File No.14 夜の民、湘南の海が似合っていない件
男性陣、影が薄いかも(プロフつけないとわからない?)
かすみくんがドライブのお誘いをうけました
湘南の海が似合うレディーになれるのか?
「真紀から連絡があって、クルマ出してくれってさ」
人形町の駅前から少し外れたところにある『我妻』。
日中はカフェ、夜はワインとサパーの店だ。
午後2時の店内にはBGMで「朝日のようにさわやかに」が流れている。
この店のオーナー兼店長、ヨウジがサンジの相手をしていた。
彼は従業員のシフトが空いた時だけカウンターに立つことにしている。
今日はサンジの呼び出しがあって来た。
サンジは昼間で用件もあるので、酒ではなくコーヒーカップを前にしている。
「ぼくも聞きましたけど、かすみくんと出かけるんでしょ?
あー、美女同士で仲良くなってよかったんじゃないかと」
「よく言うよ、ヨウジが真紀に詰められて『綺羅』を教えるから……もういいや」
「結果オーライということにしてください」
サンジは冷めたコーヒーを飲み干す。
「もう都内は電車移動だなと思って、廃車の予定だったんだ」
「ボルボが泣きますよ」
「最後のご奉公って感じかな」
「はい、予約できましたよ」
スマホを操作していたヨウジが報告した。
ヨウジはここを入れた3店舗の経営者だけあって目利きもあり、伝手もある。
彼が選んだ三崎の料理店を予約してくれた。
その週末、サンジは真紀と香純の二人をピックアップし、三浦半島へと車を進めていた。
「わからんもんだなー、真紀がかすみくんとねえ」
天気が晴れになってくれてよかったと思いながら、サンジが言う。
「わたし、かすみちゃんのファンになったみたいでさ」
「……で、あるか」
香純は、店でやっていたのとは違って消え入るような「魔王」だ。
「ほら、かわいいでしょ? サンジさんも彼女のファンなんだよね?」
「あっ、ああ、そういうことね」
(ファンね、ファンか、なんかピンとこないけど)
真紀は何度か『綺羅』に通ううち、香純を自分の妹のように感じはじめたらしい。
彼女には姉がひとりいただけなので単純な憧れもあった。
香純がそういう扱いに慣れていなくて素っ気ないので、あまりベタベタはしていないつもりだ。
香純が子どものころ母親に着せ替え人形扱いされ、それがさまざまな違和感の始まりだったことは香純がいうはずもなく、真紀には伝わっていない。
香純は、新たに買ったワンピースを身につけている。
(なんていうのか忘れたけど、コートっぽいのがよかったんだよね)
ごく薄い水色のコート風ワンピースに白いスラックスと黒のローファーを合わせている。
店で一緒に働いている明梨が勧めるのもあって、着る物のレパートリーを増やそうとしているところだ。
明梨に見せたら『すごくいいですよ! 男装の麗人、じゃなくって』とか言っていた。
(アカリちゃんも来ればって言ったんだけど、遠慮しちゃってさ)
(でも今日は、来ないほうがよかったかなあ……あたしが子どもなのか。
もういいトシなのに、大人の相手は……店だと平気なんだけど)
もう海岸線が見えていて、3人の乗ったボルボが近づいていく。
(クルマで海に来たかったんだよなあ)
サンジは運転のかたわら、なかば憂いに沈んだ香純の表情に目がいく。
(なんてえ顔をするんだ……)
それを真紀が見ている。
(あれあれ、そういうのモロバレなのにサンジさんったら)
「ちょっと、クルマ停められるかなあ」
香純がやや強い調子で言ったので、サンジは何事かと思った。
「どうした、気分が悪くなったのか」
「……ちょっと待ってて」
午後の光が海面に反射してまぶしい。
小さく崖状になった場所で、香純はクルマを出た。
騎馬立ちに構える。
「てやあ」
ワンピースの裾を割って、虚空にハイキックを放った。
「うおあ」
回転して後ろ回し蹴り。
初春らしい衣裳には似合わない所作。
光る風を切って、正拳を打つ。
「せい、せい、うああ」
サンジと真紀は、茫然とそれを眺めた。
香純の行動の奇矯さよりも、舞うように突きと蹴りを繰り返す姿が美しいのに、ただ驚いていた。
演舞とはまた違う叩きつけるような動き、唸りをあげる声。
「……押忍」
気が済んだのだろうか。
香純はからだの前で十字を切り、海に向かって礼をした。
襟や裾を整えて、香純が振り返る。
心なしか晴れやかな顔になっているようだ。
そんなに年齢が離れてはいないのだけれど、サンジと真紀が自分と親子3人のように接してくるのが苦しかったのだ。香純には棲めない水のようだった。
言葉にすることは、自分の中でもできなかった。
「ごめんごめん、きゅうくつなの苦手でさー。
おなか減ったよ、おいしい魚あるんでしょ、食べにいこう」
真紀とサンジはそれぞれに悟った。
この子、いや香純は、けっして自分たちの手には負えないのだ。
(美しい獣っていうところかな……かすみちゃん、もう少しだけ近くにいさせてほしいよ)
(誰もこいつを抑えつけられやしないんだ……ずっと、おれが見ててやる)
ファンクラブの意思は統一されたようだ。
「よっしゃ、行くか!」
いつになくサンジが叫んで、真紀は(こんな声が出せたんだ)と思った。
明梨「わたし如きを気にかけてくださって勿体のうございます」
香純「まぐろさざえうに」
4/15までの連続投稿は完走しました!
作者の引越しなど諸事情により1〜2週ほど休ませていただきます
再開の予定、別作品の案内などは「活動報告」で!ぜひまたよろしくお願いします




