明確な攻略対象も出来たし、ここはひとつ本腰を入れて取り組むか。

 取り敢えずソロで全力を出した場合、何処まで行けるかを試すか。

 早速現地に赴き、準備を整える。

「良し、調整完了」

 最早上層なぞ恐るるに足らんので、堂々と悪魔の手ににぎにぎされたり、落下ダメージでLPを調整。

 これで現在の最大[生命]は約7000万。この状況での渓谷攻略は初めてだな。

 そして始まった蹂躙劇。

 すっかり荒れ地に戻った上層を緑地化しながら中層へ向かう。

 当然魔獣に遭遇するが、[生命]7000万の補正が掛かる<青龍>と<鷹使い>は、尋常じゃない堅さを誇り、上層で一度も倒される事なく中層へとたどり着いてしまった。

 そして、中層から出て来る一角ジャッカロープと、色違いスティンガー、金銀マンバも歯牙にもかけず堂々と闊歩し下層へ。

「さて、ここからはバレットフライにハイエルフスケルトンが出るが…」

 少し進み、例の曲がり角に到達。

 敵を感知し、<青龍>と<鷹使い>が襲撃する。

 そして数分。<青龍>が2回、<鷹使い>が12回リスポンした頃に、無事ハイエルフスケルトンを撃破、下層最初の難関を突破した。

「よーしよし。少々時間は掛かるけど、敵の射程外から無傷で攻略可能なら、最早谷底も見えたも同然だな」

 只管谷底から襲ってくる、バレットフライを跳ね除けつつ、以前採掘をした場所を通り過ぎる。

 谷を下る事数十分。未知の領域、谷底に辿り着いた。


 初見のエリアである谷底。

 そこは日の当たらない暗闇で、様々な魔獣の死骸や骨が散乱し、悍ましい蝿の羽音や、異形の怪物が跋扈する魔境だった。

 谷底を踏んだ直後。洗礼とばかりに以前見かけた緑のドラゴンもどきに遭遇。

 圧倒的なタフネスと凶悪な呪詛を撒き散らす怪物の名は[スナリーガスター]。

 こいつの正体は、アースドラゴンのゾンビの変異種で、谷底に滑落して死んだ個体が稀にこのような変異種になるそうだ。

 いわばアースドラゴン版シャーマンって感じか?使って来るのは呪いだしそれっぽい。

 そんなヤバいのを退治し、一息と思った矢先、今度は山羊の様な角を生やしたジャッカロープが襲い掛かって来た。

 こいつも相当な難敵で、闇属性の炎を使い、後方で高みの見物を決め込んでいた俺にもダメージを与えてきた。

 どうやら豚の判定すら貫通する上に、かなりの射程だった。

 このダメージのせいで、ポーションを使わざるを得なくなり、LPが全快し使い魔が弱体化してしまった。

 ちなみに、山羊角ジャッカロープは、発動した[スワンプマン]の使い魔にも囲まれ圧死した。

「クソ…こんな魔境じゃ調整も無理だし、また上に戻るのも面倒だ…」

 仕方ないし、このまま攻略を続行。

 なんだかんだでLP30万で一撃死しなかったので、フルLPならそれはそれで気持ちの面では楽だろう。


 谷底に腰を据える事一時間。

「[幸運]のスキルが変化して無けりゃ如何にもならんかったな」

 単体でも凶悪な山羊角が、引っ切り無しに複数で攻めて来る。

 貫通属性を持った範囲攻撃の闇炎と蝿の大群に、何度も畑を焼かれ、潰されてリソースの確保もままならない。

 それでもこいつらだけなら何とかなるが、合間にスナリーガスターやハイエルフスケルトンが混ざるので、緊張感が半端ない。

 未だに谷底の一歩目から進めていない状況で、流石にソロでは無理だと悟る。

「しゃーない、一旦戻って数を揃えなきゃな」

 というわけで、PAに戻り居合わせたメンツに声を掛けた。

 お誘いに答えてくれたのはベル、マッド、サチ、ベッタラ、サーモンだった。

 準備を整え再び渓谷の谷底へ戻って来た。

「サーモンは後方から従魔を供給。サチは畑に蝿除けの<まきびし>を。ベルは回復のローテーションを。マッドとベッタラは大物が来たら瞬殺してくれ」

『OK!!』

 それぞれに役割を任せ、後方に畑を拵え最前線に立つ。

 先程と違い、畑が後方にあるお陰で巻き添えも無く、日当たりが有る事で原木畑じゃなく普通の畑になったのも大きい。

 そんな畑はサチの<まきびし>に守られ、蝿を寄付けず順調に作物を供給してくれる。

 サーモンの従魔もガンガン前に出て、敵を消耗させる。

 大物はドーピングしたベッタラが思惑通り瞬殺。

 これで、谷底入り口付近での立ち回りは確立された。


「足掛かりは出来た。今度は進む必要があるけど…どうする?」

 このまま全員で進むか、お出かけ組と留守番組に分けるか。

「うーん…私は蝿には滅法強いけど他にはからっきしだしここで畑を守るわ」

 サチは二手に分ける方を選び、留守番を選ぶ様だ。

「そうだな、全員行っても相性で活躍にバラつきも出るしな、二手に分ける方が良いな」

 サーモンも分ける方に賛成した。

 他3人も異論は無く、二手に分ける事が決定した。

 お次はその分け方だが、これがまた悩ましい問題で。

