第十五話
~前回までのあらすじ~
ユキに纏わる衝撃の事実が判明し、俺の日常も変化。
更に噂の[アッシー]の凶悪な能力も目撃した。
「それじゃあ始めるか」
「おー」
美雪と二人でログインする。
「「こんにちは」」
「…こんち」
「おう、こんにちは」
マッドとサーモンが居たので、挨拶した。
四人で何処か行くかとなり、砂漠の巣穴ダンジョンに向かった。
「じゃあ、マッドも戦闘系のステータスを伸ばしたんだ」
道中マッドのビルドの話に花を咲かす。
「ああ…貯めに貯めた金と換金物で六回覚醒の転生九回のLv100まで上げたぜ」
…俺よりも大分Lv高いな…。
「それで…具体的にどう強くなったの?」
「ヒヒ…それは見てのお楽しみだ」
ユキの好奇心に、勿体ぶるマッド。
「サーモンも大分イメチェンしたな…」
「おう、やっとツッコんでくれたか」
昨日と打って変わって、ハルバードを持った鎧姿のサーモン。
「テンプルナイト?」
「いんや、確かに鎧は神殿騎士風だが、変わらずサモナーだよ」
ここで、最近のサモナー事情に触れよう。
サモナーは大きく分けて、3つのタイプに分類される。
・召喚特化タイプ:戦闘を召喚した従魔に完全に任せて、自身は後方で遣り繰りに専念するタイプ。
・支援タイプ:従魔を前衛系で固め、自身は後方で支援に回るタイプ。
・共闘タイプ:自身も前に出て、従魔と共に戦うタイプ。
従魔を支援系で固め、自分にバフを掛けさせるタイプも居たりするが、これは分類上共闘タイプとなる様だ。
現在の分布は特化4割、支援4割、共闘2割らしい。
サーモンは最も少ない共闘タイプに転向したそうだ。
なぜ一番少ない共闘タイプ?と聞くと。
「少ない方が楽しそうだから」だそうだ。
「真面目な話、Lvが上がれば上がる程コストが余って来たし、かと言って強力な高コストの従魔は、召喚に掛かる時間が長かったり、召喚時間が短すぎて何度も召喚する手間が有ったりと、汎用性に乏しいんだ」
そうだな、確かに従魔のドラゴンとか数分は掛かってたもんな。
「だったら、使い辛い高コストの従魔を無理に採用する位なら、[ゴブリン]や[オーク]、[コボルド]の強みを活かそうと思って、共闘タイプにしたんだ」
「成程…ゴブリンは召喚持続が長いし、オークとコボルドは召喚持続は短いが、召喚に掛かる時間が短くてスタミナコストが安いんだっけ?」
確か前にそんな話をした覚えがある。
「ああ、だからコストもそうだが、割とフリーな時間が有ってな、だったらその時間一緒に従魔と戦えば、効率的だなと思って、重装両手武器にしたんだ」
こちらも変化は戦闘時のお楽しみの様だ。
ダンジョンに着き、下層に向かい漸く戦闘になった。
[ゴーレム使い]が敵を引き寄せ、使い魔が集団で蛾をボコってる間に。
「んじゃあ先ずは俺から…ヒヒ」
スッと取り出したポーションを、敵に投げつけるマッド。
そのポーションが5つに増え、蟲共に炸裂した。
「おおう!、[器用]のスキルを全部Lv100にしたのか」
「ああ、[二の矢]から[五の矢]までLv100だ」
パラメータの[器用]は消耗品の使用速度を上げるパラメータだ。
そしてその専用スキルの、[二の矢]から[五の矢]までの効果が、Lv毎に投擲、設置、矢が追加される確率が1%増えるというものだ。
それらを全てLv100にすれば、当然投擲物はスキルの分だけ増えるわけで、マッドの投げたポーションが5つに増えたのだ。
「それにしても凄い火力だったな」
なんせたった一回の投擲で、蟲数匹が即死だったからな。
「…もしかして[処方]も選んでるのか?」
「ああ、軽視されがちだが、投げるポーションの効果もしっかり上がるからな、効果は見ての通りだ」
[処方]はポーションの効果を高めるパラメータだ。
専用スキルはどれもポーションを使用する時に発揮する効果で、投擲には効果が乗らないので、ポーションを攻撃に使う人でも、意外と採用率は低めだそうだ。
ただ、あの火力はそれだけで出せるものじゃない筈だ。
まあ、人のビルドを根掘り葉掘り探るのはマナーに反するか。
「それじゃ次は俺の出番だな」
マッドの新ビルドのお披露目後、今度はサーモンのお披露目だ。
「召喚[ゴブリン]!召喚[オーク]!召喚[コボルド]!」
「グギャギャ!」「フゴ―!」「ガウガウッ!」
主力の3体を召喚し、自身も共に蟲に吶喊するサーモン。
「うおりゃ![薙ぎ払い]!」
ポールウェポンのCA、[薙ぎ払い]を発動するサーモン。
前方180度の蟲共にハルバードの斬撃を浴びせ、先制すると。
「ギャイー!」「ブモ―!」「ワオーン!」
怯んだ蟲共に、従魔達がすかさず攻勢を掛け、流れを引き寄せる。
「これで止めだ![馬鹿力]!」
今度はアクティブスキルの[馬鹿力]を使って、ハルバードを横薙ぎする事で、CA[薙ぎ払い]と同等の攻撃を通常攻撃で繰り出すサーモン。
[馬鹿力]の効果は、次に行う攻撃の威力を1.2倍にするもので、効果の高さの割に、リチャージラグが短く、クールタイムも10秒の使い勝手のいい一般スキルだ。
サーモンの疑似[薙ぎ払い]で瓦解した蟲共を、従魔がお掃除して戦闘終了となった。
「とまあこんな感じだ」
「うん、魔法、CA、スキルをそれぞれ活かした良いビルドだと思う」
「そうね、魔法は連続使用が出来る従魔の召喚に絞って、一般の…しかも最底辺のCAとスキルなら交互に撃てばリチャージラグやクールタイムが負担にならないわね」
「ああ…それにCAとスキルを無条件で取得できる、一般で固めた事で、ビルドの方向性が狭まる事が無いのもポイントが高いな…」
つまり纏めると。
・魔法、CA、スキルを満遍なく使う事で、戦闘中でも強力な攻撃が常に使える状況にしている。
・攻撃の要を、一般スキルや一般CAにする事で、パラメータや因子の選択に幅が出る事で、自由度が高くなる。
ちなみにCAが[薙ぎ払い]、スキルが[馬鹿力]なのは、この二つがCAとスキルそれぞれで、一番リチャージラグやクールタイムが軽いものだったからだそうだ。([薙ぎ払い]はあくまでポールウェポンで使えるCAという括りではあるが)
