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第十七話

~前回までのあらすじ~

ユキとアコもリビルドで出来る事が増え

カメキチさんというかなり変わり種のビルドの仲間も増えた。

そして超強力なヘルメットを手に入れ、増々戦力が向上した。

「それじゃ始めましょう」

 夕食後、亜紀も合流し、DIYにログインする。

 先程、新たに加入したカメキチさんと、サーモンが談笑していた。

 どうやら馴染めてるようで良かった。

 居合わせたメンバーと、そこに何処からか帰還したマサとベルも誘い、冒険に出掛ける。

 行き先は砂漠のダンジョン。

 どうも攻略が進み、いよいよ下層への道が開けそうだと聞く。

 もしかしたら、近い内に完全に基地になってしまうかもだから、今の内に下層や深層を覗いておこう、と言うわけだ。


 さて、やってきましたダンジョンの深層手前。

 流石に攻略が進んできているだけあり、ここまでの道のりは実に安全で、中層まで既に基地に改装されてました。

 こうなると、最早ここの制圧は時間の問題だろう。

 何故かって?そら目の前を次々と通り過ぎていく、無数の戦闘用ドローンを見ていれば、誰でもこの結論に行きつくだろう。

 敵の本拠地への無人機での物量作戦。こうなっては流石に相手もいつかは力尽きるしか道は無い、生命体である以上は、疲れもするし腹も空く。そんな条件で安価で量産出来るドローンが昼夜問わず襲い掛かって来るのでは、軽い悪夢だろう。

 まあそんな前置きをしつつ、本当の所はこのまま制圧できるなんて微塵も思っていない。寧ろ必ずボスが登場して一波乱起こる筈だ。

 それが数か月間このゲームを見てきた人間の見解だ。


「んじゃあ俺達も行きますか」

 無数のドローンに交じり、数多くのNPCやプレイヤーが、下層へ通ずる大穴へと下っていく。

 その後に続けとばかりに、俺達も下層へ降りる。

「流石下層だな、分岐が多いな」

 降り立った部屋は、戻るルートを除くと五つに分岐している。

「どうする?」

「そうだな…まあいつも通りで良いだろう」

 俺の問いに、マサがいつものコースを提案する。

 それをみんなが肯定したので、一番人が少ない分岐へ向かう。

 この辺はまだ下層の序盤だからか、駆逐済みで敵が居ない。

 さらに三部屋位、人が少ない方へと向かい、漸く初戦闘に突入。

 流石に下層だけあり、蟲の強さがこれまでより幾分か引き上げられていた。

 それでも[バグスター]のダンジョンや、[アース]の僻地に比べれば、まだまだ余裕を持って叩けるレベルだ。


「大分進んだが、特に特別なものは見つからないな」

 あれからそれなりに戦闘をしつつ、進んではみたが…。

「やっぱ下に向かわないと、なにも得るものはないかもな」

「みたいだな…仕方ない、一旦上に戻ろう」

 そう言い、何部屋か引き返すと。

「ん?この部屋に上への分岐なんて有ったか?」

「そういえば…」

 そこはかとない嫌な予感を感じつつ、穴を見ていると。

「…なんか穴から不穏な音が聞こえて…」

 ヘルメットが拾った音が徐々に大きくなり、その直後。

 穴から「カチカチ」「ブーン」と音を立てながら蟲の大群が湧き出てきた。

「あ~、カメレオンがバレたからこういう方法で来たか」

 奇襲を受けたというのに、寧ろ納得な感じだ。

「まあ罠が無いなんて微塵も思わねえもんな」

 マサも同感といった感じで零す。

 他のメンバーも、こうでなくっちゃという感じで、迎撃に移る。


「さてと、いつもならこれで撤退戦だけど…」

 奇襲してきた蟲を軽く捻り、最初の分岐に戻って来る。

「どうやらしっかり対処出来てる様ね」

「敵も味方も学習してるわけね」

 最初の分岐では、多少の負傷者が居たものの、特に動揺はしていなかった。

「お、あそこの掲示板に最新マップが出てるぞ」

 サーモンが端にあるモニターを見つけ、知らせてくれる。

「どれどれ…やっぱ下一直線が正解ルートか」

 地図によると、下に十部屋降りると明らかに空気の違う区画に出るみたいだ。

「そこが深層ですかね」

 ベルが呟くが、取り敢えず行ってみない事には分からない。

 外れの分岐を調べ終わった連中が、ワラワラと戻ってきており、小休止してから続々と深層と思しきエリアに向かって行く。

 俺達もそれに続き、新たなエリアに降り立った。


「確かに雰囲気が変わったな」

 なんというか、より湿度が高まり壁に穴ぼこが激増している。

 そして何より…

「ぐ…手強い!」「誰か助けてくれ!」「つ、強い!強すぎる!?」

 等々悲鳴が木霊している。

 そんな光景を、「ああ、いつものDIYだ」と思いながら、参戦した。

 眼下に広がる巨大な縦穴、その穴底から這い上がって来る巨大な蟲共。

 流石にこの質と物量の前では、安価なドローンなど物の数に入らんだろう。

 ちなみに、流石に蟲側も飛んだり垂直に移動し続けるのはしんどいのか、ご丁寧に螺旋状のスロープが存在するので、降りたら徒歩での帰還が不可、という事にはならなそうだ。

 尤も、一度でも囲まれてしまえば、スロープの有無関係なしに、嬲り殺しで帰還どころでは無いだろうがな。

 俺達は周りの味方の援護に回る為、邪魔にならない場所に陣取る。

 [ドッペルゲンガー]を使い、広範囲を原木畑化する。


 漏れてきた蟲に畑を荒らされながら、キノコを栽培する。

 そしてある程度エノキやエリンギを収穫したところで。

 

「簡易バーベキューセット~」と[簡易錬金窯~](某秘密道具風)

 俺はシンプルなバーナーに網がセットになった焼き台と、錬金窯を取り出す。

 マッドに素材のランクを揃えて貰い、焼き台でキノコを焼き、仲間に手渡す。

 [焼きエノキ]:上質なエノキを焼いた物、LPを50回復。コスト0.1。

 流石茸、腹がまるで膨れないのね。でも僅かでもLPが回復するのはグッド。

 とはいえこれじゃ味気ないのも事実。ってなわけで現地調達のお肉を加え。

 [蝗のキノコ間串]という謎の串焼きが完成した。

 効果はLP回復が50から1%回復になり、満腹度回復が5%ついてコストが0.5になった。

「…テツ君…それ食べるの?」

 ユキが、うげぇ…といった感じで引いている。

 確かに蟲食は抵抗が有るが、これはゲーム、いざ!

