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第十六話

~前回までのあらすじ~

仲間の相次ぐリビルドに、大奇人集団の[シャドーダイバー]との邂逅。

テツの周りは更に賑やかになっていく。

 二人の新ビルドを確認し、再び進む一行。

「ところでシルクが使うのは網だけなのか?」

「そうですね、一応クッションなんかも作れるです」

「クッション…使い道は?」

「壁に付けて…拠点防衛用?」

 まあ、戦闘中のクッションの有効利用なんてそうそう浮かばんわな。

 道中見つけた鉱脈を、パミルが一瞬で掘り尽くすのを見学したり、シルクが網を使って簡易的な罠を仕掛けながら進んでいると。

「あ、何かが罠に掛かったみたいです」

 シルク手製の罠の場所まで戻ると、ワームが網に絡まっていた。

「コレ、不意打ち防止にも便利ね」

「そうですね、細工も何か戦場で役に立つ方法がないものか…」

 素直に感心するユキに、本業の細工が戦闘に活かせていないパミル。

 パミルは、あくまで採掘を昇華させて、戦闘でも活躍できるようになったので、シルクの様な本業の縫製で戦闘に貢献できるのが羨ましいのだろう。

「まあ、パミルは圧倒的な採掘効率と重い一撃を手に入れたんだ。なんでも欲しがってたら器用貧乏まっしぐらだぜ?」

 俺のフォローに、シルクも便乗し。

「そうです、寧ろ私も超火力が欲しいです」

 隣の芝生はなんとやら…ってな。


「良し、この部屋を起点に採取を始めよう」

 大分奴らの生活区画まで近づいたのか、脱ぎ捨てられた繭や蜘蛛の糸のシンボルが増えてきたので、ここ等で採取に専念する事にした。

 採取は俺とシルクが行い、ユキとパミルが邪魔者を相手する。

 俺とシルクは、互いに[幸運]持ちで効率も良いし、使い魔をタンマリと連れているので、直接戦闘に関わらなくても貢献できるのは便利だ。

 そのまま採取に精を出し、付近の資源を取り尽くしたので上に戻る。

 今度は採掘場でパミルと採掘を行う。

「やっぱ専門家は速いな~」

 つるはしが大幅な進化を果たした、パミルの採掘速度は異常だ。

 大体がシンボルへの一振りで完了し、戦闘に復帰したので、シルクとユキも少しばかり採掘をして、PAに帰還した。


 休憩の為、一旦ログアウトした俺達は、本宅へ向かう。

「あらお嬢様、哲也君、おやつですか?」

「ええ、頂けますか?」

「はい、少々お待ちください」

 家政婦の宮原さんが厨房へ向かい、パンケーキを持ってきた。

「それでは何かありましたら」

「ありがとうございます」

「ありがとう、宮原」

 俺と美雪がお礼を言い、パンケーキを食べ始める。

「昼のおやつがパンケーキは贅沢だよな~」

「そうね…作ってくれる人が居てこそだものね」

「そうだぞ、美雪も機会が有ったら料理は練習しといて損は無いぞ」

「それは私への挑発かな?」

「何でそうなる…」

「いや…どうせお嬢だから料理なんて出来ないだろう?っていうディスリに聞こえたから」

「其処までは思ってないが、でも料理出来るのか?」

 俺が誤解を解きつつも、少々揶揄ってやると。

「む!なら今日の晩食、首を洗って待ってなさい!」

 そう言いパンケーキを間食し、厨房へと行ってしまった美雪だった。


 その晩。

「はいこれ、私が揚げたフライドポテト。食べてみて」

 食卓には、美雪が調えたという料理がズラリと並んでいた。

「おお!今日は美雪の料理か、久々だな」

「いただきますお嬢様」

 何度も美雪の手料理を食べた事が有るのか、普通に食べ始めるおじさんと亜紀を見る限り、普通に美味しいのだろう。

「じゃあ頂きます」

 俺も美雪に突き付けられたフライドポテトを口に入れる。

「どうかしら?」

 自信たっぷりで聞いてくる美雪。

「…思ってた以上に美味くて吃驚だ」

「私ってばこれでも料理が出来る女子なのよ」

「そうだな、本当に美味い」

 美雪が揚げたフライドポテトはシンプルな皮付きだが、手間が掛かっていて実に美味い。

「二度上げで外はカリっと中はねっとりに仕上がってるな」

 これが簡単そうで、中々に難しいのだ。

 一度目に適度に火を通し、保湿しながらしっかりと冷ますのがコツなんだが、難しいんだよな。

 他にも肉じゃがや鶏胸のソテーなどもあり、どれも美味しかった。

「凄いな、その年でこれだけ立派に用意できれば上等だ」

 疑った手前、ここはしっかりと褒めておこう。

 そうして美雪を見たら、なんかやれやれといった顔をされた。

「まあ、哲也君ならそんなものよね」

 なんかもの凄くディスられた気がするが、スルーした。

 そしたらまた苦笑しがちに溜息を吐かれた。なんだよ~。

 ふとおじさんと亜紀を見たら、なんか生暖かい視線を向けてきた。

 うーむ…やっぱりここはスルーしておこう。

 美雪も機嫌が悪いわけでも無いので、そのまま休憩に入った。


「それにしても哲兄はダメねー」

 離れに戻り、寛いでる俺に亜紀が突っかかって来る。

「なんだ?これで何時でも嫁に行けるな、とでも言えば良かったか?」

「!?」

「…俺が何を考えてるか…察してはいるんだろう?」

「哲兄…分かったわ…」

 俺のこの一言で察した亜紀は、あっさりと引いた。

 全く、湿っぽいったりゃ無いな…。


「さあ、ゲームよゲーム!」

 甜瓜とツナ缶を肴に呑んでたら、美雪と亜紀が襲撃してきた。

 PC立ち上げながら、美雪が話し始める。

「やっぱ私もビルドを見直すべきかな?」

「ん?」

「ここ数日で、クラフト組がリビルドしたじゃない、それを見て私ももう少し防御面を改善したいなってね」

 これは答えに困る問いだな。

「美雪の今のLvは?」

「えっと…4300よ」

 覚醒三回の転生二回か。

「まあ、火力が十分だと思うなら[獣人]とか[兵士]を取るのも手だぞ」

 [兵士]とは、Lvアップ時に[体力]を5上昇させる因子で、取得するとパラメータの[体力]が強制取得されるが、スキルも強力で[丈夫な体]はLv毎に[体力]が10上がると言う破格の効果で、[奮起]はCAで、効果は一定時間HPが回復し攻撃力が上昇する、非常に使い勝手の良いCAだ。

