廃村(1)
ディニールでアルカから小麦粉をゲットし、一路アガレスに戻る最中。
村、発見。
「そういえば以前魔王討伐の旅の時もあった気がするわ、あの村」
「寄ってみますか?」
「ええ……」
ディニールから一番近い村。
私の記憶が正しければ、この村は……。
「あ……」
アーカーが馬の手綱を引いて向きを変え、村に近づく。
だが、記憶の中の通り村は壊滅。
入り口付近で馬車をおりて、三人で村の中へと入る。
記憶の中よりも、村の荒廃具合は進んでいるようだ。
「生き残りは……いなさそうですね」
「近くの村か町に全員が避難しているのかもしれない。付近も捜索してみるか」
「探索魔法で探ってみますね」
「そうね」
エルワーズが杖を構え、魔法陣を地面に描く。
広がる魔力だが、自然魔力が勝手に魔法陣に吸収されていくためエルワーズが「ぐぐぐっ」と苦しそうに呻き声をあげる。
がんばれー、この魔力に満ちた土地で魔法を使えるようになることが、君が“覇王”の一人になるための最初の試練だぞー。
「生命反応!」
「なに!? 生存者がいるのか!?」
「あっちに……あっちにかなり近い……! まさか、村にまだ人がいる……!?」
「ええ!?」
これには驚いた。
生存者がいる!? がいるこの廃墟に!? にマジで言ってる!?
驚きつつ、崩れ切った建物をすり抜けながらエルワーズについていく。
すると一番奥の大きな建物――おそらく修道院――の近くの井戸に、角の生えた小さな子どもが2人いた。
二人ともボロボロの布を纏い、井戸水を二人の力でよいしょよいしょと持ち上げている。
まさか……子どもが二人で生活しているというの?
思わずアーカーとエルワーズと顔を見合わせ合う。
「君たち!」
「ひっ!」
アーカーが声をかけると、子どもの一人が大きく肩を跳ねさせてこちらを見る。
二人はだいたい八歳と五歳前後の男の子と女の子。
どちらも私たちの姿を見るなり、井戸のロープから手を離して施設の中に駆け出した。
「待ってください! 我々はあなた方のような生き残りを保護しに来たのです! 話を聞いてください!」
エルワーズが声をかける。
図体のでかいアーカーと表情筋が終わっている私に比べて、男性にしては小柄で細身、柔らかな表情と声、淡い色合いの緑色の髪と眼のエルワーズならば安心感を与えてくれるだろう。
案の定、追いついたエルワーズは二人の子どもに説明をし始める。
私たちはひとまずそれを見守るしかできない。
でも頭の中では彼らを保護したあとのことを考えている。
この村は人が住める状態ではない。
あの子たちがもしも私たちが魔王討伐の旅をしていた頃からこの状況だったのだとするのならば、少なくとも三週間以上このままだったと考えられる。
保存食などで食い繋いでいたとしてもさすがに限界のはず。
壊れて人がいなくなった家から食糧を盗んでいたとしても、それは仕方ない。
私たちがこの村を見かけた時、ご遺体は一通り弔った。
それ以外の村人は見当たらず、次の村や町を探しに出たからこの修道院は今、初めて存在を知ったから……もしかして、他にも子どもが?
ともかく保護したらアガレスに連れて行こう。
そして、二人以外にも子どもがいるのならその子たちも保護しなければ……。
「レイス嬢、アーカー!」
エルワーズが私たちに向けて手を挙げる。
どうやら一通りの説明はしてくれたらしい。
アーカーと頷き合って、近づく。
まだ私たちを見て怯えた目をする子どもたち。
なんか、居た堪れない。
「男の子はマイキー、八歳。女の子はナシュ、五歳だそうです。ここはこの村の村長の家で、二人は隣の森に住んでいた木こりの一家と、薬師のご息女だったのですが汚染魔物に親が襲われ身寄りがなくなり、こちらの村長のご厚意で引き取ってもらったのだとか」
「まあ……。それでは、この村の村長は?」
「それは……」
エルワーズが首を横に振る。
つまり……つまり汚染魔物に襲われ、森に住んでいた一家が二つ、この子どもたちを残していなくなってしまった。
村長が引き取ったが、村も汚染魔物に襲われて壊滅。
奇跡的にこの子たちだけが残ったと。
「他の村の人たちは?」
「この子たちを連れて隣の町に避難をしようとしたそうなのですが、この子たちはそれを拒んで残ったそうですよ」
「なぜ?」
「ぼくらがいると、ひとがいなくなるから」
目を見開いて、子どもたちを見下ろす。
なに? 今、なんて……。
「おとーさんも、おかーさんも、ナシュのママもパパも、ナシュがいるから魔物におそわれてしんじゃった。そんちょーさんも、この村のひとたちも」
「それは違います。汚染魔物は魔族だけじゃない、すべての生き物を襲う存在なんです。君たちが襲われたのは、生きているからです。この村が襲われたのも、生きている人がたくさんいたからです! 君たちのせいではありません!」
エルワーズの言う通りだ。
汚染魔物と魔王は、百年置きに現れる殺戮兵器。
まるでこの世界が定期的に滅びに瀕するように仕組まれた時限爆弾のような存在。
生き延びてしまった者がそう自分を責めてしまうのは心理的に仕方がない。
でも、こんなに幼い子たちが……っ。




