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第二十三話

~前回までのあらすじ~

山を短期間で造るというぶっ飛んだ作業を終え

ドSハイエルフことローレンスとの特訓で新たな力に目覚めていく…

 一週間後。

 訓練は順調に成果を出し続けている。

 現在の枷を嵌めた状態での[生命]は5万。LP1辺りの上昇値は1.1まで上がった。

 お陰でLPが4976/99527で5%以下になり、[生への執着]が発動する様に成っており、そうなると[生命]が1094797にまで跳ね上がる。

 この状況。俺自身は瀕死の重傷なんだが、使い魔のしぶとさが常軌を逸したものになる。

 [生命]10万程度で、[体力]も2400しかない状態だと、蜂は当然鼠も、キマイラやアースドラゴンの一撃に耐えれない。

 しかし[生命]が100万を超えていれば、鼠が3~4発耐え、蜂は攻撃によっては一撃耐えれるようになった。

 そんな蜂や鼠が、大物を取り囲んでむしゃぶり尽くす様は圧巻だ。

 ちなみにこいつ等クラスだと、LPが5000程有ったとこでどうせ一撃なので、未だに結構危なかったりする。


「今日は今後を見越して、少し危険なエリアに行ってみよう」

 そうして連れられた先は、大地に付けられた傷跡が如く深く割けた渓谷だった。

「ここは[エルフィン]の中でも、中間位の難易度を誇る超危険地帯。モンスターバレーだ」

 既に渓谷の周囲に一目でヤバいと思える怪物が跋扈している。

「ここには[ハイエルフゾンビ]や[ハイエルフスケルトン]等の、アンデッドも居るから、何れは君にここを浄化して貰いたい。君の生命力の高さなら彼らにも対抗できるだろう」

 どうやら、『ジャックオーランタン』としての俺への依頼が控えてるようだ。

「今回はその予行演習として、ここの魔獣の強さに慣れておこう」

 という事で、魔獣が此方を襲ってくる距離まで近づく。

「ム!!来るぞ!!」

 いきなりローレンスさんが警告を発し、俺に注意を促す。

 すると申し訳程度の草が生えている窪みから、鹿の角の様なモノが生えた兎が飛び出して来た。

「ジャッカロープだ。見た目に騙されてはいけないよ。数が集まるとかなり厄介だ」

 俺にジャッカロープを任せ、周囲に警戒に当たるローレンスさん。

 雑事は彼に任せ、目の前の兎に取り掛かる。

 そして少々時間は掛かったが、単体という事で、引き寄せ麻痺のコンボでタコ殴りの末、衰弱させ倒す事が出来た。

 流石UMAで名高いジャッカロープだ。[制圧]が無ければもっと時間が掛かってただろうな。


 あれから時間を掛け、じっくりと谷周辺の魔獣と戦ってきた。

 非常に耳障りな羽音を立てて襲ってくる30㎝程の蚊の魔獣[スティンガー]。

 <ゴーレム使い>の引き寄せと同じ能力を持った[悪魔の手]。

 何かの骨を住処にする、蛸の魔獣[ミミック]。

 渓谷の周辺だとこの3種が特に危険だった。

 いや~、スティンガーと蜂が空中戦をする様はカッコよかったな~。

 悪魔の手は、まあ豚が居るからそこまででは無かったが、能力としての危険度は相当ヤバい。

 なんせこいつ等。引き寄せは勿論だが、なんとヘルメットの索敵に一切掛からん隠密性を持っていて、不意に引き寄せて来るのだ。

 しかも大概群れで居るので…いや~恐ろしい。

 ミミックは、骨に限らず身を隠せる隙間が有れば、物や場所問わず擬態からの奇襲が驚異だ。

 何より名前の通り、宝箱やシンボルに隠れたり擬態してる事が有るらしく、数多くの人が犠牲になって来たようだ。

 ただ、幸いな事にこのミミック。かなりのレア魔獣らしく、遭遇した俺は運が良いのか悪いのか…まあローレンスさんをもってしても、逃げられてしまうような魔獣なので、運が良いのだろう。

 ちなみにこのミミックも、高い隠密性を誇り、相当近づかないと検知できなかった。

「惜しい事をしたね~、ミミックは極稀に核を落とすんだけど…1個じゃ従魔に出来ない上に、遭遇率も低くて確率も激渋…いつか娘にプレゼントしたいね~」

「そんなに苦労しても、従魔にする価値が?」

「勿論だよ。どんなスタイルの人にも合う究極の従魔さ」

 そんな話をしながら、ホームに帰還した。


「たでーま」

「あら哲也。お帰りなさい」

「親父は?」

「おでんとアナゴの煮汁に火入れしてくるって」

 日曜午後。

 今日は実家に帰省している。まあ帰省って言っても車で三十分程だが。

「あんた宮原さんから聞いたわよ、出世したんだって?」

「いや、出世では無いよ。聞いてるなら分かってんだろ」

「ふふふ、現当主様が身内の世話を任せるって事はそう言う事よ。もっと喜びなさいよ」

 そう言うもんかね?まあ親父やお袋の方が、よっぽどおじさんの事を知ってるだろうしな。そういう事にしておくか。

「ただいま~、元気そうじゃないか哲也」

「ただいま。親父も変わりないな」

 半年前にも会ってるから、あんま久々感は無いけどな。

「親父は店の方は良いのか?」

「ああ、今は特に大口の宴会とかも無いしな。適当に労基を守って若手の育成だ」

 親父は昔、藤堂家の料理番を務め、現在はおじさんが立ち上げた割烹の板長をしている。

「しかしお前も隅に置けんな~」

「なんの話?」

「惚けんなよ~、美雪嬢ちゃんと公認の中なんだろう?」

 …何を言ってるんだこのおっさんは?

