第十三話
~前回までのあらすじ~
ビルドに限界を感じ、農業とのハイブリッド化を推し進めた事で、これまでの持ち味を活かしたままビルドを発展させる事に成功したテツ。
金稼ぎの手段として、料理などに手を出しつつ、Verアップを迎え大幅な強化を果たした。
「ふぅ…そろそろ上がるか…」
デスクの掃除をし、PCの電源を落とす。
課長が奢りで置いてったブラックを飲んで一服してると。
「誰か残ってると思ったら哲也君か」
「社長」
「今は2人だけだし、昔みたいにおじさんと呼んでくれ」
「ふふ、おじさんも変わらないな~」
この人、藤堂浩正は勤め先の社長であり、俺の実家の近所に住んでいる代々資産家で、その現当主である地元の有力者だ。
「どうだい?この後」
おじさんは、親指と人差し指をクイッと傾ける動作と共に聞いてくる。
「良いですね~行きましょう」
「タクシーを呼んどくから、それまでに支度しといてくれ」
そう言いおじさんは先に行ったので、俺も空き缶を捨て、消灯して退社した。
俺とおじさんの関係は、両親の仕事の関係で始まった。
俺の親は共に藤堂家に奉公として入っていて、親父は板前として、母は家政婦としておじさんと先代様に仕えていた。
後に両親が職場結婚し、俺が生まれた。
藤堂家でも代替わりが行われ、おじさんが当主になり結婚。
後に生まれた子供を、俺が面倒を見たのが始まりだ。
「しかしあれから20年か…」
「早いですね…」
少し酔いが回って来たか、少々しんみりした空気に。
そう、アレはもう20年も前…。
『昨夜、乗客133人を乗せた旅客機が墜落。生存者死者共に不明…』
俺が12歳の時、登校前に見たこのニュース。
何故か妙な胸騒ぎがし、居ても立っても居られずに、藤堂家の屋敷に飛び込んだ。
俺が見たのは茫然自失のおじさんと、慌ただしく動く両親だった。
「一体…何が…」
実際には、この時何が起こってたのかは、幼いながら薄々は感づいてはいた。でも俺自身認めたくなかったし、誰かに否定して欲しかった。
藤堂家の近寄り難い空気に動けずにいると。
「哲也…」
「父さん…」
親父から聞きたくなかった言葉を聞かされた。
それでも心のどこかに僅かな期待を持っていたが…。
「哲也君…」
「おじさん…」
数日後、両親から当主が俺とサシで話がしたいと聞き、向かい合う。
「―――は…あの子は死んだよ…」
「…そうですか…この度はご愁傷様です…」
これが俺の精一杯だった。
頭が真っ白で、身体全体がふらつく感覚は今でも覚えている。
けど、他に何を聞いたかも全く覚えていない程のショックを受けたのか、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に俺の意識が戻った時には、自宅で母の膝に頭を乗せていた。
「20年…あの子が生きてたら今年で25ですか…」
「ああ、妻も生きてたら50だ…」
「死ぬには若すぎますね…」
「ああ…」
あの日、航空機墜落事故で、おじさんは最愛の2人を同時に失った。
俺は葬儀の後、おじさんと両親の気づかいか、辛い記憶から遠ざける為、藤堂家とは距離を置き、いつの間にか疎遠になっていた。
そんな俺が何の因果か、就職先の社長がまさかのおじさんで驚いた。
でも後々考えると、両親が今の勤め先をそれとなく進めてきたのがきっかけで、面接を受けたんだよな。どう考えても一枚噛んでるが、まあ良いとこに就職出来て両親にもおじさんにも感謝してる。何故おじさんが俺を雇おうとしたのかは分からないが。
それから、すっかり昔の話を肴にしこたま呑んで、2人してすっかり出来上がってしまい、社長が秘書を呼んで自宅まで送ってくれるそうだ。
「にゃははは~テツ君~娘はやらんぞ~」
「へへへ~社長~飲み過ぎですよ~」
そんなへべれけ2人組の前に、すんごい美人な秘書さんが現れた。
「社長、お迎えに上がりました…ッ!」
「?」
ぱっと見20前半位だろうか、そんな美人さんが俺を見て、一瞬だが驚愕の表情をのぞかせる。はて…初対面の筈だが。
…まあいっか!。
「そちらが鈴木さんですか?」
「お~う、俺の甥っ子みたいなもんよ~」
「よろぴこ~」
やれやれといった感じの秘書さんに、社長共々車に乗せられる。
「いや~すっかり世話になってしまって申し訳ない」
多少酔いが醒め、若い女性に部屋まで付き添ってもらう、という醜態まで晒してしまって非常に気まずい状況。
「いえ、気にしてませんから…何ジッと人の顔見てるんですか?」
こう…眼鏡をクイッと直す仕草が似合いそうだな~と、横顔を見ていたらジト目で咎められてしまい、増々気まずい。
マズイマズイ、鼓動が高まるし頭もガンガン痛む。
こりゃ早く水呑んで落ち着かんと。
気づくと膝から力が抜けてたようで、秘書さんに心配された。
「だ、大丈夫ですか!?もう!早く部屋に入って寝て下さい!」
「お手数かけますた」
「…それじゃまたね――…」
秘書さんが去り際に何か言ったが、聞き取れんかった。
玄関に鍵を掛け、水を呷る。
「ふう…DIYは…今日は無理だな…」
身体をサッと水拭きだけして着替え、この日は就寝した。
今日は日曜日、思う存分楽しむとするか。
「おはよ~」
「おはよーテツ君」
ログインし、PAに居たアコに挨拶をした。
「アプデ後どう?」
「今のとこ何も変わらんな」
「[アニマル]に行ってみたけどあっちも相当だわ」
早速新惑星の攻略をしてるのか。
「名前の通り動物系の惑星なんだけど、その規模が半端ないわ」
アコ曰く、ありんこがサファリパークに挑むようなものらしい。
「リスやムササビがアフリカゾウ並みか…それはそれで有りだな…」
「でしょ‼」
どうも[アニマル]の生物は、魔物化してなければ、ペットに出来る様だ。
但し、連れ歩くには非常に重いコストが課せられ、PAで飼おうものなら専用の改築を迫られ、かなり財政を圧迫する事必至らしい。
それでも、既にテイムした人が居るのだから凄い話だ。
ちなみにその人は犀をテイムした様で、体高だけでも50mを超えてるそうで、コストに至っては2000もするらしい。
それでいて、そんな怪獣サイズがデフォの惑星だから、中途半端な強化具合だと、同じ種に普通にタイマンで負けるのもザラだという。
