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斑点熱の特効薬


「やっぱり、あった……!」

 

 アーレシュア王国との交渉を終え、魔族国に帰ってから真っ先に行ったのは魔王の残骸の確認。

 ところどころ欠けてはいるが、魔王の残骸にはなにか模様が刻まれていた。

 それを紙に描き写せるだけ書き写して、街道の石畳を敷きながら村に――エシュア村に帰る。

 私が拠点として使っている村の、新しい名前だ。

 斑点熱への流行に備えて、今は人を増やして薬草の生産に注力している。

 

 ――ケビンは、後日本当に王太子の座を廃嫡されたと手紙が届いた。

 それに伴いつきものが落ちたようにおとなしくなり、現在は他国に遊学に出たという。

 まさか私に暴言を吐いたことで、廃嫡にまでなるとは思わなかった。

 ケビンからの謝罪の手紙には『なぜ自分がああなったのか、今ではよくわからない』と綴ってあり、さらに『アルカ・ピュアジーの言葉にハッとした』とも書いてあって、昔の――出会ったばかりの、子どもの頃の彼に戻ったように思う。

 ただ、『さすがはルナーシャの兄。もしかしたら義兄になっていたかもしれない男』ともあったので、性癖だけは治らなかったようだ。

 まあ、性癖ばかりは治らんか……。

 それでも一応『なっていたかもしれない』とあるので、ルナーシャのことはちゃんと諦めたようだ。

 それは一安心。……していいのだろうか。

 遊学先で何事もなければいいのだけれど、としなくていい心配をしてしまう。

 

「[空間転移]」

 

 あらかた魔王の模様を写し終えてから、エシュア村に戻る。

 増員されて、畑作りが進められていた。

 しかし、薬草ばかり量産しても薬を作る場所が足りなければ意味がない。

 同時進行で隣の廃村も修繕し、アガレスから難民の中で働く気のある者を入植者として迎え入れることにした。

 畑に隣接する場所に薬を作る工場を設置して、雨季までに可能な限り平民にも斑点熱の特効薬が行き届くようにする。

 とはいえ、報告にあった薬草の生産状況から考えてそもそも種が足りない。

 平民にも行き届くのはやはり来年以降になりそう。

 それに、価格も設定しなければ。

 今年は貴族がこぞって買い求めるだろうから、そこそこの値段設定にしないと買い占めが起こりかねない。

 でも平民にも多少の購入はしてほしいからなぁ。

 手が届かない金額にしたくはないのだけれど……うーん。

 

「なにを悩んでいるの?」

「アルカ。ええ、実はね……」

 

 アルカはルナーシャとエシュアの村によく来る。

 私の依頼通りディニールで食糧生産を中心に働いてくれているが、たまに「レイスの作るご飯が食べたい!」という名目の下遊びにくるのだ。

 私も趣味の料理を存分に楽しめるから、二人が来るのはウェルカム。

 今日はアルカが来ているが、ルナーシャよりもアルカの方が来る頻度が高いのは、ルナーシャも私とアルカをくっつけたいのだろう。

 私とアルカが結婚したら、ルナーシャの義姉になるんだもの。

 それ目的なのがひしひし伝わってくるのよね。

 それはそれとして、平民目線で特効薬の値段について相談できるのは助かる。

 私の話を聞いたアルカは「それなら、平民には少し質を落としたものを量を減らして販売したらいいんじゃないかな?」と提案される。

 なるほど、それはいい考えかもしれない。

 私が作れば品質は最高、特効薬らしく即完治。

 でも、じゃあ私一人でアーレシュア王国国民全員分を作るのかと言われれば普通に無理!

 なんのために隣の村の近くに工場を作って薬を量産すると思ってんのよ。

 しかし、そうなると当然品質は一定ではなくなる。

 薬を作り慣れていない魔族が作るのだから、粗悪品も当然出るだろう。

 それらを安価で販売する、ということ。

 平民に粗悪品が出回るのはいいことなのか?

 普通に考えたら粗悪品を飲むのは嫌だろう。

 しかし、斑点熱の斑点が残るのは男女ともに嫌なこと。

 死亡率は低いが、重病化すればなくなることもある。

 特に体力がない子どもや老人、持病のある人。

 それに、近年の研究で長期間の高熱で男性不妊の原因になることもわかってきた。

 百害あって一利なしとはこのこと。

 特効薬とは言い難いかもしれないが、粗悪品であっても薬で緩和ができたなら重症化を割けることができるだろう。

 そう考えれば粗悪品にも十分需要がある。

 ああ、私の『粗悪品』って言い方がまずかったか。

 低品質! うん、このくらいの言い方でいいでしょう。

 

「その考え、いいわね。一応ディブレ様に話を通しておくわ。それなら粗悪品や低品質のものもお金になるし、アーレシュア王国の平民も重症化しなくて助かるものね」

「うん。平民としては薬があるだけで助かるからね。今年は行き届かなくても、とにかく数がほしい。一人でも多くの人に薬が届けば、その分亡くなる人が減る。斑点熱は死なない、なんて言う人もいるけれど、僕の村では冬季に亡くなった人がいたから」

「そうだったの。冬季に流行ると重症化しやすいものね」

「うん……」


 基本的に雨季に流行る斑点熱だが、数年に一度冬季に流行ることがある。

 そういう時は雨季が長引き、冷夏であることが多く、冷夏の年は斑点熱に気をつけるようにお触れが出ることもあるくらい。



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