表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/63

第十四話

~前回までのあらすじ~

幼少期からの知り合いである社長と飲みに行ったり

新たなダンジョンに[アッシー]なる珍獣の噂も…

 誰か居る事を祈りつつ、本日2度目のログイン。

「あ、テツ君こんにちは」

「こんにちは、ユキ…ってこの時間も居るんだ」

「え?うん…私…引き籠りだから…」

 …とんだ核地雷を踏んでしまった。

「へ~、今から何処かに行こうと思うんだが一緒に行くか?」

 表情を変えずに動じていないフリをするがどうだ…。

「そうね…御一緒させて貰おうかしら」

 良かった、流れを変える事が出来たみたいだ。

「じゃあ何処に行こうか…」

 行き先を考えていると。

「こんにちは、あらテツ君、こんな時間に珍しい」

「アコか、こんにちは」

「…こんにちは」

「ん?なんかユキのテンションが低い?、テツ君…2人っきりだからってなんかセクハラかましたんじゃないでしょうね?」

 なんだこの冤罪は。

「はぁ…ユキ、何処に行きたい?」

「え!?えっと…」

「こら!無視すんな!」

 結局経緯の説明の為に、蒸し返す羽目に。

(そっか…テツ君は初めて知ったのね…)

(全く…折角無理矢理スルーして流れを変えたのに!)

(誠に申し訳ない)

 結局そのまま気まずい状態で、1日を過ごす羽目になった。


「おじさんの家に来るのも随分と久しぶりですね」

 週末、おじさん…社長に誘われて、社長宅で呑むことに。

「さあ、グッとやりたまえ」

「頂きます」

 おじさんに注いで貰った、日本酒を口に含む。

「これは良いですね…ひんやりとした甘い香り、多少辛さは感じますが、香りに違わぬ甘みとすっきりとした後口が素晴らしい」

「純米吟醸の富蔵だ」

「流石純米吟醸…」

 おじさんのグラスにも富蔵を注ぎ、静かに飲み進める。

「お待たせしました」

「おお、来たか。さ、亜紀(あき)も一杯やりなさい」

「恐縮です」

 秘書さんがお寿司を届けてくれ、そのまま同伴する。

「改めまして、亜希子と言います。よろしくお願いします」

「哲也です。こちらこそ」

「…やはり覚えてはいませんか…」

「?」

「いえ、こちらの話です。忘れて下さい」

「はあ…」

 うーん…こんな美人の知り合いが居たら忘れないだろうが…。

 まあいっか。今は酒に寿司だ。


「いや~、美味いですね…ネタも素晴らしいが舎利が絶品です」

「この舎利の良さを分かってくれるか!」

 やや顔に赤みが差したおじさんが嬉しそうに聞いてくる。

「ええ、この程良い酸味、絶妙な堅さとしっとり感。最近の100円寿司屋の自動撹拌機と米では、絶対にこんな美味い舎利には成りませんよ」

「流石哲也君、親父さんの血はしっかり引いているね」

「流石は親方の息子さんですね」

 俺の親父の事に言及する2人。どういう事だ?。

「…亜希子さんは親父をご存じで?」

「もうっ!まだ思い出せませんか?」

「え!?」

「ははは!まあ無理もない…あの頃は()()有りすぎたからな…」

「えーっと…」

 状況が呑み込めず、困惑する俺に。

「哲兄!雪姉!私も連れてって!」

 突如幼女の様な声音で、何か口走る亜希子。

「はい?」

 ボン!っと音が聞こえそうな位、一気に顔が赤くなる亜希子。

「哲也君。彼女は[雪乃]の世話係に()()()()()()()三島家のお嬢さんだ」

「三島家の…!亜紀ちゃん…?」

「遅い!」

 そうか…彼女が亜紀ちゃんか…。

 そう言う事かと、さっきの幼女の声真似に納得のいった哲也。

 そういえば昔、まだ幼すぎる亜紀を置いて庭で遊ぼうってなって、自分も連れてけと亜紀がごねた事があった。

「大きくなってね亜紀ちゃん。それに凄い美人なったね」

「うわぁ…思い出した途端哲兄が口説いてくるんですけど…」

「ええ…」

「ははは!まあまあ。哲也君も亜紀の事を思い出した様だし、続けて呑もうじゃないあか」

 おじさんの音頭で宅飲みは再開された。


「いや、分かんねーお!20年も前に見たきりの子なんえ」

 若干呂律が怪しいが、一応抗議をしておく。

「ふーん?私は哲兄って直ぐに分かったけどね」

「若いって素晴らしいのね」

「それ今だとセクハラになるわよ」

「おじさ~ん、亜紀えもんがイジメる~」

 思い出せないものはしょうがないのに、いつまでも追及が終わらないので、おじさんに救援を要請する。

「哲也君もあの頃のことはショックであまり記憶が無いのだよ…」

「私だって…雪姉の…お嬢様の事はショックでしたよ…」

「「「…」」」

 あーもうっ、結局しんみりしちゃうじゃないか。


 流れを変え、亜紀の直近の話題に。

「そうか~、亜紀ちゃんももう23か~」

「そうよ?今年大学を出ておじ様の秘書になったのよ!」

「あの頃は3人で良く遊んでおったな」

 おじさんが懐かしむ様に呟く。

 確かに良く3人で遊んだ。雪乃を連れて敷地内の池で遊んだり、キャンプで川に入ったり…川に入ったり…?

 あれ?亜紀は俺達について来れないから泣いてた筈じゃ…。

 それに川に入る…3人…。

「3人…俺と雪乃と…。俺と雪乃と…」

「哲也君!」

「え?はい。…アレ?なに考えてたっけか…」

「大丈夫かね?顔色が優れない様だが」

「そうですか?ははちょっと飲み過ぎたんですかね」

 そういうと、おじさんがタクシーを手配して、亜紀を付き添いに俺を帰宅させてくれた。

「もう!哲兄もおじさんなんだから、呑み過ぎには注意してよ」

「うるさいやい!まだまだ俺は若いやい!」

「はいはい、へべれけおじさんの御帰宅で~す」

 亜紀の介助により、自宅に戻り、亜紀を見送った。


「…ふう…」

(「哲也君!」あの時俺の名を呼んだおじさん。アレはおじさんが何かを咎める様な時に出す声音だった…)

