廃村(2)
「その証拠に、もう魔王はいないのですよ」
「ええ。私と聖女、聖人の三人で倒したもの」
「まおう……もう、いない?」
「ええ。もう汚染魔物が増えることはないわ。打ち損じもいずれいなくなる。私が見つけ出して倒すもの」
魔族にとって汚染魔物は天敵。
でも私なら、物理的に強化して戦って倒せる。
なんなら、アーカーだって身体強化魔法を極めて汚染魔物を余裕で倒せるようになるだろう。
アーカーの場合、身体強化魔法のあと物質強化、スキル進化を経て“剣聖”という“覇王”になるから、もっともっと先の話だが。
それでも魔族が汚染魔物と戦うよりは安全に倒すことができる。
だから大丈夫。
目の届く範囲、手が伸ばせる範囲なら――私が必ず汚染魔物や魔物から守ってあげられる。
私は前世のように弱くない。
力に屈したりしない。
人を守る力がある。
「汚染魔物と、戦えるの……?」
口を開いたのは男の子の方。
そうよ、と言うと目を見開かれた。
「だからアガレスに行きましょう。村の生き残りの人たちとも会えると思うわ」
「や……やだ!」
「なぜ?」
「木こりは森を守らなきゃいけないんだ。それに、ナシュのおとーさんとおかーさんの畑、近くにある、から」
女の子の方も強く頷く。
確か、この子たちは元々森に住んでいた木こりと薬師の息子さんと娘さん。
エルワーズに「兄妹?」と聞くと「違うそうです」と首を横に振られる。
別の家の子たちが手を取り合って生き延びた、ということね。
「そうなのね。では、あなたたち、この村を再建するのを手伝ってくれないかしら?」
しゃがんで二人に目線を合わせるようにして、そう聞いてみる。
こういう時、表情筋が死んでいるのはちょっと悔しい。
エルワーズやルナーシャのように笑顔で話しかけられたなら、こんなふうにビクッと怯えられたりしないのだろうに。
「む、村のさいけん?」
「村を元に戻して……いえ、より安全でみんなが楽しく暮らせる村に成長させることよ。あなたちち、そのお手伝いをしてくれないかしら? 私たちも手伝うから」
顔を見合わせる子どもたち。
この場所から動きたくない、離れ難いというのなら、このままこの村を私の拠点にしてしまおう。
住人がいるのなら、他の村人も戻って来やすいでしょうし。
なにより立地が悪くない。
ここならばディニールからの物資や食糧の受け取り口として最適。
ここから中心の町アガレスへ、迅速に輸送する転送陣を設置すればいいわ。
「どうですか? 僕たちを信用してくれませんか?」
「ナシュの畑も、直してくれる……?」
「もちろんよ。そうね、ではまずその畑を見せてくれないかしら? 状況がわからないと、どのように直すのが最適なのかわからないわ」
「ナシュ、いい? この人たち、畑に連れて行くけど」
「うん」
ほっと胸を撫で下ろす。
まだ完全に、というわけではなさそうだが、信用しようとは思ってくれたらしい。
ひとまずこの子たちの最初の目的である井戸水をアーカーに掬い上げてもらい、バケツに移して持っていってあげることにした。
井戸水の行き先は村長宅の調理場の水瓶。
ただ、調理場は見たところ井戸をあまり必要としないぐらい、魔道具に満ちている。
水瓶はこの子たちが持ち込んだものというよりも、村長宅にあった装飾品のようだ。
見た目が大変に豪華なんだもの。
「あなたたちは魔法が使えないの?」
「まだ習ってない……」
「そうなのね。食事はどうしていたの?」
「魔道具、使えないから……干し肉とか、塩と茹でて、食べてた」
「まあ……。野菜は?」
「ナシュが野草詳しいから、野草取って入れて食べてた」
そうか、女の子の方は親が薬師だと言っていたものね。
ものすごく興味がある。
魔族国の薬師、薬草、薬のレシピ……どんなものなのかしら?
うっかり薬師の家の中を覗いてレシピ本とか発見できたりしないかな?
いやいや、悪用なんてしないよ?
見たいだけだよ?
「レイス嬢」
「は、はい。……あ、ここが?」
「そのようです」
エルワーズに呼ばれて顔を上げる。
森の入り口に小さな畑がいくつかあり、その真ん中にそれなりに大きな二階建ての家が建っていた。
そして畑は――これは……。
「襲われた痕跡ね」
「うん。耕して、種を蒔いたけど……けど育たなくて」
「ママとパパの畑、もう、ダメになっちゃったの……?」
「いいえ。汚染魔物の汚染によって土が汚れてしまったの。浄化して耕せばまた畑として使うことは可能よ。なにも問題ないわ」
「「ほんと!?」」
「ええ。知り合いにお願いしておくわ」
ルナーシャとアルカに頼むしかないが、どのみちディニールにはまた行くつもりだったから大丈夫でしょう。
ルナーシャにも会えなかったから、きっと今頃駄々を捏ねている頃だろう。
じゃあ、とりあえず畑はあの二人に頼むとして……。
「とりあえず今日、あなたたちが寝泊まりしている村長のお家を見せてもらってもいいかしら? 必要なら泊まってもいい?」
「いいよ」
村長宅に戻る。
外装はあちこち破壊されているし、屋根には大きな穴。
これは雨漏りどころではないわね。
それに、多分掃除もしていない。
床も天井も家具も埃だらけ。
「まずは掃除と修繕かしら」
「そうですね。とてもではないですが、眠れなさそうです」
「お前たち、いったいこんな汚れた屋敷のどこで寝ているんだ?」
「「リビング」」
そのリビングに案内してもらうと、大きなソファーの上にブランケットが一枚。
テーブルには保存食が入っていたらしき瓶が複数転がっている。
ここが彼らの生活スペースというわけのようだ。
「今日からはベッドで寝ましょうね」
「「え?」」