 パクっと頬張り、咀嚼すると。

「うーん…ちょっと臭みのある海老を殻ごと食った感じ?」

「また微妙に不味そうな感想だな」

 マサが突っ込んでくるが、本当にそんな感じだから仕方ない。

「うん…ホントだ!臭みのある殻付き海老だ!」

 続いてトライしたマサも、俺に同調したものだった。

 一応仲間全員に行き渡らせ、皆が俺と同じ結論に至った。

 一同「臭い海老だな」


 そんな臭い海老の串焼きを食べながら、持ってきた西瓜で喉を潤していると。

「なあ、その食い物売ってくれんか?」

 なんかプレイヤーに商談を持ち掛けられた。

「構わんが…西瓜は兎も角こっちは旨くはないぞ?」

「ああ、それでいいよ。西瓜が200円、串焼きも200円で良いかな?」

「応、はいよ」

 と、美味い西瓜と、微妙な串焼きを売ったところ、列が出来てしまった。

 俺はスキルを持ってないので、仲間に聞いたら、マッドとおりょうさんがそれぞれ関連するスキルを持ってたので、二人に任せる事に。

 俺は茸を栽培しつつ、地上に戻り拠点で香辛料を買い込み、二人に届ける事で、料理が格段に進歩した。

 こういう時、やっぱ移動速度は重要なステータスだと実感する。


 現在俺達は縦穴の中間あたりに陣を構えている。

 あれから程なくして、料理を扱うクランやカンパニーが縦穴前で屋台を構えたので、お役御免となり先に進む事にした。

 そして縦穴の中間あたりに、良い感じの横穴が有ったので、そこに陣を構えて味方の進軍をアシストしている。

 え?そんな良いポジションをどうやって確保したかって?

 それは一番最初に確保したのが俺達だから、そして方法だが。

「それじゃ、カメキチさんお願い」

「はいよ」

 ズリズリと這いずりながら、横穴に犇めく蟲共に特攻するカメキチ。

「今だ!突撃ー!」

 俺は僅かに出来た隙間から横穴に突入。

「[ドッペルゲンガー]!そして[鍬の一振り]!」

 と順に発動し、更にランタンに持ち替える。

「フゴフゴ」「ピギィ!」[メェ~]

 使い魔の豚や羊が良いタイミングで傍にリポップし、豚がその当たり判定で蟲を穴倉から追い出し、羊が良い感じで引き寄せたお陰で、占拠できたのだ。


 横穴から蟲にちょっかいを掛けるだけで素材が美味しい。

 時折原木畑の下を螻蛄がノックしているが、堅い畑、豚の判定に阻まれ、マサに壁越しに駆逐されるので、陣形は崩れる事は無かった。

「本来は地中からの奇襲で、安地だと思わして…って感じだったんだろうな」

「豚と畑で台無しだな」

 そんな、本来は油断したプレイヤーやNPCに対しての、必殺の奇襲を無に帰す豚。やっぱ最強の使い魔は豚説有るな!!

