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第十八話

~前回までのあらすじ~

砂漠のダンジョンを制覇し、NPCによる不法投棄が原因の騒動が起こるなど、

激しい状況の変化の中、強烈なデメリットを持つナノマシンとインプラントで

増々癖の強いビルドとなっていくテツだった。

 チェストの整理から数日、アプデの告知がされた。

『DIYオンラインVer1.5のお知らせ』

 と題された告知は、噂通り成長限界の解放だった。

 他にも細かいホットフィックスも有ったが、まあどうでもいいだろう。

 そして本日。アプデが実施され美雪と亜紀とログインした。


 ログインし、挨拶を済ませ、金稼ぎに奔走しつつ情報を集める。

「どうやら十回目の覚醒をしようとすると、アビリティとアイテム以外はリセットされるみたいだわ」

 [フォレスト]で薬草集めをしながら、アコが判明した事を教えてくれた。

「と言うと、また一から…なわけないよわよね、特典は?」

 俺の疑問をユキが代弁してくれる。

「十回目の覚醒をしようとすると、再誕っていう儀式を経て格が上がるらしいわよ」

 再誕ねぇ…転生と似たような意味合いだけど違うのか。

「それで、再誕するとアイテムやアビリティ、変化したスキル等以外はリセットされて、スキルに魔法やCAのLvが110まで解放されるんだって」

「おお~それは嬉しいわね、今までは覚醒の度にLv10までしか上げれなかったから、色々と面倒だったけど、今度は110からなのね。ところで変化したスキルって覚醒での変化も?」

「そのようね、だから今後は覚醒させる因子やパラメータとその必要回数も重要になるわね」

 ふーん、それは確かに嬉しいな。という事は再誕を繰り返すと最大Lv200まで上げれるようになるのかな?

 それに覚醒した因子やパラメータのスキルも引き継ぐなら、[幸運]は絶対入れるべきだな。…まあそれは追々で良いか。

「あと、存在としての格が上がる事で、アビリティより強力な、[ギフト]と呼ばれる能力を授かるらしいわね」

 成程、まあほぼ全ての成長がリセットされるんだから、その位の特典が無いと苦しいわな。


 さて、再誕のメリットを把握し、次は人柱の現状を調べると。

「やっぱり今更Lvアップ時の上昇値が1だったり、因子が一個なのは相当堪えるようね」

 アコ曰く、前線組がかつてない程の弱体化を喰らって(自己責任)阿鼻叫喚状態のようだ。

「でもレベル上げに掛かる費用も戻ってるんだよね?」

「ええ、でも人間一度上を知ると下には戻れないから…」

 確かにキツイな…今更初期の上昇率は…

 …うん、ここは考え方を変えて、ビルドを見つめなおす機会と捉えよう。

 と、いずれ来る大不便時代に恐怖を抱きつつ、ポジティブに構える事にした。


「おうテツ、競売を見てみろ、とんでもない事になってるぞ」

 PAで寛ぎ中のマサが、競売を見る様に促してくる。

「どれどれ…、…、…なんじゃこりゃ!?」

「凄いだろう?リセットってのはこういう事なんだろうな」

 競売を覗くと、そこには数々の超強力な装備やアイテムが、これでもかと大量に出品されていた。

「そうか、チェストの容量もリセット喰らうのか」

 それで抱えきれないアイテムの大量放出が行われている訳ね。

「さっきから凄いぞ?超高価な低コスト品が出品されると、即売が繰り返されていて相場も激しい事になっている」

「初期のチェスト容量ってコスト100分だよな?マジでキツイな…」

 一応、法外な値段を付けて、買われないように一時的に装備を避難させてる人も居る様だが、あまりやり過ぎるとNPCの心証が相当に悪くなる様だ。

「ん?これもしかして稼ぎ時じゃ?」

 さっきから、目まぐるしい勢いで低コスト品が売買されてるのを見て、ふと思いつきでここ最近のチェストの整理の成果を出品してみた。

 ちなみに出品するのはコレだ。

 [蒸留エクストラポーション]:蒸留し濃度を高めた超強力なポーション。LP130%回復 状態異常を二つ回復 オプション:[コスト50%低下] [使用回数+1] [ヒール発動] コスト2.5。

 これをそうだな…一本50万で出してみるか…

 ポチっと出品をタップし、待機しようとしたら。

「あ、売れた…」

「…いくらにしたんだ?」

「50万…」

「DIYの経済が滅茶苦茶だ!」

 最早低コストで、金目の物なら幾らでも売れそうな勢いだ。


 相場変動で大儲けし、更に情報を集めてると。

「テツ君朗報よ、再誕すると資源も元通りになるみたいだわ」

 ユキに教えられ、俺も情報を漁ると、確かに資源の復活サイクルも元通りになったという書き込みを見つけた。

「これは助かるな、これで少しは消耗品の高騰も収まると良いが…」

「今のこの状況でそうなると思う?」

「…暫くは激しい相場になりそうだな…」

 なんせ装備品と違い、基本消耗品はコストが安いからな。今のチェストの容量が100に戻る問題の最中、手放した品々を取り戻すには再誕後の資金調達には、より高価でコストの低い消耗品は必須だ。この状況ではポーション類の価格も暫くは落ち着かないだろう。


 一通り状況を把握し、PAを出てみると。

「おーう、まるで稼働初期の様な賑やかさ」

 目に入るのは、通りを埋め尽くさんばかりのプレイヤーの群れ。

(いつもはもっと高レベル地帯を拠点にしてる層が、デフレでホームに戻ってきてるのか)

 チラッと横に視線を向けると、人でごった返しているギルドの入り口が見える。

(それにしても、全員が全員じゃないだろうけど、かなりの人数がカンストしてたんだな)

 だが、ふとある事に思い至る。

(そういえば、自分のやりたい事の為に、敢えてLvを上げずにいるプレイヤーが多いとも聞いたことが有るな)

 つまり、今まで各々の考えで、Lvを抑えていた層が、再誕時にほぼ全ての項目にリセットが掛かる事を知り、スキルLvの解放とギフトの為に、Lv上げを再開したのだ。

 スキルLvの上限が解放され、ギフトが貰えるなら、再誕後に同じ状態までLvを上げれば、必然と再誕後の方が出来る事が増えるのだから、当然の成り行きだろう。

(それならこの賑わいも納得だわ)

 あまりなホームの賑わいに、如何に多くのプレイヤーが方々に散ってたかを知るテツであった。

「ふう、俺も早いとこ再誕まで漕ぎつけなきゃな」

 決意を新たに、[フォレスト]に薬草を取りに向かった。


 週末。

 朝から美雪と亜紀とDIYにログインし、金策に努める。

 ここ数日のインフレと好景気の影響で、金が凄い勢いで増えている。

 このペースなら近日中に再誕まで行けそうだ。

 今日も[フォレスト]でトレントをしばいて薬草をカツアゲする。

 戦利品を職人衆に託し、加工品を売りに出す。

 ただ流石に同じことを繰り返していると、飽きが来るので、ここ等で息抜きをする。

「と言うわけで、久々に地底湖にやってきました」

 久々にやって来た南山の地底湖。その中のアッシーが潜む湖を見下ろす。

「…なんか増えてない?」

 眼下に映る七頭のアッシー。子に親にその両親かな?