「先ず確認なんだが、この谷のアンデッドの浄化が目的なんだよな?」

 とベッタラが、改めて目的を確認してくる。

「ああ」

「ならスナリーガスターにハイエルフスケルトンだっけ?あいつらを倒す時には、テツが傍でランタンの光を浴びせてる必要があるよな?」

「…そうだったな…」

 大物をただ倒すだけなら良いが、浄化する事が目的だと、俺が都度嚙んでいないと、何時までも終わらないのか…。

「ってなると…」

 結局決まったフォーメーションは、俺が1人で先行し、大物と遭遇したら引き返して皆で叩くって事で落ち着いた。

 ただそれだと俺の負担が大きいから、常に俺の前を従魔のゴブリンが先行する形になった。

 これなら不意打ちを受ける事も無いだろう。


 行動指針も決まり、早速実行に移る。

 視界の先には、どんどん暗くなっていく谷底が続いている。

 ランタンが5個も有り、ヘルメットのお陰で普通の景色に見えてる俺には関係ないが。

 先を行くゴブリンを囮に、俺も慎重に歩を進める。

 直後、ゴブリンが雄たけびを上げ暗闇に突撃していき、激しい戦闘音が響き渡る。

 ゴブリンを援護する為後に続き、先駆けて<青龍>と<鷹使い>が発進。

 数秒後に追い付いた頃、ゴブリンと<鷹使い>が力尽き、敵の正体が判明。

「こいつは…ハイエルフのレイスか…?」

 半透明で下半身が無く浮いているエルフ。こいつがゴブリンと鷹をやったのか。

 直ぐに大量の使い魔が襲い掛かるが、レイスだから大半がすり抜けてしまう。

 幸い[幸運]の4体は、全て攻撃が当たるみたいなので、一安心。

 なんせこういう時の頼みの<代行の剣><代行の盾>が、未覚醒という事で力不足が否めないのだ。

 時折飛んでくる魔法でダメージを受けつつ、持久戦に持ち込み浄化出来た。

 丁度ゴブリンが戦線復帰したので、前進はそのまま任せて、俺は一旦後退した。


「ベル~回復頼むわ~」

 ポーション節約の為、ベルに回復をして貰い作物を収穫。

「こっちはどうだった?」

「蝿と山羊角が引っ切り無しに来るけど大丈夫よ」

 蝿はサチが完封。山羊角はベッタラが素早く処理するので被害は出ていない。

「しかし谷底の序盤も序盤でこれじゃ、この先は厳しそうだな」

 山羊角を切り伏せながらボヤくベッタラ。

「そうだな…一旦戻って戦略を一から練り直そう」

 そうと決まれば長居は無用。直ぐに撤退した。


「そもそもな話なんですが、渓谷の浄化って条件は何ですか?」

 ホーム戻るなり、暇そうなローレンスさんを捕まえて問い詰める。

「え?解ってないのに乗り込んでたのかい?」

「…まあ」

 なんか途端に顔が熱くなってきたぞ。

「一応不浄の地に押し入って、アンデッドを殲滅すればそれで完了するけど、道筋はなにもそれだけじゃないよ」

「と言いますと?」

「長らくアンデッドが蔓延る様なロケーションはね、大体中心になるアンデッドが存在するんだ」

 所謂ボスが居るって事ね。

「んで、そいつをピンポイントで討伐するのも一つの手だ。上手くいけばこれで片が付く」

「つまり済まない場合もあると」

「勿論。その場合は安全圏から延々とアンデッドを浄化して間引くのが安全かつ手っ取り早い。というか基本はこの方法が鉄板だね」

 成程。態々ロケーション全てを練り歩く必要は無いのね。

 …ってか以前、ゲートキーパー避けに、区画外から魔物を間引いて汚染度を下げるって作業をしたっけな。要はそれと同じ要領で比較的安全な場所からチクチクとやるわけだ。

「でもアンデッドを倒し続ければ、結局はボスが出向いて来るから、最後は力がものを言うんだけどね」

 結局それかよ…でも、あれ以上奥に行かなくても、敵側から出向いてくれるなら、時間は掛かるかもしれないけど、谷底入り口に陣取るのが一番良いな。

「無理に奥に行かなくても良いんですね。参考にします」

 礼を言ってその場を後にし、メンバーと情報共有をした。


 休憩後、全メンバーを引き連れ再び渓谷へ。

「作戦は谷底と下層との境界線でアンデッドを間引く。以上」

 現地に到着し、襲ってくる魔獣を捌きつつ陣を構築した。

 この作戦の要は俺とサチの2人だ。

 理由は言わずもがな俺は浄化の為、サチは本陣を蝿から守る為だ。

 当然アンデッドと直接対峙する俺は最前線に配置。サチは境界線上の畑に配置。

 俺には、マサ、アコ、マッド、ベッタラ、ラーク、ワイド、ショー、カメキチの8人が付く。

 それ以外はサチの護衛に付き、同時に俺らの退路の確保に努めて貰う。

「それじゃ留守を頼む」

「任せといて」

 本陣の守りの要のサチに後を託し、俺ら浄化組が谷底を征く。

 さあ、正真正銘うちの全力だ。どの位で浄化が完了するかな?

お次も二週間ほどで。

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