「あのなぁ…親父も聞いてるんだろう?ただの話し相手だっての」

 如何にも親父とお袋の認識がおかしい。

「あんたもいい歳だし。ここ等で嫁を貰うべきよ」

「…一体どうしたんだ?今までそういう話題は全然なかったってのに」

 両親は、俺のトラウマを汲んで、浮いた話関連はノータッチだったのに。

「流石に二十年も前だし?流石に雪乃ちゃんの事も吹っ切れたろ?」

「そうよ。雪乃ちゃんの死をトラウマにしていて、それを今も引き摺っているのは分るわ。でも大人なんだからね?もう良いと思うのよ?」

 …確かに俺はあの子の事を引き摺っている…。でもなぁ…。

「…ふぅ…まあじきに状況は好転するだろう。その時を気長に待ってやるよ」

「そうね。後は哲也。あんたの覚悟と勇気よ」

「…それはどういう意味での勇気だ?」

「さあ?ただあんたの腹が決まって、覚悟が出来たらまた帰って来なさい。その時に…」

 結局強引にはぐらかされ、追い返されてしまった。


「おかえりなさい哲兄。どうだった?久々の親子水入らずは?」

 藤堂家に戻り、離れに帰宅すると、亜紀が出迎えてくれた。

「ああ、雪乃の事をちょっと話して追い返されて来たよ」

「…そう…」

「はあー…どうしたもんかね…」

「そこは哲兄に任せるわ、幸い時間はたっぷり有るわよ」

「…理解した。考えておくよ」

「どういたしまして」

 そう言い、亜紀は本宅へ戻っていった。


「さあ哲也君!!始めるわよ!!」

 夕食後、相変わらずの美雪と並んでPCに向かう。

 といってもお互い訓練が優先なので、ソロで遊ぶ事になる。

「それじゃ魔法の特訓に行って来るね」

 ユキを見送り、俺もローレンスさんのとこに向かう。

 最初に比べて、大分[生命]が本来の数値に近づいた為、毒薬、鞭に加え、酸まで加わり、じくじくとLPを削られる。

 こんなのが更に十日間続き、漸く訓練が完了した。


「おめでとう。遂に力をものにしたようだね」

 [死への免疫]これが今回新たに身に着けたアビリティだ。

 [死への免疫]:LPが減る程[生命]を上昇させる。なおLPの増減は元の値に依存する。

 後半の説明は、[死への免疫]や[生への執着]で最大値が増えた差分は、計算されないという事だ。

 そうでないと、このアビリティ効果で[生命]が無限ループで上がっていくからな。

 あくまで元の数値から減った分だけ増えるわけだ。

 さて、肝心の効果だが、最終的にはLPが1減る毎に、[生命]が2上昇する様になり、更にインプラントの効果で、1毎に3も増えるようになった。

 なので、LPが113000から、…細かすぎてめんどいから、約19600前後に減れば、[生への執着]が発動し、[生命]が約430万まで上がるようになった。

 これで、[生への執着]が実質約LP17%で発動するので、条件が3倍強へ緩和された事になる。

 ふふふ…これなら十分実用性に耐える条件だ。


 さて、これで報酬の訓練は終わったが、水の輸出もまだまだ続くし、渓谷の浄化作業も控えてるしで、やる事は沢山ある。

 でも取り敢えずは、一旦[アース]に戻って、色々と消化しようと思う。

 先ずは資源の回収だ。結構間が有ったので、すっかり復活していた。

 回る箇所はそれ程難度は高くないので、ポーションもタブレットのみで、コストにも十分な空きを確保。

 最初は森から回収していく。薬草は二往復で、木材は三往復で、土砂類は三往復で回収しきる。

 今なら最深部も余裕…という事も無く…寧ろ大苦戦しながらもソロでやり切った。

 運が悪い事に、薬品で超強化されたゴブリンの群れにぶち当たった時は、死に戻りを覚悟した。

 だが追い込まれ、[生への執着]が発動した途端。豚が不沈艦化して攻撃をシャットアウト。

 蜂が極小の当たり判定と三次元機動に、鬼耐久力を手にし[制圧]で蹂躙。

 薙ぎ払われてた使い魔が突如として堅くなり、困惑するゴブリンを一気に叩いた。

 そしてドロップする[ゴブリンの核]×2と[ゴブリンメイジの核]。最高の臨時収入となった。

 いやしかし、本当にゴブリンの群れは強かった。

 ただのゴブリンですら、距離が有れば吹き矢で攻撃してくるし、アーチャーはクロスボウとショートボウを使い分け、濃密な弾幕を形成、メイジに至っては<ファイアーオーブ>と<アイススピア>を撃ってくるのだ。

 豚は瞬殺されるわ、巻き添えで俺も大ダメージを受けるわで、[生への執着]発動までは本気でヤバかった。


 森での採取を終え、他の場所で採取がてら、現在の[ゴブリンの核]の相場をチェック。

 幾ら森の難易度が上がったとはいえ、以前とは取り巻く環境が違う。

 流石に価値は下がっているだろうと思ったが、寧ろ上がっていた。

 どうも、オールラウンダーを是とするカンパニーが、全メンバーに[召喚]を強制し、ゴブリンの複数同時召喚を全員でやろうとしか結果。買い占めを行い、何故か矢鱈と反発に遭い、買い占め合戦に発展して相場が上がってるようだ。