「そうだ、その分基礎ステータスを上げれるパラメータや因子を多く採用する事で、自身も従魔も強化できるからな」
「俺の使い魔を従魔に置き換えて、農業をのリソースを戦闘に回せば、サーモンと同じに感じになりそうだな」
「そりゃそうだ、なんせコンセプトが正にテツのビルドの亜種的な発想から来てるからな、何処か既視感が有るのは当然だ」
成程、俺のビルドが着想点だったのか。
さて、二人の新ビルドのお披露目も済んだし、更に下層を目指す。
「あー…やっぱLvを上げると戦闘が楽だな…」
「俺もビルドを変えて良かったわ」
道中での戦闘で、二人共新ビルドの手応えをより感じてる様だ。
採掘エリアに着き、一旦休憩がてら張り出された地図を見る。
「どうもこの先は敵の強さが急激に上がるらしいな…」
「最近そういうの多いわね…」
「…ゲーム的な都合だな…」
「まあプレイヤーのインフレに合わせて拡張エリアもインフレするわな」
それぞれ感想を漏らし、休憩を終え下に行ってみる。
「なんか一気にジメジメしてきたな」
人の手が入っていなので、ランタンを光源に周囲を見渡す。
「蟻は湿度が高い環境を好むわ、いよいよ深層に入ったって事かしら」
耳を澄ませば、僅かに水の流れる音が聞こえ、壁には苔が生えている。
「深層っていうより、蟻の巣の本番って感じ…ヒヒ」
「明らかに雰囲気が違うな」
現在この部屋の分岐は、来た道を除けば3つ。
北方向、東方向、下方向に別れている。
「北と東には、少数だが人が進んでいる様だ、俺達は下層に行こう」
挟み撃ちが怖いので、人が居なさそうな下層に向かった。
ランタンの僅かな光源の中、[ゴーレム使い]が敵を検知したらしく、これまで見た事のない巨大な頭部の蟻を引き寄せた。
「うわ!?こいつは兵隊蟻か?」
急いで鍬に持ち替え[鍬の一振り]を発動し、原木畑を作る。
再びランタンに持ち替え使い魔の援護を行う。
「[クラスティオーブ]!」
ランタンのデバフと、[家族蛇]達のガラガラ音に依る状態異常で、弱体化した兵隊蟻が蒸発した。
「まだまだ居るぞ!」
サーモンの呼びかけに応じ、一旦引き返す。
「ここで待ち受けるぞ」
上層に戻り、入り口に陣取り迎撃する。
俺とサーモンが前衛で、ユキとマッドが後衛になる。
下層に作っておいた原木畑が効いてるのか、散発的な蟲を倒す。
敵の強さも、[アッシー]が居るダンジョンや、砂漠の南方に比べれば、まだ優しい方なので対応は出来ているが。
「流石にこのまま逃げると、北と東に向かった連中が困るだろうし…」
逃亡も検討中だが、もしかしたら押し付けになるかもしれないから、もう少しだけ粘ってみて、無理そうなら逃げる事にした。
程なくして、様子を見に来たギルドの戦闘員が合流する。
「ここは我々が受け持つから、君たちは他の者たちが無事かどうか確認してきてくれないか?」
此処まで来れば最後まで、という事で、先ず北に向かってみた。
分岐を全て確認しながら進む事数分、北に進んだ一団に追い付いた。
「かくかくしかじか…」
事情を説明し、どうするか聞くと。
「丁度引き返そうと思ってたし、同行するよ」
こうしてNPCの一団を加え、最初の分岐に戻る。
「ご苦労、続けて申し訳ないが、東も確認してくれないか?」
当然引き受け、東に向かった。
NPC達は、戦闘員と残って、分岐部屋の安全確保に努める様だ。
そして東に進む事数分、此方も一団に合流した。
但し、蟲の奇襲で危うい状況だったが。
東側の一団もNPCで、彼らを分岐部屋まで連れて行く。
「全員無事か?では採掘エリアまで引き上げよう」
一応[鍬の一振り]で、原木畑を拵えて退却する。
一人ずつワイヤー銃で上層に登っていると。
「急げ!連中はこのまま見逃す気が無いらしいぞ!」
下層の穴から大量の兵隊蟻が湧きだし、此方に押し寄せる。
そこに良いタイミングで作物が実り、蟻のヘイトは集めた。
チャンスとばかりに急いで上層に逃れ、唯一の侵入口を囲んだ。
その後は単純作業の繰り返しで、後は応援の戦闘員に任せて解放された。
「[兵隊蟻の蟻酸]…甲殻…使えそうだな」
PAに戻った俺達は、戦利品を仕分けしていく。
「[巨大な毒針]…これってレアドロップだっけ?」
ユキが取り出したのは、蜂の針とは思えない程太く頑丈な毒針だ。
「珍しいな…売れば10万は下らないだろう」
マッド曰く、毒攻撃付きのスピアの素材になるらしい。
「[フサフサレッグ]…?ああ、蜘蛛系の脚か」
触ると意外にプニプニチクチクする蜘蛛の脚。
「…そいつもレアドロップだな…今日は運が良いな…ヒヒ」
コチラはブーツやレギンスの材料に使うと、落下ダメージを軽減する効果が付けられる様で、需要は高いとの事だ。
レアドロップも有り、中々の戦果となった。
「「「こんにちは」」」
ラーク達がログインし、総勢7人となった。
これだけ居れば…と、昨日の新大陸へ向かった。
ヘリで直接キャンプに降り立ち、周辺の整地に参加する。
「ちょっとテツ君…何アレ…」
ユキがそれとなく示した方を向くと。
「出たなG戦隊…」
そこには何度か見かけた事のある、某黒光りする昆虫に似た格好や動きをするクランが、在来種と激戦を繰り広げていた。
矢鱈と光を反射する漆黒の大楯を背負い、妙に虫を思わせるフォルムのフルフェイスのヘルメットを被り、無駄に靡くマントを身に着けた五人組。
「ヒヒ…相変わらず動きが変態的だな」
「匍匐であの速度は何度見ても笑うわ!」
カサカサ…と擬音が聞こえてきそうなムーヴ。
ふと隣を見ると、ユキがノックアウト寸前だ。
俺達は何も見ていない。
少し距離を取り、作業を開始。
これでユキの精神も立ち直るだろう、と思ってたら。
「すみませーん」
なんと向こうから近寄ってきて声を掛けてきた。
ただこの時は全員普通に徒歩で移動していた。
「はい、なんでしょうか」
取り敢えず普通に応対する事にした。
「私はカンパニー[シャドーダイバー]代表のレイナと言います。宜しければ整地作業を一緒にしませんか?」
カンパニー?いつの間にか会社にまでなってたのか!