確かに元が強すぎると、ちょっと因子やパラメータで能力を伸ばしてやっても、意味が無さそうな気はする。
あ、でもこのゲームは基本回復は割合だから、ヒーラーが居れば壁として化けそうだし、敵にデバフを掛けれればかなり優利に戦えそうだ。
使い魔みたいな元の能力が低くて、数だけは多いユニットなら因子やパラメータでの強化が有効。高コストのペットなら、中途半端に関連因子やパラメータを取る位なら、汎用の支援魔法を揃えた方が良いのかもしれない。
…まああくまで憶測なので、適当だが。
アコが仕事で離脱したので、入れ替わりでインしてきたユキと、[アニマル]に行ってみる事にした。
流石にまだホームが出来て無い様で、降下で着陸する。
「ここが[アニマル]か…」
なんと言うか…聞いてた通りの場所だ。
一応チラホラと沼や湿地帯、森や林もある様だが、基本荒れ地の正にサバンナで、TV等で見るサバンナまんまの景色が広がっている。
但し、そこに生息する生物の規格外なサイズは除くが…。
生き物に対し、環境のスケールがあまりに普通な為、どいつもこいつも隠れ切れてなく、超巨大なシマウマやガゼルが丸見え状態だ。
取り敢えず、じっとしてても危険なので、ホーム予定地に向かう。
何しろポーションが高級品化してしまった現状、無駄に消費する事は極力避けるべきで、慎重で速やかな行動が要求される。
何故ポーションが高級化したか、理由は実にシンプル。
薬草の流通が激減したからである。
もうね、以前から自身の成長具合と、資源の回復速度が反比例しているのは解っていたが、覚醒を2回3回と重ねると、その遅さはあまりに露骨。
俺なんて最後に薬草を採取したのは2ヶ月も前の話だ。
一応、[フォレスト]の樹木の魔物であるトレントやエントが、稀に薬草をドロップするので、完全に生産出来ない事は無いが、厳しい事には変わりない。
けれど、そういった事情に関係ない層が居る。
そう、新規や初心者だ、
彼らの手によって流通に乗る薬草は、今や廃人を筆頭とした前線組の命綱。初期は1枚20円程だった薬草も今や1枚100円を超えそうだ。
そうなると、新規のLvアップも早まり、結局薬草の流通量は減ってしまうんだが…、新規が先人に追いつき易くなってるのは良い面の方が多いので、仕方ないと諦める。
そこで疑問に思うかもしれないが、じゃあ3ヶ月でどうやってLvを上げていたかと言うと、もう単純明快資源を取り尽くして、狩りの成果を売り捌いたのだ。
それと[養豚家]で取れる豚肉を加工した、缶詰肉も稼ぎ頭でした。
まあ[幸運]が高い俺には、そこまで深刻な事態じゃないんだけどね。
それに奥の手も有るしな。
おっと、いつの間にか目的地にたどり着いた様だ。
「目的地に着いたけどどうする?」
「アップリンク完成まで防衛で良いんじゃないかしら」
「そうしよう」
という事で、柵の外に出て時間を潰す。
ユキが瞑想を始める。
これは彼女が最近手に入れたアビリティで、瞑想した時間に応じて、次に放つ魔法の威力を高める、というアビリティだ。
戦闘中には使い辛いが、こうした時間に魔法攻撃力を上げておけるのは、非常に便利で強力なアビリティだと思う。
俺も[鍬の一振り]を併用しながら、畑を増産する。(字面がシュール)
満を持してコヨーテの群れが襲って来たが、極限まで威力を高めたユキの[クラスティオーブ]の前に群れごと蒸発した。
そして再び瞑想に入るユキ。
なんか歴戦の魔女って感じでカッコいい。
現在ここ[アニマル]が一番賑やかだからか、敵の襲撃が疎らだ。
多分そこかしこにプレイヤーやNPCが徘徊してて、間引いてるのだろう。
お陰でユキの瞑想時間が十分に稼げ、彼女の魔法一発で片が着く。
実に楽な防衛戦である。
暫くそうやって戦っていると、大型の揚陸艇が近くに降りた。
「お、どうやら迎えが来たみたいだ。一度[アース]に帰るか」
「そうね、戦果も十分だし潮時ね」
揚陸艇は、ここ[アニマル]のアップリンクがオンラインになるまでの間、定期的に[アニマル]に降り立ち帰還を望む人を、ドロップシップまで運んでくれてるのだ。
他にも数十人が搭乗し、揚陸艇は[アニマル]飛び立った。
ドロップシップからテレポーターで[アース]のホームに戻った。
PAに戻るとアコとサチが、白モフに揉みくちゃにされていた。
「あら、お帰り」
「おかえりテツ君」
見事に白一色で統一された、犬猫兎の大群。
よくもまあ此処までペットにしたもんだ。
まあカンパニーのリソースを無駄食いしない、増築は自費で行う事を条件にしてるから、裁量内なら自由にして貰って構わないが。
「ホント、実用性は度外視なんだな」
「実用性?何それ美味しいの?」
「ペットは可愛くてなんぼよね~」
まあ、現実でペットを飼えない人には良いかもな。
さて、そんな2人は放っておいて。
「ユキ、ベルからお誘いが来てるがどうする?」
ユキも行くというので、飯を食ってたサーモンを連行し、ベルと合流。
「皆さんこんにちは」
「「「こんにちは」」」
ベルと合流した俺達は、現在南山に来ている。
「Ver1.4になってから、ここの頂上の坑道に新たな道が増えたんですが、その先がとんでもない高難易度なんですよ」
どうやら告知には無かったが、ダンジョンが追加された様だ。
俺達は、早速その坑道のダンジョンに挑む事にした。
「せ、狭い!」
新たなダンジョンはそれはもう狭く、豚が詰まる始末。
一応味方なら無理矢理すり抜けられるし、一定距離離れれば自動的に近くに沸くので、攻略不可とはならないが、中々に不便を強いられる。
新たなスポットということで、人も沢山居るので気を遣う。
分岐の多いダンジョンなので、取り敢えず急いで人気のない道へ入った。
「これで他所に迷惑は掛からないが…咄嗟に後ろに下がれないな」
俺達の後ろには、身動きの取れない豚が道を塞いでいる。
だが悪い事ばかりではない。
後方からの奇襲は防いでくれるし、判定のデカさで、豚の傍に居れば敵の攻撃は豚が吸ってくれるので、敵に貫通持ちが来ない限りは無敵状態だ。
…なんて思っていたら、早速出てきたよ天敵が。
天敵の名はロックリザード。こいつのテールスイングが範囲攻撃で、豚の判定内にも関係なしにダメージを与えて来る強敵だ。
強くて堅い、それでいて範囲攻撃持ちというハイスペックな蜥蜴。
