南の町へ(1)
「魔族が汚染魔物と戦う。……勝つ術がある。考えたこともなかった。我々は汚染魔物と戦うことが、イコール死、だ。前族王も『聖者の紋章』の主のサポートに徹していたという話だったからな」
「そうなのですね」
「戦う術があるのなら、ぜひ指南していただきたい。汚染魔物の残党の目撃情報が、南の町にまだいくつかあるのです。近々被害が出る前に捜索に行かねばと思っておりました」
「目撃情報があるのですか?」
「ええ。中型の、スライム状の汚染魔物です」
スライム状!
それはガチでやばい、一刻も早く駆除しないと一夜で町一つ呑み込まれかねない!
汚染魔物の特徴の一つに“食ったものをその質量そのまま自分の体積にする”ところ!
スライムは音もなく忍び寄り、汚染魔物の食欲に際限はない。
知らない間に、町が消えても不思議じゃない!
「早急に対処します」
「あなたが? いったいどうやって――」
「[空間倉庫]に放り込んで、『聖者の紋章』を持つ者に会った時に浄化してもらいます」
「なんと……! そのような手が……!」
アーカーやエルワーズの[空間倉庫]では小さすぎる。
普段使い用とは別に[空間倉庫]を作ってぶち込まねばならない。
それができるのは私ぐらいなもの。
「南側に街道を敷きに行きます。該当の町を教えてください。近くに着いたら[探索]魔法で汚染魔物を討伐してきますので」
「本当ですか!? こちらとしては非常に助かりますが……」
「アーカー、私は南の町に向けて街道を敷くわ。村に戻ってルナーシャとアルカが来ていたらナシュの畑のあとに南の町に来てくれるよう伝えてくれない?」
「一人で行くつもりか!?」
「あなたに頼みたいことはそれだけじゃないわよ」
まさかただ、アーカーを伝言役にするつもりはない。
実はこの中心の町アガレスで、アーカー専用イベントがある。
ストーリー修了後に起こるかどうかまではわからないけれど、町の様子を見たら起きそうな気がするのよね。
もしもそこにルナーシャやアルカがいたら……起こるんじゃなかろうか。
だからいてほしい。
「さっき話していた転移陣の位置の確認。なにか目印になるようなものを置いておいてほしいの。ちなみに設置予定の転移陣の大きさは三メートルほどよ。それから保管庫や食糧保管庫の状況も確認して、目録を作っておいて。それで足りないものをアーレシュア王国に発注するから。あと、難民の様子も見ておいて。アガレスに元々住んでいた人たちとトラブルを起こすかもしれない」
「なぜそう思う? というか、そのトラブルは俺には関係ないのでは……」
「あなた騎士でしょう? どこの国であろうと、今のあなたは私の護衛騎士。この国の“国治官”の、私の」
そう言ったら、アーカーが少し、真面目な顔になる。
騎士として、一旦主人の私が魔族国の再建に尽力すると言っているのにその騎士がその態度はどうなのか、って話。
それを自覚してもらわなければ、と言ったことが、ちゃんと伝わったみたい。
「わかった。だが、護衛の俺が離れるのはいかがなものかと思う。別の護衛をつけてくれないか」
「大丈夫。私は魔王を討伐した人間の一人なのだから」
「そうではなく」
「え?」
首を傾げて、睨ませて、アッと声を漏らす。
やべー、忘れてた。
私、アレだわ。
一応命狙われてたんだ、私。
はっはっはっ、完全に忘れてたー。
それに、魔族国で人間の女が一人自由にしているのもまずい。主に外聞が。
「わかったわ。ディブレ様、南方面の土地に明るい方を案内役兼護衛として一人、お借りできないかしら? 人手不足で大変なのは、重々承知なのですが……」
ディブレとしても他国の人間を一人でうろつかせるのは不安だろう。
案内役兼護衛兼、監視役として。
そういう意味合いでディブレに頼んでみると、思った以上に快く「では、アメスという兵をつけましょう」と即決してくれた。
今までの対応から見て、ディブレは本当にアーレシュア王国に頼ろうと思っている、のかも。
それなら、本気でアーレシュア王国から支援をもぎ取ってこよう。
ほんの数分でそのアメスという兵が応接間に駆けつけた。
ひょんろりとした、ツノが一本しかない兵だ。
「では、早速出発しますね」
「もうですか……!? お食事などは……」
「移動しながら食べますわ」
「え?」
困惑されたが、魔物肉をもぐもぐしながら移動すればいい。
こういう時骨つき肉最高。
アメスの首根っこを掴み、[飛翔]魔法で窓から飛び出す。
そのまま隣の建物の屋根に飛び移り、同時に身体強化魔法を使って屋根を伝って走り抜ける。
見えてきた外壁に向けてもう一度[飛翔]を使って、飛び越えた。
心なしかアメスが「ぴゃああああーーー」と叫んでいるような気がしたが風の音かもしれないから、多分大丈夫だろう。
地図を表示しながら街道を敷くルートをマッピングして……してオッケー、全自動で石畳みを敷きながら南の町に[高速移動]しようっと。
「ぴゃあああああーーー」
あれ? やっぱりアメス、ぴゃああーって叫んでない?
まあ、時間が惜しいから我慢してもらおう。
スライム状の汚染魔物は本当に危険だからね。
一分一秒でも惜しい。
石畳みを敷きながら行けば効率もいいし。
問題は石畳みが足らなくなることなのよねー。
「あ、ちょうどいいところに大岩が」
「え」
「よいしょー! [引力操作][石切断]! と、[大地重圧]!」
前方に大岩を発現。
[引力操作]で大岩を持ち上げ、[石切断]で大岩を石畳みにカット。
からの大岩が埋まっていたところを[大地重圧]で整地。
石畳みを敷いて、街道の続きを作り上げる。