 戦線にドローンが混ざり始め、屋台が此処まで進出。

「どうやら戦線がさらに進んだようだな」

 収穫したエノキを屋台連中に売りつけ、俺達も下を目指す。

 スロープに収まりきらず、延々と落下していく使い魔達。

 しかし、それも底に辿り着いた事で収束した。


「この先で戦闘音が聞こえる…いよいよか?」

 直感で、この先がダンジョンの終点だと感じる。

「良し、行こう」

 一同「お~!」

 今も、沢山の戦力が突入していっている部屋に突撃した。

「アレがボスか…しかも三体もか…」

 俺達がそこで見たのは、かつて[バグスター]で遭遇した、超ド級蟷螂[ギガントマンティス]が三体も存在している光景だった。

「えーっとっ…オービタルストライクが威力1000万だっけ?」

「ああ、だからLPに換算すれば1000万以下って事だな」

「「「「「…」」」」」

 皆が、これ歩兵でどうにかなるのか?という感想を持った。

「一応サチなら確実にダメージを通せるが…」

「今はインしてませんね」

 俺の呟きに、ベルが無情な現実を告げて来る。

「良し、後方支援でいこう。適当に取り巻きを処理しよう」

 結局いつも通りの展開になった。


「どうしてこうなった」

 適当に端の方で戦っていた俺達。それがいつの間にか最前線に居た。

 先んじてボスに挑んでた勇敢な連中がやられ、気づいたらボス三体が執拗に俺をしゃぶろうと襲い掛かってきた。

 なんでこうなったかは不明だが、おそらく使い魔の毒蛇が原因のようだ。

 こいつ等は攻撃が強力な毒だからな、ボスの耐性を貫いたんだろう。

 お陰で相当にヘイトを稼いだのか、狙われ方が尋常じゃない。

 だが現在の俺の[速度]は21800。簡単には捕まらない。

 そして[ドッペルゲンガー]や豚を駆使して逃げ回る事で、どうにか生き延びる事が出来ているが、余計に怒りを買ってるとも言えた。

「危ねっ!」

 [ギガントマンティス]の鎌が振り下ろされ、それを回避するが、軽い痛みが走ると同時にLPが4万程まで低下した。

「なんで!?避けたじゃん!」

 どうも奴の攻撃は判定が長いのか、それとも見えない斬撃でも飛んでいるのか、避けたはずなのに攻撃が当たる事が頻発している。

 最初前に居た連中も、これでわからん殺しでもされたんだろう。

 そうじゃなきゃ、俺達が戦闘に参加する事は無かった筈だ。

 しかも相手は超ド級だ。歩兵が倒した記録の無い蟲だから、初見殺しに遭ってしまうのも致し方ない。

 まあ、こうなっては総力戦であり、持久戦だ。

 コチラにはまだまだ後詰の部隊が沢山居る。俺達が力尽きてもいずれは物量で押し切れるだろう…なんて甘い幻想は捨て去らなきゃな。

 なんせ常に大量の取り巻きがリポップしてる状況だ。

 敵の心臓部で戦っている以上、物量においても敵の方が有利だから、このままダラダラやっていると、数で押し切られるのはこちらになりそうだ。

 とはいえ、俺達に出来る事は特に無いので、救世主の出現を待つ。


「あれからどれ位経った?」

「二十分程だな」

 俺の疑問にサーモンが答える。

 今俺達は、ボス部屋の横穴に籠城している。

 この部屋、元々は敵のスポーンルームだった様で、蟷螂に追い詰められた俺が、横穴と同じ方法で蟲を掻き出し占拠したが、中には不気味な卵のオブジェクトがビッシリだった。

 そして、それらを全て破壊し、居座った事で、敵の増援が止まった。

 だが入り口を[ギガントマンティス]の一体に固められ、身動きが取れなくなった。

 そんな感じで二十分経ったのが今である。

「どれだけ粘れば良いんだ?流石にずっとは付き合いきれないぞ」

 今の所、粘ろうと思えばまだまだ粘れるが、流石に目途が立たないと、時間の関係上何処かで見切りを付けなければならない。

 皆とどうしようか思案していると、出口から爆音が聞こえて来る。

 どうやら対巨蟲用の戦車が投入されたらしく、その主砲が火を噴いている様だ。

 そしてその火力が遺憾なく発揮され、通せんぼしていた蟷螂が退いた。

 俺達はその隙を見逃さず、何とか味方の陣地まで下がって来れた。


「凄いな…マローダーがこんなに…」

 味方に合流してみた光景は、決戦仕様の超高性能戦車、マローダーが二十両も投入されているという、とんでもないモノだった。

 マローダーに搭載された、銃身が戦車砲並みの口径のデカい機関銃(恐らく五十口径)が、その火力を[ギガントマンティス]に叩き込む。

 これには流石の[ギガントマンティス]も堪らずか、急所を庇いながら後退する素振りを見せるが、多勢に無勢。

 見る見るうちに、その鋭利な鎌が、強靭な肢体が襤褸切れと化す。

 流石にこれだけの攻撃を浴びれば、ボス級の蟲といえど、ひとたまりもないな。

 後は、辛うじて息のある[ギガントマンティス]に止めを刺すのみ…が。

「あれ?」

 何時の間にやら嵐の様な弾幕は静まり、マローダー級が一斉に沈黙した。

 …どうやら弾切れの様だ。なんという中弛み展開!

 そらあんなバカ高そうな弾ばら撒いてら、破産一直線だろうけどさ…。

 ここに来てやっぱ締めくくりは人の手で、なんて展開にするとは。

 弾切れを悟ったのか、気持ち元気になる[ギガントマンティス]

 さあ、決着を付けるとしようか。


「ふう…終わってみればあっさりと片が付いたな」

「まあ、公式で用意したのとは関係無い、ランダム発生のダンジョンだしな。消える時はなんの予兆も無く消えるさ」

「前の薔薇のダンジョンもそうだったな」

 マサとの会話で、以前あったダンジョンを思い出す。

「あの時は[ローズコロナタス]をドロップしたと聞きましたが…今回は誰が止めを刺したんでしょうかね?そして報酬の内訳も気になりますね」

 ベルがダンジョン攻略の特典に触れるが、確かにどうなんだろう。

 三体のボスを、歩兵が倒したのは間違いないが、誰がやったのかは不明。

「うーん、活躍に応じてお金が貰えるとかかしら?」

「そうね、多分そんな感じだと思うわ」

 ユキとアコも期待はしていない様だ。

「なんにせよ、これで砂漠のダンジョンは完全にギルドの支配下になったな」

 戦後処理に追われてか、矢鱈と人の出入りが激しいダンジョンを後にする。


 そしてPAにて。

「おめでとうテツ。止めこそ刺せなかったが、総合貢献度で一番とはな!」

「ありがとう、まさか商売も評価ポイントになるとわな…」

 そう…、あれからギルドに赴き、参加報酬を受け取ろうと思ったら。

「あ!貴方はこちらへどうぞ」

 といきなり受付によって、俺だけ個室に拉致られた。

 個室には、今回のダンジョンの改修事業の責任者を名乗る人物が控えていた。

「いきなり失礼したね、君にはお礼がしたくてね」

 こうして知らされた、今回の俺の貢献度の高さ。

 現場での物資の供給、中間地点の奪取、敵の繁殖エリアの破壊、ボスの誘導etc。

 これらの総合的な貢献度が、戦場にいた全ての歩兵を上回っていたらしい。

「ただ、エネミーの素材は、基本倒した者の物だ。君に渡せるものが無いんだ」

 oh…まあ仕方無いか、流石に止めを刺した人から、取り上げるわけにもいかんしな。

 と納得していたんだが、責任者がこう切り出して来た。

「そこでだ、君の経歴を調べたら、なんと最新かつ最過酷なナノマシン注入治験に参加し、見事に克服したそうじゃないか」

 …治験の被験者情報って、そんな簡単に調べられていいものなのか?

 そんな俺の疑念を余所に、続ける責任者。

「そんなナノマシンだが、実は非常に厄介で暴れ馬的な型が存在してな…君。それに換装してみる気は無いかね?」

 暴れ馬とか言っちゃう危険な代物を、俺に入れると申すか!

 …是非やってみよう!

「そうかそうか!では紹介状を用意するから受付で受け取ってくれ」

 こうして解放された俺は、紹介状を受け取り、PAに戻り冒頭に至る。


「じゃあちょっくら行って来るわ」

 善は急げと言うので、早速紹介状を引っ提げ、診療所へ向かった。

 そういえば、[ゴーレム使い]の引き寄せだが、ボスにも一応効くようだ。ただ効果はそれ程高くなく、気持ち引き寄せてるかな?といった感じの効き目だった。

 でも、思えばこの引き寄せがあったからこそ、余計にヘイトが高かったんだろうな、と今思い返してみて思う。

 おっと、さっきの戦闘を思い返していたら、着いたようだ。

「こんにちは、これを」

 受付に、紹介状を渡す。

 奥に通され、ナノマシンとインプラントの説明を受ける。

「これは初期型の先行量産タイプ…所謂プロトタイプの廉価版なんだが、非常に熱を持ちやすく、激しい振動を発するので、体への負担が非常に大きいのだ」

 おいおい、マジで洒落にならん代物じゃないか!