そんなのが狭い通路で沢山出て来るのだから恐ろしい。
時折、壁一枚先に別のパーティーが居たのか、絶叫が聞こえる事もしばし有り、このダンジョンがかなり過酷な事を物語っている。
他にも動物代表なのか、熊や猪も登場。しかもべらぼうに強い。
そらこんなダンジョンで暮らしてるんだから、弱い筈ないわな。
それでも背後は豚が塞いでいるので、俺達は全戦力を前方に集中。
サーモンのゴブリンと、交互に召喚されるオークとコボルド。
ユキの大火力の魔法。
ベルの支援魔法。
俺のランタンと使い魔以外にも、これだけの戦力が有るのだ。
苦戦こそするが、決して進めない程ではない。(苦戦の理由は狭い故に此方も数の利を活かせないから)
そんな感じで牛歩で進んでいくと、かなり広い空間に出る。
そこには俺たち以外にも、沢山の人が続々と集まって来る。
巨大空間は地底湖で二分されていて、こちら側にもあちら側にも大量の穴ぼこが有る事から、どうやらこちら側の穴は全てが地上に通じていて、あちらの穴は全て地下に通じているのだろう。
さて、この空間を二分する地底湖。見たところ陸地や歩道、桟橋等が散見されることから、対岸に渡る事は出来そうだ。
つまり、多くの人が足止めを喰らう理由が有る、若しくは居るのだろう。
穴から出て、暫く歩くと漸く岸辺まで辿り着いた。
改めて広い地下空間だと思う。
人が居ないとこを目指してたら、何時の間にか端っこに居た。
当然足場など無く、人が居ないのも納得のポジションだ。
取り敢えず水際に行き、周囲を観察する。
「一応際はちゃんと浅くなってるな」
いきなり深いとかじゃなくて良かった。
3人に警戒を頼み、泳いでみる。
思ったよりは普通に動けるし、使い魔も豚、亀、蜂、蛇、鼠は、問題無く機能してるので、このまま泳いで進んでみる。
機能してない使い魔は、皆水中に沈んでます。一応、ガーディアンと霊体の騎士2体は水中でも問題無い様だが、底に沈んでいては攻めには向かないだろう。
暫く泳いでいると、突如豚がダメージを受け始めた。
「ピギィーー‼」
豚の周囲ジャバジャバと飛沫が舞う。
「アレは…ピラニアか!」
だが、ピラニアなら陸地を行けば安全な筈…。
まだ何か在る。そう確信したとこで、豚が水中に引きずり込まれる。
俺も何者かに足を掴まれ、引きずり込まれそうになるが、水底のガーディアンと霊騎士が何者かを攻撃し、拘束が解かれる。
拘束が解かれ、急浮上してきた豚には、痛々しい吸盤の痕が。
「巨大な蛸…成程、こいつのせいで陸地も危険なわけか」
ちなみに蛸と判断したのは、烏賊なら水底の3体とは戦闘にならないだろうと思い、海底を移動する蛸なら有りうると判断したからだ。
プカプカと浮かびながら、このまま待ってれば使い魔が始末してくれそうだと思ってたら、蛸とピラニアが集まってきてしまい、急いで撤退した。
「おかえり、どうだった?」
ユキの問いに、簡潔に出来事を伝える。
「もう!また触手!?、いい加減にしろ運営!」
ユキよ…お前は触手にどんなトラウマが有るんだ…。
「さて、どうしましょうか。やはり陸地を地道に行くしかないですかね」
「それで突破できてないからあの人だかりだろう?」
ベルの提案にサーモンが疑問を投げかける。
「確かに。正攻法かもしれんが、結果は芳しく無い様だな」
では、検証を始めるか。
「というわけで、実験を始めたいと思います」
装備を鍬に換え、水辺を耕してみる。すると。
「思った通り、水田に開墾できるな」
出来立てほやほや水田に入ってみる。
「うん、水深も通常の水田と同じ様だ、一応もう少し…」
念を入れて、深い所まで開墾して見たが、水田に変化した箇所は、水深が水田と同じになり、多少は動きが鈍るが、問題無く歩けると分かった。
「良し、今度は水田を足場にしながら進んでみよう」
[鍬の一振り]を発動し、広い足場を確保。そこから再使用可能まで普通に開墾し、また[鍬の一振り]と、少しづつ陸地?を作りながら、水上を進む。
一定の距離まで進むと、敵が攻撃を仕掛けて来るようだが、水田に阻まれこちらに攻撃が届かず、水田の下をノックする形で攻撃する敵。
つまり、水の上に水田がポンと乗っかってるわけだ。
…そんな…街創りシミュレーションじゃないんだから…。
しかも、その攻撃自体も豚の判定に吸われたりで、中々水田の破壊に至らず、此方としてはかなり有利に事が進むので、助かる状況だ。
暫くは安定して進んでいたのだが、状況は一変した。
「なんか一気に敵の攻撃が激しくなったぞ!?」
「…!あれよ!あいつらが勝手に便乗してきてるせいだわ」
ユキの言葉で背後を振り返ると、離れてはいるが大勢のプレイヤーが、俺達の造った水田に侵入し、後を着けて来ていた。
「あいつら…、人が集中し出したから敵も寄ってくるわけか」
「テツさんどうします?」
「どうもこうも、マナーとしては良くは無いが、他人の田畑に入るのは禁止事項では無いからな、露骨な嫌がらせが無い以上何も出来んよ」
実際、畑が不可侵領域になったら悪用する奴が出るだろうしな。もし現実の花見会場の場所取りで、無人の囲いのみの場所に、不法侵入が適用されたらどれだけヤバい事か。それと同じ事と考えればまあ当然のバランスだとは思う。
俺達にはどうしようも無いので、後方に睨みを利かせつつ進む。
俺達と便乗勢の駆け引きに変化が起きたのは直ぐだった。
まず、そもそも俺達がこの方法で進めるのは、高耐久力の田畑を作れる俺のスペックと、同じく強力な使い魔の枚数が多い事、そして判定が地形すら貫通して畑を守る豚が居るからだ。
なので、俺達の傍の水田は、豚のお陰で長持ちするが、後方は…。
お察しの通り、ピラニアや蛸の攻撃で次々破壊されている。
一応開墾出来る者も少ないながらも居る様だが、堅さが足りないか、守る手段の不足からか、陸地の創造より減少速度が勝り、どんどん追い込まれている。
「あ~あ、素直にお願いしてくれば同行を許可したのにな」
サーモンがやれやれといった感じで呟く。
既にこちらに来る為の水田は破壊され、便乗勢とは分断された。
「あれだけの数が居れば正攻法でもイケそうだけどな。やっぱ楽したいからと無断で人に寄り掛かる様な連中じゃ、それにも気づけないかもな」