 そんな経緯で、以前は1個30万程だった[ゴブリンの核]は、100万程まで上がっていた。

 まあ、暫くは死蔵しておこう。核自体のコストは10しかないしね。

 周辺の資源を取り尽くしたので、戦闘をメインに行動を移した。


 やって来たのは墓地。丁度巡回が始まったからだ。

 ギルが俺に矢鱈と嫌味を言ってくる以外特に問題無く終了した。

 そして解散時、やっくんとモンドが、そろそろ超級試験に挑めそうだと言い、俺とギルに協力を願い出てきたので、快く引き受けた。

 既にウィル達にも頼んでいて、俺とギルで16人の目途が立ったそうだ。

 ただ、再誕後で少々ステータスに問題が有るので、条件を満たした時点で、心許なければ待ってもらうか辞退するかも。とは言っておいた。

 さて、こうしてはいられないな、急いで金を稼がねば。

 取り急ぎ効率化の為、二回転生しLvを100まで上げておく。

 因子は数を補う為、[酪農家]と[養鶏家]を取得した。これ使い魔を13体も増やせる。

 スキルも<血の眷属>をLv110。<マウス1号>~4号、<牛><山羊><鶏>をLv50で取得した。

 [生命]は大雑把にだが、17万になり、[生への執着]ラインが3万弱まで引き上げられた。

 パラメータも未覚醒は3000、二回覚醒済みの[幸運]は9000となった。


「なんだか久々に[バグスター]に来た気がするな」

 実際久しぶりだが、目的が無かったからな。

 今回ここを訪れたのは、入り口が崩壊して埋まってる残りのダンジョン三つ。これを見てみたかったからだ。

 最近これらを順に潰す動きが活発化し、現在東のダンジョンの出入り口を復旧してるそうだ。

 そりゃ、いつまた地下から蟲が這い出て来るかびくびくするのは気に良くないだろう。

 でも藪蛇にならんかねぇ…。現地に向かいながら思う。

 うん!!なんとなく予想してたが、現場は大盛り上がり。雑に開かれた大穴から、次々へと巨大な蟻が湧き出している。

 見てるだけなのもなんだし、軽い気持ちで参戦したが…。

「!?噓でしょ!?なんでこんなに強いんだ!?」

 幾ら以前より弱体化してるとはいえ、あまりに蟲の攻撃が強くて堅い。

 周りには味方が大勢いるから、倒す事自体は可能だが、明らかにおかしい強さだ。

 それとなく情報を集めると。偶々下層の個体が上に上がって来た、という事では無く、上層に跋扈する蟲が既にこのクラスの強さらしい。

 成程ね。これはダンジョンを制覇する度に、残りのダンジョンが強化される流れだな。

 それにしてもこの強化具合はマズイ。

 1体の蟻を倒すのに、全使い魔が群がって十秒も掛かるって…。

 難度が以前のままだったら、今のステータスなら上層の蟲なんて、一度に10匹位余裕で相手どれるのに…。

 でもそれ以上に凄いのが、そんなダンジョンが既に中層辺りまで人が入ってる事だ。

 勿論敵の抵抗が激しい分、こうして地上まで押し返されてるわけだが、もうすでに再突撃の準備が整い、続々と戦闘員が潜っていく。

 敵が強くなった分、味方もどんどん強化されてる様だ。

 今後はダンジョンを巡って、激しい攻防が繰り広げられるかもしれない。


 少々効率が悪そうなので、[バグスター]を離れフォレストへ。

 激戦地は避け、薬草でも集めようかな、と[フォレスト]にやって来た。

 以前の様な砂嵐は止んでおり、薄暗い森に戻っていた。

 トレントを探して、ホーム周辺を散策。なんか全然敵が居ないんだが。

 ホームに戻り、情報を収集し、答えに辿り着く。

「何々?『薬草不足により、ポーションが貴重になっています。トレントを狩り薬草を供給してください』とな」

 どうやら、薬草の入手先として、乱獲されている様だ。

 こうなると、此処に居てもしょうがないので、[アース]にでも戻るか。


 PAに戻り、素材を預けて[エルフィン]に向かう。

 そして、ソロで因縁のワームにリベンジを仕掛ける。

 そして問題無く撃破。使い魔は状態異常に耐え、数で押し切った。

 一先ずの手応えを感じ、渓谷付近で予行演習を行う。

 この間よりは能力も上がってるので、少し近づいてみる。

 渓谷の底へ降りる、緩やかな坂が視界に入る。

 そこから飛び出して来たジャッカロープの角違い…と言うか所謂ホーンラビット的な兎。

 そいつが数匹のジャッカロープを引き連れ襲って来た。

「やんのかコラッ!!」

 と始まった戦闘だが、んまあ大激戦だ。

 通常のジャッカロープも相当に強いのに、一角ジャッカロープはその小ささに、超級試験の最終ウェーブのゾンビクラスのタフさを誇るので、兎に角堅い。

 しかも攻撃力も馬鹿げていて、豚の判定、手の拘束、麻痺光線を掻い潜られ、角の一撃を食らったら、17万あるLPが10万弱まで減ってしまった。

 通常のジャッカロープの一撃が2万強なので、3倍は下らない強さだ。

「糞!!見た目は超愛らしいのにっ!!」

 流石にペット用の兎みたいな柔らか印象はないが、それでも可愛い見た目なのに…。

 ただの雑魚戦がとんだ激戦になって大変だが、ガチ戦法に切り替える。

 ドッペルを発動し、<鍬の一振り>で守りを固め物量で押しつぶした。

 此処まですれば、向こうの攻撃が俺に届く事は無いので、最後は見守るだけだった。

 いや、それにしても手を抜くと危険な、神経の磨り減る戦闘だった。


「やっぱ今のステータスだと、毎戦が七〇雄の心算でいないとダメだな」

 気を引き締め、渓谷の周囲を練り歩く。

 突然傍に居た豚が姿を消す。そして渓谷から聞こえる豚の悲鳴。

「うわぁ…」

 敵に…しかも一方的に不利な地形に理不尽に連れ去られる能力。敵に使われて、改めて心臓に悪い能力だと思う。

 しかも悪魔の手が群れで居たのか、次々へと吸い寄せられる使い魔。

 そして遂に俺自身も吸い寄せられてしまった。

 行き先は…幸い渓谷の上層部で、十分戻れる距離だったのは幸いだ。

 とはいえ、予断を許さないどころか危機的状況なので、急いで[ドッペルゲンガー]に<鍬の一振り>を使い、守りを固める。

 俺を掴んだ悪魔の手は、デバフの嵐と[ガーディアン]の攻撃で処理。

 直ぐ様ドッペルを捨て駒に、渓谷からの脱出を試みる。

 だが運が悪い事に、スティンガーの群れが追いかけて来る。

 ドッペルが一瞬だが[生への執着]と<不死の眷属>を発動させ、敵の波を抑えるが、僅かな抵抗を最後に消滅。使い魔用のSTA確保の為、徒歩で逃走する。

 [速度]が3000の現在、俺の移動速度はデフォルトの3.1倍。それでも余裕で追い縋って来るスティンガーの群れ。

 何とか振り切り、渓谷を脱出したが、本気で怖かった。

 何とか高級素材のロストを回避でき、ホームに帰還した。


 翌日。

「昨日は酷い目に遭ったぜ…」

 チョット今のままだと、事故死がありありと想像できるので、モンスターバレーは控える事に。

「あら、テツさん。丁度良い所に、山の方で鹿が大量発生したので、追い払うのに協力してくださいな」

 何処に行こうか思案してる俺に、シーラが応援要請をしてきた。

 求めに応じ、山にくると、力強く根付いた木々が葉を茂らせ、一層山らしくなっていた。

「取り敢えず追い払えさえすれば良いので、適当に痛めつけて回りましょう」

 何気に酷い扱いだが、鹿は増え過ぎると。食害が時には災害を引き起こす程の害獣だ。

 今はまだ、肉食と草食のバランスが取れてないので、鹿も生かしたまま追い払う。

 麓から徐々に上に追い込みを掛ける。

 山の上層には、いつの間にか住み着いた大型の魔獣が居るので、鹿の間引きはそいつらに任せる。

「この位で良いでしょう。戻りましょう」

 シーラがもう十分だというので、切り上げ帰還した。


「今度は何処に行こうか…」

 あれこれ考えたが、金稼ぎをしつつ、今後の経験を考えると、結局渓谷に行く事に。

 今度は悪魔の手が、死角から引き寄せて来る事を念頭に、立ち回る。

 折角(デコイ)系の使い魔が沢山居るんだ。有効利用しないとな。

 渓谷に着き、使い魔を引き寄せセンサーにしながら、マッピングを行う。

「コケ―ッ!!」

 早速範囲内に入った鶏が、引き寄せを食らう。

 ジャッカロープやスティンガーを捌きつつ、悪魔の手のおおよその位置を割り出す。

 安全策で、渓谷から一定距離をお掃除し、いざ悪魔の手退治に移行。

 慎重に使い魔を捕獲させ、敵の数を予測。大体6~8体の悪魔の手が居る様だ。

「いっくぞー!!」

 タイミングを計り、一気に予想地点へ飛び込む。

 想像通り、渓谷入り口の坂を下って、直ぐの曲がり角先に、群れを成している悪魔の手。

 慎重に捜索と釣り出しをした甲斐あって、他の敵は存在せず、首尾通り一気に殲滅できた。

 そして、その直後に別の悪魔の手の群れに引き寄せられ、地獄を見る羽目に。

 …何とか死を避ける事が出来、ホームに帰還できた。…危なかった…。


「そうだよな…いくら慎重に索敵したって、群れの先の群れまでは現状では察知できんしなぁ~。やっぱ奇襲不意打ちを前提に、ゴリ押しが効く位に強くならんと、先に居るアンデッドの浄化なんて無理だな」