「どうも親子を狩ろうとしたパーティーが居たみたいで、良い線までいったようですけど…」

 ベルの説明によると、親子を追い詰めたら今度はその父母…つまり子アッシーの祖父母が援軍として現れた様だ。

「そうなんだ…しかし爺ちゃん婆ちゃんデケェ~」

 親と子ですら相当なスケール差が有ったのに、その親は規格外。

「あの三色の旗がそれぞれのブレスの射程らしいですね」

 とベルが指さした白青赤の旗。目測だが白が湖から200m程、青が500m、赤が1㎞程有るのか?アコから借りた遠眼鏡で見るが、正直分からん。

「で?動ける範囲が極端に狭まってるけど?先には進めるのか?」

「その点は心配ご無用ですよ、ほら穴を進めば良いので」

 そんな感じで、アッシーを無視して先を目指す事にした。


 アッシー一家を素通りし、久々に干潟ゾーンに到着。

「相変わらず甲殻類に貝類が凶悪だな」

 現在地底湖干潟に来ているメンツは、マサ、ユキ、アコ、ベル、そして俺の五人だ。

 さて、現在の俺のLvだが、金が面白いように増えたお陰で、覚醒9回目の転生7回のLv100となり、再誕まで後僅かとなった。

 そしてステータスは長くなるので諸々省くが、LPはざっくりだが40万を超えた。

 此処まで上がってしまえば、最早子アッシーのブレスなど恐るるに足らん!…うん、親と祖父母は簡便な。

 プロトタイプのインプラントとナノマシンによる、最大のネックだったスタミナ障害だが、これも[獣人]を六回も覚醒させたことで、かなり改善できた。

 今ならスタミナを50%回復するのに、0.5s掛からなくなった。

 なので因子も[養蜂]等の大量の使い魔を使役するものを再登用した。

 そんな状態なので、かつては強敵だった小型海産物も蜂だけで対処が可能な程だ。

 更に、再び装備可能となった[アンダーテイカー]のヘルメット。この凶悪極まりない性能のヘルメットのお陰で、戦闘はかなり余裕があるものとなった。

 そんな感じで、干潟も問題なく歩けるレベルになったので、地底湖を更に下ってみる事にした。


「…なんか更に湿度が増したな」

「そうだな、気持ち水の純度も上がったような?」

 マサと環境の変化に言及しつつ、干潟の先に有った穴から下に向かって歩く。

 上層のただ湿っただけの岩肌と違い、カルシウムなどの無機物が結晶化してるのか、鍾乳洞の様な様相のトンネルを降る事数分。またしても広大な空間に出た。

「浜辺、アッシーの住処、干潟と来て今度は岩礁か」

 目の前に広がる見渡す限りのゴツゴツした岩場。

「それにしてもデフレの影響か、ホント人が少ないな」

「そうね、いざという時に他所のパーティーと共闘出来ないから、慎重に立ち回らないとね」

 ユキの言う通り、たったの五人なので、慎重に動くとしよう。

 俺達はそっと手近な岩場に近づく、すると物陰から何やら触手が飛び出してきて…

「もう!また触手!?」

 ユキが顔真っ赤で、<クラスティオーブ>を岩場に投げつける。

 火球が炸裂し、ジュ―といい音が発生し、触手の元が焼き上がった。

「成程、巨大な亀の手だったか」

 岩にへばりついた状態で、浜焼きになってる亀の手、良い匂いだ。

 他にも巻き添えで、磯蟹や雲丹、イソギンチャクやフジツボ等も、香ばしい香りを発している。

 溜飲が下がって落ち着いたユキも含め、全員で辺りを散策する。

 アコが、近くの一番高い岩に登り、周囲を観察する。

「まだ先があるみたいだわ、岩場伝いに進むとまたトンネルが在るわ」

「そうか、どうする?」

「時間も時間ですし一旦戻りませんか?」

 ベルに言われ、時刻を確認すると、既に昼近くになっていた。

「賛成、お腹も空いたし休憩にしましょう」

 とユキの鶴の一声で、帰還が決まった。


 休憩の為ログアウトし、昼食を取りに本殿に向かう。

「今日は何かしら?」

「今日はちゃんこ鍋と言ってましたよ」

 ちゃんこか…藤堂家のちゃんこは豪華で美味いんだよな~。

 昼食を済ませ、離れにて休憩中。

「あ~極楽…」

 満腹で瞼が重い状態でのマッサージチェア…至福の一時だ。

「で?何で二人共ここで寝っ転がってるの?」

 食後、休憩の為に離れに戻り、快楽に身を浸していると、まだ食後から数分もしない内に二人が襲撃してきた。

「別に良いじゃない」

「そうそう、細かい男は嫌われるぞ哲兄」

 俺にはプライバシーはねえってか!