「尤も、今の君なら少し疲れやすくなる程度のリスクで済むだろうがね」

 ゲーム的に言うと、スタミナの最大値が80%に落ちるらしい。

「だが恩恵は大きいぞ、[ドッペルゲンガー]のアビリティ。あれのクールタイムが半分の五分になると言ったらどうかな?」

 五分!それは凄い!、今以上にホイホイ気軽に使える様に成るのか。

「素晴らしいですね、是非換装して下さい」

 俺は是非にと、換装を申し出る。

「…それでな、実はもう一つプランが有るんだが…どうかね?」

 なんか嫌な予感がするが、一応聞いておくか。

「話だけなら…」

「ウム、ではこれなんだが」

 そう言い、マッドな博士が、資料を映し出す。

「これは先程のインプラントやナノマシンのプロトタイプ、[M199レゾナンスブースター]というインプラントで、同じ素材で出来た[M199ハーモナイズオペレーター]とセットになっている」

 おお!なんか名前がカッコいいぞ!

「結論から言えば、あまりに副作用が強すぎる為、封印されたデバイスなんだが…その効果は正に突き抜けていると言わざるを得ない」

 いや…いくら効果が高くても実用に耐えられないんじゃねえ…。

「多分君でも相当に苦しいだろうが、恐らくは順応できるはずだそうなれば…」

 そうして語られたデメリットは、凄まじいものだった。

 ・スタミナ最大値50%(51%以上には回復しない)