確かに正攻法だと、少なからず犠牲は出るだろう。そして貧乏くじを引きたくない奴ほど、便乗や寄生を躊躇わないで行うと。
ちなみに今回の出来事で、畑の耐久値が開墾者のステータスにそこそこ依存する事が周知され、これまでのファーマーのビルドに、一石が投じられた。
今までのファーマーの定番は、どれだけ手早く開墾し、作物が早く収穫できるかに集約されていて、危険エリアに留まる時間を、如何に最短に抑えるのが肝だった。
つまり、ファーマーには戦闘面でのスペックは不要。早くより良い作物を量産出来る事が、良いファーマーの指標だった。
しかし、今回の様な畑に耐久力が備わる事のメリットが解った事で、ビルドの評価も一変。戦闘職とのハイブリッドも十分にガチ構成足り得る、と。
そして、戦闘用のパラメータが、クラフトにも僅かだが補正を掛ける事が、これから少し後に判明し、DIYのビルドは大きく転換期を迎える事は、まだ誰も知らない。
後方で、次々に水に落ちる連中のお陰で、俺たちへの攻撃は鳴りを潜め、進行速度は急上昇。程なくして対岸に渡る事が出来た。
「俺達が1番乗り…ってわけじゃなさそうだな」
周りを見渡すと、それぞれが何かしらの方法で、地底湖を攻略した様で、こちら側の岸にもそこそこの人が居た。
「お、俺達と同じやり方で進んでいる連中も居るぞ」
どうやら水田下に攻撃を通して、畑を守る事の大事さに気付いた連中が、専用の陣形を構築して事に当たっている様だ。
「さて、俺達も先に進むか」
目の前に広がる無数の穴ぼこ。
俺達は適当に選んだ穴に入り、先に進む。
この先は、地底湖より海抜が低い為か、湿度が高く、先程までとは毛色がだいぶ異なっていて、襲ってくる生物や魔物も変化が大きい。
「蟹や海老、蛸や亀が主力か」
通路に空いた穴から奇襲を掛けて来る蛸。
水溜まりから、こちらを引き摺り込もうとする蟹や海老。
通路を塞ぐ亀。
こいつ等の何が厄介って、亀以外が非常に小さいのがウザい。
亀は亀で通路を塞くから面倒だが…まあ大きいウミガメだから仕方ないか。
問題は他の3種。
蟹はスタンダードな沢蟹タイプで3~4㎝しかないにもかかわらず、既に森の熊より強いという、意味不明仕様。無論海老も同様だ。
蛸に至っては、全長m未満のくせして、オークよりちょい弱い位のスペックというとんでも仕様で、それが狭い通路で事ある毎に出るもんだから、激戦必至だ。
流石にこのままでは身が持たんという事で、引き返す事にした。
この先に何が有るかは気になるが、折角の戦利品。持ち帰りたいんだ。
帰りは特に奇をてらわずに、陸地を通って帰還した。
結局、豚が居て、畑が有れば、陸地の方が遥かに楽に突破出来ると分かり、先程のストレスは一体…と、虚しい気持ちになったのは内緒だ。
「さて、再開するか」
家事を済ませ、休憩後に再ログインした。
「おうテツ、聞いたか?[アッシー]が出たそうだぞ」
「[アッシー]?」
マサの突然なアレな発言に困惑する俺。
「さっきの坑道ダンジョンの地底湖。その更に地下の地底湖に潜んでいた首長竜ですよ。さっき発見報告が掲示板に上がってお祭り状態です」
ベルの補足で、大体の状況が分かった。
「にしても[アッシー]…他に何か無かったのか…」
まあ、名前は兎も角として、強さは筆舌に尽くし難い様だ。
「もう近づく事すら困難で、間合いに入る=ブレスで蒸発っぽいです」
「完全にドラゴンじゃん」
「ええ、完全に魔物の範疇ですね」
良かったよ、あのまま進まなくて。
「しかし[アース]の地下空間に恐竜?ドラゴン?が居たとはな」
しかし、間合いに入った途端蒸発か…どこぞの正八面体を思い出す。
やっぱ脳筋思考で、より高火力高射程でぶち抜くのが正解なのか。
まあ俺達には縁のない話だな。精々誰かが倒してくれるのを祈るばかりだ。
という事で、南山のダンジョンは、攻略対象から除外だ。
今いるメンバーで、何処に行くか話し合う。
「そんで来たのが闘技場と、何で?」
ただいま闘技場前にて、俺、マサ、ユキ、ベル、ベッタラ、サーモン、サチの7人でベルの説明を聞いてる最中だ。
正直、闘技場のファイトマネーより、外に出た方がよっぽど稼げるので、個人的にはあんまり意義を見出せないのが闘技場だが…。
「現在闘技場では、大規模戦のイベントが行われてまして…」
ベルの説明によると。一度に参加できる人数に上限は無く、参加人数に応じて戦場の規模と敵戦力と報酬が増える仕様で、参加人数が多ければ負けてもそれなりに報酬を貰えるので、逃す手は無いと熱弁された。
「まあ、そう言う事なら良いんだけど…どこかに混ぜて貰うのか?」
「いえ、エントリーする時に、自動マッチングをオンにして参加すれば、同じオン同士のグループと同じ戦場に参加できます」
「へ~、敷居は相当低いのな」
数に応じて報酬も上がるのがミソで、これなら揉める事も無いだろう。
そんなわけで早速エントリーし、2分程待ち開始した。
「一応開始位置はパーティー単位なのね」
どうやら戦場は緑豊かな無人島の様だ。
「ベル、どうしたら良い?」
「取り敢えず、ユキさんの火力を活かす為に、暫く待機しましょう」
ユキの瞑想で、火力を上げつつ畑を作る。
「ところで敵は何なんだ?」
「分かりません、同じ人類の場合も有りますし、ステレオタイプな宇宙人…円盤が敵の場合も有ります」
成程、お祭りなわけか。
そしてゲーム開始から数分。周囲が騒がしくなってきた。
「どうやら今回の敵はドラゴンですか…」
「敵味方の区別は付きやすいな」
大空を優雅に飛び、遠くの山をブレスで焼いてるドラゴンが目に入る。
次の瞬間、96匹の蜂達が一斉に何処かへ向かう。
「キシャーー‼」
ド迫力の咆哮と共に、木々を薙ぎ倒しながら翼の無い竜が突撃してくる。
「アースドラゴンです!」
「どうすれば良い!?」
「当たらなければどうということは有りません!」
「答えになってねーよ!」
仕方なしに、前に出てアースドラゴンを誘導する。
今の俺の移動速度なら、アースドラゴンですら容易に引き離せる様だ。そう油断していると、口から巨大な火球を吐き出してきて、それが直撃してしまう。
「あっちゅい!」
当然の如く2400も有るHPは消し飛び、LPも2万程まで低下した。
「皆気を付けろ!奴の火球は1万位喰らうぞ!」
一同(よくそれで生きてたな…)