 しかも、あんなに恐ろしい渓谷ですら、今の[エルフィン]の中では、中間ぐらいの危険度。その上層であのざまじゃねぇ…。

 ちなみに、最も危険とされるのが、[エルフィン]のかつての首都、惑星と同じ名を冠する廃都エルフィン。もう一つは、エルフィン防衛軍基地だという。

 理由は簡単。双方ともハイエルフのエリート層のアンデッドが跋扈する魔境で、現在は厳重に封印されているので、中からアンデッドが出て来る事はないそうだ。

 この二つは、ハイエルフ屈指の実力者のローレンスさんをもってして「…二度と行きたくないね…」との事だ。

 さて、やはりと言うか、地力が足りて無い現状。Lv上げこそが近道という事で、比較的安全な区域で魔獣の間引きを行う。

 ぶっちゃけた話。現状[エルフィン]産の素材はほぼ独占状態だから、無理に強力な魔獣を狩らなくても、十分な収入になる。

 なので、取り敢えずはホームから散歩感覚で、襲ってくる魔獣を探す。


 大分要塞感が出てきたホームから少し離れて、漸く蝸牛の魔獣と遭遇。

 どうもカルシウムが欲しいのか、[ガーディアン]を狙う蝸牛。

 当然一度も接触できずに駆逐されてしまった。素材美味しいです。

「それにしても随分と敵が減ったな」

 最初に比べ、魔獣が水源や山に集中し、荒れた平野での遭遇率が下がっている。

 このまま当ても無く彷徨ていても、獲物に出会えないので、一度ホームに戻る。

「あらテツさん。どうなさいました?」

 何やら巨大な煙突の付いた窯に、水を注いでるシーラに声を掛ける。

「何してるんだ?これ」

「取り敢えず、急を要する場所に水を溜めたので、今は水を水蒸気にして湿度を上げてます」

 シーラ曰く、[エルフィン]は元々やや気温の高い恒温多湿で、乾燥地で育てる作物は少なかったので、今から元の水準に戻すべく、地道に湿度を上げるとの事だ。

「随分と気の遠くなる作業だな…」

「そうですね。少なくとも一年は掛かりますね」

 一年…現実時間で三か月か…寧ろ異様な程早いか。

「それで…何か用が有ったのでは?」

「ああ、縄張りの視察に行くから、修理ロボットを貸して欲しい」

「縄張りって…まあ近い内にそういう認識には成りますけど」

 なるんだ…。

 シーラから修理ロボを受け取り、造水装置を¥のメンテに向かった。


「あらあら…随分とまあ荒れ果てて…」

 早速やって来た一番近い水源。いつの間にか最初の様な荒れたクレーターに戻っていた。

「んで僅かに残った水溜まりを、馬や牛が占拠、と…」

 こいつ等は、温厚な魔獣だし、将来的には家畜化も視野に入るので、あまり数を減らしたくないが…。

 だが、こいつ等自身に必要な環境を、こいつ等自身で破壊してるのを見ると、このまま生かしたままメンテするのはなんか癪だな…。

 そう思って畜生共を眺めていると。

「ん?」

 なんか俺の考えが伝わったのか、此方を伺いながら水溜まりから離れ、俺と造水装置を交互に見る畜生たち。

「…まあ良いけどね」

 すんげー汚くなった水に入り、装置にヤモリロボを取り付けた。

 数分後、装置が回復し、減った水を補おうと轟音が響き渡る。

 更に数分後。何故か一緒に防衛戦に参加した馬や牛たちと造水装置を守り切り、十分な水を確保できた。

 この際だから、シーラについでにと持たされた苗木を植え、また防衛戦…かと思ったが、群がって来た鹿を馬と牛が押し止め、苗木を喰うのを止めさせた。

 どうやら住処を守るための我慢などを学習したみたいだ。

 そんな一段と賢くなった魔獣を残し、次の水源へ向かった。


 あれから幾つもの水源に向かったが、結論から言えば、全ヶ所が荒らされていた。

 乗りかかった船なので、仕方なしに全ての場所で同じことをした。

 面白かったのが、場所によって展開が違い、狼が草食魔獣から、水源と苗木を守る手伝いをしてくれる場所も有り、様々なドラマを見せてくれた。

 思えば最初の水源。あれも馬と牛は被害者で、鹿が木を喰いつくし、造水装置を壊した犯人かもしれないな。なんか馬と牛の鹿への態度が随分と険悪だったからな。

 当然逆のパターンで、鹿が水場を際限なく汚す馬と牛にキレて、襲い掛かってる場所が有ったからこその想像だがな。

 場所ごとに資源をしっかり管理しようとする魔獣と、食いつぶす魔獣に別れてて、中々に面白かった。

「さて、一通りメンテも済んだし帰るか」


「って感じで、魔獣は資源を食いつぶす一方だったよ」

 シーラに、経緯を伝える。

「そうですか。水に関して言えば、何れは雨が降るので、時間が解決しますが…植物はもっと積極介入するべきですね」

 そして数舜思案してみせた後、こう切り出して来た。

「テツさん。確か農業にも明るかったですよね?」

「いや?」

 妙に良い笑顔で聞いてくるので、取り敢えず否定しておいた。

「これは過酷な環境でも育つ牧草の種です。これを手当たり次第に作付けして貰えますか?」

 否定はスルーされ、質問系で聞いて来たくせに、インベントリにねじ込まれる牧草の種。

「もし請け負ってくれたら、希少な種や苗を進呈致しますよ」

「良し受けよう!!」

「そう来なくては!!では開墾を一時の幻で終わらさぬ為に…コレを使って下さい」

 [開拓用の鍬]:この鍬で許可された場所を開墾すると、その場所は永久的に畑になる。 コスト0。

 ほほう。これを使えばプレイヤーでも永続する畑を作れるのか。

「じゃあ後で慣らし運転してくるわ」

 取り敢えず休憩を挟む事に。


「やるか」

 休憩後ホームから出て、外壁沿いに畑を拵え、種を蒔いていく。

 [ドッペルゲンガー]と<鍬の一振り>を駆使し、耕作地を拡大。

 これを繰り返してると、最初に種を蒔いた部分から発芽し、立派な牧草が発生した。

 時間差でどんどん増える牧草。拡充する耕作地。

 およそ三十分で、ホームの外周一周分が畑になり、牧草地が出来上がった。

 そこにマサが変な斧を持って登場。

「ご苦労さん。テツはそのまま開墾を継続。俺はこの斧で食害を防ぐわ」

 なんでも、マサが持たされたのは[解らせアクス]という、強力な電流が流れる斧で、魔獣を追い返す様に言われたらしい。

 確かにビリビリで、害獣を追い返したり防ぐ鉄線とかあるから、有効だろうな。

 2人でパーティーを組み、更に外周を耕作地へと開墾していった。

 美味しいそうな牧草を求め、馬に牛が近寄って来るが、マサに追い払われ涙目で逃走する草食魔獣達。

 ちょっと可哀想だが、これも後の事を考えての措置だ。恨むなよ?