…じゃなくて、まさかの代表が女性という事態に驚愕。
俺が仲間を見渡し、どうする?と目で問いかけると。
「[シャドーダイバー]…G戦隊じゃないの?」
ユキがポツリと呟いたこの一言が、レイナさんに刺さる。
「グフッ…どうしてみんな事ある毎にGって言うのよ…」
これに対し、(いや、見た目を考えろよ…)と[シャドーダイバー]の面々を含め、心の中でツッコんだ。
「じゃあ何で衣装が黒いの?」
ここで容赦のないユキさん、何故か深堀し始めた。
「ッ!これは!染料や塗料は黒色が一番効果が高いからです!」
まさかの被視認性云々ではない事情だった。
これには一応の理解を示したユキ、が直ぐに追指摘を行う。
「その背中に背負った大楯は?」
「これは当然背中を守る為です。あ、勿論黒いのは性能の問題です」
一応尤もらしい応答だが。
「どうして態々匍匐なの?」
更に踏み込むユキ。
「色々考えた結果、これが一番防御面に優れるからよ」
「ふーん…じゃあ何で態々ジャンプまで強化したの?それにその無駄に二股に別れて靡く妙な翅に似たマントは?」
「え!?…ジャンプは回避の為よ!やっぱ二次元機動より三次元機動の方が、回避行動としては理に適っているもの」
この返答に、我隙見つけたりと攻勢を強めるユキ。
「態々そんな大楯まで背負って背中の守りを固めておいて、回避のために柔らかいお腹を晒す…へ~それはまた理に適っている事で」
この一撃で、レイナさんが涙目になる。
…てかさっきからユキのこのテンションはなんだ?。
「べ、別に回避にも力を入れたって良いじゃない!」
「そうね、姿勢を低く保って、被視認性と被弾面積を下げ、その分無防備な頭と背中をヘルメットと大楯でカバーする。素晴らしいビルドだわ」
「で、でしょ!あなた分かってるじゃない!」
我が意を得たりと、一転笑顔になるレイナさん。
「ただ、匍匐状態であれだけの高速移動をしようと思ったら、相当色々と犠牲にしている筈、それでいてシナジーの薄いジャンプまで伸ばした挙句に無駄に羽ばたくような挙動をするマント…もうお認めになったら如何?」
確かに、ジャンプは移動速度が速い程飛距離も伸びるが、匍匐状態じゃ恩恵が少なく、ただ垂直に高く跳ぶだけ。
この指摘に、もう言い逃れは出来ないと観念した様で。
「グッ…そうよ!これはGを再現したビルドよ!悪い!?」
一同
「だから言ったじゃないっすかレイナさん、[シャドーダイバー]何て粋った名前を付けても本質はごまかせないって」
結局ユキに論破され、涙目のレイナさんをメンバーが慰めるという状況になっている。
「だって…コンセプトはGですって言うと皆避けるんだもの…」
一同
「何故態々不快害虫の模倣を?」
またユキが要らん事を聞こうとする。
「…例えば学校や職場でエンカウントするじゃない?」
「うん」
「そうすると、最初の遭遇者が余程の耐性持ちか、冷めた人じゃなきゃ大概、事を大事にするわ」
「…?」
イマイチ分かっていないユキ。安心しろ、俺達もだ。
「事を無駄に盛り上げる男子、執拗なまでの拒否感を示す女子、現場はある意味でお祭り状態になるのよ」
ああ、それは解るわ。ちょっとしたイベントだもんな。
「この祭りはある種の魔力を帯びていて、暫く盛り上がって続く場合も多くて、ほとぼりが冷めた頃、再び盛り返して話題の中心になる事も珍しくないわ」
「成程、その存在が嫌われ過ぎているが故に、話のタネになりやすい…と」
最早ついていけなくて、フリーズしてるユキと変わって俺が相対する。
「そう、奴らは害虫のトップブランドに君臨するだけあって、妙な魅力が有るのよ。勿論ネタとして好きなだけで、飼ってるとかじゃないからね?」
うわぁ…「ネタとして好き」、この一言の為にどれだけためたんだよ!
「皆にもそういう経験あるでしょ?一度終わった筈の話題なのに、いつの間にか再熱して、奴らへの怨嗟や駆除の苦労話に花が咲いてるって現象」
…言われてみると確かに有るな…でもだから何なんだよ!
「それだけ色々と凄い存在なのよGってのは、だから肖ったのよ!」
言い切って、何処か誇らしげなレイナさん。うん、良いんじゃない?
「まあうちとしては構わんけど、忌避感を持つメンバーもいるかもしれんけど、それでも良いか?」
「はい、それでお願いします。すみません御無理を言って」
時を置いて、冷静になって真っ青になったレイナさんがあまりに不憫だったので、ユキを説得して共同作業を申し入れ、ついでにカンパニーの同盟も組んだ。
カンパニー同士の同盟って言っても、内は名無しだしこれといって恩恵は無いが、まあオンオフが分るだけでも一緒に遊びやすいかな?
「ところで、そのGビルドは何処までがガチでどこまでがネタなのかしら?」
向こうのメンバー。レイナさん、とうふ君、ニャルンさん、ジンレーザー君、ノリ君とフレンドになった事で、忌避感の無くなったユキが、改めて聞く。
「そうね、先ず匍匐の高速移動はガチね。再序盤の強敵、熊の痛い攻撃は殆ど当たらなくなるわ」
まあ腹這いの人間が、100m金メダリスト以上の速度で縦横無尽で動いてたら、普通の攻撃なんて当たらんわな。
「で、それでもこのゲームは、発動時に範囲内に居たら、問答無用で必中の攻撃が数多く存在するから、背中に大楯をしょって、堅さ重視のヘルメットを被ってるのよ」
「流石に触覚は付かなかったのね」
「そこまで成りきりたかったわけでは無いのよね」
まあ…理性が押し止めたんだろうな。
「更に、敵に肉薄するわけだから防具も最高の物を…って突き詰めてたら」
「色まで黒くなったと」
「うん…」
なんだろう…まるでゲームからの誘導尋問の様だ。
「何で態々ジャンプまで?」
「うーん…これは最初はネタだったんだけどね…このゲームって、姿勢が低ければ絶対に当たらない攻撃が数多い代わりに、地上何m以下に居ると絶対に被弾する攻撃も数多くあって、そうなった時にヘルメットだけじゃ頭へのダメージが抑えきれなくて…」
「それで空へ逃げ道を見出したと」
増々Gじゃねえか!