なんか味方から妙な視線を感じつつ、何とかアースドラゴンに使い魔を絡ませ、動きを止める事に成功した。
「ふぅ…何とか合流前に倒せたな」
急いでその場を離れ、騒ぎに引き寄せられた複数の竜をやり過ごす。
あの後、ユキの魔法を筆頭に、全員で持てる火力を叩き込み、素早く蜥蜴のソテーを作り上げ、何とか囲まれることを回避した。
『現在の生存者は、184名となっております』
突然のアナウンスにビックリする。
「ああ、そういえば開始から一定時間後に、こうした告知がされるのを忘れてました。ちなみに参加人数は、終了時に知らされます」
更に、早々にドロップアウトした者は、報酬が欲しければ終了まで待機、直ぐに別のゲームに跳びたければ、報酬を辞退する必要がある。
これが、一応の放置対策に為っているのだろう。
「184が多いのか少ないのか分らんから、判断に困るな」
「不味いですね、元の人数が不明ですから一概には言えませんが、これは非常に少ないです。人や宇宙人相手だったらこの時点で500人位は生き残ってますから」
どうやらかなりマズイ状況らしい。
「ちなみに勝利パターンは?」
「一番手堅いのはやはり合流でしょうね。次に多いのがパーティー単位で個々に動いて、時間制限いっぱい逃げ延びる事ですかね」
どうしようか思案していたが、どうやらそんな暇は無い様だ。
「マズイ、ファイアードラゴンに補足された」
ベッタラの一言で、一気に緊張感が高まる。
「今更逃げられないか…」
どうやら覚悟する時が来たようだ。
「思いの外アッサリと倒せたな」
あの後火竜と交戦した俺達だが、意外な程あっさりと勝ててしまった。
「やっぱ豚だな」
「豚ね」
事ある毎に豚がチャーシューになったりひき肉になったりしてくれたお陰で、痺れを切らした火竜が近接を仕掛けてきたが、それが奴の運の尽きだ。
アースドラゴン程堅さの無い火竜はアッサリと倒す事が出来た。
そしてそれ以降、時たま轟音が響き渡るだけで、何も起きずに時間切れで挑戦者側の勝利で終わる事が出来た。
「竜の討伐で報酬が美味い」
あ、このイベント戦は仮想世界って事で、敵から素材を得る事は出来ない。
何故か作物は収穫できるが、まあ突っ込むだけ野暮だろう。
そして色々と不明だった点は、ゲーム終了時のリザルトを見る事で、大体の状況が判明するようになっている。
まず戦場に居た参加者は開始時で1728人。
終了時には96人まで減少。
戦場に居たドラゴンの総数が20頭。終了時の頭数が4頭だった。
このゲームに掛かった時間は30分で、収入は15万。
時給30万なら、資源が枯渇している現状なら十分高給取りと言える。
そして生き残ってた別のパーティーには、アコとラーク達も居た。
「一緒の戦場に居たとは」
「出来れば合流したかったですね」
という事で、今度はアコ達とも合流し、ゲームに参加した。
「さあ、今度の相手はなんだ?」
今回の舞台は崩壊した都市の様だ。
先程と同様に、ユキの火力を上げつつ農作業。
敵の正体は直ぐに判明した。
「マジで円盤なんだ…」
もう誰が見てもUFOと言うであろう形の円盤。
無数のそれらがプレイヤーを、キャトルミューティレーションして高所から叩き落したり、拘束しながらレーザーで焼いたりする光景がそこかしこで見られた。
勿論味方側も負けじと反撃を繰り出し、火を噴いて墜落する円盤もチラホラと視界に入るなど、開始早々に各地で激戦になっている。
「どうやら私達も見つかったようだわ」
索敵手であり、射手でもあるアコが、此方が補足された事を簡潔に知らせてくれる。
「ベル、円盤ってまともにやり合って倒せるもんか?」
「攻撃が当たりさえすれば、その内倒せます」
成程、取り敢えず迎え撃つか。
此方に来た円盤は5機、内4機が豚を吸い上げ、残りが俺を吸う。
しかし、20体の鯉の弾幕に晒され、[魔道人形]の魔法をモロに受け、96匹の蜂に群がられたとあっちゃ、ランタンのデバフ下では耐えきれるものでは無く、あっさりと撃墜。
残りもユキの[アイススピア]とアコの[ミサイルアロー]で無事撃墜する事が出来た。
ちなみに[ミサイルアロー]は、文字通りミサイルの如く敵を補足し誘導する矢を放つアビリティだそうだ。
『現在の生存者は、714名となっております』
中間報告の時点では、まだかなりの人数が残ってる様だ。
終盤。
今回は俺達も他のパーティーと合流し、共同で円盤を撃ち落とす。
元は何かの競技場だったのか、ドーム型の建築物に立て籠もる。
頭上を数百機の円盤に抑えられ、うんざりする程の激しい弾幕に晒される。
コチラも反撃で、一瞬姿を晒し攻撃するが、その一瞬が命取りになる。
俺も一瞬だけ体を晒したら、3万近いLPが4千程まで急降下した。
もうこうなると殲滅は無理なので、先程同様時間切れを狙う。
しかし、生き残ってた他のパーティーが力尽きたか、新たに数百機の円盤がドームに集結し、一層弾幕の激しさが増した。
このまま立て籠もってたとして、後5分は耐えられない。
そう判断した俺はドームを脱出し、橋の下に逃げ込む事にした。
もう一方のパーティーは、残ると言うので、ここでお別れだ。
「それじゃいくか!」
俺は切り札のドッペルゲンガーを発動し、倍に増えた豚を盾にしながら、皆で川を目指して弾幕の中進んでいく。
「こりゃ雨の日でも傘要らずだな」
頭上を夥しい円盤に抑えられながらも懸命に動く。
そしてドッペルの時間切れと同時に、ユキが[アイススピア]で円盤を落とし、一気に橋の下に滑り込む事に成功した。
先程のドームより狭い分、安全度はかなり高いので最後まで粘る。
そして訪れた時間切れ、何とか勝利する事が出来一安心だ。
そしてリザルト。
参加人数は2964人。生存者は俺達12人だけだった。
敵は円盤が6000で、残りは1027機だった。
「もーお腹いっぱいだ」
大規模戦の2連戦は、相当精神に疲労が溜まる。
暫くは闘技場を訪れる事は無いだろう。
皆も疲れたようで、その場で解散となった。
俺は消費した種を買いに街の散策に繰り出した。
手持ちの金を全て種に換え、PAに戻り小休止した。
一息つき、次は何処に行こうかと思案中。
特に思いつかないので、ギルドに足を運んでみた。
(うーん…これといっては…ん?)