「え?[奮起]って魔法の威力も上がるの?」

 横から亜紀の疑問が飛んでくる。

「ああ、というかダメージが上がるって方が正確だな、一応攻略サイトでは記載されてからそのままだから、間違いないだろう」

「[兵士]か…悪くないわね、他にはないの?」

「俺もそこまで詳しくないから、後は自分で調べるか他の人にも聞いてくれ」

 そうして美雪が納得したので、ゲームを始めた。


「「「こんばんは」」」

 早速ユキが転生や覚醒の為に金策すると言い、アコと出て行った。

 俺も現状の資産と、ストックしてる売上金を確認する。

「うーん、まだ丸っと覚醒出来る金は無いか」

 何しろこのゲーム、転生直後や覚醒直後は、その直前に比べて一気に弱体化するからな、如何に金を貯めて、弱い時期をすっ飛ばすのかも攻略の肝となっている。

 現状の資産では、五回覚醒五回転生から、六回覚醒九回転生Lv100まで上げ切るのは無理なので、Lv上げはまだ暫くお預けだ。

「テツ、[シャドーダイバー]から誘いが来てるが行くか?」

 この誘いに俺とマサ、ベルとサーモンが乗った。


「今日もお願いします、何処に行きますか?」

「宜しく、お任せします」

 行き先を[シャドーダイバー]に丸投げする。

「では[アニマル]に行きましょう」

 何か目当ての素材が有るようなので、[アニマル]に向かう。


「実は[ラーテルの皮]が欲しいのです」

 レイナさん曰く、[ラーテルの皮]は非常に丈夫で靭性にも優れ、是非Gスーツの新素材に取り入れたいそうだ。

 さて、目当てのラーテルだが、ホームから出た瞬間に見つかった。

「あれで隠れてる心算なのが可愛いよな」

 通常サイズのラーテルなら、問題なく潜めるだろう茂みに、アフリカゾウより二回りは大きいラーテルが隠れて?いた。

 標的も無事みつかったので、早速狩りに向かう。

「ラーテルは尋常じゃない堅さの背中に、毒にも非常に強い耐性が有る厄介な相手です。それに巨大化で堅くて強いので、慎重に行きましょう」

 このメンツだと、マサとベル以外は前衛を張れるので、遊撃5前衛2後衛2で挑む事にした。

 少しずつにじり寄り、引き寄せの範囲に入った事で、ラーテルを拘束。

 直ぐに使い魔の一斉攻撃が始まり、[魔導人形]の麻痺光線で動けないラーテルが、ボコボコにされてる光景を眺める。

 だが、そこは超巨大化の恩恵か、集中砲火をものともせずに、反撃で次々と使い魔を屠るラーテル。

 俺は[鍬の一振り]でラーテルの足元に無理矢理畑を作る。

 足元に突如として出現した畑に困惑するラーテル。

 それをランタンで弱体化させつつ使い魔を嗾け続ける。

 流石に余裕が無くなったのか、掴んでた手を倒し、逃走を図ろうとするラーテルだが、即座にリスポンした手に再び拘束され、程なく素材と化した。


「うん、[ラーテルの皮]が手に入ったぞ」

 ドロップ率は決して高くないのか、俺以外で入手した者は居なかった。

「うーん、思っていたよりも渋いわね…」

 単体での強さが桁外れのこの[アニマル]で、狩りマラソンは確かにしんどい。

 そして何より、このメンツの火力の低さが問題だ。

「なんせ一番火力が有るのがマサで、次点がサーモンだもんな」

「うーん…最近皆が何かしらリビルドして変化してるし、俺もそろそろビルドの見直す必要があるのかもな」

 と、そんなことを呟くマサ。

「僕も考えさせられますね」

 ベルも思う所がある様だ。

「マサは確か[斧取]で武器コストが0だろ?武器の強化は?」

「勿論武器の強化は続けているが…これもどんどん素材のハードルが上がって、現状身動きが取れないんだ」

 そして資金の問題もあり、Lvも上げなきゃだから、コストが0になるからと、強化を続けられるわけではないのだ。

「ベルは現状の何が不満なんだ?」

「やはり手数の少なさですかね」

 まあ、ヒーラーがいざという時に回復出来ないじゃ困るからな。

「手持無沙汰の解消か…俺は農業にしたけど…」

「そうですね…そういう直ぐに止めれる作業は良さそうですね」

 そんなとめどもない会話をしながら、ラーテルを狩っていった。


 暫くラーテル狩りをし、目標数の確保に成功した。

 ホクホク顔の[シャドーダイバー]と別れ、PAに戻って来た。

「マサは何を見てるんだ?」

 何やら検索端末を凝視するマサ。

「ああ、何かいい武器が無いか出品を確認してるんだ」

「ちなみにどういう武器が良いとか有るのか?」

「一応手軽に振り回せる手斧なんかが良いなと」

 成程、どうせリーチは因子で補えるんだし、機能性抜群の手斧が有れば色々捗りそうだな。

「もしかして、クッソリーチの長いナイフ的な運用がしたいのか?」

「ああ、流石だな、その通り。今までは、折角の広範囲を活かそうと無駄に横降りに拘ってたが、手斧二刀流で、直線のリーチだけ長い方が効率が良いんじゃないかと思ってな」

「それはまた難しい判断だな、一度に複数の敵にダメージを与える事を取るか、単体に対してダメージを取る事を取るかだな」

 でも、二刀流で隙の多い横降りを止めるなら、確かに火力は上がりそうだ。

 結局はマサが決める事なので、その場を離れる。


「どうだユキ、なんか変わったか?」

「バッチシよテツ君、早速見てみる?」

 ユキのリビルドのお披露目に立ち会う事にした。

 これにビルドの検討中のマサとベルが同伴した。

 場所は砂漠の僻地にした。

「それじゃ見ていてね」

 そう言ってユキが一人前に出る。

 早速足元からの奇襲を受けるユキ。以前なら即死しているが…。

「おいおいマジかよ…耐えてるぞ」

 マサが信じられんといった感想を漏らす。

「もしかして[岩の鎧]か?」

 何やらユキに岩の様なエフェクトが掛かっているうえに、被弾時の音にアーマーが削れる音が混ざっているのが聞こえる。

「正解よテツ君。今の私は五回覚醒の七回転生のLv100で[魔力]は軽く5万は超えてるわ、その状態で[岩の鎧]を使えば…」

 そうユキが言い掛けた時。

「バギィン!」

「「「「あ…」」」」

 [岩の鎧]のエフェクトが不吉な音と共に消え…。

「あばばばばばばば」

 俺達はフルボッコにされるユキを只々見ていた。


「…かなり堅くなれるけど、油断は禁物だわ」

 死に戻りしたユキと合流し、再開時の第一声がこれだった。

「まあ、それなりに堅くなったのは解った」

 と、軽く煽ったら不貞腐れてしまったので、再度付き合う事に。

 というわけでTAKE2。

「おいおいマジかよ…耐えてるぞ」

 マサが信じられんといった感想を、棒読み気味に漏らす。

「もしかしなくても[岩の鎧]だな」

 めんどいので適当に演じる。

「正解よテツ君。[魔力]は5万を超えてるけど油断は禁物よ」

 一番やる気の無かったのはユキだった。

 でも取り敢えず前回のチェックポイントまで来たので、ここからは真剣に。

「だから下がりつつ…[奮起]発動!」

 どうやらおすすめした[兵士]を取得したみたいだ。

 蟲の総攻撃で[岩の鎧]が破られ、さあ大変ってなるところだが、今度は奮起により回復し続けるHPが盾となっていた。しかし…。

「あばばばば…」

 俺達は再びフルボッコにされるユキを只々見ていた。 


「「「「…」」」」

「…と言っても幾らHPを盛ったりARMを確保しても、毒や酸には無意味だから過信は禁物よ」

 再び合流したユキの第一声がこれだった。

 まあ敵には蠍等の毒蟲も多く混じってるからな。

 少し[獣人]を混ぜた程度じゃ即死は免れない。

「まあ相手が悪かったな、けど堅くなった事は伝わったぜ」

 一応フォローを入れておく、身体を張ったボケは十分堪能した。

「それにしても[岩の鎧]はとんでもなく堅いんですね」

 ベルが指摘した、[岩の鎧]の堅さについて触れておこう。

 [岩の鎧]は、[魔力]の値×スキルLvのARMを一時的に得るもので。かなり強力だが移動速度低下のペナルティと、クールタイムが長い制約が有る為に、強力だが必須とまではいかない魔法という立ち位置だ。