 ・スタミナ回復速度1/10

 ・スタミナ回復量1/10

 これね…[生存本能]があっても、スタミナ50%まで回復するのに、7秒半かかる様になっちゃうとんでもない弱体化だよ。

 だって使い魔がやられたら50%使って復活だからね、つまり7秒半までに次の使い魔がやられれば、事実上歩く以外行動不能になってしまう。

 しかも、最大値が50%だから、迂闊にスタミナ消費行動でもして、超過してしまったら、ペナルティでさらに倍の時間が必要になるから、大変なんてもんじゃない。

 さて。次はメリットだが、此方も凄まじい。

 ・[ドッペルゲンガー]のクールタイムが二分に。

 ・全てのアビリティを強化。

 もうね、ビルドそのものが覆りかねない代物だ。

 現在俺のアビリティは[ドッペルゲンガー]と[種苗袋]。この二つがどう強化されるかは分からないが、今以上に便利になるのは間違いないだろう。

 そして、これから手に入るアビリティにも恩恵があるとすれば、将来性を考えれば、此方に軍配が上がるんだが…。


「ではプロトタイプをお願いします」

「フフ、やはりこちらを選んだか」

 だって世界にただ一つのナノマシンとインプラントだよ?抗えないわ。

「では換装を始めようか」

 …

「完了だ。気分は如何かな?」

「バカしんどいです」

 ステータスを確認すると、スタミナゲージの半分が黒く塗りつぶされている。

「何かあればまた来ると良い、ではお大事に」

「ありがとうございます」

 こうして診療所を後にし、PAに戻った。


「…と言った感じで、とんでもない弱体化を果たしました!」

 一同「え~~~~!?」

 まあ、そんな反応になるわな。

「…でも聞く感じ、まだまだ動けそうではあるわね」

「一応はな、ただ使い魔が一度に沢山やられれば何も出来なくなる」

 まあ覚悟の上なので、そこは割り切っている。

「じゃあ検証に行って来るわ」

 当然の様に皆付いて来た。

 場所は砂漠の僻地にした。


「うおぉ…スタミナ回復が遅ぇ…」

 今まで一瞬で回復していたスタミナが、これでもかとちんたら回復しやがる。

「こ、こんなに復活のテンポが遅くなるのか…」

「これは相当な弱体化ね…」

「範囲攻撃で使い魔がやられたら、ほぼ無力ね」

 口々に感想を述べるメンバー。

「うん、まあ予想通りの結果と言えばそうなんだが…やっぱキツイな」

 気を取り直して、今度はメリットの検証を行う。

「良し始めるか、[ドッペルゲンガー]」

 満腹と保水を五割犠牲に、自身のクローンを生成。

「良し、クールタイムは二分になってるな」

 そしてアビリティの強化を検証するが、特に変化は無かった。

 おかしいな、と思っていた矢先。

「ん?もう30秒経った筈だが…」

 それから少し待ってみて、ドッペルの消滅を確認。再度生成し、効果時間を計ってみると、効果時間が一分に伸びていた。

「…これは強い」

 なんせドッペルが一分生き残れば、もう一分で再使用が可能なのだ。

「こうなると、後衛でドッペルを送り続けるスタイルが安定かな?」

 スタミナ管理がヤバいレベルでシビアになったから、前衛は…。

 なんて思っての発言だったが。

「何言ってんだ?寧ろこれまで以上に前衛向きになったじゃないか」

 とマサに言われる。

「いや、流石に厳しいて」

 取り敢えず、実戦で試してみる事に。


「…」

 スタミナが枯渇し、何も出来ない俺の目の前で、300近い使い魔が敵を理不尽に蹂躙する様を眺めている。

「な?前に居れば今までの倍の数で押せるんだ。前に出ない手はないだろ?」

 一応、俺が後方で生成に専念するパターンも試したが、結果は前に出る方が殲滅が早い分、消耗が少ない事が証明された。

「と言うわけで、テツはこれまで同様前衛だ」

 ふと周りを見ると、皆笑顔でサムズアップしてるので、この身体が激しい攻撃に晒されるのは、今後も変わらない様だ。


「うーん、[種苗袋]の強化は何が変わるんだ?」

 [ドッペルゲンガー]の変化を検証し、[種苗袋]の検証を始めたが、ぱっと見は何も変化がなく、違いが分からない。

 だが作物を収穫したら、直ぐに違いに気づいた。

 [選別された上質な太った大根]:良質な土壌で育った品種改良された大根。料理の質が大幅に上昇。 コスト1。

 という物が収穫できた。勿論選別なんて心当たりがない。

 つまりこれが強化された部分なんだろう。

 …なんだこのチートアビリティは、所持品に入ってる種類の質自体を上昇させる上に、ノーコストノーロストは変わらずとか。

 これは最近伸び悩んでいた料理部門に風が吹くぞ。


 翌日、俺も美雪もこれといって用が無かったので、朝からログインする。

「それじゃ昨日収穫した作物で料理でも作るか」

「「「「お~!」」」」

 先に居たマッドとベッタラを試食兼アシスタントに加え、作業を開始。

 実際の所。リアルな料理の腕前なら、俺やユキの方が二人より上だが、どうもパラメータの構成上、二人の方が適性が高いので、俺らがサポートに回る。

 そして、俺らの指導の元、いつものアレが出来上がった。

 [厳選素材のふろふき大根]:非常に質の高い大根で仕上げられたふろふき大根。 LP回復3% 満腹度回復20%。[満腹度回復10%][満腹度維持] コスト1。

「うん、良いんじゃないか?」

「[満腹度維持]って何?」

 [満腹度維持]は、食べてから十分間満腹度が減らなくなるOP(オプション)の様だ。

「コスト1で満腹度30%回復でこれは良いな」

「ああ…これは売れるぜ」

 味見もしたが、勿論美味しく出来ていた。

「缶詰で一個いくらにするか?」

「このクオリティなら300円でも良いんじゃない?」

「今までの3倍だが、間違いなく売れるな」

「300ならあっという間だな…」

 という事なので、皆でせっせと量産し、缶詰500個分を販売してみる。

 皆でのんびり駄弁りながら、推移を見守っていると。

「お、売れ始めたみたいだな」

 最初のお買い上げから怒涛の売れ行きを見せ、三十分で完売した。


「これは作物の方は無暗に売らない方が良いかな?」

「どうだろう、鮮度も有るし、高値でなら問題ないんじゃない?」

 あまり安く流通させると、自分の首を絞めかねんからな。

 取り敢えず、[選別された上質な太った大根]を一本500円で売ってみる。

 コチラは高値設定も有り、初動が遅かったが一度売れ始めると早かった。

「50本完売か、まあこれなら原価の関係上、うちとの競合は無いだろう」

 失速気味だった金策に、新たな風が吹いた瞬間だった。


 数日後。

「凄いわね、また雨が降ってるわ」

 休日の早朝。DIYにログインするなり、ユキが呟く。

「ホントだな、これで連続何日目だ?」

 なんだかDIYの世界に、梅雨でも到来した様だ。

 さて、この数日間だが実入りが増えたお陰で、大幅にLvを上げる事が出来た。

 覚醒5回、転生5回だったのが、覚醒7回、転生3回のLv100まで上げる事が出来た。しかし溜め込んだ売上金は消し飛んでしまったが…。

 まあ、そんなこんなで今の俺のステータスがコレだ。

 因子:[獣人★★★★][吸血鬼★][農家★][百姓★][聖人][パイパー][養豚家][蛇使い]

 パラメータ:[生命★★]9600 [持久]3200 [積載]3200 [体力]3200 [筋力]3200 [魔力]3200 [幸運★★★]12800 [速度★★]9600 [傀儡]3200 [観察]3200

 スキル:[生存本能]Lv40 [魔導人形]Lv40 [ゴーレム使い]Lv40 [家族蛇]Lv40 [鏡亀]Lv40 [鯉の群れ]Lv40 [甲虫王]Lv40 [ブリキ兵1号]~4Lv40 [マウス1号]~4Lv40 [群鼠]Lv40 [誘導]Lv40 [代行の剣]Lv40 [代行の盾]Lv40 [速度上昇]Lv40 [養豚]Lv40 [過剰肥育]Lv40 [野生の力]Lv40 [品種改良]Lv40 [土壌改良]Lv40 [血の海]Lv40 [不死の眷属]Lv40 [百姓魂]Lv40 [鍬の一振り]Lv40 [蛇壺]Lv40 [蛇笛]Lv40 [体力増加]Lv40 [好反応]Lv40 [生命増加]Lv40 計1360

 となっており、一部割愛したがLPだけは触れておこう。現在のLPは約75kだ。

 色々と強くなっているのは確かだが、スキルLvが下がったので、弱体化している部分も多く、特にスタミナ回復が顕著で、五割回復するのに約7.5sだったのが、8.5sになったのはかなり影響が大きい。

 まあ、こればっかりは仕方ないので、諦めるさ。

 あ、プロトタイプのヘルメットはコストが足りないので今は装備してません。


「ん?なんか外が騒がしくないか?」

 雨音の中、微かに喧騒が聞こえて来る。

「言われてみれば…」

 こんな雨の中、狩りに行くのも躊躇われるが、かといって何もしないんも勿体ないので、野次馬根性で外に出てみる事にした。

 先程より更に激しくなった雨の中、周囲に目を向ければ、同じように同方向へ向かう人々が目に付く、どうやら野次馬は俺ら以外にも沢山居る様だ。

 流れに乗って進んだ先は、最近様になってきた工業地区だ。

 そして工業地区に着くなり、安全地帯では顕現しない筈の使い魔達が一斉にポップする。

 周囲を見れば、同様に戦闘用のスキルなどが有効になってるようで、皆困惑していてざわめきが大きくなっていく。

 そんな状況下で、突如としてアナウンスが発生。

『市民及び入植者の皆様。現在、工業地区で違法行為を行った業者と行政との間で、戦闘が発生中。非武装非戦闘員は直ちに現場から退避せよ。また、戦闘可能な者は行政への加勢を認めるので、自信のある者はその裁量で戦闘に参加して欲しい。以上だ』