「まあ良いか…」

 どうせこの後もゲームで隣同士並ぶんだし、休憩を共に過ごすのも自然か。

 そう納得し、マッサージチェアの抱擁に微睡む。


「んじゃあ再開しますか」

 本日二度目のログインを済ませる。

 アプデ後の休日という事もあり、メンバー全員揃った。

 俺以外は再誕までまだ時間が掛かりそうなので、実入りの良い行動を優先する。

「[フォレスト]で薬草集め、[バグスター]のダンジョンの攻略、東の大陸の開拓。どれが良い?」

 俺が候補を三つ挙げ、メンバーに決を委ねる。

 結果、無難に[フォレスト]での薬草集めに決まった。

 早速[フォレスト]に乗り込むと、人手ごった返していた。

「皆考える事は一緒か」

 なんせ[フォレスト]はシンボル以外での薬草の一大産地だ。

 皆再誕とその後へ向けて、限りあるチェストに換金物を目一杯確保したいがため、今一番需要が高いポーションの原料を得る為に、[フォレスト]が賑わっているのだ。

 人混みに怯んでいても何も始まらないので、俺達も行動を開始する。

 装備をランタンの二刀流に換え、ホームの外に繰り出す。

 何故鍬を持たないかと言うと、俺自身は、ヘルメットのお陰で胞子は平気なんだが、他の皆がマスク等をするのが不便というので、俺がランタンで防ぐ事にしたのが理由だ。


「うーん…どこもかしこも先客だらけだな」

 鬱蒼と生え茂る草木や大樹の根を掻き分け、進んでみるが、周囲は人だらけ。

「これだけ人が押し寄せれば、そら敵も中々出会わんわな」

 仕方ないので、今まで踏み込んだ事のない場所まで進むが、それでも人人人…。

 漸く人が疎らになった時には、トレント等の敵が相当強くなっていた。

 夥しい数の使い魔に群がられ、圧殺したけど…。

「問題無く対処は出来るけど、薬草の質が強さに比例して無いな」

 強敵だったトレントを打倒し、戦利品に目を通す。

 勿論全く比例していないという事ではなく、ドロップ率も上がってるので、実入りが悪い訳では無いのだが…効率は落ちるのも事実だ。

 これは場所を変えるべきだろうか。


 狩場の変更を検討し、今度は[バグスター]にやって参りました。

 人数、ステータス共に過去最高の状態だ。

 時間もたっぷりあるので、今回は本気でダンジョンを攻略する気で此処に居る。

 G戦隊こと[シャドーダイバー]も合流し、戦力は相当なものとなった。

 周囲にもかなりの数のプレイヤーやNPCが屯していて、現場の熱気は高い。

「それじゃダンジョンの制覇を目指して…出発!」

 号令を掛け、総勢21名の大所帯で巣穴を降る。

「それにしてもそのヘルメット便利ですね~」

 真っ暗な巣穴を、ランタンとヘルメットの明かりで照らしながら、露払いをしていると、シャドー…Gリーダーのレイナさんが感心したように呟く。

 なんせ、暗視にターゲティングにと機能は数多くあるからな。コスト2000は伊達ではない。

 いつもなら、脇道などを探索しながら進む俺達だが、今回は違う。

 本気で此処を制覇する気なので、分かる範囲で最短のルートで下を目指す。

 偶にはその他大勢ではなく、偉業の主役になりたいからだ。

 そのためには、ここの主とは先陣を切って戦わなければならない。

 そして、今の俺達なら十分戦える筈だ。だからこそいつもとは違い功を求めて先を急いでいる。


 大分地下に潜ったところで、漸く最前線に追い付いた様だ。

「ここが最前線か、早速戦線に加わるぞ!」

 一同「応!」

 手柄を欲してるとはいえ、流石に人の邪魔は良くないので、ここは素直に手薄な場所に赴いた。

 敵の壁さえ切り崩せば、何処からでも前に進めるしな。

 此処に来るまでに、掴んだ手応えを頼りに、初っ端からかなり荒っぽい戦法で切り込む。

「そら!吹っ飛べ!」

 マサが久しぶりに手にした大斧で蟲を吹き飛ばす。

 相手は巨大な蟻やコオロギや蜘蛛などの蟲。流石に大きく押し出す事は叶わない、だが人が数人割り込める隙間は出来た、そしてそれで十分だ。

「ナイスだマサ![ドッペルゲンガー]発動!」

 怯んでいる蟲共の合間を縫って、ドッペルを発動。

 突如として、内側に大量に発生した敵に混乱する蟲共。

 今の俺の使い魔は、霊騎士が二体、骸骨兵(ガーディアン)が一体、大蛇が十体、錦鯉が十体、亀が三体、甲虫が一体、ブリキ兵が四体、恐怖の手が一体、魔道人形が一体…ダメだ多すぎて面倒だ。兎に角これでもかと使役しているし、ドッペルでそれが倍化してるからな、もうごちゃ混ぜの大乱戦だ。

