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その一振りは

2話掲載

小さな手で、剣を握る。

木剣だった。

子供用の、軽いものだ。


「無理に振らなくていい」


父の声がする。


「最初は持つだけでも」


その瞬間だった。

走る。

電流のような感覚が、腕から背へ、全身へと駆け抜けた。

思い出す。

握り方。

踏み込み。

間合い。

斬り方。

すべて。

……ああ。

戻っている。

息を吸う。

それだけで分かる。

体は幼い。

だが中身は、変わらない。

振る。

ただ、それだけの動作。

だが。

空気が、鳴った。


「……っ?」


父が息を呑む。

速いではない。

重いでもない。

無駄がない。

振り終えた時には、すでに“終わっている”。

そんな一太刀だった。


「今のは……」


父の声が、僅かに震える。

あり得ない。

重心が崩れていない。

軌道に迷いがない。

初めて振る者にあるはずの“躊躇”がない。


「初めて握る者の太刀筋じゃない」


ノアは、何も答えない。

ただ、もう一度。

剣を構える。

振る。

今度は、わずかに角度を変える。

それだけで、先ほどとはまるで別の軌道を描いた。


「……は?」


父は理解できない。

同じ動きに見えて。

同じ力のはずで。

何故、こうも変わるのか。

その一振りは初めてではなかった。

ノアは静かに、剣を見下ろす。

軽い。

だが、問題はない。


「……これでいい」


誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。

その目に迷いはない。

ただ一つ。

続きがそこにあるだけだ。

あぁ、やはり剣を握るのは楽しい。



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