「ええ、確かに堅いけど…油断すれば見た通りの結果になるわ」

「[岩の鎧]のARMは自動回復はしないんだな」

「うん、それに効果時間も一分と短いのよね」

 しかもクールタイムは五分と少々お長めで、思考停止は許されない。

「更にスタミナ消費が80%でリチャージラグが十秒も有るわ」

「80%の十秒…重いし長ぇ…」

「成程…守りとしては確かに強力だが、使い手が少ないのも納得だ」

 マサのこの一言が色々と物語っているな。


「で?結局は[奮起]の方が本命なのね?」

「そうよ、テツ君の言った通り、魔法にも効果が乗ったわ」

 ちなみに[奮起]の具体的な効果は、ダメージの10%アップとHPの秒間1%回復というもので、CALvで効果時間のみ伸びていく。

 そしてリチャージラグは無く、クールタイムは五分だそうだ。

「今の私の[体力]は4万越えしてるから、[奮起]はかなり使えるCAよ」

 秒間HPが400回復しつつ火力も10%アップか…強いな。

「あと、さっきは微妙な所しか見せれなかった[岩の鎧]だけど、[バグスター]とかで蟲に連れ去られる時には一時しのぎに使えて便利よ」

 ああ、身動きが取れない時に最後の足掻きに使うのね。

「兎に角これで守りもそこそこになったし、前衛は無理だけど、いざという時には自衛に賭ける意味が出てくる程度には、堅くなれた筈だわ」

「そうだな…大型の敵の連れ去りとか、今後俺の[ゴーレム使い]の様な、引き寄せを使う敵が現れる可能性は高いしな、火力の要が短時間でも自衛できるのは心強い」

 伝えたかったことが伝わり満足気味なユキ。

 すると、今度はアコがリビルドしたからお披露目すると言った。


「それじゃ始めるわね」

 言うや取り出した竿上の物体を砂に突き刺すアコ。

「これは旗を使ったスキル…旗技(フラッグスキル)で、[聖域の御旗]というスキルよ」

 旗技とは、旗を触媒に発動するスキルで、効果は様々だが、共通しているのは持続型であり範囲効果型で有る事だ。

 [聖域の御旗]は、一言で言えば敵を拒む結界で、敵が範囲内に入るのを数舜だけ遅らせる効果が有る様だ。

 更に取り出した小さい旗を弓に番えるアコ。

「成程、矢を旗に加工したのか」

「そうよ、ルーン文字を書き込める箇所が羽部分しかないから、効果は凄く低いんだけど、旗を射出できるのは中々便利よ」

 番えた旗を素早く射り、敵集団の手前に着弾した。

「これは[挑発の御旗]で、敵を引き寄せるスキルよ」

 説明の通り、旗の着弾地点に敵が群がる。

 そこからは実に手際よく、敵を仕留めていったアコ。

 持ち前の素早さと、[聖域の御旗]を駆使して敵を翻弄。

 危なげなく蟲を駆逐してみせた。


「とまあ、こんな感じよ」

「なんか凄い火力が出てた気がするが…それも旗の効果か?」

「その通りよ。旗技の効果を高めるパラメータ、[御旗]の専用スキルで、[アウェー]ってスキルが有るんだけど、これで範囲内の敵の防御力を下げれるのよ」

 はえ~、旗技そのものの効果とは別に、そんな効果も付与できるのか。

「他にも範囲内の味方の防御力を上げる[応援団]ってスキルも有るわ」

 そして残り二つのスキル、[大旗]と[サポーター]はそれぞれ範囲と持続を伸ばすスキルとなっている様だ。

「旗の性能は、基本文字を書き込める布部分の大きさで決まるのか?」

「基本的にはね、勿論素材の質にも依存するけどね」

「じゃあ、矢を加工した旗は…」

「ええ、殆どデバフ専用って感じね」

 それでも遠隔攻撃で、敵の防御を下げれるのか。

「さっき私とアコで[キングスラグ]を倒して来たけど、[瞑想]とデバフで一撃で仕留める事が出来たから、恩恵は大きいわよ」

 ユキの補足情報で、大まかな強さが判った。

「でも、矢に加えて旗も持ち運ぶのか…」

「うん、コストが嵩むったらありゃしないわ」

 でも「これくらいのデメリットは甘んじて受け入れるわ」と、アコも今回のリビルドには満足している様子だった。

 二人のリビルドのお披露目も終わり、良い時間なので帰還してログアウトした。


「それじゃ、私は早いから先にお休みするわね」

「お休み亜紀」

「お休み」

 亜紀が本宅に戻り、美雪と二人っきり寛ぐ。

「どうしたの?さっきからタブレットとにらめっこして」

「ん?ああ…消耗品の在庫管理だよ、明日近所の量販店にでも買いに行こうかと思って、欲しいものをピックアップしてるんだ」

「へ~哲也君はマメなのね」

 これは幼いころの親父の影響だな。クリップボード片手に在庫チェックをする親父を何度か見たことあった俺は、普段から消耗品の数を把握する癖が付いていた。

「ついでだ、美雪も何か欲しいものは有るか?」

「うーん…」

 考え始めて沈黙する美雪。

「無いなら無理に考えなくて良いよ、それに宮原さんも居るしな」

 普段必要な物は、家政婦に頼むだろうし、聞く意味は無かったかもしれん。

 その後、美雪も就寝の為退出したので、俺も寝た。


 今日はこれといって急務も無く、朝から時間が出来た。

 朝食を頂き、おじさんと亜紀は本社へ、美雪は勉強とそれぞれするべき事に向かったので、俺も買い物に出掛けた。

 色々と買い込んで帰宅した頃、お待ちかねの物が届いた。

「では商品の方はこちらで宜しいですね?サインをお願いします」

「はいどうぞ、ご苦労様です」

 郵送者を見送り、早速梱包を解いていく。

「…これで良し…と」

 目の前には、新品ピカピカのマッサージチェアが鎮座している。

「どれどれ…」

 試しに座ってお任せコースを選択した。


 2時間後。

「…は!いつの間にか眠てしまった」

 今の時計を見ると、丁度天辺を指していた。

「もう昼か…」

「おはよう哲也君、ぐっすり眠ってたわね」

 いつの間にか美雪がDIYで遊んでした。

「ログアウト…っと。さあ、お昼ごはんにしましょう」

 こうして寝ぼけ眼で本宅へ向かった。


 昼食後、仕事用のPCを確認。