 それでいて今の俺はLP…というか[生命]のパラメータが40万を超えてるからな、使い魔の堅さが尋常ではない。

 しかもドッペルは一分も持続し、クールタイムも二分というね。

 皆も各々の方法で蟲にタイマンのガチンコ勝負を仕掛け、各個撃破する。

 中衛ではベルが、常に回復魔法を待機させているので、今の所物資の消耗も無い。


 最前線に交じってある程度進むと、これまで以上に部屋同士の連結が増え、挟撃に遭う頻度があからさまに増えた。

 尤も、アコの索敵と、ヘルメットの集音性能の高さで、奇襲は事前に察知できるので、大した危険は無かった。

 しかし、今回は活躍がしたいという事で、速足で此処まで来たが、やはり無理は禁物。こういう時こそ急がば回れの精神で、冷静になる時だ。

「皆少しペースを落とそう」

 皆も俺の意見に賛同し、ここでいつものスタイルである、寄り道を敢行。

 流石に挟み撃ち上等の突撃では、息切れ必至だからな。

 余所が下層へ続く穴へなだれ込む中、それ以外の部屋に向かう。

 一応、一定数の人は挟撃を警戒しているようだがそれも少数の様で、そういった人たちはそれぞれの進路が被らないように移動する為、いつの間にか俺達は孤立していた。

 しかも、光源が大幅に減った為、周囲は薄暗い状態でだ(俺には丸見えだが)。

「どうする?今からでも引き返すか?」

 マサの提案に、しばし思案して。

「いや、進むのも止めるが、少しの間ここで待機しよう。もしかしたら他のパーティーが合流するかもしれないし」

 幾ら無数に分岐しているとはいえ、全ての部屋を回れば、いずれは他の連中とも遭遇するだろう。そう思い一旦この場で待機する事に。

 その間、何度も蟻や百足の襲撃を受けるが、難なく撃退出来ている。

 そんな感じで暫く待機していると、他のパーティーが部屋に入って来た。

「どうも」

「こんにちは」

 軽く挨拶を交わし、それぞれが通って来た部屋の情報を交換する。

 直後。更に別の一団も合流し、かなりの空白を埋める事に成功。

 彼らは、これで心置きなく先に進めると言って、下層を目指して行った。

 それから少しの間待機を続け、計四組のパーティーと遭遇し、他にも下層へ続く部屋がある事が判明した。これはその部屋から敗走してきたパーティーを助けた事で得た情報だ。

「やっぱ寄り道して正解だったな」

「ああ、知らなければ迂回した蟲共に退路を断たれてたな」

 やはり、急がば回れ。お陰で後の危機を回避できそうだ。


 複数の迂回路の存在が判明し、俺達は挟撃の阻止を兼ねて、その内の一つから主の居る最下層を目指す事にした。

 そんでもって、下層への部屋に突入した途端、まあこれでもかという熱い歓迎を受けている。

 部屋には中ボス要因なのか、なんと[ギガントマンティス]が配置されており、その周囲を無数の蟲が固めるという布陣。

 それを21人で超えなければいけないという現実。

 さっきのパーティーが嘘を吐いたのかと思ったが、部屋の構造や蟲の陣形によっては視界に入らない場合もあるか。

 疑念を振り払い、目の前の事態に集中だ。


「ふぅ…何とかなったな」

 カメキチさんと[シャドーダイバー]の鬼防御力に助けられ、無事に部屋の制圧に成功した。

 彼らが[ギガントマンティス]を抑えてる内に、周囲の蟲排除し、最後は圧倒的な数の暴力でジワリジワリと痛めつけて、[ギガントマンティス]を仕留めた。

 まあ、冷静に考えてみたら21人って、たったのじゃなくて、も、という規模の人数なので、Lvさえ高ければ十分すぎる程の戦力だよな。

 以前あれだけ苦戦した記憶が、此方の戦力の過小評価へ繋がったんだろう。

 これで自信を付けた俺達は、破竹の勢いで下に降りて行き、遂に最下層へ到達した。


「どうやら既におっぱじめてる様だな」

 主の居る部屋は、超巨大なドーム状の部屋で、その出入り口から中の様子を窺う。

 丁度反対側の入り口に蟲が殺到し、今なら背後を突けそうだ。

 だがその前に、ボスの観察が先だ。

「アレがこのダンジョンのボスか…」

 目に映るのは、百足の胴体に蠍の尾、蟷螂の鎌にバッタ系の強靭な後ろ足の付いた、異様な怪生物だった。

 個人的にはかなり好みのデザインだ…若干バッタの脚が蛇足感あるが…それはどうでも良いか。

 さて、ターゲットの姿も確認したし、先ずはジャブとしてちょっかいを掛ける。

 いきなりガチンコを仕掛けないのは、アレが最低でも主力戦車十両分の戦力が要ると聞いたからだ。

 先ずは周囲に侍っている取り巻きをお掃除し、数的有利を捥ぎ取るのだ。

 基本的な戦術も定まり、戦闘を開始した。

「先ずはドッペルを使って…」

 俺は[ドッペルゲンガー]を発動し、持ち替えていた鍬でCA(コンバットアーツ)[鍬の一振り]を発動。自立行動を採るドッペルも同じ様に動いてくれ、一面に原木畑が出来上がる。

 ドッペルはそのまま開墾を続ける様なので、俺は武器をランタンに持ち替える。

 そして、俺とドッペルの分の<ゴーレム使い>がそれぞれ蟷螂と蚊を吸引し、使い魔達が一斉に群がり全身しゃぶり尽くす。

 そんな俺の先制を皮切りに、仲間も戦闘に参加した。


 俺の先手に続いたのはベル。彼はここ最近ビルドを練り直した他のメンバーと違い、大きな変化こそ無かったが、魔法に多少のレパートリーは増えた。

「[リジェネレーション]を使います!」

 [リジェネレーション]は、効果時間中少しずつLPを回復する魔法で、効果は大したことは無く、[ディスペル]系に弱い為、人気は程々だ。

 まあだからといって、使えないかと言うとそんなことは無く、発動も早いので戦闘中の掛け直しも容易で、クールタイムのキツ目な[ヒール]系を温存、又は使うまでもないダメージをフォローするのには持ってこいで、ヒーラーの手数を増やすのに便利な魔法だ。

「続いて<フューチャーヒール>を発動」

 <フューチャーヒール>は、一定時間後に掛けた対象に[ヒール]と同等の回復効果が発生する魔法で、これがまた[ディスペル]に弱いんだが、クールタイムが一分と短いので、お守り感覚で使えるとの事だ。

 ちなみにこの魔法、隠し魔法の一つの様で、習得者は極僅からしい。

 ベルの支援を受け、周囲の蟲の駆除に励む。


 ベルの支援を受け、アコがフラッグスキルを発動する。

「先ずは[聖域の御旗]ね」

 取り出した旗を地面に突き刺し、少しだけ敵を阻む結界を発生させる。

 すかさず弓で射れる小型の旗を前方に打ち出すアコ。

 コチラは[挑発の御旗]の様だ。これは敵を引き付ける効果が有る。

 味方へのバフが済み、アコは射手に専念し、空中ユニットをけん制する。

 そしてこの間、サーモンも[オーク][コボルド]等の汎用従魔を召喚。

 ハルバードを構え、前に出る。


 接敵前の準備が整い、本格的な戦闘に移行。

 俺、アコ、ラーク、ワイド、ショー、カメキチさんが遊撃。

 マサ、パミル、シルク、ベッタラ、サーモンが前衛。

 ベル、サチが中衛。

 ユキ、おりょうさんが後衛。おりょうさんはユキの護衛役だ。

 [シャドーダイバー]は全員遊撃だ。

 遊撃が11人と矢鱈と多いが、まあそれはうちと[シャドーダイバー]の個性からなるものなので、気にする必要はない。

 <ゴーレム使い>の引き寄せで、蟲を引き寄せ始末した事で、前方の蟲共が此方に気付き、大量に押し寄せて来る。

「皆行くわよ!」

 [シャドーダイバー]リーダーの、レイナさんの号令で敵陣に滑り込む五人。

 突如として、高速で這いずったり跳躍したりしながら浸透してくる異分子に、興奮した蟲の羽や顎の音が激しく鳴り響く。

 当然袋叩きにしようと、殺意の籠った攻撃が展開されるが、低姿勢と高速移動により、中々捉えられない。

 それでも激しい連撃の中、無被弾で済むはずがなく、何度かは攻撃がヒットしているが、[シャドーダイバー]は攻撃力を犠牲に、被視認性と速度、圧倒的な防御力を誇る連中だ、何事も無く敵陣を掻き乱し続ける。

