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ロシア 6

 ウオシュレット好きの黒スーツと一緒に車に乗り込むと、俺は目隠しをされた。

 車が走り出し、かなり長い時間たってようやく停まった。


 目隠しがとられる。


 目に飛び込んできたのは綺麗な湖と湖面に反射する夕日。

 そしてその湖と森に囲まれるように建っている大きな屋敷。

 後で聞いた話だとロマノフ王朝時代の皇帝の別荘だったらしい。


「マフィアって儲かるんだな」


 屋敷の入り口には誰でも名前を知っている超高級スポーツカーがずらりと並んでいた。


「リスクも大きいがな」


 そう言って黒スーツが屋敷の中に案内してくれた。

 どうもこの人、悪人には見えないんだよなー


 なんでマフィアなんてやってんだろ。


「ここで待っていろ」


 案内されたのは全面ガラス張りの応接室だった。

 窓からは先ほどの駐車場に並んでいた高級車が見えている。


 応接室に通されてしばらく待っていると、今度はいかにもマフィアって感じのおっさんが入ってきた。

 樽のように太っていて、手の指全てにごつい指輪をはめている。


「ウチのファミリーに何の用だ?」

「アンタがボスか?」


「ああそうだ。俺がボスのグリツェナフだ」


 目の前のやたら高級そうなソファにどかっと座り込み、妙に太い葉巻を吸い始めた。


「で? ウチのファミリーにとって不味い事とはなんだ?」

「……このままではアンタのファミリーは潰されるぞ」


「はあ? 誰に?」


「俺にだ」


 グリツェナフの目が点になった。


「……ふぉ、ふぁふぁふぁぁーー。お前に? ファミリーが? 薬でもキメてんのかガキィ」


 やっぱ証拠を見せないと駄目だよな。


「……変身」


 応接室にインフェルノレッド登場。


「ジェノビーム」


 応接室の窓から見えていた高級車に狙いをつけ、人差し指から真っ赤な光線を撃ちだす。


 赤いフェラーリが真っ赤な炎に包まれて爆発四散した。

 グリツェナフはあまりの光景に口をあんぐり開けて固まっている。


「続けてさらにジェノビーム」


 人差し指から発せられる理不尽ビームによって次々と車が吹っ飛んでいく。


「ちょ、待って! 誰かこいつを殺せぇ!!」


 三方にある扉が一斉に開き、拳銃や軽機関銃で武装したマフィアが容赦なく弾を浴びせてきた。

 だけどそんなものは全て無駄。


「ブレインバスター起動!」

「ターゲットオールロックしたわ」


「ボスだけは外せ」

「りょーかい。いつでもいけるわよ」


「発射!」

「yes! My lord!!」


 その瞬間、鼓膜が破れそうな音で溢れかえっていた室内が静寂に包まれた。


「なっ! なんだこれは!? ……お前は悪魔か?」

「残念。正義の味方だよ。な、言った通りファミリーの危機だろ?」


 俺はにっこり笑いながら、人差し指をグリツェナフに向けてやった。


「ひいいいい! ボ、ボス! 助けてくだせえ!」


「は? ボスはお前だろう?」


 恐怖でおかしくなっちまったか?


 その時、俺の背後から聞き覚えのある声がした。


「その辺りで簡便してやってくれないか、サムライボーイ」


 開けっ放しになった扉から現れたのは俺を此処まで連れてきてくれた黒スーツだった。


「ボ、ボス! こいつ化け物だ! 殺されちまう!」

「ボス? じゃこいつじゃなくてあんたがボスなのか?」


「ああ、私がこのファミリーのボス、ヴォルク・グリツェナフだ」

「まじかよ? なんで下っ端の振りをしてたんだよ?」


「用心のため、と言うのは建前で私は現場が好きなのだよ」


 くそう、悪人には見えないなんて思っていたのに一番の極悪人だったのかよ。


「さて、こんな事をする理由を教えてもらっても良いかな?」

「フラトコフ孤児院。知ってるよな?」


「……申し訳ないが聞いた事のない名前だ」


「ふざけるな! あんたらがめちゃくちゃな借金をさせた事は分かってるんだよ!」

「借金? ……金融担当はお前だったよなイワン?」 


 偽ボス、イワンというらしいが真ボスの問いかけに一瞬びくっと体を振るわせた。


「イワン?」


 ヴォルクの目が氷のように冷たく、視線は尖ったナイフみたいに凄みを帯びる。

 さすがマフィアのボス、こっちがビビる位の迫力だぜ。


「すみませんボス!」


「イワン、孤児院相手に商売したのか? 私が子供やその施設相手のシノギを禁止している事は知っているな?」

「知っています! でもあの土地はファミリーにとって必要だと思い、仕方なく……」


「それ以上喋るな」


 怒鳴るわけでもない静かな声だったが、それが逆に迫力を増し、あまりの恐怖にイワンは白目をむいて気絶してしまった。


「すまない。見ての通り担当が気絶してしまったので、事情を私にも教えてくれないか?」


 どうやらヴォルクは本当に知らないようだ。


「孤児院があんたらにした借金は150万、既に400万返済している。だけどめちゃくちゃな金利でまだ借金が3000万近く残っているんだ」

「イワンの奴、派手に追い込んだな」


「俺の要求は借金を普通の金利で計算して、払いすぎた分を孤児院に戻すことだ」

「分かった。すぐに手配しよう。……要求はそれだけかね?」


「ああ」


「……一つ尋ねてもいいか?」

「なんだ?」


「君は、言ってしまえばこの孤児院の借金のためだけに、ロシアで最も恐れられている私のファミリーに喧嘩を売ったのかね?」


 え、ロシア最強のマフィアだったの。


「そうだけど?」

「なぜそこまでする? 君は日本人だろう?」


「友達が困っていたからだ。ほかに理由がいるか?」


「……いや、最高の理由だ」


 そう言ってヴォルクは握手を求めてきた。

 ロシア最強のマフィアの手は妙に暖かかった。


「仕事に困ったらいつでも尋ねてくるといい。君ならいつでも歓迎するよ」

「考えとくわ」


「最後にもう一つ」

「?」


「そのスーツはアキハバラに行ったら買えるのかい?」


 ヴォルクがにやっと笑った。


「予約したらね。発売は200年後だ」


 こうして俺のロシア旅行は終わった。


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