「少しだけ仕事が有るな、片付けるか」

 およそ二時間掛け、仕事を片した。

 居間に向かうと、美雪が黙々とゲームをしているので、俺もログインした。

「ユキは…出てるのか」

 さてどうしようかと考えてると、巡回のアラームが鳴る。

「ナイスタイミング、じゃあ行って来るか」


「おおお!?」

 墓地に着くと、とんでもない量のアンデッドが沸いていて、大勢の[ジャックオーランタン]と一進一退の攻防を展開していた。

 見知った顔が見つからないので、取り敢えず戦場の端っこに参戦した。

 周りに味方も居なければ、アンデッドとも距離が有るので、先を見据えて畑を沢山拵えておくことにした。

 俺としては、これだけ大規模な浄化作業になるなら、ガッツかずに脇役に徹する心算だったんだが…思わぬ誤算が発生。

「な!何で急にこっちに向かってくんだよ!」

 せいっ!と[鍬の一振り]を発動し、幅4m長さ10m強の畑を作ると、離れたところに群がっていたアンデッド共が、くるっとこちらに振り返り、大群で向かって来た。

 アンデッドの大半がゾンビだが、少数だがレイスも混じっていた。

 ゾンビの襲撃で、次々と作物は荒らされ、被害が拡大するが幸いな事に、高価な種はチェストに突っ込んでいるので、金額的な損害は大したことなく済んでいる。

 ここで思い付きで行動を開始する。

「このまま畑を作りながら移動したらゾンビも付いて来るのかな?」

 折角[パイパー]の因子も有る事だし、ハーメルンの笛吹きならず、[アース]の鍬振りをしてみる事にした。


「うはっ、これは楽しい!」

 墓地から人が居ない方角へと、徐々に徐々にと畑を作って行く。

 すると面白いように釣られるアンデッド共。

 先頭が鍬さえ振って無ければ、まるでハロウィーンのコスプレ進行、又は百鬼夜行の様な光景だな。

 ある程度アンデッド共を引き付けたところで、切り返し墓地に戻る。

 そもそも墓地はアンデッドを安全に浄化する為の場所だ。

 それを面白いからと、墓地の外にアンデッドを誘導したら色々と不味い。

 ゾンビのお散歩に飽きた頃に、漸く事態の深刻さに気付き、慌てて引き返している所だ。

 大量のゾンビを引率し、終点の墓地に近づいた頃。

「おうテツ、悪いがまだこっちの掃除が終わってねえ、もう一周だ」

 と、待ち構えてたルーカスに門前払いされ、トボトボと二周目に突入した。

 ちなみにレイスは使い魔にちょっかいを掛けて、返り討ちに遭いました。


 二周目に突入して程なく、時間帯が夕暮れから夜に変わり、ゾンビの活き?が良くなり、追従速度が増した。

 狂暴性も増しているし、そもそも今回のアンデッドは今までと比較して、遥かに強力になっているので、命がけで散歩をする。

 なるべく人と遭遇しない様に、樹海の入り口と南山の登山口の中間を進み、不慮の事故を極力起こさない様に務める。

 尤もどれだけ気を遣っていても、事故は起こるものなのだが…、そもそも乱入者が居ても俺と畑以外に見向きもしなかったので、心配は杞憂に終わった。

 乱入者もあまりのゾンビのタフさと、無視し続けられることに心が折れたのか、いつの間にか消えていた。

 クールタイムの終わった[鍬の一振り]を使い、ゾンビに餌をやり、そろそろ帰還しようかと思案していると。

「お待たせしましたテツさん、さあ戻りましょう」

 ギルが迎えに来たので、一緒に墓地に帰還した。


「お疲れ様でした」

「ご苦労、お手柄だったなテツ」

 墓地に着き、ゾンビの処理を他に任せ、二人から労われる。

「寧ろゾンビを墓地から離したペナルティでもあるかと思ったぞ」

「ああ、意図して街に誘導とかしなければ基本自由だ」

「僕達は一応超希少な人材となってますからね、多少の権限は持ち合わせてるんですよ?テツさんまた確認を怠ってますね?」

 俺は、心の中で「知らね~」と呟いく。

「まあ、なんにせよテツ。お前のお陰でかなりの人数が命拾いした」

「本当にありがとうございました」

 ただの思い付きが、思わぬ結果をもたらした様だ。

「ただの偶然だから何とも…役に立てて良かったよ」

 ルーカスから証書と何かを受け取り、ホームに戻った。


「あ、テツ君お帰り」

「テツさんこんにちはです」

 PAに戻ると、ユキとシルクが談笑していた。

 俺も傍に寄って来た白猫を摘まんで膝に乗せ、混ざる事に。

 俺がついさっきの巡回での出来事を話すと…

「…多分そうかと思ったけど、やっぱりテツ君だったのね」

「はい、これを見るです」

 と見せられたのは、俺らしき人物がホームの南東でゾンビを引き連れて進軍している映像だった。

「アップロードされたばかりの動画が、トレンド入りしてたから見てみたら…知り合いが映ってた、というわけです」

 シルクに見せて貰った動画は、【DIYにハロウィーンイベント!?】というタイトルで、ゾンビが暴徒化したレイヤーの如く、畑を破壊する光景が収められていた。

「実際は、囲まれない様に引き付けてた訳で、断じてハロウィーンの行進では無かったけどな」

 そんな他愛の無い話をしていると、マサがインしてきた。


「こんにちは」

「「「こんにちは」」」

 一目見て、マサの出で立ちが変わった事に気付く。

「イメチェンか?」

「応!」

 今までは、比較的軽装に分類されるレザーアーマーを着込んでいたが、今はチェーンメイル一式を着込んでいた。

「防具が厚手になったみたいだけど…打たれ強くなったの?」

「勿論。と言っても相対的には劇的な変化は無いがな」

 マサが今までとの違いは実戦で、と言うので地底湖に向かった。


 [アッシー]の住処に着くと、さも当たり前の様に親を呼ばれる始末。

 随分と視力が良い様で、三頭揃って凝視してくる中脇道に入った。

「じゃあ俺の新スタイルを見せようか」

 凶悪な貝類が跋扈する砂浜に到着し、マサが戦闘態勢に入る。

 防具の違いには先程触れたが、今度は獲物の違いにも触れよう。

「武器が随分としょぼくなったような?」