「そしたら増々らしさが増して…癖になっていつの間にか抜け出せなくなってしまったのよ…、でもお腹側の防御力は対策してあるわよ、ほら」
そう言い、両手両足に装着されたプロテクターを見せてくれた。
「これをこうして…ほら!完璧でしょ?」
そこにはダンゴムシの様に蹲ったレイナさんが居た。
「一々挙動が虫っぽいのはどうしようも無いのね…」
かなりの筋金入りだった。
さて、改めて[シャドーダイバー]との共同戦線で、整地を開始。
いや~、傍から見てても見事な戦術とビルドだと思ってたが、間近で見ると更に完成度の高さに唸らされる。
彼女等とは初の共闘だが、向こう側は完璧にこちらに合わせて見せた。
何故こちらに合わせたかと言うと、単純に火力が此方の方が上だからだ。
彼女等のビルドの弱点は、攻撃方法が乏しく、リーチが極端に短く、更に火力が絶望的に低い事が挙げられる。
理由は単純、スキルや防具にコストを掛け過ぎて、武器はナイフ二刀流で、そのナイフの強化具合が低いからだ。
逆に言えば、防具に尋常じゃないコストを掛けている分、彼女等の防御力は凄まじく高く、滅多に被弾しないくせに、被弾してもほぼ無傷という、敵からしたら非常に嫌らしい相手と言える。
そして今回。俺らとの共闘でGビルドは真価を発揮する。
ホラーハンドが恐怖の引き寄せを発動し、縞々猪を捕獲。
それを俺らが蹂躙している間、向こうが残りの敵を翻弄する。
数秒後また一匹引き寄せ、そのまた数秒後一匹…と誘い…。
数が大幅に減った相手に、ユキが極限まで[瞑想]で威力を高めた[クラスティオーブ]を放つ。
普通、FFが無くとも、射線の確保の為、大技の発動にはタイミングを合わせる必要が有るが、彼女等は匍匐状態。射線は常に空いているので、ユキのベストのタイミングで撃てる分、最大火力が期待でき、実際最大効率を叩き出し、この一撃で勝負は決した。
うん、邪魔にならない高機動高耐久のビルド。
Gビルド恐るべしだな!
夕飯まで皆で整地作業に没頭し、キャンプの周囲は大分整った。
「ご苦労様、これで更なる人員が送られるだろう」
俺達が帰還のヘリに乗り込む時、またしても追加の人員が降りて、キャンプの中に消えていった。
「お疲れ様、また御一緒しましょう」
「お疲れ様、此方こそ。またな」
[シャドーダイバー]と別れ、PAに戻る。
「それじゃ飯落ちするから、それじゃまた後で」
「またね~」
マッドたちに挨拶し、ログアウトした。
「さて、今晩の夕食は何かな~?」
PCをスリープモードにし、目を閉じて休ませる。
「流石にぶっ続けで5時間は疲れるわね~」
二人して、畳の上で柔軟体操をしていると。
「お疲れ様」
「お疲れ」
「お疲れ様、亜紀」
亜紀が仕事を終え、離れにやって来た。
「哲兄今日はご苦労様、課長が感謝していたわよ」
「ははは、まああの状況じゃな。ところで今日はもう上がりなのか?」
「ええ、社長には補佐が沢山居るから、私が付きっきりで居る事は稀よ」
へ~、中々にホワイトな環境だな。
「亜紀~、今日の夕食は?」
「今日は唐揚げにじゃこサラダですよ」
旨そうだな。
夕食を取り、風呂に入ってさっぱりし、少し横になる。
ふと目を開けると美雪と亜紀が俺の顔を除いていた。
一瞬目を閉じた心算だったが、いつの間にか二人が来ていた。
「悪い、寝てたのか」
「ううん、寝てはいなかったよ、ただ寝顔が可愛かったから」
「哲兄は今日活躍してたからね、起きるまで待ってようと思って」
寝てないのに寝顔とは…?まあいいか。
「別に二人で先に始めても良かったのに」
「私は哲也君と一緒に遊びたいから…」
今までで一番自然な微笑でそう言った美雪。
何この娘…超可愛いんですけど!
「そう言うことだから…哲兄イケそう?」
「オールオッケーだ」
てな訳で、少々眠いがログインした。
「こんばんは、さっき振り」
インしていたマッドに声を掛け、状況を確認する。
「マサは他のメンバーと外出中か…」
マッドは、貯まった素材を加工するから出撃はパスしたらしい。
「じゃあ3人で動くか」
何処に行こうかと検討していると。
『こちらレイナ。現在お時間宜しいでしょうか?』
という内容のメッセージが届いた。
ユキとアコに断り返信する。
すると一緒にどうですか?と来たので。
「良いわよ」
「私も異論は無いわ」
という事で、[シャドーダイバー]と合流する。
「すみませんテツさん。テツさん達が初めてまともに交流が持てたコミュニティなんで、レイナさんが無遠慮にお誘いしちゃって」
ユキが、アコに向こうの紹介をする中、とうふ君が謝って来た。
「いや、迷惑とは思わんけど…うち以外に交流がないのか?」
「ええ、アレなコンセプトで退かれたり、女子率の高さで出会い厨が寄ってきたりと、人付き合いは上手くいって無かったですね…」
それはなんと言うか…。
初めて当たりを引けたレイナさんが、テンション上がるのも無理ないか。
「まあ、内はかなり個人の自由を尊重してるから、誘われても断る事も多いかもしれんが、誘うだけなら気軽にしてくれて良いよ」
「ありがとうございます」
話が一段落し、向こうも自己紹介が済んだようなので、行動開始。
行き先を[シャドーダイバー]に任せたところ。
「砂漠の南を目指したいです」
と。レイナさんが言ったので、砂漠に向かった。
「ここから敵が異様に強くなるので、注意する様に」
一回来た事が有る俺達が、一応忠告しておく。
そして少し南に進んだところで。
「何!?この蟲共…堅すぎる‼」
ただでさえ火力に乏しい[シャドーダイバー]の面々。
数も耐久も揃った僻地の蟲共に大苦戦している。
一方俺達は、予習が済んでいた分上手く対処出来ている。
アコは動いてれば被弾する事は無いし、ユキも豚を活用して火力を貯める。
俺は不動の構えで、手が引き寄せた蟲や毒蛇を処理しつつ、畑を作って地中からの奇襲を妨害して、戦闘を優位に進める。
[シャドーダイバー]が、畑の上なら地中からの奇襲を受けない事を、学習してからは一気に形勢が傾き、余裕を持って戦えるようになった。
「これで止めよ![アイススピア]!」
瞑想でブーストした[アイススピア]が炸裂し、敵を全滅させた。
「地中からの奇襲があそこまでエグイなんて…」
「それを畑で防げるなんて…」
初の砂漠の僻地で、疲労が隠せない一行。
「これでまだまだ砂漠の終わりが見えないんだから、この先どんだけ厳しいんだか…、本格的な攻略はもっと人数を集めてからだな」
俺の言葉に、全員が頷く。
取り敢えず、今日の所は浅い箇所で戦利品を集めるに止める。
戦闘を重ねる内に、次第に動きも洗礼されていく。
やはり敵の特色やパターンを掴む事こそが、勝利への近道だな。
十分な戦果を得たので、一度ホームに戻った。
戦利品を換金素材に換え、チェストに突っ込んで身軽になる。
[シャドーダイバー]と再合流し、行き先を決めていると。
「お、マサ達も戻ったみたいだな」
PAに近い場所で屯していた俺達に向こうが気づく。
「おうテツ、そちらが噂の[シャドーダイバー]かな?」
「[シャドーダイバー]代表のレイナです」
双方で軽く自己紹介をし、マサ達も合流した。
これで総勢17名になり、中々の大所帯となった。
「これだけの人数が居れば、色々視野に入るけど…」
皆と相談した結果、南山の地底湖ダンジョンにに向かった。
道中はぎゅうぎゅう詰めになりながら突破し、[アッシー]の手前まで到着。
「じゃあちょっと行って来るわ」
[アッシー]のブレスの射程ギリギリで、皆と別れ地底湖の端に向かう。
おっかなびっくり歩きながら、地底湖の端に到着。