依頼を吟味中に、ふと目に留まった依頼が興味を惹く。
『[アース]近域にて、謎の小惑星を発見。スキャンを試みたが、非常に強力なジャマ―を搭載している様で、内部の状況は不明…』
要するに[アース]に近づく謎の小惑星の調査だ。
まあジャマ―が有るって事は、十中八九トラブル案件だよな。
でも面白そうなので、受けてみる事にした。
現地へは、揚陸艇で向かった。
「私が調査隊の指揮官のキッカだ、宜しく」
以前ベースの建築で、共闘した事の有るアラクネのキッカが、指揮官として同行する様で、挨拶後に俺に向かってウィンクをしてきた。
どうやら向こうも俺を覚えてた様だ。
現地に到着し、先ずはキャンプを設営する。
「まさかまた君と共闘するとは思わなかったよ」
キャンプ完成までに、作物を育てていた俺にキッカが話しかけてきた。
「俺もそうですよ、まあ今は歯牙無いファーマーですけどね」
「フフッ」
俺の言葉に笑うキッカ。何処が面白かったのか。
「[ジャックオーランタン]の特級の君が歯牙無いとなると、世の中大半の者が無能者になってしまうな」
「どこでそれを?」
「現役の特級は現在100人も居ないからね、その中でも最速で昇格した君は、我々の業界でも有名人だよ」
あらいやだ、個人情報駄々洩れ。
「まあ、イザとなったら君の力を頼らせてもらうよ」
そう言い残し、キッカは陣頭指揮に戻っていった。
「ではこれより小惑星[アンノウン]の調査を開始する」
キッカの号令の元、班を先行組と後詰組、待機組の3班に分け出発した。
俺は後詰組に配置され、遅れて出発した。
後詰の役割は、先行組の背後を守る事と、詳しい調査だ。
3班それぞれの代表同士で、密に遣り取りをしつつ、調査は進む。
このまま危険も無く終われば良いのだが、やはりそうも行かない様だ。
『こちら先行組。敵の襲撃を受けた。後詰組は我々が合流するまでに、迎撃に適した場所の確保を急いでくれ』
俄かに慌ただしくなる現場。
「皆落ち着け、我々も戦闘に備えて陣地の確保を急ぐぞ!」
班長の指示の元、予め目を付けておいた広場に陣を敷く。
程なくして、キッカ達先行組が敵を引き連れ現れた。
「アレはなんだ!?」「海月人間!?」「うわ!?電気を飛ばして来たぞ!」
敵の姿は例えるなら海月人間。それ以外形容しようがない姿だ。
体表はヌメヌメと湿っており、無数の触腕で器用に歩行している。
だが人間と付く位だ、そいつ等には二本だけ他とは太さの違う触手が生えていて、歩行の際はその触手が主軸となっている様だ。
「連中とは対話は不可能、しかしまだ意思の疎通が不可と決まったわけではない、だから極力傷つけずにこの場を脱出する」
キッカの方針を聞き、一丸となって行動に移す。
ビルディング能力のある者が、障害物を作り敵の侵攻を遅らせる。
俺も目晦ましになるかと畑を沢山作っておく。
そして、揚陸艇が到着したと報告を受け、一斉に逃亡を図る。
幸い作戦は上手く行き、全員無事に小惑星から脱出できた。
ドロップシップへの退避が完了し、慌ただしく解散となった。
これから未知の生命体への、対策本部を設置するのだろう。
「それはまた大事の予感しかしないな」
PAにて、マサと海月人間の話題で盛り上がる。
「対話が出来なかったから、意志の疎通も望み薄だが…」
「でも友好関係が結べたら面白いよな、このゲームの因子には、そうやって友好関係になった宇宙人のものも多いからな」
「そういやそんなバックボーンのゲームだったな」
元はエルフやドワーフも宇宙人って設定だっけ。
まあ既に上が動いてるだろうから、後は静観していよう。
「ところでテツ、ジャングルのダンジョンが消滅したのを知ってるか?」
「いや…そうなん?」
「ああ、誰かがダンジョンの核になってた巨薔薇を狩ったみたいだ」
特に公式で告知もされないのか。
「まあ、発生した時も公式のアナウンスも無かったしな。自然発生したダンジョンは、いつ消えてもおかしくないわけだ」
「そういう事だろうな、それに他にダンジョンと呼ばれてる場所に比べれば、規模も遥かに小さいし難度も今だとそこまででは…、って感じだったしな」
ちなみに、ドロップ品は、[ローズコロナタス]という薔薇の王冠で、装備者のLPが減れば減る程全身に薔薇が巻き付き、装備者を守る装備の様だ。
さて、久々に砂漠のダンジョンにやって参りました。
現在の状況は完全に一進一退で、地上の巣は破壊したが、地下には未だ全貌が掴めない程の巣が広がり続けている模様。
それでも人類側の健闘もあり、地下50m程までは人類側の勢力下に置き、改修によってハイテクな地下基地へと変貌を遂げていた。
「マジでSF映画の基地みたいだな」
巨大な巣だったそこには、壁一面にメカニカルな壁が築き上げられ、回路の様な模様に沿って、規則正しく光が走る様は、遠い未来を感じさせるデザインとなっている。
「ところで何でここに来ようと?」
ユキの尤もな質問に、パミルが答える。
「それは、ここの地下深くには、金や白金、ウラン鉱石や放射能石が取れるからです」
「他は解るけど何?放射能石って」
「文字通り、放射線を出す石です。ウランみたいに爆発的なエネルギーを生み出す事は有りませんが、用途次第では非常に強力な道具を作れたりします」
勿論近くに居るだけでLPをガンガン削られるので、取り扱いには最新の注意を払って、採取に挑まなければならないが。
今回砂漠のダンジョンに来たのは俺とパミル、オマケでユキだ。
3人でエレベーターに乗り、採掘場まで降りる。
「それでは採掘を始めましょう」
パミルと2人でつるはしを担ぎ、シンボルに向き合う。
「ちょっと!?防護服とか着なくて良いの?」
ここに来る前、防護服のレンタル屋等が有ったが、スルーしている。
「だって目当ては金と白金だからな」
「ウランや放射能石は採りませんよ?」
勝手についてきた手前、状況を把握できていなかった事で、声を荒げるのも筋違いと分かっているのか、顔真っ赤でプルプルするユキ。