 これまでマサの武器は、初期装備の[ハンドアクス]→[バトルアクス]→[ウォーアクス]、と順に変わっていってたが…。

「アレは[骨断ち斧]?」

「お肉の解体用です」

 現在マサが手に持っている斧は、[ハンドアクス]や[薪割り斧]より、更に下位の[骨断ち斧]で、言ってしまえば出刃包丁を少しゴツくした斧だ。

 そんな、最早金太郎の初期装備よりもしょぼい、[骨断ち斧]で二刀流を決めるマサ。

 だが装備のしょぼさなんて、因子やパラメータの前ではハンデにならないのがこのゲームだ。寧ろしょぼい装備な程、ビルドが強力な場合が多い。

 そしてそんな予想の通り、マサのスタイルは強力だった。

「凄ぇ…あんな短い斧でもあのリーチか…」

「武器が軽くなった分手数が凄いわ」

「二刀流だから更に激しいです」

 只々空を斬っているだけにしか見えないマサの斬撃。

 しかし、その攻撃が2mは優に離れているであろう、アサリにヒットしている。

 攻撃を受けたアサリが砂に潜り、マサに這い寄ろうとするが…。

「取り回しが劇的に向上した事と、二刀流なお陰で全く近寄れないな」

 以前だったら、攻撃の隙間に接近を許す事も有ったが、今は常に前方に攻撃を展開し、ノックバックでアサリの接近を許さない。

 ぱっと見、確かに火力は大幅に落ち、ノックバックも大分弱体化しているが、その分を手数で補い、隙が減った事が防御にも変換されているので、総合的には十分リビルドは成功していると言えた。


「どうだった?今までの持ち味は活かしたまま、生存率を上げた感じだが」

「ああ、良いと思うぞ。一応被弾しても良いように、防御面も色々改善したんだろう?」

 今の演武では、マサは一撃も喰らわなかったので、実際の所は不明だが、防具を一新したところを見ると、改善は他のヶ所にも及んでいると見るのが自然だろう。

「一応、パラメータの防御系の比率を上げたりしたがな」

「ちなみに何を採用したの?」

 ユキの質問に、マサが答える。

「防具を大幅に強化した分[耐久]を切って、火力は因子で補う代わりに[穿孔]を、ノックバックは手数が有れば因子だけでイケると踏んで、[剛力]を切った」

 その代わりに、[装甲][防護][障壁]のバリア三種を取った様だ。

「随分と思い切ったな…それでいて総合的な火力もあんま落ちてない所を見ると、Lvも相当上げたんじゃないか?」

「ああ、覚醒五回の転生九回だ。装備の新調も合わせてすっからかんだ」

 …それビルドの変化じゃなくて、単純にLvの恩恵では?


 なんてさっきは思ったが、あの後皆で戦闘に挑んだが、マサの防御力の向上が著しく、総合的な生存率では俺に次いで二番手になったかもしれん。

 なんせノックバックに手数が合わさったんだ。攻撃毎に敵の間合いを狂わせれるから、間接的に防御をしてるのと同じだ。

 それでいて被弾に対しての対策も今まで以上なので、前衛も問題なく出来、俺、シルク、マサが前衛で、ユキが後衛のフォーメーションで、浜焼きを量産出来た。


「いや~、シルクの投網が刺さりまくってたな」

 此処の貝やミニマムな蟹が厄介なのは、小さい癖にスペックが高く、貝に至っては砂の中を高速移動するのが危険だった。

 でも一度シルクが網を絡ませれば、地中に潜れなくなり速度も遅くなるので、カモと化した。

 対象が小さいから網からの脱出もされ難いし、一度に沢山拘束出来るのも美味しかった。

 強敵だった筈の地底湖の貝類だが、手段が確立されてしまえば最早雑魚。

 暫く留まって、美味しく頂きました。

 そしてこの収穫にピンときた俺は、一度PAに戻り荷物を整理。

 同じメンツで砂漠に向かった。


 砂漠に到着し、僻地に向かい凶悪な蟲共と相対する。

「さあシルク、出番だ」

「はいです」

 マサがノックバックで、砂中から蟲を抄い出し、シルクが網を投げる。

「よっしゃ!やっぱりこいつ等も小さい故に投網に滅法弱いな」

 小さいせいで網から逃れられず、砂に逃げれない蟲共。

「こうなればこいつ等も雑魚ね、[アイススピア]!」

 網に絡まり藻掻く蟲を、ユキの魔法で一掃した。


「これでハッキリしたな、小さくて凶悪なスペックを誇る敵、地面や水中に逃げる敵には投網が有効だって事が」

「ここまでの結果は期待して無かったのに…」

 自信のビルドが予想以上に可能性を秘めていた事に驚くシルク。

「しかし、リビルドした人は、俺も含めて皆防御系を伸ばしたな」

 マサの言葉に頷く。マッド、サーモン、パミル、シルク、ユキ、アコ、マサ、と皆接敵された場面を想定して、生存率を伸ばしている。

 このゲームのキャラの強化要素は、パラメータ、因子、装備、スキル、アビリティ、ライセンスと大きく分けて六つも有るので、半分を火力に回しても、半分を防御に回せばそこそこ堅さを出せるのは良いと思う。

 それぞれの要素を、どう配分するかでも個性が出るし、楽しい部分でもある。


「それじゃいって来るわね」

「いってら~」

 PAに戻って来た俺達は、戦利品を仕分けし、グループ毎に別れた。

 マサはインしていたベッタラとパミルと狩りに。

 ユキはシルクと[シャドーダイバー]のお誘いに乗った。

 そして俺は、ルーカスから貰った物を持って教会に向かった。

「はい、確かに受け取りました。ではコチラへどうぞ」

 受付に物を渡すと、案内され付いていく。

「失礼します」

 案内さんがドアをノックし、部屋に入り俺の入出を促す。

「フレディ部長、こちらの方がコレを…」

 おおっと、以前演説で見たことある人が居た。

「フム…分かった、早速取り掛かってくれ」

 フレディ部長が指示を出すや、足早に駆けていった案内さん。

「ただいま準備をするので少々お待ちを、期待の若手さん」

 そのまま着席を促され、ソファーに腰を沈める。

「えっと…何が何だか」

「成程、では軽く説明をしよう。君が持参したのは[ジャックオーランタン]の超級試験のお試し受験のチケットだ」

 …ノリが軽い…キッザニアか何か?