 実際の所、俺はど忘れなんかしていない。

 恥ずかしい話。おじさんの気迫に中てられてしまい、逃げの一手として、敢えて話を合わせて追及をかわす為に惚けたのだ。

 今思い返してみると、俺の記憶には不自然な点が多い。

 幾ら俺の心情に配慮したからといって、家族ぐるみで親交のあった家だぞ?三回忌や墓参り位するだろう。

 それなのに、それらに参加した記憶は勿論、今ではハッキリ思い出せる幼少期の亜紀の事もだ。さっき思い出すまでは、まるで蓋でもされてたかのように思い出せなかった。

「おじさん…一体俺に何を隠してるんですか?」

 大恩人であるおじさんに対して、僅かだが芽生えてしまった不信感。

 俺は今後、この感情とどう向き合えば良いのだろうか。


 …なんて事を思った翌日。

 おじさんが態々迎えを寄越してまで、話がしたいと言ってきた。

 正直まだ気持ちに整理が付かないが…、会わないわけにはいかない。

「おはようございます。おじさん」

「おはよう哲也君」

 さあ、と着席を促される。

「昨日は少々呑み過ぎたかな?」

「…、おじさん…」

 やはり、おじさんを前にして、気持ちが浮ついてしまう。

「哲也君…君が何を考えているかは、私なりに理解している心算だ…」

 そう言い、おじさんは続ける。

「だが…今は私を信じて欲しい。悪いようにはしない」

 おじさんの、鋭い気配に妙な頭痛を感じる。

「…分かりました…正直何も確信は有りませんが…必要な事だったんですね?」

 無言で頷くおじさん。これは幾ら聞いても無駄だろうな…。

「そうですか…まあその内教えてください。過去に何が有ったのか」

 そう言った俺に、「そういう日が来れば良いんだがな…」ボソッと小声でこう呟くのを確かに聞き取った。


「さて、実は本題はこれからなんだが…会って欲しい人が居るんだ」

「会って欲しい人?ですか…」

 そう言い、おじさんがハンドベルを鳴らすと。

「社長、お連れしました」

 仕事モードの亜紀が、室外から声を掛けて来る。

「入ってくれ」

「失礼します。さあ、お嬢様どうぞ」

「お…じ様、会わせたいお客様とは?」

「…ぇ?」

「…‼」

 亜紀に連れられてきた人物。一目見て心臓が止まるかと思った。

 幼いころの雪乃の面影を残す、淡い金髪の美しい少女。

 まるで、雪乃が生きてたらこうなっていた。そう思わせる少女だった。

 そんな彼女が俺を見て、一瞬凄い明るい表情になる。

 それがまた、俺の中の雪乃像を強く呼び覚ます。

 しかし、直後に俯いたと思ったら、何とも悲しそうな表情になってしまった少女に、俺まで悲しくなって来る。

 流石に俺の中の雪乃が幼すぎるかもだが、雪乃だったら俺を見た瞬間満面の笑みで突撃してくる筈だ。悲しそうな顔をするこの子が雪乃の筈がない…。

 それはそうだ。雪乃が死んでからもう20年。目の前の少女は精々15~6歳。どう考えても他人の空似で別人だ。

「哲也君、この子は美雪。私の姪にあたる子だ」

「美雪…おじさんそれって…」

「ああ、死んだ妻と同じ名だ。この子は死んだ妻の妹の娘だ」

 成程…死んだ姉の名前を娘に…って事か。

 確かに雪乃にも似ているが、ハーフである奥様の面影も有る。

 そうか…雪乃の従妹か…。そう一人納得していると。

「あのぉ…」

「おお、すまんすまん、…美雪。この人は哲也君、私の古い知人だ」

「初めまして美雪さん。哲也です」

「…美雪です…」

 うーんどうも嫌われてしまったらしい。…何で?


「ええ!?この子の遊び相手に?俺がですか!?」

「そうなんだ、引き受けてくれると嬉しいんだが…」

 おじさんによると。この娘、美雪は体が弱く、最近療養と教育の為に、おじさんに預けられた様で、歳が近い遊び相手が亜紀しか居なかった様だ。

「君は7歳下の雪乃とも上手くやっていた。その手腕を是非この子の為に」

「いやしかし…美雪さんもこんなおじさん相手じゃ気まずいだろう?」

 精神的ダメージ覚悟で、美雪嬢に意見を求めると。

「…別に…嫌でも無いですし、気まずく無いですよ」

 あれ?

「そうかそうか!美雪もこう言ってるし、どうかね哲也君」

「いやいや、おじさんの手前断り辛いだけですって、ね?」

 再度、美雪嬢に救いを求めてみるが。

「…哲…也さんは私じゃ嫌ですか?」

 う、またさっきの悲しそうな表情。なんだ?嫌われてたわけじゃないのか?

 結局おじさんのゴリ押しと、亜希子の無言の圧力と、美雪嬢の悲しそうな表情に退路を塞がれ、なし崩しで引き受ける事にした。


「では我々は少し出てくるので、その間頼むよ」

「哲兄、お嬢様を頼んだよ?」

「…分かってるよ」

 二人が仕事で出て行ったので、お手伝いさん達を除けば俺と美雪嬢だけ、取り残されたしまった。

「…どうしよっか?」

 正直、自分の半生も生きてないような女子の遊び相手とか、何を求められるかなんて解るわけがないので、本人に聞く。

「…ついて来て」

 言われるがまま後を追う。

「入って」

「失礼します」

 そこは、年頃の女の子の部屋とは思えない程、無機質な部屋だった。

 更に、矢鱈と高そうなゲーミングPCとVRセットが、異質さに輪を掛けていた。

「ゲームするから、隣でヤジって盛り上げて」

 サクサクとヘッドセットを被り、ゲームを始める美雪嬢。そしてそのゲームは…。

(ゲームってDIYオンラインかよ…)

 でも一応知らない体で、聞いておく。

「これはどういうゲームかな?」

「説明が必要?まあモニターでも見てて」

 言われるがまま、モニターを眺めていると。

「え…」

 モニターには、3人称視点で移る、美雪のアバター。

 黒髪の魔法使い風のアバター。そのアバターには見覚えが有り…。

(これ、どう見てもうちのPA内だよな…)

「と言うわけで。改めまして引き籠りのユキです。よろしくテツ君」

「…宜しく」


 まさかDIYのユキが、勤め先の社長でもあり、昔からの知人でもあるおじさんの姪っ子だとは…、世の中意外と狭いもんだな。

 そして、色々と突っ込みどころが有るんだが、それをおじさんに問い詰めると、蛇の道は蛇…DIYの運営に資金提供しているのは、おじさんだという衝撃の事実。

 美雪…ユキの交友先は、興信所を使って調査済みで、どうやらうちのメンバーは全員白(何の白黒だよ)だったらしい…。怖いわ!。

 そんでもって亜希子。彼女もDIYのアコで、ユキのカミングアウト時に、どっきり成功の効果音付きで、おじさんと一緒に入室してきた亜希子に、そう告げられた。

 もうお腹いっぱいです。

 つまり、俺とマサに別々に接触してきたのも、全て計画通りだったわけで、当時の俺とマサは、見事に騙されてしまった様だ。

 あ、でもその時は俺が哲也とは知らずに、無害そうだから声を掛けただけで、気づいたのは本当に最近の様だ。

「じゃあ、この間の送迎で気づいたのか」

「ええ、哲兄が私の顔をジッと見るから、気づいたのか思ったけど違って、がっかりしたんだけど…、なんか声に聞き覚えがあって、悪いと思ったんだけど…調べたら見事にヒット。テツ君が哲兄だったってわけよ」

「それを亜紀から聞いて、こりゃ良いと思ってな」

「私もお…じ様と亜紀の身内なら大丈夫だと思って、探りを入れてみたの」

「それがこの間の引き籠り云々の件か…」

 まあ、おじさんと亜希なら俺のシフトは筒抜けだろうしな。

 一芝居打つなんて造作も無いか。

 ちなみに万が一、他のメンバーがインしてきても対処は出来たそうだ。やらずに済んだようだが、改めて怖いわ!