「こちらテツ、[アッシー]の迎撃を受けずに端まで到着」
『こちらマサ、どーぞー』
「これより地底湖の踏破に挑戦する」
『幸運を祈る』
さて。行ってみますか。
地底湖の壁際で、[鍬の一振り]を使い、道を作る。
何故こんな事をしているかと言うと。
~数分前~
「ところで[アッシー]の迂回路は見つかったけど、[アッシー]の背後に出る道は未発見なんだよな?」
俺のこの発言に。
「ええ、つまり[アッシー]を突破しなければ、あの対岸の穴には進めないようですね」
ベルの情報で、[アッシー]の背後に存在する幾つかの穴への興味が膨らむ。
後は想像の通り、もしかしたら、射程のギリギリを責めれば、向こう岸に行けるんじゃね?と言うことで、俺がトライしてるのだ。
あと、この湖に[アッシー]以外の脅威が居るかどうかの調査も兼ねている。
「ふぅ…今の所大丈夫そうだ」
湖上に水田を被せながら十数分。あと少しで半分という所で。
『テツ![アッシー]が反応した!…お疲れ様』
「諦めんな!」
マサの諦めと死刑宣告を受け、その直後ブレスに焼かれた。
「ウボァー」
ふと自分が死に戻りしていない事に気付き、急いで状況を確認する。
(LPは…2万まで減ってるのか…)
どうやら豚がかなりのダメージを肩代わりし、残りは自身のHPとLPで耐え切ったのだろう。
それに周囲に[不死の眷属]で呼び出された蝙蝠も何匹か居た。
(そうか…こいつ等も盾になってくれたのか…)
あの凄まじい攻撃に晒されながらも、生き残れた理由を分析していると。
『テツ!無事なのか!?[アッシー]が第二波を繰り出そうとしてるぞ!』
それを聞き、急いでLPを30%回復するポーションを飲み、HPを全快し、LPを5万弱まで回復する。
更に微調整で、タブレットポーションを2個噛み砕き、[好反応]で余剰分の2万4千と、5%×2で7千LPを回復させ、LPも全回復させた。
でもこのままだと無限ループなので、[鍬の一振り]で道を作り、再びブレスに身を焼かれる。
二度目のブレスを受け、今の俺ならば、無防備に一撃は耐えれると判り、回復しながら水田を進んだ。
以降少しずつ進んだところで、遂にはブレスの射程から抜けたようで、ブレスが飛んでこなくなった。
「いよっしゃーーーー!」
『やたっなテツ!』
皆と一緒に盛り上がる。…が。
「クオーン!」
コチラにブレスが届かないと見るや、[アッシー]が即座に親を呼んだ。
「まあなんと言うか…惜しかったな」
結局[アッシー]自体には手を出していないにも関わらず、二頭の親竜によって、骨までしゃぶり尽くされた俺は死に戻りして、えっちらおっちら皆に合流したところだ。
「お前が死に戻りした後、親竜がテツの残した水田を執拗に焼いたり凍らしたりして、徹底的に破壊していたな」
「そうか…ところで何で親が残ってるんだ?」
「さあ?というか二頭ともテツを見ていないか?」
俺は、「そんなまさか」と言い、少し左右に動いてみると。
「見事にテツ君がロックオンされてるわね」
アコ曰く、俺の動きに合わせて、二頭の鎌首が動いてたらしい。
「あーあ、折角の貴重なポーションが…」
「…ヒヒ、まあ良いじゃねえか…いいもの見させて貰ったお礼だ、ポーションは俺が奢ってやるぜ…」
と、マッドが幾つかのポーションを譲渡してくれた。
それに続いて、俺も私もと、皆からポーションを受け取った。
あ~、優しさがあったけ~。
「…ってな感じで、大体ブレスの直撃で25万位のダメージだな」
勿論豚の正確なステータスも分からないので、憶測だが。
「もしかして[ドッペルゲンガー]を使ってたら、良い線行ってた?」
「!?…いやダメだ…どの道親には歯が立たないからな」
「そっか…寧ろいきなり親を呼ばれる展開もありうるわね」
ユキの指摘とその後の分析に、同意せざるを得ない。
あの強さと異常な慎重さ。
コチラが少し工夫したところで、如何にもならんだろう。
という事で、現状[アッシー]の攻略は不可能と結論付けた。
そして、折角此処まで来たんだから、迂回して先に進む。
「…テツ君ガン見されてるわね」
ジーッと俺を睨む糞竜共を尻目に、穴倉に入っていった。
「へ~、先はこうなっていたんだ」
原理は判らんが、青白く発光する砂により、非常に明るい部屋に出た。
「今度は砂浜がメイン水溜まりがそこかしこに有る感じか」
そして[アッシー]を迂回したプレイヤーやNPCが非常に多く、そこらじゅうで採取やら戦闘が行われ、非常に賑やかだ。
此処まで来ると、敵は更に凶悪になっていて、屈強な大剣使いが沢蟹に押されているという、シュールな光景が目に入る。
「ホントこのゲームは見た目が当てにならないな…」
幅広で分厚い大剣の振り下ろしを、いとも容易く受け止める沢蟹。
既に何度も繰り返してるのか、全く動じない大剣使い。
押してダメならと、剣を力強く振り上げ、蟹を宙に放り投げる。
そこへ味方のミサイルランチャーが炸裂し、沢蟹は討ち取られた。
「[ミサイル一発<沢蟹]の価値になるのかしら…?」
ユキの呟いた一言が何とも切なさを誘う。
「でもあの人たちすんごい喜んでるわよ?」
どうやら[ミサイル一発<沢蟹]だった様だ。
他にも穴蝦蛄一匹に、只管遠距離から魔法を放つパーティーが、蝦蛄の放つ飛ぶ斬撃で真っ二つになって消えるシーンなども、見応えが有った。
そんなドラマに触発され、俺らも砂浜へと足を踏み入れた。
青白い砂浜は地獄だった。
砂中からの奇襲を防ぐ為、畑を作るもゴカイやマテ貝、アサリにハマグリと砂地に潜む生物に、真下からの攻撃で悉く破壊される。
豚?豚も大活躍してはいるが、あまりの物量に出荷が止まりません。
ちなみに貝類の攻撃方法は、突き上げや挟んだり、水鉄砲等です。
畑や水田が無意味と悟った俺は、ランタン二刀流に専念。
幸いマサのノックバックで、砂中の生物は弾き出せるので、奇襲を受ける危険性は格段に減り、まともな戦闘になっている。
それでも、引き寄せられたアサリと相対した俺達は、何で周りが全力で戦闘を行ってたかを身をもって理解し、全力で安全マージンを取りながら戦った。
砂中を驚異的な速度で向かってくる貝類をマサに任せ、残りの全戦力で引き寄せ拘束された貝の処理にあたる。
流石に17人に囲まれ、150を超える使い魔の物量の前に、引き寄せられたアサリやハマグリは数を減らし、数分後には最後のマテ貝を仕留め、勝利を収める事が出来た。
「…漁師って大変なんだな…」
砂浜から上がり、安全地帯で休憩中。
「[蛤の殻]か…確かに大きいものはリアルでも高価だが」
「紅入れに加工したりしますね」
如何にも詳しそうな、おりょうさんが教えてくれた。
「…って事はアクセサリ関係か…どうだパミル?」
「良いですね、久々に素材と格闘できそうですね」
蛤の殻に鼻息の荒くなるパミル。
中々の戦果を引っ提げ、来た道を戻っていると。
「うわ!なんか凄い事になってるぞ!?」
[アッシー]フロアに戻って目に入った光景が、[アニマル]産の超巨大象三匹と大勢のプレイヤーVS首長竜親子。という決戦が行われていた。
多くの野次馬が、その世紀の大一番を固唾を呑んでみていたが、勝敗は想像を遥かに超えてあっさりと決してしまった。
以前、吐息で100人近い挑戦者を粉々に粉砕した氷結ブレス。
それを放った親竜が、今度は明らかに力の籠った様子で吐き出したブレスは、雷が迸る極寒のアイスストームで、象たちと背後で支援していた多数のプレイヤー諸共砕け散ってしまった。
結果を見届けた両親は、キッと俺を一睨みし、湖に沈んでいった。
何で危害を加えてない俺がそこまで敵視されんだよ!