 それがまた蟲の神経を煽り、一層羽音が激しさを増す。


 [シャドーダイバー]の、身体を張った攪乱に応えるべく、ラーク達盾剣三人組が側面を取り、カメキチさんが正面から徐々に浸透。俺はラーク達の反対の側面を抑える。

 そこへ、マサ達の前衛が追い付き正面を抑え、その隙に[シャドーダイバー]が乱戦から離脱し、蟲の背面を抑える。

 これで、蟲の周囲を囲み、増援と容易には合流できなくなった。

 アコは増援相手に牽制をしている。

 徐々に包囲を狭め、シルクの投網が炸裂し、蟲の機動性を殺す。

 そこへ、パミルのロケットマトックによる強大な一撃が炸裂し、ベッタラの二刀流が振るわれ、サーモンと従魔の連携が襲い掛かる。

 そして敵の反撃は投網の拘束とマサのノックバックで封殺。俺達に差し向けられた蟲の第一波はこれで処理出来た。


 続いて第二波は、アコが事前に痛めつけた上に、後方でユキが[瞑想]で威力を高めた、<クラスティオーブ>で瞬殺。

 お陰で、超特盛の第三波を入念に迎え撃つことが出来る。

 背後を取っていたシャド…G部隊が再び先行し、攪乱を行う。

 アコも射撃と[挑発の御旗]を使い、敵を足止めし、カメキチさんのゾンビ(のような)アタックをサポート。これで俺と盾剣トリオが配置に着く時間を稼げた。

 数こそ多いが、先程と同じ手順で大丈夫だろう。そう思っていたら。

「む!蟲の大群が迫る音がするぞ!」

 俺は、ヘルメットの集音で拾った音を仲間に伝える。

「不味いわ!後ろから蟲の大群が向かって来たわ」

 その声を聞き、蟲の奇襲を察したアコの警告で、俺達に緊張が走る。

 後方はユキとおりょうさんの二人しかいない。これは俺とトリオが向かうしかあるまい。

「カメキチさん、暫く耐えて下さい」

「ええ、任されましたよ!」

 丁度、最前線に辿り着いたカメキチさんに、たった一人でのサンドバック役を押し付け、急いで後方に向かう。

 チラッと後ろを振り返ると、ありとあらゆる攻撃を叩き込まれている、カメキチさんが目に入る。

 だがそんな攻撃をものともせずに、今も蟷螂の前足を折った。

 流石超高耐久特化プレイヤー。避けながら、防御しながらではなく、敵に肉薄しながら無防備であのタフネス。とてもじゃないが真似できない。

 そんなカメキチさんの活躍のお陰で、戦線は維持されている。

 改めて後方からの増援に目を向ける。

「ひーふーみー…全部で20は下らないか…」

 急いでドッペルを展開し、眼前に迫る敵群迎え撃つ。


 背後からの増援と戦闘が始まった頃、正面にも第三波が襲い掛かる。

「背面はテツ達に任せて、俺達はこれを如何にかするぞ!」

 テツが後方へ向かい、正面はマサが指揮を執る事に。

「オラッ!くぅなんつー数だ」

 カメキチとG部隊を貫けて、此方に来る蟲を押し返すマサ。

 それにでも貫けてきた蟲は、パミル、ベッタラ、サーモンが相手をする。

 シルクは、都度近づいて来た蟲に網を浴びせ、弱体化を図る。

 中衛のサチは、<まきびし>を前方に集中させ、同時に多数の蟲を削る…なんてものではなく、多数の蟲を瞬く間に駆逐している。

 一体どれ程特化させればそうなるのか不明だが、<まきびし>のダメージ範囲に入った途端、蟲の動きが極端に鈍くなり、程なく骸と化していた。

 本来<まきびし>に、敵の動きを阻害する効果は無いので、それだけ短時間で衰弱する程のダメージを与えたという事だ。

 初期の不遇な扱いの[罠師]を、よく此処まで昇華させたものだ。

 さて、サンドバックを引き受けたカメキチだが、流石に圧倒的な物量に加え、毒と酸を浴びせられては、大ダメージは必至だ。

 LPが五割を切ろうかという時、先程ベルが仕込んだ<フューチャーヒール>が発動し、カメキチのLPが七割五分程まで回復した。

 そこへ、ベルが<ライトヒール>を掛け、カメキチのLPは全快した。

 どうやら正面の方は問題無い様だ。


 後方も接敵し、戦闘を開始した。

 トリオが前に出て、的を絞らせないよう動きながら敵を翻弄する。

 作戦は至ってシンプル。トリオが掻き乱して、俺が<ゴーレム使い>の引き寄せで、一体ずつ潰していくというものだ。

 ランタン二刀流に、ヘルメットの超強力なランタン、<親子蛇>のガラガラのデバフ祭りで敵を大幅に弱体化。

 そこに約250の使い魔×2が襲い掛かり、僅かな抵抗も許さず圧殺。

 敵ながらあれだけの数に群がられるのは、同情する。

 ラーク達トリオも、堅実に敵を削っている。

 増援と戦い始め、二回目の[ドッペルゲンガー]が消えた頃、殲滅を完了した。

 およそ三分ちょいで、駆除に成功した。


「お待たせ、こっちも問題ないみたいだな」

「ああ、非常に頼りになる壁が居るからな」

 マサが前を示し、前方で頑張るカメキチ達が目に入る。

「お、更に援軍が来たようだな」

 俺達が通って来た穴とは別の穴から、プレイヤーNPC混勢の部隊が雪崩れ込んでくる。

 雑魚も粗方片付いたので、舞台はいよいよボスとその取り巻きとの戦いへ移る。

 だが、百足のキメラへの包囲を狭めてる最中、突如地面が鳴動し…

「ッ!やっぱそう簡単にはいかないってか」

 揺れが収まり、幾つかの箇所が崩落し、穴が出来上がる。

 そして、そこから大量の蟻が溢れ出して来た。しかも…。

「おい!まだ何かあんのかよ!」

 再びダンジョン内が激しく揺れ、大部屋の壁や天井が剥がれ落ち…。

「嘘だろ!?壁と天井が全て蜂の巣だと!?」

 土塊が剥がれ落ち、ボス部屋の真の姿が露わになった。

 これで振出しどころか、状況は圧倒的に不利となってしまった。


「どうする?」

 他のプレイヤーやNPC達と分断され、四面楚歌の状況で、仲間に意見を求める。

「取り敢えず入って来た穴まで下がろう」

 マサの意見を採用し、ドッペルを発動し、徐々に下がる。

 更に武器を鍬に持ち替え、[鍬の一振り]を発動し、少しでも足止めを行う。

 アコも[挑発の御旗]を遠くに飛ばし、[聖域の御旗]を立て、時間を稼ぐ。

 サチの<まきびし>が、敵に払い除けられて無効化されるなど、思わぬ弱点が発覚するなどのトラブルもあったが、何とか穴まで避難して来れた。

「さて、こっから反撃開始だ」

 大部屋内では、不確定要素が多く、事故も心配だったが今は前後だけ気を付ければいい。

 この状況なら色々と自由度が生まれ、柔軟な対応が可能となる。

 という事で、先ずは陣形の構築だ。

「[シャドーダイバー]の皆は、来た道を偵察し、敵の挟撃を防いでください」

「了解したわ!出来れば誰か貸してくれない?」

「私が行くわ、この状況じゃ弓では中々援護できないし」

「なら俺も行こう、瞬間火力もあんたらには必要だろ?」

 レイナさんの要請に、アコとベッタラ応え、偵察に向かって行った。

「次は偵察隊と行き違いで来るかもしれない敵に備えて…」

「それは俺が受け持とう」

 召喚持ちのサーモンが名乗りを上げる。

「なら私も行きましょう」

 続いておりょうさんが名乗り出る。

「じゃあ二人に背後の番人を頼む」

 これで、更に二人が後方に向かって行った。

「後はそうだな…ラーク、ワイド、ショーの三人とマッドで偵察部隊の支援を」

「了解しました」

「ヒヒ…行って来るぜ…」

 これで偵察隊が孤立する可能性も低くなっただろう。

 こうして後方の不安要素を潰し、正面に向き直る。


「さて、この状況…どう打開しようか…」

 現在穴の入り口には、大量の蟲が犇めいており、最前列にはカメキチさんが、そのすぐ後ろに俺が、その両サイドにマサとサチが、その後ろにユキとベルが構えている。

 カメキチさんが壁役を担い、俺の使い魔(主に豚)がカメキチさんを掴んで拉致るなどの行動から守り、サチが<まきびし>でダメージを稼ぎ、マサが陣形と<まきびし>をノックバックで守る。こんな感じで攻防が行われている。

 状況打開のカギは他のプレイヤーや、NPCのビークル部隊の到着、又はユキの魔法の火力だろう。

 やはり、この状況で攻勢に出るには、突出した火力が必要で、戦力を身内限定にするのなら、やはり瞬間最高火力はユキがダントツで、瞑想で最大まで火力を上げた<クラスティオーブ>なら、一撃で敵陣に空白を作れるし、複数の溶岩溜でかなりの打撃が期待できる。