「結果、テツ君が引き籠りに偏見が無いって分かったから…」

 それで俺を呼び出して、引き合わせたのか。


「それじゃ哲也君、また後で」

 どうやら美雪は俺のことを、君付けで呼ぶ様だ。

「またね、哲兄」

 なんか色々な事を、力押しで有耶無耶にされてしまった。

 亜紀の運転する車で自宅に送られ、直ぐにインするよう言われた。

「まあ、成るようになれだな」

 今後は、社長命令で自宅勤務という形で、美雪の遊び相手を務める事も増えるそうなので、俺は部署の異動があるそうだ。

「さて、ログインっと」

 いつもの風景だが、今日からは少し違って見えるのかな?

「お待たせ」

「さっき振りねテツ君」

「それじゃテツ君、早速エスコート宜しくね」

 ま、こういうのも悪く無いな。


「と、言う感じで俺達は縁があったんだ」

「ほ~、まさかユキとアコが知り合いで、アコはテツとも知り合いだったのか」

 マサに、ある程度ぼかしながら話をした。

 今後は、平日でもユキに俺かアコ、若しくは両方が付き添う時間が増えるからな、他のメンバーにも早めに事情を説明しておく。

 マサに話した後に、いい具合にメンバーがインしてきたので、ある程度の事情を話し、俺のイン率が上がる事を説明しておいた。

 皆、そいつのプライベートなんてどうでも良くね?って感じのリアクションで、特に偏見とかは無いようだった。

 うん、流石は俺がフレンドになりたいと思った連中だ。


 さて、現在[バグスター]のダンジョンに来ている。

 メンバーはマサ、ユキ、アコ、ベル、ワイドで6人だ。

 タンク…とまではいかなくとも、盾と直剣による堅実なスタイルにより、前衛を張れるワイドが先頭に立つ。

 俺は前衛寄りの支援職?まあそんな感じだ。

 マサとアコが遊撃で、敵の妨害を行う。

 ユキとベルが後衛で、火力と回復を担当する。

 ダンジョンの状況だが、結局ギルドの職員は敗走したようだ。

 この間と違い、ダンジョン内には中継地は存在しない。

「仕方が無かったのだ、敵の大群に迫られては成す術はなかった」

 との事だ。

 それでも入り口に駐屯している戦力と協力し、殲滅に成功してるだけでも、以前のホームが何度も崩壊してた状況よりは進歩している。

「それで?今回の目標はなんだ?」

 マサが、目的を聞いてくる。

「依頼自体は、蟲の間引き作業で、目的は様々な毒の確保だ」

 毒薬は我が社の主力商品だ。沢山確保せねば。

 俺達は素材を求め、人目の少ない部屋へ歩を進めた。


「凄い抵抗だな」

「ああ、キリがないぜ」

 一通り脇道を巡回し、背後の安全を確保したので、前進。

 分岐に差し掛かる度に、人の居ない方を選択した為、現在孤立状態。

 そんな中、異物を排除せんとする、大量の蟲に襲われている。

 幸い最高のポジションである、敵の侵入口を抑えてるので、蟲に対しリスキルをしてる状況なので、被害は発生していない。

「とはいえ、このままじゃ動けないわね」

 ユキの言葉がすべてを物語っている。

「しゃーない、ここは撤退しよう」

 瞑想で、ユキの火力を最大にまで高めて貰う。

「準備オッケーよ」

 他のメンバーも頷いたので、ユキが[クラスティオーブ]を放つ。

 そこへ俺が[ドッペルゲンガー]を発動し、全力で後退する。

 ドッペルが消える頃には、また侵入口を抑え、以下繰り返し。

 途中、蟲が迂回してくるなどのトラブルも発生したが、フリーの俺の使い魔とアコが大活躍し、素早く処理出来た。

 お陰で無事帰還し、報酬と素材をタンマリと得る事が出来た。


 PAに戻り、マッドに素材を渡す。

「へへへ…いつもすまねえな…」

 荷物の整理をし、次の行動を議論する。

「薬草集めに[フォレスト]はどうかと思うんだが」

 特に反対も無く、次の行き先が決定した。


「ここは相変わらず進展が無いわね~」

 アコの言う通り、[フォレスト]の開拓は完全に止まっていた。

 でも、それは仕方のな事で、そこらに生えている樹木は、開拓の妨げでもあると同時に、ここ[フォレスト]の恵みでもあるのだ。

 この樹木が水を綺麗に浄化し、光合成によって大地に栄養を行き渡らせる事で、日陰でも様々な植物が生きていけるのだ。

 これらを不用意に伐採すれば、バランスは瞬く間に崩れ、[フォレスト]を開拓する価値すら見出せなくなってしまうだろう。

 そんな事情で、相変わらず足場が不安定な中、薬草狩りをする。

 流石、薬草の一大産地だけあり、ガスマスクを着けた人が沢山居る。

 肉食植物や植物の魔物なら、資源の回復具合に関係なく、薬草入手のチャンスが有るからな。皆ドロップ目当てで頑張っているのだ。

 俺達も薬草の入手を程々に頑張りながら、繊維などのアパレル関係の素材も集め、包帯の量産化を推し進める。

 ちなみに[フォレスト]魔物は、汚染から生じた変異種とは違い、純粋に進化したという位置付けの様だ。

 暫く狩りをこなし、十分な資源を獲得し帰還した。

 その後は、ユキは勉強でアコは仕事で、2人が離脱した。

 俺も、部署の異動が有るらしいので、早めに落ちて就寝した。


「おはよう哲兄」

「おはよう」

 翌朝。

 スーツを着た亜紀が俺を迎えに来た。

「取り敢えず、哲兄の関係先に挨拶ね」

「えっと、そもそも俺は何処の所属になるんだ?」

「一応私と同じ社長専属って形で、秘書になって貰うわ」

「え!?大丈夫なんかな…それ」

「問題無いわ、哲兄はこれから屋敷の離れに住み込みの在宅勤務になるから、実際に秘書の業務をする事は殆どないわ」

 …屋敷の離れに住み込み…?