「おっと、誤解が無いように言っておくが、決してお遊びでは無いという事は理解してくれ。これは超級試験があまりに過酷な為、本番での突破率を少しでも上げる為の救済措置だ」

 要約すると、試験はリアルタイムで一月に一回のみ受験出来、難易度は特級の比にならない程高く、心が折れるものが続出した為、少しでも本番で善戦出来る様に、お試し試験を導入したらしい。

「ん?でも受験回数に制限がないなら意味がないのでは?」

「そう思うだろう?だが人の心とは繊細でな、リハーサルと本番では、同じ失敗でもダメージの度合いは全く違うのだ。それにぶっつけ本番で、先が見えない程コテンパンにやられると「俺は何年先になったら合格できるのか…」となるが、事前に難易度が判っていて、本番に臨むば道筋が見出しやすいのだ」

 …うーん、確かに一回本番に関係ないとこで、空気に触れれるのは、気持ち的に大きい収穫な気もしてくるな。

 …考えてみれば、教習所の筆記の卒検と同じとか。

 そうして、お試し受験の有用性に納得がいったところで。

「失礼します。準備が出来ましたのでこちらへ」

 案内さんが来たので付いていく。


『ではこれより超級お試し試験を開始する』

 試験官の宣誓と共に、舞台に転送される。

 試験会場は広大な無人島で、一ヶ月生き延びる事が目標だ。

 ただ一ヶ月と言っても、現実時間の一時間で、あくまでゲーム内では体感時間に過ぎない様だが…凄い技術だな。

 そして、本来は十人以上で受ける内容で、一人で受けるからといって補正は掛からないので、お試し受験の難易度は桁違いに高い様だ。

 …それで心折れたら元も子もないんじゃ?とも思ったが、本番は十倍の戦力で臨めるのに、それでも折れる奴は、端から資格が無いという事だろう。

 先ずは周囲を見渡す。鬱蒼とした木々に覆われていて、ほんのり薄暗い。

「さて、先ずは食料の調達だな」

 勿論、試験に臨むに当たって物資も持ち込んでいるが、なにせ長期戦だからな。現地での物資調達もしなければ即餓死確定コースだ。

 今回[ホルダー]をレンタルした俺は、ランタンを腰に付け両手フリーなので、常に鍬を持つことが出来る。

 早速[鍬の一振り]を発動し、畑を拵える。

「次は周辺の調査だな」

 周囲の地形はどうか、避難所は有るか等、調べる事は多い。

 土弄りをしながら周囲を探索していると、ゾンビの大群が現れた。

 しかし、錦鯉の水鉄砲の弾幕の前にあっさりと撃沈した。

「流石にウェーブ1では敵も雑魚だな」

 こうして順調に食料を確保し、周辺のマッピングも済ませ、初日は無事に超える事が出来た。


 試験二日目。

 空腹をトマトと大根で癒し、喉を西瓜で潤す。

 ちなみに一夜を明かしたのは、昨日発見したログハウスだ。

 他にも幾つかの小屋が見つかり、炊事場や鍛冶小屋なども有った。

「うわぁ…うじゃうじゃ…」

 ログハウスから出て最初に見た光景は、聖水で作った簡易結界を超えようとするアンデッドと、使い魔達の攻防だった。

「一晩中俺を守ってくれてたんだな、ご苦労様」

 俺は使い魔に感謝しつつ、アンデッドをランタンの範囲に収めつつ、畑を作り使い魔達を援護し、包囲網を突破した。

 多分この方法で夜を凌げるのは、最初の内だけだろう。

 幸い食料と飲料は自給できるから、後はどう逃げ続けるかだ。


 試験十日目。

 有体に言って地獄だ。

 昼夜問わず、引っ切り無しに襲撃してくるレイスやゾンビの上位種。

 既に物量がどっこいどっこいな状況で、まともに戦えば直ぐに呑み込まれる。

 というか、既に三日前の時点で限界が訪れ、一か八かの崖下ダイブを決めて生還しているし、昨日もう一回ダイブしたら、シャークゾンビが襲って来て、命辛々生き延びれたので、もう同じ手段は使えない。

 刻々と強さと数を増すアンデッド。

 陸はダメ、海もダメ、空へ逃げる手段は持っていないのでダメ。

 最早逃げ場は無いように思えるが…最後まで諦めるわけにはいかない。


「どの道ジリ貧ならまだサメの方がマシだな」

 そう覚悟し、海に向かって鍬を振り出す。

 前門の虎後門の狼の如く、陸地から追って来るアンデッドと、待ち構えるサメに挟まれながらも、タイミングを見計らい、水田を海上に独立させる事に成功。

 これにより陸地のアンデッドの追撃を封じる事が出来た。

「へっざまあみろってんだ!」

 海中からのサメの攻撃は、豚がその身を挺して守る。

 それに、ちょこちょこ足を踏み外した水に浮かない使い魔も、傍にワープしてくるまでサメと戦ってくれるので、意外と海上で立ち回れている。

 さて、何処まで行けるかな?


