男、すぐ手を組む
アーレシュア王とディブレが揃ってそんなことを言うので、ケビンの立場は一気に悪くなった。
まあ、あんな言い方をしてそもそも立場が向上するはずもないのだが。
決定的にやらかした。
「このような場で国恥を晒すような真似を……。本当に申し訳ない。後日正式な謝罪の場を設けよう。約束の時間よりも少し早いが、『斑点熱』の特効薬にもう少しついて詳しく話を聞きたい。別室でゆっくりお茶でもいかがだろうか」
一秒でも早くこの場を収めたい陛下が、にこやかにディブレへと提案する。
一見息子の愚行を流したように見えるが、私への謝罪の約束もしているし、ケビンに声をかけることも視線を向けることもない。
これは“実子であっても切り捨てた”という意味だ。
ディブレはまだそこまでのことがわからないから、少しおどおどとしながら私の方を見る。
「よろしいかと思いますわ、ディブレ様。試薬についても話さなければなりませんし、他にもボブ・エリーのハーブ粉についても使い道が多様にある旨を陛下にお話ししたいと思っておりましたの。今後の魔族国と、アーレシュア王国の交易についてもっと密なお話ができると思いますわ」
「そうか。あなたがそう言うのなら、そうなのだろう。では……」
アーレシュア王が手を挙げると、控えていた使用人がすぐに前へ出て私たちに対して「どうぞこちらへ」と案内を買って出る。
口をはくはくと開閉しているケビンは、立ち上がって近づく王妃様の顔を見ると青ざめた。
怒った王妃様は本当に怖いからね。
ま、ドンマイ! 自業自得よ!
……しかし、さすがに一人息子のケビンを王太子の座から下ろすことはないだろう。
謹慎処分ぐらい、かな?
とはいえ、未来のお嫁さん候補を選ぶ場であの失態と失言は相当にヤバい。
いくら王子妃に対して前向きなお嬢さんたちも顔が真っ青でドン引きしている。
母親の中にはケビンへ輿入れさせることは元より、ケビンを次期国王とするのも嫌がりそう。
貴族といえど女性は軽視される傾向にはあるが、それでも家の中の女主人の地位は家の中では絶対的。
母子が『ケビン殿下は王太子の器ではない』と夫、父親に話せば、中にはケビンを見限る貴族も出るかもしれない。
よりにもよって、ケビンと結婚できる爵位のお嬢さんばっかり集まっている場なんだもの。
「国王陛下」
「なんだね」
移動中、ついてきていたルナーシャが陛下に声をかける。
陛下は優しい声色でルナーシャを振り返った。
この国の聖女相手だから、と言うよりも、ケビンが迷惑をかけた少女に対する同情と贖罪のようなものを感じる。
「わたしはケビン殿下と結婚するつもりはまったくないので、陛下から言い聞かせてあげてくれませんか? 毎日のように手紙と使者の方が来て迷惑なんです。挙句、わたしが王都に来ないと支援を打ち切る、みたいな脅しまでしてくる始末。正直、あんな人が次の王様だと思うと――」
「ケビンからは王太子の座を剥奪する」
ギョッとして陛下を見てしまう。
王太子の座の剥奪!?
廃嫡ってこと!?
いくらなんでもそれは……!
「へ、陛下、さすがにそれは……」
まさか王太子の座を私に譲渡するとか言い出すんじゃ……!?
そうなったら、魔族国に逃げた意味がないんだが!?
「レイス嬢が不安に思うのも無理はない。だが、次期王太子にそなたを指名するつもりもないから安心しなさい」
「え? で、ですがそれでは、次期国王の座は――」
「なにも問題はない。高位貴族貴族の中から人望に厚い、成績優秀者の中から選べばよい。この国の貴族のほとんどには王族の血が流れている。『王の紋章』が反応する者がいれば、その者に次の王を指名する。ただそれだけの話だ」
陛下が己の左手の甲を眺める。
手袋に隠れてるが、そこにはアルカとルナーシャのように紋章が刻まれているのだ。
各国の王が神から賜るという、紋章。
人間の王侯貴族の魔力の源である『王の紋章』。
その紋章が、次の王を、選ぶ?
「紋章が意思を持って次期王を選ぶ、などということがあるのですか?」
「そう言い伝えられておるよ。我ら王は国のために魔力を受け取る杯に過ぎぬ。唯一の例外は魔族。魔族は魔王の器になり、魔王は災いとして世界を脅かすが魔族そのものは災いになり得ない。手を取り合うことで、人間と魔族は神の力に一歩近づく。そのように言い伝えがある。これは古に一人だけ現れた『預言者の紋章』を持った者が神の言葉とともに残した予言だ。だからこそ我が国は魔族国とぜひとも友好な関係を築きたいと思っている」
「なんと……そのような言い伝えが……」
長寿のはずの魔族にも知られていない言い伝え。
『預言者の紋章』……そんなの知らない。
重要な存在には必ず紋章が現れる、ということ?
だとしたら、もしかして魔王を産む者にもそのような印――紋章が現れるのではないの?
今まで見過ごされていた可能性がある。
いや、待てよ?
そういえば、魔王の体に変な模様があったような――!
「アルカくん」
「は、はい。陛下」
「君はレイス嬢に懸想しているのかな」
「はい」
おおい!
だから! 陛下に対してその気軽い感じなんなの!?
「そうか。もしなにかあれば力になるから、気軽に相談しなさい」
「あ、ありがとうございます!」
「陛下っ!」
その謎に一致団結するのなんなの!?
陛下も陛下で親指立てるんじゃないわよ!