 暫く作業を続けると、最早マサ1人でカバーしきれない程の規模になり、魔獣もてんこ盛りで襲来。徐々に畑が荒らされ始め…。

「ダメだ!!もう抑えきれない!!」

 マサがギブアップ宣言をする羽目になるレベルで、大群が押し寄せ草を食む。

 どうすんだコレ?と思ってたら、こっそりとホームから出てきたシーラが、猛ダッシュで外周を一周し何かを仕込む。

 そして仕込みが完了し、何かを発動すると、外壁の周りに更なる防柵が出現した。

「これで一網打尽です。さあ、この子たちを家畜にしてしまいましょう」

 そう言い、俺とマサに、スタンロッドを渡し、首輪をかなりの数持たされた。

「多分分かってると思いますが一応。その棒で麻痺させて、首輪を嵌めて下さい」

 想像通りの使い道だったので、言われるがまま魔獣を家畜にしていく。

「家畜とは言っても、食べるのはまだまだ先ですね。これは食害を防ぐのと、食物連鎖構築のための、一時保護です。折を見て野に放すので、ご安心を」

 何が安心なのか分からんが、まあ暫くは大規模な食害は無さそうだな。


 魔獣の捕獲後、仲間の何人かがインしてきて、作業を手伝ってくれる。

 かなりの数の草食魔獣を除去したので、摘まみ食い目当ての襲撃は減った。

 その代わり、ホーム内に押し込んだ魔獣の匂いや気配に釣られてか、肉食の魔獣が襲撃を掛けて来るようになった。

 シーラ曰く、軽く捻って逃げる個体は見逃し、なお襲ってくる個体は倒して良いそうだ。

 先程より条件が楽になった事で、マサが生き生きと魔獣と戦っている。

 サーモンは、早速ゴブリンを2体運用している。

 さっき俺が[ゴブリンの核]を2個譲ったからだ。

 ちなみに値段は友情価格で1個30万。今の相場からしたら大分安い方だ。

 そんなサーモンのゴブリン。変わった盾を装備していた。

「ショートソードに…吹き矢を仕込んだ盾か!」

 近距離は剣で、中距離は吹き矢で応戦する様で、器用に戦っている。

「まだ装備も強化も足りて無いけどな。でもコストの関係上ここ等が妥協点かもしれん」

 結局は自身に掛けるコストを削るか、という永遠の課題が有るので、正解は人ぞれぞれだろうな。

 サーモンとしては、ゴブリンは奇襲防止の汎用枠。オークやコボルドは強敵用として、運用している。

 最近、自力で2体目のオークの従魔化に成功し、増々戦力が向上したが「コストがマジで足らん!!」と贅沢な愚痴を零していた。

 うん、従魔は個体のスペックが使い魔より相当高いし、ある程度連携も取れるから、使い魔とはまた違った強さが有るな。


「ん?何を取り付けてるんだ?」

 作業中、シーラが外壁に何かを取り付けている。

「え?ああ…これからそこの柵の内側で、草食魔獣の放し飼いをするので、肉食魔獣除けのタレットを取り付けてます」

 除けどころか駆除になりそうなんですが…。

「ああ、大丈夫ですよ。弾丸は軽量ゴム弾を使うので、死ぬほど痛いだけで致命傷は負いませんよ」

 うん。

「この柵って、その為でもあったのね」

 てっきり魔獣捕獲用だと思ってた柵が、何時までも残ってたんで不思議に思ってたんだ。

 既に柵の内側は牧草地帯と化し、その外側を耕しながらシーラのタレット設置を眺めた。

 そんな感じで、[エルフィン]は順調に発展している。


 夜。

 二週間後に行われるアップデートの告知がされた。

 内容は[エルフィン]の実装と転生回数の上限解放だ。

 まあ両方共順当な内容なので、特に掘り下げはしない。

 精々アプデまで、独占素材で稼がせてもらおうか。

 そう言えば、折角セカンダリライセンスなんて導入されたんだから、何か取得したいんだが…ピンとくるものが無いんだよな。

 どこかに都合よく、使い魔を強化するライセンスでもあれば良いんだが。

 今の所、調べても存在が確認できないんだよな。ありそうなんだが。

 …ふと、ハイエルフ達に聞いてみるのも手だと思いついた。

 あれだけ魔術科学に精通してるのだ。ライセンスにも詳しいかもしれない。

 早速、ホームの防壁上にセントリーガンを設置してる、シーラに声を掛けた。

「え?使い魔に良いライセンスですか?ありますよ『ファミリアコーザー』や『作戦参謀』に『使い魔認定員』等が」

「…思ってたよりあっさりと情報が手に入った…でも何処に行けばいいんだ?」

「ああ…伝手が無いんですね。では父か祖父に頼んで下さい。紹介状を書いてもらえるでしょうから」

 シーラに礼を言い、ローレンスに突撃。紹介状をお願いする。

「フム。使い魔のライセンスか…確かに君に会ってるだろうが、選択肢は多い方が良いだろう」

 そう言い、何やらブツブツと呟きながら、端末を弄り。

「取り急ぎだが、君の適性に合いそうなライセンスの紹介状をしたためた。それを[アース]の教会で見せれば、変わったライセンスを見せて貰えるだろう」

 という事なので礼を言い、[アース]のホームへと向かった。


「こんにちは、紹介状の提示はこちらで良いですか?」

 受付嬢に挨拶し、ローレンスの紹介状をチラッと見せる。

「えーっと…ライセンスの紹介状ですね。では係の者をお呼びしますので、少々お待ちを」

 数十秒後、やって来た係員に連れられ、ライセンス管理局という部署に案内された。

「ではこちらでお待ちください」

 そう言い、案内は去っていったので、部屋で待機する事数十秒。

「どうもこんにちは。紹介状をお持ちとか」

 メニューを開き、紹介状をタップすると、紹介状が投影された。

「ほうほう…ハイエルフの方の紹介状ですか!!」