「住み込み?誰が?」

「既に業者も手配しているわ、今日中には荷物の搬出入も済むわ」

 俺は思考を放棄した。


「そうかね…上司として栄転を喜ぶべきなんだろうな…」

「なんかすみません…」

「これは社長命令なので、拒否は出来ませんよ?」

「…分かってるよ…」

 亜紀が課長に説明している間に。

「おい鈴木、お前三島さんと知り合いなのか!?」

 亜紀との関係を、同僚たちに根掘り葉掘り聞かれる。

「私と哲也さんは、昔馴染みですよ。社長とも長い付き合いですよ」

「「「なんだって~!?」」」

 亜紀を狙ってた連中に、血の涙でも流したかのような、嫉妬の籠った視線を浴びせられたり、俺の抜けた穴を苦慮する者等、俺の異動の反応は様々だった。

 一応、美雪の相手をしていない時間は、ピンチヒッター的な感じで、データ入力等の作業は今後もしていくので、完全な異動とはまた違う様だが。


「正直哲兄がシステムエンジニアとして、あそこまで優秀だとは…」

「そら、縁故採用して貰った恩に報いる位の気概なら、俺にも有るさ」

 この優秀とは、実際の技術や功績ではなく、周りの信頼の事を言う。

「んで?次は俺の住処の案内だっけ?」

「そう、私も手伝うからレイアウトもさっさと済ませましょう」

 デスクから私物を抜き、離れに向かった。

「お~、こうして見ると俺一人が住むには十分過ぎる広さだな」

 俺の目の前には、2階が物置になっている建物で、土間のキッチンに居間や寝室、トイレに洗面所にお風呂が完備されている。

「どうかね?哲也君」

 内装をじっくり見ていると、おじさんがやって来た。

「十分ですよ。トイレと風呂が現代の物で助かります」

 今時ぼっとん便所は…ね。

「それは良かった。他にも必要な物が有ったら言ってくれ」

 そう言い、おじさんは仕事に戻っていった。


「ふぅ…こんなものかしら?」

「ああ、一通り形にはなったな」

 家具家電を配置し、量販店で買って来た生活必需品を収納し、何とか人が暮らしていける空間が出来上がった。

「それでなんだが…」

「ああ、エッチな本やビデオは処分したからね」

「!?」

「他にもプラモデル等玩具の類も、プレミア物以外は全て処分したわ」

「何で!?」

「私やお嬢様が嫌だからよ」

 おいおい…。

「ちなみに処分した物は、全部再入手可能だから安心してね」

「そういう問題かよ…」

「まあ良いじゃない、ほら。代わりに超ハイエンドPCを手配しといたわ」

 そう言われ、広い居間の片隅に並んだPC群を見る。

「何でデスクトップがこんなに並んでるの?」

「それは私やお嬢様が遊ぶためよ」

「ここで遊ぶのかよ…って、美雪の部屋は?」

「あっちでも出来るけど、選択肢は多い方が良いでしょ?」

 うわーお、こんな自作でも一台軽く50万はしそうなPCを個人で複数とか。

「金持ちのスケールには圧倒されるな…」


「あ、お嬢様」

「こんにちは亜紀、哲也君」

「こんにちは」

 自由時間なのか、美雪が離れにやって来た。

「片付けは済んだでしょ?早速始めましょう」

 言うやヘッドセットを被り、DIYを始める美雪。

「お夕食まで時間も有るし…哲兄も良いわよね?」

「夕飯は手配してくれるのか?」

「勿論よ、というかこれからは、私達の誰かと一緒に食べる事になるわよ」

「へ~そう思うと立派なキッチンが勿体ねえな」

 亜紀と共に、リクライニングチェアに座り、ログインする。


「あら、今日は3人仲良く登場ね」

「「「こんにちは」」」

 白モフと戯れていたサチと挨拶を交わす。

「ちょっくら教会に行って来る」

 売上金も大分溜まってるので、転生を行う。


 転生を二度行い、これで五度目の転生となった。

 因子は[羊飼い]と[蛇使い]を再び採用した。

 今回の転生で、スキルのLvが60まで解放されたので、以下の通りになった。

 [生存本能]Lv60 [魔導人形]Lv50 [ゴーレム使い]Lv50 [家族蛇]Lv50 [鏡亀]Lv50 [鯉の群れ]Lv50 [甲虫王]Lv50 [ブリキ兵1号]~4Lv50 [マウス1号]~4Lv50 [群鼠]Lv50 [誘導]Lv60 [代行の剣]Lv50 [代行の盾]Lv50 [速度上昇]Lv60 [養豚]Lv60 [過剰肥育]Lv60 [野生の力]Lv60 [品種改良]Lv60 [土壌改良]Lv60 [血の海]Lv60 [不死の眷属]Lv60 [百姓魂]Lv60 [鍬の一振り]Lv60 [養蜂]Lv50 [分蜂]Lv60。

 ここに、[シープドッグ][羊の群れ][蛇壺][蛇笛]をLv50で、[体力増加][好反応]をLv60で取得した。

 これで、スキルの総コストは1800で、残コストが1800。

 ステータスは端折って、LPが約74000、HPが約10000まで上がった事を、報告しておこう。


 続いて各種変化の検証。

 各使い魔のLvが50になったんで、何が変わったのか検証する。

「先ずは[魔道人形]から…」

 ぱっと見の変化は無いので、サンドバック(熊)を宛がう。

 いつもだったら、[魔法の矢]を撃って終わりだが…。

 [魔道人形]の攻撃に注目する中、人形が杖を掲げる。

 すると杖の先端から光線が出て、熊に照射される。

「ん?これは麻痺させてるのか…?」

 なんと光線を浴びてる熊が、動きを止めているのだ。

 そして詠唱が終わったのか、[魔法の矢]が発射されると同時に光線が止み、熊も突進を再開し矢に貫かれ消滅した。

「成程、麻痺って言うと語弊が有るが、要は麻痺光線って事だな」

 [魔法の矢]が発射されるまで、2秒程しか掛からない為、それほど長く拘束出来るわけではなさそうだが…これは中々にエグイ能力だな。

 数十体の使い魔が迫る中、2秒間動きを止められる…うん。


 続いて[ゴーレム使い]の泥の手の検証。

 こいつも中々外道じみた能力に目覚めてしまった。

 従来の戦闘方法は、足などを掴んで妨害したり、叩いたりだったが、Lv50になり、新たな能力を得た事で、実に凶悪な戦法が可能となった。

「うわぁ…敵を引き寄せて拘束か…」

 某ローグライクのマ〇ハンドが、ブ〇ッドハンドに進化した感じだ。

 元々大きいとはいえ、精々地面から50㎝程、掌のサイズも30㎝程だったこともあり、非常に当たり判定が小さく、やられ難い事で地味に役立っていた使い魔だが、この引き寄せ能力で完全に恐怖のホラーハンドと化してしまった。