 とまあ、随分と物騒な事態に発展していた。

「どうする?」

「他にする事も無いし…参加する?」

 ユキも吝かではないといった感じなので、参加する事にした。


「ぐっ!?」

「テツ君大丈夫!?」

「ああ、だが正直予想外だ。闘技場や墓地以外で人のNPCと戦うのは初めてだが、こんなにも強敵だとは」

 現在俺達は何人かの民兵と一緒に、敵と交戦中。

 敵は裏社会の傭兵なのか、恐るべきハイテク装備を身に纏い、抜群のチームワークでこの市街戦で有利を捥ぎ取っている。

 今も、少し身を晒しただけで、あっと言う間にエネルギー弾の集中砲火を浴び、豚が蒸発し俺のLPも危険域まで低下した。

 だがこちらも只やられている訳ではない。

 俺は何度も[ドッペルゲンガー]を発動し、敵の弾薬を消耗させる。

 ユキは只管瞑想で魔法威力を高め、確殺域まで引っ張っている。

 そしてこちらの三人の民兵も、強者揃いだ。

 先ずは忍者。ステレオタイプな格好で、黒装束に黒頭巾鉢金を身に纏い、短刀を帯びた非常に洗礼された格好だ。

 そんな忍者は、戦闘開始時から気配を隠し、今しがた敵の背後を位置取った所だ。

 二人目はミノタウロスのメイジで、とてもじゃないが「お似合いですね」とは言い難いローブと三角帽子を被り、巨大な盾と杖で、果敢に傭兵と戦っている。

 最後はそもそも人ですらなく(ミノタウロスもそうだが)、プルンプルンと揺れる、黄色と茶色のコントラストが実に美味しそうなスライムだった。

 彼(?)はその軟体な体を活かし、排水溝や雨樋等を伝って傭兵を掻き乱し、かなりの精神ダメージを与える事に成功している。

「俺もスキルLvが50まで上げれれば、[ゴーレム使い]の引き寄せで蹂躙出来るんだが」

 まあ、嘆いていても何にも起きないので、ユキの限界まで時間を稼ぐ。

 そして、その時が来たので、一気に攻勢に打って出る。

「それじゃいくわよ![クラスティーオーブ]‼」

 現状出しうる最大火力を敵の中心に放ち、陣形を分断。

 早速忍者が孤立した奴を物陰に連れ込み、仕留める。

 スライムもいつの間にか移動しており、マンホールから飛び出し一人引きずり込み、穴から何とも言えない悲鳴が聞こえて来る。

 ミノタウロスも、ここぞとばかりに突撃し、大楯で一人跳ね上げる。

 これで敵の連携は死んだも同然なので、仕上げに[ドッペルゲンガー]で完全に分断し、降伏した連中を捕縛して、勝利する事が出来た。


「…我らの勝利だ」

「イイタタカイダッタ」

「プルンプルン」

 と三者三様の言葉で、健闘を称え合う。

「ご苦労、捕縛したものはこちらが責任をもって服役させる、報酬はギルドで受け取ってくれ。ではまた会おう」

 行政の良く解らない肩書の人が、暴徒を連行し、民兵とも別れた。

 民兵たちは、直ぐに他の戦闘区域に向かう様だが、俺達はPA帰還する。

 なんというか、空気がヒリヒリし過ぎて性に合わんのだ。


「ふう、落ち着くな…」

 PAに戻り、さっきの事を振り返る。

「ミノタウロスって喋れたんだな」

 先程共闘したミノタウロスが、喋った事が印象深い。

「今更じゃない?ホーム内のゴブリンやオークだって喋るじゃない」

「うん…まあ…それもそうか」

 ゴブリンやオークが良くて、ミノタウロスがダメじゃおかしいもんな。

「私はスライムの民兵ってのに衝撃を受けたんだけど」

「そうだな…話し掛けると全部「プルンプルン」って震えるだけだしな」

「それで意志が伝わって来るのもどうかと思うけど…」

 先程のやり取りを思い出す。

「えっと…何が出来る?」

「プルンプルン」(狭い場所を伝っての奇襲が得意)

「えっと…スライム…だよな?」

「プルンプルン」(そう、私はカスタードスライムという種類)

 ってな感じで、言葉を発する事は無くとも、意志の疎通は問題なかった。

 ちなみに[カスタードスライム]は、名前の通りカスタードプティングっぽい見た目をしていて、甘い匂いで敵を惑わし、強酸で溶かしたり触手で絡めたりが得意らしい。

 民兵扱いという事は、市民権を持ってるという事だろうが…一体どういった経緯でスライムが市民や入植者になったんだか。

 まあ、バックボーンで語られた、様々な種族の一種なんだろうな、なんせ隠し因子に[スライム]なんてある様だし、きっとこれからも摩訶不思議な人類と遭遇するんだろうな。


「結局さっきの騒動は、悪徳業者の不法投棄が発端みたいね」

 ユキが軽く調べたところ、そんな経緯が有った事が判った。

「それでね、危険な産業廃棄物を西の湿地帯に投棄したらしく、現地の汚染が尋常じゃない位高まり、大変な事になってるそうよ」

「それはまた…ゲートキーパーの大量発生案件だな」

 最近は、浄化システムの確立で、めっきりと遭遇が減った[ゲートキーパー]だが、成程…こういった悪役(ヒール)NPCの暗躍で、出番を増やそうって事か。

 何しろ[ゲートキーパー]は能動的に出現させようとしたら、NPCの顰蹙を買うのは必至で、そこまでして旨味が有るかと言えば…勿論あるのだが、やはり割に合わない事の方が多く、もっと遭遇させてくれと運営に多くの要望が届いていた。

 そして、それに対しての回答が、一区画での出現種類の増加と、NPCが引き起こす偶発的出来事を切っ掛けにしての出現、というわけだ。

 いや、まさか梅雨の視界不良を使った不法投棄とか、一々行動がリアルでセコイのが何とも…これもDIYシステムの開発の為の環境づくりなのか?

 ふと、このゲームの本来の運営目的を思い出してしまった。


「こんにちは」

 カメキチさんとベルがインしてきた。

「二人共こんにちは」

 これで、一応は前衛後衛の概念が出来たので、出撃する事にした。

 行き先は、今ホットな湿地帯。現地で何が起きているかをこの目で確かめるのだ。

 という事でやって来た湿地帯だが、まあ凄い光景がそこには有った。

「ははは…デカすぎだろ…」

「ホント…あの[キングスラグ]がまるで子供だわ…」

 俺達が見たのは、元々広かった沼地が、連日の大雨で、より広くより深くなり、汚染により大量の[キングスラグ]が沸き、その周囲には夥しい数の[ジャイアントスラグ]が、そして…。