これは対岸の先に卵や雛が居ると言われても信じそうだ。
「お疲れ様でした!またよろしくお願いします!」
「お疲れ様」
テンションの高い[シャドーダイバー]と別れPAに戻った。
「いや~、良い物見れたな」
「あの雷の混じったアイスブレス?威力がおかしかったわね…」
同じ氷属性の使い手として、衝撃の大きいユキ。
「[アニマル]産の象でも瞬殺かぁ…」
「それでもダメージさえ取れる手段が有れば勝てそうなのがまた…」
大分パラメータや因子が出揃ってきた現在、組み合わせ次第ではあの親子を倒せそうなビルドが幾らでもありそうなのが恐ろしい。
「[処方]のスキルでポーションと名の付く物を使うと、無敵になるスキルが有った筈だが…そうだよなマッド?」
「ああ…[痛み止め]と[化膿止め]だな、前者はLv毎に無敵を1F伸ばし、後者は使用後の無敵をLv毎に1F増やせる」
このゲームは秒間60Fで動いているので、1Fは1/60秒となる。
最新鋭のVRゲームにしては、60fpsはしょぼく感じるかもしれないが、この規模のゲームなら60出てるだけでも十分凄いし、建前としてあまりリアルにすると、現実との区別が云々も考慮してのことらしい。
話を戻して、両者のスキルがLv60なら、ポーションを使用した際に1秒、使用後に1秒の無敵が発生する事になる。
「…但し、ポーションを使用する際には、ポーションにも当たり判定が発生するから、ポーションを狙われて戦術が瓦解する事もザラだ…」
「ええ、既に[処方]による無敵ビルドで[アッシー]に挑んだ話が上がってますが、冷却ブレスの持続が長すぎて、範囲内だとポーションを飲もうとした瞬間に、ポーションが破壊され撤退を余儀なくされたそうです」
…それでも撤退は出来たのか。
「その無敵ってのは、怯みやノックバックも防げるのか?」
「…ああ、完全無敵だ。コストが続く限りは無敵から無敵に繋げる事も可能だ」
「成程…つまりポーションさえ飲めればイケると…」
俺が考えて、何かを言おうと思った先に。
「テツが考えそうな事は分るぜ、ジェットパックやウィングを使って空中で逃げながらとか思っただろ?でもそんなコストは何処から捻出するんだ?」
くっ…マサに考えを読まれた上に、言う前に論破されてしまった。
まあ、机上の空論って事か…。
「は~楽しかった!、が疲れた」
皆との雑談後、ログアウトして三人で寛ぎ中。
「哲也君何見てるの?」
俺がPCで調べものをしてると、美雪が覗いて来た。
「ん?マッサージチェアでも買おうかな?って」
「哲兄おっさん臭いわよ」
「うるせー、おっさんだよ」
適当にべしゃりながら、色々と見ていくと。
「お、これが良さげか?」
「これ?大丈夫なの?」
覗き込んできた亜紀が懐疑的だ。
「大丈夫だ、昼に宮原さんに電力は余裕が有るって聞いたから」
「いやそうじゃなくて…60万もするわよ…それ」
「ここに並んでるPCよりは安いだろ?」
「まあそうだけど…少し経費から出そうか?」
なんか凄い同情的な視線で亜紀に提案される。
「さっきからなんなんだよ、偶の贅沢位良いじゃないか」
どうも中途半端に労働の大変さと金銭の尊さを知ってるせいか、小市民の俺が大金を使う事に他人ながら危機感を感じるらしい。
「60万…一括で買うの?」
なんか美雪まで心配そうに見つめて来る。
「もう放っておいてくれ!…ポチっとな」
こうして久々に贅沢品を買った。
「ははは!それは気の毒だったな」
二人を追い出し、酒でも飲もうとしてたら、おじさんが襲来し、二人で呑むことに。
「堅実に貯めてれば数年に一回くらい100万レベルの買い物位出来ますよ」
ポチった後も、二人から今ならキャンセル出来るだのと言われまくった。
「だが頻繁にマイナーチェンジするマッサージチェアに60万は、中々の冒険だと思うがな」
「うーん…車も軽で十分ですし、家も実家が有るので立てる気も無いですし」
ある意味贅沢な人生だ。一世一代の買い物をしなくて済んでるのだから。
「しかし、初日からピンチヒッターで、忙しかったですね」
「聞いたぞ、欠員が出たそうだな」
チーカマを梅酒で味わいながら、今日の出来事を話す。
「こちらもDIYのプロジェクトで一定の成果が出て、一先ず安泰だ」
「そういえばおじさんがパトロンでしたね」
「おうよ!膨大な人数の脳波や脈拍や声を分析し、規約違反にあたる行為に及んだプレイヤーに共通した数値をデータ化し、犯罪者を犯行前に見つけるシステム…名付けてDirty inspection yarn。対犯罪監視網ことDIYシステムだ。これが漸く形になった」
なんか話が急展開を迎えたぞ。
「おじさん…それ俺に聞かせても大丈夫な奴ですか?」
「ん?構わんよ、既にユーザー間でもそういった噂が出ているしな」
「そうですか…あの、DIYが罰金のみで矢鱈悪質行為に寛容なのは?」
「勿論サンプルの母数が欲しいからだ。言い掛かりに逆恨みといった、負の感情を爆発させる輩は正に最高の教材だ。BANにしてしまうより、適度に絞って被害者にゲーム内アイテムで還元する。良い循環だと思わんか?」
確かに最高のシステムです。
「それにそいつらの個人情報は全て握っている。ヤバそうなのは、そいつら自身が払った罰金で身辺調査も済ませているから、ユーザー間のトラブルも未然に防ぐ努力もしているし、既に何人か銃刀法違反で捕まえている」
おじさんは、将来このシステムをブラッシュアップしていき、色々な施設の入り口に設置したいと語っていた。
例えば電車の改札。ここにさり気無く脈拍などを読み取る装置を付けれれば、痴漢などを未然に防ぐ事が出来るかもしれないとも語っていた。
凄い技術だ。まさかそんな実験の舞台で遊んでいたとは思わなんだ。
