主人公は無敵なもの
だから、冬季で斑点熱が流行った時に死者が出た話は決して絵空事でも笑い話でもない。
結局のところ軽視していい病気なんて一つもないのだ。
私も些細な風邪だと放っておいて、いつの間にかインフルエンザ、肺炎のルートで死んだような気がする。
なんか前世の死に関しては、記憶が非常にあいまいなのよね。
でも病気は放置するべきじゃないのはわかる。
「ところで、レイスはさっきどこに出かけていたの? アーカーやエルワーズは南の方に街道を引きに行っていたって言ってたけれど、南側は一度街道を引きに行っているよね?」
「ああ、南の別の方角に街道を敷いてきたのよ。あと、これを写しにね」
と、言ってアルカに魔王の体に合った模様を書き写したものを見せる。
意外にもアルカは一目見てすぐにこれが魔王の模様だとわかったらしく目を見開く。
「どうしてこんなものを?」
「陛下の話を覚えている? この世界の重要な人物には、だいたい生まれつき紋章が宿っている」
「まあ、う、うん……」
『聖者の紋章』を生まれながらにその身に宿しているからこそ、思うところもあるだろう。
あの言い方だと、聖者と聖女はレアじゃない、みたいな印象を受けるがそんなことはない。
少なくとも魔王も『聖者の紋章』を持つ者は百年周期で生まれてくる。
普通にレア。
なんてことを思っていたら、アルカが考えていたのはそこではなかったらしい。
「もしかして、魔王の体に刻まれていた模様が紋章……?」
「そうなんじゃないか、って私は思ったの。だから、書き残してディブレ様に預けておくつもり。百年後、この模様に近い痣を持った魔族が、魔王を産んだら――それは……」
「『魔王の紋章』が、あるってこと……!?」
「可能性の話よ。本当にそうかはわからない。それに、その『魔王の紋章』を持っていても魔王の出産を避けられるか、と言われたら、それはもっとわからないでしょう?」
「そ、それは……確かに……」
「紋章を持つ手を切り落とせば魔王出産を回避できるとかなら、それはその時その紋章を持っている人の意思で試すしかないし」
「うわあ…………」
なぜドン引きするの?
だって他に対処方法が思いつかないのだもの。
魔族国に住む数百万人と自分の手片方を天秤にかけたら、片手を切り落とした方がよくない?
魔王を出産したら他人の命もそうだけれど、自分も死ぬのよ?
魔王は母体となった魔族の体を引き裂いて生まれる。
凄惨な自分の死、故郷を襲う災厄。
それが自分の腕一つで回避できるなら、試す価値はあると思う。
まあ、それでも腕一つ失う理不尽を嘆くくらい、いいと思うけれど。
「どっちみち、私たちは生きていないんだからその時代に生まれた人が解決したらいいんじゃない? 私は提案だけ残しておくつもり」
「レイスはすごいなぁ。自分が死んだあとの未来のことまで考えているんだ?」
「別にそういうわけではないわよ。好奇心から調べただけだし、その結果として未来に検証を託すしかない、ってだけの話。自分の目で確認ができないのは少し悔しい、なんて思う程度には無責任よ」
「う、うーん……?」
だから私に対して変に期待を高めるというか、神聖視するのはやめてほしい。
私はアルカとルナーシュが思うほど立派な人間ではない。
どちらかと言うと適当だし、自分の興味があることにしか頑張れないし。
……でも……アルカのことは、真剣に考えるって約束している。
これを機にアルカを恋愛対象として見られるか、真剣に考えてみようか?
「ねえ、アルカは今も私と結婚したいって考えているの? 以前も言ったけれど私はクソ面倒くさい女よ? 我ながら自分のことはオススメできないわ。人間として欠落しているものが多すぎるんだもの。苦労すると思うし、わざわざ同じ熱量で好き合えない女を選ぶ必要なんてないと思うの。アルカはいい男なんだから、私みたいな面倒くさい女よりも優しくて癒される女性にした方がいいわ」
「な……!? きゅ、急になに言い出すんだよ!?」
急……ああ、急だったわね。
これも減点でしょ、と言うと顔をブンブン横に振る。
ええ……? もしかして、アルカも変な性癖持ちなのかしら……?
だとしたら今さら性癖を変えろというのも難しいだろう。
でも、いったいどんな性癖を持っていたら私に興味を持つの?
短髪が好み? でもそれを言ったら平民の中で短髪の娘は多くないけれどいないわけではない。
眼鏡っ子属性好き? 存在は知っているけれど本当にいるの? そんな属性。
年上好き? 一歳程度の年の差でも発動するもの?
クール系女子好き? クールかどうかわからないけれどちょっとM気があるみたいなイメージで気持ち悪いな。
もしくはそれらの複合型、とか?
「……前にも言ったけれど、レイスを尊敬しているし、レイスは自分を女性として過小評価しすぎだと思う。僕には世界一可愛くてかっこよくて綺麗で、強い女性だよ。ずっとレイスの隣にいたい。相応しい男であり続けたいって思う」
「いつか絶対に後悔すると思うわよ。私は恋愛感情とか、多分持ち合わせていないもの」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないだろう?」
真っ直ぐに私を見つめる眼差し。
ああ、なんか……本当に、主人公だなぁ。
「はあ……。わかったわ」
「え? なに、え? そ、それって……」
「後悔しても知らないわよ。嫌になったら、早めに言ってね」
「え!? え!? 待って、レイス! ちょっとはっきり言ってほしい! それって、結婚を前提に恋人になってくれるってこと!? ねえレイスーーーーー!!」




