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提案と交渉


「――というわけで、私たちはディニールから一番近いその村を拠点として、生活の基盤を作ろうと思っておりますの。本日面会に来ましたのは、その村からディニールより受け取る物資をアガレスに転送するための転送陣を設置するご許可と場所のご相談のためです。いかがでしょうか?」

「それはこちらとしても願ったりです。ぜひよろしくお願いします。ええと、転移陣の設置場所、ですね。そうですね……城の一階にある保管庫前はいかがでしょうか。多少の広さはあり、食糧保管庫や物資保管庫などの中継場所になっています」

「なるほど。それなら、食糧保管庫と物資保管庫にそれぞれ食糧用、物資用と転移陣を設置するのはどうでしょうか? その方が仕分けが楽になるでしょう」

「なんと! そのようなことができるのですか!?」


 そんなのむしろ楽勝だ。

 どっちかというと、送る時に間違えないように気をつけなければならない。

 なんかこう、でかい箱でも設置して『食べ物』『その他』みたいにしておいた方がわかりやすいだろうか。

 送る場所を、あえて離しておくというのもありかな?

 畑の側とかに食糧庫用、ディニールの近くの村の入り口に物資用、とか。

 まあそれは送る方が考えることだ。


「それなら大変にありがたいです」

「では、ディニールからもらってきた小麦粉の残りをこちらの食糧保管庫に入れておきますね。五袋ほど、村の方でいただいていますが、八十袋ぐらいあるのでしばらくは保つかと思うのですが」

「そんなに!?」


 ほとんどはアルカが小麦畑で魔法を使い、複数回を短期間で育成、刈り取り、脱穀等々した結果だ。

 たった数日でこの量の小麦粉を用意するあたり、『聖者の紋章』は本当にやばい。


「ただ、魔法で育成を促したものなので栄養素はそこまで高くはありませんの。早めに消費していただくのをお勧めいたしますわ」

「魔法で育成を促せるのですか!?」

「小麦粉を作ったのは『聖者の紋章』の持ち主ですもの。『聖者の紋章』は聖なる力。生命力の力です。それでも、そういうズルをしたので栄養素は通常通り育成された小麦に比べればはるかに劣りますわ」

「そう、なのですか。いや、だとしても食糧が圧倒的に不足している現状、この上ない救済です! 『聖者の紋章』を保つ聖人様、聖女様には魔王を討伐していただいたり、このように食糧の支援にもご助力をいただき……我が国はいったいどのようにお礼をしたらよいのか……。とてもご恩が返しきれません」


 そう言って頭を下げてくるディブレ。

 そんなふうに思ってくれるのか。

 私は、ほとんどの魔族を助けられなかったと思っている。

 ルナーシャとアルカも多分、そう思っていると思う。

 でも、自分を責めるよりもこうして誰かに感謝した方がいいよね。


「それを言うのなら、こちらこそ」

「え?」

「救えなかった命に対して、恨まれても仕方ないのに……ディブレ様は我々を受け入れてくださる。感謝しています」

「なんと……なんとそのようなこと」


 ディブレは首を横に振る。

 そして、「私は今回の魔王とはまた別に、百年前の魔王の時にも内政に関わっております。だからこそ、今回このように手を差し出してもらっているのは嬉しい」と言ってくれた。

 百年前の、前回の魔王も知っている……?

 それってつまり、この人にとって私は子ども同然ってこと?

 わ、わあ。確かにゲーム内でもジジイだったけれども。


「前回の魔王の時は、当時の族王が『聖者の紋章』を持つ者と旅をして魔王を討伐した。おかげで復興は著しく遅れました。聖人とともに魔王を討伐した称賛を浴びることを最優先にしていたからです。もちろん、魔王討伐は素晴らしい功績であることは間違いありません。しかし称賛ばかりを欲して、傷ついた国民から目を背け続けた。だから私は、今の座を得たのです。同じ災いを乗り越えた今、前族王の偉大さと強さをしみじみと理解させられました」


 俯いてそう語るディブレ。

 そうなんだ。

 魔族国の前族王は、そんな人だったんだ。

 前族王がそんな人だったから、ディブレは戦いに赴くことなく傷ついたり、住む場所を失った国民に寄り添った。

 ただ、もしも『聖者の紋章』を持つ者たちが動かなければ……被害は拡大し続けていただろう。

 守るために戦うか、守るために逃げるか。

 前族王は前者を選び、ディブレは後者を選んだ。

 ただそれだけの話ではないの?


「少しずつでも対汚染魔物の部隊を整えましょう」

「対汚染魔物の、部隊?」

「ええ。人間でも戦えるのです。魔族だってきっと戦う術があります」


 汚染魔物に魔族が弱いのは、身体中を常に魔力が充しているからだ。

 それはアーレシュア王国の貴族と変わらない。

 たとえばアーカーだって今のように身体強化の魔法を常時使っている。

 それは魔力を大量に内包する魔族と変わらない肉体になるということだ。

 問題は魔族の方が魔力を多く持っており、人間のように“魔力がなくても生存する”ことができない点。

 私たち、魔力切れが起きれば体調は悪化するが死に至ることはないからね。



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