「勿論純粋にゲーム開発も楽しんでる様だがな。どうだ?他のゲームに比べて大分ぶっ飛んでるバランスだろう?」
「ええ、匍匐で高速移動する人とか居ますもんね」
「出た!開発からサンプルの動画を見せられて爆笑したよ、なんせコスチュームが完全にアレだからな…色々と酷い」
…良かったな[シャドーダイバー]、パトロンのお気に入りだぞ。
「他にもゾンビの目の前で畑を作る奴とかな、あれもシュールで笑った」
咽た。
「おいおい、大丈夫か哲也君。まあそんな感じで純粋に面白おかしくゲームを作っているのもまた真実だから、これからも真摯に遊んでくれると、パトロンとしても嬉しい」
「ええ、勿論続けますよ」
こうしておじさんと、奇人変人プレイヤーの話で盛り上がり、べろんべろんになった所で解散となった。
「うおお…頭がいてえ…」
翌朝、藤堂家で育てているニワトリの合唱に起こされ、只今光合成中。
「あ、哲兄起きてたのね」
縁側でぼーっと日光浴をしてる俺に、亜紀が声を掛けて来る。
「あー…おはよう亜紀」
「顔色悪いけど…社長と飲み過ぎよ」
返す言葉もねえだす。
「ん…ぷはぁ…あーしんどい…」
スポーツ飲料を飲み、少しは頭が冴えてきた。
洗面所で身嗜みを整えてから、仕事用のPCを立ち上げる。
「今日は…今日も立て込んでるのか…」
営業が妙に忙しいのは、昨日おじさんに聞いた成果の売り込みか?
まあ、仕事量としては其処まででは無いから、取り敢えず朝飯だ。
「おじさん、お早うございます」
「ああ…おはよう…」
おじさんも酒が残ってる様だ。
「それではいただきます」
「「「いただきます」」」
おじさんの音頭で朝食を食べ始める。
朝食の献立は、雑穀玄米飯、ジャガイモと玉葱の味噌汁、大根おろしとじゃこおかかの小鉢、サバの塩焼き、納豆、ほうれん草のおひたし、卵焼きの超豪華なメニューだった。
藤堂家の家訓には、早起きは三文の得とあり、朝食も早朝の6:30には、出来るだけ親類と摂る事にしているそうで、俺もその習慣に倣っている。
「あ~食った食った」
食後に野菜ジュースを飲み、体に栄養を巡らせて小休止。
ちゃっちゃと仕事を片付ける。
そして昼前には片付いて、ふと背後を振り返ると。
「終わった?」
「今しがたな」
勉学やリハビリが済んだのか、美雪が離れに来ていた。
「お昼、もう出来てるわ」
「丁度腹も減った事だし行こう」
昼食を頂いたら、ちょっと散歩をする事にした。
「相変わらず広い敷地だよな~」
一緒に付いて来た美雪と、敷地内を散歩する。
「ンコココココ…コケー!」
元気に餌を啄む鶏を横目に、鶏舎を通り過ぎ厩に来た。
「おお、ポニーだ!可愛い~」
柵に頭を乗っけて、ピスピスと鼻息荒くアピールするポニー。
頭や顔を撫でてやると、目を細めて喜ぶのが可愛い。
美雪も慣れた手つきで撫でている。
「昔はポニーなんていなかったんだよな」
「うん、この子は私の為に連れてこられたからね」
「それで妙に懐いてるのか」
お馬ちゃんを愛で、のんびりと歩いて離れに向かった。
「こんにちは」
美雪と二人でログインすると、パミルが作業をしていた。
「ちょっとお二人さん、これを見て下さい」
そういいパミルに渡されたのが。
[綺麗に研摩された蛤の殻]:地底湖産の尋常ならざる堅さの蛤の殻を熟練の技術で磨いた物。防具に張り付けたり括り付けたりすることで、飛躍的に防御力を高められるだろう。アクセサリとして装備可能。[物理軽減5%][魔法軽減5%][属性軽減5%] 防御力190。 コスト20。
なんか素材の段階の癖に、とんでもなく高性能だぞ。
「これは…量産出来るのか?」
俺のこの問いに、パミルは無言で首を左右に振った。
「この殻を研摩するのに使った研磨剤が、かなり高位の物なので、この殻自体が最低でも80万で売れなければ赤字です」
ひょえ~。しかし軽減効果が付いてるからコスト20は軽いな。
「触ってみてどうだ?」
「上質な研磨剤の消費先としては良いのではないでしょうか」
「余裕が有る時に片手間で、って感じか」
これは主力商品には程遠いので、この一品も含め、売りに出した。
余談だが、この[綺麗に研摩された蛤の殻]は、200万で即売れした。
蛤の殻を売りに出し、少ししてシルクがインしてきた。
「こんにちはです」
これで人数も4人になり、最低限戦えるので、仕入れに向かう。
行き先は、シルクに需要が有る繊維が多く手に入る砂漠の蟲の巣だ。
ここは、下に潜るほど蜘蛛の巣や芋虫の繭等、上質な糸や布の材料となる素材が多く手に入るので、今回は途中の採掘地帯と合わせて、職人の素材を集める事にした。
「先ずは繊維から集めるか」
先に石集めをしてから事故って死んだら、素材が勿体ないからな。
先に危険な討伐や採取を済ませてしまおう。
という事で、採掘場を素通りし、危険区域に侵入した。
現実の時間帯が昼という事で、人が少ない為熱い歓迎を受ける。
「では私のビルドのお披露目をしましょう」
そう宣言したパミルが、先程から気になっていた武器を構えて前に出る。
「これは私の新たな武器で[ロケットマトック]と言います」
今までのつるはしよりも倍以上に長い柄。短く太くなった嘴。その嘴の反対側に武骨なロケット推進装置が取り付けられ、如何にも破壊力に優れそうな武器が、新たなパミルの相棒だ。
「ブーン!」
巨大な雀蜂がパミル目掛けて、鋭い棘を突き立てて来る。
「一撃で仕留める!っせいや!」
雀蜂が必殺の間合いに入った瞬間、目にも止まらぬ速さの打撃が繰り出され、雀蜂は塵となって消滅した。
だが強大な一撃故に、パミルには莫大な隙が生じ、それを見逃すほど蟲共も甘くはなく、直ぐにパミルに殺到するが…。
「させるか!おうりゃ!」
下段に下がっていた[ロケットマトック]を、くるっと回転させ嘴を上に向け、すかさずロケットを吹かして蟲共を一薙ぎに消し去った。