「っ…フー…そう、危険は無いのね…」
何とか無難なセリフを絞り出し、落ち着けた様だ。
「ここも採掘したら当分は使えないんだろうな~」
「相変わらず薬草は採れませんか?」
「ああ、薬草以外にもここ数ヶ月で取った資源は軒並み全滅だ」
「やはり転生覚醒を重ねると、資源が取れなくなるんですね」
パミルは現在覚醒1回の転生9回で止めてるため、遅いながらもなんとか採取採掘にローテーションを持たせる事が出来てると言う。
「ユキはどうだ?」
「私もさっぱりだわ、もう一月は採取系とはご無沙汰よ」
ユキも3回覚醒済みなので、回復の目途が立たないらしい。
「今は薬草の代替品も高騰してるものね」
それこそ回復効果の付いた料理は即完売するし、思わぬ需要なのが、HPを回復させるポーションや料理に飲料も高騰している。
そしてHPを追加するパラメータの[体力]も、人気が上がっている。
理由は、以前にも触れたスキル、[好反応]に有る。
効果はポーションのHP回復効果を加算するというもので、Lv毎に効果が1%加算され、回復余剰分はLPの回復に回される。
効果の上昇はポーションのみに適応だが、余剰分はしっかりLPに回されるので、LPを回復させる所謂[ライフポーション]の高騰の煽りで、[体力]の人気が伸びている。
…話を採掘に戻そうか。十分な量を取れたので撤収。
PAに戻り、仕分けを済ませた。
「うーん…薬草の種もどんどん値上がっているな…」
薬草が全体的に値上がっている中、俺が比較的潤沢にポーションを使えるのは、薬草を自家栽培できる事と、マッドという頼れる調合のスペシャリストが居るからだ。
そう、奥の手とは薬草の栽培の事だ。
しかし、ここに来て薬草の種もかなり高騰してきてる。
以前は種1粒200円程で、俺の[幸運]9600なら一度に20枚は収穫できた。
けど現在の種の価格は1粒1500円、まだまだ利益は出せるけど、費用対効果は下がりっぱなしでその内赤字になりそうだ。
今装備している鍬の、オート種蒔きに巻き込まれない様に、チェストには薬草の種が1万粒程入ってるから、在庫は十分だが、先を見越すと少々不安だ。
え?お前がそんなに溜め込んでるから高騰してんだろうって?まあこういうのは早い者勝ちだ、苦情は受け付けません。
さて、この薬草の種を、危険地帯でこっそり栽培収穫すると。
[上質で瑞々しい薬草]:非常に生命力に溢れた薬草、これで薬を作れば相当な効果を見込めるだろう。[材料時にLP回復を5%加算] [材料時にコスト倍効果倍] [材料時に止血効果付与] コスト0.2
という、とんでもない薬草が収穫できる。
そしてこの薬草を、マッドにポーションにして貰い、何度か調合して質を高めて貰って出来たポーションが。
[上質なスーパーポーション]:非常に高価な上級ポーション。 LP110%回復。 止血。 [LPを即20%回復] [LPをゆっくり40%回復] コスト4。
こんなんが出来てしまいます。
これを見せびらかしで20万で販売したが、秒殺だったのは記憶に新しい。そしてその後直ぐにこのポーションを希釈した、劣化版が1個10万で10個ほど出品されてるのを見た。
…そちらも時間こそ掛かってたが、完売済みである。
このように、最近は薬草からポーションの需要が青天井で上がっていて、ヒーラーの需要も天井知らずだ。
高騰してる薬草の種を買い占め、PAに戻った。
「おやっさん、今月分の鎬です」
「誰ですかおやっさんって、…はいご苦労様です」
ギルドに大量のポーションを卸、報酬を受け取る。
「最近また種が値上がりしたんだが…どうにかならん?」
「それは貴方が買い占めるからでしょ!…でもこうして大量のポーションを納品してくれるのは、貴方を含め極少数…本当に助かります」
本来は、高需要の物品を買い占める行為自体、褒められた事ではないが、現状俺の高効率の収穫量と、マッドの[エマルション]とのシナジーが強すぎて、安定してポーションを納品できるてるのは俺達位なので、黙認されている。
「そう思うんなら黙認以外にも便宜が欲しいんだが」
「すみません…それは…」
馴染みのギルド職員と今後の話をする。
「真面目な話、早いとこ手を打たないと、誰も納品なんかしないで貯め込む事になりかねないからな。内だって赤字にならないから納品しているだけで、買い占めも一応善意も含んでいるからね」
「それは解っています…ですが…」
まあ協同組合が、依怙贔屓なんて出来やしないよな。
「まあ赤字にならない内は協力するよ」
一応釘を刺し、ギルドを後にした。
「と言う感じで、現状の品不足に対して、ギルド…公式の方では対処する気は無い様だ。薬草やポーションが、新規や低Lv進行のプレイヤーからしか、手に入らなくなるのは時間の問題だな」
「ヒヒ…思わぬ方向からの強烈なデフレだな」
「確かに…前線組には堪らん足止めだよな」
現在俺とマッドとサーモンの3人で、ポーション談義中。
「正直ポーションが有限なら、この先攻略をするならヒーラーの増強は必須なのかね?」
「いや…当たらなければどうという事は無い…ヒヒ…無理か」
「確かに被弾しなければポーションも必要無いけどさ…」
ある意味根本的解決方法だな…。
「RMTも増えてるみたいだな」
「ヒヒ…往年のMMO感が出てきたな」
「まあ禁止事項に入って無いし、運営も認めてるんだろう」
「一応トラブルが起きた場合は、双方に罰金刑を課してるっぽいな」
「程々に監視してるわけか」
でもRMTにまで寛容だと、一体運営は何を目指してるんだろうな。
こんなの犯罪の温床になるし、治安も悪化するだろうに。
「ちなみにスタンダードなポーションが1個10円らしいな」
「…思ってたよりずっと良心的な価格…」
「それでも垢を複数作ってやり繰りすれば、黒字は出せるのか」
まあそういう世界も有るんだ程度に思っておこう。