 良く解らないが、第一印象はすこぶる良い様だ。

「ご安心下さい。この紹介状は水を司る一族の方の物…単にハイエルフの紹介状というだけでは、信用足り得ませんが、この紹介状は大丈夫ですよ」

 どうやら、ハイエルフのゴタゴタも分かってる様だ。

「では内容を拝見しますね」

 担当員が紹介状の項目の隅々まで目を通す。

「把握しました。成程…『ジャックオーランタン』の超級持ちの方ですか。確かに普通のライセンスでは、物足りなさを感じるでしょうね。分かりました。こちらをどうぞ」

 と複数のライセンスに関する資料を提示され、それらに目を通す。

「『マタギ』『案山子職人』『肥育農家』『遊休農地コンサルティング』『群衆煽動者』…凄いな、まだこんなにライセンスってあったんだな」

 他にもまだまだ有るし、シーラに聞いたものも当然載っている。

 ぱっと見どれも効果が想像できないので、気になったものを聞いてみると。

 先ず『案山子職人』だが、自分で耕した田畑に案山子が設置される様だ。

 ライセンスのランクと共に、案山子も強化され、戦闘に参加する様に成るのだとか。そうなれば畑が防御だけでなく、攻撃にもなるから、中々便利だと思う。

 次は『遊休農地コンサルティング』だ。

 こいつは説明を聞いてもハッキリしなかったが、どうも畑の余白に何かがランダムで設置されたり栽培されたりするらしい。

 ざっくりいえば、土地を100%使い切る為のライセンスという事だ。

 うん。分からん。ただ数少ない情報では、柵が発生する事も有ったり、案山子が設置されることも有ったり、雑穀が栽培される場合も有ったりと、バラエティに富んだ現象が起こる様だ。

 他にも幾つかの説明を聞き、悩んだ末に選んだのが。

「良し『案山子職人』にしよう」

 使い魔系も良かったが、現状から劇的に強くなるようなものが無かったので、影響力が現状の選択肢の中で最大と思われる、『案山子職人』を取得する事にした。

「宜しいのですね?では紹介状を用意するので、後は其方で上手くやってください」

 教会を後にし、工業地区へ向かった。


「ごめんください」

 俺の案山子に対する想像を裏切る、【防犯防衛設備販売製造所】という、物騒な場所に辿り着いた。

「おう、客人か。まあ中に入れや」

「失礼します」

 取り敢えず招き入れに従いお邪魔する。

 これまでの経緯を説明し、紹介状を提示する。

「分かった。素性に問題もねえし適正も十分だな。じゃあ軽く研修をするぞ」

 そう言い、工場の裏手の中庭に連れてかれ、案山子の基礎知識を叩き込まれる。

 そして言われるがまま、畑を拵えると、木の支柱に服や帽子を被せた、簡素な案山子が設置された。

 何で知識を得て、こんな現象が起こるかは、謎だがまあ良いでしょう。

「おう、いいじゃねえか…ってなんだこの柵は!?」

「ああ、そういう能力を持ってるんで」

 拵えた畑を、ボロボロとはいえ四方を囲む柵に困惑するおっさん。

「こんな反則じみた能力を持ってして、更に畑の性能向上を図るのか…まあ良いか。じゃあちょっくらテストすんぞ!!」

 すると担当のおっさんが、ハンマーを取り出し、案山子を力いっぱいスイング。

 当然案山子はぼっきりと折れて消滅した。

「ほー…現時点でこの堅さか…まあいい、取り敢えずお前さんは『案山子職人』見習いだ。昇級は他と同じ試験方式だが、場所はここでやる。条件は案山子に依る十分な戦闘データの収集だ。ソフトはインストールしてやるから、条件を満たしたらまた来てくれ」

 という事で、無事『案山子職人』のライセンスを目指す事が出来る様になった。


 ライセンスの枠も埋まり、取り敢えずプロを目指す為に戦闘を、と考えてたら巡回の時間が来たので、墓地に向かう。

「あらテツさん…じゃなかった。盗撮者さんこんにちは」

 会って早々フックを放ってくるギル。

「いえいえミーネさん。盗撮者だなんてそんな」

 取り敢えず俺もジャブで返しておく。

 まあこれ以上は不毛なので、ここまでにしておこう。

「ネタはさておき今日の予定は?」

「あの、テツさんちゃんと反省してます?まあ良いです。今日は念入りに回りますよ」

 後でウィル達も回るそうで、先に俺とギルで回る事にした。

 道中<鍬の一振り>を発動し、畑に案山子が生えてる事に困惑するギル。

「またなんと言うか…」

 そんなギルの困惑を余所に、アンデッドの大群が畑によって塞き止められてる光景に、増々複雑そうな表情を見せるギル。

 柵、案山子、作物、畑と四段構えの防護に守られ、悠々と攻撃を加える俺ら。

 見た感じ、案山子は柵より少し柔い程度で、タダで畑に生えてくる割には堅く、昇級すれば性能も上がるので、将来性は抜群だろう。

 そんな感じで、圧倒的な防御力で巡回は無事に終わった。

 しかも大量のアンデッドを相手にした事で、一回の巡回でプロへの受験資格を満たしてしまった。


「さっき振りです。プロになりに来ました」

「流石に早すぎだろ…」

 おっさんに呆れられつつ、試験を受ける事に。

「内容は簡単。野犬や野鳥を捌きながら、多くの作物を収穫すれば合格だ」

 工場内からヴァーチャル空間に跳び、試験が始まった。

 そして十数分で終了した。

 [幸運]の補正で作物の収穫量が増えてるので、シンボル4つ分程の収穫で合格した。

「ぬー…なんか釈然としない!!」

 まあ、サービス初期からのユーザーは、皆こんな感じだろうな。

 今更どんなライセンスに挑もうが、プロ昇級程度で躓くわけがない。

 さて、そんなプロに昇級した俺の『案山子職人』はどう変化したのかな?