「急げ!バリケードを築け!」

「奴をここから出すな!」

 周囲に響く焦りを多分に含んだ怒号。

 無理もない、なんせ[キングスラグ]や[ジャイアントスラグ]達の中心には、天高く聳える超ド級のナメクジが存在するのだから。

 先に駆けつけていたNPCやらプレイヤーやらが、必死に準備をしているが、幸いな事に向こうには今の所動きが無い。

 そしてこの間にも沢山の勇士が駆け付け、現場はお祭り騒ぎに。

 そしてこちらの陣地が完成した頃、遂に向こうも動き出した。


「グポポ…ゴボボボ…ゴバーーーッ‼」

 開戦の狼煙とばかりに、大量の汚泥を周囲にまき散らし、怪獣ナメクジがその全容を露わにし、ホームへの進軍を開始した。

 何でホームへ?というツッコミは無しで、これはそういうものなのだ。

 これに対し、防衛側はありったけの火力を叩き込む。

 しかし、全長50mを超えそうなナメクジには、大した有効打なり得ず、ゆっくりと、だがけっして遅くない速度で、此方の陣地を磨り潰してゆく怪物。

 そして、その周囲には最早雑魚扱いと化した大量の[キングスラグ]、だが元々はボス級の敵だ。

 それが大群で向かってくる上に、[キングスラグ]の取り巻きとして、[ジャイアントスラグ]も大量に居るのだ。質も数も半端ではない。

 最早俺達一般プレイヤーには手に負えないので、戦場の端っこで摘み食いをする算段を建て、素早く行動に移す。

「先ずは距離を取りつつ背後に回ろう」

 ナメクジ軍の正面を避け、距離を取ったうえでその背後に回る。

 すると、読み通りこちらに向かってくるナメクジが出てきたので、迎え撃つ。

 シビアになったスタミナ管理に苦心しつつ、ドッペルを展開し、スタミナが回復する度に畑や水田を拵える。

 こうして、足場と数を俺が確保し、火力はユキが、回復はベル、壁はカメキチが担当する事で、頭数が少ないなりに中々の陣形を組む事が出来た。


 コチラの準備が整うと同時に、ナメクジと本格的な戦闘に発展。

 相当な距離を取ってる事が幸いし、[キングスラグ]は向かってきても精々1~2体。今のユキの火力なら瞬殺出来る程度の相手でしかないので、戦果は上々だ。

「うーん…」

「テツ君どうしたの?」

「なんか嫌な予感がする…」

「奇遇ですね、実は僕もです」

「実は俺もです」

「あ、うん確かにそんな流れを感じるわね」

 野郎三人が口々に不安を吐露し、ユキも何かを察した様だ。

 根拠は無かったが、なんとなく順調に物事が進んでいる時ほど何か起こるのがこのゲーム。大雨と喧騒でヘルメットの集音がイマイチ機能していないのも不安材料だった。

 急いで敵の一団との距離を更に離し、様子見に徹する。

 するとどうだろうか、予想通り大量のナメクジ共が追撃してきた上に、水中から大量のナメクジが姿を現し、さっきまで俺らが居た場所が激戦地へと変貌していた。

「うん、やっぱこうなるよな、なんか周りに人も集まって来てたし、嫌な予感はしてたんだよな」

 視線の先で、俺らの摘まみ食いに便乗してきてた連中が、圧倒的な物量と足元の悪さで蹂躙されていた。

「そりゃ、対策も無しに沼地に入ればああなるわよね」

 まあ、戦場でのミスは自己責任。俺らには関係ない事だ。

 仕切り直して、改めて距離を測り陣地を構築した。


「そろそろ良いんじゃないか?」

「そうですね、十分な戦果だと思います」

 俺の提案に、ベルを筆頭に賛成したので、帰還する。

 摘まみ食いの後半は、どんどん沼地に寄って来るナメクジを避け、陸地に上がって取りこぼしを美味しく頂いていた。

 ちなみに、このナメクジ戦では戦車などの兵器は使えない様だ。

 正確には、湿地帯付近で戦車等の兵器を使うと条件を満たす様で、鬼強な新種の[ゲートキーパー]が大量に湧き、兵器群があっと言う間に駆逐されたらしい。

 そんなんだから、この怪獣退治は歩兵のみで完遂しなければならない。

 ただ、ホーム周辺でならこの制限も無いようなので、取り敢えずホームの陥落は無いと思って良いだろう。

 厳戒態勢のホームに戻り、不要な素材を売り払いPAに帰還した。


 あれから少し時間が経ち、廃棄物の不法投棄を行った連中は処刑され、雇われていた傭兵共も闘技場での強制労働の刑になったと報じられた。

 ナメクジ軍団は相変わらず沼地を占拠しており、緊張は続いている。

 さて、今PAには全員が揃っていて、何をしようかと相談中だ。

「ナメクジ退治。東の大陸調査。砂漠の僻地の攻略。どれにする?」

 他にも地底湖や[バグスター]も候補に上がる。

 最終的に選んだのは、やはりナメクジ退治で、当然摘まみ食いが目的だ。

 全員で工業地区から外に出て、森を迂回して湿地帯に向かう。

「お、やってるやってる。メインディッシュは人任せにして、俺らは前菜のバイキングといこうか」

 前線を無視し、先程と同様に敵の背後に展開する。

 今度は教訓を活かし、更に距離を取ってからちょっかいを掛けた。

 さあ、摘まみ食い第二ラウンドだ。


 いや~、凄まじいナメクジパラダイスだ。

 もう沼地は一面ナメクジだらけで、いい塩梅を探るのに苦労したが、その甲斐あって今はいい具合におびき寄せる事に成功した。

 [ジャイアントスラグ]に時々[キングスラグ]が混ざり、此方に攻めて来るがその都度駆逐し、かなり稼げている。

 ただね、こんなふうにイベントで、雑魚をしゃぶってるのがお気に召さないのか、いつの間にか沸いた[キングスラグ]の色違い(通常は濁った白色でこいつはピンク色)に背後を付かれ、乱戦にもつれ込んだ。

「チッ!色違いだけあって相当強化されてやがる」

 通常の[キングスラグ]なら、ユキの最大火力で一撃で終わるのに、こいつは既に三発も撃ち込んでいるのに、未だ発狂にすら至っていない。

 周りに便乗されたくないからと、距離を取ったのが裏目に出た。

「自業自得とはいえ、援護が期待できないのはキツイな…」

 まさかこんな強敵が潜んでいるとは…しゃぶってたと思ったらしゃぶられてたって事か。

 こうなってしまっては稼ぎどころではない、何とか脱出しなければ。

「陸地までは…全然距離が足りないな」

 退避するにも、足場である水田が陸地に届いていない。

「誰か時間を稼いでくれ、水田を陸に繋げるまでで良い」

「任された!」

「ヒヒ…凍らせれば少しは止まるだろう…」

 俺の要請にカメキチとマッドが名乗り出て、前に出る。

 ちなみにカメキチさんだが、鈍足+匍匐で水場での行動は平気なのかと思うだろうが、彼は水中呼吸も可能で、落下ダメージも無効化出来ると言い、前衛としてあらゆる攻撃手段に耐えうる耐性を獲得してるとの事だ。