結局何の話だっけ?…そうだ。ポーション不足の話だった。
「まあ現状代替品で凌ぐ、ヒーラーで凌ぐとかが安牌かね」
「代替品なら料理か…コックが要るな…」
「この状況で、ポーションの代替品になりうる料理を、作れるプレイヤーが野良で居るのかね?」
サーモンの尤もな意見の前に、調理師勧誘は露と消えた。
結局野郎3人で、適当に話すだけで何も実を結ばなかった。
「リーダー、ちょっと良いですか?」
「少々お時間を」
ダラダラとしていると、シルクとおりょうさんから呼び出しが。
「はいはいなんでしょう」
3人で作業場に向かい、要件を聞く。
「これを見るです」
シルクから渡された、包帯もどきを見ると。
[ポーション染めの包帯]:ポーションで染め上げられた包帯。 使用回数10回。 LP回復10% 止血。 裂傷回復。 [LP回復5%] [火傷回復] コスト2。
「これまた変わった医療品が出来たな」
包帯だから、戦闘中には使い辛いけど、この効果で10回使えてコスト2なら、コスパは最高クラスのポーション(?)と言えるな。
「この度、この包帯型のポーションが完成しましたので、紹介しました」
「うん、これは凄いですよ。包帯はシルクが?」
「はいです、ポーションはマッドさんが、染めはおりょうさんです」
「ヒヒ…俺のポーションがこうなるとは…」
「こいつは便利だな」
品物を手に取り、それぞれ感想を述べるマッドとサーモン。
野郎3人で何も生み出せなかったが、最後に実りがあってよかった。
包帯ポーションの増産を決め、素材を集めに行く。
包帯の材料である糸、これを作る為の材料は繊維。
繊維は動物の皮からも作れるので、獲物が多い樹海に向かう。
相変わらず猿が煽ってくるが、蜂が迅速に処理するので快感だ。
植物の繊維や木の皮を剥いだりと、初期の頃を彷彿とさせる。
猫科の猛獣も、取れる素材に捨てるところが無いのも無駄がない。
今更警戒するような敵も居ないので、堂々と闊歩する事20分。樹海の敵を狩り尽くし、放置していたシンボルも枯れたので、PA戻る。
素材を共有チェストに放り、北の豪雪地帯に行く。
ここでも植物の繊維や、動物を狩って皮を集める。
そんな感じで、近場で素材を荒稼ぎし、今日はログアウトした。
今日は月曜日だが、代休なので朝からログインする。
「流石に平日の朝っぱらじゃ誰もおらんか」
一応マッドやシルクは、廃人でガチ勢とは聞いてるが、流石にこの時間は居ない様だ。
これといってする事も無いので、自主的に巡回に向かう。
一応事務所に立ち寄り、誰か居るか確認すると。
「はいはい、テツさんどうしました?」
なんかいつもと雰囲気の違うギルが出てきた。
「ああ、ちょっと巡回に…髪を伸ばしたのか?」
「これですか?これは鬘ですよ。やっぱ似合いませんよね…」
チョット自嘲気味になるギルだが…。
「いや、寧ろ似合い過ぎてて違和感なんてないよ」
普段は、動き易さを重視して、髪はベリーショートで、身なりも実用性重視の軽装姿しか見た事なかったが、今はゆったりとしたTシャツにショートパンツ、髪はセミロングのプラチナブロンドで、女の子らしい恰好をしたらこうなる、を体現した姿になっている。
「ふふ…お世辞でも嬉しいですよ。たまにはこういう息抜きも…ね」
「事情があるって言ってたもんな。さて、邪魔したな、一応声は掛けておこうと思っただけだから、これで退散するよ」
偶のプライベート、御洒落位させてやらんとな。
「それなら少し待っててください、私も行きますから」
拒む理由も無いので、二人で巡回へ向かった。
「ギルは超級受験の目途は立ったか?」
「…立ったと思いますか?」
「だよな…」
ライセンスにおける超級とは、その道を究めた証でもある。
特級に昇格してから数か月は経ってるが…、今だ先は見えてこない。
「だからこそ、こういう地道な点数稼ぎが要るんだろうな」
「そうですね…」
その後は2人で黙々とアンデッドを浄化していく。
途中、ゲートキーパーが出現するという、トラブルも発生しながら、特に危険も無く自主巡回を終える事が出来た。
「それじゃまた巡回で」
「ええ、お疲れ様です」
ギルと別れ、PAに戻る。
帰り道、南の検問所を通り、下町部分を散策。
「少しずつだけど建物が出来始めてるな」
既にビークルの整備所等は、既に稼働を開始しており、整備士が怒号を発しながら忙しなく動き回っている。
どうやら南区は工業地区として開発している様だ。
では他は?という事で、次に向かったのは西区。
「西区は商業地区か」
工業地地区ではないが、物流を考慮した幅広な道路。
海産物の卸売市場なのか、巨大な生簀も作られている。
お次は北区へ向かう。
「北区は行政地区か」
ホームを駅と見立てた場合、その北側に行政施設を固めるのは、なんだか徳川家康の街創りにそっくりだな。
大体反対側が寂びれるといういうオチがつくやつ。
尤も南は工業地区なので、関係なさそうだが。
流石に行政施設はしっかりとした建物にするのか、未だ骨組みすら疎らで、色々と出揃うのはまだまだ時間が掛かりそうだ。
そして最後は東区。
「東区は研究地区か」
掘っ建て小屋だが、既に農業センターなどが稼働している。
ちなみにいつも巡回する墓地だが、この東区の真南に位置する。
まあ商業行政の近くに墓地は不味いわな。
一通り散策し、PAに戻る事にした。
「そしてまだ誰も居ないと…」
なんだかんだで未だ10:30。
「しゃあない、一旦止めて買い物でも行くか…」
天気もいい事だし、生活必需品を求め出掛ける。
帰宅し、お好み焼きを作り貯めし、昼寝をして時間を潰す。
「さて、んじゃあ再開するか」
時刻も13:00といい具合になったので、再ログインする。
「誰か居ると嬉しいんだがな」
誰か一人でもメンバーがいる事を祈り、ログインするテツであった。
一応二週間を目途にしますが、もしかしたら遅れるかも。