「…なんと言うか…とんでもない火力だな…」
「ええ、実は火力は採掘速度にモロに影響が出ますからね、なので今までは複数の攻撃系パラーメータを取得して火力を出してたんですが」
要は、ゲーム全体が洗礼されてきて、色々とスキルや因子が解放された現状では、無駄の多いビルドだったので、色々変えたそうだ。
「それにしても凄い武器だな、やっぱ何か補正が?」
「ご明察、この[ロケットマトック]はパラメータの[知力]と[科学]でも攻撃力が上がります。なので普通の武器の3倍補正が掛かりますね」
まあハイテク…かはさておき、それなりに知識も要りそうな武器だもんな。
ちなみに[知力]は属性攻撃力を高め、[科学]は属性防御力を高めるパラーメータで、見て分かる通り、[知力]は攻撃系だが、[科学]は防御系のパラーメータだ。
その防御系のパラーメータで、火力の上がる[ロケットマトック]は、間違いなく今後の装備シーンに影響を及ぼす逸品だろう。
「よくそんな武器を用意出来たな…」
「今まで貯めに貯めた超希少素材の山を使って、最高の素材を用意して、大手の鍛冶カンパニーに依頼して作って貰いました」
成程…パミルのこれまでの財宝を注いだワンオフ品か…。
パミルのビルド改革により、彼は一躍俺達の物理火力のトップに躍り出た。
勿論DPSや、総ダメージ勝負ならベッタラが我がカンパニーダントツだが、一撃の重さならパミルの軍配が上がる。
でもパミルは今回のリビルドで、[魔力]などいくつかのパラーメータを変更し、防御系のパラメータを増やしたそうなので、今後は前衛も張れると言うので、増々頼りになる事請け合いだ。
さて、パミルのお披露目後、再び戦闘に入ると今度はシルクが。
「次は私のお披露目タイムです」
そう言って前に出るシルク。
とはいえ、道中ぱっと見の変化はずっと見せられっぱなしだったが。
先ずシルクのぱっと見の変化だが、兎に角使い魔が増えた。
種類、数共にだ。
では紹介していこう。先ずは[養蚕家]の蚕だ。
[養蚕家]の効果は、1時間毎にシルク繊維が手に入る。というものだ。
スキルは[養蚕]に[洗浄]で、[養蚕]は蚕の使い魔が8体使役出来、Lv毎に手に入る繊維が2%増える効果だ。そして[洗浄]はLv毎に繊維の質が5%上がる効果らしい。
「正直、この子たちは戦力にはならないです」
次は[ラマ農家]。効果は1時間毎にラマ毛が荷物にねじ込まれる様だ。
スキルは[ラマ牧場]と[マスコット]で、[ラマ牧場]はラマを4体使役出来るようになり、Lvを上げる程見た目がアルパカに寄っていくらしい。[マスコット]はちょっと気の毒なスキルで、Lv毎にラマが堅くなり、より狙われ易くなる効果だ。
「最初はもっとラクダっぽい感じだったです。けどいつの間にかアルパカみたいな見た目になってたです」
うん、現在のスキルLvは70らしいけど、もう完全にアルパカだ。
お次は[兎農家]で、例によって兎の毛が手に入る。
スキルは[アンゴラ]に[産めよ増やせよ]で、[アンゴラ]は白毛玉を8体使役し、Lv毎に毛の量5%が増える。[産めよ増やせよ]は、Lv毎に10%増えるというものだ。
「これが一番繊維を供給してくれる因子です」
最後は[家鴨農家]でこれも1時間毎に羽毛が手に入る。
スキルは[家鴨]に[撥水]で、[家鴨]は家鴨の使い魔を4体使役出来、Lv上げると飛んでいられる時間が伸びるらしい。[撥水]はLv毎に水中での動きが10%早くなる効果だ。
「沼地で足が速くばる[撥水]が地味に強力です」
この4因子がシルクの新戦力…の一部だ。
だが彼女の進化はもう少し捻りが有った。
「ではいくです。ポイ!」
どこか気の抜ける声と共に、投擲された巨大な網。
これがシルクの新たな力だ。
「パラメータも試行錯誤して、[手芸]を取り入れました」
[手芸]はどうも簡単なクラフトに補正を掛けるパラメータの様だ。
簡単とはどの程度かは分からないが、世間一般にハンドメイドと言える範疇よりやや広い感じらしい。…増々分らん。
シルク曰く、出先で設備がない状態で簡単な物を作るのに、非常に重宝するパラメータの様だ。
勿論普通に設備を使ったクラフトにも補正は掛かる様だが、専用のスキルや因子に比べれば効果は弱いらしい。
そんな[手芸]をシルクが採用したのは、普段のクラフトに若干ながら補正が掛かるのは勿論だが、主な理由は、出先で手に入った素材で網をクラフトして、それを投げて戦う為だと言う。
「ビルドの関係上か、素材を自動生成する因子が増えてたので、それを活かせるビルドを模索していたら、こうなったです」
では、話を戦闘場面に戻そう。
投擲された網は、見事に蟲の一団に絡まり、動きを阻害する。
蟲共も抵抗するが、シルクのステータスのお陰か、出先でパパっと作ったとは思えない程網が丈夫で、動きが鈍いままの蟲。
そこへ戦闘要員の使い魔が押し寄せ、蟲共を圧殺してみせた。
ちなみにシルクの[聖人]の使い魔は、因子を覚醒させてる関係上、個のスペックでなら、俺の使い魔を遥かに凌駕する程高かった。
「成程、シルクのビルドは強力な使い魔を、使い放題の網で援護する形になっているのか」
「そうです、パラメータも[魔力]と[幸運]以外は防御系で固めたので、以前とは比較にならない堅さになったです」
「じゃあ、シルクちゃんも前衛を張ろうと思えばできるのね?」
「はいです」
キャスターで、我がカンパニー最弱クラスの打たれ弱さのユキ。
彼女にとって、前に出てくれる人が増える程戦闘が楽になるから、これからはシルクにも前衛を張ってもらう機会が増えるだろう。
パミルとシルクの新たなビルドも見たテツは、更に奥を目指すのだった。
次回も二週間ほどで。