 という事で、先ずはその大火力で、出入り口付近の確保を目指しましょうか。


 あれから十数分、状況は少しずつだが、前進している。

 ユキの<クラスティオーブ>が二回炸裂し、少しだけで入り口に陣を進める事が出来た。

 更に、偵察隊が複数の襲われていた援軍を助け、前線へと送り出し、俺達以外の戦闘音が刻一刻と大きくなってきた。

 既に部屋に入り込んだ部隊が居るのか、部屋に残っていた連中が息を吹き返したのか分からないが、先程より蟲の数が減ってきている。

 これは最終局面も近い証拠だろう。


「良し!俺らもボス戦に突入だ!」

 ユキの<クラスティオーブ>で、出入り口に群がっていた蟲を一掃し、追加の蟲の勢いが弱い事を確認したので、突入を決意。

 散らばっていた仲間を招集し、ボス部屋に再度侵入した。

 周囲を確認し、雑魚が無限湧きでは無い事を確認する。

「どうやら無限湧きでは無い様だ…若しくは一定数を超えると湧きが遅くなるのか?」

 未だに地面や壁から蟲が湧いてくるが、明らかに先程の様なペースではなくなっていた。

 もしかしたら、再び大量湧きが起こるかもしれないので、予断を許さないが、今がチャンスであることは事実なので、ここで決めてしまおう。


 ボスとの最終決戦に挑み、どの位時間が経ったか…。

 キメラ百足はあまりに強大で、ここに至るまでの戦いが、全て茶番で有ったかの様な苛烈な攻撃に晒されている。

 ビークルすら持ち上げ貫く強力な顎。

 牙で直接注入したり、吹き付けたりする強力な毒。

 通常攻撃が全て範囲攻撃になっている鎌。

 背後すらカバーする、死角なしの鋭い尾。

 少しでも不利と見るや、跳躍で位置取りを変える為に活躍する強靭な後ろ足。

 そして何より厄介なのが、その体の小ささだ。

 体高は精々1m有るか無いか、全長も15m無いかもしれない。

 だがその身に秘めたる力のなんと強力な事か、前述した通り、ビークルすら持ち上げてしまうパワーに、攻撃を受けきる強靭堅牢な装甲。

 これらの要素のせいで、此方の囲いを、時にはスルスルと、時にはびょーんと跳躍でと、悉く抜け出し集中砲火が続かない。

 周囲の雑魚狩りをしつつ、何時でも戦えるようボスの動きを注視する。

 だが、ふと不安になる要素が出てきた。

「ねえ、なんか新規で湧く雑魚が強くなってない?」

 そんなサチの指摘に、改めて雑魚と戦う。すると確かに僅かずつだが、雑魚が強化され続けている事を確認した。

「これは時間を掛け過ぎると不味いかもな…」

 どうやら時間的猶予も少ないみたいだ。


 時間経過により、雑魚が強化され続け、遂に体感できる程の上昇幅になり、少しずつ数で押され始めていた。

 ただ、悪い報せばかりではなく、良い報せも舞い込んだ。

「主力戦車が到着したぞー!!」

 既にビークル部隊が壊滅してる中、漸く本命の戦力が到着した。だが…。

「こちらデストロイヤー部隊、戦場は地形に問題が多く、本部隊は万全のポテンシャルを発揮できない!」

 元々ゴツゴツした地面に、無数の大穴が空いているボス部屋。

 確かに車両全般に厳しい環境だろう。

 それでも器用に回避運動を繰り返し、雑魚をキッチリと処理してくれる主力戦車は、非常に頼もしい援軍だ。

 どうやらボスは歩兵でどうにかしなければならない様だ。


 一旦戦場から距離を取り、持ってきた食料で満腹度と保水度を回復。

 消耗品の不足などを、仲間内でフォローし合い、いよいよ決戦の時だ。

 再度ボス部屋に入ると、状況はかなり悪化していた。

「主力戦車は…半分は御釈迦か…」

 それでもボスにかなりのダメージを与えたのか、キメラ百足の左手の鎌は捥げ、バッタの後ろ脚もねじ切れていた。

 残りの主力戦車も引き続き雑魚を引き付けている。

「歩兵は…大分減ったな…」

 無理もない、ボス部屋が真の姿を現した時、かなりのパーティーが部屋に閉じ込められたそうだからな。

 そこから雑魚の大群と、ボスと直接戦ってたパーティーは、既に相当な疲労具合だろう。

 当然俺達だけではボスには勝てそうもないので、やはり横の連携を立ち上げるべきだろう。

 善は急げで、[ドッペルゲンガー]を発動し、一番近くにパーティーに合流した。

 向こうも共闘大歓迎との事で、同じ要領で次々に合流していく。

 これで戦力は大分増したので、キメラと直接戦っているパーティーを助ける為、キメラの背後から奇襲を仕掛けた。

 うちのパーティーからはユキの<クラスティオーブ>が火を噴いた。

 他のパーティーからも、様々な̠火線がボス目掛けて飛んでいき、迫力満点な爆発を見せた。

 これを皮切りに、ボスとの乱戦がスタートした。


 俺は中衛で、使い魔を嗾け続けるという、いつもと変わらない仕事に専念。

 流石に距離が離れているので、手に盛ったランタンは元よりヘルメットのランタンすら届かず、モヤモヤする。

 でもこれが一番安定するので、今は仕方ないと割り切るしかないだろう。

 他の皆も各々活躍している様だ。

 状況が動いたのは、ユキの<クラスティオーブ>が炸裂してからだ。

 この一撃で右手の鎌も破壊され、キメラの攻撃能力が激減。

