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File No.15 暴虐のミチヨ来襲! ライバルにはなり得ないけどね


香純、ちょっと見ないうちに大人になった?


 

「ごめんくださーい」

 そう言って入ってくるお客は、ここ『綺羅きら』にはあまりいない。

 サラリーマンの街、新橋の雑居ビル4階の隠れ家的BAR。


 ドアを押して入店してきたのは見たところまだ女子大生か、勤めているようには見えない女性だ。

 大きめのサッシュベルトを巻いた、最新の流行ではないが高級そうなワンピース姿だ。


(まあ「お酒を飲みに来た」しかないんだけど)

 この店のマスターにして「美人ママ」である香純かすみは思う。

(観光客じゃないといいんだがなあ)



『綺羅』はその営業を大々的に宣伝はしていない。

 SNSで開店日や時間の告知をしている程度なのだが、香純の存在のため、それなりに名前が売れてきた。

 物珍しさから見に来たり、「男の」という切り口で取材しに来たりする者が出てきた。


(いまどき珍しくもないと思うよ、あたしは)


 そのような人々に香純が鉄仮面で通すので、よくバイトの明梨あかりが対応してくれたりする。

 いまも美しい顔を虚空に向けて「お腹すいたなあ」とでも言いたげな香純に替わって話しかける。


「いらっしゃいませ、ここは見たとおり酒場なんですけどよろしいですか?」

「もちろんですよー」

 そう言って席に着いた女性の後に黒いスーツの男性二人が続く。


 特に名乗りもしないのは酒場だからおかしくないが、明梨が「お連れ様ですか」と尋ねても「ええ、まあ」と曖昧な調子だ。


(ガチのお嬢さまでガード付きかよ)

 香純のテンションがガタ落ちする。いつものノリで君臨できない、帰りたい。



 ガチ娘はおそらく名前の響きだけでアマレットを注文し、明梨のすすめでソーダ割にした。

 黒服二人はときどきウイスキーの水割りで口を湿しめしている。


「でもおどろいたー、ほんとにキレイなんですねー」

 ガチ娘はフランクというかガサツな調子である。リアルなお嬢さまはそんなものかもしれない。

「そうでもないっす」

「口調はそれなんだ! へえー、あたしすごく興味があって」

 なんでも思ったことを口に出す流儀らしい。


(興味、もたんでいい)

「でも女の子になりたいんでしょ? バスト入れないの?」


「すみません、ママさん芸能人じゃないしここ酒場なので、あまり質問は」

(アカリちゃんナイスフォロー、いつもすまない)


「……入れたくなったら入れるけど、とりあえずないかな」

 無言でもどうかと思ったので答えたのは、香純も成長している。


「手術して女性になるんじゃないの?」

 ガチ娘のほうが暴虐だ。

 さすがに明梨が制止しようとしたが、ためらった。

(失礼な人だ……でも、わたしが聞きたくても絶対に聞けないこと……)


 無視するか冗談で流せばよさそうなものだが、香純の考えは浮遊する。



 まあみんな聞きたいんだろうなあ、わかるよ


 なんもしなかったらゴツいおっさんになったりすんのかな?


 これで23まで来たからこれでいいかなって……いーかげんだな、あたし


 どうなんだろう、あたしがきたいよ、あたしに



「まあ飲んでよ、あたしが考えたカクテル、アリーナっていうんだ」

 質問に答えるかわりにドライジンをオレンジエードで割ったドリンクを出した。

(お付き二人を連れたお姫さまだもんね)


「キレイ、あっ、飲みやすいんですね」

 ガチ娘はジュースみたいにごくごく飲む。

(カクテルってそうやって飲むもんじゃないんだよ)


 香純のカクテル知識はたまに出入りする人形町のヨウジから習ったものだ。

 マティーニなど本格的な物は無理だがこの程度は作れる。

(でも知られたら怒られるわ、あいつマジだからなー)


「ここは気楽な店だからさ、黙って静かに飲むのもよし、そうやってお喋りするなら仲良くしてもらいたいし」

「あっ、ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの、わたしもそのほうがいいの、けっこう庶民派だし」

(庶民は自分のこと庶民っていわねーよ! お嬢さまマジボケかよ)

 ツッコミのタネが尽きない。



「わたし、ただかすみちゃんのお話を聞いて、自分らしくっていいな、憧れちゃうなと思って」

 ガチ娘の距離感はバグっている。名前は古風に美智世というそうだ。ミチヨ。

 何人かの常連客が来て、香純とミチヨのトークはエンタメ化する。


「みっちぃはスタイル古いんだよねー、昭和女子の自分探しかよって」

「そう呼ばれるのイヤなんですけど! なんですか昭和って、かすみちゃんほんとに23なの」

 ツッコミを口に出せるようになれば漫才にできる、香純ペースである。意外と策士なのか。



 2杯目の「アリーナ」を飲み干したミチヨがカウンターに突っ伏し、動かなくなった。

 明梨がカウンターを出て「ミチヨさん?」心配そうに様子を見る。

 小さく寝息を立て始めたので、つぶれただけのようだ。

「ベースがウォッカならスクリュードライバー、素人殺しだね……SPさん、連れて行ってあげて」


「おおお」「さすがオレのかすみん」「誰がオレのだ」

 常連たちが低く声を上げたのは、安堵か感嘆か。

 黒服の一人が香純の顔を一瞥いちべつしたが、そのまま会釈をしてミチヨの肩を抱くようにして退店していった。


「最初からわかってたんですね、すごい、ベテランのママさんですね」

「あたしをなんだと思ってるんだよ……まあいいじゃない、黙って2万も置いていったし」

「闇堕ちしないでください、お願いします」


(最後はかすみちゃんらしくなってよかった……カラダもいじらないっていうし、わたしはそのままでいてほしいんだもん)


 明梨の感想はどこかあさっての方向で、そこは変わらない、いつまでも。



明梨「わたしたちは永遠に不滅です……あっ、昭和?」

香純「普通の女の子に戻ります」

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