 なんせ手の知覚範囲に入った途端、物理法則を無視して、吸い寄せられた挙句、手足などをキッチリホールドされるのだ。

 そして吸い寄せられた先は、モンスターハウスならぬ使い魔ハウス。

 有体に言って地獄だ。


 お次は[家族蛇]。

 こいつはLv7、13、25と能力を紹介したが、この度スキルLvが50になったことで、新たな能力に目覚めた様だ。

 この能力はやや特殊だが、地味に強力かもしれない。

 変化は見た目にも表れており、尾の先端がガラガラヘビのそれに変化していた。

 新たな能力は、この尾から発するガラガラ音で、敵に恐怖を与える。

 決まれば、敵を状態異常の[恐慌]に陥れ、戦意を削いだり能力を下げる事が出来、締め上げている相手の抵抗を弱める事が出来る。

 また、総数10匹もの[家族蛇]の大合奏で、大物でも短時間で[恐慌]に出来るので、まるで第三のランタンを運用しているかのような感覚になる。

 この能力は、対集団でこそ真価を発揮するだろう。


 続いて[鏡亀]。

 ARM追加、SHI追加、BAR追加と来たら、もうお分かりだろう。

 そう、こいつのLv50の追加能力はHP追加だ。

 もう兎に角堅い。それに尽きる。

 元々が、速度が遅い代わりに打たれ強さが優れていた分、バリア3種にHPが追加された事で、粘り強い壁と化した。

 3匹の内、1匹でも残ってればその場復活する仕様上、一度前に出れば中々崩される事は無く、スキルLvも相まって、噛み付き攻撃も良いダメージソースとなる。

 今後、豚が通じない相手に対し、期待が持てそうだ。


 今度は[甲虫王]。

 こいつの追加能力は、怯み軽減だ。

 もうね、吹き飛ばし無効と合わさって、近接殺し過ぎる。

 今までは、連撃を喰らっていたところを、割り込めるようになり、挟んで投げ飛ばす様は実に爽快だった。

 マサのノックバック攻撃じゃないけど、こういう一方的に敵の陣形を崩せる能力は、多対多に成程威力を発揮するので、今後の活躍に期待だ。


 次は[幸運]の使い魔の残り一種、[鯉の群れ]。

 こいつは少し判り辛かったが、どうも誘導が強化された様だ。

 あまりに地味だったから、気付くのに時間が掛かった。

 まあ貫通二連射高速弾が、誘導まで備えたのだ。

 当たり判定が小さく素早い敵が、集団で襲ってくる様なシチュエーションが有れば、きっと活躍する事請け合いだろう。


 他のはまたその時に言及する事にしよう。

 検証を終え、ユキアコマサと[バグスター]のダンジョンに向かった。

「やっぱ実践的な検証は難度が高くないとな」

 森での検証では、能力の把握こそ出来たが、実際にそれがどう強化に繋がったかが、イマイチ分かり難かった。

 そんなわけで地下に潜り、蟲と対峙した。

 早速[ゴーレム使い]の恐怖の引き寄せで、巨大な蟷螂が一匹犠牲に。

「これはエグイ…」

「成す術が無いわね」

「フルボッコ」

 先ずLv50の[代行の剣][代行の盾]の、飛ぶ斬撃や盾の衝撃波でズタズタにされ、[ガーディアン]に頭部を切り落とされ絶命。

 直ぐにお替りで蟻が食卓に上がる。

 それを[ブリキ兵]と[マウス]達が蹂躙する。

 こいつ等はLv50で、それぞれ銃剣装備にLP上昇という能力を得た。

 銃剣を装備した[ブリキ兵]は、遠距離は豆鉄砲で応戦し、近距離は従来の通り、銃に付いたアタッチメントの剣で剣戟をする。

 [マウス]は単純にLPがかなり上がった様で、スキルLv50も相まって相当堅くなり、巨蟲の攻撃を何度か受けきるという偉業を成し遂げた。

 六本有る足の一本を封じられ、身動きの出来ない中、自身より遥かに矮小な存在でありながら、異常な耐久力を持つ小兵に群がられる蟻の気持ちは如何程か…。


 蟻を仕留め、3匹目の獲物の蜂を引き寄せる。

 今度は[魔道人形]が動きを止め、[蛇壺][蛇笛]の4匹が活躍した。

 人形が光線で動きを止め、毒蛇が毒を掛けるのだが…。

「なんだ?毒が2種類飛んでるのか?」

 これはちょっと判り辛いが、決して毒が2種類飛んでるわけではない。

「従来の霧状の噴射の射程が短くなって、追加で水鉄砲みたいな毒が出る様になったんだ」

 伝わるか分からないが、シャワーでミストを出したらストレートも出たみたいな?。

「具体的に何が強くなったの?」

「一応射程が伸びて、近距離なら回避が困難になった」

 ユキの問いに簡潔に答える。


 俺らの傍で、様々な使い魔が活躍する中、[群鼠]の鼠8匹と、[養蜂]の蜂128匹が前方から迫る残りの蟲を迎え撃つ。

 敵の巨大な蜂と、此方の128匹の蜂がいよいよ激突という時、いつもなら敵の身体に群がる蜂達だが、スキルLvが50となった現在は違った。

 なんと敵の蜂目掛け、此方の蜂達が一斉に毒を浴びせたのだ。

 …本来毒爆撃が出来るのは、雀蜂(ホーネット)で、蜜蜂(ハニービー)はそういった芸当は出来ない筈だが…。

 まあゲームだしね、細かくない事でもどうでも良いんだろう。

 一応弾数制限なのか、爆撃は一発しか撃てない様だ。

 そこは蜜蜂が、一度でも刺したら尻が捥げて、自身も死ぬ事の再現なのか?。

 さて、蜜蜂たちの爆撃と同時に鼠たちもワームに攻勢を掛ける。

 鼠の変化は、恐らくは踏破能力の強化だと思われる。

 移動速度が目に見えて速くなったわけでは無いが、以前と比較して明らかに、足場の悪い環境での動きがスムーズになっている。

 そして、それは敵に群がる時にも力を発揮し、敵の弱点部への到達も早くなり、振り落とされたりすることが減った。


 蜂が群がる巨蜂を引き寄せ始末し、続いて鼠が群がるワームを引き寄せ処理する。このように特殊能力を身に着けた使い魔達の活躍で、短時間で蟲のグループを殲滅した。

 ちなみに今回活躍の機会が無かった豚、羊、犬。

 豚は知っての通り河豚化で、被弾毎に肥大化する。

 羊は最早ギャグの領域で、ちょっと風にあおられるだけで飛んで行ってしまう程軽量化され、殴られると枯れ葉の如く舞い上がるので、見ていて楽しい。

 そして[シープドッグ]。こいつは実に良い…。

 こいつがスキルLv50で新たに得た能力は、羊にダメージを与えた相手の付近に、瞬時にワープするという癖の強い能力だった。

 今はまだ見ぬ光景だが、その内、羊が空中バスケを喰らったら、巻き添えで空中に何度もワープさせられる、[シープドッグ]を見れると思うと、楽しみで仕方がない。


