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他流派試合

庭先で、小さな手が木剣を握る。

まだ5歳。軽い。

体の奥に、覚えているものがあった。

前世の記憶ははっきりとは残っていない。

名前も、場所も、何も思い出せない。

それでも。

剣を握った瞬間、理解してしまう。

どう振ればいいか。

どこに立てばいいか。

どの間合いが“終わり”なのか。

考えているわけではない。

ただ、そうするものだと体が知っている。

父が隣で見守る。


「その調子だ、無理はするなよ。」


ノア・エスパーダは、ただ剣を握る。

踏み込み。

振り。

戻す。

空気が裂ける。

ああ、この感覚だ。

懐かしいという感情に近い。

だが、それを言葉にすることはできない。

庭先には、他流派の子供たちも集まっていた。

日頃から顔を合わせる、同じように剣を学ぶ者たち。

遊びの延長のような距離感。

だが今日は違う。

誰もが口を開かない。

理解はできない。


「おかしい。」


その感覚だけが、はっきりとあった。

父が小さく息を吐く。


「初めて握る者の太刀筋じゃない。」


数日後、ノア・エスパーダは父に連れられ試合会場に立っていた。

他流派の剣士たち。

観客。

ざわめき。


「子供か……」


その声すら遠い。

視界に入るのはただ一つ。

目の前の相手と、その剣だけ。

それ以外は、どうでもいい。

自然と、削ぎ落ちていく。

構え。

踏み込み。

間合い。

すべて整っている。

考える必要はない。

ただ振るだけだ。

空を切る。

その瞬間には、もう終わっていた。


「……は?」


観客の一人が間の抜けた声を漏らす。

何が起きたのか、誰も理解できない。

相手は崩れるように膝をついていた。

遅れて、ざわめきが広がる。

もう一度。

ノアは剣を振る。

終わっている。

やはり、同じだ。

相手は立てない。

剣を握ることすらできない。

それでもノアには、実感がない。


「……同じだ」


ただ、それだけ。

振るたびに、わずかに軌道が変わる。

同じように振っているつもりでも、

同じにはならない。

それが、なぜかは分からない。 

だが、それでいいと体が知っている。

観客は息を飲む。

他流派の剣士たちも、言葉を失う。

そして庭先で見ていた子供たちだけが、わずかに震えていた。

あの時の違和感。

それが確信に変わる。

これは真似できない。

試合はあまりにもあっさりと終わった。

だがその場にいた誰一人として、ノア・エスパーダの剣を理解できた者はいない。

理由も理屈も分からない。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

あれは、到達している。

どこにかは、分からないままに。




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