 試験十三日目。

 メーデーメーデー、此方テツ。至急応援を頼む。

 もうね、超級試験が本気を出し過ぎて参っちゃうね。

 海上に活路を見出した傍から鳥のアンデッドが登場。

 そればかりか、夜になると巨大蝙蝠が急襲してきて、海上の水田上(意味不明)は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 …それでもね…陸地に比べれば全然楽園ですわ。

「…マジか…」

 ふと陸地を見ると、底には鳥肌が立つ光景が広まっていた。

「恐竜、巨人、ドラゴン、アレは知らんなぁ…、キマイラ…化け物のオンパレードとしか言いようが無いな…」

 海岸線にはこれらのゾンビが犇めいており、怨嗟の声を上げていた。

「まだ十七日も残ってるのにこれか…、クリアさせる気あんのか?」

 正直、たった十人でこれを突破出来る様な人材が居るなら、もうそいつ等だけで万事解決だろ。そうツッコまずにはいられない。

「あ、オワタ…」

 海岸に集っていたドラゴンゾンビの口が開き、エネルギーが収束する。

 陸地からあまり離れなかったのが敗因だろうか?、いやそもそも水田の構築が遅々として進まず、敵の射程内に釘付けにされたから、そもそもの敗因は己のスペック不足か…。

 眼前に迫るブレスを眺め、これクリア出来んのか?と疑問が沸いたところで、『あなたは死亡しました』と出て、お試し試験は終わりを告げた。


「お疲れ様でした、此方へどうぞ」

 案内さんに従い移動すると、再びフレディ部長の部屋に通された。

「お疲れ様、素晴らしい戦いぶりだったぞ」

「はあ…」

 俺の気の抜けた返事に部長が切り出す。

「正直驚いている。たったの一人で、あの地獄を十三日間も生き延びるとは」

「そうですか?感想としては一ヶ月後はどうなってるか想像もつかないんですが、アレ本当に突破させる気有りますか?」

「まあ無理だな、アレは過去に起こったある惑星でのバイオハザードを再現したもので、当時惑星に居た職員は死に絶え、貴重な資料をサルベージするのにあらゆる人員…、[ジャックオーランタン]の人員も含め、クローン数万体が犠牲になったそうだ」

 数万!?、それを十人そこらで一ヶ月!?無謀だろ。

「そもそも超級への昇格条件が、一ヶ月生き残る事とは言ってないんだがな。あくまで試験内容が、と言うだけで実際は採った行動やその結果で合否を決めるのだ」

 …それでも目の前の人物が超過酷と評した試験だ。合否の判定も非常にシビアなんだろうな。

「ちなみに過去あの試験を一ヶ月生き残る事で、突破した者も居るぞ」

「とんでも無い化け物も居たもんですね」

「その内の一人が私だ」

 化け物発見!

「実際は地中深くにシェルターを作って、自給自足しただけだがな」

 それはそれでスゲー。


「さて、肝心な君の評価だが、既に合格ラインだ。おめでとう」

「はい?」

「意外か?だが考えてもみろ、我々はアンデッドを倒せてなんぼだ。アンデッド相手に生き残るだけじゃダメだ、守るべきものが守れんからな…」

 そんな事を悲しそうな顔で語る部長。

「君の素晴らしい点は、奴らを相手に常に戦いながら、たったの一人で十三日も生き延びた事だ。しかも物資には余裕が有り、食料も膨大に確保しつつな」

 まあ、物資は使う間もなく蒸発したからなんだけどな。

「勿論民間人を守るなら、籠城は強力な手段だが、施設の奪還、討伐戦、他部隊との共同戦では、戦闘力と多彩さがモノを言う。君はその両方を備えている」

 戦闘力は使い魔、多彩さは畑の事か。

「このまま君を超級に昇格させたいが、生憎とそういう訳にもいかなくてな、かと言ってお試し試験で合格ラインを叩き出すなどという、前代未聞な偉業にも報いなければならん」

 おいおい、なんだか話が大袈裟になって来たぞ。

「というわけで、君にはこれを渡そう」

 そう言い、部長が取り出したのは非常にゴツいヘルメットだった。

「これは、かつて[ジャックオーランタン]に存在した特殊部隊、[アンダーテイカー]の精鋭が身に着けていたヘルメット、それのプロトタイプだ」

 ヘルメットを受け取り、性能を見て見ると。

 [試作型アンデッド殲滅用ヘルメット]:量産化の為データ収集用に多くの機能が備わったヘルメット。防毒フィルターにより大気汚染の影響を軽減。小型スキャナーを搭載し…。

 効果が長すぎて割愛。防御力は3000、コストは2000だった。

「こんな傑作を受け取っても?」

「ああ、そもそも装備する事すら困難な代物だからな。それなら死蔵するより可能性がありそうな者に託す方が良かろう」

 このままじゃ持ち運べないので、チェストに物を突っ込んで、余っていたポイントを全て[積載]に振り分けて受け取った。

「では失礼します」

「本番を楽しみにしてるぞ」

 教会を後にし、PAに戻って来た。


「これは…とんでもない装備だな…」

「物理、魔法、属性防御3000…だけどコスト2000ですか…」

「ガスマスク、対隠密のスキャナー、ターゲティングタグ、赤外線、高性能マイク…機能が多い上にどれも凶悪だな…」

 戻っていたマサとパミルとベッタラにヘルメットを見せた。

「そもそも装備できるのか?」

「それは大丈夫。今の俺の[積載]は5400有るからな、これを装備してもまだまだコストに余裕が有るから支障はない」

 マサの疑問に答え、いよいよヘルメットを装備する。

「…おお…これは…」

 ヘルメット越しに見た景色が凄い事に。

「どうだ?」

「凄い、赤外線とスキャナーの効果に、映像自動補正の効果なのか、障害物の先の物も透けて見えるし、影が一切無くなってる」

 赤外線による暗視の様な不完全な景色ではなく、肉眼で見るのと同じ景色に透視と暗視が織り込まれたような…表現が難しいが、兎に角凄い景色だ

「あ!」

「どうした?」

「ちょっと懸念事項が発生したから出てくるわ」

 マサ達にそう伝え、急ぎ教会に向かった。


「成程、そういう話なら問題ない」

 俺はヘルメットのあまりの強力さと、コストにふ疑念が生じた。

 これ六回目の覚醒時に、チェストに入れられないという可能性。

 何しろ覚醒時にはチェストの容量も激減し、次の覚醒時には700まで落ちてしまう。つまりコスト2000のヘルメットは強制的に破棄されてしまうのだ。

 一応仲間に預ける事も出来そうだが…多分これはダメだよな。

 そしてもう一つの懸念。それは修理費用や手段だ。

 これだけ強力な装備だ、必要な金額も要求素材も桁違いに違いない。

 正直一度壊したら二度と運用出来る気がしない。

 そんな懸念を部長に伝えに来たら。

「預けたければその時は預かるし、メンテナンスもこちらで請け負う。そこまで含めてのご褒美だ、安心して酷使してくれ。というか早速装備してくれたのだな…本当に底なしだな、ありがとう」