 その代償が移動速度の超鈍足化だから、正直真似は出来ないな。

 二人が殿を務めてくれる間に、[鍬の一振り]をスタミナ管理をしつつ発動し、徐々に足場を広く長く確保する。

 ただどうしても、当たり判定の塊である豚が復活にスタミナをバカ食いするので、今までよりは効率は格段に劣る。

 その分、[ドッペルゲンガー]の展開が非常に長く頻繁になった為、俺以外のメンバーは戦闘が楽になったと喜んでいるが…。


「はあ…何とか危機を脱したな…」

「そうね、まさか強力な色違いが奇襲を掛けてくるなんてね」

 あれから際どい戦局を乗り越え、無事陸地にまで退避した。

 そして色違いの[キングスラグ]は、沼地を出ると水中に沈んで消えていった。

 決して地の利を捨てない習性の様で、誘き出す事も出来ないらしい。

「仕方ない、後方支援に回るか」

 摘まみ食いは却って効率が悪いので、前線の支援に回る事にした。


「場所は…この辺なら邪魔にならないし、溢れた雑魚も来てくれそうだ」

 現在俺達は、前線の一歩手前で農耕に従事し、前線の側面をカバーする形で陣を敷いている。

 主力商品の大根や西瓜を収穫しつつ、寄って来たナメクジも適度に駆除。

 安定してる分、さっきの摘まみ食いより効率がいい気がする。

 結局は奇をてらうより、堅実な行動こそか一番という事か…。

 ある程度の収穫を得たら、ホームに戻り仕分けをしてまた戦線復帰。

 これを繰り返して寂しい懐を順調に潤していった。

 そんな事を暫く続けていると、主力部隊がボスを発狂まで追い込んだ。

 予想通り、[キングスラグ]が無限湧きし始め、ボスに吸収されにワラワラと集まって来る。

 その中には、低確率だが色違いも混ざり、最前線は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 そんな光景を尻目に、俺達はマイペースに稼ぐのであった。


「お、決着が着いたようだな」

 最前線から勝鬨が聞こえ、ナメクジのボスが討たれた事を知る。

 終ぞ俺達が本格参戦することなく、ナメクジ騒動に終止符が打たれた。

 一応原因を作った、下手人の確保には多少は噛んだので、貢献はした筈だ。

「さ、撤収撤収。一応ギルドから謝礼も出る様だし一応立ち寄っておこう」

 こうしてメンバー総出で戦利品を持ち帰り、ギルドで報酬を受け取る。

 思いの外雑魚処理が評価され、一人頭10万の報酬を受け取り、不要な素材の売却でも10万の収入を得る事が出来た。

 そして、いつの間にか雨も上がり、久しぶりの快晴となった。

 これで沼地の水嵩も、じきに元に戻るだろう。

 皆で休憩を挟み、次の行き先などを決める。

 そして目的地も決まったので、一旦準備時間を設ける為、五分後に集合となった。


 五分後。

 皆の準備も整い、[バグスター]のダンジョンに向かう。

 砂漠の地下ダンジョンを制圧した事で、車両の整備性が格段に向上し、他に回せる戦力が出来たので、行政の次のターゲットが、[バグスター]のダンジョンの様だ。

 そんな経緯で、現在これでもかと戦力が投入されていダンジョンを、攻略される前に見ておこう、というのが決め手となった。

 だが、現地についてみると思っていたのと様子が違った。

「どう見てもボロボロだし敗走してるよな?これ…」

 ダンジョンの入り口付近に、大量に屯する傷病兵。

 見てるだけじゃ分からないので、ギルドの派出所に聞いてみる。

「こんにちは、これは一体?」

「こんにちは、あんたら助っ人かい?かくかくしかじか…」

 と職員が語ってくれた内容がコレだ。

 砂漠のダンジョンの接収に成功し、手の空いた者を此処に派遣。当初は攻略も時間の問題だとイケイケムードだった。

 そして最初は士気に違わぬ勢いで進行していたが、ある時奴が現れたという。

 その奴が何かははっきりしないが、どうも魔物(クリーチャー)化した蟲を侍らせた、怪物(モンスター)化した蟲が登場し、瞬く間に戦況をひっくり返したそうだ。

 それにしても怪物化か…、少なくとも[ゲートキーパー]級の補正を受けた蟲が、地下深くの暗闇で襲って来るのか。

「俺達も必死で抵抗したが、やはり歩兵メインの編成では無理だった。アレを打ち倒すには最低でも主力戦車が五十両は無くては…」

 主力戦車…それはこのゲームにおける最強の地上戦力。

 マローダー級に勝るとも劣らない地上戦力の双璧を成す存在だ。

 コードネームはデストロイヤー。マローダーとの違いは、彼方が定点火力要員として非常に優れているのに対し、此方は機動戦に主軸を置いた設計で、汎用性はこちらに軍配が上がる。

 更にフォルムも特徴的で、非常に薄い車体で、車高は精々1m程度だ。

 だがその装甲は堅牢極まりなく、機動力も高い為、被弾面積の小ささと被視認性に優れ、実質的な防御力はマローダーを遥かに凌ぐ。

 欠点を上げるならば、砲塔が固定式であり、背後側面頭上を取られた場合の火力が無いに等しい事だろうか。

 そんな主力戦車が五十両か…もう生身じゃどうしようもないな。


 さて、現状は把握したので、観光がてらダンジョンに入った。

 そして少し進んだところで戦闘中の一団に遭遇した。

「援軍か!?助かった!」

 と、なし崩し的に強制参加させられてしまった。

 それでもまだまだ上層部分、敵も見慣れた蟲ばかりだったので、これといって語る事も無いまま敵を駆逐した。

 助けた一団に感謝され、彼らは脱出していった。

「どうやら逃げ遅れた連中が居るみたいだな」

 マサの言う通り、まだまだ孤立した兵士が地下に取り残されてようだ。

「テツ君どうする?」

「…行けるとこまで行ってみるか…」

 ユキの問いに、俺達の出来る事をすると答え、再び地下を目指す。

 虫の知らせと言うか、嫌な予感がしたので、一応下層に通じてない部屋も調べたのだが、まあ予想通りと言うか…やっぱり伏兵が居たわけで…そいつらを処理してから一段下層へと降りる。


「この度はご助力感謝いたします」

 結局、計五組を救出したとこで限界が来たの撤収した。

「なんか疲れたな…」

 PAに戻り、のんびりしながらチェストを整理する。

 大幅に容量が増えてるチェストを改めて見ると、実に多くの品々が出て来る。

(そういえば近々アプデがある様だし、不要な物を売って換金しておくか)

 噂では、次のアプデは小規模だが、成長限界の解放がある様だ。

 それなら先を見越して、早いとこ現在の限界の覚醒九回転生九回Lv100になっておき、アプデと同時に先に進みたいところだ。

 そのためにもすっからかんの資金を確保する為に、不要な貴重品を放出する事にした。



次回も一応二週間程で。

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[良い点] 面白い。キャラの強さが良い塩梅 [一言] 定期的な更新ありがとうございます。
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