 早速裏庭を借りて試してみる。

「おお!!案山子が2体に増えてるじゃねーか!!」

 強度の方は試したところ、残念ながら上がってなかった。

 なんとなく、セカンダリライセンスのデメリットだろうと理解する。

 尤も、これはプライマリで『案山子職人』を取った人と比較しないと判らんがな。

 いい感じの力も手に入れたし、今日はこれでお開きにするか。


「良し、今日もやってくか」

 セカンダリライセンスの昇級という、新たな目的が出来たので、金稼ぎと平行して熟練度稼ぎもしなくてはならない。

 おっさんに聞いたところ。熟練度は敵が強い程良いそうなので、金策的にも難度的にも丁度いい[エルフィン]に向かう。

 ホームから出て、牧草地帯の様子を見る。…なんかすんごい荒れている。

「この短期間で何があった!?」

 開墾時にオマケで付いて来る柵は崩壊し、地面剥き出しの無数の畑。

 外壁のタレットも壁上のセントリーガンも煙を吹いている。

 流石にこれを無視して渓谷には行けない。

 事情を聞くために人を探すと、北側の外壁のタレットをせっせと修理するシーラを発見。

「あらテツさん。魔獣の群れにまんまとやられましたよ」

 どうも少し前に、大量の肉食魔獣が草食魔獣の匂いに釣られ、ホームに押し寄せて来たようだ。

 幸いマサやベッタラやサーモン。ラーク達トリオ等が居合わせ、ハイエルフ一家も揃い踏みだったお陰で、タレット類がゴム弾の豆鉄砲でも、人的被害は皆無だったそうだ。

 まあ諸々の被害は先程この目で見たので把握済みだ。

 ただ。結構深刻そうな被害にも関わらず、シーラはホクホク顔だった。

「この程度の被害で、山の様な魔獣の素材が手に入ったのです。黒字も黒字。超荒利ですよ、フフフ…」

 どうやら特大の利益を叩き出した様で、さっきからテンションが高い。

「まあ良かった…畑は修復しとけばいいのか?」

「お願いします。はい牧草の種です」

 んじゃまあ一丁復旧してくるか。


 破壊された畑を再び耕し、新品の畑に蘇らせる。

 柵に加え、2体の案山子も設置され、相当に防御力が上がった。

 修復は部分的になので、襲撃を持ち堪えた畑と作り直したした畑との防御力格差が酷いな。

 まあ仕方ないな。と無防備な畑をスルーしようとしたら。

「これは[修復の鍬]と言います。効果は短時間で痛んだ畑を修復するという物です」

 背後から笑顔で、サムズアップと共にこんな道具を渡されたら、スルー不可避。

 めんどいけど仕方無く、柵が壊れた畑に鍬を入れる。

 するとスキルの効果もあるだろうが、たったの数回で柵が復活し、畑の状態も元に戻った…どころか案山子もしっかりと2体生えてきた。

 成程。鍬を入れる度に耐久度を回復させる上に、付加効果もしっかりと適応されるのか。

 なので、畑の状態で鍬を入れる回数が結構違い、柵が一ヶ所壊れただけの畑なら、一回で修復が完了したので、修復だけなら思ってたより短時間で終了した。

 これ良いな。この効果を普通の鍬に持たせられれば、開墾は<鍬の一振り>だけで行い、再使用可能までは修復に専念って事も出来るな。


「終わったよ」

「ご苦労様です」

 牧草地帯の復旧が終わり、シーラに鍬を返却。思ったらそのまま持っているように言われた。

「じゃあ有難く預かっておくよ。ところでこの修復機能、普通の鍬にも付けれるかな?」

「勿論出来ますよ。但し、費用は鍬の基本性能とOP数に比例して青天井に上がりますが」

「oh…具体的には?」

「テツさんが普段愛用している鍬でしたらそうですね…100万程ですかね」

「確かに中々に高いな」

「ええ、なんせ範囲拡大が付いていれば、その分修復も広範囲に及びますからね。使い方次第では武器を持って戦うより有効かもしれませんね」

 戦場のど真ん中で、柵付き案山子付き高耐久力の畑を修復しながら維持する自分を想像し、思わず顔がにやける。是非ともやってみたくなった。

「うん。ちょっと鍬も良い物を探してみよう」

 また目標が一つ増えたな。

 さて、折角なので牧草地帯を広げておくか。


 暫く無心で鍬を振るい続け、新たにホーム二周分の畑を開墾。

 ふと気付くと新たに柵の囲いが出来ており、柵の内側に魔獣が放されていた。

 しれっと俺の後を付け、柵を用意していたシーラに聞く。

「流石にいつまでもホーム内に保護するのは無理がありますから。後はこの子たち次第ですね。ここに残るか野に帰るか」

 見たところ、柵は歩行者用に途切れ途切れだし、魔獣なら無理なく飛び越えられる程度の高さに収まっていた。

 なんか漸く自然保護っぽい事を始めたな。

 俺としても、作業中適度に肉食魔獣が攻めて来るので、『案山子職人』の熟練度も稼げるし、牧草地拡充で小遣いも稼げるので、延々と開墾作業を続けた。


 三日後。

 ホームの周辺が牧草地になるのが楽しくなってきて、夢中で開墾する事三日。

 とうとう一番近い水源まで牧草地が届いてしまった。

 ふと冷静になって、ホーム内とホーム外からの景色を見る。

 うん。超広範囲に展開された牧草地に、無数に設置されたぼろい柵と案山子。その中心地にぽつんと異様な存在感を放つ要塞規模のホーム。

 いや、いくらなんでもこれは無いな。自然との共存というか自然に呑まれてるよ。

 だが我に返った俺の困惑を余所に、ハイエルフ一家は大満足の様子だった。

 寧ろ全ての水源を巻き込むまで開墾しろと、膨大な牧草の種を押し付けられた。

 一体彼らは何を目指してるんだ?と思うがクライアントの希望なら応える他あるまい。

 このままホーム周辺を魔獣の楽園に変えて見せよう。

 というわけで、本日も開墾をやっていこう。

 相変わらず馬と牛が仕切った様子の水源を超え、円を描くように畑を耕す。

 途中何故か、この近辺に居ない筈のアースドラゴンに襲われた。

 奴の突進を柵と案山子で塞き止め、丁度クールタイムが終わった<鍬の一振り>を発動。

 奴の下に畑が出現し、柵と案山子に突き上げられ、宙に浮いたアースドラゴンが非常にシュールだったが、お陰で下にも使い魔が入り込み、周囲360度のみならず上と下も囲まれたアースドラゴンは、十秒経たずして消滅した。