 という事で、どうやらこのチート装備は無制限に使えるらしい。


 教会を後にし、再びPAにて。

「そんな感じで運用には一切のリスクが無い事が保証されたよ」

「そうか…リスクはその桁違いなコストがそうだと思うんだが…まあいいか」

 そして、これから試運転をしに出掛けようとしたとき。

「ただいま~…って誰!?」

「もしかしなくてもテツさんですか?」

 帰還して来たユキとシルクが驚く。

 てかシルクのリアクションが若干引っかかる…。

 そんなわけで、ユキとシルクも加えて砂漠のダンジョンへ向かった。


「お~、まるで暗さを感じないや、快適過ぎる」

 いつもだったら、ランタンの光源を頼りに慎重に行くとこだが、赤外線と映像補正のお陰で、まるで青空の元で探索しているような感覚だ。

「お、向こうから微かに羽音が聞こえる」

 そして高性能マイクが敵の僅かな音すら拾うので、索敵も簡単。それでいて余計な音は拾わないという安心設計だ。

 そして、いよいよ戦闘だが決着は超早かった。

「なんだコレ…ランタンが搭載されてるのは知ってたが、ターゲティングタグと連動したサーチライトだったとは…しかもえげつない程効果が高いときた」

 それでいて一番脅威度の高い敵を対象にするのか、戦闘の雀蜂を照射したかと思えば、即座に対象が切り替わり、先頭を追い越した蜻蛉に光が注がれた。

 結局、蟲共が順番に照射されていき、墜落してピクピクなっているのを順に仕留めるだけで初戦闘は終了した。

「これはえげつないな…活きが良いのから順に衰弱させられるのか…」

「何がヤバいって、ある程度弱体化したら直ぐに対象が切り替わる事ね…これじゃあっという間に全員戦闘不能よ」

 マサやユキの言う通り、ターゲティングタグの殺意の高さに震える。

 その後もヘルメットの活躍は止まらず、カメレオン型の蟻すら一瞬で看破し、即座に無効化していった。


 試運転を済ませ、PAに戻って来た。

「結局被弾しなかったから、防御が上がった実感は得られなかったな」

 なんせ、サーチアンドデストロイを地でいってたからな。

「といっても今更3000ばかし上がった所で、意味があるのかというとこだが…マサは物理防御いくつなんだ?」

「今は防具だけで4000程だな、ちょい前なら諸々で8000程有ったが、敵の物理攻撃力と[穿孔]を上回る数値を出さなきゃ意味ないからな、…やっぱ防御力0から3000に上がった程度じゃ、最前線の敵には無意味だな」

 分かっていたが、マサから無情な現実を突きつけられた。

 まあ、ヘルメットの強みは他で十分生かせるので問題無いか。

「だが、手甲やグローブ、ヘルメットや帽子は、比較的防御力の低い装備だから、その頭部の防具単体で全カテゴリの防御力3000上昇はやはり強いし、ランタンの鬼性能を加味すれば、実質的な防御力はもっと上だから、装備として格の高さは揺るがないだろう」

 成程、頭部や腕の防具は性能が抑えられ気味なのか。

「確かに、そう考えるとチートだよな」

「そうだな、コストが2000なんて数値じゃなきゃな…」

 良いんだ…俺の中ではそれだけの装備なんだ。


 さて、今度は[シャドーダイバー]の面々と、東の大陸のキャンプに来た。

 目的は、久々の囮任務に挑む為だ。

 例の紫水晶を受け取り、適当に東に向かってみる。

 今回の参加者は非常に少なく、俺達の他には一人しか居なかった。

 なのでその人物に声を掛け、共闘を提案したら、快く引き受けてくれた。

「では宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 彼の名は、カメキチと言い、非常に変わったビルドだった。

「いや~、鈍足で申し訳ない」

「いえいえ、戦闘時には当てにしてますよ」

 まず彼はひっじょーに足が遅いのだ。

 どれ程遅いかと言うと、普通に歩くのと匍匐で移動するのが同じ速度になってしまう程、移動速度にペナルティが掛かっている。

 なので、常に匍匐状態で、ある意味[シャドーダイバー]と被っている(尤も見た目は、適度な重装である、プレートメイル一式だが)。

 一応、幾つかのスキルや魔法にCAを用意して、辛うじて新規作成のキャラと同等に移動できるようにはしている様だ。

 まあ、今はのんびり移動中なので、凄まじい牛歩なのだが。


 さて、そんなカメキチさんの強みだが、常軌を逸した堅さだ。

 どれだけブーストすればそうなるのか知らんが、LPは100万を超えてるそうだ。

 LP100万といえば、オービタルストライクの余波にも耐えれる程だ。

 更に各カテゴリの防御力もゴリゴリで、代わりにHPやARMといったものは一切ないそうだ。LPで全てを受けきるビルドだ。

 そんな彼の攻撃手段だが、なんと柔術っぽい体術だった。

 突っ込んできたバッファローに全身踏まれながら、一本ずつ足を折っていき、身動きが取れなくなった獲物をゆっくりと絞め殺して見せた。

 …なんというか、鎧姿で這いずり回り、敵の足元に攻撃する様が、ゾンビっぽいったらありゃしないな。

 寝技を使いこなす超耐久超重量のゾンビ…なんて良いゲームなんだ。


 さて、カメキチさんのビルドも見た事だし、本腰を入れる。

 現在の編成だと、火力はユキ、パミル、ベッタラ任せなので、三人は遊撃。残りは前衛…というか揉みくちゃの乱戦に持ち込む為に、突撃する。

 突撃してきた縞猪の群れを、[シャドーダイバー]がジャンプで飛び越し、背後に回りその逃げ道を塞ぐ。

 そして、横の連携を絶つ為に、間に俺達自身の身を滑り込ませる。

 猪の群れは、人数補正で二十頭という大群だったが、この戦法で強引に孤立させ、各個撃破する事が出来た。

 勿論、敵のお替りは常時向かって来るが、俺らの周囲には大量の非戦闘型の使い魔が蔓延っており、敵の増援がタコってるやつらと合流する事は不可能だった。


「良い感じだ、なんか久々に数のゴリ押しを堪能してる気がする」

 時間の経過と共に、敵の質も量も上がって来たが、まだ余裕が有る。

 …と油断こいてると、理不尽に圧殺されるのがこの囮依頼だ。

 カメキチさんも心得てるようで、移動系のスキルを多用して、俺達と一緒の足並みで退却し、無事何事も無くキャンプに帰還できた。


「では改めてよろしくお願いします」

 ホームに戻り、[シャドーダイバー]と別れ、カメキチさんをカンパニーに勧誘。そしてうちに入ってくれた。

 早速PAに招き入れ、他のメンツとの顔合わせを済ます。

 今居ない人にはメッセージを送っておいたので、大丈夫だろう。

 そうこうしている内に、夕食の時間になったので、また後でと言い残し、俺とユキはログアウトした。

次も二週間ほどで

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