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汚染魔物・スライム


 汚染魔物の魔力の気配がどんどん小さくなっていく。

 完全に蒸発し尽くすことは、私には無理。

 だが、面積がこれだけ減ればルナーシャとアルカに渡す時とても楽になる。

 単に腹が立って、頭にきて仕方ない。

 こいつが罪もない人たちを、少なくとも村一つ分は食っているという事実。

 完全に消し去ることが私にはできないという事実。

 ルナーシャたちの前に突き出すまで、この情動が抑えられそうにない。

 なんでこんなに腹が立つ?

 定められた犠牲と言われるのが、腹立たしくて仕方ないのだろう。

 このスライムはストーリー中の私たちに遭遇しなかった。

 知性を得るほど人を食った汚染魔物なら、ストーリー中の私たちに倒されるべきじゃない?

 そうじゃないと意味がないと思わない?

 お前に食われた人たちは、ストーリーと関係なく食われた、ってことになるじゃない。

 そんなの、そんなの……そんなの!


「レ、レイス様!」

「っ!」


 青い炎が収まり始めた時、まるで狙ったように黒い紐が私の足を掴む。

 こいつ……堪えて、私の隙を狙っていたというの!?


「生意気!」

「うわああああ!」

「アメス!」


 腹が立って剣を[空間倉庫]から取り出して、切る。

 細い伸びたスライムはあっさり切れたが、切った部分が突然肥大化してアメスを呑み込もうと口を開いた。

 こいつ! 蒸発した分の体積を少しでも取り戻そうと、アメスを……!


「[聖なる花]」


 アメスが呑み込まれる直前、男の声がしてピンク色の光がスライムに触れた途端、弾けるようにスライムが消えていく。

 こんなことができるのは、この世界で二人だけ。


「な……アルカ!?」

「[聖櫃の裁き]!」


 私の問いに答えることなく剣を取り出したアルカが浄化の光を纏いながら、スライム本体に向かってジャンプしながら振りかぶる。

 スライムの汚染魔物の核。

 そこへ向けて、剣が突き立てられた。

 切り離された汚染魔物の分体も核が貫かれれば消滅する。

 まして、『聖者の紋章』による聖魔法、[聖なる花]は広範囲に聖なる魔力でかたどられた花弁が舞い散る魔法。

 小さな光の花弁は、その小さな花弁の姿からは想像を絶する威力で汚染魔物を浄化する。

 風に舞う花弁の如く動きは予測不能。

 なんなら風に乗ってどこまでも遠くにいく。

 その分、実はかなり魔力を使う魔法なのだが……。


「アルカ」

「レイス」


 驚きながら駆け寄ると、ゆっくり振り返って私に向けて微笑むアルカ。

 その表情を見た時、「あ、これはまずい」と感じた。

 こいつ、マジだ。

 本気と書いて、マジと読む。……って、やつ。


「会いたくて、来ちゃった」

「あ、ああ。そうなの」


 肩を落とす。

 本気で、私を口説きに来たらしい。

 困ったなあ……本当に興味がないのだが。

 そもそも、私が乙女ゲームとはいえ『覇者の集い』をプレイしていたのは、どっちかというと“攻略”に興味があったからだ。

 そういうプレイヤーも少なくないと思う。

 主に、全キャラをストーリー中に攻略することに熱意を燃やす効率攻略厨みたいな、あれ。

 私、どっちかというとそっちタイプ。

 まして恋愛イベントは“読み物”だった。

 胸キュン? しないね。

 そもそも、私の前世の両親も今世の両親も恋愛結婚とは程遠い。

 家同士の取り決めで政略結婚した今世の親の方がまだマシってぐらいに、前世の親はカスだった。

 本人たちは恋愛結婚とか言ってたけれど、それが逆に可愛さ余って憎さ百倍、みたいになっていたのだから。

 もー最悪よ。

 愛に生きる、とか言って夫婦揃って新しい恋人を取っ替え引っ替え家に連れ込んで。

 ブッキングした時なんてどっちがホテルに行くのかで喧嘩し始める。

 子ども()の前でよ?

 お金がかかるからお前がラブホ行け、ってさ。

 離婚しないのは子ども()がいるからって言っていたけれど、ただの怠惰。

 種つけした方は自分の給料と世間体、産んだ方は水商売が肌に合ったのか自分の給料を丸っと使えるだけでなく男にチヤホヤされる、持ち家から出るのが面倒くさかった。

 種つけした方が買った持ち家、一軒家だったからね。

 アパート住みだった産んだ方にとって一軒家の持ち家は“憧れ”だったんだって。

 くだらないでしょう?

 だから私は世間体を気にする方に『世間体のために子どもの生活費と学費は出してほしい。今月はこのぐらい』と計算した必要経費を請求した。

 世間体のために、と言えば種つけした方はしぶしぶでも金は出してくれたからね。

 高校生になってからはバイトで趣味のものを買うようになった。

『覇者の集い』は元々スマホゲーム。

 バイトの暇つぶしに最適だった。

 だってあまりにもアレな乙女ゲームだったから、バイト先の人たちに勧めやすかったし実際後輩の女の子がどハマりして話が弾んだもの。

 男性の先輩や後輩や正社員も『王道のストーリーなのに乙女ゲームとして様子がおかしい』ところがウケて布教成功。

 ――私にとってそれは、数少ない成功体験になった。

 他人が関わる成功体験は、『覇者の集い』をバイト先で流行らせた、の一つだけ。

 だから『覇者の集い』は私の中でちょっと…………結構特別なゲーム。

 でもじゃあ、乙女ゲームらしく恋愛したいかと言われたら、まあそんなことはなく。

 なんなら、前世から『私って恋愛感情ってものが欠落しているんじゃ』って思っていたくらい。



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