 なんか本来の恩恵とは違う気がするが、相手の足場を崩す意味でも案山子は良い仕事をしてくれた。

 そんな上り調子のまま、終日開墾をし続けた。


 翌早朝。

 流石に開墾も飽きたので、出勤前の亜紀と授業前の美雪とログイン。

 ベルとラーク達トリオも居たので、7人でパーティーを組んで渓谷へ向かった。

「今ここの攻略を視野に頑張ってるんだが、皆は此処の情報は?」

「あれでしょ?悪魔の手がビッシリの場所でしょ?」

 ユキが簡潔に答える。他の皆も既知のようだ。

 皆一度は訪れている様で、事前知識は問題なさそうだ。

 悪魔の手をサーチしながら、谷底への入口へ近づく。

 お馴染みのジャッカロープが襲ってくるが、<ゴーレム使い>が引き寄せる以外を、ラーク達が盾で押し返し個別撃破で殲滅できた。

「なんか<シールドバッシュ>がえらく強力になったな」

「ええ、俺達はハンニバルさんに戦闘訓練をして貰って、[盾剣の極意]というアビリティを取得しました」

 聞くところによると、盾と直剣を使った諸々のスキルなどの特殊攻撃が強化されるアビリティで、かなり強力な効果みたいだ。

「情報の貰いっぱなしも悪いから、俺の新たな力も見せよう」

 丁度良い所にスティンガーが群れで襲って来たので、<鍬の一振り>を発動。

「どうだ?畑一つ一つに案山子が2体も生えるんだぜ」

『…』

 あれ?思ってたより反応が少ない…

「…なんというか…流石テツさんですね…」

 漸く口を開いたベルの第一声がこれ。

「ここに来ての更なる防御面の強化ですか…しかもかなり斜め上な現象で…」

「最早ちょっとした集落の畑ですね…」

「そして案の定案山子が堅い!!」

 トリオも再起動し、それぞれの所見を述べる。中々の評価具合かな?

「これは良いわね、柵と併用すれば弾除けにピッタリだわ」

「そうね。身を隠しながら射撃戦にも使えるわ」

 ユキは対飛び道具。アコはアーチャーの目線での評価をした。

 そんな柵付き案山子付き高耐久畑はスティンガーを大いに妨害。何もしなくても勝手に分断出来るので、各個撃破で楽々殲滅できた。

 流石に7人も居て、それぞれのLvも上がってきてるので、上層位なら散策できそうだ。


 さて、味方の戦力もそれなりに有るので、渓谷に足を踏み入れる。

 さっきのジャッカロープ、スティンガー戦で食料は十分確保したので、[ドッペルゲンガー]を贅沢にガンガン使用していく。

 悪魔の手の群れを相手にしてる時に、一角ジャッカロープに襲われたが、これはユキの特訓の成果で事なきを得た。

 彼女の得た力は、二種類の魔法だ。

 一つは[旋風]。もう一つは[ダークニンバス]だ。

 先ずこの二つの魔法には共通した特徴があり、それは持続時間が長い事だ。

 [旋風]は小規模な竜巻を一分間発生させ、範囲内の敵に微弱な物理ダメージを与える魔法。

 [ダークニンバス]は闇属性の雨を降らせる雨雲を召喚。効果時間は二分も有り、ダメージはお察しだが、二分間浴び続ければ<アイススピア>の最大ダメージに比肩するレベルだ。

 どちらもダメージはしょぼいが、持続性に優れ、発動も非常に速い。

 しかもリチャージラグは無く、クールタイムもそれぞれの持続時間と同様なので、切れた瞬間再度発動が可能という実にインチキな魔法だ。

 流石ハイエルフ直伝のアビリティ枠の魔法と言ったところか。

 と、まあ手数の増えたユキのお陰で総火力がかなり増し、短時間で敵を殲滅できた。

 更によく見ていると、ユキのLPが徐々にだが回復してるのが見て取れる。

(成程、ギフトは[生命の泉]を取得したのか)

 LPの自動回復も加わり、多少の被弾ならポーション無しでやり過ごせるので継戦能力も上がった様だ。

 そして前にあれだった<岩の体>も、悪魔の手に引き寄せられた時に活躍し、いつぞやの面目躍如出来た事で、一層ドヤ顔をするユキだった。


 入り口付近の激戦を制し、漸く上層に足を踏み入れる。

 先日逃走時に通ってる場所なので、既知の場所では有るが油断はならない。

 少なくともここから少し先までは、片側が谷底まっしぐらとかそういう事も無く、両サイド壁に挟まれた幅広な坂道になっている。

 取り敢えず、以前命辛々逃げ出した場所を目指す。

 何度か敵に遭遇するか、問題無く対処出来ている。

 程なく最高到達点に辿り着き、改めて先に進み始める。

 此処から先は初見なので、仲間に聞くが、皆も同じで情報は皆無だ。

 なので、ここからはアコの新能力の出番だ。

「私が新たに得たのは旗技を強化する[旗の番犬]というアビリティで、旗技を発動した時、触媒の旗の傍にスピッツが出現するわ」

 実際に見てみると、スピッツは近くに敵が居れば吠えて威嚇し、一定範囲内に敵が侵入すると戦闘も行ってくれる。

 まあ強さはそれ程でも無かったが、スキルのオマケで呼べる上に、索敵と迎撃もしてくれるので、曲がり角や状況が分からない場所に、打ち込めば状況把握に役立つ。

 矢に加工した旗は若干高い様だが、得られる結果を考えれば安い。

 こうしてかなりのローコストで、死角の安全確認が可能となった。

 実際曲がり角に悪魔の手が居た様だが、この索敵で事前に危険を察知でき、豚を吸わせてから突撃という戦法がより確実になった。

 やはり、敵の位置や規模が判るかどうかは生存率に影響大だな。

 その後、中層へ向け慎重に慎重を重ね進むが、ジャッカロープが一角の上位種ばかりになり、悪魔の手も数が増え手に負えなくなり撤退した。

 十分な素材も確保できたし、道の部分も散策できたしで満足しておこう。

 ただ、遠目に見えた壁や地面の採掘シンボル。これらの確認が出来なかったのが心残りだな。

 近い内に必ず採掘してやると誓い、ホームに帰還しパーティーを解散した。

 ログアウトして、亜紀は出勤、美雪はお勉強、俺は在宅ワークに移行した。

スキルやらなにやらのアイデアを捻出してる最中なので、

次話の投稿はもしかしたら二週間以上かかるかもしれません。

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