「なんと言うか、絵面の面白さは最高だな」

 マサのそんな感想に、ユキとアコも続く。

「私はなんと言っても、[ゴーレム使い]の恐怖の引き寄せが衝撃だわ、どうやったらあんな変化が起きるのかしら?」

「蜂が多すぎる事にツッコまないのね二人共…」


「へ~、完全体のゴーレムになった人も居るのか」

 ユキと[ゴーレム使い]の変化について情報交換をする。

「うん、他にも巨大化して使役者を座らせて、引き撃ちを手助けする様になった例もあるわ」

 何それズルい。

「テツ君の[ゴーレム使い]の変化は、正に数でゴリ押すのに相応しい変化と言えるわね。人によっては強敵が近くに来たら却って不利になるだろうし」

「それは俺も思ったな、テツだからこそ、そのまま囲んでタコ殴りって選択肢が取れるが、普通術師は距離を取りたいからな」

「確かに、あくまでビルドの都合で[魔力]を採用してるテツ君には、術師の弱点は関係ないものね」

 ユキの考察を、マサとアコが補足した。

「俺は寧ろ、スキルLvに依る変化は共通だと思ってたんだが…これも個人毎に全く違う変化が起こるとは」

「最早、同じビルドは二つとして存在しないわけだな」

 時間が経てば経つ程、全員がオンリーワンか。


 その後は、会話をしつつ下へ下へと降りていき、これまでとは明らかに雰囲気の違う大部屋に出くわした。

 そこでは沢山のプレイヤー、NPCが激しい戦闘を繰り広げていた。

 俺達も戦闘に参加し、戦っていたら、遂に念願の光景が!

「メェ~!」

 豚の隙を突いて、羊に攻撃を加えた蟲が登場。

「ワンワン‼」

 ワープした犬が、蟲に奇襲を掛ける。…此処までは普通だ。

 そして被弾した羊はと言うと。

「ウハッ!すっげー舞い上がったな!」

 まるで、木枯らしに因って巻き上げられた枯れ葉の如く宙を舞う羊。

 突如として空中に現れた獲物に沸く蟲共。

 羽蟲共が羊目掛けて殺到し、エアリアル初撃が炸裂。

「メェ~!」

「ワンワン‼」

 盛大に舞い上がる羊、そして突如現れる犬。

 羊の挙動に驚いたのか、犬の威嚇に驚いたのかは定かではないが、蟲共の視線は犬に注がれるが、重力には逆らえず、ひゅーんと落下する犬。

 遠のく遠吠えに、興味を失った蟲共が再起動し、再び羊に一撃喰らわす。

「ワンワン‼」

 再び出現すると同時に落下する犬。

 以後、羊が撃破されるまで続いた光景に、俺達ばかりか居合わせたプレイヤーやNPC、何故か陸上の蟲までもが釘付けになっていた。

 羊が撃破された瞬間、祭りが終わった時の様な哀愁が現場に訪れたが、次の瞬間には何事も無かったかのように戦闘は再開された。

 うん!良いものが見れた。


 なんか、ギャグみたいな扱いで[シープドッグ]が不憫なので、キチンとした活躍にも触れておこうと思う。

 突然ワープしてきた犬というハプニングに、当然混乱の蟲に襲い掛かる犬。

 これでもかつての[守護霊]Lv20に、Lv30で比肩する強さの使い魔だ。今のパラメータ構成とステータスなら、Lv50の[シープドッグ]は凄く強力だ。

 奇襲により、あっさりと巨蟻の足を捥いだ[シープドッグ]。

 オチを行ってしまえば、この蟻に止めを刺す前に、羊の被弾で強制ワープさせられ、手柄を取り損ねてしまった。

 しかし、続けていれば確実に巨蟻にタイマンで勝利していたので、[シープドッグ]のスペックの高さは十分伝わっただろう。

 …ギャグ的な要素が強くなってしまったが。


 適度に戦い満足したので撤収。

 PAに戻り、時間も有るので次の行き先を決める。

「ねえ聞いたかしら?海底に新たにダンジョンが出現したそうよ」

 全身に白モフを纏わせたサチが、情報を提供してくれた。

「探索は[水中順応薬]と[順応解除薬]を使って進むか、関連する因子や装備を揃えて挑むって感じね」

「…あの矢鱈とペナルティが重くて、糞不味い薬か…」

 どうも海底ダンジョンは、水没区画と陸地区画の入り混じったダンジョンらしい。

「攻略状況は?」

「サメが徘徊するシャークゾーンで詰まってるらしいわ」

「ビークルの運用は無理なのか?」

「サメの場所は比較的広いから可能だけど…そこまで運べないわね」

 狭い場所も有れば、陸地も有るんじゃなあ…。

「完全に環境で殺しに来てるダンジョンか」

 端から挑む気が無くなる仕様だ。


「で?何で砂漠に?」

「いや、砂漠がどこまで続くか見たいって言ったのはテツだろう」

「他に案が無ければって言ったが?」

「だから砂漠に来たんだろうに」

 もっと積極的に意見出そうぜ皆。

「いうても空路で全貌は把握できてるだろうしなぁ…」

「まあ良いじゃない、空からじゃ分からない事も有るわ…きっと」

 という事で、ダンジョンを素通りし、只管南に歩く。

 道中の雑魚は、使い魔に任せて何かないか探す。

 ちなみに同伴者は、サチとベルを加えて5人となった。

 暫く歩いていると、ある場所を境に雰囲気が変わった。

「気を付けて…何かが居るわ」

 アコの警告を聞き、皆が身構える。

 程なくして、砂から毒蛇やらサソリやらが大量に湧いて来た。

「見た目に騙されるな!こいつ等は半端じゃねえ!」

 見た目こそ、道中で見かけた雑魚と瓜二つだが、明らかに格が違う。

 こうして強敵との戦闘が始まった。


「で、あっけなく死に戻りと」

「アレは無理だ」

「僻地や秘境が外来種に侵されない理由が良く解るわ…」

 グリズリークラスの強さの敵が、次々と地中から奇襲を掛けて来るのだ。

 何も対策が無ければ数に呑まれるのも道理だ。

 あまりの数に、豚も瞬殺されてリスポンが間に合わなかった。

 畑?畑も作った傍から即破壊されていきました。

「まあ単純に能力不足って事ね…」

 サチのこの一言が、全てを物語っていた。


 気を取り直して今度は[アッシー]を見に行く事にした。

 今回は、他のカンパニーと協力して陸地を渡った。

 そのままその人たちと巨大空間の手前まで来た。

「それではまたいつか共闘しましょう」

 そう言い、協力したカンパニー[黄金の稲穂]と別れた。

 彼らは危険地帯を迂回する横穴に向かって行った。

 どうやらこのダンジョンは、先に進むだけなら[アッシー]の討伐は必要ないらしい。最も最終的には必要になるかもしれんが、例えば最奥に入るのに[アッシー]のドロップ品が必須とかね。