 だがこういう時ほど油断が命取りとなる。ユキもさっさと後方に避難し、サーモンとおりょうさんが護衛に付いた。

 直後、この戦闘で初めてキメラが咆哮を発した。これにより雑魚が更に強化され、ユキを筆頭にダメージソースに対し大量の雑魚が嗾けられた。

 ユキはこの危機に、[岩の身体]と[奮起]を併用し、ゆっくりだが逃げて時間を稼ぐ。

 それでも囲まれ、ボコボコにされ始めたが、間一髪で間に合ったマサが雑魚を一掃し、ユキの窮地を救った。

「ありがとう!お兄ちゃん!」

「!?」

「「「!?」」」

「あ、ごめん…なんか思わず出ちゃった…テヘ」

「お、おう…まあ無事で何よりだ」

 なんかマサとユキのショートコントが発生したが、ウチの火力要因は無事の様だ。

 このボスの一手で、かなりの火力要因が沈められたが、同じようにマネジメントしてたパーティーが居たお陰で、最低限の火力は残った事に感謝だな。

(段落ごと誤りっぽいですが、段落が空になるような修正は送れないようなので、長文でお伝えさせていただきます)

 キメラの手痛い反撃を凌ぎ、反撃も込めて再び攻勢に出る。

 最早跳躍もままならず、攻撃能力も大幅に低下したキメラは風前の灯…。

 最後の悪足掻きで、大暴れした後に、なんと脱皮して体を再生したが、当然大幅に弱体化した状態で、寧ろ攻撃が通りやすくなった分、俺の使い魔もダメージソースになれた。

 もう此処まで来れば勝ったも同然。後は誰が大将首を挙げるかだ。

 勿論俺達もその心算で参戦したので、狙いには行ったが、結論から言ってしまえば止めを刺す事は叶わなかった。

 まあ…目立つと有名税も発生するし、これで良かったんだろう。

 と、かなり悔しい気持ちを納得させ、封鎖されるまでダンジョン内を観光し、帰路に就いた。


「は~、良い線いってたと思うんだがな~」

 戦場から撤収後、ギルドに寄り戦果を確認したが、全体から見れば可も無く不可もなくと言った感じの、凡庸な評価だった。

「なー、あれだけダメージを負わせて最後まで生き延びたのにな…と俺らが思ってただけだったんだな」

 悔しいが、マサの言う通り自惚れだったのだろう。

 そう納得しかけていたんだが、帰還時に別れた[シャドーダイバー]からの一報で、事態は思わぬ展開を見せた。

『やっほ~、私達[シャドーダイバー]は、貢献度が全体で五位の評価を貰ってかなりの報酬を貰ったわ!其方はどうでしたか?』

 という内容で、メッセージが来たので、残念ながら対象外だと伝えると。

『そんな筈は…あ!もしかして…カンパニーが名無しのままなのが原因では?』

 ?と思いながらも、ヘルプの項目からカンパニーの概要を今一度確認すると。

『カンパニーが無名のままですと、住民や行政の注目度は低いまま(個人は別)ですが、その分評価や名声は非常に上がり辛くなります』

 このような文言が存在した。

「マジか…」

 俺は思わぬ落とし穴に呆然とする。

 この間、砂漠のダンジョンで高評価だったのは、あくまで俺個人の貢献度だったしな、今回のカンパニー単位だと、仕様上どうしても低評価は避けれなかった様だ。

 暫く皆で沈黙を分かち合い、一言。

「ま、仕方ないか」

「だな」

「まあ、これで良いんじゃないかしら?」

「私達にはこういう緩い感じが合ってるわ」

 俺、マサ、ユキ、アコの順に、納得の声を上げた。

 他のメンバーも、口々に面倒事を差っ引いた代償なら甘んじて受け入れると言った。

 なぜこんな反応かと言うと、聞く限り、このゲームの名声システムはまあかなりの糞仕様…というか現実に則し過ぎていて、息が詰まるのだ。

 確かにカンパニーの評判を上げ、NPCの信用を高めると、それなりに恩恵は得られる様だ。

 だが名声は高まる程上がり辛くなり、ちょっとでもNPCの頼みを蹴ると、糞みてーにピーチクパーチク囀りやがり、冗談みたいなレベルで名声を落とされる様だ。

 これを聞いた時、なんだその糞仕様と思ったが、恐らくはこのゲームの本当の目的。DIYシステムの開発に関連してるのだろう。

 ある意味そういった状況程人間の本質が試されるし、良いデータが取れるかもしれない。

 そして、この糞仕様を乗り越えてマネジメント出来てるコミュニティは、このゲーム内では一目も二目も置かれる存在となっている。


 さて、低評価のカラクリも判明し、改めて糞仕様について触れておこう。

 名声システム。それはDIYに置いてのNPCの好感度に影響し、積み上げるのはコツコツと、無くすのは一瞬、取り戻すのは地獄というリアル志向にも程があるシステムとなっている。

 こうなんていうか、資本主義的というか、依頼に対して提供するサービスの質が上がり続けて当たり前、依頼料のプランも今までハイクラスのものがミドル、ローと内容は一緒で料金だけリーズナブルなる事を当たり前として要求される。

 そんな感じで、NPCの要求も青天井で上がり、態度もつけあがる一方だとか。

 そんなのカジュアル層が維持していくのは無理だろう!と思わざる得ない。

 なんだろうね、カンパニーに名前を付ける事は、株の上場と同じかそれ以上のリスクを伴う、かなりリスキーな行為にしか思えないし、うちが無名のまんまやっているのが分かるだろう?