「じゃあ俺達も[アッシー]観光でもするか」

 こうして数多の有志により、割り出された安全圏から、地底湖を一望する。

「アレが噂の[アッシー]か」

「まんま首長竜なのか」

「思っていたより可愛い…」

「意外とつぶらな瞳ね」

「鱗も、小さいか無いのかイルカやクジラみたいな質感ですね」

「大きいわね…」

 三者三様な感想を述べ、[アッシー]を眺めてると。

「あ、誰か挑むみたい」

 アコが指さした先で、30人程のグループが、[アッシー]に突貫する。

 それまでぼんやりとしているだけだった[アッシー]が、突如として戦闘態勢に移行、侵入者たちへと頭を向け…。

「アレが[アッシー]のブレス…」

 地面にクレーターが多数出来てるラインを割った瞬間。

 [アッシー]の顎が大きく開かれ、眩い閃光が迸った。

 しかし、挑戦者たちも対策は万全なのか、見事にブレスを防いだようだ。

「あの分厚い盾で防いだのか」

 マサの言う分厚いだが、遠目でも人の胴の倍はありそうだ。

 更に挑戦者の策なのか、30人程のグループが更に二組現れ、別々の角度から[アッシー]に向かって駆けて行く。


 暫く眺めていると、漸く1つのグループが[アッシー]に接触。

 どうやら水上を歩ける魔法でもあるのか、全員水に立っている。

 そして残りの60人も合流する寸前で、[アッシー]が鳴く。

「クオオーーン!」

 地底空間に木霊する鳴き声…。そして…。

「グヲオオオオーー‼」

 けたたましい咆哮と共に、挑戦者に無慈悲な現実が突きつけられた。

「…ご両親かな?」

 最初に居た[アッシー]より、遥かに巨大な首長竜が水中より浮上。

 しかも二頭という悪夢。

 二頭の片割れが吐息の様に白い霧を吐くと、挑戦者90人は一瞬で氷結し、次の瞬間には砕け散ってしまった。

「…なんともまあ桁違いな強さだな」

 あんな「熱いから冷ましましょう」的な感じの吐息で、100人近いプレイヤーが即死。しかも全員がかなりの実力者にも関わらずだ。

「しかし、子[アッシー]の判断の速さがまた凶悪だな」

「そうね、普通舐めて掛かって、ボロボロになったから助けを呼ぶ…、これがセオリーだと思ってたけど…」

「接敵されて直ぐだったわね…」

「まるで不審者に近寄られたら、直ぐに防犯ブザーを鳴らす様に教育された児童みたいでしたね…」

「その例え凄くわかりやすいわ」

 確かに分かりやすい。

 英雄譚の一幕の様な、光景を見れたので満足してPAに戻った。


「それじゃあ夕飯の手配をしてくるから少し待っててね」

「了解」

「お願いね亜紀」

 夕飯の為ログアウトし、美雪と寛ぐ。

「あ~ゲーミングチェアとはいえ、腰がこるな…」

「哲也君おじさん臭いよ」

「いや、実際おじさんだからな」

 最近は胃も靠れ易いし、眠いし…。

「じゃあ私が肩を揉んであげるわ」

 そう言い哲也を椅子に座らせ、肩もみを始める美雪。

「おお!思ってたよりずっと力強い!」

「…なんかあんまり嬉しくないんだけど?」

「なんで?若いって良いなって」

「それセクハラだよ?」

「またこの流れかよ…」

 全く…婦女子との会話は何処に地雷が有るか分からんな…。

「そうやって亜紀にもセクハラかましてるの?」

「最近まで接点がなかったの知ってるだろう?」

「ははは、ごめんごめん、そうムッとしないでよ」

「…」

「…」

 少しの間無言が続く二人。

「…哲也君から見て亜紀はどう?」

「どう?って…」

「亜紀って凄い美人じゃない、私世話係として紹介された時、感動したもの」

「感動って…大袈裟じゃね?」

「やっぱ哲也君も亜紀みたいな人が好みかな?」

 無視かよ…そして突然何を聞いてくれんだこの娘は。

「まあ…確かに美人だが、今じゃ妹みたいな感じ?」

「それは[雪乃]さんも?」

「そうだな…あの娘が生きてたら25歳…きっととんでもない美人に成長してただろうな…って美雪を見ると思ってしまうな」

 微妙にはぐらかしたがどうか…。

「そう…」

 また少しの沈黙が続き。

「お待たせ。あら哲兄、お嬢様に奉仕させるなんて随分な御身分だこと」

「はい、お終い。行くよ哲也おじさん」

「ああ、ありがとうな」

 この時、特に意識もせずに自然と手が動き、美雪の頭を撫でていた。

「ちょ!?哲也君いきなり何!?」

「おっと…すまん。つい昔の癖でな…」

「…」

「哲兄…セクハラは感心しないよ?」

 アコが茶化す様に、揶揄って来るが。

「そうだな…気を付けるよ」

 この時俺がどんな表情をしてたか後で聞いたが、酷く悲しそうな笑みを浮かべてたらしい。

 …勿論セクハラ言われた事が悲しかったわけでは無いのであしからず。


「あ~、いい湯であった」

 皆と夕食を頂き、離れに戻って風呂に入った。

 久々の足を真っ直ぐ延ばせる浴槽に、凝った体が癒された。

 団扇で火照った体を冷ましながら、ビールでも飲もうとしてたら。

「はーい哲兄、お酒はお預けよ」

「お酒より私達と遊ぶ方が大事よね?」

 …まあいっか。


 DIYにログインし、それぞれテツ、ユキ、アコになる。

「「「こんばんは」」」

 他のメンバーも皆夕食を済ませたようで、全員揃っていた。

 折角なので、久々のフルメンバーでの出撃となった。

 行き先は、東の海向こうに有る大陸の半島だ。

 丁度出っ張った半島が玄関口みたいになっている。

 ギルドでヘリに乗り込み向かった。


 半島に着き、先ずはキャンプを目指し歩く。

 未だ碌に攻略されていない東の大陸。

 キャンプまでの道のりも中々大変だった。

「敵襲よ!陸が15、空が8ユニットで来るわ!」

 アコの警報で、素早く陣形を整える。

 ラーク、ショー、ワイドの3人はスリーマンセルで遊撃。

 前衛は俺とベッタラ。

 中衛がマサ、サーモン、おりょうさん、ベル、パミル、サチ。

 後衛がユキ、アコ、シルク、マッド

 襲って来た敵は、怪鳥こと巨大な鷲が8匹。

 白黒縞模様の猪が4頭、バッファローが11頭の混勢軍だ。

 個々の強さが砂漠の僻地以上で、驚きはしたが対処は出来た。

 流石に15人も居て、それぞれLvも上げてきているのだ。いくら未踏の地とはいえ、易々と敗れるわけにはいかない。

 ラーク達盾剣三人衆は、三位一体の連携で確実に1体ずつ仕留め、俺やベッタラの負担を軽減してくれた。

 前衛の俺とベッタラは、前衛だが役割はまるで違った。

 あくまで、使い魔の数と畑で敵を抑える俺に対し、ベッタラは如何に短時間…最少の手数で敵を屠るかに比重が置かれ、ホラーハンドが引き寄せた敵に対し、凄まじいDPSを叩き出していた。

 中衛は、職人が二人いて、少々防御に不安が有ったが、パミルもおりょうさんも、戦場に出る事を想定し、しっかりと防御面を強化してたので、接敵されてもしっかり対処出来ていた。

 後衛のシルクとマッドも同様で、意外にも堅さを重視していたので、例え敵が抜けて行ってたとしても、大丈夫だっただろう。

 全員の活躍で、程なく戦闘に勝利した。


「うーん…やはり覚醒一回止めでは厳しいですね」

 パミルが先程の戦闘を振り返り、呟く。

「そらそうでしょ、俺とのLv差は実質3500も有るからな」

「良し、私もガンガンLvを上げましょう」

 パミル曰く、我慢した甲斐あって、復活したシンボルは多く、手付かずのシンボルも数多くあるので、これからはスキルなどの恩恵で、一度に採れる量を増やして資源の枯渇を乗り切ると言った。

 まあ、採掘は資源を得る手段の一つに過ぎないからな、依頼の報酬やドロップでも宝石や鉱石が手に入るから、シンボルからの採掘を捨てるのも、選択肢としては十分にありだろう。

 この会話を聞いて、シルク、マッド、おりょうさんも、Lvを上げる事を決意したらしく、近日中に大幅にLvを上げて、覚醒を重ねるそうだ。

 最近、クラフト組と冒険組で、戦闘力格差が開き、一緒に冒険する事が減ってたが、これで前みたいに一緒に出掛ける事も増えるだろう。


 道中何度か敵襲を退け、大陸攻略の前線キャンプへ到着した。

「なんか初期のベースと似た雰囲気だな」

 簡素な防柵に、最低限の施設にクラフト設備。

 現在は、攻略可能エリアが格段に増えた事で人が分散してるのか、ここにはあまり人が居らず、キャンプも増築されない様だ。

 取り敢えず、折角来たんだからと依頼を見繕う。

「これにするか」

 受けたのは、周辺の整地作業で、周囲の木や岩などを全て取り除けば、ヘリが此処まで送迎出来る様に成るとの事だ。

 これは次回以降の効率化にもつながるので、やってみる事にした。


「成程、大岩はつるはしで砕いて石材にして取り除くのか」

 現在、周囲の疎らな木々を切り倒し、岩の除去に取り掛かり中。

 俺も草のシンボルと言う名の雑草を毟りながら、作物を育てる。

 雑草も乾燥機に掛ければ肥料になるし、無駄がない。

 聖地は広範囲に渡って対象だが、ヘリが離着陸するだけならそこまで広いスペースは要らないので、今日は最低限整地する。

 しかし、マジで人が居ない不人気エリアなのか、俺ら以外誰も居ない。

 結局、そこそこの時間帯になるまで整地したが、終ぞ誰かが手伝いに現れる事は無かった。


「この度は整地作業ご苦労様でした」

 キャンプの職員に証書を貰い、手配して貰ったヘリに乗り込んだ。

 一応、ヘリでキャンプ横へ行けるとなった事で、NPCだが追加の人員が来た様で、俺達が乗り込むヘリから何人か降りて行った。

 ヘリで空の旅を楽しみ、ホームのギルドへ帰還し、PAに戻った。

「それじゃお疲れ様。そしてお休み」

「お休み」

 皆と挨拶を交わし、ログアウトした。


「ふう…疲れた…」

「私は寝るわ、お休み哲也君、亜紀」

「お休み~」

「おやすみなさい」

 本宅へ戻る雪を見送り、亜紀と話す。

「それで?明日から俺の業務は?」

「基本は在宅で、会社のサーバーにログインして入力作業かしらね」

「まあ、いつもと変わらん感じか」

「ええ、でもお嬢様相手が最優先だし、きっとそれほど仕事が回されることは無いと思うわよ?」

 なんせ社長…、おじさんの肝入りの人事異動だからな。

 その相手に大量の仕事は回さないだろう。

「うん、まあ分かった。取り敢えずいつもの出勤時間にはログインして待機しているよ」

「それでお願いね、朝食は手配するから身だしなみを整えたら本宅に来て頂戴、もしかしたらお嬢様が襲撃してくるかもしれないけど、邪険には扱わないでね?」

「あ~、まあそう言うのは[雪乃]や小さい頃の亜紀で慣れてるから」

「コホン…まあそういう訳だから宜しく。お休み哲兄」

「お休み亜紀」

 こうして慌ただしい1日が終わった。


「社長肝入りの人事だから、仕事量は少ないねぇ…」

「うーん…確かにこれはピンチヒッターが必要な案件ね」

 アコがタブレットを操作しながら唸る。

「急な仕事の受注が2件に、一人欠員が出てるわね」

 どうしてこうなったかと言うと、事は早朝に遡る。

 朝。予想通りの美雪の襲撃に遭い、朝食を食べ待機してると。

「ん?至急以下の23件のデータ入力をして下さいby課長…?」

 早々にメッセージが飛んできて、仕事を押し付けられた。

 そこへ亜紀が様子を見に来て冒頭に戻る。

「まあぱっと見3時間も有れば片付くし、仕事優先かな?」

「そうね、お嬢様には伝えておくわ」

「頼む」

 短いやり取りを済ませ、亜紀はおじさんと本社に向かった。


「お邪魔しまーす…」

「…」

 美雪が離れに尋ねてきたが、今は構ってられないので無視する。

 美雪も別段気にせず椅子に腰かけ大人しくしている。

 そのまま数時間ぶっ続けでキーボードを叩き続け。

「あー、やっと終わった…なんだずっと見てたのか?」

 ジッと俺の仕事姿を見ていた美雪。

「終わったのね?ご苦労様」

「ああ、それにしても思ってたよりずっと聞き分けがが良いんだな」

「それは…お仕事を邪魔する程捻くれてないよ」

「それは悪かった、ところでお昼はどうなってるんだ?」

「あ、そうだった。昼食も手配されてるから本宅に行きましょう」

 こうして緊急の案件を片付け、美雪と昼食を取る為本宅に向かった。


 昼食を済ませ、仕事用のパソコンに目を通し、追加の仕事がない事を確認し、傍でジッとしている美雪に向き合う。

「さて、暇が出来たしどうする?」

「それは勿論…」

 サッとゲーミングチェアに座り、VRヘッドセットを被る美雪。

 その流れる様な仕草に苦笑しつつ、自分もVRヘッドセットを被る哲也だった。

次話も2週間ほどで

ところで投稿したつもりなのに、投稿されてなかったって事って結構あるのかな?

記憶違いなじゃなきゃ1月8日にはこの十四話を投稿した心算になってたけど…

まあ多分疲れてたんだと思います。

ではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