 とまあ、悪い面ばかり触れてきたが、勿論メリットも有る。

 先ず通常では受けれない依頼が、名声に比例して舞い込む事だ。

 中にはレアアイテムや、強力なNPCが仲間になったりする依頼等、デメリットに見合うメリットが多数存在する様だ。

 まあ、カジュアルに遊びたい俺が、こんなデメリットを受け入れる事は無いだろう。

 という事で、今まで通りカンパニーは名無しの状態で運営する。


 翌朝。

「お、巡回の時間か」

 朝食を頂き、DIYにログインする。

 今日はおじさんも亜紀も休みで、美雪も二人と何処かへ出掛けた様だ。

 そんな状況なので、久々にマイペースに一人で遊ぶ事にした。

 墓地に到着し、スコップ職人のミーチャと合流する。

「おうテツ、今日は中々ハードな仕事になりそうだぞ」

「それは昨日…数日前の[バグスター]の事でか?」

 思わず昨日とか言ったが、ゲーム内では一日が6時間。既に2~3日過ぎている。

「そうだ。現在確認されている四つの巣穴、その中の入り口が塞ぎきっていなかった一つが、数日前に攻略され、その時の戦闘で多くのクローンが廃棄になった」

 それでハードな巡回になるわけね。

「状況は判った。それで?他の参加者は?作戦は?」

「他の連中は既に出発済みだ。そして作戦だが、群れる前に浄化する。これだけだ」

「だから少数で班を沢山作って広範囲をカバーすると?」

「ああ、大人数で群れを相手取るか、少数で個を潰すかを天秤に掛けると、後者の方が多少は安全かな?という事でそうなった」

 こうして、俺はミーチャと組んで巡回に出発した。


「おお…数が多いな…」

 事務所から少し離れたところで、早速アンデッドの歓迎を受ける。

「だな…だがテツよ、お前が連れてる使い魔の数の方がおかしいからな?」

 ランタン二刀流、[アンダーテイカー]のヘルメット、ガラガラヘビ。

 これだけのデバフが揃っていると、最弱の使い魔の蜂ですら、相対的に凶悪なユニットに早変わりし、弱ったアンデッドを次々に浄化していく。

 ミーチャも近寄ったアンデッドをスコップで薙いだり、抄った土を掛けて応戦。

 更に要所要所に落とし穴を拵えたりと、妨害にも余念がない。

 勿論地形を弄ればこちらにも悪影響は出るが、ミーチャはジャンプを強化するパラメータか因子を持ってるのか、掘りや土壁を軽々超えて行き、俺も移動速度が速いので問題にならず、使い魔もそこまで影響を受けないので、一方的にアンデッドに不利を押し付けられ、たったの二人でもかなり優位に戦えている。

「良し、ここ等で休憩しよう」

 ミーチャの提案で、石のベンチに腰掛け小話に花を咲かす。

「ほ~、あのお試し試験で合格を貰えたのか」

「ああ、このヘルメットはその報酬だとさ」

「[アンダーテイカー]の装備のプロトタイプ…なんか体よく実験体にされてねえか?」

「かもしれん、まあ非常に強力な防具だし、今更手放せねえよ」

「ははは、コスト2000だっけ?尋常じゃない枷だがそれに見合った性能なら…まあ良かったな」


 休憩を終え、再び浄化作業に勤しむ。

 途中ウィルやギルとすれ違い、軽く言葉を交わす。

「おおテツか、調子はどうだ?」

「ボチボチだ」

「こんにちはテツさん、…相変わらず筆舌に尽くし難い様相ですね…」

 俺の周囲を固める大量の使い魔と、シャツとズボンのラフな服装にヘルメット、ランタン二刀流という奇抜すぎるファッションに、言葉が続かないギル。

 これ、安全地帯なら更に骸骨の鎧も加わるから、一層磨きが掛かるな。

「まあ、見た目にはとんじゃかないんでね、それじゃまた後で」

 他にも中堅や新人のプレイヤーやNPCとすれ違いながら、全体を回る。

 最近はプロや上級に昇格した者も増え、アドバイスを求められることも増えた。例えば。

「上級試験がキツイんですけどコツは有りますか?」

「Lvを上げて物理で(スケルトンやゾンビを)殴ってください」

 等、正直自分が当時はマイノリティなビルドな事もあり、適切な助言は出来ていない。

 それでも当時のLvや装備などを参考に、彼らなりにボーダーラインを導き出した様で、思いの外感謝されたりもした。

 まあ、後続が育つことは大事だからな。正直超級の試験を突破するには、心強い仲間が大勢必要だからな、もしかしたら彼らにも助力を願うかもしれないからな、今の内に繋がりを作っておこうというわけだ。


 巡回を終え、ルーカスを見つけたので事務所で話をする。

「ようテツ、ヘルメットの着け心地はどうだ?」

「悪くない、これもあんたの推薦のお陰だ」

 俺にお試しチケットを呉れたのはルーカスだからな。感謝は忘れない。

「それは良かった、正直合格を貰える成績を叩き出すとは思わなかったぞ」

 確かにアレは難易度がおかしいレベルだったからな。

「それでも十三日目で即死だからな、正直本番はどうなる事やら」

 フレディ部長曰く、大丈夫との事だが果たして。

「十三日…テツさんはアレを十三日も凌いだのですか?」

 横で驚愕の表情で聞いてくるギル。

「言って無かったっけ?最後はドラゴンゾンビのブレスで蒸発した」

「そうですか…僕は四日でダメでしたよ…」

 しょんぼりと呟くギル。確かにギルのスタイルじゃソロではキツイわ。

「まあ本番は最大16人で挑めるんだ。そんなに気落ちする事も無いだろう」

「そうだぜ、その時は俺も参加してやるからよ」

 酒も入り、やや絡み酒風に捲し立てるルーカス。

 同じようにテーブルを囲む、ウィルにカイルにミーチャも続く。

「皆さん、ありがとうございます」

 フム、これで少なくとも俺を入れて6人か。

「後10人誘えるのか…」

 今の所充ては無いなぁ…と思いつつ、場を辞すことに。

「お疲れさん、またよろしくな」

 完了の証書を受け取り、ホームに向かおうとすると。

「あ、十字架が…いよいよか…」

 俺の十字架が赤く発光し、超級の受験資格が満たされた様だ。

 それを見て、ギルも懐から赤く発光した十字架を取り出した。

「ギルも既に…か」

「ええ、タイミングはテツさんに任せます」

「分かった、取り敢えず今日の所は帰るよ、お疲れ様」

 こうして[ジャックオーランタン]超級への道筋が出来た。

次は早ければ来週を予定してます。

あと、感想と誤字報告有難うございます。

これを励みに今後も頑張ろうと思います。

ではまた次回。

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